説明

極端紫外光リソグラフィに用いられる斜入射集光器における、気化を利用した熱管理

【課題】GICの熱負荷に起因する光学歪みを最小化する。
【解決手段】極端紫外光リソグラフィに用いられる斜入射集光器(GIC)の蒸発熱管理システムおよび方法を、ジャケット160と組み合わされて、前端を有する構造体を形成するとともに、チャンバを画定するGICシェル110を備えている。このチャンバは、少なくとも一つのウィッキング層200Mを運転可能に備える。このウィッキング層は、導管240によって、冷却液を貯める貯留槽252に接続されている。前端に熱が加えられたとき、冷却液は、ウィッキング層の毛細管現象により、重力の助力を受けて、復水システム250からチャンバに送られる。これと同時に、蒸気は、チャンバから復水システムへ、逆方向に送られる。復水システムにおいて、凝縮された蒸気から熱が除去されることにより、GICミラーシェルが冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2011年5月4日付出願の米国仮特許出願第61/518,378号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、斜入射集光器(GIC)に関し、特に、極端紫外光(EUV)リソグラフィに使用される、GICの蒸発熱管理システムおよびその方法に関する。
【背景技術】
【0003】
EUVリソグラフィは、線幅約27nmあるいはそれよりも小さいライン幅の半導体デバイスの製造に最適なリソグラフィプロセスとなると考えられている。EUVの公称波長は、13.5nmであり、EUVを集光および結像するためには特別な光学装置を使用する必要がある。
【0004】
光源からの光の集光に用いられるEUV光学システムの一例として、斜入射集光器(GIC)がある。GICは、一般に、EUV源からのEUVを斜入射角にて受けるとともに、総合的なシステム光学設計により、遠距離場におけるEUV分布が所定の均一さとなるように受けた光を中間集光点に集中させて反射させるように構成され、一つ又は複数の同軸に配置されたGICミラーシェルを備えている。
【0005】
EUVリソグラフィ用に設計された放射線源は、放電生成プラズマ(DPP)およびレーザ生成プラズマ(LPP)を有している。これら放射線源の変換効率は数%であり、EUVの生成に要するエネルギーのほとんどは、一つ又は複数のGICミラーシェルに入射可能な赤外線、可視光、UV放射線、およびエネルギー粒子に変換される。この広範囲の放射線により、一つ又は複数のGICミラーシェルに相当量の熱負荷が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公報第2010/0284511号
【特許文献2】米国特許出願公報第2004/0265712号
【特許文献3】米国特許出願公報第2005/0016679号
【特許文献4】米国特許出願公報第2005/0155624号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このため、当該ミラーに吸収された熱がGICの性能に実質的に悪影響を及ぼすとともに、当該GICを破損させるのを避けるため、各GICミラーシェルを冷却する必要がある。とりわけ、一つ又は複数のGICミラーシェルの歪みを防止するため、高負荷状態において冷却を実施する必要がある。これは、反射レチクルによる照明光の均一性および安定性がEUVリソグラフィにおける品質管理の重要な側面だからである。特に、GICへ熱負荷は循環するため、GICから照明器の入力開口に供給されるEUVの強度および角度分布は、大きく変化してはならない。GIC放射線パターンの遠隔フィールドにおいて、ある程度の度合いの放射の均一性が求められるが、この均一性は、GICミラーシェルの歪みや形状誤差によって損なわれる。
【0008】
これまで、基本的にすべてのEUVリソグラフィ用GICは、研究室用あるいは開発中の「アルファ」システム用として、高度に制御された管理条件下で使用されてきた。このため、商業的に実行可能なEUVリソグラフィシステムに用いられるGICの熱管理システムについての取り組みは、ほとんどなされてこなかった。実際、そのような商業システムにおいてより高いEUVパワーの要求が増えるにつけ、GICへの熱負荷も増大してきている。このため、商業用EUVリソグラフィシステムにおいて、熱負荷に起因する光学歪みを最小化するため、より効率的かつ効果的な熱管理システムをGICに適用する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る、気化を利用したGICミラーシステムの熱管理システムおよびその方法は、GICミラーに対して複雑かつ嵩の高い冷却液用配管を必要とすることなく、実際の商業用EUVリソグラフィの高負荷条件下での冷却を行うものである。本発明のシステムは、さらに、大面積の光学表面の熱歪みを最小化するため、当該光学表面における実質的に均一な温度分布を維持することができる。
【0010】
開示された、気化を利用する方法に特有の長所は、冷却プロセスが自動制御になるということである。すなわち、より高い負荷を受ける光学構造の領域は、より高温となる傾向にあることから、その領域では、気化率が高くなって、冷却率もより高くなる。
【0011】
気化冷却システムの一例は、GICミラーシェルの外面に、ヒートパイプを規定するGICミラー冷却アセンブリを形成する工程を含んでいる。当該ヒートパイプの運転は、EUV源から放射される広い波長域の光を用いてGICミラーシェルを加熱することによって開始される。別の方法として、気化冷却プロセスを開始するように構成された外部ヒーターを用いて、EUV源を起動させる前に、当該ヒートパイプを起動させてもよい。供給された熱は、加熱された表面に隣り合うウィッキング層を通る冷却液を蒸発させる。その蒸気は、GICミラー外面から当該蒸気を液化する復水システムに送られる。このシステムに、GICミラーシステムの前端(EUV源に最も近い端)を保護するための熱およびエロージョン・シールドを設けてもよい。
【0012】
当該ヒートパイプの構成によれば、GICミラーシェルに熱的に接触する冷却配管網を用いた場合に生じ得る、GICミラー反射表面の空間変調を避けつつ、GICミラーシェル全体の実質的に均一な冷却を実施することができる。さらに言えば、本明細書で開示される、GICの気化を利用した熱管理システムおよびその方法では、比較的高い流速で多量の冷却液を通流させることなく、効率的な冷却を実現することができる。さらに、気化を利用した熱管理システムおよびその方法は、GICミラーシェルに単に数ミリメートルの幅を与えるだけで、実施することができる。これにより、EUV源と中間集光点との間の光学経路が不明瞭になるおそれを最小化可能な入れ子状のGICミラーシェル構造を実現できるロープロファイル設計となる。
【0013】
GICミラー冷却アセンブリは、GICミラーシェル、ジャケット、少なくとも1層のウィッキング層、導管、および復水システムを備えている。このGICミラー冷却アセンブリは、GICミラーアセンブリに熱を加えることによって使用可能となる。GICミラーシェルは、反射内面と、反対側の外面とを有している。ジャケットは、内面を有している。このジャケットは、GICミラーシェルと組み合わされて、前端および後端を有するチャンバを画定する。蒸気導管は、当該チャンバの後端に接続されている。少なくとも1層のウィッキング層は、GICミラーシェルの外面に隣接するように配置されていると共に、当該外面に対して熱的に接触している。導管は、少なくとも1層のウィッキング層を支持している。この導管は、蒸気導管を規定している。復水システムは、導管、および少なくとも1層のウィッキング層に接続されている。少なくとも1層のウィッキング層は、復水システムから、導管およびチャンバを通した冷却液の毛細管流動、およびチャンバおよび蒸気導管を通して復水システムに至る気化した冷却液の逆流を後押しする。アセンブリの前端に十分な量の熱が与えられたときに、冷却液の毛細管流動が生じる。
【0014】
GICミラー冷却アセンブリは、さらに、第2のウィッキング層を備えるのが好適である。この第2のウィッキング層は、ジャケットの内面に隣接すると共に、当該内面に対して熱的に接触している。
【0015】
GICミラー冷却アセンブリにおいて、冷却液は、少なくとも、水、メタノール、エタノール、およびアンモニアのいずれか一つを含むのが好適である。
【0016】
GICミラー冷却アセンブリにおいて、GICミラーシェルとジャケットとの間には、少なくとも1つの柔軟接合部が設けられていることが好適である。
【0017】
GICミラー冷却アセンブリにおいて、前記柔軟接合部は、柔軟部材を含むことが好適である。
【0018】
GICミラー冷却アセンブリにおいて、前記柔軟部材は、少なくとも、ヒンジ、湾曲材、ベローズ、ガスケット、およびエポキシのいずれか一つを含むことが好適である。
【0019】
GICミラー冷却アセンブリにおいて、前記柔軟接合部は、溶接継手あるいはロウ付け継手を含むのが好適である。
【0020】
GICミラー冷却アセンブリにおいて、少なくとも1つのウィッキング層は、金属フォーム(金属発泡体)、硝子フォーム、網状プラスチック、網状ポリマー、編み込みプラスチック(編み込みラバー)、および編み込みポリマーからなるウィッキング材料群から選択されたウィッキング材料で形成されることが好適である。
