説明

極細ポリアミド系繊維の製造方法

【課題】連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を、第1の樹脂成分を十分に除去した態様で得ることができ、複合繊維をボビンに巻き付けた状態で減量工程に供した場合でも、ボビンに変形を生じさせることのない、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分、及び該溶液によって除去が困難なポリアミド系樹脂成分を含む、複合繊維を紡糸、延伸し、該延伸した複合繊維の繊維長が8%以上収縮するように、収縮させ、ついで第1の樹脂成分を該溶液によって除去する工程を設ける、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極細ポリアミド系繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系樹脂は、耐アルカリ性など耐薬品性に優れ、親水性が高いという特性を有している。そのため、ポリアミド系樹脂は繊維形状に加工されると共に、例えば織物や不織布などの繊維シートに加工されて、衣類、エアバッグ基材、ベルト基材、電気自動車に使用されているアルカリ二次電池や各種の電気機器に使用されている電気化学キャパシタ用のセパレータなどとして、広く使用されている。
【0003】
特に、繊維径の小さなポリアミド系繊維からなる繊維シートは、表面積が大きく保液性に優れる繊維シートとなることから、極細ポリアミド系繊維の効率の良い製造方法が求められている。
【0004】
極細ポリアミド系繊維を得る方法として、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分、及び、該溶液によって除去が困難なポリアミド系樹脂成分を含む複合繊維を織物とし、その後、該織物から前記第1の樹脂成分を除去することによる、極細ポリアミド系繊維からなる織物の製造方法(特許文献1)が知られている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明では、織物の態様で極細ポリアミド系繊維を得る方法が開示されているのみであり、極細ポリアミド系繊維を加工性が良い態様で得ることができない。
【0006】
また、極細ポリアミド系繊維を得る別の方法として、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分、及び、該溶液によって除去が困難なポリアミド系樹脂成分を含む複合繊維を、20mm以下の繊維長となるように切断した後、これを袋に封入した状態で該複合繊維から前記第1の樹脂成分を、加熱条件下で所定の溶液によって除去する製造方法(特許文献2)が知られている。
【0007】
しかしながら、特許文献2の発明は、抄造用極細短繊維の製造を目的とする発明であり、繊維長が20mm以下の長さに切断されてなる短繊維の態様でしか極細ポリアミド系繊維を得ることができないため、20mm以上の連続した繊維長を有する態様で極細ポリアミド系繊維を得ることができない。
【0008】
そこで本願発明者らは、加工性が良い連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を得るため、
(1)所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分、及び、該溶液によって除去が困難なポリアミド系樹脂成分を含む、複合繊維を紡糸する工程(以下、紡糸工程と称する)、
(2)複合繊維を延伸する工程(以下、延伸工程と称する)、
(3)延伸した複合繊維を固定した状態として、該延伸した複合繊維から、該第1の樹脂成分を該溶液によって除去する工程(以下、減量工程と称する)、
を含むことを特徴とする、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法を試みた。
【0009】
しかしながら、上述の方法で連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を得ようとする場合、延伸した複合繊維を、例えば、ボビンに巻き付けることで固定した状態、あるいは、箱や袋に納めて固定した状態として、延伸した複合繊維から第1の樹脂成分を加熱条件下で除去しようとすると、延伸した複合繊維が加熱されることで繊維長方向に収縮して、延伸した複合繊維の第1の樹脂成分と、所定の溶液とが接触しにくくなる。
【0010】
その結果、延伸した複合繊維から第1の樹脂成分が十分に除去されず、極細ポリアミド系繊維を得ることができない、という問題が生じるものであった。
【0011】
また、延伸した複合繊維をボビンに巻き付けた態様で減量工程に供した場合、延伸した複合繊維が繊維長方向に収縮してボビンに巻き締まり、ボビンに変形を生じさせてしまう、という問題が生じるものであった。
【0012】
さて、ポリアミド系樹脂成分は高温下におかれると、内部の残留ひずみが緩和され結晶化が進み、この結果、ポリアミド系樹脂成分の寸法が小さくなることが知られている。上述の問題は、減量工程において複合繊維中のポリアミド系樹脂成分の寸法が小さくなり、複合繊維の繊維長方向へ収縮が生じたことに起因するものであると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009-242958号公報(特許請求の範囲、0017-0018、0050-0051)
