説明

極細フェノール樹脂繊維及びその集合体とそれらの製造方法

【課題】従来のフェノール樹脂繊維と同等の耐熱性・難燃性・耐薬品性等の諸性能を有し、その繊維直径が従来に比して著しく極細なるフェノール樹脂極細繊維、及び該繊維を炭素化、あるいは更にその後賦活することで得られるフェノール樹脂極細炭素繊維及びフェノール樹脂極細活性炭素繊維、並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】フェノール樹脂を有機溶剤に溶解した溶液をエレクトロスプレーデポジション法により繊維化して得られるフェノール系極細繊維、更にこれを炭素化、更にその後賦活することで得られるフェノール系極細炭素繊維及びフェノール系極細活性炭素繊維及びそれらの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性、難燃性及び耐薬品性に優れ、一般産業資材分野をはじめ幅広い分野で利用されるフェノール樹脂繊維のうち、従来は極めて困難であった極細フェノール樹脂繊維及び極細フェノール樹脂炭素繊維及び極細フェノール樹脂活性炭素繊維及びその集合体とそれらの製造方法、を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂繊維は耐熱性・難燃性・耐薬品性に優れていることが知られ、このため、これらの特性を要求される分野にて長年にわたり利用されてきた。また、このフェノール樹脂繊維を炭素化することにより炭素繊維が得られることが知られている。この種の炭素繊維は他の炭素繊維、例えばポリアクリロニトリル系やピッチ系の炭素繊維に比べ、強度や弾性率が低いものの柔軟性に富み加工が容易である点、炭素化後の残存率が高い点や良好な潤滑性を示すという特徴が評価されて特定分野では不可欠の存在となっている。更にフェノール系繊維を賦活した活性炭素繊維は特定の有機溶剤に対して極めて高い吸着性を示すなどこちらも必要不可欠の存在となっている。
【0003】
このように多方面にわたり使用されているフェノール樹脂繊維・炭素繊維・活性炭素繊維であるが、近年、高密度織物や不織布、超薄膜フィルムの要望から、そして炭素繊維・活性炭素繊維については極細繊維にすることにより比表面積が増大し、吸着速度等の特性向上、あるいは高性能の触媒担体等、が期待され、従来あるいは新規分野からさまざまな理由により極細化が求められている。
【0004】
この目的のためには、フェノール樹脂の極細繊維を工業的に作ることが必須となっている。フェノール樹脂繊維は一般的には熱可塑性のノボラック樹脂を溶融紡糸し、その後、酸性触媒下、あるいは塩基性触媒下において、アルデヒド類と反応させることにより三次元架橋を行い、熱不融化する方法で作られている。しかしながら、この方法では原料となるノボラック樹脂は完全非晶質であるうえ、重合度が低く、繊維製造に供される他の熱可塑性樹脂に比べ紡糸が困難である。すなわち、粘度の温度依存性が高く、溶融紡糸後、周囲温度の低下に伴って急激な粘度上昇があり急速に固化するが極めて脆い繊維となる。しかも、このようにして得られた架橋反応前の繊維は更に脆弱なるが故に従来からの熱可塑性繊維、例えばポリアミド系繊維やポリエステル系繊維のように延伸を加えることが不可能である。このため、現在では細孔より溶融したノボラック樹脂を吐出させ、可塑変形領域にて一気に引き伸ばす高速ドラフトによる直接紡糸法が採られている。このような紡糸方法では紡糸条件が極めて狭い管理幅内に規制される上、たとえその管理幅内にあっても僅かな温度・紡糸速度の変動が原因で糸切れが頻発するため、現実上の微細化の限界は直径12μm程度である。この理由は、細くするためには口金からの吐出量を絞り、更に紡糸速度を上げることが必要であるが溶融ノボラック樹脂が紡糸張力に耐えうることができなくなる。
【0005】
この問題に対していくつかの対策も考えられる。原料となるノボラック樹脂チップの水分率、遊離フェノール含有量及び形状を厳しく制限することにより紡糸性を向上させることができるが、その効果は目的を達成できるほどのものではない上、原料樹脂の製造、精製、選別に費用・労力を要し実用上の価値は殆ど無い(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
ノボラック樹脂にポリアミドを0.1〜5重量パーセント均一に混合することで、ノボラック樹脂本来の曳糸性の低さを改善せしめ紡糸速度も毎分1000m以上と通常のノボラック樹脂の溶融紡糸に比して高速化できることを開示している(例えば、特許文献2参照。)。この方法を応用すれば極細化の手段とは成り得るものの、その直径はせいぜい10μm程度であり、その効果は限定的である。しかも繊維中にポリアミドが残留するためフェノール繊維の優れた特性である熱不融性・難燃性を低下させる。たとえ熱不融性・難燃性を損なわない程度にポリアミドの混合比を制限したとしてもフェノール樹脂繊維の利用分野の一つである精密ケミカル分野においてはもはや異種の繊維と見なされることはやむを得ない。