【0021】
GICミラー冷却アセンブリにおいて、少なくとも1つのウィッキング層の厚さは、20ミクロンから2mmの範囲であることが好適である。
【0022】
GICミラー冷却アセンブリにおいて、チャンバの幅は、1mmから8mmの範囲であることが好適である。
【0023】
GICミラー冷却アセンブリは、さらに、積極的に冷却される熱シールドを備えるのが好適である。この積極的に冷却される熱シールドは、GICミラー冷却アセンブリの前端の近傍において動作可能に配置されている。
【0024】
GICミラー冷却アセンブリにおいて、復水システムは、冷却液をウィッキング層に供給し、導管からの蒸気を受け入れるとともに、蒸発潜熱を取り除くことにより、当該蒸気を凝縮して冷却液にするように構成するのが好適である。
【0025】
GICミラー冷却アセンブリは、さらに、複数のGIC冷却アセンブリを備えていることが好ましい。この複数のGIC冷却アセンブリは、前記復水システムに接続されている。また、GICミラーシェルは、入れ子状に形成されている。
【0026】
GICミラー冷却アセンブリは、さらに、復水システムを備えていることが好ましい。この復水システムは、チャンバとの関係で、冷却液の流れが重力の助力を受けられる位置に配置されている。
【0027】
反射レチクルを照らすEUVリソグラフィシステムは、EUV源、上述したGICミラー冷却アセンブリ、および照明器を備えている。GICミラー冷却アセンブリにおいて、GICミラーシェルは、EUVを受けるとともに、このEUVを集光する。照明器は、集光されたEUVを受けるとともに、反射レチクルの照射に用いる集束EUVを形成する。
【0028】
EUVリソグラフィシステムは、感光性半導体ウエハ上にパターン像を形成するのに好適である。EUVリソグラフィシステムは、さらに、投影光学システムを含んでいることが好適である。投影光学システムは、反射レチクルの下流側に配置されている。投影光学システムは、当該反射レチクルから反射されたEUVを受光するとともに、当該反射EUVで感光性半導体ウエハ上にパターン像を形成するように構成されている。
【0029】
GICミラー冷却アセンブリを気化冷却する方法は、外面を有するGICミラーシェルを、内面を有するジャケットに取り付けて、チャンバ、前端、および後端を有する構造を形成する。この方法は、さらに、GICミラーシェルの外面およびジャケットの内面のそれぞれに、相対する共形ウィッキング層を設け、チャンバにおいてヒートパイプを規定する工程を含んでいる。この方法は、さらに、EUVおよび他のバックグラウンド放射をするEUV源からの光で構造体を照射する工程を含んでいる。これにより、当該構造体を加熱するとともに、ウィッキング層を通る冷却液を十分に加熱してヒートパイプの稼働を開始することにより蒸気を生じさせる。この方法は、さらに、チャンバの後端において当該チャンバから蒸気を取り除く工程を含んでいる。
【0030】
この方法は、さらに、取り除かれた蒸気を離れた場所で凝縮させて冷却液に戻す工程を含むことが好適である。この方法は、さらに、冷却液を凝縮するに際し、蒸発潜熱を取り除く工程を含むことが好適である。
【0031】
この方法では、冷却液貯留槽からチャンバに至る冷却液の毛細管流動が重力に助力されているのが好適である。
【0032】
気化冷却によるGICミラー冷却アセンブリの冷却方法は、チャンバと、先端と、後端とを有するような構造を形成する内面を有するジャケットを備えるとともに、外面を有するGICミラーシェルを取り付ける工程を含んでいる。当該方法は、さらに、少なくとも一つのウィッキング層を当該チャンバ内に運転可能に構成して、同チャンバ内におけるヒートパイプを規定する。この方法は、さらに、毛細管現象により、少なくとも一つのウィッキング層において第1の方向に冷却液を引き込むとともに、チャンバ内において、第1の方向とは逆の方向である第2の方向に進む蒸気を冷却液から生成する工程を含んでいる。この方法は、さらに、チャンバの後端において、チャンバから蒸気を取り出す工程を含んでいる。
【0033】
この方法は、好適には、少なくとも一つの外部熱源やEUV源を用いた気化冷却サイクルの開始工程をさらに含んでいる。
【0034】
この方法は、好適には、凝縮された冷却液を貯める貯留槽を用いて、排出された蒸気から潜熱を除去する工程をさらに含んでいる。
【0035】
この方法は、好適には、重力の方向に構成材が向くように第1の方向を合わせる工程を含んでいる。
【0036】
GICミラー冷却システムは、GICミラーシェル、ヒートパイプ、および復水システムを備えて いる。このGICミラーシェルは、反射内面と、これとは反対側の外面と、前端とを備えている。ヒートパイプは、GICミラーシェルの外面に対応配置されている。このヒートパイプは、冷却液を気化させることによってGICミラーシェルの前端に加えられた熱を除去するものである。復水システムは、このヒートパイプに流体接続されている。また、復水システムは、GICミラーシェルから離れた位置において蒸気を受け入れるとともに、これを凝縮するものである。
【0037】
このGICミラー冷却システムにおいて、ヒートパイプは、少なくとも一つのウィッキング層を有するのが好ましい。この少なくとも一つのウィッキング層は、冷却液貯留槽からの冷却液の毛細管流動を促進させる。さらに、少なくとも一つのウィッキング層は、蒸気流路を有している。この蒸気流路は、冷却液の毛細管流動とは反対方向の蒸気流を促進する。
【0038】
このGICミラー冷却システムにおいて、冷却液の毛細管流動は、重力によって助力されるのが好適である。
【0039】
このGICミラー冷却システムにおいて、少なくとも一つのウィッキング層は、金属発泡体、ガラス質発泡体、網状プラスチック、網状ポリマー、織物プラスチックおよび織物ポリマーのグループから選択されるウィッキング材料を備えるのが好適である。
【0040】
このGICミラー冷却システムにおいて、少なくとも一つのウィッキング層の厚さは、20ミクロンから2mmの範囲であることが好適である。
【0041】
このGICミラー冷却システムにおいて、与えられる熱は、GICミラーシェルの前端の近傍に配置されたEUV源によって生成されるのが好適である。
【0042】
上記の背景技術に関する記載および下記の詳細な説明に関する記載は、本発明の実施形態を提供するものであり、特許請求の範囲に記載されているように、本発明の本質および特徴を理解するための概略または枠組みを提供するものであることを理解すべきである。添付図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれており、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。当該図面は、本発明の様々な実施形態を図示するものであり、本明細書の記載とともに、本発明の原理および実施を説明する一助となる。図面および特許請求の範囲は、本発明の一部を構成する。特許請求の範囲は、以下に記載する詳細な説明に組み込まれ、その一部を構成すると考えるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、軸を有し、GICミラーシステムを含むEUV源集光モジュール(すなわち、SOCOMO)の例を示す概略図である。
【図2】図2は、1つ以上のGICミラーシェルを含むGICミラーアセンブリの例を示す側面図である。
【図3】図3は、8つのGICミラーシェルを有するGICミラーアセンブリの例の上部断面図である。外側の5つのGICミラーシェルは、2つの異なるシェルセクションを有している。
【図4】図4は、公知のGICミラーシェルの例を示す等角図である。
【図5】図5は、図4と同様の図であるが、外面がアウタージャケットに囲まれたGICミラーシェルを含むGICミラー冷却アセンブリの例を示している。
【図6A】図6Aは、GICミラー冷却アセンブリを有するGICミラーシステムの例を示すY−Z断面図である。
【図6B】図6Bは、図6Aと同様の図であるが、毛細管流動が重力の助力を受けられるように重力方向に対応配置されたGICミラーシステムの実施例を示している。
【図7】図7は、GICミラー冷却アセンブリの一部、および、その内部に規定された通流路の拡大Y−Z断面図である。
【図8】図8は、GICミラー冷却アセンブリと復水領域とを接続する供給ラインの拡大断面図である。
【図9】図9は、異なる2つのミラー領域を有するGICミラーシェルを含むGICミラー冷却アセンブリの例を示すY−Z断面図である。
【図10】図10は、図9に示された、2つのゾーンを有するGICミラーシェル用のGICミラー冷却アセンブリの一部を示す断面図である。
【図11A】図11Aは、それぞれの流路を通して復水システムに流体接続された複数のGICミラーアセンブリを有するGICミラーシステムの例を示す概略図である。
【図11B】図11Bは、冷却スパイダに支持された複数のGICミラーアセンブリを有するGICミラーシステムの例を示す断面図である。上記冷却スパイダは、復水システムからGICミラーアセンブリへの流体の流れを促進させる物理的な構造として機能する。
【図12A】図12Aは、溶接を用いた、ミラーシェルとジャケットとの接合部の例を示す、GICミラー冷却アセンブリの端部の拡大概略図である。