【特許文献2】特開平10-88476号公報(特許請求の範囲、0010-0014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述した従来技術が有する課題に鑑みてなされたもので、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を、第1の樹脂成分を十分に除去した態様で得ることができ、複合繊維をボビンに巻き付けた状態で減量工程に供した場合でも、ボビンに変形を生じさせることのない、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、
「(1)所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分、及び、該溶液によって除去が困難なポリアミド系樹脂成分を含む、複合繊維を紡糸する工程、
(2)複合繊維を延伸する工程、
(3)延伸した複合繊維を、該延伸した複合繊維の繊維長が8%以上収縮するように、収縮させる工程、
(4)収縮した複合繊維を固定した状態として、該収縮した複合繊維から、該第1の樹脂成分を該溶液によって除去する工程、
を含むことを特徴とする、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法。」
である。
【0016】
請求項2に係る発明は、
「(3)延伸した複合繊維を、該延伸した複合繊維の繊維長が8%以上収縮するように、収縮させる工程、と
(4)収縮した複合繊維を固定した状態として、該収縮した複合繊維から、該第1の樹脂成分を該溶液によって除去する工程、との間に、
(3’)該収縮した複合繊維を、繊維長方向に収縮させることなく加熱する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法。」
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1によれば、極細ポリアミド系繊維の製造方法において「延伸した複合繊維を、該延伸した複合繊維の繊維長が8%以上収縮するように、収縮させる工程」(以下、収縮工程と称する)を設けることによって、本発明は以下の効果を奏することを見出した。
【0018】
減量工程において、複合繊維が繊維長方向に収縮することが防がれるため、
(a)複合繊維から第1の樹脂成分を十分に除去することができる、
(b)複合繊維をボビンに巻き付けた状態で減量工程に供した場合でも、ボビンの変形を防ぐことができる、
連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法である。
【0019】
また、本発明の請求項2によれば、「(3)延伸した複合繊維を、該延伸した複合繊維の繊維長が8%以上収縮するように、収縮させる工程、と
(4)収縮した複合繊維を固定した状態として、該収縮した複合繊維から、該第1の樹脂成分を該溶液によって除去する工程、との間に、
(3’)該収縮した複合繊維を、繊維長方向に収縮させることなく加熱する工程」(以下、加熱結晶化工程と称する)を設けることによって、上述の効果に優れる、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法であることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法においては、まず、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分、及び、該溶液によって除去が困難なポリアミド系樹脂成分を含む、複合繊維を紡糸する紡糸工程、を実施する。
【0021】
なお、本発明でいう「除去可能」とは、所定の溶液によって第1の樹脂成分の95質量%以上を除去できることをいい、「除去が困難」とは、第1の樹脂成分を除去する条件下において、所定の溶液によってポリアミド系樹脂成分が30質量%以下しか除去されないことをいう。
【0022】
また、本発明でいう「連続した繊維長を有する」とは、100mm以上の繊維長を有することを指す。
【0023】
このような「所定の溶液」と「第1の樹脂成分」の組合せの例として、アルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム溶液)とポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート系共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート系共重合体などの芳香族系ポリエステル樹脂や、ポリグリコール酸、グリコール酸共重合体、ポリ乳酸、乳酸共重合体など脂肪族系ポリエステル樹脂)の組合せを挙げることができる。
【0024】
そして「所定の溶液」と「該溶液によって除去が困難なポリアミド系樹脂成分」の組合せの例として、アルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム溶液)とポリアミドイミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂(ナイロン6樹脂、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66など)の組合せを挙げることができる。
【0025】
なお、ポリアミド系樹脂成分は、例えば、吸湿剤、艶消し剤、顔料、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、着色剤、染色剤、導電剤、親水化剤、脱臭剤、或いは抗菌剤などの機能性物質を含んでいても良い。