【0007】
フェノール樹脂繊維をファイン化する目的の一つは、効率的にしかも特徴ある極細炭素繊維あるいは極細活性炭素繊維を作ることにある。極細炭素繊維を作るひとつの方法としては、熱可塑性樹脂に、ピッチ、ポリアクリロニトリル等の炭素前駆体有機化合物を混合、紡糸し、得た炭素繊維前駆体を不融化、熱可塑性樹脂を除去し、炭素化もしくは黒鉛化する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
然るにこの方法では熱可塑性樹脂を除去する工程が含まれるため最終的な収率は低くなる。更に活性炭素繊維は黒鉛構造の発達した炭素からは容易に得ることは難しい。
【0009】
フェノール樹脂繊維は炭素化収率も高く、柔軟性に富み加工が容易である炭素繊維を得ることができしかも容易に高比表面積の活性炭素繊維と成し得る点で特徴的である。従って、フェノール樹脂だけで、即ち、収率に寄与しない他樹脂成分を加えない上、複雑な工程がなく極細炭素繊維あるいは極細活性炭繊維を製造することができれば極めて効果的である。
【0010】
しかしながらこれまでのところ、いずれの紡糸方法でも他樹脂成分の助けを借りず極細フェノール樹脂繊維を製造することは極めて困難である。
【特許文献1】特公昭51−7206号公報
【特許文献2】特公昭52−12814号公報
【特許文献3】特開2004−176236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は耐熱性、難燃性、耐薬品性の優れた特性を維持した極細フェノール樹脂繊維、極細フェノール樹脂炭素繊維及び極細フェノール樹脂活性炭素繊維の製造であり、その製造工程において他樹脂成分の添加のない製造方法を提供する事である。
【0012】
従来の製造方法では直径がナノサイズの樹脂繊繊の製造が効率よく製造することが困難な上、他成分樹脂の添加法による不純物の混合が問題となっている事から本発明者らは、高品質のフェノール樹脂繊維、フェノール樹脂炭素繊維、フェノール樹脂活性炭素繊維の製造に種々検討してきた結果、エレクトロスプレーデポジッション法を用いて製造する事を見出し本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはかねてから、上記主旨に則り極細フェノール樹脂繊維の研究を進めてきた。その結果、本発明者らは酸性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、あるいは塩基性触媒の存在下にフェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂あるいはホウ素変性、ケイ素変性、リン変性、重金属変性、窒素変性、イオウ変性、油変性、ロジン変性等、公知の技法による各種変性フェノール樹脂またはこれらの混合物のフェノール樹脂を、該フェノール樹脂に対して溶解能を有する有機溶剤で溶解した溶液をエレクトロスプレーデポジッション法にてスプレーして得た未硬化繊維を架橋化処理することにより極細フェノール樹脂繊維及びその集合体を得る。更にこれを炭素化更にその後賦活することで極細フェノール樹脂炭素繊維及び極細フェノール樹脂活性炭素繊維及びそれらの集合体を得るものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のごとく本発明によれば、従来の方法では工業的に極めて困難であった極細フェノール樹脂繊維、極細フェノール樹脂炭素繊維、極細フェノール活性炭素繊維及びそれらの集合体を、工程上の煩雑さもなく、低コストで生産できる方法を提供することができる。しかも従来のフェノール樹脂繊維において良好であった耐熱性・難燃性・耐薬品性等の諸性能のうえに極細の繊維径を利して、産業界のあらゆる分野での展開を可能ならしめるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。