【図12B】図12Bは、ロウ付けを用いた、ミラーシェルとジャケットとの接合部の例を示す、GICミラー冷却アセンブリの端部の拡大概略図である。
【図13】GICミラーシェルとジャケットとの接合部の実施例を示す、GIC冷却アセンブリの例の断面図である。
【図14】GICミラーシェルとジャケットとの接合部の実施例を示す、GIC冷却アセンブリの例の断面図である。
【図15】GICミラーシェルとジャケットとの接合部の実施例を示す、GIC冷却アセンブリの例の断面図である。
【図16】図16は、GICミラー冷却アセンブリがSOCOMOに組み込まれ、かつ、EUV源からの照射を受けた時の、標準的な熱負荷と、GICミラー冷却アセンブリに沿った軸方向の距離との関係を示すグラフである。
【図17A】図17Aは、熱シールドの実施例を含むGICミラー冷却アセンブリの入口端の拡大断面図である。
【図17B】図17Bは、熱シールドの実施例を含むGICミラー冷却アセンブリの入口端の拡大断面図である。
【図18】図18は、本発明に係る気化型GICミラー冷却アセンブリを含むGIC SOCOMOを備えるEUVリソグラフィシステムの例を示す概略図である。
【図19】図19は、図10と同様の図であるが、GICミラー冷却アセンブリ用の構成例の特徴の例を示している。これにより、冷却液にウィッキング材料を透過させる毛細管現象に対する任意の重力的アシストとなる重力の一般的方向が示される。
【図20】GICミラー冷却アセンブリの例における傾斜角度αと通流路の長さLとの関係、および毛細限界を満足する母数空間を示している。
【0044】
図中の様々な構成要素は、表示目的で図示されたものであり、必ずしも実際の縮尺通りに図示されている訳ではない。これらの構成要素の内、ある部分は誇張して図示され、ある部分は最小化して図示される場合もある。本図面は、当業者によって理解されるとともに、適切に実行され得る本発明の実施形態の一例を図示することを意図するものである。上記様々な構成要素の向きは、図示し易いように選択されており、また、特に明示しな限り、図面における「上下」についても、重力の方向に対応しているとは限らない。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下の記載において、「流体接続された」等の語は、液体および気体(蒸気)両方の流体に適用される。図面において、同一あるいは類似する要素および構成材には、便宜のため、同一あるいは類似する参照番号を付す。
【0046】
SOCOMO
図1は、軸A1を有し、中央軸に沿って配置されたGICミラーシステム20を含むEUV源集光モジュール10(すなわち、SOCOMO10)の例を示す概略図である。GICミラーシステム20は、EUV源34からのEUVの入力端22と、集光器から出て、中間集光点(IF)に集光されるEUVの出力端24とを有している。GICミラーシステム20は、さらに、GICミラーアセンブリ100、およびこれと共動可能な位置に配置されたGICミラー熱管理(冷却)アセンブリ150(つまり、「冷却構造」)を有している。これらについては、後に詳述する。
【0047】
SOCOMO10は、EUV源システム30を含んでおり、このEUV源システム30は、GICミラーシステムの入力端22の近傍にあり、軸A1に沿って配設されているとともに、光源焦点SFにEUV源34を生成する。EUV源34は、帯域外の放射線とともに、「作用帯」の公称13.5nmの波長を有するEUV40を放出する。EUV源システム30の一例として、レーザ生成プラズマ(LPP)源または放電生成プラズマ(DPP)源34を挙げることができる。
【0048】
GICミラーシステム20は、EUV源34からの作用帯EUV40を受け入れるとともに、このEUVを出力端24の近傍に位置し、かつ、軸A1に沿った中間集光点IFに集光するものである。SOCOMO10がEUVリソグラフィシステムに組み込まれたとき、中間集光点IFは、EUV照明器(図18参照)の開口絞りASの位置、あるいはその近傍に設定される。GICミラーシステム20を用いるEUVリソグラフィシステムの一例については、後に詳述する。
【0049】
GICミラーアセンブリ
図2は、入力端22にある入力縁部112、および出力端24にある出力縁部114をそれぞれ有する一つ以上のGICミラーシェル110を含んでいるGICミラーアセンブリ100の例についての概略側面図である。GICミラーアセンブリ100は、出力縁部114側からGICミラーシェル110を入れ子状に離間した状態で支持するGICミラーシェル支持部材120(または「スパイダ」という)を含んでいる。
【0050】
GICミラーアセンブリ100の一例は、米国特許出願公報第2010/0284511号、米国特許出願第12/735,525号、米国特許出願12/734,829号に記載されており、これらの公報および出願を本願に援用する。GICミラーシェル支持部材120の一例は、米国特許出願第12/657,650号に記載されており、この出願を本願に援用する。
【0051】
図3は、8つのGICミラーシェル110を有するGICミラーアセンブリ100の一例についての上部断面図である。外側の5つのGICミラーシェルは、曲率が異なるとともに光学的に異なるコーティングがされた、異なる2つのシェル部S1およびS2を有している。
【0052】
図4は、公知のGICミラーシェル110の一例を示す等角図である。このGICミラーシェル110は、内面116と、外面118と、さらに、入力縁部112および出力縁部114にそれぞれ任意に形成された端壁115Lおよび115Tとを有している(端壁は図4に描かれていない。例えば図7を参照のこと。)。参照のため直交座標系を示す。GICミラーシェル110の一例は、電鋳法によって形成されており、また、ニッケル、あるいはニッケル合金で形成されている。GICミラーシェル110の厚さの範囲の一例は、1mmから4mmであるが、ここでは一例として1mmから2mmとする。
【0053】
図5は、図4と同様の図であるが、ジャケット160に接合されたGICミラーシェル110を含むGICミラー冷却アセンブリ150の一例を示す。ジャケット160は、GICミラーシェルの外面118から離間してこれをカバーするように配設されている。図6Aは、GICミラーシステム20の一部であり、図5に示されたGICミラー冷却アセンブリ150のY−Z断面図である。ジャケット160は、内面166および外面168(図6Aの分解差込図を参照)、さらに、それぞれ前端壁165Lおよび後端壁165Tを有している。ジャケット160の材質の例としては、任意の機械加工可能な金属が挙げられる。例えば、ステンレス、ニッケル、およびニッケル合金がその一例である。外壁164の厚みは、例えば、1mmから3mmの範囲内にある。
【0054】
ジャケット160とGICミラーシェルの外面118とで、チャンバ180が画定される。一例では、GICミラーシェル110の内面116からジャケット外面168までの幅W(図7参照)は、3mmから10mmの範囲内にあり、例えば、5mmから8mmの範囲がその一例である。
【0055】
ウィッキング層200Mは、GICミラーシェル110の外面118および端壁115Lおよび115Tと熱的に接触するように配置されている。さらに、ジャケット160の内面166に熱的に接触するように配置されたウィッキング層200Jが任意に含まれる。ジャケット160の前端壁165Lと、GICミラーシェル110の前端壁115Lとを組み合わせることにより、GICミラー冷却アセンブリ150の前端170Lが画定され、ジャケット160の後端壁165Tと、GICミラーシェル110の後端壁115Tとを組み合わせることにより、GICミラー冷却アセンブリ150の後端170Tが画定される。GICミラー冷却アセンブリ150がSOCOMO10に組み合わされたとき、前端170LがEUV源34に最も近い端となり、後端170TがEUV源34から最も遠い端となる。
【0056】
一例において、ウィッキング層200Mおよび200Jは、それぞれ、GICミラーシェル110の外面118およびジャケット160の内面166と共形であり、かつGICミラーシェル110の外面118およびジャケット160の内面166に対してそれぞれ熱的に接触している。さらに、一例では、ウィッキング層200Mおよび200Jは、それぞれ、GICミラーシェル110の外面118およびジャケット160の内面166に隣接するように配置されている。すなわち、これらの間に介在する層は存在していない状態である。一例では、ウィッキング層200Mおよび200Jは、100ミクロンよりも厚く形成されている。別の一例では、100から200ミクロンの厚さに形成されている。ウィッキング層200Mおよび200Jの材料の例としては、ガラス質の炭素、銅、アルミニウム、さらにプラスチックといった多様な材質で形成された発泡体が挙げられる。本願においては、ニッケルメッシュ、ニッケル粉およびニッケル発泡体がその一例である。ウィッキング層200Mおよび200Jは、GICミラーシェル110の端壁115およびジャケット160の端壁165のそれぞれをカバーし、気化冷却するように延長してもよい。
【0057】
一例において、少なくとも一つのウィッキング層200Mおよび200Jは、金属発泡体、ガラス発泡体、網状のプラスチック、網状のポリマー、織物プラスチック、および織物ポリマーを含むウィッキング材料のグループから選ばれたウィッキング材料を有している。