【0026】
更に、第1の樹脂成分およびポリアミド系樹脂成分は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機ポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
【0027】
本発明の複合繊維における、第1の樹脂成分とポリアミド系樹脂成分との繊維断面における配置状態は特に限定するものではないが、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型などの配置を挙げることができる。これらの中でもより繊維径の小さい極細ポリアミド系繊維を製造しやすいように、配置状態は海島状配置であるのが好ましい。
【0028】
また、ポリアミド系樹脂成分の横断面形状(つまり、減量工程の後に得られる極細ポリアミド系繊維の横断面形状)は、円形又は非円形(例えば、楕円状、長円状、T状、Y状、+状、中空状、多角形状など)であることができる。
【0029】
上述の複合繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)など公知の方法により得ることができる。
【0030】
例えば、海島状複合繊維を紡糸する場合には、繊維径の揃った極細ポリアミド系繊維を製造できるように、混合紡糸法ではなく、複合紡糸法により複合繊維を紡糸するのが好ましい。
【0031】
このようにして得られる複合繊維の繊度は、複合繊維を構成する樹脂成分やその横断面形状、後述する、延伸工程、収縮工程、減量工程などの諸条件によって、適宜、調整されるべきものであり限定されるものではないが、紡糸安定性確保のため1〜50dt(デシテックス)であるのが好ましく、3〜30dt(デシテックス)であるのがより好ましく、5〜20dt(デシテックス)であるのが最も好ましい。
【0032】
なお、本発明でいう「繊度」は、JIS L1015 化学繊維ステープル試験方法に基づき測定する。
【0033】
更に、上述のようにして得られる連続した繊維長を有する複合繊維を、以下に説明する各工程に供することで、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を得ることができる。この時、生産性を向上させるために、連続した繊維長を有する複合繊維を複数本束ねたトウ状態で、以下に述べる各工程に供するのが好ましい。
【0034】
次いで、このようにして紡糸された連続した繊維長を有する複合繊維を、繊維長方向に延伸する。
【0035】
複合繊維の延伸方法は、ポリアミド系樹脂成分を好適に延伸できる方法であれば特に限定されないが、例えば、レーザーを照射しながら延伸する方法、絶対圧が2kg/cm以上の加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸する方法(特開平11−350283号に記載の延伸方法)、熱水中で延伸する方法、などにより実施できる。
【0036】
なお、複合繊維の破断など無く安定して延伸するために、複合繊維を構成する樹脂成分の全てが可塑化して変形しうる温度条件下で、複合繊維を延伸するのが好ましい。
【0037】
また、この際の複合繊維の延伸倍率は、強度の優れる極細ポリアミド系繊維を得やすいように、2倍以上であるのが好ましく、3倍以上であるのがより好ましい。
【0038】
更に、延伸回数は1段階の延伸に限定されるものではなく、多段階で延伸を行うこともできる。この時の各延伸段階の延伸倍率およびその延伸倍率の組み合わせは、適宜、調整するのが好ましい。
【0039】
次いで、連続した繊維長を有する延伸した複合繊維の繊維長を、8%以上収縮させることで、複合繊維を構成するポリアミド系樹脂成分の、内部の残留ひずみを緩和して結晶化させる。
【0040】
複合繊維の収縮方法は、ポリアミド系樹脂成分を収縮できる方法であれば特に限定されないが、例えば、レーザーを照射することで収縮させる方法、絶対圧が2kg/cm以上の加圧飽和水蒸気雰囲気下に導くことで収縮させる方法、熱水中に導くことで収縮させる方法、などにより実施できる。
【0041】
なお、延伸した複合繊維を構成するポリアミド系樹脂成分の、残留ひずみ緩和され、結晶化が好適に進行するように、収縮の処理は、延伸工程で複合繊維が曝された温度以上の高い温度条件下で行うのが好ましい。延伸した複合繊維を収縮させる際の温度は、延伸した複合繊維を安定して収縮させるため50℃〜180℃で行うのが好ましく、60℃〜150℃で行うのがより好ましく、80℃〜120℃で行うのが最も好ましい。
【0042】
また、延伸した複合繊維は必要以上に張力を与えない状態で、収縮処理されるのが好ましい。延伸した複合繊維を、例えば、ボビンに巻き付けることで固定した状態、あるいは、箱や袋に納めて固定した状態として、延伸した複合繊維が収縮し難い状態で収縮処理に供すると、延伸した複合繊維を構成するポリアミド系樹脂成分の内部の残留ひずみが緩和されにくくなり、結晶化が進みにくく、この結果、延伸した複合繊維が収縮しにくくなるおそれがある。
【0043】
そのため、延伸した複合繊維を収縮処理に供する際、延伸した複合繊維を収縮させる手段の入口における移動速度を該手段の出口における移動速度よりも速くするのが好ましい。通常これは、「オーバーフィード率=((入口速度−出口速度)/入口速度)*100」で表される。
【0044】
本発明では、収縮処理において複合繊維が弛むことのないように、オーバーフィード率を調整して複合繊維を収縮処理する。そのため、延伸した複合繊維が繊維長の方向に収縮した収縮割合を百分率で示したものと、オーバーフィード率は一致する。
