説明

極短繊維の製造方法

【課題】 切断長が1.0mm未満、特に0.1mm未満の繊維長を有する極短繊維を得るに際して、ミスカットを極力抑制しながら安定に極短繊維を得る製造できる方法とそのための装置を提供する。
【解決手段】 多数の単繊維群を互いに繊維長手方向に並行となるように引き揃えて束ねた繊維束を収縮チューブに挿入し収縮させ、筒状体に収縮チューブに挿入して収縮された繊維束を挿入し、加熱によって気化又は液化する埋包材を気体状又は液体状にして前記筒状体に注入して埋包材を固化して被切削材とし、前記埋包材が気化又は液化しない温度で前記被切削材の切削端面を薄片状に切削し、0.005〜1.0mmの切断繊維長を有する短繊維を得ることを特徴とする極短繊維の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維から数mm以下(特に、1mm以下)の極短繊維長を有する極短繊維を得るための繊維束を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性合成ポリマーからなる長繊維群からなる糸条群を束ねて繊維束とし、この繊維束を切断して数mmから数十mmの長さの短繊維を得ることが行われている。ために、各種の繊維束切断装置が慣用されている。例えば、このような切断装置として、繊維束を切断刃が放射状に多数設けられたカッターローラに巻付け、切断刃上に撒き付けられた繊維を切断刃に押圧しながら連続的に所定の長さに切断するローラカッター式繊維束切断装置が使用されている。また、固定刃と移動刃とを剪断刃として設け、これら剪断刃に対して所定の切断長だけ繊維束を押し出して切断するいわゆるギロチンカッター式繊維束切断装置も古くから知られている。
【0003】
このような従来の繊維束切断装置が用いられている環境下で、最近、一部化粧品に混入させるための極めて短い合成繊維、柔らかい風合いのフロック加工品に使用する極細繊維、あるいは短く刻んだ弾性繊維などの需要が増えてくると、0.1mmから数mmの切断繊維長が要求されるようになってきた。ところが、例えば、前者のローラカッター式繊維束切断装置の場合では、回転するカッターローラ上に放射状に設ける切断刃群の隣接する切断刃の間隔を極めて小さくすることが要求されるために、切断刃間に切断された繊維が詰まって、その排出が困難となるばかりか、切断刃自体の厚みの問題もあって、切断繊維長を短くするのに限界がある。
【0004】
これに対して、後者のギロチンカッター式繊維束切断装置の場合においては、0.5mm程度の切断繊維長であっても対応が可能である。しかしながら、従来タイプの繊維束切断装置を用いて単繊維繊度の小さな繊維を切断しようとすると、繊維自体が有する弾性のために繊維が湾曲したり、座屈したりして固定刃に直角に当接しなくなったり、固定刃と移動刃とのクリアランスの調整が極めて困難となったりして、斜め切りや切断長さの不揃いなどのミスカットが多量に発生する。そうすると、ミスカットされた多量の切断繊維の中から正常に切断されたもののみを選別し取り出すことが要求される。しかしながら、その作業は極めて繁雑であるばかりか、許容切断長に収まらないミスカットされた繊維が多くなると、正常に切断された繊維の収率そのものも悪くなる。
【0005】
そこで、ギロチンカッター式繊維束切断装置が有する前記問題を解決するための装置が、例えば特開2003−119662号公報に提案されている。この従来技術では、供給する繊維束を切断するための切断部より前に繊維束をシート状物によって包む役割を果たさせるためのガイドを取り付け、連続シート状物を繊維束に併走させてガイドローラを介してシート状物を繊維束を包むように重ねて繊維束と一緒に切断するようにしている。そして、このようにすることによって、シート状物で包まれた繊維束は、シート状物の作用によって繊維が引き揃えられた状態のまま直線状で均斉に切断部に送られ、ミスカットされることなく所要の長さに切断されるというものである。
【0006】
しかしながら、このようなギロチンカッター式繊維束切断装置を使用しても、繊維束の拘束が十分ではなく、安定に切断可能な繊維長は1〜30mmであって、1mm未満の切断繊維を安定に得ることは極めて困難である。しかも、このような短繊維を得るために繊維束を被覆するのに使用するシート状物としては、紙やポリオレフィン、ポリエステル、セロハンなどの有機高分子フィルム、布帛、不織布を使用しなければならない。