【0058】
また、図5には、冷却液172の気化によって生成された蒸気174の流れ方向、および、冷却液172の流れ方向が示されている。これらについては、後に詳述する。ジャケット160、GICミラーシェル110、および、これらのウィッキング層200Jおよび200Mは、冷却蒸気174の流れを規定する蒸気流路240Vを含む通流路240を画定する。一例において、冷却液172は、少なくとも、水、メタノール、エタノールおよびアンモニアの内の1つを含んでいる。
【0059】
図6Aは、EUV源34と並んでGICミラー冷却アセンブリ150を示す図である。GICミラーシステム20は、通流路240に流体接続された貯留槽252を含む復水システム250をさらに備えている。貯留槽252は、熱交換器254に熱的に接触している。一例では、必要に応じて、貯留槽252に流体接続されたフィルターユニット256が冷却液172の濾過用に取り付けられている。フィルターユニット256は、冷却液172から小さな粒子(5ミクロンよりも大きい粒子)を除去し、ウィッキング層200Mおよび200Jに粒子が堆積したり、詰まったりするのを防止する。とりわけ、冷却液172における毛細管流動が実質的に行われる位置に粒子が堆積し、詰まるのを防止する。
【0060】
図6Bは、図6Aと同様の図であるとともに、矢印Gで示された重力の方向との関係で、復水システム250からGICミラー冷却アセンブリ150に(通流路240を通して)至る毛細管流動が重力Gの助力を受けるようにGICミラーシステム20が配置されている一例を示している。破線Hは、「水平軸」を示しており、重力Gの方向に対して直交する。角度αは、水平線と、通流路240に沿った(すなわち、気化セグメントに沿った)ウィッキング層における流れの方向とが成す角度である。
【0061】
図6Aを再び参照する。貯留槽252では、復水された冷却液172と蒸気174とが接触するようになっている。熱交換器254は、復水された冷却液172から熱を取り除き、蒸気174を、より凝縮された冷却液172にするようになっている。貯留槽252は、復水システム250において復水された冷却液172がウィッキング層200Mおよび200Jのそれぞれに流れるように、また、下記の通り、冷却液172を供給できるように、ウィッキング層200Mおよび200Jに流体接続されている。
【0062】
GICミラーシステム20は、3つの主要な領域を有している。1つ目の蒸発領域175Eは、主に、GICミラー冷却アセンブリ150によって画定されている。2つ目の復水領域175Cは、復水システム250によって画定されている。3つ目の断熱領域175Aは、GICミラー冷却アセンブリ150を復水システム250に接続する接続路242によって画定されている。この構成で、ヒートパイプ全体が規定される。
【0063】
図7は、GICミラー冷却アセンブリ150および通流路240の一部のY−Z断面図である。図7において、ウィキング層200Mおよび200Jは、GICミラーシェル110の外面、およびジャケット160の内面にそれぞれ接触している。一例では、これらウィッキング層200Mおよび200Jは、さらに、少なくとも前端170Lおよび後端170Tのいずれか一方に熱的に接触するように構成されている。さらに、図7において、前端170Lから後端170Tにかけて蒸気174が流れるようになっている。曲がりくねった線174Vは、冷却液が気化して冷却蒸気174となる、ウィッキング層200Mおよび200Jにおける気化プロセスを概略的に示している。
【0064】
接続路242は、通流路240を復水システム250に流体接続する。また、一例において、接続路242は、GICミラーシステム20における断熱領域175Aを規定する。図8は、ジャケット160およびGICミラーシェル110にそれぞれ熱的に接触するウィッキング層200Mおよび200Jを示す、蒸発領域175Eの一部の拡大Y−Z断面図である。
【0065】
図9は、異なる2つのミラー領域Z1およびZ2を有するGICミラーシェル110を含む、GICミラー冷却アセンブリ150の一例を示すY−Z断面図である。図10は、図9に示す2つの領域を有するGICミラーシェル110を含むGICミラー冷却アセンブリ150の一部を示す断面図である。ウィッキング層200Mおよび200Jが、蒸発領域175Eから断熱領域175Aの全体にかけて連続的に延びることに注意すべきである。ウィッキング層200Mおよび200J(一体的に形成されたウィッキング層における、互いに異なる部分であってもよい)は、前端170Lおよび後端170Tにおいて、チャンバ180の内部を覆うように延びている。さらに、一例において、ウィッキング層200Mおよび200Jは、復水システム250(つまり、復水領域175C;図6参照)における断熱領域175Aから冷却液貯留槽252のすべてにかけて延びるようになっている。
【0066】
商業用のEUVリソグラフィシステムでは、40から60kWの高負荷が全集光シェルシステム(マルチシェル)に加えられる。各GICミラーシェル110の熱管理については、特定のGICミラーシステムの光学設計の制約内で実行しなければならない。
【0067】
特に、複数のGICミラーシェル110を備えるGICミラーシステム20では、GICミラーシェル110は、入れ子状かつ同心円状(または、ほぼ同心円状)に配置される(図2および図3を参照)。また、冷却システムの構成要素は、EUV源34から中間集光点IFまでの光学経路がほぼ遮断されない状態となるように、GICミラーシェル110内の隙間(つまり、「暗領域」内)に適合しなければならない。GICミラー冷却アセンブリ150の幅は、「作用帯」EUV40のための光学経路をほぼ遮断することなく入れ子状のGICミラーシステム20を形成するために、比較的狭くなっている。
【0068】
図11Aおよび図11Bに示された他の例において、GICミラーアセンブリ100は、複数のGICミラーシェル110を備えていることから、複数のGICミラー冷却アセンブリ150が用いられている。したがって、GICミラー冷却アセンブリ150は、共通の復水システム250に接続されている。また、GICミラー冷却アセンブリ150は、通流路240を介して復水システム250から離間されている。
【0069】
例えば、図11Bを参照するに、スパイダ120は、冷却液172をウィッキング層200Mおよび200Jまで流す通流路240を物理的に支持し、かつ、蒸気174の流れを助けるように構成されている。図示されたGICミラーシステム20の例では、スパイダ120に支持された複数のGICミラーアセンブリ100が含まれている。また、スパイダ120は、復水システム250からGICミラー冷却アセンブリ150に至る冷却液172の流れを促進させる物理的な構造として機能する。
【0070】
スパイダ120に加わる熱量は、GICミラー冷却アセンブリ150に加わる熱量に比べてかなり小さいことから、スパイダ120の冷却は、既存の冷却方法によって達成されるのが一般的である。この点で、冷却されたスパイダ120は、蒸発冷却サーキットには含まれない。しかしながら、スパイダ120を、GICミラー冷却アセンブリ150と復水システム250との間における冷却液172の流れを促進させる支援構造として機能させてもよい。
【0071】
一般的な運転方法
熱管理されたGICミラーシステム20の一般的な運転方法において、EUV源34は、GICミラーシェル110の反射内面116に入射するEUV40(図示しない帯域外の光も含む)を発生させる。GICミラーシェル110は、このEUV40を受け入れ、集光し、さらに中間集光点IFに集中させる(図1参照)。内面116に入射された一部の光は吸収され、GICミラーシェル110を加熱する。
【0072】
EUV40(図示しない帯域外の放射線も含む)が前端170Lを加熱すると、ウィッキング層200Mおよび200Jにおける液状の冷却液172の蒸発速度(蒸発率)が増加する。これにより、前端170Lに最も近いチャンバ180に蒸気174が集まり、チャンバ180の後端170Tとの間で圧力差が生じる。この圧力差により、蒸発領域175Eから断熱領域175Aを通過して復水領域175Cに至る蒸気174の流れが生じる。
【0073】
蒸気174は、復水システム250に到達すると、貯留槽252で、熱交換器254によって冷却液172に凝縮(復水)される。その一方で、蒸発領域175Eでウィッキング層200Mおよび200Jから気化した冷却液172は、毛細管現象によって置きかえられる。これにより、ヒートパイプにおける連続的かつ自己完結的な蒸発/凝縮サイクルを持続させることができる。
【0074】
ウィッキング層200Mおよび200Jによって、GICミラーシェル110で生じた熱は、冷却液172に吸収されて最終的に当該冷却液172を蒸気174に変換する。後端170Tの位置あるいはその近傍にあるチャンバ180における、蒸気流路240Vを通じた蒸気174の流れは、GICミラー冷却アセンブリ150から蒸気174を取り除く。蒸気174に貯められた熱は、その蒸気174が復水システム250によって凝縮されたときに解放される。熱交換器254は、貯留槽252に集められた解放熱を除去する。これにより、GICミラーシェル110からの熱は、蒸気174中において局所的に貯められ、この貯められた熱は、蒸気174としてGICミラーシェル110から離れた位置、つまり、GICミラーシステム20から安全に熱を解放・除去できる位置まで送られる。