【0045】
なお、収縮工程における延伸した複合繊維の繊維長の収縮割合が、8%よりも少ないと、後述する減量工程において、延伸した複合繊維が繊維長方向に収縮することを十分に防ぐことができない。そして、後述する減量工程で、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維同士が収縮することで密着し、極細ポリアミド系繊維束から所定の溶液を十分に洗浄除去できなくなる傾向がある。
【0046】
また、収縮工程における延伸した複合繊維の繊維長の収縮割合が、13%よりも多いと、最終的に得られる、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の耐薬品性が低下する傾向があり、得られた極細ポリアミド系繊維の使用用途が狭まる恐れがある。
【0047】
更に、収縮工程における複合繊維の繊維長の収縮割合が、10%よりも多いと、後述する減量工程で、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維が固定物から巻き崩れ、固定物に極細ポリアミド系繊維が密に偏在する部位が生じてしまい、該部位から所定の溶液を十分に洗浄除去できなくなる傾向がある。
【0048】
そのため、収縮工程における延伸した複合繊維の繊維長の収縮割合は、8〜13%の範囲であるのがより好ましく、8〜10%の範囲であるのが最も好ましい。
【0049】
本発明に係る極細ポリアミド系繊維の製造方法においては、収縮工程を経て収縮した複合繊維を、後述する減量工程へと次いで供することができるが、収縮した複合繊維を以下に説明する加熱結晶化工程へと供してから、減量工程へと供しても良い。
【0050】
加熱結晶化工程によって、収縮した複合繊維を構成するポリアミド系樹脂成分の、内部の残留ひずみを緩和して結晶化を進めることができて、減量工程において極細ポリアミド系繊維が繊維長方向へ収縮することを、更に抑えることができる。
【0051】
ここでいう加熱結晶化工程とは、例えば、オーバーフィード率が実質的に0%となるように調整された熱セットロールに収縮した複合繊維を導く、あるいは、穴あきボビンなどの固定物に収縮した複合繊維を巻き付けた後加熱する、などして繊維長方向に張力を作用させた状態で収縮した複合繊維を加熱する工程を指す。
【0052】
熱セットロールを用いる場合、加熱結晶化工程で使用する熱セットロールの本数は、収縮した複合繊維を好適に加熱結晶化することができるように、適宜、調整するのが好ましい。複数本の熱セットロールを使用する場合、最初と最後に収縮した複合繊維に接する熱セットロールにおける、オーバーフィード率が実質的に0%となるように、各熱セットロールの回転速度を調整する。
【0053】
また、収縮した複合繊維を好適に加熱結晶化することができるように、熱セットロールの表面温度は、適宜、調整するのが好ましい。表面温度が同じ複数本の熱セットロールを用いる、あるいは、表面温度が互いに異なる複数本の熱セットロールを用いることで、収縮した複合繊維を加熱結晶化することができる。表面温度が互いに異なる複数本の熱セットロールを用いる場合、収縮した複合繊維に収縮斑が発生することを防ぐために、最初に収縮した複合繊維と接する熱セットロールの温度よりも、最後に収縮した複合繊維と接する熱セットロールの温度を低くして、収縮した複合繊維を加熱するのが好ましい。
【0054】
なお、収縮した複合繊維を構成するポリアミド系樹脂成分の、残留ひずみ緩和され、結晶化が好適に進行するように、加熱結晶化工程において収縮した複合繊維を加熱する温度は、収縮工程以上の高い温度条件下で行うのが好ましい。加熱を行う際の温度は、繊維の物性が変化しないように80℃〜180℃で行うのが好ましく、90℃〜150℃で行うのがより好ましく、100℃〜130℃で行うのが最も好ましい。
【0055】
次いで、連続した繊維長を有する収縮した、あるいは、加熱結晶化工程を経た収縮した複合繊維(本発明では、いずれの場合も「収縮した複合繊維」と表記する)を固定した状態として、収縮した複合繊維から、第1の樹脂成分を加熱条件下において除去可能な溶液で処理して、該収縮した複合繊維から前記第1の樹脂成分を除去することで、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を得る。
【0056】
なお、本発明において「固定した状態」とは、複合繊維が繊維長方向へ収縮する際に繊維長方向に張力が作用するようにした状態を指す。
【0057】
例えば、第1の樹脂成分がポリエステル系樹脂からなる収縮した複合繊維の場合には、収縮した複合繊維にアルカリ水溶液を処理してポリエステル系樹脂を除去することで、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を得ることができる。なお、除去方法としては、例えば、チーズ染色機を用い穴あきボビンに収縮した複合繊維を巻き付けた状態でアルカリ水溶液等の溶液を循環させる方法、複合繊維を束ね、固定した状態として箱や袋に納めてアルカリ水溶液等の溶液と接触させる方法、複合繊維を箱や袋に納めるとともに荷重して固定した状態で、アルカリ水溶液等の溶液と接触させる方法などを挙げることができる。
【0058】
第1の樹脂成分を加熱条件下において除去可能な溶液に、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を添加しても良い。
