説明

極性分子型電気粘性流体

本発明は、主に固体粒子分散相と液体分散媒質を混合してなる極性分子型電気粘性流体において、分散相固体粒子表面及び/又は液体分散媒質中に極性分子或いは極性基を含み、極性分子或いは極性基の双極子モーメントが0.5〜10Debyeであり、サイズが0.1〜0.8nmである;分散相固体粒子が球形又は球類似形であり、粒子サイズが10〜300nmであり、誘電常数が50以上である;液体分散媒質の導電率が10-8S/m以下、誘電常数が10以下である;ことを特徴とする極性分子型電気粘性流体を提供している。該電気粘性流体は、降伏強度が高く、動的せん断強度が高く、漏れ電流が小さく、降伏強度が電界強度と直線関係を呈し、低電界下で高降伏強度等の特徴をあり、その降伏強度は伝統的な電気粘性流体より百倍近く高くなり、200kPa以上に達することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新型の電気粘性流体に関し、特に極性分子型電気粘性流体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気粘性流体(Electrorheological Fluids)はナノメートルからマイクロメートルのサイズの粒子を絶縁液体と混合してなる懸濁液であり、そのせん断強度は外部電界により連続的に調節され、液相から固相に瞬間的に変わることができる。電気粘性流体は電界の作用下、せん断強度を連続的に調節可能、迅速な反応及び可逆転換という特別な性質を備え、硬軟程度の調節が可能な知能材料であり、広範且つ重要な応用価値を有する。クラッチ、減衰システム、ダンパー、制動システム、無段階変速、液体バルブ、電気機械結合制御、ロボットなどに応用され、電気機械一体化の知能制御を実現することができる。ほとんど全ての工業、技術分野、及び軍事上において、均しく広範に応用され得る。
【0003】
しかしながら、20世紀40年代にWinslowが電気粘性流体を発見してから今まで、電気粘性流体は予想通りの応用がなされていない。主な原因は、せん断強度が低く、漏れ電流が大きく、抗沈降性が低いことにあり、そのせん断強度は通定数kPa、最高10kPaである。通常の電気粘性流体の動作原理は、電界の作用下、粒子が極性化され互いに引き合い、電気粘性流体のせん断強度が電界の増大につれて高くなることにある。このような粒子が極性化され互いに引き合う原理に基づく電気粘性流体を「普通電気粘性流体」或いは「誘電電気粘性流体」と称する。このような電気粘性流体のせん断降伏強度の限界は10kPa(1kV/mm)である。このような低せん断強度の電気粘性流体は、技術及び工業応用の要求を満足することができない。20世紀90年代の末、中国科学院物理研究所が開発した表面変性複合チタン酸ストロンチウム電気粘性流体(CN1190119)は、3kV/mmの電界の作用下のせん断降伏強度が30kPaに達しているに過ぎない。
【0004】
従来の文献と特許の大部分は伝統的な電気粘性流体に関する材料及び技術である。CN1490338は表面尿素被覆チタン酸バリウム電気粘性流体を開示しており、その電気粘性流体を巨電気粘性流体と称している。それは、複合粒子を保護するものが促進剤(promoter)であり、尿素、ブチルアミド、アセトアミドを含むことを開示している。その静態降伏強度は130kPaにも達し、その原理は粒子表面の被覆層の作用に基づくものであり、被覆層飽和極性化原理と称する。このような電気粘性流体の主な限界は、粒子表面に被覆を行う必要があり、得られる電気粘性流体の電流密度が高く、5kV/mmの場合には電流密度が数百μA/cm3にも達し、低電界における降伏強度が低く、例えば2kV/mmの場合の降伏強度が約30−40kPaであり、同時にチタン酸バリウムは120℃前後で相転移が発生するので、その実際応用に影響する。CN1944606はドーピング二酸化チタン電気粘性流体及びその製造方法を開示しており、主にはドーピング二酸化チタン電気粘性流体である。ゾル−ゲル法を採用して二酸化チタンに強極性のアミド類或いはその誘導体分子を添加することにより、マイクロメートル或いはナノメートルサイズのドーピング二酸化チタン粒子を形成してから、メチルシリコーン油と配合している。