【0007】
シート状物につつまれた繊維間にすき間が存在するため、切断時に繊維が逃げてしまうため、実質的に1mmの切断繊維長を安定且つ歩留まり良く得るのは困難である。
【特許文献1】特開2003−119662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上に述べた従来技術が有する諸問題を解決し、ミスカットを極力抑制して実質的に1mmの切断繊維長を有する極短繊維を安定且つ歩留まり良く製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに、前記課題を解決するための本発明として、請求項1に記載の「多数の単繊維群を互いに繊維長手方向に並行となるように引き揃えて束ねた繊維束を収縮チューブに挿入し収縮させ、該収縮チューブに挿入して収縮された繊維束を筒状体に挿入し、加熱によって気化又は液化する埋包材を気体状又は液体状にして前記筒状体に注入して埋包材を固化して被切削材とし、前記埋包材が気化又は液化しない温度で前記被切削材の切削端面を薄片状に切削し、0.005〜1.0mmの切断繊維長を有する短繊維を得ることを特徴とする極短繊維の製造方法」が提供される。
【0010】
このとき、前記極短繊維の製造方法として請求項2に記載のように、前記収縮チューブが熱収縮チューブ又は弾性チューブである請求項1に記載の極短繊維の方法」とすることが好ましい。
【0011】
また、請求項3に記載の発明ように、請求項2に記載の熱収縮チューブが高分子樹脂の成形品であって、該成形品を電子線照射架橋、化学架橋または水架橋架橋した後拡径したチューブであることが好ましい。
【0012】
また、請求項4に記載の発明ように、前記埋包材が、冷却時にドライアイス又は氷となる材である請求項1に記載の極短繊維の製造方法とすることが好ましい。
【0013】
また、請求項5に記載の発明ように、前記繊維束がポリエステル又はポリアミドなどからなる熱可塑性合成繊維からなる請求項1に記載の極短繊維の製造方法とすることが好ましい。
【0014】
そして、請求項6に記載の発明のように、前記繊維束の一本の総繊度が1万〜1000万dtexである請求項項1に記載の極短繊維の製造方法とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の極短繊維の製造方法によれば、引き揃えた繊維束を収縮チューブに挿入した状態で、収縮チューブを収縮させることができるため、繊維束を構成する単繊維群を引き揃え状態が極めて良好な状態で簡単且つ短時間に拘束できる。このため、繊維束の引き揃え状態を極めて良好に維持たままの状態で単繊維群を拘束することができる。
【0016】
しかも、このようにして収縮チューブで拘束した繊維束を収縮チューブによって拘束したままの状態で、筒状体に収容し、収縮チューブと筒状体との間に加熱して気体又は液体となった埋包材を注入し、そのまま冷却することによって埋包材を固化させる。そうすれば、埋包材によって収縮チューブごと固化された被切削材の剛性を極めて高くすることができる。したがって、このようにして周囲を固化された埋包材によって囲繞されて剛性を高められた被切削材は、その端面を切削することによって、極めて容易に0.005〜1.0mmの切断長を有する極短繊維とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明が製造しようとする極短繊維は、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどのポリマーからなる合成繊維、あるいは2種以上のポリマーを組み合わせた複合合成繊維からも得ることができるが、特にこれらに限定されるわけではない。つまり、絹糸、綿糸、麻糸などの天然繊維、あるいはセルロース繊維、アセテート繊維などのような半合成繊維からも得ることができる。
【0018】
一般に、その単繊維(“フィラメント”ともいう)の繊度が0.001〜10dtexと非常に小さな単繊維群を互いに繊維長手方向に並行となるように引き揃えて束ねた繊維束を短く切断し、繊維長が1mmから数十mmにカットされた短繊維が製造される。しかしながら、このような単繊維群からなる繊維束では、その単繊維を取り出すと一本々々の単繊維は非常に細くて柔軟であって、切断力が作用する方向に容易に弾性変形して逃げてしまうために、1.0mm未満、特に、0.1mm未満の繊維長を有する極短繊維を製造するのは容易ではない。
