説明

検知センサ

【課題】
光検出器などの特別な装置を必要とすること無く、目視により酸素の有無などの物理的又は化学的性質を容易に検知することが可能な検知センサを提供すること。
【解決手段】
金属表面に形成された多孔質の酸化皮膜と、該酸化皮膜に付着され、該酸化皮膜が発する蛍光の波長と異なる波長の蛍光を発生する感応物質とを有することを特徴とする。好ましくは、該酸化皮膜は、シュウ酸を含む電解液で陽極酸化して形成される酸化皮膜であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知センサに関し、特に、各種の物理的又は化学的特性を感応する感応物質の感応状態を、検知センサから出力する光スペクトルの変化で検知する検知センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸素消光性を有する色素を基板上に付着させた酸素検知センサが実用化されている。
特許文献1には、アルミニウムやチタンなどの金属母材面に多孔質の酸化皮膜を形成し、該酸化皮膜表面にルテニウム、白金、オスミウム等の酸素消光特性を有する発光性の金属錯体や芳香化合物、テトラフェニルポルフィリンなどの酸素感応物質を吸着させた酸素センサが開示されている。
【特許文献1】特許第3101671号公報
【0003】
また、特許文献2には、酸素消光性の発光色素層の上に、コバルトポルフィリン錯体などの酸素分子と結合することにより吸収スペクトルが変化する吸収色素層を形成した検知センサが開示されている。
【特許文献2】特開2004−28650号公報
【0004】
さらに、特許文献3には、金属酸化物層上にカルボキシル基あるいはスルホン基を持つ感酸素及び感圧機能を有する色素を結合させる酸素及び圧力センサが開示されている。
【特許文献3】特開2002−162354号公報
【0005】
また、Ru金属錯体顔料は、温度変化により発光する蛍光の発光量が変化し、温度が高くなるに従い、発光量が減少する傾向示す。さらに、ピレン分子は、接触する溶液の性質、特に、非水溶媒か否かにより蛍光の発光量が異なり、非水溶媒と接触し発光量が減少する。これらの各種感応物質を利用し、温度検知センサや非水溶媒などの検知センサが提案されている。
【0006】
これらの検知センサは、いずれも検知センサが出力する特定波長の光強度変化を測定し、酸素の有無又は酸素濃度などのように物理的又は化学的性質を検知するものであるが、このような光強度の変化を測定するには光検出器を別途必要とするため、測定方法全体が高コスト化し、測定操作も煩雑化するなどの問題を生じていた。
しかも、金属母材上に形成された酸化膜は、金属光沢を有しており、検知センサに入射する光の多くを反射する傾向があるため、ノイズが大きくなり、検知センサが発する蛍光の微小な光量変化を容易に判別できないなどの不具合が生じていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決する課題は、上述した問題を解決し、光検出器などの特別な装置を必要とすること無く、目視により酸素の有無などの物理的又は化学的性質を容易に検知することが可能な検知センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、金属表面に形成された多孔質の酸化皮膜と、該酸化皮膜に付着され、該酸化皮膜が発する蛍光の波長と異なる波長の蛍光を発生する感応物質とを有することを特徴とする。
本発明における「感応物質」とは、蛍光を発する物質であると共に、物理的又は化学的性質に感応して、蛍光の発光量が変化する物質を意味する。なお、感応物質が感応する対象のことを「感応対象」という。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の検知センサにおいて、該酸化皮膜は、シュウ酸を含む電解液で陽極酸化して形成される酸化皮膜であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の検知センサにおいて、該電解液が、シュウ酸と硫酸との混酸であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の検知センサにおいて、該酸化皮膜は、硫酸を含む電解液で陽極酸化した後、シュウ酸を含む電解液で陽極酸化して形成される酸化皮膜であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の検知センサにおいて、該金属表面を形成する材料が、アルミニウムであることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の検知センサにおいて、該感応物質は、酸素感応物質、圧力感応物質、熱感応物質、溶媒の化学的性質に係る感応物質のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明により、検知センサは、金属表面に形成された多孔質の酸化皮膜と、該酸化皮膜に付着され、該酸化皮膜が発する蛍光の波長と異なる波長の蛍光を発生する感応物質とを有するため、例えば、感応物質が物理的又は化学的性質に感応して蛍光の発光量を減少させる場合には、励起光を照射した際に、物理的刺激が小さい又は化学物質が少ない場合には、酸化皮膜からの蛍光と感応物質からの蛍光とが混色して観測され、物理的刺激が大きい又は化学物質が多い場合には、酸化皮膜からの蛍光が主として観測されることとなる。