先ず、本発明に用いるフェノール樹脂を得るために使用されるフェノール類としては、アルデヒド類と酸性あるいは塩基性触媒下で反応させてフェノール樹脂が得られるフェノール類であれば以下に例示したフェノール類に限定されるものではないが、例えばフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、3,5−キシレノール、m−エチルフェノール、m−プロピルフェノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、レゾルシノール、ハイドロキノン、カテコール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、メチルハイドロキノン、2−メチルレゾルシノール、2,3−ジメチルハイドロキノン、2,5−ジメチルレゾルシノール、2−エトキシフェノール、4−エトキシフェノール、4−エチルレゾルシノール、3−エトキシ−4−メトキシフェノール、2−プロペニルフェノール、2−イソプロピルフェノール、3−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、2,3,5−トリメチルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、2−イソプロポキシフェノール、4−ピロポキシフェノール、2−アリルフェノール、3,4,5−トリメトキシフェノール、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、ピロガロール、フロログリシノール、1,2,4−ベンゼントリオール、5−イソプロピル−3−メチルフェノール、4−ブトキシフェノール、4−t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、4−t−ペンチルフェノール、2−t−ブチル−5−メチルフェノール、2−フェニルフェノール、3−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、3−フェノキシフェノール、4−フェノキシフェノール、4−へキシルオキシフェノール、4−ヘキサノイルレゾルシノール、3,5−ジイソプロピルカテコール、4−ヘキシルレゾルシノール、4−ヘプチルオキシフェノール、3,5−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、ジ−sec−ブチルフェノール、4−クミルフェノール、ノニルフェノール、2−シクロペンチルフェノール、4−シクロペンチルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどがある。また使用にあたってはこれらフェノール類単体でも混合物でも良い。このうちフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、2,3−キシレノール、3,5−キシレノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、o−ブチルフェノール、4−フェニルフェノール、レゾルシノールが好ましく、更にフェノールは最も好ましい。
【0016】
次に本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用されるアルデヒド類としては以下に例示したアルデヒド類に限定されるものではないが、例えばホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α−フェニルプロピルアルデヒド、β−フェニルプロピルアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、o―メチルベンズアルデヒド、m−メチルベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−n−ブチルベンズアルデヒド等、或いはこれらの混合物等が使用できる。このうち、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、特にホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが最も好ましい。
【0017】
更に本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用される酸性触媒としては以下の例示に限定されるものではないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルフォン酸、p−トルエンスルフォン酸、硼酸または塩化亜鉛や酢酸亜鉛のような金属との塩あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
また、本発明で用いるフェノール樹脂を得るために使用される塩基性触媒としては以下の例示に限定されるものではないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンのようなアミン類或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0019】
