説明

極細繊維およびその製造方法

【課題】細繊度かつ高い品位の高分子電解質繊維集合体が得られる極細繊維及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】特定のポリアリーレンエーテル系化合物からなることを特徴とする平均繊維径0.01〜1μmの極細繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細繊維およびその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、極めて小さい繊度であって、高い品位の高分子電解質繊維集合体が得られる極細繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極細繊維は、汎用繊維と比較して繊維径が非常に細いために、比表面積が大きい、柔軟である等の利点があり、医療分野や高性能フィルター部材などの分野で応用が期待されている。また、極細繊維を燃料電池電極材料、リチウム二次電池セパレータ材料などに応用した場合、非常に軽量な材料を提供することができるため、装置の軽量化小型化が可能であり、省エネルギー化も期待される。
【0003】
かかる極細繊維を製造する方法の一つとして、静電紡糸法が知られている。静電紡糸法とは、高分子溶液に高電圧を印加し、繊維を作製する方法である。かかる静電紡糸法においては、常温常圧下で容易に極細繊維の作製が可能であることから、近年多くの研究がなされている。
【0004】
電極やセパレータ用途、イオン交換繊維用途を目的とし、高分子電解質の極細繊維化の要請が強くなっているが、荷電紡糸法では、ポリマー溶液に高電圧を印加した際に、該溶液の表面に電荷が蓄積し、電荷同士が反発することによって繊維化し、その過程において、溶液中の溶媒が蒸発することでポリマーが固化し、極細繊維を得るが、電極やセパレータ用途、イオン交換繊維用途で用いられる高い導電性をもつポリマーは、ポリマー溶液中を電気が流れ易いため、該溶液表面に電荷が蓄積しにくく、紡糸中に繊維表面で電荷の反発が起こらないために、曳糸性が低くなって、ポリマー単独で静電紡糸が困難となり、荷電紡糸によって電極等の用途に適した繊維を得ることができなかった。このような状況下、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンの共重合体を用いた検討において、ゾルーゲル法を利用し、さらに曳糸性のよい他高分子成分と混合することによって、繊維化を促進するという試みがなされている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
しかし、他成分と混合すると高分子電解質の純度が低くなること、単体で得るためには第2成分を除去する必要があること、単体での収率が低下すること等の問題がある。さらに、ゾルーゲル法を用いた手法では、紡糸原液内でも反応が進行するため、制御が困難であり、細繊度の繊維を安定に得ることができないという問題がある。また、静電紡糸法を用いて作製した高分子繊維集合体を化学的に処理し、スルホン酸基や四級塩基を導入する方法も考えられるが、後工程を必要とするために、製造コストが上昇するという問題がある。
【特許文献1】特開2007−327148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題を背景になされたもので、細繊度かつ高い品位の高分子電解質繊維集合体が得られる極細繊維及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(a)化学式(1)とともに化学式(2)で示される構成成分を含むポリアリーレンエーテル系化合物からなることを特徴とする平均繊維径0.01〜1μmの極細繊維。
【0008】
【化1】

(ただし、Arは2価の芳香族基、Yはスルホン基又はケトン基、RはHまたはSOX(XはH又は1価のカチオン種)を、mは1以上の整数を示す。)
示す。)
【0009】
【化2】

(ただし、Ar'は2価の芳香族基を、nは1以上の整数を示す。)
(b)前記化学式(1)とともに化学式(3)で示される構成成分を含むポリアリーレンエーテル系化合物からなることを特徴とする平均繊維径0.01〜1μmの極細繊維。
【0010】
【化3】

(ただし、Ar'は2価の芳香族基を、oは1以上の整数を示す。)
(c)化学式(4)とともに化学式(5)で示される構成成分を含むポリアリーレンエーテル系化合物からなることを特徴とする(a)又は(b)に記載の極細繊維。
【0011】
【化4】