したがって、物理的又は化学的特性を感応する感応物質の感応状態が検知センサから出力される出力光の色合いの変化で判断されるため、目視によっても極めて容易に感応状態を判断することが可能となる。
【0015】
請求項2に係る発明により、酸化皮膜は、シュウ酸を含む電解液で陽極酸化して形成される酸化皮膜であるため、酸化皮膜が蛍光特性を有することが可能となり、しかも該蛍光特性は酸素消光性などの感応性を有しないため、検知センサとして安定した基準光(感応物質の有無等に拘わらず所定の発光量を出力する蛍光を意味する)の発光源として使用することが可能となる。
【0016】
請求項3に係る発明により、電解液が、シュウ酸と硫酸との混酸であるため、感応物質の付着量を高めることが可能となり、検知センサにおける感応物質からの発光量を増加させることが可能となる。
【0017】
請求項4に係る発明により、酸化皮膜は、硫酸を含む電解液で陽極酸化した後、シュウ酸を含む電解液で陽極酸化して形成される酸化皮膜であるため、硫酸による酸化皮膜により感応物質の付着量を高めることが可能となり、検知センサにおける感応物質からの発光量を増加させることが可能となる。
【0018】
請求項5に係る発明により、金属表面を形成する材料が、アルミニウムであるため、シュウ酸による酸化皮膜を形成した場合に、青色の蛍光色を発生させることが可能となる。
【0019】
請求項6に係る発明により、該感応物質は、酸素感応物質、圧力感応物質、熱感応物質、溶媒の化学的性質に係る感応物質のいずれかであるため、酸素の有無、センサに加わる圧力状態、温度変化、あるいは、センサに接触する溶媒の化学的性質などを、目視においても極めて識別性の高い検知センサを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る検知センサについて、以下に詳細に説明する。以下の例では、感応物質として酸素感応物質を中心に説明する。
図1は、本発明に係る酸素検知センサの概略を示す断面図である。
図1では、金属1の表面に多孔質の酸化皮膜3を形成し、該酸化皮膜の表面に酸素感応物質4を付着させた酸素検知センサを示している。図1では、酸化皮膜3の表面に、酸素感応物質4を直接付着させているが、これに限らず、図2に示すように、塩化ビニルやポリスチレンなどの酸素透過性のある樹脂5に酸素感応物質4を混入し、酸化皮膜3に塗布することも可能である。
【0021】
また、金属1は、アルミニウムなどの金属母材であるが、金属1に代えて、図3に示すように、樹脂フィルムなどの支持体10上に、金属膜11を蒸着などで形成し、該金属膜を陽極酸化して酸化皮膜12を形成することも可能である。13は、酸化皮膜上に付着された酸素感応物質を示している。
【0022】
本発明の特徴は、酸化皮膜自体が蛍光特性を有することであり、そして、酸素感応物質には、酸化皮膜の蛍光波長と異なる波長の蛍光を発生する物質を選択することである。
このような構成により、図4のスペクトル強度分布に示すように、酸化皮膜からの蛍光スペクトルAは波長λ1をピークとする強度分布を有し、酸素が結合していない酸素感応物質からの蛍光スペクトルBは波長λ2をピークとする強度分布を有することとなる。観察者には、スペクトルA及びBが重ね合わされた色が観測される。
【0023】
また、酸素が酸素感応物質に結合している場合には、酸素感応物質からの蛍光スペクトルB’は、スペクトルBと比較し光強度が大きく減少することとなるため、スペクトルA及びB’が重ね合わされた色は、スペクトルA及びBが重ね合わされた色と異なる色として観測されることとなる。
このように、本発明の酸素検知センサによれば、検知センサが発する色の変化により酸素の有無を容易に判別することが可能となる。
【0024】
酸素感応物質としては、ポルフィリン、Alq3、ルテニウム、白金、オスミウム、イリジウム等の酸素消光特性を有する発光性の金属錯体や芳香化合物、などが使用可能である。
また、感応物質としては、酸素感応物質以外に、金属酸化物層上にカルボキシル基あるいはスルホン基を持つ感圧機能を有する色素、さらには、Ru金属錯体顔料などの熱感応物質、ピレン分子などの溶媒の化学的性質を感応する感応物質などを用いることが可能である。