ドーピングTiO2をメチルシリコーン油と体積分率で配合して30%の電気粘性流体とし、高降伏強度の電気粘性流体を獲得している。CN1752195はチタン酸カルシウム電気粘性流体及びその製造方法を開示しており、主にはチタン酸カルシウム電気粘性流体であり、シュウ酸共沈殿法により製造されたチタン酸カルシウム粒子をジメチルシリコーン油と配合してなるものであり、強電流変効果を有する。チタン酸カルシウム粒子をジメチルシリコーン油と体積分率30%で配合してなる電気粘性流体は、その降伏強度が100kPa以上に達することができる。しかしながら、上記技術で述べられている電気粘性流体の漏れ電流が大きく、製造材料が限られ、広範な応用ができない。
【特許文献1】CN1190119
【特許文献2】CN1944606
【特許文献3】CN1752195
【発明の開示】
【0005】
本発明が解決しようとする技術問題は、従来の電気粘性流体のせん断強度が低くて工程の要求を満たせない欠点を克服し、従来の電気粘性流体の製造と材料選択の限界性を克服できる、せん断強度が高く、抗沈降性がよく、漏れ電流が小さい極性分子型電気粘性流体を提供することである。
【0006】
本発明の極性分子型電気粘性流体は、主に固体粒子分散相と液体分散媒質を混合してなる。
【0007】
(1)分散相固体粒子表面及び/又は液体分散媒質には、極性分子或いは極性基が含まれ、極性分子或いは極性基の双極子モーメントは0.5〜10デバイ(Debye)であり、サイズは0.1〜0.8nmである;
(2)分散相固体粒子は球形又は球類似形であり、粒子サイズは10〜300nmであり、好ましくは20〜100nmであり、誘電常数は50以上である;
(3)液体分散媒質の導電率は10-8S/m以下、誘電常数は10以下である。
【0008】
本発明に記載の極性分子或いは極性基で作用する極性結合は、C=O、O−H、N−H、F−H、C−OH、C−NO2、C−H、C−OCH3、C−NH2、C−COOH、C−Cl、N=Oから選ばれる少なくとも1種である。
【0009】
本発明に記載の分散相固体粒子表面における極性分子或いは極性基は、分散相固体粒子の製造過程において添加又は保留されたり、調製完了粒子表面に添加又は組み付けられたりしてなるものである。極性分子或いは極性基の分散相におけるモル分率は0.01〜50%である。
【0010】
本発明の極性分子型電気粘性流体において、前記液体分散媒質における極性分子或いは極性基のモル分率は0.1〜100%である。
【0011】
本発明の極性分子型電気粘性流体において、固定粒子分散相と液体分散媒質を充分混合し、固体粒子分散相の電気粘性流体における体積分率は5〜50%である。
【0012】
本発明の極性分子型電気粘性流体において、前記極性分子或いは極性基は粒子表面の極性分子或いは極性基であってもよく、粒子表面における極性分子或いは極性基を粒子の製造過程において加入し又は意図的に保留してもよく、製造完了粒子に添加又は組みつけてもよい、即ち、分散相固体粒子自身に含まれる極性分子或いは極性基であってもよく或いは製造完了固体粒子の表面に添加してもよく、または固定粒子の製造過程で極性分子或いは極性基を添加してもよい。いずれの方式で添加された極性分子或いは極性基であっても、電気粘性流体中で作用をなすものは、固体粒子表面に付着又は露出しているその一部の極性分子或いは極性基である。この場合、前記液体分散媒質は、シリコーン油、鉱物油、機械油、炭化水素油などの常規の液体分散媒質、及び前記極性分子或いは極性基を含む極性液体から選ばれる少なくとも1種である。
【0013】
本発明の極性分子型電気粘性流体において、前記極性分子或いは極性基は分散媒質中に含まれる極性分子或いは極性基であってもよい。前記分散媒質は、単一化学組成からなる極性液体であってもよく、又は極性分子或いは極性基を含む混合液体であってもよい。極性分子或いは極性基が分散媒質に含まれている場合、固体粒子分散相は極性分子或いは極性基を含んでいてもよいし、極性分子或いは極性基を含んでいなくてもよい。
【0014】
本発明の極性分子型電気粘性流体において、使用される高誘電常数粒子は、無機物、有機物、又は無機有機複合物であってもよく、前記粒子は、気相合成、液相合成、固相合成法により製造されたものを用いてもよい。
【0015】
本発明の極性分子型電気粘性流体において、その製造過程において、超音波、ボールミルなどの方式を採用して、固体粒子分散相を液体分散媒質と充分混合させる。