本発明に係る連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を調製可能である限り、使用できる界面活性剤の種類は特に限定されるものではないが、カチオン系界面活性剤として、例えば、第4級アンモニウム塩型界面活性剤などを挙げることができ、ノニオン系界面活性剤として、例えば、ポリエチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、りん酸エステル塩型界面活性剤などを挙げることができ、両性界面活性剤として、例えば、ベタイン型界面活性剤、スルホベタイン型界面活性剤、アルキルベタイン型界面活性剤などを挙げることができる。
これら界面活性剤は、前記溶液へ単独で添加することもできるが、前記溶液へカチオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を共に添加するなど、複数種類を添加することもできる。
【0059】
前記溶液にカチオン系界面活性剤を添加すると、複合繊維から第1の樹脂成分を除去する効率が向上して抽出速度を向上することができる。また、前記溶液にノニオン系界面活性剤を添加すると、第1の樹脂成分を除去して形成した連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維をノニオン系界面活性剤が被覆することで、熱と通液の圧力により連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維同士が圧着するのを防止できる。なお、前記溶液に両性界面活性剤を添加すると、カチオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を添加した際の作用効果が共に得られる。
【0060】
なお、界面活性剤が添加されていない前記溶液を用いる、あるいは界面活性剤としてカチオン系界面活性剤のみが添加されてなる前記溶液を用いると、ぬめりのない、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維束とすることができる。

また、前記溶液に添加する界面活性剤の質量は特に限定するものではなく、各界面活性剤の前記作用を奏するように適宜調整するのが好ましい。
【0061】
このとき使用する、第1の樹脂成分を加熱条件下において除去可能な、所定の溶液の温度は、収縮した複合繊維から第1の樹脂成分が好適に除去されるように、また、耐薬品性が低下して得られる連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の使用用途が狭まることが防がれるように、70℃〜135℃であるのが好ましく、80℃〜120℃であるのがより好ましく、90℃〜110℃であるのが最も好ましい。
【0062】
上述のようにして、連続した繊維長を有する収縮した複合繊維から、第1の樹脂成分を除去することで、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を得ることができる。この時、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維は、上述のように固定された状態のまま得られる。
【0063】
次いで、固定された状態のまま得られた連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維から、処理に使用した所定の溶液を除去するため、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を洗浄する。
【0064】
連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の洗浄には、例えば、水、アルコール、塩酸水溶液など酸性化合物の溶液、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性化合物の溶液などの洗浄液を、適宜選択して、使用することができる。また洗浄方法としては、例えば、チーズ染色機を用い穴あきボビンに極細ポリアミド系繊維を巻き付けた状態で洗浄液を循環させる方法、箱や袋に納められた極細ポリアミド系繊維を洗浄液と接触させる方法、懸垂型のかせ染色機を用いて洗浄液と接触させる方法、などを挙げることができる。
【0065】
次いで、洗浄に使用した水を除くため、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を遠心脱水やプレス脱水に供する。
【0066】
連続した繊維長を有する複合繊維を、上述の各処理工程へと供することで、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を得ることができる。
【0067】
本発明の極細ポリアミド系繊維の製造方法によれば、例えば、ボビンなどの固定物に巻き付けられた状態、箱や袋に納められた状態など、取り扱い性に優れる態様で、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を、好適に得ることができる。
【0068】
本発明では繊維径が10μm以下の、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を得ることができる。繊維径が細ければ細いほど、濾過性能、電気絶縁性能、柔軟性、隠蔽性、払拭性、保水性などの諸特性に優れる不織布を製造できるため、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の繊維径は4μm以下であるのが好ましく、3μm以下であるのがより好ましく、2.5μm以下であるのが最も好ましい。繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.1μm程度が現実的である。