フェノール樹脂としてはノボラック型、レゾール型いずれもが使用可能である。但し、ノボラック型はレゾール型に比べて時間を要する硬化処理工程が必要になること、更にこの硬化反応中に酸あるいは塩基性の反応液を用いるため腐蝕等の設備的制限がある。逆に、レゾール型では溶液の長期保存性に欠ける点が不利である。どちらを用いるかは、製造する場合の工程の容易さ、汎用性を勘案して決定すれば良い。
【0020】
次に本発明で用いる有機溶剤について説明する。本発明ではフェノール樹脂への溶解能を持つ溶剤であれば使用可能である。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類、また、メタノ−ル、エタノ−ル、プロパノ−ル、ブタノ−ル、アミルアルコ−ル等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、あるいはこれらのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテル等の多価アルコール類及びその誘導体、さらにジオキサンのような環式エーテル類、さらに乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸エチル等のエステル類等、さらにはメチルセロソルブアセテ−ト、セオソルブアセテ−ト、エチルエ−テル、セロソルブ、ブチルセロソルブ、N−メチルピロリドン、メチルエチルケトン、メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、エチレンヂクロライド、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヂオキサン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して用いてもよい。但し、エレクトロスプレーデポジッション法では紡糸時に溶剤を蒸発除去する関係上、高沸点溶媒では紡糸後の溶剤除去が不十分で繊維同士が溶着するおそれがあるため使用が難しい。
【0021】
本発明では先ず、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂あるいは各種変性フェノール樹脂またはこれらの混合物のフェノール樹脂を、メタノール、アセトンのような該フェノール樹脂に対して溶解能を有する有機溶剤中に溶解し、スプレー原料となる樹脂溶液を得ることが必要である。
【0022】
フェノール樹脂と有機溶剤の両者を溶解混合する方法は特に限定されるものではなく公知の溶解装置を用いる事ができる。溶解混合温度については原料の性状等により適宜選択すれば良く特に限定されるものではない。但し、高温に溶剤を曝すことで蒸発、揮散を及ぼす恐れがあることを考慮すれば、溶解混合温度は室温以下がより好ましい。
【0023】
また、この際のフェノール樹脂と有機溶剤の混率については重量比でフェノール樹脂:有機溶剤=1:9〜9:1が適用範囲であり、更には3:7〜7:3が好適であるが、用いるフェノール樹脂の種類により溶液の粘度を勘案して適宜選択すれば良い。
【0024】
更に、必要に応じて公知の添加剤、例えば可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤、増粘剤、防黴剤、染料、顔料、充填剤などが使用可能である。
【0025】
次いでエレクトロスプレーデポジッション法にてスプレーを行う。エレクトロスプレーデポジッション法では繊維集合体である不織布状の極細フェノール樹脂繊維シートを直接採取することも可能であるし、マルチフィラメント状で巻き取ることも可能である。どちらを用いるかは、製造する場合の工程の容易さ、汎用性を勘案して決定すれば良い。
【0026】
前述の溶液をエレクトロスプレーデポジッション法にてスプレーすると数nmから数μmの極細繊維を得ることができる。この方法では高電圧(2〜30kV)を溶液に印加することで溶液表面に電荷が誘発、蓄積される。この電荷はお互いに反発し、この反発力は表面張力に対抗する。反発力が臨界値を越えると、荷電した溶液のジェット噴流が対電極板に向かって噴射される。この噴流は体積に対して表面積が大きいため、溶液中の有機溶媒が効率良く蒸発し、これに伴いさらに体積が減少することで電荷密度が高くなり、このためより細かいジェット噴流へと分割してゆく。この過程を通し、最終的には数nmから数μmの極細繊維が対電極板上(コレクタ)に堆積する形となる。
【0027】
マルチフィラメント状にするには対電極板上の手前にワインダーを設けることで対応可能である。