【0075】
上述のように、ウィッキング層200Mおよび200Jに供給される冷却液172の流れにより、蒸発(気化)による蒸発領域175Eでの実質的に均一な熱除去が実現される。同様に、チャンバ180での蒸気174の流れにより、チャンバ180からの実質的に均一な気体除去(それに伴う熱除去)が実現される。
【0076】
上述した気化を利用した熱管理プロセスは、EUV源34からのEUV40によるGICミラーアセンブリ100の加熱、あるいはEUV源34を始動させる前に加熱プロセスを始めるための加熱ランプのような外部熱源34E(図6参照)を用いた「予備始動」を契機として始動させてもよい。
【0077】
GICミラーシステム20は、ヒートパイプの運転における公知の各種限界に近づきすぎないような定常状態で運転するのが好ましい。各種限界としては、例えば、音速限界、毛細管圧限界、同調限界、沸騰限界が挙げられる。音速限界は、蒸気174の流れが蒸発領域175Eの出口において音速に達することによって到達する。音速に達すると、蒸気の流れが制限されることから、冷却率も制限されることになる。シミュレーションによれば、冷却蒸気174(例えば、冷却剤としての水)の種類、蒸気温度・密度を適切にすることにより、EUV・GICミラーアセンブリの冷却率を十分に高くすることができる。
【0078】
毛細管圧限界には、チャンバ180における最も高温の領域への冷却液172の流れが不十分でウィッキング層200Mおよび200Jの湿潤状態を維持できない場合に到達する。この限界に到達すると、ウィッキング層200Mおよび200Jの一方または双方が乾ききってしまうおそれがある。シミュレーションによれば、冷却液の粘度、ウィックの透水性、およびウィックの形状を適切にすることにより、EUV・GICミラーアセンブリの冷却率を十分に高くすることができる。(下記の定量的な例を参照)
【0079】
加えて、図6Bの例に示すように、蒸発領域175Eおよび断熱領域175Aよりも高い位置に復水領域175Cの貯留槽252を配置し、重力の補助を受けられるようにすることで、毛細管流動を促進することができる。このことは、蒸発領域175Eの上方に断熱領域175Aを位置決めするとともに、冷却液172の流れを重力的にアシストするように断熱領域175Aを傾けることによっても達成できる。具体的には、この実施例の構成において、冷却液172を貯留槽252から通流路240を通って蒸発領域175Eまで「下方に」(すなわち、重力Gのアシストとともに)流すことができる。一例では、貯留槽252からチャンバ180に至る冷却液172の毛細管流動は、重力Gの方向の流体構成要素を有している。冷却液172の流れが重力によるアシストを受ける構成要素を持ち得るように通流路240の向きを適切にすることもこれに含まれる。重力アシスト構造の一例は、以下に記載する定量的事例との関係で検討される。
【0080】
ヒートパイプシステムの標準的な運転において、液体および気体の反対方向の流れが同時に存在する。つまり、冷却液172およびこれに伴う冷却液の蒸気174である。粘性剪断力は、反対流である冷却液と蒸気174との接触面で生じる。粘性剪断力が、冷却液172にウィッキング層200Mおよび200Jを通過させる毛細管表面張力を超えることはない。同調限界には、粘性剪断力が毛細管表面張力と同じになったときに達する。シミュレーションによれば、冷却液172(例えば、水)、ウィック構造、気体流路サイズを適切に選択することにより、冷却率を同調限界よりも十分に低くすることができ、このEUV・GICミラーアッセンブリに求められる条件に合致させることができる。このことは、以下に説明する実施例において詳述する。
【0081】
もし、ウィッキング層200Mおよび200Jの局部温度が過度に高くなり、局部圧力が過度に低くなった場合、目視可能なほどの気体の泡が生成され、沸騰限界に達する。(また、この限界を、泡生成、あるいは煮沸限界とも呼ぶ。)これは、ウィッキング層200Mおよび200Jを通る冷却液172の流れを抑制するとともに、ウィッキング層200Mおよび200Jが乾ききらせてしまうおそれがある。シミュレーションによれば、冷却液(例えば、水)の粘度、ウィッキング層の透水性、およびウィックの形状を適切にすることにより、EUV・GICミラーアセンブリにおいて、沸騰限界を回避し、十分な冷却率を維持することができる。
【0082】
ミラーシェルへのジャケットの接続
一例において、ジャケット160は、GICミラーシェル110とは別個の部品として形成されていることから、GICミラーシェル110との接合部分が必要となる。このため、チャンバ180には、密閉性を有して真空対応可能であること、および、EUVリソグラフィに使用できる程度の厳格なクリーンさが求められる。
【0083】
ジャケット160とGICミラーシェル110とを接合する方法のひとつとして、例えば、溶接あるいはロウ付け継手を形成するような、溶接あるいはレーザによるロウ付けが用いられる。図12Aの拡大された端部を参照するに、一例において、GICミラーシェルフランジ117Lおよび対応するジャケットフランジ167Lは、精密に溶接あるいはレーザによるロウ付けが施され、GICミラーシェル110およびジャケット160の間で溶接あるいはロウ付け接合部302Lが形成されている。
【0084】
一例において、GICミラーシェルフランジ117Lとジャケットフランジ167Lとは、互いに突き合わせて溶接されており、別の例において、GICミラーシェルフランジ117Lおよびジャケットフランジ167Lは、重なり部を設けた上で溶接されており(図12B)、突き合わせ溶接に比べて、接合部304Lはより広い表面積を有している。このアプローチでは、溶接・ロウ付けプロセスに関わる局部加熱が反射GICミラーシェル110の活性表面に影響(例えば、歪み)を与えないようにしている。
【0085】
GICミラー冷却アセンブリ150が形成される際、GICミラー冷却アセンブリ150に応力が加えられてGICミラーシェル110が変形し、反射内面116の光学形状に支障をきたす点が懸念される。したがって、図13から図15のGICミラー冷却アセンブリ150の拡大図を参照すると、実施形態の一例では、GICミラー冷却アセンブリ150は、少なくとも一つの柔軟結合部304Lを有している。ある例において、柔軟接合部304Lは、柔軟部材310を有している。図13において、柔軟部材310Lは、GICミラーシェルフランジ117Lとジャケットフランジ167Lとの重複部に配置されている。一例において、柔軟部材310Lは、ヒンジ、湾曲材、ベローズ、ガスケット等の部材で構成されている。別の実施例において、柔軟部材310Lは、ガス放出特性の低いエポキシで構成されている。柔軟部材310Lは、GICミラーシェル110とジャケット160とを接合することで生じる残留歪みを吸収するように動作し、GICミラーシェル110の反射内面116への残留歪みの伝播を防止する。別の実施例において、柔軟接合部304Lには、溶接継手、あるいはレーザロウ付け継手が含まれる。
【0086】
熱シールドを有するGICミラー冷却アセンブリ
図16は、GICミラー冷却アセンブリ150がSOCOMO10に配置されるとともに上述したEUV40(図示しない帯域外の光も含む)に曝される際に、GICミラー冷却アセンブリ150の前端170Lから後端170Tに沿った軸方向Zの関数として示される、GICミラーシェル110の光学表面への(任意の単位の)熱負荷の概念グラフである。熱負荷のほとんどは前端170Lで発生し、また、前端170Lから離れるにつれて熱負荷が減少する。図12に示された熱負荷は、気化を利用した熱管理システムおよび方法により熱管理することができる。
【0087】
図16に示すグラフには、例えば、GICミラーシェルフランジ117Lの前端を保護する熱シールドが存在しない場合において、GICミラー冷却アセンブリ150の前端170Lの先端で生じる、EUV源34からの非常に高められた局所的な熱負荷を概略的に示す矢印EPL(elevated power loading)が描かれている。GICミラーシェルフランジ117Lは、光学的な機能を奏しないことに注意すべきである。
【0088】
一例では、上述の気化を利用した熱管理システムおよび方法のみを使用して、このように強烈な前端熱負荷を管理しようとするのではなく、付加的な熱シールドを設けている。図17Aおよび17Bは、光学的な意味合いではない前面(すなわち、フランジ部)への前端熱負荷量を減少させる環状の熱シールド350を含むGICミラー冷却アセンブリ150の前端部拡大図である。この熱シールド350は、必要に応じて、もし当該熱シールド350が無ければ強烈なEUV源34からの過剰な熱を受ける、光学的表面の小さな前部を保護する位置に設けてもよい。
【0089】
図17Aにおいて、熱シールド350は、前端170Lに隣接する内面357と反対の外面358とを有する断熱材356を含んでいる。断熱材356は、低密度セラミック(例えば、セラミック発泡体)やエアロゲル材料といった熱伝導率が非常に低い材料で形成されている。
【0090】