【0069】
なお、本発明でいう「繊維径」は、繊維の断面を走査型電子顕微鏡により2000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真をもとに、繊維断面を計測し、1/2000倍して算出した直径をいい、繊維断面が非円形の場合には、非円形の繊維断面積を計測し、繊維断面積と同じ面積をもつ円として換算した、該円の直径を繊維径とみなす。
【0070】
本発明では、引張り強さが3cN/dtex以上の、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を得ることができる。引張り強さが強ければ強いほど、強度の優れる不織布を製造できるため、引張り強さは4cN/dtex以上であるのが好ましく、5cN/dtex以上であるのがより好ましく、6cN/dtex以上であるのが更に好ましく、7cN/dtex以上であるのが更に好ましい。なお、引張り強さの上限は特に限定するものではないが、20cN/dtex程度が現実的である。
【0071】
上述のようにして得られた、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維は必要に応じ、例えば、ギロチンカッター、ロータリーカッター、押切りカッターなどを用いて、所望する長さに切断することができる。
【0072】
なお、切断により得られる極細ポリアミド系繊維の繊維長は、特に限定するものではないが、乾式不織布構成繊維とする場合には0.5〜60mmであるのが好ましく、湿式不織布構成繊維とする場合には、0.5〜20mmであるのが好ましい。このようにして得られた特定の繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を用いると、繊維が均一に分散し地合いの優れる不織布を製造することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0074】
(実施例1)
(i)紡糸工程
オストワルド粘度計を用いてオルトクロロフェノール液中で測定される固有粘度IV値が0.6の、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)を海成分(第1の樹脂成分)として、23℃の98%濃硫酸中における樹脂濃度を1質量%として測定した相対粘度が2.8の、ナイロン66樹脂を島成分(ポリアミド系樹脂成分)として選択した。
海島型複合繊維を紡糸できる常法の複合紡糸装置を用いて、海島型複合繊維に存在するPET樹脂とナイロン66樹脂が同一質量となるように、温度290℃の条件下で紡糸を行い、未延伸の海島型複合繊維(繊度:16dtex、海島型複合繊維の横断面形状:円形)を紡糸した。
【0075】
(ii)延伸工程
この未延伸の海島型複合繊維を、88℃の温水が満たされた容器中へと導き、延伸倍率が3.55倍となるように海島型複合繊維を延伸した。
【0076】
(iii)収縮工程
次いで、延伸した海島型複合繊維を、95℃の温水が満たされた容器中へと導き、オーバーフィード率を8%に調整することで、延伸した海島型複合繊維を繊維長の方向に8%収縮させた。
【0077】
(iv)加熱結晶化工程
収縮した海島型複合繊維を70m/minで送り出し、表面温度が100℃に調整された、直径300mmの熱ロール9本の各々の表面に接触させることで、加熱結晶化した海島型複合繊維(繊度:4.9dtex)を、連続した繊維長を有する態様で得た。
このとき、収縮した海島型複合繊維に、最初と最後に接する熱セットロールにおける、オーバーフィード率が実質的に0%となるように、各熱セットロールの回転速度を調整した。
【0078】
(v)減量工程
加熱結晶化した海島型複合繊維を、繊度が14万dtexとなるように束ねたトウを、穴あきボビンに糸巻き状に巻き取り固定した。
加熱結晶化した海島型複合繊維を糸巻き状のまま、第1の樹脂成分を除去可能な溶液である濃度6質量%の水酸化ナトリウム水溶液(溶液温度:98℃)中に浸漬して、水酸化ナトリウム水溶液を3時間循環させることにより、海島型複合繊維から海成分(第1の樹脂成分)を除去した後に、水を循環させることにより洗浄した後、余分な水分を脱水し、穴あきボビンに糸巻き状に巻き取られている態様で、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維を得た。
【0079】
(実施例2〜5、比較例1〜2)
収縮工程におけるオーバーフィード率を調整することで、延伸した海島型複合繊維を収縮させたこと以外は、実施例1と同様にして、穴あきボビンに糸巻き状に巻き取られている態様で、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維を得た。
なお、比較例1の極細ナイロン66繊維の製造方法では、収縮工程におけるオーバーフィード率が0に調整されたものであることから、比較例1の極細ナイロン66繊維は、延伸した海島型複合繊維を実質的に収縮させることなく、加熱結晶化工程次いで減量工程へと供することで得られた、極細ナイロン66繊維である。
【0080】
(実施例6)
