説明

極細同軸ケーブル及びレーザ光シールド用樹脂組成物

【課題】レーザ光を用いて極細同軸ケーブルの末端を加工する際に、絶縁体や中心導体を損傷することがない極細同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】信号を伝送可能とする中心導体3と、中心導体3の周囲を覆う絶縁体5と、絶縁体5の周囲を覆うシールドとしての外部導体8と、外部導体8の周囲を覆うジャケット8とを備え、絶縁体5は、絶縁性樹脂、カーボンブラック及び焼成顔料を含む樹脂組成物により形成され、前記焼成顔料として、チタン(Ti)、アンチモン(Sb)、クロム(Cr)を含む極細同軸ケーブル1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極細同軸ケーブル及びレーザ光シールド用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される電子機器の小型・軽量化、多機能化が急速に進展している。このような電子機器の内部配線材に対して要求される特性としては、細径であること、遮蔽特性に優れていること、信号の高速伝送が可能であること等が挙げられる。さらに、携帯電話のなかには、LCD画面側の筐体とメインボード側の筐体がヒンジを介して繋がるものが増えてきており、かかる携帯電話に信号伝送を行う内部配線材としては、高い繰り返し屈曲特性が要求される。
【0003】
これらの要求に対応するために、内部配線材として、携帯電話に信号伝送を行う内部配線材として極細同軸ケーブルが使用されている。極細同軸ケーブルは、信号を伝送可能とする中心導体と、中心導体の周囲を覆う樹脂組成物からなる絶縁体と、絶縁体の周囲を覆うシールドとしての外部導体と、外部導体の周囲を覆うジャケットとを備える。
【0004】
極細同軸ケーブルとコネクタを接続するためには、図2に示すように、中心導体3、絶縁体105、外部導体8を所定の長さにロ出しする必要がある。通常のケーブルであれば、回転刃を用いて切断する機械的方法や、エッチング材を使用して口出しする化学的方法により口出しが行われが、極細同軸ケーブルのように線径が細いと、従来の方法では中心導体3を口出しすることが困難である。そのため、レーザ光を用いて中心導体3、絶縁体105、外部導体8のロ出しを行っている。例えば、ジャケット9及び絶縁体105を切断する際には、波長の長いCOレーザ(λ=10.6μm)が用いられ、外部導体8及び中心導体3を切断する際には、波長の短いYAGレーザ(λ=1065nm)もしくはSHGレーザ(λ=530nm)が用いられる。
【0005】
ところが、レーザ光を極細同軸ケーブル101に照射して外部導体8を切断しようとすると、図3に示すように、外部導体8の素線の隙間からレーザ光が内部に侵入することがある。絶縁体105が透明である場合には、レーザ光は絶縁体105を透過して中心導体3に損傷を与え、絶縁体105がレーザ光を吸収しやすい材質である場合には、絶縁体105が焼けて損傷する。また、レーザ光を極細同軸ケーブル101に照射する際に、図4に示すように外部導体8が数本切断されて絶縁体105の一部がむき出しになることもある。レーザ光は1回のみ照射するのではなく数回に分けて外部導体8に照射することから、絶縁体105の一部が損傷を受けた後に、再度レーザ光を照射すると、中心導体3まで損傷する。
【0006】
そのため、YAGレーザ等で極細同軸ケーブルの外部導体8を切断する際に、絶縁体105、中心導体3に損傷が生じない極細同軸ケーブルが求められていた。
【0007】
上記課題を解決する手段として、特許文献1には、絶縁体を構成する樹脂組成物中にカーボンブラックを添加することが記載されている。しかし、耐電圧性が劣る等の改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−25122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、レーザ光を用いて極細同軸ケーブルの末端を加工する際に、絶縁体や中心導体を損傷することがない極細同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、信号を伝送可能とする中心導体と、中心導体の周囲を覆う絶縁体と、絶縁体の周囲を覆うシールドとしての外部導体と、外部導体の周囲を覆うジャケットとを備え、絶縁体は、絶縁性樹脂、カーボンブラック及び焼成顔料を含む樹脂組成物により形成され、前記焼成顔料として、チタン(Ti)、アンチモン(Sb)、クロム(Cr)を含む極細同軸ケーブルを要旨とする。
【0011】
本発明の第2の態様は、絶縁性樹脂、カーボンブラック及び焼成顔料を含み、焼成顔料として、チタン(Ti)、アンチモン(Sb)、クロム(Cr)を含むレーザ光シールド用樹脂組成物を要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レーザ光を用いて極細同軸ケーブルの末端を加工する際に、絶縁体や中心導体を損傷することがない極細同軸ケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、極細同軸ケーブルの断面図を示す。
【図2】図2は、極細同軸ケーブルから中心導体を口出しした状態を示す斜視図を示す。
【図3】図3は、中心導体がレーザー加工時に損傷を受ける原因を説明する概念図(その1)を示す。
【図4】図4は、中心導体がレーザー加工時に損傷を受ける原因を説明する概念図(その2)を示す。