【0016】
本発明において、分散相及び/又は分散媒質に極性分子或いは極性基を添加する、或いは極性結合を含む分散相及び/又は分散媒質を使用することにより、電界の作用下、電気粘性流体における粒子が極性化され互いに引き合って近づき、粒子間の局所電界は粒子が接近するにつれて強くなり、外部電界より約千倍も高くなる。この局所分子間の極性分子或いは極性基は高い局所電界の作用下で電界に沿って配向し、これらの配向極性分子は粒子における極性化電荷と強い吸引作用を発生し、電気粘性流体のせん断降伏強度を伝統的な電気粘性流体より大きく向上させる。作用をなす極性分子或いは極性基は、双極子モーメントが大きいほどサイズが小さく、又は数が多いほど降伏強度が高い。電界が切断されると、粒子間の局所電界が消失し、配向極性分子は無規則な吸着状態に戻り、極性化電荷も消失し、電界による電流変効果はそれにつれて消失する。
【0017】
本発明の極性分子型電気粘性流体は優れた電流変特性を有し、極性分子或いは極性基と高誘電常数球形粒子とが、電流変特性の向上に対してキー作用を奏する。降伏強度が高く、降伏強度が電界強度と直線関係を呈し、低電界下で高降伏強度、それは伝統的な電気粘性流体より百倍近く高くなり、200kPa以上に達することができる、降伏強度を有するなどの特徴を有し、動的せん断強度が高く、電界強度が3kV/mmのときに60kPa以上に達することができる。抗沈降性がよく、1ヶ月静置後でも沈降が観察されなかった。漏れ電流は小さく、電界強度が5kV/mmのときに、電流密度は20μA/cm3よりも低い。
【0018】
図面の簡単な説明
図1はC=O及びC−NH2の極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度と電界強度との関係を示す図(左図)、及び電流密度と電界強度との関係を示す図(右図)である。
【0019】
図2は他のC=O及びC−NH2の極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度及び電流密度と電界強度との関係を示す図である。
【0020】
図3はC=O及びC−NH2の極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体における、種々の電界強度下の動的せん断強度とせん断変形速度との関係を示す図である。
【0021】
図4はO−H,C=Oの極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度及び電流密度と電界強度との関係を示す図である。
【0022】
図5はO−H,C=Oの極性基を含むチタン酸カルシウムナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度及び電流密度と電界強度との関係を示す図である。
【0023】
図6は極性基或いは極性分子を含まない通常のTiO2粒子より製造された電気粘性流体のせん断降伏強度と電界強度との関係を示す図である。
【0024】
図7は種々の温度に加熱されたC=O及びC−NH2の極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度特性を示す図である。
【0025】
図8はO−H及びC=Oの極性基を含むチタン酸カルシウムナノパーティクルより、500℃で2時間加熱されて製造された電気粘性流体のせん断降伏強度特性を示す図である。
【0026】
図9は表面尿素被覆のチタン酸バリウム電気粘性流体と本発明の極性分子型電気粘性流体との典型的な結果(実施例2)の比較である:(a)本発明における電気粘性流体の降伏強度と電界強度との関係;(b)表面尿素被覆のチタン酸バリウム電気粘性流体の降伏強度と電界強度との関係;(c)表面尿素被覆のチタン酸バリウム電気粘性流体の電流密度と電界強度との関係。
【0027】
図10は製造された二酸化チタンナノパーティクルの走査型電子顕微鏡写真である。
【0028】
発明を実施するための最良の形態
[実施例1]