一例において、図17Aの熱シールド350は、断熱材356の外面358上に形成された金属層360を含んでいる。金属層360は、融点の高い材料で形成されており、タングステンがその一例である。したがって、前端170Lへの熱負荷は、当該金属層360からの放射損失および断熱材356を介したほんの少しの熱伝導によって放散される。
【0091】
図17Bは、図17Aと同様のものであり、また、GICミラー冷却アセンブリ150の前端170Lの前あるいは周囲に形成された冷却チャネル372を画定する冷却リング370を含む熱シールド350の実施例を示している。冷却リング370により、EUV源34からの直接的な熱負荷から前端170Lが保護される。冷却液172は、蒸発冷却システムとは別個の水冷却システム(図示せず)を介して冷却リング370に供給される。冷却リング370は、このように、非気化性の(つまり、ヒートパイプを使用しない)冷却機構によって冷却される。冷却リング370の材質の一例としてはニッケルが好適であり、冷却液の一例としては水が好適である。
【0092】
冷却リング370は、GICミラー冷却アセンブリ150の前端170Lから離間しているのが望ましい。GICミラー冷却アセンブリ150に取り付けられる、幾つかのアタッチメントクリップ374といった離間部材を用いることにより、冷却リング370を離間させてもよい。あるいは、別の離間部材(図示せず)を使用して、冷却リング370をGICミラー冷却アセンブリ150から独立させるようにしてもよい。
【0093】
熱シールド350に、GICミラーシェル110の反射内面116の摩耗を軽減させる追加機能を持たせてもよく、一例では、テルニウム層で被覆された金分離層を有する。
【0094】
気化システムの自己回復特性
当該システムおよび方法で使用されているヒートパイプの気化機構は、実質的に自己回復的である。すなわち、ウィッキング層200Mおよび200Jにおける湿潤状態の釣り合いが、ウィッキング層200Mおよび200Jにおける毛細管力によって自然に保たれる。もし、一つの領域が別の領域よりも高温である場合、より多くの蒸発があり、したがってウィッキング層200Mおよび200Jの当該位置における毛細管現象はより強くなる。このため、より多くの冷却液172が蒸発領域175Eに送られる。同様に、蒸発率の非均一性は、蒸発領域175E内の蒸気174を動かす過度の圧力を生じさせる。このようにヒートパイプの気化機構は自己回復するので、当該気化冷却システムにおける構造上の均一性の要求は、従来の水冷却構造におけるものよりも厳しいものではない。
【0095】
熱管理されたGIC・SOCOMOを有するEUVリソグラフィシステム
図18には、本発明におけるEUVリソグラフィシステム(リソグラフィシステム)の一例が示されている。一例のEUVリソグラフィシステム400は、例えば、米国特許出願公報2004/0265712A1、2005/0016679A1、および2005/0155624A1に開示されている。これら米国特許出願を本願に援用する。
【0096】
リソグラフィシステム400は、光学軸としてのシステム軸ASXと、λ=13.5nmの作用帯EUV40を出射する、熱プラズマ源等のEUV源34とを有している。EUV40は、例えば、放電源(例えば、放電プラズマ、すなわちDPP源)、あるいはレーザビーム(レーザ生成プラズマ、すなわちLPP源)によって、キセノンあるいはスズの目標上に生成される。LPP源から放射されたEUV40は、略等方性であり、また、現在のDPP源において、EUV40は、放電電極によってシステム軸ASXからθ=約60°以上の放射角に制限されている。LPP源の等方性は、例えば、スズの小滴(小質量または大質量)、スズの円盤、スズの気体等といったLPP源ターゲットのタイプに依存する。
【0097】
リソグラフィシステム400は、上述のような、冷却されたGICミラーシステム20を含んでいる。冷却されたGICミラーシステム20は、EUV源34の近くで、かつ、その下流側に配置されている。このため、集光器軸ACがシステム軸ASXに沿って配置される。GICミラーシステム20のGICミラーアセンブリ100は、EUV源34からのEUV40を集光するとともに、集光された光は中間光源像34’を構成し、中間集光点IFに向かう。
【0098】
入力端417および出力端418を有する照明システム416は、入力端417がGICミラーシステム20に隣接する状態で、システム軸ASXに沿って、GICミラーシステム20の下流側に隣接して配置されている。照明システム416は、中間光源像34’からのEUV40を入力端417から受け入れるとともに、実質的に均一なEUVビーム420(すなわち、収束されたEUV放射線)を出力端418から出力する。リソグラフィシステム400が走査型システムである場合、EUVビーム420は、典型的には、ほぼ均一な線状のEUV40として、レチクル436を走査する反射レチクル436となる。
【0099】
投影光学システム426は、照明システム416の下流において(屈折した)システム軸ASXに沿って配置される。投影光学システム426は、照明システム416の出力端418に対向する入力端427と、その反対側の出力端428とを有する。反射レチクル436は、投影光学システム426の入力端427に隣接して配置され、半導体ウエハ440は、投影光学システム426の出力端428に隣接して配置されている。レチクル436は、半導体ウエハ440に転写されるパターン(図示せず)を有し、半導体ウエハ440は、感光性コーティング442(例えば、フォトレジスト層)を有する。
【0100】
動作時、均一化されたEUVビーム420は、レチクル436を照射し、レチクル436によって反射される。そして、投影光学システム426によって、レチクル上のパターンが半導体ウエハ440の感光性コーティング442上に結像される。システム426が走査型システムである場合、レチクル像は、感光性コーティング442の表面を走査し、露光野上にパターンを形成する。典型的には、レチクル436と半導体ウエハ440とを同期して移動させることにより、走査が実行される。
【0101】
いったん、レチクルパターンが半導体ウエハ440上に結像されて記録されると、パターン化された半導体ウエハ440は、標準的なフォトリソグラフィ技術および半導体プロセス技術を使用して処理され、その結果、複数の集積回路(IC)チップが形成される。
【0102】
なお、リソグラフィシステム400の構成要素は、全体的に、共通の屈折した軸ASXに沿って配置されることが図18に図示されている。当業者であれば、例えば、照明システム416や投影光学システム426といった様々な構成要素の入口軸および出口軸がオフセットされる場合が多々あることは、理解されるものである。
【0103】
一例のGICミラー冷却アセンブリのパラメーター
図19は、図10と同様であるが、GICミラー冷却アセンブリ150において使用されるようなヒートパイプ熱管理構成と関連する主要運転パラメーター(つまり、毛細管圧限界、音速限界、同調限界、沸騰限界)を満足させるセットあるいは設計パラメーター範囲の例を示す、GICミラー冷却アセンブリ150の実施例である。
【0104】
図19において、冷却液172の毛細管流動の方向に配置された構成要素が重力Gの方向に並んでいる場合、重力Gの方向は、重力による助力が生じる方向になっている。構成要素を重力Gの方向とは異なる冷却液172の毛細管流動の方向に並べることもできる。
【0105】
GICミラー冷却アセンブリ150において、GICミラーアセンブリ100は、蒸発領域175Eを画定する。ウィッキング層200Mおよび200Jの厚さは1mm、また、チャンバ180の蒸気流路240Vの幅は3mmと想定される。ウィッキング層200Mおよび200Jの材質としては、気泡半径が230ミクロン、3.8×10-92の透水性を有するニッケル発泡体が想定される。GICミラーアセンブリ100の長さは、LE=0.2m、その直径は、DE=0.4mである。
【0106】
断熱領域175Aは、厚さ2mmのウィッキング層200Mおよび200Jと、厚さ0.5mmの壁とで囲まれた、半径10mmの蒸気流路240Vを有する、全体としての直径がDA=25mmの(断熱の)通流路240によって画定されている。通流路240の長さLAは変動可能である。GICミラー冷却アセンブリ150の構成は、図6Bに示されたものと同様である。つまり、重力による助力を受け得る構成となっている。通流路240は、復水領域175Cを規定する復水システム250に流体接続されている。
【0107】
ヒートパイプの運転温度は、冷却液172が液体から気体に相変化する温度である、冷却液172の相変化温度(沸騰温度)以下に限定される。具体的にいうと、与えられた気体圧力において、ウィッキング層200Mおよび200Jの表面における冷却液172の温度は、この相変化温度を超えられない。このため、冷却液172の周囲気化圧力は、当該運転温度の設定に用いられる。
【0108】
本実施例において、水蒸気を冷却蒸気174にするため、冷却液172には水(例えば、蒸留水)が用いられる。もし、運転温度(相変化温度)が40℃(313°K)であれば、GICミラー冷却アセンブリ150内の圧力は、0.93bar(9.3×104 Pa)に減少させるべきである。この例において、5kWの熱は、平均熱流束が約2W/cm2で、内面116に吸収されると考えられる。しかしながら、点状のEUV源34は、非均一な照明ミラー内面116を生成し、この結果、高い熱負荷がEUV源34の近傍の内面116の一部に加えられる。これにより、内面116の入力縁部112から出力縁部114に至る熱負荷の軸方向に傾いた直線を仮定すると、最大熱流束は、4W/cm2となる。
