楔、長尺楔、ラップ型長尺楔及びそれらの貫接合部
【課題】貫接合部から楔、長尺楔、及びラップ型長尺楔が抜け出るのを防止する。
【解決手段】楔10は底面14に切り欠き部12を有している。切り欠き部12は、後端面16側から見たとき、後端面16の下部中央部に、楔10の後端面16から先端面22に向けて形成され、幅W1、深さH1で底面14側に開口し、両側の端部は幅W2で切り残されている。切り欠き幅W1と切り残し幅W2は、W1=2W2の関係とするのが望ましい。切り欠き部12の長さL1は、楔10を貫孔に打ち込んだ状態で、後端面16から柱の側面18Sまでの距離L2と等しいか、それより短くされている。具体的には0.5×L2<L1≦L2の関係とするのが望ましい。
【解決手段】楔10は底面14に切り欠き部12を有している。切り欠き部12は、後端面16側から見たとき、後端面16の下部中央部に、楔10の後端面16から先端面22に向けて形成され、幅W1、深さH1で底面14側に開口し、両側の端部は幅W2で切り残されている。切り欠き幅W1と切り残し幅W2は、W1=2W2の関係とするのが望ましい。切り欠き部12の長さL1は、楔10を貫孔に打ち込んだ状態で、後端面16から柱の側面18Sまでの距離L2と等しいか、それより短くされている。具体的には0.5×L2<L1≦L2の関係とするのが望ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楔、長尺楔、ラップ型長尺楔及びそれらの貫接合部に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築の貫接合部には、柱と貫の接合部の剛性、強度を高めるために楔が打ち込まれている。
しかし、地震時の正負の交番加力を受けることによって、楔が抜け出し、著しく接合部としての性能が低下するという問題がある。貫接合部が建物の主たる耐震要素となっている場合、地震時の正負の交番加力によって楔が抜け出し、貫接合部の耐力が低下し、建物全体の耐震性に問題が生じる場合もありうる。
【0003】
そこで、楔の抜け出しを防止する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1によれば、図12に示すように、柱80に取り付けた接合金具82に、梁84の端部を嵌合支持させ、その接合金具82の楔用窓孔86と、梁84の楔挿通孔88とに楔案内片90を装着すると共に、これに案内させて、打ち込み楔92を打ち込むことにより、梁84と柱80とを接合している。
【0005】
このとき、楔案内片90の接合面には緩み止め突起94が設けられており、打ち込み楔92の接合面には緩み止め突条96が設けられている。この緩み止め突起94と緩み止め突条96をかみ合わせることで、楔の抜け出しを防止している。
【0006】
しかし、このようなラップ型の楔を貫接合部に使用した場合には、柱と貫の相対回転角が大きい変形を生じた場合に、ラップさせた上下の楔の端部が乖離することが実験により確認されており、特許文献1のかみ合わせにおいても、かみ合わせの効果が失われる可能性がある。
【0007】
他の楔の抜け出し防止技術として、一方の楔の接触面に突起部を設け、他方の接触面に突起部が挿入されるスライド溝を設けた技術が提案されている(特許文献2)。
【0008】
特許文献2によれば、図13に示すように、楔100同士の接触面102をのこぎり歯段状に加工し、そのかみ合いの位置で重ねた楔100の高さを上下させ、基礎104と土台106間の高さを調節している。そして、下側の楔の接触面102には突起部104を設け、上側の楔の接触面102には突起部104が挿入されるスライド溝106を設け、楔100の抜け出しを防止している。
【0009】
しかし、上述したように、このようなラップ型の楔を貫接合部に使用した場合には、柱と貫の相対回転角が大きい変形を生じた場合に、ラップさせた上下の楔の端部が乖離することが実験により確認されており、地震時の正負の交番加力によって、乖離した突起部104とスライド溝106が元のようにかみ合う保障はなく、継続して繰返し荷重を受けた場合には、突起部104とスライド溝106がかみ合わなくなることが予測される。
【0010】
また、段状部分は、間隔をある程度小さくしないと高さの細かい調整ができないこと、基本的に力による叩き込みになることから、突起部104の高さもある程度小さくなってしまう。突起部104の高さが小さくなれば、楔が外れやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−183378号公報
【特許文献2】実開平6−20771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事実に鑑み、貫接合部から楔が抜け出るのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明に係る楔は、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込まれる楔であって、前記貫の上面と接する前記楔の底面には、前記楔の打ち込み方向の後端面から、前記打ち込み方向に向けて切り欠き部が設けられていることを特徴としている。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、楔の底面には、楔の打ち込み方向の後端面から楔の打ち込み方向に向けて切り欠き部が設けられ、貫の上面と接する楔の底面の面積が、楔の後端面から楔の打ち込み方向に向けて減少している。
【0015】
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、楔の底面の面積が減少して応力が集中し易くなるので、楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制される。
この結果、貫接合部から楔が抜け出るのを防止できる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の楔において、前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に設けられ、前記切り欠き部の長さは、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短くされていることを特徴としている。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、切り欠き部は、楔を進行方向の後方から見たとき、後端面の中央部に凹状に設けられ、両端部が切り残されている。また、切り欠き部の長さは、後端面から柱の側面位置までの距離より短くされている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、貫の上面で楔の抜き出る方向の移動を抑制する。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の楔において、前記切り欠き部は、前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に設けられ、前記切り欠き部の長さは、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短くされていることを特徴としている。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、切り欠き部は、楔を進行方向の後方から見たとき、後端面の中央部を凸状に残して両側面に設けられている。また、切り欠き部の長さは、後端面から柱の側面位置までの距離より短くされている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、貫の上面で楔の抜き出る方向の移動を抑制する。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の楔において、前記貫の上面と前記楔の接合面の少なくとも一方の面には、前記楔が抜け出る方向の滑りを抑制する滑り抑制手段が設けられていることを特徴としている。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、滑り抑制手段が楔の底面と貫の上面との接合面に設けられ、楔が抜け出る方向の滑りを抑制している。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、滑り抑制手段が、楔が抜け出る方向の滑りを抑制し、楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が、貫の上面にめり込みを生じる際のきっかけとなる。
この結果、貫接合部が受ける正負の交番加力の早期に、楔の切り欠き部が設けられた底面が貫の上面にめり込みを生じ、貫接合部から楔が抜け出るのを防止する。
【0022】
請求項5に記載の発明に係る貫接合部は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の楔を、柱に設けられ、貫が貫通した貫孔に打ち込んだことを特徴としている。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、貫接合部には、請求項1〜4のいずれか1項に記載の楔が、貫が貫通した貫孔に打ち込まれている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、切り欠き部が設けられた楔の底面の角部が、貫の上面にめり込み、貫の上面で楔の抜き出る方向の移動が抑制される。この結果、貫接合部から楔が抜け出るのを防止できる。
【0024】