【0025】
酸素検知センサの製造方法について説明する。
以下の説明では、金属母材としてアルミニウムを用いる例を中心に説明する。
(洗浄処理)
金属母材を、浸漬脱脂剤を用いてアルカリ脱脂を行い、希硝酸によりスマット除去を行う。
【0026】
(陽極酸化処理)
金属母材を、シュウ酸濃度0.05〜20%、好適には0.1〜10%に調整した電解液に浸漬し、金属母材を陽極として陽極酸化処理を行う。
電解液の温度は、3〜60℃、好適には10〜40℃である。また、電解時間は、0.1〜400分、好適には5〜150分である。電圧は5〜100V、好適には20〜80V、直流電源を用いる。
【0027】
電解液の濃度や温度よりも、電解時間により酸化皮膜の厚みが大きく変化し、電解時間が長くなるに従い酸化皮膜の厚みが増加する傾向にある。また、酸化皮膜の厚みに比例して、蛍光強度が増すため、蛍光強度を調整するには、電解時間を調整することがより好ましい。
【0028】
(酸素感応物質の吸着処理)
酸化被膜に吸着できるようカルホキシル基やスルホン酸基のあるポルフィリン0.005〜0.2g/lの水溶液、処理温度10〜30℃、浸漬処理時間1〜30分基板の蛍光強度とのバランスで、色素の吸着量をコントロールする。
【0029】
(後処理)
酸素感応物質を吸着した後、乾燥処理を行う。余分な色素を水で洗浄除去し、40〜90℃の温風乾燥等で乾燥するが、乾燥すればよいので特に限定はしない。
【0030】
次に、シュウ酸を含む電解液で処理したアルミニウムには、ポルフィリンなどの酸素感応物質の吸着量が少なく、酸素感応物質として選定可能な材料が限定されるという問題がある。
これを改善するため、陽極酸化処理に硫酸を含む電解液を使用して酸化皮膜を形成することが好ましい。
硫酸を用いた陽極酸化処理方法は、(1)硫酸を含む電解液で陽極酸化した後、シュウ酸を含む電解液で陽極酸化する方法と、(2)シュウ酸と硫酸とを混合した電解液中で陽極酸化を行う方法とがある。
【0031】
硫酸を含む電解液で陽極酸化する条件としては、硫酸濃度0.1〜40%、好適には1〜20%であり、電解液の温度は、5〜40℃、好適には10〜35℃である。また、電解時間は、0.1〜400分、好適には5〜120分である。さらに電解処理時に電極に印加される電圧は、0.1〜20V、好適には1〜18Vである。1A/dm(1dm=100cm)程度を目安とするが、電流密度が高い場合には時間を短く、低い場合には時間を長くする。範囲は0.3〜1.5A/dm程度である。
【0032】
硫酸による陽極酸化処理の後、上述したシュウ酸による陽極酸化を行い、その後、酸素感応物質の吸着処理を行う。このようにして形成した酸素検知センサの概略図を図5に示す。
アルミニウムの金属母材20の上に、シュウ酸アルマイト皮膜21と硫酸アルマイト皮膜22が形成され、さらに酸素感応物質は硫酸アルマイト皮膜22に集中的に吸着している。
【0033】
シュウ酸と硫酸とを混合した電解液で陽極酸化する条件としては、シュウ酸0.01〜20%、好適には0.1〜10%の溶液に硫酸がシュウ酸の約1/5〜同等の濃度になるよう調整する。また、液温度は3℃〜40℃(好適には10〜30℃)、処理時間は1分〜400分(好適には5〜180分)、電圧は0.1〜50V(好適には10〜35V)である。
【0034】
シュウ酸と硫酸とを混合した電解液で陽極酸化した後、上述した酸素感応物質の吸着処理を行う。
【実施例】
【0035】
(実施例1:シュウ酸のみによる陽極酸化)
以下の示す条件で、アルミニウム板をシュウ酸により陽極酸化を行い、感応物質として酸素感応物質を吸着させた。
・使用するアルミニウム板のサイズ:25mm×67mm(有効サイズ25mm×48mm)
・シュウ酸による陽極酸化条件
シュウ酸濃度:2%
電解液の温度:25℃
電解時間:40分
印加電圧:46V
印加電流密度:約1A/dm
・酸素感応物質とその吸着方法
ポルフィリン濃度:0.02g/l(水溶液)
処理温度:15℃
浸漬処理時間:2分(緩やかな揺動下で)
【0036】
図6は、上記シュウ酸濃度を0.05%〜20%で変化させた場合について、シュウ酸濃度変化に対する酸化皮膜の蛍光強度の変化を示す。また、図7は、上記シュウ酸濃度を0.05%〜20%で変化させた場合について、シュウ酸濃度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。ただし、励起光源として、励起波長365nm、励起光強度500μW/cmを用いた。また、各測定は酸素検知センサを大気中と窒素中に置いた場合の測定結果を示す。以下の各測定も同様である。