【0028】
紡糸時の温度は特に限定されるものではないが、10℃以上150℃未満の範囲であり、より好ましくは20℃以上100℃未満である。これは用いる有機溶剤の沸点に応じて選定すればよい。本方法は特に常温、常圧でも容易に極細繊維を得ることができる点で他の紡糸方法に比べて優れている。
【0029】
特別な場合として、用いる有機溶剤に発火や引火の可能性がある場合にはチャンバーを密閉式とし窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを充填し、より溶剤の蒸発を進めるために真空に減圧するなどの方法も有効である。
【0030】
エレクトロスプレーデポジッション装置のノズルは一般的に数μm〜数mm径のキャピラリーを用い、キャピラリー中には溶液に電荷を与えるための針状の電極棒が挿入されている。またはキャピラリーに導電性物を用い電極とするエレクトロスプレーデポジッション装置では生産性を上げるためノズルを複数個設置することも可能である。
【0031】
スプレー速度は特に限定されるものではないが、好ましくは1m/秒以上、50m/秒未満、より好ましくは5m/秒以上、20m/秒未満の範囲である。
【0032】
次いでこの極細繊維及びその集合体を硬化させる処理が必要である。用いたフェノール樹脂類がノボラック型の場合の処理方法については極細繊維及びその集合体を反応容器に入れてバッチ式で行う方法や、連続的に処理するなど適宜選択して行えば良い。処理浴は触媒とアルデヒド類からなり、触媒としては例えば、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、蓚酸、酪酸、乳酸、ベンゼンスルフォン酸、p−トルエンスルフォン酸、硼酸または塩化亜鉛や酢酸亜鉛のような金属との塩あるいはこれらの混合物等の酸性触媒、或いは水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンのようなアミン類或いはこれらの混合物等の塩基性触媒が挙げられるがこれらに限定されるものではない。更に使用されるアルデヒド類としては以下に例示したアルデヒド類に限定されるものではないが、例えばホルムアルデヒド、トリオキサン、フルフラール、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メチルヘミホルマール、エチルへミホルマール、プロピルへミホルマール、サリチルアルデヒド、ブチルヘミホルマール、フェニルへミホルマール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α−フェニルプロピルアルデヒド、β−フェニルプロピルアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、o―メチルベンズアルデヒド、m−メチルベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、p−エチルベンズアルデヒド、p−n−ブチルベンズアルデヒド等、或いはこれらの混合物等が使用できる。このうち、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドが好ましく、特にホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが最も好ましい。
【0033】
エレクトロスプレーデポジッション法で得られた極細繊維および集合体の硬化反応方法としては液相にて60℃以上110℃未満に3時間以上30時間未満加熱して硬化させることが一般的であるが、気相下で加熱して行っても良い。更には前述した通常硬化反応の後、水洗乾燥後、窒素・ヘリウム・炭酸ガス等の不活性ガス中100℃〜300℃の温度で加熱することにより硬化させる等、公知の硬化処理を行うことができる。この硬化処理が終了した時点でフェノール樹脂繊維が充分な強度を持った状態となり、本発明の極細フェノール樹脂繊維及びその集合体を得ることができる。
【0034】
一方、用いたフェノール樹脂類がレゾール型の場合は湿熱あるいは乾熱法で加熱処理を行うことで硬化処理させることができる。熱処理条件は100℃〜220℃、好ましくは120℃〜180℃で5分から120分、好ましくは20分から60分硬化させる方法が良い。
【0035】
極細フェノール樹脂繊維及びその集合体の炭素化、さらにはその後賦活するには、従来の公知の方法に従えば良い。例えば、炭素化で使用される不活性ガスとしては窒素、アルゴン等が挙げられる。炭素化の温度は例えば600℃〜1200℃の範囲で、より好ましくは800℃〜1000℃の範囲で決定すれば良い。
【0036】