請求項6に記載の発明に係る長尺楔は、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込まれる長尺楔であって、前記長尺楔の前記柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、前記長尺楔が打ち込まれた状態において、前記柱の幅の半分より長くされ、前記長尺楔の底面には、前記後端面から前記打ち込み方向に向けて、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられていることを特徴としている。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、柱の側面から後端面までの長さが、貫孔に打ち込まれた状態において、柱の幅の半分より長くされている長尺楔が貫孔に打ち込まれている。この長尺楔の底面には、後端面から打ち込み方向に向けて、後端面から柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられている。
【0026】
即ち、柱の側面から後端面までの長さが長いため、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、長尺楔の後端面の角部に大きなモーメントが生じ、長尺楔が貫の上面にめり込みを生じやすくなる。
【0027】
更に、長尺楔の底面には、後端面から長尺楔の打ち込み方向に向けて切り欠き部が設けられており、貫の上面と接する長尺楔の底面の面積が、後端面から楔の打ち込み方向に向けて減少している。これにより、長尺楔の後端面の貫の上面へのめり込みが容易になる。
この結果、長尺楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制され、貫接合部から長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0028】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の長尺楔において、前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に形成され、又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されていることを特徴としている。
【0029】
請求項7に記載の発明によれば、長尺楔の底面には、長尺楔を進行方向の後方から見たとき、欠き部が後端面の中央部に凹状に形成されている。又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されている。
【0030】
即ち、貫の上面と接する長尺楔の底面の面積が、長尺楔の後端面から楔の打ち込み方向に向けて減少されている。
【0031】
これにより、いずれの切り欠き部の形状においても、長尺楔の底面の後端面側の面積が減少して応力が集中し易くなるので、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、長尺楔の切り欠き部が設けられた底面の後端面側の角部が貫の上面にめり込みを生じ易くなり、長尺楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制される。
この結果、貫接合部から長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0032】
請求項8に記載の発明に係る貫接合部は、請求項6又は7に記載の長尺楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込んだことを特徴としている。
【0033】
請求項8に記載の発明によれば、貫接合部には、請求項6又は7に記載の長尺楔が、貫が貫通した貫孔に打ち込まれている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、長尺楔の底面の後端面側に設けられた切り欠き部により、角部が貫の上面にめり込みを生じ易くなり、めり込むことで貫の上面で長尺楔の抜き出る方向の移動が抑制される。この結果、貫接合部から長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0034】
請求項9に記載の発明に係るラップ型長尺楔は、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に前記柱の両側面から打ち込まれ、前記貫孔の内部で斜面同士が重ね合わされるラップ型長尺楔であって、前記ラップ型長尺楔の前記柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、前記ラップ型長尺楔が打ち込まれた状態において、前記柱の幅の半分より長くされ、前記ラップ型長尺楔の底面には、前記後端面から前記打ち込み方向に向けて、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられていることを特徴としている。
【0035】
請求項9に記載の発明によれば、柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、貫孔に打ち込まれた状態において、柱の幅の半分より長くされたラップ型長尺楔が、柱の両側面から貫孔に打ち込まれている。
【0036】
このとき、ラップ型長尺楔の底面には、後端面から打ち込み方向に向けて、後端面から柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられている。即ち、貫の上面と接するラップ型長尺楔の底面の面積が、ラップ型長尺楔の後端面からラップ型長尺楔の打ち込み方向に向けて減少している。
【0037】
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、ラップ型長尺楔の底面の面積が減少され、応力が集中し易くされているので、切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、ラップ型長尺楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制される。この結果、貫接合部からラップ型長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0038】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のラップ型長尺楔において、前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に形成され、又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されていることを特徴としている。
【0039】
請求項10に記載の発明によれば、切り欠き部は、ラップ型長尺楔を進行方向の後方から見たとき、後端面の中央部に凹状に形成されている。又は後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されている。即ち、貫の上面と接するラップ型長尺楔の底面の面積が、ラップ型長尺楔の後端面から楔の打ち込み方向に向けて減少している。
【0040】
これにより、底面の面積が減少して応力が集中し易くなるので、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、ラップ型長尺楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、ラップ型長尺楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制される。
この結果、貫接合部からラップ型長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0041】
請求項11に記載の発明に係る貫接合部は、請求項9又は10に記載のラップ型長尺楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に柱の両側から打ち込んだことを特徴としている。
【0042】
請求項11に記載の発明によれば、貫接合部には、請求項9又は10のいずれか1項に記載のラップ型長尺楔が、貫が貫通した貫孔に打ち込まれている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、ラップ型長尺楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込み、貫の上面でラップ型長尺楔の抜き出る方向の移動が抑制され、貫接合部からラップ型長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明は、上記構成としてあるので、貫接合部から楔、長尺楔、及びラップ型長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る楔の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る楔の作用を説明するための図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る楔の基本構成を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る楔の基本構成を示す図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係る貫接合部の基本構成を示す図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態に係る長尺楔の基本構成、及び貫接合部を示す図である。