シュウ酸濃度が0.05%未満の場合は膜形成速度が非常に遅いという問題があり、10%を超えると、液温を高くしなければならず、また皮膜が黄色に着色し透明度が低下するため色変化を認識しにくいという問題を生じる。特に、図6及び7より、0.1%〜10%の範囲が、シュウ酸による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
なお、電解液の温度が25℃では、シュウ酸濃度が10%を越えると溶解が難しくなるが、シュウ酸濃度が20%の場合でも、電解液温度を40℃位に維持することで、溶解は可能となる。このように、シュウ酸濃度が上昇すると、電解液温度も上げる必要があり、さらに、電流密度を所定値に維持しながら処理するためには、印加電圧を下げる必要がある。従って、酸化皮膜の処理条件は、シュウ酸濃度のみを変更して調整し処理するものではない。
【0037】
図8は、上記電解液の温度を3℃〜60℃で変化させた場合について、シュウ酸を含む電解液の温度変化に対する酸化皮膜の蛍光強度の変化を示す。また、図9は、上記電解液の温度を3℃〜60℃で変化させた場合について、シュウ酸を含む電解液の温度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
温度が3℃未満の場合は電流が流れにくく膜成長が非常に遅いという問題があり、60℃より大きいと生成した膜が白色化し透明性が低下する(60℃では膜厚が厚くなるため、無酸素状態である窒素中の蛍光強度が増大し赤色は見やすくなるが、膜が白色化するため青色が弱くなる)という問題を生じる。特に、図8及び9より、10〜40℃の範囲が、シュウ酸による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
【0038】
図10は、上記電解時間を0.1分〜400分で変化させた場合について、シュウ酸による電解時間変化に対する酸化皮膜の蛍光強度の変化を示す。また、図11は、上記電解時間を0.1分〜400分で変化させた場合について、シュウ酸による電解時間変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
電解時間が0.1分未満の場合は膜の厚みが不足のために蛍光が微弱であるという問題があり、200分より大きいと膜が黄色く着色し、透明度が低下するという問題を生じる。特に、図10及び11より、5〜150分の範囲が、シュウ酸による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
【0039】
(実施例2:硫酸による陽極酸化の後、シュウ酸による陽極酸化)
以下の示す条件で、アルミニウム板に対し、硫酸による陽極酸化とシュウ酸による陽極酸化を行い、感応物質として酸素感応物質を吸着させた。
・使用するアルミニウム板のサイズ:25mm×67mm(有効サイズ25mm×48mm)
・硫酸による陽極酸化条件
硫酸濃度:10%
電解液の温度:25℃
電解時間:40分
印加電圧:12V
印加電流密度:約1A/dm
・シュウ酸による陽極酸化条件
シュウ酸濃度:2%
電解液の温度:25℃
電解時間:40分
印加電圧:46V
印加電流密度:約1A/dm
・酸素感応物質とその吸着方法
ポルフィリン濃度:0.02g/l(水溶液)
処理温度:15℃
浸漬処理時間:2分(緩やかな揺動下で)
【0040】
図12は、上記硫酸濃度を0.1%〜40%で変化させた場合について、硫酸濃度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
硫酸濃度が0.1%未満の場合は成膜速度が遅いという問題があり、40%より大きいと生成した膜が溶解するために望む膜厚が得られず、また膜が白色化し透明度が低下するという問題を生じる。特に、図12より、1〜20%の範囲が、硫酸による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
【0041】
図13は、硫酸の上記電解液の温度を5℃〜40℃で変化させた場合について、硫酸を含む電解液の温度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
温度が5℃未満の場合は成膜技術速度が遅いこと、酸化被膜の体積が非常に小さいため酸素感応物質量を多く吸着できないという問題があり、35℃より大きいと徐々に膜の透明性が失われる(曇りが発生)。このように膜の透明性が失われると、下地となっているシュウ酸膜の青色の発光が目見えにくくなり、色の変化を識別することが難しくなる。また、40℃より大きいと膜の溶解が起こりやすいという問題を生じる。特に、図13より、10〜35℃の範囲が、硫酸による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
【0042】