また、更に賦活して活性炭素とするためには例えば、前述の通り窒素、アルゴン等の不活性ガス中で、600℃以上で炭素化した後、水蒸気、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素、酸素あるいはこれらを混合した賦活ガスを用いるガス賦活法や水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、ホウ酸、リン酸、硫酸、塩酸などの無機塩類、塩化亜鉛などの無機塩類などの存在下で賦活を行う薬剤賦活法などの賦活方法を用いて効率良く活性炭素を得ることができる。
【0037】
本発明による極細フェノール樹脂活性炭素繊維及びその集合体は、前述の極細フェノール樹脂繊維及びその集合体を炭素化し、一旦極細フェノール樹脂炭素繊維及びその集合体を得た後、これを賦活する方法は勿論、あるいは極細フェノール樹脂繊維及びその集合体を連続して炭素化、賦活しても良く、いずれによる方法においても得る事が出来る。
【0038】
本発明で得られる極細フェノール樹脂繊維及びその集合体は従来のフェノール樹脂繊維と同様、良好な耐熱性・難燃性・耐薬品性等の諸性能を有するため、合成樹脂、ゴムとの複合材、産業用シート、グランドパッキン、ジョイントシート、ガスケット、電線・光ファイバー被覆材料、難燃フェルト、難燃紙、摩擦材等の従来同様の用途に加え極細繊維径を利しての高性能のフィルター類や電解コンデンサーや電気二重層キャパシタ用セパレーター等などの用途で使用可能である。
【0039】
さらに本発明で得られる極細フェノール樹脂炭素繊維及びその集合体は導電、制電材料、電磁波遮蔽、耐蝕機器、ろ過材、摺動材、高温断熱材、グランドパッキン、アブレージョン材等での用途展開が可能である。
【0040】
また本発明で得られる極細フェノール樹脂極細活性炭素繊維及びその集合体は電気二重層キャパシタ、医療用防臭材、空気浄化用フィルター、マスク、各種溶液中の溶存物質の吸着材、気体中の溶剤回収、生物化学物質防護衣、人工臓器の吸着材などで使用可能である。
【0041】
以上の様に本発明の極細フェノール樹脂繊維及び極細フェノール樹脂炭素繊維及び極細フェノール樹脂極細活性炭素繊維は産業界のあらゆる分野での展開を可能ならしめるものである。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
フェノール1000g、37%ホルマリン733g、シュウ酸5gを還流冷却器を備えた反応容器に仕込み、40分間で常温から100℃に昇温させ、更に100℃で4時間反応させた後、200℃まで加熱して脱水濃縮した後、冷却してノボラック型フェノール樹脂を得た。
【0044】
この樹脂100gとメタノール200gを還流冷却器と攪拌機付のフラスコに入れ、25℃で攪拌を行った。15分の攪拌で完全に溶解し粘調樹脂溶液を得た。25℃における溶液の粘度をオストワルド粘度計で測定した結果は16mPa・sであった。
【0045】
この樹脂溶液をエレクトロスプレーデポジッション装置の溶液タンクに入れた。溶液タンクは内径10mmのガラス管につながっており、さらにその先端は50μm径のキャピラリーになっている。キャピラリーの下には200mmの間隔をおいて100mm四方の対電極板(コレクタ)がある。コレクタ上にはアルミ箔を敷いてある。キャピラリー中には白金製の電極針が挿入されている。キャピラリー内電極とコレクタ間に15kVの印加電圧(1kV/cm)を与えたところコレクタ上に極細フェノール樹脂繊維がシート状に堆積するのが確認できた。およそ100μmの厚みになるまでスプレーを続けた。この時の溶液供給量は約10μm/minの堆積速度となるよう調整した。
【0046】
得られたシートをアルミ箔から剥がし、フラスコに入れ、塩酸15%、ホルムアルデヒド8%の水溶液に常温で30分間浸漬した後、2時間で98℃まで昇温し、更に98℃で2時間保持した。シートを取り出し、充分に水洗した後、3%アンモニア水溶液で60℃、30分の中和を行った後、再度充分に水洗した。これを90℃、30分間乾燥することでシート状の極細フェノール樹脂繊維集合体を得ることができた。この繊維をレーザー顕微鏡にて観察したところ繊維直径約300nm〜500nm、連続状の極細フェノール樹脂繊維であることを確認した。得られた極細フェノール樹脂繊維の中から長さが25mm以上の繊維を取り強度試験を行った結果を表1に示す。また、耐熱性・難燃性・耐薬品性の試験結果を表2に示す。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1で得られた極細フェノール樹脂繊維集合体を試験炭素化炉に入れ、窒素気流中900℃、30分の条件で炭素化し、繊維直径200nm〜400nm、連続状の極細フェノール樹脂炭素繊維から成る集合体を得た。集合体から炭素繊維の一部を取り出し、強度試験及び収率、体積抵抗を測定した結果を表1に示す。