(ただし、RはHまたはSOX(XはH又は1価のカチオン種)を,pは1以上の整数を示す。)
【0012】
【化5】

(ただし、qは1以上の整数を示す。)
(d)樹脂と有機溶媒とからなる溶液を調製し、次いで得られた溶液を静電紡糸法により紡糸し、(a)〜(c)いずれかに記載の極細繊維を得ることを特徴とする極細繊維の製造方法。
(e)(a)〜(c)いずれかに記載の極細繊維からなり、(d)に記載の方法で作られた極細繊維集合体、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の極細繊維、その製造方法は、極細繊維を繊維集合体としたとき、高分子電解質ポリマーを用いながら非常に細繊度の極細繊維集合体が得られるという利点がある。得られた極細繊維集合体は、セパレータ用途として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の極細繊維は、ポリアリーレンエーテル化合物のうち化学式(1)とともに化学式(2)で示されることが望ましく、かかる骨格を有することにより、細繊度の繊維集合体が得られることを本発明者らは知見したものである。かかる骨格を有することにより、非常に細繊度の繊維が得られる理由としては、以下の通り考えられる。極細繊維形成にあたり、ポリマーの剛直性が重要な役割を果たしており、剛直性の高いポリマーでは、紡糸中に溶液流が不安定なるのを抑制することがため、糸切れを起こすことなく延伸することができ、このような理由によって細繊度の極細繊維が得られるものである。この高分子を利用すると、非常に細繊度の繊維を与えるため、緻密な構造を形成することができる。また、単位面積当たりの繊維数を増大させることが可能であり、かかる理由により、非常に大きな表面積を得ることができる。
【0015】
更に本発明の極細繊維は、芳香環上にスルホン酸を導入したポリアリーレンエーテル系化合物により、耐熱性、加工性、イオン伝導性にすぐれた、有用な高分子材料を提供することができる。すなわち、電池セパレータ等に一般的に用いられているパーフルオロカーボンスルホン酸系のポリマーは、100度を超える条件下では、軟化が顕著となるが、本発明のポリマーでは、耐熱性に優れた極細繊維が得られるため、高温環境下での使用にも耐えうる。3,3’−ジスルホ−4,4‘−ジクロロジフェニルスルホン誘導体またはその類似化合物とともに2,6−ジクロロベンゾニトリルまたはその類似化合物を併用していることにより、重合性の低い3,3’−ジスルホ−4,4‘−ジクロロジフェニルスルホン誘導体またはその類似化合物を使用していても短時間で高重合度のポリアリーレンエーテル化合物が得られる特徴も有している。
【0016】
また、本願発明の極細繊維は、前記化学式(2)の中でも、化学式(3)で特定される化合物であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合部においては化学式(1)および化学式(2)で示される以外の構造単位が含まれていてもかまわない。このとき、化学式(1)または化学式(2)で示される以外の構造単位は本発明のスルホン酸を導入したポリアリーレンエーテルの50質量%以下であることが好ましい。50質量%以下とすることにより、本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物の特性を活かした組成物とすることができる。
【0018】
本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物としては、化学式(4)とともに化学式(5)で示される構成成分を含むものが特に好ましい。ビフェニレン構造を有していることによりポリマーの剛直性が向上し、細繊度の繊維が得られるからである。
【0019】
本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物は、下記化学式(6)および化学式(7)で表される化合物をモノマーとして含む芳香族求核置換反応により重合することができる。化学式(6)で表される化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、およびそれらのスルホン酸基が1価カチオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価カチオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限される訳ではない。化学式(7)で表される化合物としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、等を挙げることができる。
【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