【0109】
GICミラー冷却アセンブリ150内の質量流量は、蒸発率によって決まる。これは、熱吸収によって冷却蒸気174に変わった冷却液172の量である。冷却液流量FLは、下記の数式によって与えられる。
【数1】

ここで、Ψ=5Kwは、吸収された熱量、hは、蒸発潜熱、また、ρLは、水の密度を意味する。質量流量率が2.1×10-3kg/sの場合、h=2.36×106J/kgおよびρL=10-3kg/ml、流速FL=2.1ml/sとなる。水蒸気の密度は理想気体の状態式で与えられる。
【数2】

ここで、気体圧力はP=9.3×104Pa、分子量はW=0.018kg/mole、R=8.314J/mole−K、温度はT=313Kである。結果として、水蒸気の密度は、ρV=0.64kg/m3となる。質量流量率は2.1×10-3kg/sであるから、蒸気流速は、FV=3.3×10-33/sである。
【0110】
GICミラーアセンブリ100のチャンバ180における蒸気流路240Vの断面積AVは、3.8×10-32であり、通流路240におけるそれは、3.1×10-42である。冷却蒸気174の対応する流速は、チャンバ180において0.87m/sであり、通流路240において10.6m/sである。
【0111】
レイノルズ数は、下記の数式で規定される。
【数3】

Hは、水力直径(GICミラーアセンブリ100でDH=6mm、通流路240で20mm)であり、VV=2×10-52/sは、蒸気174の動粘性率である。これらの数値を数式3に代入すると、GICミラーアセンブリ100でレイノルズ数=260、通流路240でレイノルズ数=10600がそれぞれ得られる。このことは、GICミラーアセンブリ100における気体流が層流であり、通流路240において乱流であることを示している。
【0112】
冷却液172および冷却蒸気174の連続的な流れを維持するために注意すべき4つの主要な限界が存在する。これらは、毛細管限界、音速限界、同調限界、沸騰限界と呼ばれる。本実施例との関係で、これら限界について詳細に説明する。
【0113】
毛細管限界
GICミラー冷却アセンブリ150の実施例の構成は、冷却液172の流れが重力に助力されるようになっている。上述したように、このことは、復水領域175Cが断熱領域175Aの上側に位置するように、そして、断熱領域175Aを蒸発領域175Eの上側に配置することで達成される。これにより、毛細管圧および重力の組み合わせでウィッキング層200Mおよび200Jにおける冷却液172の流れを生じさせることができる。この重力による助力を得る構成において、毛細管圧および重力による圧力(重力圧)の合計は、冷却液172および冷却蒸気174の両方の粘性流によって生じる逆圧(液粘圧および蒸気粘圧)の合計よりも大きくなければならない。
【0114】
毛細管圧は、下記の数式によって与えられる。
【数4】

ここで、σ=6.6×10-2N/mは、気液界面における界面張力であり、水とウィッキング材料表面との接触角であるθは、θ=20°である。また、rC=230・mは、ニッケル発泡体ウィックの細孔半径である。
【0115】
凝縮された冷却液172に付勢される重力による圧力(重力圧)は下記の通りである。
【数5】

ここで、gは、重力加速度9.8m/s2である。また、αは、水平線からの傾き(断熱領域175Aおよび/または蒸発領域175Eにおける)である。
【0116】
ウィッキング層200Mおよび200Jにおける冷却液172の粘性流に起因する逆圧(液粘圧)は、ダーシーの法則で与えられる。
【数6】

ここで、μ=10-3N-s/m2は、水の動粘性係数であり、K=3.8×10-92は、ニッケル発泡体ウィックの透水性である。AWは、ウィッキング層200Mおよび200Jの断面積である。蒸発領域175Eでは、AW=1.25×10-32であり、通流路240では、AW=1.38×10-42である。
【0117】
蒸気174の流れのヒートパイプ壁における粘性抵抗に起因する逆圧(蒸気粘圧)は、下記のように表すことができる。
【数7】

ここで、fは、ウィック界面における蒸気174の摩擦抵抗である。レイノルズ数が大きい場合における発泡体ウィックの典型的なfの値は、f=2である。
【0118】
GICミラーアセンブリ100および通流路240における圧力は、数式4から数式7を用いて計算される。その計算結果を下記表1に示す。表1は、水平線に対して60°の角度αで配置されたGICミラーアセンブリ100に基づいて計算されている。また、断熱された通流路240の長さLおよび傾き角度αは、表1において決定される。各パラメーターの単位は、表1のパラメーターの欄に記載されている。
【表1】

【0119】
表1に記載された4つの圧力低下の合計は、毛細限界を満たすために、ゼロよりも大きくなくてはならない。この条件は、GICミラーアセンブリ100において容易に達成されると考えられる。しかしながら、通流路240において、以下の毛細限界条件を満足しなければならない。
【数8】

【0120】
通流路240は、やや傾ける、つまり重力の助力を得られるようにするのが好適である。このことは、すべての現実的な長さLにおいて言えることである。数式8にて示された条件は、図20のグラフに描かれた{L,α}パラメーターにおける領域CLを画定する。この領域CLは、毛細限界が満足される範囲である。傾斜角度αが50°よりも大きい場合、通流路240は、基本的に、現実的ないかなる長さをとることもできる。
【0121】
音速限界
音速限界は、冷却蒸気174の流速が音速に達した状態をいい、数式9で与えられる。
【数9】

【0122】
ここで、定圧・定容積での比熱比は、γ=1.3である。本実施例では、Vsonic=58m/sの音速限界が与えられる。これは、GICミラーアセンブリ100における気体流速V=0.87m/sよりも十分に大きく、また、通流路240における気体流速V=10.6m/sよりも十分に大きい。したがって、本実施例のGICミラー冷却アセンブリ150は、音速限界を満たしている。
【0123】
同調限界
同調限界は、ウィッキング層200Mおよび200Jにおいて、冷却蒸気174の流れに起因する粘性剪断力が凝縮した冷却液172の流れを妨げる点として画定される。これは、蒸気174の動圧がウィッキング層200Mおよび200Jにおける毛細管圧を超える場合に生じる。毛細管圧は540Paであることを想起されたい。
【0124】
蒸気174の動圧は、下記の数式10で与えられる。
【数10】

【0125】
本実施例における動圧は、蒸発領域175Eにおいて0.24Paであり、通流路240において36Paである。これらの値は、毛細管圧に比べて十分に小さいことから、ヒートパイプは、同調限界よりも十分に低い範囲で運転されると結論づけることができる。
【0126】
沸騰限界
沸騰限界は、冷却液172の蒸発率が、ウィッキング層200Mおよび200Jの外における冷却蒸気174の拡散率を超える場合に生じる。この場合、ガス気泡は、核で発生し、ウィッキング層200Mおよび200Jで成長し、冷却液172の流れを妨げる。沸騰に関する条件は、ウィック材料の詳細な構造および冷却液172との相互関係に依存する。しかしながら、一般に、沸騰は、熱流束が10W/cm2よりも小さい場合は発生しないことが知られている。GICミラーアセンブリ100が経験するであろう最大の熱流束は、商業用のEUVリソグラフィ設定において、4W/cm2であり、沸騰限界よりも安全上問題ない程度に低い。
【0127】
当業者には明白であるが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、本発明に対して様々な修正および変更を加えることができる。したがって、本発明は、特許請求の範囲およびその均等範囲内となるように提供された本発明の修正および変更を対象にしていることを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射内面、およびこれとは反対の外面を有するGICミラーシェルと、
内面を有しており、前記GICミラーシェルに取り付けられて前端および後端を有するチャンバを画定し、前記チャンバの前記後端に蒸気流路が流体接続されるジャケットと、
前記GICミラーシェルの前記外面に対して熱的に接触するように隣接して配置されている、少なくとも一つのウィッキング層と、
前記少なくとも一つのウィッキング層を支持するとともに、蒸気流路となる導管と、
前記導管および前記少なくとも一つのウィッキング層に流体接続された復水システムであって、前記少なくとも一つのウィッキング層に、前記復水システムから前記導管および前記チャンバを通る冷却液の毛細管流動を実現させるとともに、前記チャンバおよび前記蒸気流路を通して前記復水システムに至る冷却液の蒸気の逆流を実現させる復水システムとを備える、斜入射集光器(GIC)ミラー冷却アセンブリ。
【請求項2】
前記ジャケットの前記内面に対して熱的に接触するように隣接して配置された第2のウィッキング層をさらに備えている、請求項1に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項3】