加熱結晶化工程を経ることなく、収縮した海島型複合繊維を減量工程へと供したこと以外は、実施例3と同様にして、穴あきボビンに糸巻き状に巻き取られている態様で、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維を得た。
【0081】
(実施例7)
減量工程において使用する、第1の樹脂成分を除去可能な溶液である濃度6質量%の水酸化ナトリウム水溶液(溶液温度:98℃)に対して、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤を3g/Lとなるよう添加したこと以外は、実施例1と同様にして、穴あきボビンに糸巻き状に巻き取られている態様で、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維を得た。
【0082】
(実施例8)
減量工程において使用する、第1の樹脂成分を除去可能な溶液である濃度6質量%の水酸化ナトリウム水溶液(溶液温度:98℃)に対して、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤を3g/Lとなるよう添加すると共に、前記溶液の0.3質量%を占めるようにノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、穴あきボビンに糸巻き状に巻き取られている態様で、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維を得た。
【0083】
以上のようにして得られた、実施例1〜8、比較例1〜2の、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維を、次の測定に供することで評価した。
【0084】
(繊度)
減量工程へと供される前の、収縮した海島型複合繊維又は加熱結晶化した海島型複合繊維の繊度を計測した。
【0085】
(乾熱収縮率の測定)
減量工程へと供される前の、収縮した海島型複合繊維の繊維長(L0)と、該収縮した海島型複合繊維を100℃に調整した乾燥機(ヤマト社製、ギアドライヤー)に10分間静置した後の、該収縮した海島型複合繊維の繊維長(L1)を測定し、次の式で算出された値を乾熱収縮率とする。
乾熱収縮率=((L0−L1)/L0)*100
本発明において乾熱収縮率が低いことは、繊維長方向に収縮することが防がれた収縮した海島型複合繊維又は加熱結晶化した海島型複合繊維であることを示し、換言すれば、乾熱収縮率が低いことは、減量工程における、繊維長方向に収縮することが防がれた収縮した海島型複合繊維又は加熱結晶化した海島型複合繊維であることを示す。
【0086】
(ボビンの変形の測定)
海島型複合繊維を減量工程に供した際に、ボビンに変形が生じたかどうかを評価した。
○:ボビンに変形が生じなかった。
×:ボビンに変形が生じた。
【0087】
(抽出性の測定)
得られた極細ナイロン66繊維の断面の電子顕微鏡写真を撮り、観察し、PET樹脂成分が残留しているかどうかを評価した。
○:PET樹脂成分が残留していない、極細ナイロン66繊維であった。
×:PET樹脂成分が残留している、極細ナイロン66繊維であった。
【0088】
(洗浄性の測定)
ボビンに糸巻き状に巻き取られている態様で得られた、極細ナイロン66繊維束の態様を観察することで、極細ナイロン66繊維束を洗浄性に優れる態様で得ることができたものか評価した。
○:ボビンに変形を生じるほどの巻き締まり、巻き崩れが生じておらず、極細ナイロン66繊維束を洗浄性に優れる態様で得ることができた。
×1:ボビンに変形を生じるほどの巻き締まりが生じたため、極細ナイロン66繊維束を洗浄性に優れる態様で得ることができなかった。
×2:巻き崩れが生じたため、極細ナイロン66繊維束を洗浄性に優れる態様で得ることができなかった。
【0089】
(耐薬品性の測定)
得られた極細ナイロン66繊維を、沸騰する濃度27.5質量%の水酸化カリウム水溶液中に40時間浸して、極細ナイロン66繊維の質量に変化が生じるかどうかを評価した。
○:水酸化カリウム水溶液中への浸漬により、極細ナイロン66繊維における質量の減量が、1.5質量%未満発生した。そのため、得られた極細ナイロン66繊維は耐薬品性に優れるものであった。
×:水酸化カリウム水溶液中への浸漬により、極細ナイロン66繊維における質量の減量が、1.5質量%以上発生した。そのため、得られた極細ナイロン66繊維は耐薬品性に劣るものであった。
【0090】
(繊維径)
得られた極細ナイロン66繊維の、繊維径を計測した。
【0091】
(引張り強さの測定)
得られた極細ナイロン66繊維を61本束ねた状態として、インストロン型引張試験機(テンシロン、TM−111−100、オリエンテック社製)を用いて、その引張り強さを測定した。つまり、前記引張試験機の20mm離れて位置するチャック間に極細ナイロン66繊維束を固定し、50mm/分の定速で引張り、極細ナイロン66繊維束が全て破断するまでの間における、最大張力(引張強さ)を測定した。
測定は計5回行い、その算術平均の値を61で割り、極細ナイロン66繊維1本あたりの引張り強さを算出した。
【0092】
(ぬめりの測定)
減量工程に供することで得られた極細ナイロン66繊維束を観察し、ぬめりが発生しているかどうかを評価した。
○:ぬめりが発生していなかった。
×:ぬめりが発生していた。
【0093】
実施例1〜5、比較例1〜2で得られた極細ナイロン66繊維の諸特性を、表1にまとめた。
【0094】
【表1】

【0095】
実施例3および実施例6で得られた極細ナイロン66繊維の諸特性を、表2にまとめた。
【0096】
【表2】

【0097】