【0048】
〔実施例3〕
実施例1で得られた極細フェノール樹脂繊維集合体を内径70mmの石英管に入れ室温から5℃/分の昇温速度で900℃まで昇温した。この時点で予め80℃に調整されている温水中に窒素ガスを導入し窒素・水蒸気の混合ガスを石英管に10分間導入した。続いて窒素のみを導入しながら冷却し、極細フェノール樹脂活性炭素繊維集合体を得た。得られた極細フェノール樹脂活性炭素繊維集合体の比表面積と収率を測定した結果を表1に示す。
【0049】
〔比較例1〕
実施例1で用いたフェノール樹脂(フェノール1000g、37%ホルマリン733g、シュウ酸5gを還流冷却器を備えた反応容器に仕込み、40分間で常温から100℃に昇温させ、更に100℃で4時間反応させた後、200℃まで加熱して脱水濃縮した後、冷却してノボラック型フェノール樹脂)を粗粉砕し200℃のメルターで溶融し、170℃に保った孔径0.1mm、ホール数10の紡糸口金から一定吐出量を保ちながら最高速度である紡糸速度1500m/分での紡糸を試みたが、糸切れが多発したため、800m/分まで紡糸速度を落とし、出来得る限りの細い未硬化フェノール繊維を得た。
【0050】
得られた糸條を25mmにカットし、これをフラスコに入れ、塩酸15%、ホルムアルデヒド8%の水溶液に常温で30分間浸漬した後、2時間で98℃まで昇温し、更に98℃で2時間保持した。繊維を取り出し、充分に水洗した後、3%アンモニア水溶液で60℃、30分の中和を行った後、再度充分に水洗した。これを90℃、30分間乾燥した。得られた繊維の直径は約10.5μ、1デニールのフェノール繊維であった。この繊維の耐熱性・難燃性・耐薬品性の試験結果を表2に示す。
【0051】
〔比較例2〕
比較例1で得られたフェノール繊維を実施例2と同条件にて炭化しフェノール炭素繊維を得た。得られた炭素繊維を取り出し強度試験及び収率、体積抵抗測定を行った結果を表1に示す。
【0052】
〔比較例3〕
比較例1で得られたフェノール繊維を実施例3と同条件にて炭化・賦活しフェノール樹脂活性炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の比表面積と収率を測定した結果を表1に示す。
【0053】
次に、実施例3、比較例3で得た活性炭素繊維を用いて電気二重層キャパシタを作成し、その静電容量を比較した。静電容量は実施例3、比較例3で得られた活性炭素繊維に導電助剤としてカーボンブラックを10重量%加え、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレンを7重量%添加し厚さ1mmになるよう圧延成形した後、電極用シートを10mm×10mmにカットし、このシート2枚を絶縁性多孔質セパレーターを介して対向させ、電解液として1mol/L濃度の四フッ化ホウ酸テトラエチルアンモニウムのプロピレンカーボネート溶液を含浸させた後、両外側を集電体として白金で挟み込み、電気二重層キャパシタを作成し、これを静電容量測定用サンプルとした。試験用セルに充電電圧2.3Vの電圧を印加し、40mA/gの電流密度で充電、放電を20回繰り返した。10回目から20回目の放電エネルギーの平均値から容量を求めた。測定の結果を表3に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋化した熱不融性・難燃性のフェノール樹脂を主体として、極細繊維及びその集合体を形成し、その直径が2nm以上、5μm未満であることを特徴とする極細フェノール樹脂繊維及びその集合体。
【請求項2】
請求項1の極細フェノール樹脂繊維及びその集合体を炭素化することで得られる極細フェノール樹脂炭素繊維及びその集合体。
【請求項3】
請求項1の極細フェノール樹脂繊維及びその集合体を炭素化・賦活することで得られる極細フェノール樹脂活性炭素繊維及びその集合体。
【請求項4】
請求項1に記載の極細フェノール樹脂繊維及びその集合体が、フェノール樹脂を有機溶剤に溶解した溶液をエレクトロスプレーデポジッション法により製造することを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2007−70738(P2007−70738A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255849(P2005−255849)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】