前記冷却液は、水、メタノール、エタノール、およびアンモニアの内、少なくとも一つを含んでいる、請求項1または2に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項4】
前記GICミラーシェルと前記ジャケットとの間には、少なくとも一つの柔軟接合部が含まれている、請求項1から3のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項5】
前記柔軟接合部は柔軟部材を含んでいる、請求項4に記載のGICミラー冷却センブリ。
【請求項6】
前記柔軟部材は、ヒンジ、湾曲材、ベローズ、ガスケット、およびエポキシの内、少なくともいずれか一つを含んでいる、請求項5に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項7】
前記柔軟接合部は、溶接継手あるいはロウ付け継手を含んでいる、請求項4に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項8】
前記少なくとも1つのウィッキング層は、金属フォーム、硝子フォーム、網状プラスチック、網状ポリマー、編み込みプラスチック、および編み込みポリマーからなるウィッキング材料群から選択されたウィッキング材料で形成されている、請求項1から7のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項9】
前記少なくとも1つのウィッキング層の厚さは、20ミクロンから2mmの範囲である、請求項1から8のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項10】
前記チャンバの幅は、1mmから8mmの範囲である、請求項1から9のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項11】
前記GICミラー冷却アセンブリの前記前端と隣り合う位置において動作可能に配置された、積極的に冷却される熱シールドをさらに備えている、請求項1から10のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項12】
前記復水システムは、前記冷却液を前記ウィッキング層に供給し、前記導管からの蒸気を受け入れるとともに、蒸発潜熱を取り除くことによって前記蒸気を凝縮して冷却液にする、請求項1から11のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項13】
前記復水システムに流体接続されており、入れ子状に形成された複数のGIC冷却アセンブリで構成されている、請求項1から12のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項14】
前記復水システムは、前記チャンバとの関係で、前記冷却液の流れが重力の助力を受けられる位置に配置されている、請求項1から13のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却アセンブリ。
【請求項15】
反射レチクルを照らす極端紫外光(EUV)リソグラフィシステムであって、
EUV源と、
EUVを受けるとともに、集光されたEUVを形成する、請求項1から14のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却アセンブリと、
前記集光されたEUVを受けるとともに、前記反射レチクルの照射に用いる集束EUVを形成する照明器とを備えているEUVリソグラフィシステム。
【請求項16】
感光性半導体ウエハ上にパターン像を形成するEUVリソグラフィシステムであって、
前記反射レチクルの下流側に配置され、前記反射レチクルからの反射EUVを受けるとともに、前記EUVから前記感光性半導体ウエハ上にパターン像を形成する投影光学システムをさらに備えている、請求項15に記載のEUVリソグラフィシステム。
【請求項17】
外面を有するGICミラーシェルを、内面を有するジャケットに取り付けて、チャンバ、前端、および後端を有する構造体を形成し、
前記GICミラーシェルの前記反射外面および前記ジャケットの前記内面のそれぞれに、相対する共形ウィッキング層を設けてチャンバのヒートパイプを規定し、
極端紫外線(EUV)および他のバックグラウンド放射をするEUV源からの光で前記構造体を照射して、前記構造体を加熱するとともに、前記ウィッキング層を通る冷却液を十分に加熱して前記ヒートパイプの稼働を開始することにより蒸気を生じさせ、さらに
前記チャンバの後端において前記チャンバから蒸気を取り除く、斜入射集光器(GIC)ミラー冷却アセンブリを気化冷却する方法。
【請求項18】
取り除かれた前記蒸気を離れた場所で凝縮させて冷却液に戻し、さらに
冷却液を凝縮するに際し、蒸発潜熱を取り除く工程を備えている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
冷却液貯留槽から前記チャンバに至る冷却液の毛細管流動が重力に助力されている、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
チャンバと、先端と、後端とを有するような構造を形成する内面を有するジャケットを、外面を有するGICミラーシェルに取り付け、
少なくとも一つのウィッキング層を前記チャンバ内に運転可能に構成して、前記チャンバ内にヒートパイプを規定し、
毛細管現象により、前記少なくとも一つのウィッキング層において第1の方向に冷却液を引き込むとともに、前記チャンバ内において、前記第1の方向とは逆の方向である第2の方向に進む蒸気を冷却液から生成する気化冷却サイクルを開始し、さらに、
前記チャンバの後端から蒸気を排出する、気化冷却による斜入射集光器(GIC)ミラー冷却アセンブリの冷却方法。
【請求項21】
少なくとも一つの外部熱源やEUV源を用いた前記気化冷却サイクルの開始工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
凝縮された冷却液を貯める貯留槽を用いて、前記排出された蒸気から潜熱を除去する工程をさらに備えており、
前記貯留槽は、熱交換器に対して熱的に接触している、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
重力の方向に構成材が向くように前記第1の方向を合わせる工程を含む、請求項20から22のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項24】
反射内面と、これとは反対側の外面と、前端とを備えているGICミラーシェルと、
前記GICミラーシェルの外面に対応配置され、冷却液を気化させることによって前記GICミラーシェルの前記前端に加えられた熱を除去するヒートパイプと、
前記ヒートパイプに流体接続され、前記GICミラーシェルから離れた位置において、前記蒸気を受け入れるとともに凝縮する復水システムを備えている、斜入射集光器(GIC)ミラー冷却システム。
【請求項25】
前記ヒートパイプは、冷却液貯留槽からの冷却液の毛細管流動を促進させる少なくとも一つのウィッキング層を有しているとともに、前記冷却液の前記毛細管流動とは反対方向の蒸気流を促進する蒸気流路を有している、請求項24に記載のGICミラー冷却システム。
【請求項26】
前記冷却液の前記毛細管流動は、重力によって助力されている、請求項25に記載のGICミラー冷却システム。
【請求項27】
前記少なくとも一つのウィッキング層は、金属発泡体、ガラス質発泡体、網状プラスチック、網状ポリマー、織物プラスチックおよび織物ポリマーのグループから選択されるウィッキング材料を備えている、請求項25または26に記載のGICミラー冷却システム。
【請求項28】
前記少なくとも一つのウィッキング層の厚さは、20ミクロンから2mmの範囲である、請求項25から27のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却システム。
【請求項29】
与えられる熱は、前記GICミラーシェルの前記前端の近傍に配置された極端紫外線(EUV)源によって生成される、請求項24から28のいずれか一つの請求項に記載のGICミラー冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−235109(P2012−235109A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−98339(P2012−98339)
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【出願人】(509105237)メディア ラリオ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (18)
【氏名又は名称原語表記】MEDIA LARIO S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Localita Pascolo,I−23842 Bosisio Parini,Lecco,Repubblica Italiana
【Fターム(参考)】