アセトアミドを加入することによりC=O及びC−NH2極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルの電気粘性流体を製造した。分散相は二酸化チタンナノパーティクルであり、分散媒質はシリコーン油である。二酸化チタンナノパーティクルは球形であり、サイズは50〜100nmであり、誘電常数は1000である。C=O及びC−NH2極性基の双極子モーメントは2.3〜2.76Debye及び1.2〜1.5Debyeである。製造された二酸化チタンナノパーティクル中の、C=O及びC−NH2極性基のモル分率は20%である。
【0029】
(1)アセトアミドをドーピングすることによるC=O及びC−NH2極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルの製造:
粒子はゾル−ゲル法にて製造した。
【0030】
組成物1:Ti(OC49430mlを無水エタノール210mlに溶解し、塩酸を加入して溶液のpHを1〜3に調整。
【0031】
組成物2:脱イオン水40mlと無水エタノール150mlを均一に混合。
【0032】
組成物3:アセトアミド30gを脱イオン水20mlに溶解。
【0033】
強力攪拌下で組成物2を組成物1に加入した直後に、組成物3を加入し、無色透明なゲルが形成するまで攪拌を継続した。ゲルを室温下で溶液が析出するまで熟成(aging)し、低温真空乾燥して白色粉末を取得した。該粉末を複数回洗浄し、遠心分離し、吸引ろ過した後、箱式炉で50℃下、48時間以上乾燥してから、120℃で3時間乾燥し、C=O及びC−NH2極性基を含む球形二酸化チタンナノパーティクルを取得した。サイズは50〜100nmであり、誘電常数は1000であった。製造された二酸化チタンナノパーティクル中、C=O及びC−NH2極性基のモル分率は20%であった。
【0034】
(2)C=O及びC−NH2極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルを10#シリコーン油と混合し、ボールミルで3時間以上強力攪拌して粒子を充分に分散させ、電気粘性流体を形成した。粒子の総体積に占める体積分率は30%であった。図1に示す通り、そのせん断降伏強度は100kPaに達することができ、電流密度は10μA/cm2よりも低かった。
【0035】
[実施例2]
尿素をドーピングすることによりC=O及びC−NH2極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルの電気粘性流体を製造した。分散相は二酸化チタンナノパーティクルであり、分散媒質はシリコーン油である。図10に示されたものは製造された二酸化チタンナノパーティクルのSEM写真である。粒子は球形であり、平均サイズは50nmであり、誘電常数は約500であった。C=O及びC−NH2極性基の双極子モーメントは2.3〜2.76Debye及び1.2〜1.5Debyeであった。二酸化チタンナノパーティクル中のC=O及びC−NH2極性基のモル分率は15%であった。
【0036】
(1)尿素をドーピングすることによるC=O及びC−NH2極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルの製造:
粒子はゾル−ゲル法にて製造した。
【0037】
組成物1:Ti(OC49430mlを無水エタノール150mlに溶解し、塩酸を加入して溶液のpHを調整。
【0038】
組成物2:脱イオン水40mlを無水エタノール250mlに溶解してから、ジエタノールアミン2mlを加入してテトラブチルチタネートの加水分解縮合反応を調整する。
【0039】
組成物3:尿素30gを水20mlに溶解。
【0040】
強力攪拌下で組成物2を組成物1に加入した直後に、組成物3を加入して、無色透明なゲルが形成するまで攪拌を継続する。ゲルを室温下7日間熟成した後、真空下で低温乾燥して白色粉末を取得した。該粉末を脱イオン水と無水エタノールで複数回洗浄し、遠心分離し、吸引ろ過した後、50℃下48時間乾燥してから、120℃で3時間乾燥し、C=O及びC−NH2極性基を含む球形二酸化チタンナノパーティクルを取得した。平均サイズは50nmであり、誘電常数は約500であった。C=O及びC−NH2極性基の双極子モーメントは2.3〜2.76Debye及び1.2〜1.5Debyeであった。粒子中のC=O及びC−NH2極性基のモル分率は15%であった。
【0041】