【0019】
そこで、本発明においては、先ず収縮チューブを使用して、その繊度が0.001〜10dtexである単繊維群を互いに繊維長手方向に並行となるように引き揃えて束ねて、その総繊度を1万〜1000万dtexとした繊維束を作製する。そして、このようにして作製した繊維束を収縮チューブ内に引き揃えたままの状態で挿入して、収縮チューブを収縮させる。そうすると、この収縮チューブの収縮力によって繊維束を構成する単繊維群は互いに強く拘束される。
【0020】
このとき、図1に示すように、収縮チューブとして熱収縮チューブ1を使用する場合は、熱収縮チューブ1の内径を引き揃えた繊維束2の外径より大きくしておくことはもちろん、場合によっては、チャック3の外径よりも大きくしておくことが好ましい。何故ならば、このようにすれば、繊維束2を良好に引き揃えた状態で繊維束2の両端を把持するチャック3を繊維束2から一旦取外すことなく、プリテンションを掛けたままの状態で熱収縮チューブ1中に繊維束2を挿通することができるからである。なお、図2において、図(A)は、前述のようにして、繊維束2を収縮チューブ1内に挿通した時の繊維の長手方向に対して直角の破断面を有する断面図であって、図(B)は収縮チューブ1によって繊維束2を引き締めた時の同様の断面図をそれぞれ表す。
【0021】
ただし、熱収縮チューブ1を収縮させるに当っては、熱収縮チューブ1の一端から多端へと熱風供給ノズル4などによって順次加熱して収縮させていくことが、引き揃え状態の良い繊維束2が得られるので好ましい。その際、引き揃えた繊維束に加熱して液体状にした埋包材を含浸しておいても良い。このように、繊維束に予め液体状にした埋包材を含浸しておけば、収縮チューブの収縮力によって、引き揃えられた繊維束が引き締められたときに余分の埋包材は搾り出されるが、それでも単繊維群間に埋包材が残留する。このため、後述する冷却工程で液体状の埋包材が固化されたときに、単繊維群をより強く拘束することができる。
【0022】
次いで、このようにして収縮チューブ1によって単繊維群が強く拘束された繊維束2を筒状体7に収納し、この筒状体7と収縮チューブ1とで形成される間隙へ加熱によって気体又は液体となった埋包材5を注入した後、冷却して埋包材を固化させる。このようにして、繊維束を拘束する収縮チューブの外周部を囲繞する一定の厚みを有する固化した埋包材5の層を形成する。そうすると、繊維束2を構成する単繊維群は収縮チューブ1によって拘束されて運動の自由度が拘束され、さらにその周囲を取り巻く固化した埋包材5によって繊維束2自体の剛性も極めて高くされた被切削材6を得ることができる。なお、前記筒状体7は、埋包材5を冷却して固化した状態のままで容易に取り出すことができるように、半割り構造としておいても良い。
【0023】
以上に述べたようにして作製された被切削材6、切削刃をこの被切削材6に作用させても繊維束2自体が変形することが無く、しかも、収縮チューブ1(場合によっては、単繊維群間に介在する固化した埋包材も含む)によって単繊維群も強く拘束されているから、運動の自由度が奪われて容易に動くことができない状態を現出させることができる。その結果、切削刃によって強い剪断力を被切削材6に付与しても、この被切削材6は柳に風といった風には切削刃から逃げることができず、切削刃の強い剪断力を正面から受けることとなって薄片状に削り取られる。そして、最終的に、切断長が1mm未満、特に0.1mm未満の極短繊維を得ることができるのである。
【0024】
ここで、本発明に使用する前記収縮チューブ1としては、熱収縮チューブが取り扱い易く適しているが、ゴム状弾性を利用したシリコーンゴムなどのゴム材からなる弾性チューブを使用することもできる。このとき、熱収縮するチューブの材質としては、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、エチレン系共重合体樹脂、塩化ビニル樹脂などの高分子材料を例示することができ、このような高分子材料が加熱により一定温度以上になると変形する性質を利用している。すなわち、高分子樹脂からなるチューブを加熱した状態で拡大しておき、このチューブを再び加熱して元の形状に回復(収縮)させて使用する。
【0025】