【図7】本発明の第5の実施の形態に係る長尺楔の基本構成を示す図である。
【図8】本発明の第5の実施の形態に係る長尺楔の他の基本構成を示す図である。
【図9】本発明の第6の実施の形態に係るラップ型長尺楔の基本構成、及び貫接合部を示す図である。
【図10】本発明の第6の実施の形態に係るラップ型長尺楔の基本構成を示す図である。
【図11】本発明の第6の実施の形態に係るラップ型長尺楔の他の基本構成を示す図である。
【図12】従来例の貫接合部の構成を示す図である。
【図13】従来例の貫接合部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
(第1の実施の形態)
図1の楔10の基本構成、及び図2の貫接合部に示すように、第1の実施の形態に係る楔10は、底面14に切り欠き部12が形成されている。楔10は、貫材20より硬い木材で造られている。例えばヒノキの柱、ヒノキの貫に対してはケヤキ材等が望ましい。なお、楔10の底面14と上面24が楔形を形成しており、切り欠き部12を除き、広く使用されている楔と外観形状で変わるところはない。
【0046】
底面14に設けられた切り欠き部12は、矢印Pで示す楔10の打ち込み方向の後端面16から、先端面22に向けて、長さL1で形成されている。
切り欠き部12の形状は、後端面16側から見たとき図1(B)に示すように、後端面16の下部中央部に、底面14側に開口して切り欠かれている。切り欠き部12の大きさは、幅W1、深さH1とされ、後端面16の両側の端面が幅W2で切り残されている。
【0047】
このとき、切り欠き幅W1と切り残し幅W2は、(1)式の関係とするのが望ましい。深さH1は、後述する貫の材質により決定される。
W1=2W2・・・(1)
【0048】
切り欠き部12の長さL1は、楔10を貫孔に打ち込んだ状態で、後端面16の底面から2点鎖線で示す柱の側面18Sまでの距離L2と等しいか、それより短くされている。具体的には(2)式の関係とするのが望ましい。
0.5×L2< L1 ≦L2・・・(2)
【0049】
図1(C)に示すように、楔10の底面14の貫の上面と接する部分は、楔10の後端面16側においては、楔10の先端面22側に向けて、中央部に長さL1、幅W1の切り欠き部12が設けられていることから、楔10の後端面16側の両端部に切り残された、網掛けされた面積S1の部分に減少される。
【0050】
次に、作用について従来の楔と対比しながら説明する。
図2(A)は、柱18と貫20の貫接合部に、従来の楔26を打ち込んだ場合の挙動を示している。即ち、柱18に設けられた貫孔28に貫20が貫通され、貫孔28には、貫孔28の上面29と貫20の上面20Uの間に、従来の楔26が打ち込まれている。なお、楔26は、貫孔28の両側からそれぞれ打ち込まれているが、片側のみ図示している。
【0051】
楔26は、楔10と外観寸法や形状は同じであり、底面14に切り欠き12が設けられていない点のみが相違する。楔26の先端面22は、2点鎖線で示すように、柱18の楔26が打ち込まれた側の側面18Sから中心に向けて、深さR1の位置まで打ち込まれている。
【0052】
このとき、楔26の上面24は、貫孔28の上面29に押し当てられ、楔26の底面と貫20の上面20Uは面接触し、接触面に作用する摩擦力で楔26の横方向の移動が制限されている。
【0053】
この状態で、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、楔26の上面24は、押し当てられた貫孔28の上面29から、下方に作用する力F1及び横方向に作用する力F2を受ける。力F1による下方への移動は、面接触している貫20で制限され、力F2による横方向の移動は、面接触している貫20の上面20Uと、楔26の底面14の間の摩擦力で制限される。
【0054】
しかし、面接触している貫20の上面20Uと、楔26の底面14の間で滑りを生じた場合、楔26は、滑った距離だけ抜け出す方向に移動する。そして、一旦移動した楔を元に戻す力が作用することはない。この結果、交番加力Mにより、楔26が、徐々に貫孔28から抜け出る方向に移動し、最後には実線で示すR2の位置まで移動する。この抜け出た位置では、楔の役目を果たすことはできない。
【0055】
図2(B)は、柱18と貫20の貫接合部に、本実施の形態に係る楔10を打ち込んだ場合の挙動を示している。柱18に設けられた貫孔28には貫20が貫通され、貫孔28には、貫孔28の上面29と貫20の上面20Uの間に、楔10が打ち込まれている。なお、楔10は、貫孔28の両側からそれぞれ打ち込まれているが、片側のみ図示している。
【0056】
楔10の先端面22は、柱18の楔10を打ち込んだ側の側面18Sから中心へ向けて深さR1の位置まで打ち込まれている。このとき、楔10の上面24は貫孔28の上面29に押し当てられ、楔26の底面と貫20の上面20Uは面接触し、接触面に作用する摩擦力で楔26の横方向の移動が制限されている。
【0057】
この状態で、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、楔10の上面24は、押し当てられた貫孔28の上面29から、下方向に作用する力F1、及び横方向に作用する力F2を受ける。楔10の底面14は、後端面の付近において面積S1を減少させて応力が集中し易くしているので、力F1により、楔10の切り欠き部が設けられた底面14の角部が貫20の上面に深さH2でめり込みを生じる。この結果、力F2が作用しても、後端面がめり込んでいることから貫20の上面20Uで受け止められ、楔10の横方向の移動が抑制される。
これにより、楔10が貫接合部から抜け出るのを防止できる。
【0058】
なお、切り欠き部の深さH1は、想定される貫20へのめり込み深さH2より大きくしている。なお、貫20へのめり込み深さH2は、柱18から受ける荷重の大きさと方向、貫20の材質や寸法、楔10の材質や寸法等により決定される。
【0059】
(第2の実施の形態)
図3に示すように、第2の実施の形態に係る楔30は、底面14に切り欠き部32を有している。楔30は、第1の実施の形態で説明した楔10と切り欠き部の形状が異なるのみである。相違点を中心に以下説明する。
【0060】
切り欠き部32は、楔30の底面14に設けられ、矢印Pで示す打ち込み方向の後端面16から、楔30の先端面22に向けて両側面に形成されている。
【0061】
切り欠き部32は、図3(B)に示すように、楔30の後端面16から見たとき、両側の端面に幅W3、深さH1で切り欠かれ、中央部は幅W4で切り残されている。このとき、幅W3とW4は、(3)式の関係とするのが望ましい。
W4=2W3・・・(3)
【0062】
切り欠き部の長さL1は、楔30を貫孔に打ち込んだ状態で、後端面16から2点鎖線で示す柱の側面18Sまでの距離L2と等しいか、それより短くされている。具体的には(2)式の関係とするのが望ましい。
0.5×L2< L1 ≦L2・・・(2)
【0063】
図3(C)に示すように、楔30の貫20の上面20Uと接する底面14は、後端面16の付近において、楔30の後端面16から楔30の先端面22に向けて切り欠き部32が形成されているため、この部分において、面積S2(網掛け部分)が減少している。
これにより、第1の実施の形態で説明した作用、効果を得ることができる。
【0064】
(第3の実施の形態)
図4(A)に示すように、第3の実施の形態に係る楔70は、第1の実施の形態で説明した楔10の底面14に、滑り止め板66を設けている。他は第1の実施の形態と同じであり、相違する点について以下説明する。
【0065】
滑り止め板66は鋼板で形成され、平板部には、複数の爪68が一方の面から切り起こされている。爪68は先端が鋭利な形状とされ、尖った側を楔70の打ち込み方向Pと反対側に向け、かつ、爪68が設けられた面を外側(貫20側)にして、楔70の底面14と固定される。このとき、固定位置は、切り欠き部12周囲の底面14が切り残された部分である。
【0066】
これにより、図4(B)に示すように、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、下向きに作用する力F1、及び横向きに作用する力F2を受けて、滑り止め板66の爪68が貫20の上面20Uに突き刺さり、横方向の滑りを抑制する。これにより、楔70の底面14に設けられた切り欠き部12の角部が、貫20の上面20Uにめり込みを生じる際のきっかけとなる。
【0067】
この結果、地震時の早期に、楔70の切り欠き部12が設けられた底面14が、貫20の上面20Uにめり込みを生じ、貫孔28から楔70が抜け出るのを防止する。
【0068】
なお、第1の実施の形態で説明した楔10を例に説明したが、これに限定されることはなく、第2の実施の形態で説明した楔30、後述する長尺楔34、46、ラップ型長尺楔50、56に適用してもよい。
【0069】
(第4の実施の形態)
図5に示すように、第4の実施の形態に示す貫接合部40は、柱18に設けられた貫孔28に貫20を貫通し、貫孔28には、柱18の両側から楔10が打ち込まれ、両楔締めとされている。
【0070】
楔10の先端部22は、貫孔28の内部に正常な位置である深さR1の位置まで打ち込まれている。このとき、楔10の上面24は、貫孔28の上端部29に押し当てられ、先端面22は、柱18の中心近くに到達している。
【0071】
この状態で、貫接合部40が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、第1の実施の形態で説明したように、両側の楔10は、それぞれ、切り欠き部12が設けられた底面14の角部が貫20の上面に深さH2のめり込みを生じ、楔10が抜き出る方向の移動が貫20の上面で抑制される。