(2)二酸化チタンナノパーティクルを10#シリコーン油と混合し、ボールミルを用いて3時間以上強力攪拌して、粒子を充分に分散させ均一な電気粘性流体を形成した。その体積分率は30%であり、せん断降伏強度は200kPa以上に達することができる。図2に示す通り、電界強度が5kV/mmのとき電流密度は20μA/cm2よりも低く、電界強度が2kV/mmのとき降伏強度は100kPaに達することができる。図3に示す通り、3kV/mmである場合、動的せん断強度は60kPa以上に達することができる。
【0042】
[実施例3]
O−H及びC=O極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルにより電気粘性流体を製造した。分散相は二酸化チタンであり、分散媒質はシリコーン油であり、極性基は二酸化チタンナノパーティクルの製造過程中保留された。二酸化チタンナノパーティクルは球形であり、平均サイズは50nmであり、誘電常数は約500であった。O−H及びC=O極性基の双極子モーメントは2.3〜2.76Debye及び1.51Debyeであった。粒子中の極性基O−H及びC=Oのモル分率は5%であった。
【0043】
(1)ゾル−ゲル法による粒子の製造:
テトラブチルチタネートを原料とし、水を反応剤とし、無水エタノールを溶剤とした。強力攪拌の条件下、水のエタノール溶液をテトラブチルチタネートの無水エタノール溶液に滴下し、滴下完了後、ゲルが生成するまで攪拌を継続した。ゲルを数日間熟成させ、真空乾燥して白色粉末を取得した。該粉末を複数回洗浄、吸引ろ過した後、50℃のオーブン中に置き、72時間以上乾燥してから、120℃で2時間ベーキングを行い、必要なTiO2のナノパーティクルを取得した。粒子は球形であり、平均サイズは50nmであった。洗浄時間及び回数にて粒子中の極性基O−H及びC=Oの保留量を制御した。粒子中の極性基O−H及びC=Oのモル分率は5%であり、双極子モーメントはそれぞれ1.51Debye及び2.3〜2.76Debyeであった。
【0044】
(2)該TiO2ナノパーティクルを粘度が200mm2/sであるジメチルシリコーン油と混合し、ボールミルで3時間以上強力攪拌して、粒子を充分に分散させて電気粘性流体を形成した。図4に示す通り、粒子の体積分率は30%であり、得られた電気粘性流体のせん断降伏強度は150kPa以上に達することができる。電界強度が2kV/mmであるとき降伏強度は100kPa近くに達することができ、電界強度が5kV/mmであるとき電流密度は20μA/cm2よりも低い。
【0045】
[実施例4]
極性基を含むチタン酸カルシウムナノパーティクルより電気粘性流体を製造した。分散相はチタン酸カルシウムナノパーティクルであり、分散媒質はシリコーン油である。O−H及びC=O極性基はチタン酸カルシウムナノパーティクルの製造過程中保留された。チタン酸カルシウムナノパーティクルは球形であり、平均サイズは50nmであり、誘電常数は約300であった。O−H及びC=O極性基の双極子モーメントはそれぞれ1.51Debye及び2.3〜2.76Debyeであった。粒子中の極性基O−H及びC=Oのモル分率は25%であった。
【0046】
(1)共沈殿法によるチタン酸カルシウムナノパーティクルの製造:
組成物1:四塩化チタン30mlを無水エタノールとモル比1:25で均一に混合。
【0047】
組成物2:無水塩化カルシウムを2mol/lで脱イオン水に溶解し水溶液を調製。
【0048】
60℃水浴中攪拌下、組成物1と組成物2とを充分混合し、塩酸で溶液のpH値を4に調節して混合溶液1+2を取得した。
【0049】
組成物3:シュウ酸を脱イオン水に溶解し、2mol/lの溶液を調製した。
【0050】
組成物3を混合溶液1+2に滴入した。三種類の溶液の混合体積比は2:1:2である。生成した沈殿を60℃下12時間熟成し、脱イオン水で洗浄、ろ過し、120時間以上乾燥してから120℃で3時間乾燥して、50−100nmのチタン酸カルシウム球形粒子を取得した。洗浄時間及び回数にて粒子中の極性基O−H及びC=Oの保留量を制御した。O−H及びC=Oの極性基は赤外スペクトル分析(赤外スペクトル装置の型番:Digilab FTS3000)により検証した。粒子中の極性基O−H及びC=Oのモル分率は約25%であった。O−H及びC=O極性基の双極子モーメントはそれぞれ1.51Debye及び2.3〜2.7Debyeであった。