ただし、このとき採用した熱収縮チューブは、チューブ内部に挿入する繊維束の軟化温度あるいは溶融温度よりも低い温度で収縮することが肝要である。何故ならば、熱収縮チューブが収縮を開始する温度よりも、繊維束の軟化温度あるいは溶融温度が低ければ、繊維束を構成する単繊維群が溶融したり、熱融着したりするため好ましくないからである。したがって、熱収縮チューブを収縮させるために加熱する温度は、繊維束を構成する単繊維群が変形したり、熱融着したりしない温度に設定する必要があることは言うまでもない。
【0026】
このように、本発明で使用する熱収縮チューブは、再加熱すると原チューブの形状に戻ることが重要であって、このために、一般には、収縮回復性能を高めるために原チューブの形状下で高分子を架橋し、その後原チューブを拡径することが行われる。何故ならば、架橋していない場合には、再加熱しても原チューブの形状までは戻りにくいからである。これは、拡径時の加熱で原チューブの形状が失われることを示している。
【0027】
これに対し、架橋結合は加熱によって失われることがないので、架橋した熱収縮チューブでは、再加熱により原チューブの形状に容易に戻る。このように、架橋は、再加熱時の収縮回復性を確実にするものであり、熱収縮チューブを製造する上で非常に重要である。なお、架橋は、電子線照射架橋、化学架橋および水架橋などを例示することができるが、通常は、電子線照射により行われることが多い。
【0028】
このように熱収縮チューブを製造する工程は、チューブ成形−架橋−拡管の工程からなり、このような一連の工程によって拡径された後のチューブがいわゆる熱収縮チューブである。このとき、拡径は、高分子の結晶融点あるいはガラス転移温度以上に加熱しながら、機械的にチューブの径を拡げることによって行う。そして、機械的な拡径状態のままで上記温度以下まで冷却する。こうすることで元のチューブ径に戻すことなく拡管状態の径を維持させることができ、熱収縮チューブは、この状態で提供される。
【0029】
以上に述べたように、本発明は繊維束を収縮チューブで収縮し、その後埋包処理することを一大特徴とするが、このような埋包材としては、冷却するとドライアイスや氷に戻る炭酸ガスや水を好適に使用することができる。更には、パラフィンや埋包処理する繊維よりも大幅に低い分子量を有する熱可塑性樹脂を使用することもできる。なお、このような低分子量の熱可塑性樹脂としては、その溶融温度と溶融粘度とが低く、製造する極短繊維と容易に分離できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば低重合ポリエステル、低重合ポリスチレン、低重合ポリエチレンなど、周知の低分子量の熱可塑性樹脂を適宜使用条件に合わせて使用することができる。
【0030】
本発明においては、極短繊維の製造時において、極短繊維と収縮チューブとを切削後に容易かつ完全に分離できることも大きな特徴である。これらを分離するための手段としては、金網などを用いたふるいによる分離でも、極短繊維の比重と収縮チューブの比重との間に差がある収縮チューブを選定し、その比重差によって遠心分離するようにしてもよい。
【0031】
また、極短繊維と埋包材とを切削後に容易かつ完全に分離できることも大きな特徴である。したがって、これらを容易かつ完全に分離するために、埋包材として、ドライアイスあるいは氷を使用することが好ましい。何故ならば、ドライアイスを埋包材として使用する場合には、ドライアイスが気化して炭酸ガスとなってしまわない条件下で切削することに留意すれば、通常の作業温度(例えば、20゜Cに維持された室温)下におくことで、極短繊維から容易かつ簡単に埋包材を分離することができる。また、氷を埋包材として使用する場合には、これを0゜Cよりも高い温度に加熱して水に戻し、その後、乾燥工程を通過させれば、容易かつ簡単に極短繊維と埋包材とを分離することができる。なお、埋包材として氷を使用する場合は、簡単な装置を使用して繊維束を容易に氷結できるため、特に好ましい。
【0032】
更に、埋包材としてドライアイスあるいは氷以外の材料、例えばパラフィンや熱可塑性樹脂を使用する場合については、例えば、加熱によって埋包材を溶融状態にした後、同温度以上に加熱した有機溶媒などによって溶融した埋包材を溶解させて除去し、その後、乾燥工程を通すことによって有機溶媒を極短繊維から分離除去する方法などを採用することができる。このように、本発明の製造方法によれば、従来技術のように、製造する極短繊維中に他の材料が混入するのを極めて良好に防止できる。