この結果、貫接合部40において、両側から打ち込まれた楔10が抜け出るのを防止できる。
【0072】
なお、以上の説明は、楔10を用いて行ったが、第2、及び第3の実施の形態で説明した楔30、又は楔70を用いても同じ作用、効果を得ることができる。更に、後述する、長尺楔34、46、ラップ型長尺楔50、56に適用しても同じ作用、効果を得ることができる。
【0073】
(第5の実施の形態)
図6に示すように、第5の実施の形態に示す長尺楔34は、柱18に設けられた貫孔28に、貫孔28を貫通する貫20の上面20Uと底面64を接して打ち込まれている。
【0074】
長尺楔34は、貫孔28に打ち込まれた状態において、柱18の側面18Sから長尺楔34の後端面36までの長さL3を、柱18の幅寸法Dの半分より長くしている。長尺楔34の底面64には、切り欠き部42が設けられている。
【0075】
長尺楔34は、第1の実施の形態で説明した楔10と同じ形状の切り欠き部42を有している点で共通し、打ち込まれた状態において、柱の側面18Sから後端面34までの長さが柱18の幅寸法Dの半分(D/2)より長い点において相違する。以下、相違点を中心に説明する。
【0076】
長尺楔34は、柱18の側面18Sから後端面34までの長さL3が、第1の実施の形態で説明した楔10より長くされているので、長尺楔34の後端面36は、柱18の側面18Sから離れた位置となる。
【0077】
この結果、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、長尺楔34の下方向に作用する力が大きくなり、底面64の角部が貫20の上面20Uにめり込みを生じ易くなる。これにより、貫20の上面20Uに長尺楔34の後端面36を、容易にめり込ませることができる。この結果、長尺楔34が抜き出る方向の移動が貫20の上面20Uで抑制され、貫接合部から長尺楔34が抜け出るのを防止できる。
【0078】
具体的には、図7に示すように、切り欠き部42が長尺楔34の底面64に、後端面36から先端面22に向けて形成されている。切り欠き部42の形状と作用は、第1の実施の形態で説明したものと同じである。
【0079】
即ち、切り欠き部42の形状は、後端面36から見た場合、後端面36の底面64側の中央部に、底面64側に開口して幅W1、深さH1で凹状に形成され、後端面16の両側の端面は幅W2で切り残されている。
【0080】
このとき、切り欠き幅W1と切り残し幅W2は、(1)式の関係とするのが望ましい。
W1=2W2・・・(1)
【0081】
切り欠き部42の長さL4は、楔34を貫孔28に打ち込んだ状態で、後端面16から2点鎖線で示す柱の側面18Sまでの距離L3と等しいか、それより短くされている。具体的には(3)式の関係とするのが望ましい。
0.5×L3< L4 ≦L3・・・(3)
【0082】
長尺楔34の底面64に切り欠き部42を設けることにより、貫20の上面20Uと接する楔38の底面64の面積S5が、楔38の後端面36から長尺楔34の先端面22に向け減少する。
【0083】
これにより、上述したように、貫20の上面20Uに長尺楔38の底面64の角部を容易にめり込ませることができる。この結果、長尺楔38が抜き出る方向の移動が貫20の上面20Uで抑制され、貫接合部から長尺楔34が抜け出るのを防止できる。
なお、切り欠き部の形状は、図8に記載した切り欠き部48としても、同じ作用、効果を得ることができる。
【0084】
(第6の実施の形態)
図9に示すように、第6の実施の形態に示すラップ型長尺楔50は、柱18に設けられた貫孔28に、柱18の両側の側面18Sから打ち込まれている。そして、柱18の内部でラップ型長尺楔50同士が重ね合わされる。
【0085】
ラップ型長尺楔50は、柱18の側面18Sからラップ型長尺楔50の後端面62までの長さL5を、打ち込まれた状態において、柱18の幅Dの半分より長くしている。ラップ型長尺楔50の底面58には、切り欠き部42が設けられている。
【0086】
ラップ型長尺楔50は、第5の実施の形態で説明した長尺楔34と同様に、柱18の側面18Sから後端面62までの長さL5が長くされているので、ラップ型長尺楔50の後端面62は、柱18の側面18Sから離れた位置となる。これにより、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、後端面62付近が貫20の上面20Uにめり込みを生じ易くなる。
【0087】
この結果、ラップ型長尺楔50の底面58に切り欠き部を形成しなくても、貫20の上面20Uにラップ型長尺楔50の底面58の角部をめり込ませることができる。この結果、ラップ型長尺楔50が抜き出る方向の移動が貫20の上面20Uで抑制され、貫接合部からラップ型長尺楔50が抜け出るのを防止できる。
【0088】
具体的には、図10に示すように、切り欠き部42は、ラップ型長尺楔50の底面58に、後端面62から先端面52に向けて形成されている。
【0089】
切り欠き部42は、第1の実施の形態で説明したものと同じであり、後端面62側から見たときの切り欠き幅W1と切り残し幅W2は、(1)式の関係とするのが望ましい。
W1=2W2・・・(1)
【0090】
切り欠き部42の長さL4は、ラップ型長尺楔54を貫孔に打ち込んだ状態で、後端面62から2点鎖線で示す柱の側面18Sまでの距離L3と等しいか、それより短くされている。具体的には(3)式の関係とするのが望ましい。
0.5×L3< L4 ≦L3・・・(3)
【0091】
ラップ型長尺楔50の底面58に切り欠き部42を設けることにより、貫20の上面20Uと接する部分の面積S5が、ラップ型長尺楔50の後端面62からラップ型長尺楔54の先端面52に向けて減少する。
【0092】
この結果、上述したように、ラップ型長尺楔54の底面58の角部が、貫20の上面20Uに容易にめり込みを生じ、ラップ型長尺楔54が抜き出る方向の移動が貫の上面20Uで抑制され、貫孔28からラップ型長尺楔54が抜け出るのを防止できる。
【0093】
なお、底面58の切り欠き部42は、図11に示す切り欠き部48としても、同じ作用、効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0094】
10 楔
12 切り欠き部
14 底面
16 後端面
18 柱
20 貫
22 先端面
28 貫孔
34 長尺楔
40 貫接合部
50 ラップ型長尺楔
66 滑り止め板(滑り抑制手段)
68 爪(滑り抑制手段)
70 楔
【技術分野】
【0001】
本発明は、楔、長尺楔、ラップ型長尺楔及びそれらの貫接合部に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築の貫接合部には、柱と貫の接合部の剛性、強度を高めるために楔が打ち込まれている。
しかし、地震時の正負の交番加力を受けることによって、楔が抜け出し、著しく接合部としての性能が低下するという問題がある。貫接合部が建物の主たる耐震要素となっている場合、地震時の正負の交番加力によって楔が抜け出し、貫接合部の耐力が低下し、建物全体の耐震性に問題が生じる場合もありうる。
【0003】
そこで、楔の抜け出しを防止する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1によれば、図12に示すように、柱80に取り付けた接合金具82に、梁84の端部を嵌合支持させ、その接合金具82の楔用窓孔86と、梁84の楔挿通孔88とに楔案内片90を装着すると共に、これに案内させて、打ち込み楔92を打ち込むことにより、梁84と柱80とを接合している。
【0005】
このとき、楔案内片90の接合面には緩み止め突起94が設けられており、打ち込み楔92の接合面には緩み止め突条96が設けられている。この緩み止め突起94と緩み止め突条96をかみ合わせることで、楔の抜け出しを防止している。
【0006】
しかし、このようなラップ型の楔を貫接合部に使用した場合には、柱と貫の相対回転角が大きい変形を生じた場合に、ラップさせた上下の楔の端部が乖離することが実験により確認されており、特許文献1のかみ合わせにおいても、かみ合わせの効果が失われる可能性がある。
【0007】
他の楔の抜け出し防止技術として、一方の楔の接触面に突起部を設け、他方の接触面に突起部が挿入されるスライド溝を設けた技術が提案されている(特許文献2)。
【0008】
特許文献2によれば、図13に示すように、楔100同士の接触面102をのこぎり歯段状に加工し、そのかみ合いの位置で重ねた楔100の高さを上下させ、基礎104と土台106間の高さを調節している。そして、下側の楔の接触面102には突起部104を設け、上側の楔の接触面102には突起部104が挿入されるスライド溝106を設け、楔100の抜け出しを防止している。
【0009】
しかし、上述したように、このようなラップ型の楔を貫接合部に使用した場合には、柱と貫の相対回転角が大きい変形を生じた場合に、ラップさせた上下の楔の端部が乖離することが実験により確認されており、地震時の正負の交番加力によって、乖離した突起部104とスライド溝106が元のようにかみ合う保障はなく、継続して繰返し荷重を受けた場合には、突起部104とスライド溝106がかみ合わなくなることが予測される。
【0010】
また、段状部分は、間隔をある程度小さくしないと高さの細かい調整ができないこと、基本的に力による叩き込みになることから、突起部104の高さもある程度小さくなってしまう。突起部104の高さが小さくなれば、楔が外れやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−183378号公報