【図5】図5は、極細同軸ケーブルの製造工程の概略図(その1)を示す。
【図6】図6は、極細同軸ケーブルの製造工程の概略図(その2)を示す。
【図7】図7は、極細同軸ケーブルの製造工程の概略図(その3)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。尚、図中同一の機能又は類似の機能を有するものについては、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。
【0015】
[極細同軸ケーブル]
図1は本発明の実施の形態にかかる極細同軸ケーブルの断面図を示す。極細同軸ケーブル1は、信号を伝送可能とする中心導体3と、中心導体3の周囲を覆う絶縁体5と、絶縁体5の周囲を覆うシールドとしての外部導体8と、外部導体8の周囲を覆うジャケット9とを備え、絶縁体5は、絶縁性樹脂、カーボンブラック及び焼成顔料を含む樹脂組成物により形成され、焼成顔料として、チタン(Ti)、アンチモン(Sb)、クロム(Cr)を含む。
【0016】
中心導体3は、AWG(American Wire Gauge)46〜40相当の導体を用いることが好ましい。
【0017】
絶縁性樹脂としては、レーザ光を透過せず、絶縁特性を有するものであれば特に制限されないが、フッ素樹脂、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体からなるPFA樹脂を用いることができる。
【0018】
絶縁性樹脂に対するカーボンブラック及び焼成顔料の添加量は、絶縁性樹脂100質量部に対して、カーボンブラックを0.8〜1.2質量部、焼成顔料を4〜12質量部添加することが好ましい。レーザ光を用いて極細同軸ケーブル1の末端を加工する際に、絶縁体5や中心導体3を損傷することがないからである。さらに、中心導体3と外部導体8間の絶縁耐圧性を向上させる観点からは、絶縁性樹脂100質量部に対して、カーボンブラックを0.8〜1.2質量部、焼成顔料を4〜6質量部添加することが好ましい。
【0019】
焼成顔料としては、チタン(Ti)、アンチモン(Sb)、クロム(Cr)を含むことが好ましく、具体的には、焼成顔料の全質量を基準として、TiOを70〜80質量%、Sbを10〜20質量%、Crを4〜10質量%含むことが好ましい。
【0020】
絶縁体5の膜厚は、AWG46〜40の導体に対して通常実施される膜厚であることが好ましい。絶縁体5の外周に外部導体8が横巻きで撚られていることが好ましい。
【0021】
ジャケットとしては、絶縁特性を有するものであれば特に制限はないが、フッ素樹脂、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体からなるPFA樹脂を用いることができる。
【0022】
[極細同軸ケーブルの製造方法]
(イ)図5に示すような押出成形機11を用意する。押出成形機11は、押出成形機本体11aと、押出成形機本体11aの上部に設けられたホッパー18と、押出成形機本体11aの側部に設けられたダイス13とを有し、さらに、押出成形機本体11aを挟んで配置された、中心導体3を巻き取るための巻き取り機15a,15bを有する。ダイス13は、ダイス13の内部を中心導体3が通過するように構成されている。
【0023】
(ロ)そして、ホッパー18から投入した樹脂組成物(5)を押出成形機本体11a内で加熱混練する。その後、ダイス13から樹脂組成物(5)を押出しながら、ダイス13の内部を通過するように中心導体3を巻き取ることで、中心導体3の周囲に絶縁体5を被覆してケーブル1Aを得る。
【0024】
(ハ)図6に示すように、ケーブル1Aの絶縁体5の外周に、導体巻き装置15により、外部導体8をらせん状に巻きつける。そして、シールドされたケーブル1Bを巻き取り機16aで巻き取る。
【0025】
(ニ)(イ)工程と同様にして、図7の装置を用いて、ケーブル1Bの外周にジャケットを押出被覆する。以上により、図1の極細同軸ケーブル1が製造される。
【0026】
[レーザ光シールド用樹脂組成物]
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0027】
例えば、実施形態に係る極細同軸ケーブルの絶縁体に用いられる樹脂組成物を、レーザ光シールド用樹脂組成物として、以下のような種々の用途に用いることができる。
【0028】
(1)極細同軸ケーブルよりも太いケーブルの絶縁体として用いることができる。これにより、中心導体に損傷を与えることなく、レーザを使用して外部導体を切断することができる。
【0029】
(2)発明に係る極細同軸ケーブルは中心導体、外部導体の2層の導体で構成され同心の構造をしているが、同軸ケーブル以外にも金属の平板が2層以上で構成されるもの(例えばFPC:フレキシブルプリント回路)において、1層目の金属をレーザにより切断する際、下地にレーザ光シールド用樹脂組成物を敷いておくことで、下層の金属に損傷を与えなくなる。
【0030】
(3)金属がレーザ光の波長に近い光に曝される環境におかれている場合、その表面にレーザ光シールド用樹脂組成物を塗布することで金属の損傷を防ぐことができる。
【0031】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0032】
[樹脂組成物の調整]