【0033】
以下、本発明の極短繊維を製造するための方法に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、これらの実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって、本発明の主旨に合致する実施例までも限定するものではない。
【0034】
まず、単繊維の繊度が0.001〜10dtexと非常に小さな単繊維群を互いに繊維長手方向に並行となるように引き揃えて束ねた繊維束50万〜1000万dtexをトラバース機構を有したかせ巻き装置で巻き取る。繊維束作成の方法は、かせ巻き以外でもよく限定するものではない。図2(A)は、収縮前の収縮チューブ1に繊維束2を挿入した時の断面図で、収縮前のチューブ1の径は、繊維束2の径より大きい方が挿入が容易である。挿入し易さと収縮後の短繊維の緻密度を考慮すると、収縮後の原チューブ径に対して収縮前のチューブ径で除した値である収縮率が0.8以下のものが望ましい。
【0035】
収縮前の収縮チューブ1を収縮させる時には、繊維束2は長手方向に引き揃えて単繊維群を並行とする必要があるため、繊維束2の両端をチャック3によって把持した状態で一定の張力を掛けて引張り、プリテンションを付与しながら収縮前のチューブ1を挿入し、熱風供給ノズル4から熱風を供給し収縮チューブを収縮することにより、図2(B)に示す単繊維群がほぼ最密充填された収縮チューブ内に集束した繊維束2を得る。
【0036】
更に、図3に示すように収縮チューブ1内に集束した繊維束2を筒状体7に挿入し、埋包材5を充填したあと固化させて、埋包剤5で埋包された収縮チューブ1が被覆された繊維束2を得て、これを被切削材6とする。そして、ここで得られた被切削材6を薄片状に切削して1mm未満、特に0.1mm未満の極短繊維を得る。
【0037】
図4は、本発明の極短繊維の製造装置を模式的に例示した概略装置構成図であって、7は前記被切削材、8は保持手段、9は刃物台、10は切削刃、11は接圧付与手段、12は回転駆動手段、13は極短繊維の回収手段、そして、14は架台をそれぞれ示す。なお、参照符号Aは、被切削材6の端面を所定の接圧で押し当てる刃物台9の当接平面を示し、この当接平面Aは切削基準面となるため、十分な平滑性と平面度をもって形成されていることが必要である。ただし、図5には保持手段8が具備する保温手段及び/又は冷却手段については図示省略したが、これらについては後述する。さらに、極短繊維の回収手段は、切削された極短繊維を回収するものであって、例えば回収袋あるいは円筒容器のようなものであって、回転する刃物台9の外周を囲繞するように設けられている。
【0038】
ここで、前記接圧付与手段11は刃物台9の当接平面Aに被切削材6を所定の力で押し当てる役割を果たし、図示したように、接圧発生装置11a、連結棒部材11b、被切削材6への接圧伝達部材11c、及び固定部材11dを含んで構成され、前記固定部材11dを介して架台14(14c)に位置決め固定される。なお、このような前記接圧付与手段11としては、図示したような圧縮空気の圧力あるいは油圧などの流体圧で作動する流体圧作動シリンダーを例示することができる。しかしながら、本発明はこのような実施形態に限定する必要は無く、被切削材6の刃物台9の当接平面Aへ所定の接圧で押し付けが可能な装置であれば、これを好適に使用することができる。例えば、周知の連続又は間欠送りが可能な搬送装置として、一対のベルトあるいはロールで被切削材6を把持して搬送する装置などを使用することができる。
【0039】
また、前記回転駆動手段12は、動力供給源となる油圧モータあるいは電動機のような駆動装置12a、駆動側の動力伝達部材12b、動力伝播部材12c、従動側の動力伝達部材12d、回転駆動軸12e、軸受12f、及び軸受12fの固定部材12gを含んで構成、駆動装置12aと固定部材12gとは架台14bにそれぞれ位置決め固定されている。なお、前記回転駆動軸12eの一端には従動側の動力伝達部材12d、その他端には刃物台9がそれぞれ固設されており、更にその中間部において軸受12fによって回転自在に軸支されている。したがって、駆動装置12aからの動力が回転力として駆動側の動力伝達部材12b、動力伝播部材12c、及び従動側の動力伝達部材12dを介して回転駆動軸12eに伝達されると、この回転駆動軸12eの他端に固設された刃物台9が回転駆動されるようになっている。