【特許文献2】実開平6−20771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事実に鑑み、貫接合部から楔が抜け出るのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明に係る楔は、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込まれる楔であって、前記貫の上面と接する前記楔の底面には、前記楔の打ち込み方向の後端面から、前記打ち込み方向に向けて切り欠き部が設けられていることを特徴としている。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、楔の底面には、楔の打ち込み方向の後端面から楔の打ち込み方向に向けて切り欠き部が設けられ、貫の上面と接する楔の底面の面積が、楔の後端面から楔の打ち込み方向に向けて減少している。
【0015】
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、楔の底面の面積が減少して応力が集中し易くなるので、楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制される。
この結果、貫接合部から楔が抜け出るのを防止できる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の楔において、前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に設けられ、前記切り欠き部の長さは、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短くされていることを特徴としている。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、切り欠き部は、楔を進行方向の後方から見たとき、後端面の中央部に凹状に設けられ、両端部が切り残されている。また、切り欠き部の長さは、後端面から柱の側面位置までの距離より短くされている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、貫の上面で楔の抜き出る方向の移動を抑制する。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の楔において、前記切り欠き部は、前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に設けられ、前記切り欠き部の長さは、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短くされていることを特徴としている。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、切り欠き部は、楔を進行方向の後方から見たとき、後端面の中央部を凸状に残して両側面に設けられている。また、切り欠き部の長さは、後端面から柱の側面位置までの距離より短くされている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、貫の上面で楔の抜き出る方向の移動を抑制する。
【0020】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の楔において、前記貫の上面と前記楔の接合面の少なくとも一方の面には、前記楔が抜け出る方向の滑りを抑制する滑り抑制手段が設けられていることを特徴としている。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、滑り抑制手段が楔の底面と貫の上面との接合面に設けられ、楔が抜け出る方向の滑りを抑制している。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、滑り抑制手段が、楔が抜け出る方向の滑りを抑制し、楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が、貫の上面にめり込みを生じる際のきっかけとなる。
この結果、貫接合部が受ける正負の交番加力の早期に、楔の切り欠き部が設けられた底面が貫の上面にめり込みを生じ、貫接合部から楔が抜け出るのを防止する。
【0022】
請求項5に記載の発明に係る貫接合部は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の楔を、柱に設けられ、貫が貫通した貫孔に打ち込んだことを特徴としている。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、貫接合部には、請求項1〜4のいずれか1項に記載の楔が、貫が貫通した貫孔に打ち込まれている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、切り欠き部が設けられた楔の底面の角部が、貫の上面にめり込み、貫の上面で楔の抜き出る方向の移動が抑制される。この結果、貫接合部から楔が抜け出るのを防止できる。
【0024】
請求項6に記載の発明に係る長尺楔は、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込まれる長尺楔であって、前記長尺楔の前記柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、前記長尺楔が打ち込まれた状態において、前記柱の幅の半分より長くされ、前記長尺楔の底面には、前記後端面から前記打ち込み方向に向けて、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられていることを特徴としている。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、柱の側面から後端面までの長さが、貫孔に打ち込まれた状態において、柱の幅の半分より長くされている長尺楔が貫孔に打ち込まれている。この長尺楔の底面には、後端面から打ち込み方向に向けて、後端面から柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられている。
【0026】
即ち、柱の側面から後端面までの長さが長いため、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、長尺楔の後端面の角部に大きなモーメントが生じ、長尺楔が貫の上面にめり込みを生じやすくなる。
【0027】
更に、長尺楔の底面には、後端面から長尺楔の打ち込み方向に向けて切り欠き部が設けられており、貫の上面と接する長尺楔の底面の面積が、後端面から楔の打ち込み方向に向けて減少している。これにより、長尺楔の後端面の貫の上面へのめり込みが容易になる。
この結果、長尺楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制され、貫接合部から長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0028】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の長尺楔において、前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に形成され、又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されていることを特徴としている。
【0029】
請求項7に記載の発明によれば、長尺楔の底面には、長尺楔を進行方向の後方から見たとき、欠き部が後端面の中央部に凹状に形成されている。又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されている。
【0030】
即ち、貫の上面と接する長尺楔の底面の面積が、長尺楔の後端面から楔の打ち込み方向に向けて減少されている。
【0031】
これにより、いずれの切り欠き部の形状においても、長尺楔の底面の後端面側の面積が減少して応力が集中し易くなるので、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、長尺楔の切り欠き部が設けられた底面の後端面側の角部が貫の上面にめり込みを生じ易くなり、長尺楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制される。
この結果、貫接合部から長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0032】
請求項8に記載の発明に係る貫接合部は、請求項6又は7に記載の長尺楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込んだことを特徴としている。
【0033】
請求項8に記載の発明によれば、貫接合部には、請求項6又は7に記載の長尺楔が、貫が貫通した貫孔に打ち込まれている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、長尺楔の底面の後端面側に設けられた切り欠き部により、角部が貫の上面にめり込みを生じ易くなり、めり込むことで貫の上面で長尺楔の抜き出る方向の移動が抑制される。この結果、貫接合部から長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0034】