図14は、硫酸の上記電解時間を0.1分〜400分で変化させた場合について、硫酸による電解時間変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
電解時間が0.1分未満の場合は膜厚が小さいことによる感応物質量の不足という問題があり、120分より大きいと膜が白色化し透明度が低下するため、酸化膜の青色が見えにくいという問題を生じる。特に、図14より、5〜120分の範囲が、硫酸による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
【0043】
図15は、硫酸による陽極酸化での印加電圧を0.1V〜20Vで変化させた場合について、硫酸による陽極酸化時の印加電圧変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
印加電圧が0.1V未満の場合は膜が生成しにくいという問題があり、20Vより大きいと膜の溶解が起こりやすく、また白色化が起こるという問題を生じる。特に、図15より、1〜18Vの範囲が、硫酸による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
【0044】
図16は、上記シュウ酸濃度を0.1%〜20%で変化させた場合について、シュウ酸濃度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
シュウ酸濃度が0.1%未満の場合は皮膜が生成しにくいため青色が見えにくいという問題があり、20%より大きいと、シュウ酸が先に形成されている硫酸膜を溶解するため、酸素感応物質の吸着量が少なくなるという問題を生じる(つまり、20%では先に形成されている硫酸膜のほとんどを溶解しているため、応答性色素の吸着量が少なくなり、青が強く赤が弱いという問題がある)。特に、図16及び図6(0.01%の蛍光強度を考慮)より0.1〜10%の範囲が、硫酸による陽極酸化後のシュウ酸による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
【0045】
図17は、シュウ酸の上記電解液の温度を3℃〜40℃で変化させた場合について、シュウ酸を含む電解液の温度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
温度が3℃未満の場合はシュウ酸の膜生成しにくいという問題があり、35℃より大きいと、シュウ酸が先に形成されている硫酸膜を溶解するため、酸素感応物質の吸着量が少なくなるという問題を生じる。特に、図17及び図8(3℃の蛍光強度を考慮)より、10℃〜30℃の範囲が、硫酸による陽極酸化後のシュウ酸による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
【0046】
(実施例3:シュウ酸と硫酸との混合電解液による陽極酸化)
以下の示す条件で、アルミニウム板に対し、シュウ酸と硫酸との混合電解液による陽極酸化を行い、感応物質として酸素感応物質を吸着させた。
・使用するアルミニウム板のサイズ:25mm×67mm(有効サイズ25mm×48mm)
・陽極酸化条件
2%シュウ酸と10%硫酸との混合比:9:1
電解液の温度:25℃
電解時間:120分
印加電圧:25V
印加電流密度:約1A/dm
・酸素感応物質とその吸着方法
ポルフィリン濃度:0.02g/l(水溶液)
処理温度:15℃
浸漬処理時間:2分(緩やかな揺動下で)
【0047】
図18は、上記電解時間を1分〜400分で変化させた場合について、シュウ酸と硫酸との混合電解液を用いた陽極酸化における電解時間変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
電解時間が1分未満の場合は成膜不足、蛍光微弱という問題があり、400分より大きいと膜の脱落が起こりやすいという問題を生じる。特に、図18より、5〜180分の範囲が、混合電解液による陽極酸化処理には好適であることが理解できる。
【0048】
次に、図19及び20に、上記実施例の基板に、励起光源として、励起波長365nm、励起光強度500μw/cmを照射した場合の大気中(図19)及び窒素中(図20)の発光状態を写真で示す。
図19及び20により、実施例の酸素検知センサにより、酸素の有無をセンサが発光する色の違いにより識別できることが容易に理解される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上、説明したように、本発明により、光検出器などの特別な装置を必要とすること無く、目視により酸素の有無などの物理的又は化学的性質を容易に検知することが可能な検知センサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】酸素皮膜上に感応物質を付着させた検知センサの概略図である。