【0051】
(2)該チタン酸カルシウム粒子を50#メチルシリコーン油と混合し、ボールミルで3時間以上強力攪拌し、粒子を充分に分散させて電気粘性流体を形成した。粒子の体積分率は30%である。図5に示す通り、電界強度が5kV/mmであるとき降伏強度は200kPa以上に達することができ、電流密度は1μA/cm2よりも低く、電界強度が2kV/mmであるとき降伏強度が90kPa以上に達することができる。
【0052】
[実施例5]
極性基を含むチタン酸リチウムランタンのナノパーティクルより電気粘性流体を製造した。分散相はチタン酸リチウムランタンのナノパーティクルであり、分散媒質はシリコン油である。O−H及びC=O極性基はチタン酸リチウムランタンのナノパーティクルの製造過程中保留された。粒子は球形であり、平均サイズは50nmであり、誘電常数は約400であった。粒子中の極性基O−H及びC=Oのモル分率は15%であり、O−H及びC=O極性基の双極子モーメントはそれぞれ1.51Debye及び2.3〜2.7Debyeであった。
【0053】
(1)共沈殿法によりチタン酸リチウムランタン粒子を製造したステップは以下の通りである:
LiCl・H2O、LaCl3・7H2O、Ti(OC494を原料とし、シュウ酸(C224・2H2O)を共沈殿剤とした。沈殿産物はLi3xLa2/3-xTi(C242であり、沈殿を脱イオン水とアルコールで複数回洗浄し、吸引ろ過してから50℃下48時間以上ベーキングを行い、120℃で3時間加熱して、白色のLixLa2/3-xTi(C242粒子を取得した。粒子は球形であり、平均サイズは50nmであった。粒子中にO−H及びC=O極性基を含み、モル分率は15%であった。
【0054】
(2)合成したチタン酸リチウムランタン粒子を粘度が200mm2/sであるジメチルシリコーン油と体積分率30%で混合し、ボールミルで3時間以上強力攪拌し、粒子を充分に分散させて、電気粘性流体を取得した。電気粘性流体の降伏強度は90kPa以上に達することができ、電流密度は20μA/cm2よりも低かった。
【0055】
[実施例6]
ホルムアミドが付着したチタン酸ストロンチウムナノパーティクルの電気粘性流体を製造した。市販のチタン酸ストロンチウムナノパーティクルを使用した。その誘電常数は300であった。2:100のモル比で、ホルムアミド液をチタン酸ストロンチウムナノパーティクルと均一に混合した。ホルムアミドの極性分子の双極子モーメントは3.73Debyeであった。50℃で2時間ベーキングを行い、ホルムアミドをチタン酸ストロンチウムナノパーティクルに付着させた。粒子を200mm2/sのジメチルシリコーン油と体積分率30%で均一に混合して電気粘性流体を取得した。その降伏強度は20kPaに達することができ、ホルムアミドの極性分子を添加しない普通電気粘性流体の降伏強度(1kPaよりも低い)よりきわめて高くなっている。しかしながら、購入したチタン酸ストロンチウムナノパーティクルは球形ではなく方形であったため、降伏強度はそれほど高くはなり得ていない。
【0056】
[実施例7]
分散媒質中に極性分子或いは極性基を含む電気粘性流体を製造した。酢酸エチルを粘度が200mm2/sであるジメチルシリコーン油とモル比3:10で均一に混合して、極性分子を含む均一液体を調製し、これを分散媒質とした。酢酸エチルの極性分子の双極子モーメントは1.78Debyeであった。市販の、サイズが100−200nmであり、誘電常数が300であるチタン酸ストロンチウム粒子を分散相とし、体積分率30%で均一に混合した。得られた電気粘性流体の降伏強度は30kPaに達することができた。純シリコーン油とチタン酸ストロンチウム粒子とで調製した普通電気粘性流体の降伏強度(1kPaよりも低い)よりきわめて高くなっていた。しかしながら、購入したチタン酸ストロンチウムナノパーティクルは球形ではなく、方形であったため、降伏強度はそれほど高くなり得ていない。
【0057】
酢酸エチルを粘度が200mm2/sであるジメチルシリコーン油とモル比0.5:10、1:10、2:10で混合すると、類似の効果を取得することができた。
【0058】
[比較例1]