請求項9に記載の発明に係るラップ型長尺楔は、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に前記柱の両側面から打ち込まれ、前記貫孔の内部で斜面同士が重ね合わされるラップ型長尺楔であって、前記ラップ型長尺楔の前記柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、前記ラップ型長尺楔が打ち込まれた状態において、前記柱の幅の半分より長くされ、前記ラップ型長尺楔の底面には、前記後端面から前記打ち込み方向に向けて、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられていることを特徴としている。
【0035】
請求項9に記載の発明によれば、柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、貫孔に打ち込まれた状態において、柱の幅の半分より長くされたラップ型長尺楔が、柱の両側面から貫孔に打ち込まれている。
【0036】
このとき、ラップ型長尺楔の底面には、後端面から打ち込み方向に向けて、後端面から柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられている。即ち、貫の上面と接するラップ型長尺楔の底面の面積が、ラップ型長尺楔の後端面からラップ型長尺楔の打ち込み方向に向けて減少している。
【0037】
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、ラップ型長尺楔の底面の面積が減少され、応力が集中し易くされているので、切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、ラップ型長尺楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制される。この結果、貫接合部からラップ型長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0038】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のラップ型長尺楔において、前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に形成され、又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されていることを特徴としている。
【0039】
請求項10に記載の発明によれば、切り欠き部は、ラップ型長尺楔を進行方向の後方から見たとき、後端面の中央部に凹状に形成されている。又は後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されている。即ち、貫の上面と接するラップ型長尺楔の底面の面積が、ラップ型長尺楔の後端面から楔の打ち込み方向に向けて減少している。
【0040】
これにより、底面の面積が減少して応力が集中し易くなるので、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、ラップ型長尺楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込みを生じ、ラップ型長尺楔が抜き出る方向の移動が貫の上面で抑制される。
この結果、貫接合部からラップ型長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【0041】
請求項11に記載の発明に係る貫接合部は、請求項9又は10に記載のラップ型長尺楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に柱の両側から打ち込んだことを特徴としている。
【0042】
請求項11に記載の発明によれば、貫接合部には、請求項9又は10のいずれか1項に記載のラップ型長尺楔が、貫が貫通した貫孔に打ち込まれている。
これにより、貫接合部が地震時の正負の交番加力を受けたとき、ラップ型長尺楔の切り欠き部が設けられた底面の角部が貫の上面にめり込み、貫の上面でラップ型長尺楔の抜き出る方向の移動が抑制され、貫接合部からラップ型長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【発明の効果】
【0043】
本発明は、上記構成としてあるので、貫接合部から楔、長尺楔、及びラップ型長尺楔が抜け出るのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る楔の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る楔の作用を説明するための図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る楔の基本構成を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る楔の基本構成を示す図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係る貫接合部の基本構成を示す図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態に係る長尺楔の基本構成、及び貫接合部を示す図である。
【図7】本発明の第5の実施の形態に係る長尺楔の基本構成を示す図である。
【図8】本発明の第5の実施の形態に係る長尺楔の他の基本構成を示す図である。
【図9】本発明の第6の実施の形態に係るラップ型長尺楔の基本構成、及び貫接合部を示す図である。
【図10】本発明の第6の実施の形態に係るラップ型長尺楔の基本構成を示す図である。
【図11】本発明の第6の実施の形態に係るラップ型長尺楔の他の基本構成を示す図である。
【図12】従来例の貫接合部の構成を示す図である。
【図13】従来例の貫接合部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
(第1の実施の形態)
図1の楔10の基本構成、及び図2の貫接合部に示すように、第1の実施の形態に係る楔10は、底面14に切り欠き部12が形成されている。楔10は、貫材20より硬い木材で造られている。例えばヒノキの柱、ヒノキの貫に対してはケヤキ材等が望ましい。なお、楔10の底面14と上面24が楔形を形成しており、切り欠き部12を除き、広く使用されている楔と外観形状で変わるところはない。
【0046】
底面14に設けられた切り欠き部12は、矢印Pで示す楔10の打ち込み方向の後端面16から、先端面22に向けて、長さL1で形成されている。
切り欠き部12の形状は、後端面16側から見たとき図1(B)に示すように、後端面16の下部中央部に、底面14側に開口して切り欠かれている。切り欠き部12の大きさは、幅W1、深さH1とされ、後端面16の両側の端面が幅W2で切り残されている。
【0047】
このとき、切り欠き幅W1と切り残し幅W2は、(1)式の関係とするのが望ましい。深さH1は、後述する貫の材質により決定される。
W1=2W2・・・(1)
【0048】
切り欠き部12の長さL1は、楔10を貫孔に打ち込んだ状態で、後端面16の底面から2点鎖線で示す柱の側面18Sまでの距離L2と等しいか、それより短くされている。具体的には(2)式の関係とするのが望ましい。
0.5×L2< L1 ≦L2・・・(2)
【0049】
図1(C)に示すように、楔10の底面14の貫の上面と接する部分は、楔10の後端面16側においては、楔10の先端面22側に向けて、中央部に長さL1、幅W1の切り欠き部12が設けられていることから、楔10の後端面16側の両端部に切り残された、網掛けされた面積S1の部分に減少される。
【0050】
次に、作用について従来の楔と対比しながら説明する。
図2(A)は、柱18と貫20の貫接合部に、従来の楔26を打ち込んだ場合の挙動を示している。即ち、柱18に設けられた貫孔28に貫20が貫通され、貫孔28には、貫孔28の上面29と貫20の上面20Uの間に、従来の楔26が打ち込まれている。なお、楔26は、貫孔28の両側からそれぞれ打ち込まれているが、片側のみ図示している。
【0051】
楔26は、楔10と外観寸法や形状は同じであり、底面14に切り欠き12が設けられていない点のみが相違する。楔26の先端面22は、2点鎖線で示すように、柱18の楔26が打ち込まれた側の側面18Sから中心に向けて、深さR1の位置まで打ち込まれている。
【0052】
このとき、楔26の上面24は、貫孔28の上面29に押し当てられ、楔26の底面と貫20の上面20Uは面接触し、接触面に作用する摩擦力で楔26の横方向の移動が制限されている。
【0053】
この状態で、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、楔26の上面24は、押し当てられた貫孔28の上面29から、下方に作用する力F1及び横方向に作用する力F2を受ける。力F1による下方への移動は、面接触している貫20で制限され、力F2による横方向の移動は、面接触している貫20の上面20Uと、楔26の底面14の間の摩擦力で制限される。
【0054】
しかし、面接触している貫20の上面20Uと、楔26の底面14の間で滑りを生じた場合、楔26は、滑った距離だけ抜け出す方向に移動する。そして、一旦移動した楔を元に戻す力が作用することはない。この結果、交番加力Mにより、楔26が、徐々に貫孔28から抜け出る方向に移動し、最後には実線で示すR2の位置まで移動する。この抜け出た位置では、楔の役目を果たすことはできない。
【0055】
図2(B)は、柱18と貫20の貫接合部に、本実施の形態に係る楔10を打ち込んだ場合の挙動を示している。柱18に設けられた貫孔28には貫20が貫通され、貫孔28には、貫孔28の上面29と貫20の上面20Uの間に、楔10が打ち込まれている。なお、楔10は、貫孔28の両側からそれぞれ打ち込まれているが、片側のみ図示している。