実施例1および実施例7〜8で得られた極細ナイロン66繊維の諸特性を、表3にまとめた。
【0098】
【表3】

【0099】
以上の結果から、収縮工程における延伸した海島型複合繊維の繊維長の収縮割合が8%以上である、実施例1〜8の極細ポリアミド系繊維の製造方法によれば、
(a)PET樹脂成分が残留していない、極細ナイロン66繊維を得ることができたことから、海島型複合繊維から海成分であるPET樹脂を十分に除去することができた、
(b)減量工程における、ボビンの変形を防ぐことができた、
という効果を奏することで、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維を得ることができる、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法である。
【0100】
また、収縮工程における海島型複合繊維の繊維長の収縮割合が8%〜13%である、実施例1〜4、実施例6〜8の極細ポリアミド系繊維の製造方法は、耐薬品性に優れる、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維を得ることができる、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法である。
【0101】
更に、収縮工程における海島型複合繊維の繊維長の収縮割合が8%〜10%である、実施例1〜3、実施例6〜8の極細ポリアミド系繊維の製造方法は、穴あきボビンに糸巻き状に巻き取り固定された状態の、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維束を洗浄性に優れる態様で得ることができた、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法である。
【0102】
また、加熱結晶化工程を経て得られた実施例3の海島型複合繊維は、加熱結晶化工程を経ていない実施例6の海島型複合繊維よりも、乾熱収縮率が小さいものであった。
【0103】
この結果から、収縮工程と減量工程の間に加熱結晶化工程を設けることで、収縮した海島型複合繊維が、減量工程で繊維長方向に収縮することが更に防がれているため、
(a)PET樹脂成分が残留していない、極細ナイロン66繊維を得ることができたことから、海島型複合繊維から、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分を、十分に除去することができた、
(b)減量工程における、ボビンの変形を防ぐことができた、
という効果に優れる、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法である。
【0104】
なお、減量工程において使用する、第1の樹脂成分を除去可能な溶液に界面活性剤を添加して得られた実施例7〜8の極細ナイロン66繊維は、前記溶液に界面活性剤を添加せず得られた実施例1の極細ナイロン66繊維と、諸特性の各値が同一のものであった。
この結果から、本発明に係る連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法によれば、前記溶液に界面活性剤を添加して減量工程へ供した場合であっても、減量工程におけるボビンの変形を防いで、耐薬品性に優れる、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維を、洗浄性に優れる態様で得られることが判明した。
【0105】
特に、実施例1〜7は、ノニオン系界面活性剤が添加されていない前記溶液を用いたため、ぬめりのない態様で、連続した繊維長を有する極細ナイロン66繊維が得られることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維を、第1の樹脂成分を十分に除去した態様で得ることができ、複合繊維をボビンに巻き付けた状態で減量工程に供した場合でも、ボビンに変形を生じさせることのない、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分、及び、該溶液によって除去が困難なポリアミド系樹脂成分を含む、複合繊維を紡糸する工程、
(2)複合繊維を延伸する工程、
(3)延伸した複合繊維を、該延伸した複合繊維の繊維長が8%以上収縮するように、収縮させる工程、
(4)収縮した複合繊維を固定した状態として、該収縮した複合繊維から、該第1の樹脂成分を該溶液によって除去する工程、
を含むことを特徴とする、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法。
【請求項2】
(3)延伸した複合繊維を、該延伸した複合繊維の繊維長が8%以上収縮するように、収縮させる工程、と
(4)収縮した複合繊維を固定した状態として、該収縮した複合繊維から、該第1の樹脂成分を該溶液によって除去する工程、との間に、
(3’)該収縮した複合繊維を、繊維長方向に収縮させることなく加熱する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の、連続した繊維長を有する極細ポリアミド系繊維の製造方法。

【公開番号】特開2012−31552(P2012−31552A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66666(P2011−66666)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】