基材となるテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体からなるPFA樹脂100質量部に対して、カーボンブラック1質量部、焼成顔料10質量部を添加した樹脂組成物1を調製した。また組成比を表2に示す通りに変更して、樹脂組成物1と同様にして樹脂組成物2〜4を調製した。
【0033】
[試験用ケーブルの調製]
AWG46相当の中心導体の外周に、実施形態に係る極細同軸ケーブルの製造方法に準じて、順次、樹脂組成物1からなる絶縁体、外部導体、ジャケットを設けて、実施例1に係る極細同軸ケーブルを作製した。また絶縁体として、樹脂組成物1に代えて樹脂組成物2、3、4を用いたことを除き、実施例1と同様にして,実施例2、比較例1,2に係る極細同軸ケーブルを作製した。
【0034】
[絶縁体の組成比及び評価結果]
実施例1,2、比較例1,2に係る極細同軸ケーブルについて、YAGレーザ及びSHGレーザをそれぞれ用いてジャケット、外部導体を切断した際の、中心導体損傷、絶縁体外観、耐電圧を以下の評価基準に従って観察し評価した。得られた結果をまとめて表2に示す。
【表1】

【0035】
[評価基準]
中心導体損傷:COレーザにより絶縁体を取り除いて中心導体を剥き出しにし、そして、40本の中心導体のうちどれだけの本数が損傷を受けているかを数え、次式にしたがい、損傷を受けた本数をパーセント表示した。
【0036】
中心導体の損傷(%)=(損傷を受けた本数/40本)×100
絶縁体外観:30倍実体顕微鏡を用いて導体中心及び絶縁体の損傷を観察した。そして、良好だったもの(損傷がなかったもの)を「○」、不良だったもの(損傷があったもの)を「×」として評価した。
【0037】
耐電圧:中心導体と外部導体間の耐電圧(絶縁耐圧)試験を行った。耐電圧試験用に、中心導体40本及び外部導体をそれぞれ一括して半田し、そして100Vから始めて極細同軸ケーブルが不良になるまで電圧を上げた。最大電圧を耐電圧とした。
【0038】
総合評価として、極めて良好だったものを「◎」、良好だったものを「○」、不良だったものを「×」として評価した。
【0039】
[考察]
表1より、PFA樹脂に焼成顔料(黄色)を加えた比較例2は、中心導体に損傷が生じた。特許文献1の発明に相当するPFA樹脂にカーボンブラックを混ぜた比較例1は中心導体・絶縁体に損傷はなかったが、耐電圧の値が約500Vであり、耐電圧性がやや劣る結果となった。
【0040】
一方、カーボンブラックの他に焼成顔料(黄色)を加えた実施例1,2は、中心導体や絶縁体外観に損傷もなく、耐電圧性も良好であった。特にPFA樹脂:焼成顔料(黄色):カーボンブラック=100:5:1の割合(質量部)で配合した実施例2は、最も優れた特性を示した。
【0041】
カーボンブラックの他に焼成顔料(黄色)を混ぜることでレーザ光に強くなった理由は定かでないが、カーボンブラックのみを配合した場合、絶縁体は光の一部のみを吸収し、残りは透過するものと考えられる。一方、焼成顔料(黄色)を混ぜることでレーザ光を絶縁体内で反射させる効果が得られたものと考えられる。
【符号の説明】
【0042】
1…極細同軸ケーブル
3…中心導体
5,105…絶縁体
8…外部導体
9…ジャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を伝送可能とする中心導体と、
前記中心導体の周囲を覆う絶縁体と、
前記絶縁体の周囲を覆うシールドとしての外部導体と、
前記外部導体の周囲を覆うジャケットとを備え、
前記絶縁体は、絶縁性樹脂、カーボンブラック及び焼成顔料を含む樹脂組成物により形成され、前記焼成顔料として、チタン(Ti)、アンチモン(Sb)、クロム(Cr)を含むことを特徴とする極細同軸ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁体は、前記絶縁性樹脂100質量部に対して、前記カーボンブラックを0.8〜1.2質量部、前記焼成顔料4〜6質量部含むことを特徴とする請求項1記載の極細同軸ケーブル。
【請求項3】
前記焼成顔料として、前記焼成顔料の全質量を基準として、TiOを70〜80質量%、Sbを10〜20質量%、Crを4〜10質量%含むことを特徴とする請求項1記載の極細同軸ケーブル。
【請求項4】
前記絶縁性樹脂は、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1記載の極細同軸ケーブル。
【請求項5】
絶縁性樹脂、カーボンブラック及び焼成顔料を含み、
前記焼成顔料として、チタン(Ti)、アンチモン(Sb)、クロム(Cr)を含むことを特徴とするレーザ光シールド用樹脂組成物。
【請求項6】
前記絶縁性樹脂100質量部に対して、前記カーボンブラックを0.8〜1.2質量部、前記焼成顔料4〜6質量部含むことを特徴とする請求項5記載のレーザ光シールド用樹脂組成物。
【請求項7】
前記焼成顔料として、前記焼成顔料の全質量を基準として、TiOを70〜80質量%、Sbを10〜20質量%、Crを4〜10質量%含むことを特徴とする請求項5記載のレーザ光シールド用樹脂組成物。
【請求項8】
前記絶縁性樹脂は、フッ素樹脂であることを特徴とする請求項5記載のレーザ光シールド用樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−257899(P2010−257899A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109747(P2009−109747)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】