【0056】
楔10の先端面22は、柱18の楔10を打ち込んだ側の側面18Sから中心へ向けて深さR1の位置まで打ち込まれている。このとき、楔10の上面24は貫孔28の上面29に押し当てられ、楔26の底面と貫20の上面20Uは面接触し、接触面に作用する摩擦力で楔26の横方向の移動が制限されている。
【0057】
この状態で、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、楔10の上面24は、押し当てられた貫孔28の上面29から、下方向に作用する力F1、及び横方向に作用する力F2を受ける。楔10の底面14は、後端面の付近において面積S1を減少させて応力が集中し易くしているので、力F1により、楔10の切り欠き部が設けられた底面14の角部が貫20の上面に深さH2でめり込みを生じる。この結果、力F2が作用しても、後端面がめり込んでいることから貫20の上面20Uで受け止められ、楔10の横方向の移動が抑制される。
これにより、楔10が貫接合部から抜け出るのを防止できる。
【0058】
なお、切り欠き部の深さH1は、想定される貫20へのめり込み深さH2より大きくしている。なお、貫20へのめり込み深さH2は、柱18から受ける荷重の大きさと方向、貫20の材質や寸法、楔10の材質や寸法等により決定される。
【0059】
(第2の実施の形態)
図3に示すように、第2の実施の形態に係る楔30は、底面14に切り欠き部32を有している。楔30は、第1の実施の形態で説明した楔10と切り欠き部の形状が異なるのみである。相違点を中心に以下説明する。
【0060】
切り欠き部32は、楔30の底面14に設けられ、矢印Pで示す打ち込み方向の後端面16から、楔30の先端面22に向けて両側面に形成されている。
【0061】
切り欠き部32は、図3(B)に示すように、楔30の後端面16から見たとき、両側の端面に幅W3、深さH1で切り欠かれ、中央部は幅W4で切り残されている。このとき、幅W3とW4は、(3)式の関係とするのが望ましい。
W4=2W3・・・(3)
【0062】
切り欠き部の長さL1は、楔30を貫孔に打ち込んだ状態で、後端面16から2点鎖線で示す柱の側面18Sまでの距離L2と等しいか、それより短くされている。具体的には(2)式の関係とするのが望ましい。
0.5×L2< L1 ≦L2・・・(2)
【0063】
図3(C)に示すように、楔30の貫20の上面20Uと接する底面14は、後端面16の付近において、楔30の後端面16から楔30の先端面22に向けて切り欠き部32が形成されているため、この部分において、面積S2(網掛け部分)が減少している。
これにより、第1の実施の形態で説明した作用、効果を得ることができる。
【0064】
(第3の実施の形態)
図4(A)に示すように、第3の実施の形態に係る楔70は、第1の実施の形態で説明した楔10の底面14に、滑り止め板66を設けている。他は第1の実施の形態と同じであり、相違する点について以下説明する。
【0065】
滑り止め板66は鋼板で形成され、平板部には、複数の爪68が一方の面から切り起こされている。爪68は先端が鋭利な形状とされ、尖った側を楔70の打ち込み方向Pと反対側に向け、かつ、爪68が設けられた面を外側(貫20側)にして、楔70の底面14と固定される。このとき、固定位置は、切り欠き部12周囲の底面14が切り残された部分である。
【0066】
これにより、図4(B)に示すように、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、下向きに作用する力F1、及び横向きに作用する力F2を受けて、滑り止め板66の爪68が貫20の上面20Uに突き刺さり、横方向の滑りを抑制する。これにより、楔70の底面14に設けられた切り欠き部12の角部が、貫20の上面20Uにめり込みを生じる際のきっかけとなる。
【0067】
この結果、地震時の早期に、楔70の切り欠き部12が設けられた底面14が、貫20の上面20Uにめり込みを生じ、貫孔28から楔70が抜け出るのを防止する。
【0068】
なお、第1の実施の形態で説明した楔10を例に説明したが、これに限定されることはなく、第2の実施の形態で説明した楔30、後述する長尺楔34、46、ラップ型長尺楔50、56に適用してもよい。
【0069】
(第4の実施の形態)
図5に示すように、第4の実施の形態に示す貫接合部40は、柱18に設けられた貫孔28に貫20を貫通し、貫孔28には、柱18の両側から楔10が打ち込まれ、両楔締めとされている。
【0070】
楔10の先端部22は、貫孔28の内部に正常な位置である深さR1の位置まで打ち込まれている。このとき、楔10の上面24は、貫孔28の上端部29に押し当てられ、先端面22は、柱18の中心近くに到達している。
【0071】
この状態で、貫接合部40が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、第1の実施の形態で説明したように、両側の楔10は、それぞれ、切り欠き部12が設けられた底面14の角部が貫20の上面に深さH2のめり込みを生じ、楔10が抜き出る方向の移動が貫20の上面で抑制される。
この結果、貫接合部40において、両側から打ち込まれた楔10が抜け出るのを防止できる。
【0072】
なお、以上の説明は、楔10を用いて行ったが、第2、及び第3の実施の形態で説明した楔30、又は楔70を用いても同じ作用、効果を得ることができる。更に、後述する、長尺楔34、46、ラップ型長尺楔50、56に適用しても同じ作用、効果を得ることができる。
【0073】
(第5の実施の形態)
図6に示すように、第5の実施の形態に示す長尺楔34は、柱18に設けられた貫孔28に、貫孔28を貫通する貫20の上面20Uと底面64を接して打ち込まれている。
【0074】
長尺楔34は、貫孔28に打ち込まれた状態において、柱18の側面18Sから長尺楔34の後端面36までの長さL3を、柱18の幅寸法Dの半分より長くしている。長尺楔34の底面64には、切り欠き部42が設けられている。
【0075】
長尺楔34は、第1の実施の形態で説明した楔10と同じ形状の切り欠き部42を有している点で共通し、打ち込まれた状態において、柱の側面18Sから後端面34までの長さが柱18の幅寸法Dの半分(D/2)より長い点において相違する。以下、相違点を中心に説明する。
【0076】
長尺楔34は、柱18の側面18Sから後端面34までの長さL3が、第1の実施の形態で説明した楔10より長くされているので、長尺楔34の後端面36は、柱18の側面18Sから離れた位置となる。
【0077】
この結果、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、長尺楔34の下方向に作用する力が大きくなり、底面64の角部が貫20の上面20Uにめり込みを生じ易くなる。これにより、貫20の上面20Uに長尺楔34の後端面36を、容易にめり込ませることができる。この結果、長尺楔34が抜き出る方向の移動が貫20の上面20Uで抑制され、貫接合部から長尺楔34が抜け出るのを防止できる。
【0078】
具体的には、図7に示すように、切り欠き部42が長尺楔34の底面64に、後端面36から先端面22に向けて形成されている。切り欠き部42の形状と作用は、第1の実施の形態で説明したものと同じである。
【0079】
即ち、切り欠き部42の形状は、後端面36から見た場合、後端面36の底面64側の中央部に、底面64側に開口して幅W1、深さH1で凹状に形成され、後端面16の両側の端面は幅W2で切り残されている。
【0080】
このとき、切り欠き幅W1と切り残し幅W2は、(1)式の関係とするのが望ましい。
W1=2W2・・・(1)
【0081】
切り欠き部42の長さL4は、楔34を貫孔28に打ち込んだ状態で、後端面16から2点鎖線で示す柱の側面18Sまでの距離L3と等しいか、それより短くされている。具体的には(3)式の関係とするのが望ましい。
0.5×L3< L4 ≦L3・・・(3)
【0082】
長尺楔34の底面64に切り欠き部42を設けることにより、貫20の上面20Uと接する楔38の底面64の面積S5が、楔38の後端面36から長尺楔34の先端面22に向け減少する。
【0083】
これにより、上述したように、貫20の上面20Uに長尺楔38の底面64の角部を容易にめり込ませることができる。この結果、長尺楔38が抜き出る方向の移動が貫20の上面20Uで抑制され、貫接合部から長尺楔34が抜け出るのを防止できる。
なお、切り欠き部の形状は、図8に記載した切り欠き部48としても、同じ作用、効果を得ることができる。
【0084】
(第6の実施の形態)
図9に示すように、第6の実施の形態に示すラップ型長尺楔50は、柱18に設けられた貫孔28に、柱18の両側の側面18Sから打ち込まれている。そして、柱18の内部でラップ型長尺楔50同士が重ね合わされる。
【0085】
ラップ型長尺楔50は、柱18の側面18Sからラップ型長尺楔50の後端面62までの長さL5を、打ち込まれた状態において、柱18の幅Dの半分より長くしている。ラップ型長尺楔50の底面58には、切り欠き部42が設けられている。
【0086】
ラップ型長尺楔50は、第5の実施の形態で説明した長尺楔34と同様に、柱18の側面18Sから後端面62までの長さL5が長くされているので、ラップ型長尺楔50の後端面62は、柱18の側面18Sから離れた位置となる。これにより、柱18が地震時の正負の交番加力Mを受けたとき、後端面62付近が貫20の上面20Uにめり込みを生じ易くなる。
【0087】
この結果、ラップ型長尺楔50の底面58に切り欠き部を形成しなくても、貫20の上面20Uにラップ型長尺楔50の底面58の角部をめり込ませることができる。この結果、ラップ型長尺楔50が抜き出る方向の移動が貫20の上面20Uで抑制され、貫接合部からラップ型長尺楔50が抜け出るのを防止できる。