上記の実施例6、7で使用したサイズが100〜200nmであるチタン酸バリウム又はチタン酸ストロンチウム粒子を、粘度が200mm2/sであるジメチルシリコーン油と均一に混合した。チタン酸バリウム又はチタン酸ストロンチウムの体積分率が30%であり、得られた電気粘性流体のせん断降伏強度はいずれも1kPaより低かった。
【0059】
[比較例2]
サイズが200nmである通常のTiO2粒子を、粘度が200mm2/sであるジメチルシリコーン油と均一に混合した。粒子の体積分率は30%である。図6に示す通り、得られた極性分子或いは極性基を含まない電気粘性流体は、せん断降伏強度が数十パスカルしかない。これは典型的な普通電気粘性流体である。
【0060】
[比較例3]
実施例2におけて尿素をドーピングすることにより製造されたC=O及びC−NH2極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルと、実施例4におけるO−H及びC=O極性基を含むチタン酸カルシウムナノパーティクルとを、500〜800℃で2時間加熱した。赤外スペクトル分析によると、極性分子及び極性基は既に揮発していた。これら高温処理された粒子を、粘度が200mm2/sであるジメチルシリコーン油と均一に混合した。粒子の体積分率は30%であり、得られた電気粘性流体はせん断降伏強度の特性を失っていた。
【0061】
図7に示す通り、C=O及びC−NH2極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルを800℃で2時間加熱すると、得られた電気粘性流体はせん断降伏強度の特性を完全に失っていた。
【0062】
図8に示す通り、O−H及びC=O極性基を含むチタン酸カルシウムナノパーティクルを500℃で2時間加熱すると、得られた電気粘性流体はせん断降伏強度の特性を完全に失っていた。
【0063】
極性基或いは極性分子を含む粒子を高温で加熱し、極性基或いは極性分子を揮発させると、極性基或いは極性分子を失った粒子で製造した電気粘性流体のせん断降伏強度が極めて低いことは、極性基或いは極性分子を含む電気粘性流体のせん断降伏強度が高いことを充分説明できている。
【0064】
[比較例4]
CN1490388に記載の方法と同様な方法で、表面尿素被覆チタン酸バリウム電気粘性流体を製造した。それを実施例2に記載の電気粘性流体と比較した。結果は図9に示す通りである。表面尿素被覆チタン酸バリウム電気粘性流体は2kV/mmにおける降伏強度が約30kPaであり、実施例2に記載の電気粘性流体の2kV/mmにおける降伏強度は約100kPaである。且つ、実施例2の電気粘性流体の降伏強度は電界と直線関係を呈している。表面尿素被覆チタン酸バリウム電気粘性流体の5kV/mmにおける漏れ電流密度は300μA/cm2である。図5に示す通り、実施例2の電気粘性流体の5kV/mmにおける電流密度は20μA/cm2以下であり、一部は1μA/cm2よりも低くなっている。表面尿素被覆チタン酸バリウム電気粘性流体の漏れ電流密度より、10倍から100以上も低くなっている。本発明の極性分子型電気粘性流体は降伏強度が高く、動的せん断強度が高く、漏れ電流が小さく、降伏強度と電界強度とが直線関係を呈し、低電界下で高降伏強度を有するなどの特徴を有することを充分説明できている。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】C=O及びC−NH2の極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度と電界強度との関係を示す図(左図)、及び電流密度と電界強度との関係を示す図(右図)である。
【図2】他のC=O及びC−NH2の極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度及び電流密度と電界強度との関係を示す図である。
【図3】C=O及びC−NH2の極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体における、種々の電界強度下の動的せん断強度とせん断変形速度との関係を示す図である。
【図4】O−H,C=Oの極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度及び電流密度と電界強度との関係を示す図である。