【0040】
このとき、被切削材6を切削して極短繊維を得るための切削刃10(図5では切削刃10aと10bが明示されている)が、刃物台9にその回転中心から半径方向に向かって放射状に少なくとも1枚設けられているため、切削刃10が刃物台9と共に回転駆動されると、刃物台9に当接する被切削材6がこの切削刃10によって切削されることとなる。なお、刃物台9の回転数は、被切削材6の性状に合わせて変更自在とすることが好ましく、例えば、毎分0.05〜1,500回転に調整自在とする。なお、このような回転数の変更は、例えば、周知のように駆動装置12aを誘導電動機あるいは同期電動機などの交流モータとして、インバータにより周波数制御したり、駆動装置12aをパルスモータとして供給するパルスを制御したり、駆動装置12aを直流モータとして直流をチョッピングするドライバーを設けたりすることによって行うことができる。
【0041】
以上に詳細に述べた実施形態は、切削刃9を回転させ被切削材6をこの切削刃に当接させて極短繊維を得る装置に関するものであるが、これとは逆に切削刃9を固定しておき、被切削材6を回転させて切削刃9に当接させて極短繊維を得る装置としてもよい。また、切削刃9又は被切削材6の回転運動に代えて、切削刃9又は被切削材6を往復直線運動させるようにしても良い。ここで肝心なことは、前記繊維束7aを含む被切削材6と切削刃9とを切削方向へ互いに相対運動させ、これによって前記繊維束7aの端面を薄片状に切削することである。
【0042】
以上に述べたように、本発明の極短繊維の製造装置を用いて、被切削材6を切削することによって、極短繊維を得ることができるのであるが、被切削材6を長時間にわたって切削すると、切削する作業環境が埋包材5の固化温度より高い場合には、埋包材5が気化したり、液化したりしてその役割を果たすことができなくなる。このため、被切削材6を保持する保持手段8に保温手段(図示せず)を設けたり、保温手段だけでは対応できない場合は冷却手段(図示せず)を設けたりして、埋包材5が気化又は液化しないように十分に保冷しておくことが必要となる。また、前記の目的を達成するために、被切削材6の周りを局部的に冷却したり、切削装置全体を冷却したりすることも好ましい態様である。
【0043】
なお、前記冷却手段(図示せず)としては、周知の冷媒循環式冷却装置が好ましく使用できる。具体的には、前記保持手段8を構成する被切削材6の把持部材8aの外周部に冷媒が循環可能なジャケットを付設して、このジャケットに冷媒を循環させることによって達成することができ、このジャケットを固定部材8bによって架台14cに固定するようにすればよい。このように冷却手段によって把持部材8aを冷却する場合は、把持部材8aとしては熱伝導性の良い材料、例えばステンレス鋼などの金属材料を使用することが好ましいが、保温手段に頼るような場合には被切削材6からの熱伝道が良くないプラスチック材料のような低熱伝導性材料が好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明の極短繊維の製造方法を説明する。ポリエステルからなる0.1dtexの単繊維群をかせ巻き装置で巻取り200万dtexの繊維束とし、繊維束を構成する単繊維群が長手方向に並行となるよう引き揃える。得られた繊維束を、チューブ内径が40mmのポリエステルの熱収縮チューブに挿入した後、この熱収縮チューブを図1に記載した方法に準拠して収縮させる。ただし、その際、繊維束を長手方向に並行となるよう配列させるため繊維束の両端を把持して。張力5kgfで引張り、熱風供給ノズルから約100℃の熱風を噴出して熱収縮チューブの一端から多端へと順次熱収縮させた。そして、収縮チューブに挿入被覆されたほぼ外径20mmの単繊維群がほぼ最密充填され繊維束を得た。
【0045】
このようにして得た熱収縮チューブで被覆された繊維束を必要な長さにカットして筒状のポット内に充填された水中に浸漬した状態で冷却して氷結させ、氷を埋包材とする被切削材を得た。そして、得られた被切削材の端面を円形切断刃を有する回転カッターによって切断して、きれいな切削面を形成させて、φ75mm×40mm長の円柱状の被切削材とした。これを図1に例示したと同様の装置を使用して、半割の一対の円筒からなる把持部材によって被切削材を挟持させた。なお、保持手段の一部を構成する把持部材の外周部には冷媒(ブライン)が循環するジャケットを設けて、把持手段を−4℃に冷却した。