【図2】酸素皮膜上に感応物質を樹脂を用いて付着させた検知センサの概略図である。
【図3】支持体上に金属膜を形成した基体を使用する検知センサを示す図である。
【図4】検知センサの蛍光スペクトルの強度分布を示す概略図である。
【図5】硫酸による陽極酸化とシュウ酸による陽極酸化とを組合わせて製造した検知センサの概略図である。
【図6】シュウ酸濃度変化に対する酸化皮膜の蛍光強度の変化を示す。
【図7】シュウ酸濃度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図8】シュウ酸を含む電解液の温度変化に対する酸化皮膜の蛍光強度の変化を示す。
【図9】シュウ酸を含む電解液の温度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図10】シュウ酸による電解時間変化に対する酸化皮膜の蛍光強度の変化を示す。
【図11】シュウ酸による電解時間変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図12】二段処理における硫酸濃度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図13】二段処理における硫酸を含む電解液の温度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図14】二段処理における硫酸による電解時間変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図15】二段処理における硫酸による陽極酸化時の印加電圧変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図16】二段処理におけるシュウ酸濃度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図17】二段処理におけるシュウ酸を含む電解液の温度変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図18】シュウ酸と硫酸との混合電解液を用いた陽極酸化における電解時間変化に対する酸素感応物質の蛍光強度の変化を示す。
【図19】酸素検知センサの大気中における発光状態を示す写真である。
【図20】酸素検知センサの窒素中における発光状態を示す写真である。
【符号の説明】
【0051】
1,20 金属母材
2 多孔質の孔
3,12 酸化皮膜
4,13 酸素感応物質
5 樹脂
10 支持体
11 金属膜
12 酸化皮膜
21 シュウ酸による酸化皮膜
22 硫酸による酸化皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面に形成された多孔質の酸化皮膜と、該酸化皮膜に付着され、該酸化皮膜が発する蛍光の波長と異なる波長の蛍光を発生する感応物質とを有することを特徴とする検知センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の検知センサにおいて、該酸化皮膜は、シュウ酸を含む電解液で陽極酸化して形成される酸化皮膜であることを特徴とする検知センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の検知センサにおいて、該電解液が、シュウ酸と硫酸との混酸であることを特徴とする検知センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の検知センサにおいて、該酸化皮膜は、硫酸を含む電解液で陽極酸化した後、シュウ酸を含む電解液で陽極酸化して形成される酸化皮膜であることを特徴とする検知センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の検知センサにおいて、該金属表面を形成する材料が、アルミニウムであることを特徴とする検知センサ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の検知センサにおいて、該感応物質は、酸素感応物質、圧力感応物質、熱感応物質、溶媒の化学的性質に係る感応物質のいずれかであることを特徴とする検知センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2007−121234(P2007−121234A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317324(P2005−317324)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(591117206)株式会社東亜電化 (6)
【Fターム(参考)】