【図5】O−H,C=Oの極性基を含むチタン酸カルシウムナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度及び電流密度と電界強度との関係を示す図である。
【図6】極性基或いは極性分子を含まない通常のTiO2粒子より製造された電気粘性流体のせん断降伏強度と電界強度との関係を示す図である。
【図7】種々の温度に加熱されたC=O及びC−NH2の極性基を含む二酸化チタンナノパーティクルより製造された電気粘性流体のせん断降伏強度特性を示す図である。
【図8】O−H及びC=Oの極性基を含むチタン酸カルシウムナノパーティクルより、500℃で2時間加熱されて製造された電気粘性流体のせん断降伏強度特性を示す図である。
【図9】表面尿素被覆のチタン酸バリウム電気粘性流体と本発明の極性分子型電気粘性流体との典型的な結果(実施例2)の比較である:(a)本発明における電気粘性流体の降伏強度と電界強度との関係;(b)表面尿素被覆のチタン酸バリウム電気粘性流体の降伏強度と電界強度との関係;(c)表面尿素被覆のチタン酸バリウム電気粘性流体の電流密度と電界強度との関係。
【図10】製造された二酸化チタンナノパーティクルの走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主に固体粒子分散相と液体分散媒質を混合してなる極性分子型電気粘性流体において、
(1)分散相固体粒子表面及び/又は液体分散媒質中に極性分子或いは極性基を含み、極性分子或いは極性基の双極子モーメントが0.5〜10Debyeであり、サイズが0.1〜0.8nmである;
(2)分散相固体粒子が球形又は球類似形であり、粒子サイズが10〜300nmであり、誘電常数が50以上である;
(3)液体分散媒質の導電率が10-8S/m以下、誘電常数が10以下である;
ことを特徴とする極性分子型電気粘性流体。
【請求項2】
前記分散相固体粒子のサイズが、20〜100nmであることを特徴とする請求項1に記載の極性分子型電気粘性流体。
【請求項3】
前記極性分子或いは極性基中で作用をなす極性結合が、C=O、O−H、N−H、F−H、C−OH、C−NO2、C−H、C−OCH3、C−NH2、C−COOH、C−Cl、N=Oから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の極性分子型電気粘性流体。
【請求項4】
前記分散相固体粒子表面の極性分子或いは極性基が、分散相固体粒子の製造過程において添加又は保留されたものであり、或いは製造完了した粒子表面に添加又は組み付けられたものであることを特徴とする請求項1に記載の極性分子型電気粘性流体。
【請求項5】
前記極性分子或いは極性基の分散相中のモル分率が、0.01〜50%であることを特徴とする請求項4に記載の極性分子型電気粘性流体。
【請求項6】
前記液体分散媒質中の極性分子或いは極性基のモル分率が、0.1〜100%であることを特徴とする請求項1に記載の極性分子型電気粘性流体。
【請求項7】
固体粒子分散相が液体分散媒質と充分に混合され、固体粒子分散相の電気粘性流体中の体積分率が5〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の極性分子型電気粘性流体。
【請求項8】
前記分散相固定粒子が、二酸化チタン粒子、チタン酸カルシウム粒子、チタン酸リチウムランタン粒子、或いはチタン酸ストロンチウム粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の極性分子型電気粘性流体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−540067(P2009−540067A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514621(P2009−514621)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【国際出願番号】PCT/CN2007/001890
【国際公開番号】WO2007/147347
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(508365425)中國科學院物理研究所 (2)
【Fターム(参考)】