【0088】
具体的には、図10に示すように、切り欠き部42は、ラップ型長尺楔50の底面58に、後端面62から先端面52に向けて形成されている。
【0089】
切り欠き部42は、第1の実施の形態で説明したものと同じであり、後端面62側から見たときの切り欠き幅W1と切り残し幅W2は、(1)式の関係とするのが望ましい。
W1=2W2・・・(1)
【0090】
切り欠き部42の長さL4は、ラップ型長尺楔54を貫孔に打ち込んだ状態で、後端面62から2点鎖線で示す柱の側面18Sまでの距離L3と等しいか、それより短くされている。具体的には(3)式の関係とするのが望ましい。
0.5×L3< L4 ≦L3・・・(3)
【0091】
ラップ型長尺楔50の底面58に切り欠き部42を設けることにより、貫20の上面20Uと接する部分の面積S5が、ラップ型長尺楔50の後端面62からラップ型長尺楔54の先端面52に向けて減少する。
【0092】
この結果、上述したように、ラップ型長尺楔54の底面58の角部が、貫20の上面20Uに容易にめり込みを生じ、ラップ型長尺楔54が抜き出る方向の移動が貫の上面20Uで抑制され、貫孔28からラップ型長尺楔54が抜け出るのを防止できる。
【0093】
なお、底面58の切り欠き部42は、図11に示す切り欠き部48としても、同じ作用、効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0094】
10 楔
12 切り欠き部
14 底面
16 後端面
18 柱
20 貫
22 先端面
28 貫孔
34 長尺楔
40 貫接合部
50 ラップ型長尺楔
66 滑り止め板(滑り抑制手段)
68 爪(滑り抑制手段)
70 楔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込まれる楔であって、
前記貫の上面と接する前記楔の底面には、前記楔の打ち込み方向の後端面から、前記打ち込み方向に向けて切り欠き部が設けられている楔。
【請求項2】
前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に設けられ、
前記切り欠き部の長さは、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短くされている請求項1に記載の楔。
【請求項3】
前記切り欠き部は、前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に設けられ、
前記切り欠き部の長さは、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短くされている請求項1に記載の楔。
【請求項4】
前記貫の上面と前記楔の接合面の少なくとも一方の面には、前記楔が抜け出る方向の滑りを抑制する滑り抑制手段が設けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の楔。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込んだ貫接合部。
【請求項6】
柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込まれる長尺楔であって、
前記長尺楔の前記柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、前記長尺楔が打ち込まれた状態において、前記柱の幅の半分より長くされ、
前記長尺楔の底面には、前記後端面から前記打ち込み方向に向けて、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられている長尺楔。
【請求項7】
前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に形成され、又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されている請求項6に記載の長尺楔。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の長尺楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込んだ貫接合部。
【請求項9】
柱に設けられ貫が貫通した貫孔に前記柱の両側面から打ち込まれ、前記貫孔の内部で斜面同士が重ね合わされるラップ型長尺楔であって、
前記ラップ型長尺楔の前記柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、前記ラップ型長尺楔が打ち込まれた状態において、前記柱の幅の半分より長くされ、
前記ラップ型長尺楔の底面には、前記後端面から前記打ち込み方向に向けて、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられているラップ型長尺楔。
【請求項10】
前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に形成され、又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されている請求項9に記載のラップ型長尺楔。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のラップ型長尺楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込んだ貫接合部。
【請求項1】
柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込まれる楔であって、
前記貫の上面と接する前記楔の底面には、前記楔の打ち込み方向の後端面から、前記打ち込み方向に向けて切り欠き部が設けられている楔。
【請求項2】
前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に設けられ、
前記切り欠き部の長さは、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短くされている請求項1に記載の楔。
【請求項3】
前記切り欠き部は、前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に設けられ、
前記切り欠き部の長さは、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短くされている請求項1に記載の楔。
【請求項4】
前記貫の上面と前記楔の接合面の少なくとも一方の面には、前記楔が抜け出る方向の滑りを抑制する滑り抑制手段が設けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の楔。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込んだ貫接合部。
【請求項6】
柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込まれる長尺楔であって、
前記長尺楔の前記柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、前記長尺楔が打ち込まれた状態において、前記柱の幅の半分より長くされ、
前記長尺楔の底面には、前記後端面から前記打ち込み方向に向けて、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられている長尺楔。
【請求項7】
前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に形成され、又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されている請求項6に記載の長尺楔。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の長尺楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込んだ貫接合部。
【請求項9】
柱に設けられ貫が貫通した貫孔に前記柱の両側面から打ち込まれ、前記貫孔の内部で斜面同士が重ね合わされるラップ型長尺楔であって、
前記ラップ型長尺楔の前記柱の側面から打ち込み方向の後端面までの長さが、前記ラップ型長尺楔が打ち込まれた状態において、前記柱の幅の半分より長くされ、
前記ラップ型長尺楔の底面には、前記後端面から前記打ち込み方向に向けて、前記後端面から前記柱の側面位置までの距離より短い切り欠き部が設けられているラップ型長尺楔。
【請求項10】
前記切り欠き部は、前記後端面の中央部に凹状に形成され、又は前記後端面の中央部を凸状に残して両側面に形成されている請求項9に記載のラップ型長尺楔。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のラップ型長尺楔を、柱に設けられ貫が貫通した貫孔に打ち込んだ貫接合部。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−226100(P2011−226100A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95129(P2010−95129)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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