【0046】
ついで、接圧付与手段として、シリンダー径がφ50mmで、そのストローク長が100mmのエアーシリンダーを採用して、このエアーシリンダーに0.11MPaの圧縮空気を供給して、前記被切削材を刃物台の当接平面に押し当てた。そして、刃物台を減速機付きインバータモータでタイミングベルトを介して毎分30回転で回転駆動軸を回転させた。その際、使用した切削刃については、厚みが0.25mm、刃物取り付け角度が25°、刃物後退角度が30°である高速度鋼であった。このとき、切削刃の突出長を0.02mmに調整して、切削加工を行ったところ、繊維長が0.025mmの極短繊維が得られた。得られた極短繊維および収縮チューブを30メッシュ/インチの金網でふるいに掛け、収縮チューブのみを除去し、得られた極短繊維から水を切った後、これを120℃の熱風によって周知の熱風乾燥機中で乾燥した。乾燥後の極短繊維の切削面はきれいな状態であり、ミスカットされた短繊維はほとんど見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法によって得られる極短繊維は、その繊維長が1mm以下、特に0.1mm未満に切削されているために、例えば特開平11−241223号公報に記載されているような極短の光学干渉性繊維を接着剤中に混入してこれを塗料として使用したり、化粧品に混入させたりして使用したり、あるいはフロック加工用、印刷機のトナー原料などとしても使用することができるなど広範な用途が期待できる。
【0048】
しかも、本発明の製造装置によれば、1mm以下、特に0.1mm以下の極短繊維を安定かつ容易に製造することができ、更には、ミスカット品が極めて減少するため、その製造歩留まりも良いため、工業的規模で極短繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】収縮チューブを収縮した状態の正断面図である。
【図2】収縮前の収縮チューブに繊維束を挿入した状態を例示した正断面図であって、図(A)は収縮前の状態、図(B)は収縮後の状態をそれぞれ表している。
【図3】埋包材を埋包した状態の正断面図である。
【図4】極短繊維を得るための切削装置を模式的に例示した正面図である。
【符号の説明】
【0050】
1:収縮チューブ
2:繊維束
3:チャック
4:熱風供給ノズル
5:埋包材
6:被切削材
7:筒状体
8:保持手段
9:刃物台
10:切削刃
11:接圧付与手段
12:回転駆動手段
13:極短繊維の回収手段
14:架台
A:刃物台の当接平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の単繊維群を互いに繊維長手方向に並行となるように引き揃えて束ねた繊維束を収縮チューブに挿入し収縮させ、該収縮チューブに挿入して収縮された繊維束を筒状体に挿入し、加熱によって気化又は液化する埋包材を気体状又は液体状にして前記筒状体に注入して埋包材を固化して被切削材とし、前記埋包材が気化又は液化しない温度で前記被切削材の切削端面を薄片状に切削し、0.005〜1.0mmの切断繊維長を有する短繊維を得ることを特徴とする極短繊維の製造方法。
【請求項2】
前記収縮チューブが熱収縮チューブ又は弾性チューブである請求項1に記載の極短繊維の方法。
【請求項3】
前記熱収縮チューブが高分子樹脂の成形品であって、該成形品を電子線照射架橋、化学架橋または水架橋架橋した後拡径したチューブである請求項2に記載の極短繊維の方法。
【請求項4】
前記埋包材が、冷却時にドライアイス又は氷となる材である請求項1に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項5】
前記繊維束がポリエステル又はポリアミドなどからなる熱可塑性合成繊維からなる請求項1に記載の極短繊維の製造方法。
【請求項6】
前記繊維束の一本の総繊度が1万〜1000万dtexである請求項項1に記載の極短繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−188790(P2006−188790A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1554(P2005−1554)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】