(ただし、Yはスルホン基またはケトン基、RはHまたはSOX(XはH又は1価のカチオン種)、Zは塩素またはフッ素を示す。)
【0022】
本発明において、上記2,6−ジクロロベンゾニトリルおよび2,4−ジクロロベンゾニトリルは、異性体の関係にあり、いずれを用いたとしても良好なイオン伝導性、耐熱性、加工性および寸法安定性を達成することができる。その理由としては両モノマーとも反応性に優れるとともに、小さな繰り返し単位を構成することで分子全体の構造をより硬いものとしていると考えられている。
【0023】
上述の芳香族求核置換反応において、上記化学式式(6)、(7)で表される化合物とともに各種活性化ジフルオロ芳香族化合物やジクロロ芳香族化合物をモノマーとして併用することもできる。これらの化合物例としては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0024】
また、上述の化学式(1)で表される構成成分中のArおよび上述の化学式(2)で表される構成成分中のAr’は、一般には芳香族求核置換重合において上述の化学式(6)、(7)で表される化合物とともに使用される芳香族ジオール成分モノマーより導入される構造である。このような芳香族ジオールモノマーの例としては、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等があげられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオールを使用することもできる。これら芳香族ジオールは、単独で使用することができるが、複数の芳香族ジオールを併用することも可能である。
【0025】
本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物を芳香族求核置換反応により重合する場合、上記化学式(6)および化学式(7)で表せる化合物を含む活性化ジフルオロ芳香族化合物および/またはジクロロ芳香族化合物と芳香族ジオール類を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50質量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5質量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50質量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。
【0026】
また、本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物は、後で述べる方法により測定したポリマー対数粘度が0.1以上であることが好ましい。対数粘度が0.1よりも小さいと、繊維化することが難しい。還元比粘度は、0.3以上であることがさらに好ましい。一方、還元比粘度が5を超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるので好ましくない。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
【0027】
本発明のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物は、単体として使用することができるが、他のポリマーとの組み合わせによる組成物として使用することもできる。これらのポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフロリドなどのフッ素系ポリマー、特に制限はない。ポリベンズイミダゾールやポリビニルピリジンなどの塩基性ポリマーとの組成物は、ポリマー寸法性の向上のために好ましい組み合わせと言える、これらの塩基性ポリマー中に、さらにスルホン酸基を導入しておくと、組成物の加工性がより好ましいものとなる。なお、本発明の組成物は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0028】
本発明の極細繊維には、塩を含んでいても良い。添加する塩は溶液に溶解していることが好ましく、使用する溶媒に溶解するものであれば得に限定されるものでないが、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二水素ナトリウム 、亜硝酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸バリウムなどから選択される1種又は2種以上の塩であることが好ましい。これらの塩であれば、添加することで、延伸応力が強くなり、より高品位の繊維集合体が得るからである。溶液に塩が溶解していない場合、析出した塩が異物となり繊維中の欠点となるため、高品位の極細繊維集合体を得ることができない。また、上記のような無機塩だけでなく、ジラウリルジメチルアンモニウムブロミド、ジメチルジミリスチルアンモニウムブロミド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド、ジメチルジパルミチルアンモニウムブロミドのような四級アンモニウム塩、1−ブチルー3メチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸のような1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム塩、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロほう酸、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビストリフルオロメタンスルフォニルイミドのような、脂肪族系イオン性液体なども使用することが可能である。
【0029】
静電紡糸に用いる溶媒としては、アセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、プロパノール、四塩化炭素、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、塩化メチレン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸などの揮発性の高い溶媒や、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ヘキサメチルホスホンアミド、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、アセトニトリル、N−メチルモルホリン−N−オキシド、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジオキソラン、エチルメチルカーボネート、メチルホルマート、3−メチルオキサゾリジン−2−オン、メチルプロピオネート、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホランなどの揮発性が相対的に低い溶媒から適切な溶媒を選択することができるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒を用いれば、樹脂を良好に溶解することができるため、本発明の極細繊維によって得られる繊維集合体の品位も向上するからである。
【0030】
本発明の極細繊維は、平均繊維径0.01〜1μmであることが好ましい。かかる範囲であれば、種々の用途で高い機能を発揮するからである。更に好ましくは0.02〜0.8μmである。特に電子部品用セパレータとして使用する場合、好適な透気性が得られるからである。電子部品用セパレータとして好適な透気性は、1〜2000sec/100ccAirである。透気性が1sec/100ccAir以下では膜強度が弱くなり、使用に適さない。2000sec/100ccAirを超えると電導性が悪くなる恐れがある。ここでいう透気性とは、JIS−P8117に準拠したものである。
【0031】
本発明の製造方法で用いるポリマー溶液の濃度としては、固形分濃度として0.1〜30重量%が好ましく、特に好ましくは1〜25重量%である。かかる範囲であれば、溶媒の蒸発の遅れによる膜化を防ぐことができ、また細繊度の繊維を得ることができるからである。溶解挙動が類似する化合物と組み合わせた場合には、良好な成形ができる点で好ましい。このようにして得られた成形体中のスルホン酸基はカチオン種との塩の形のものを含んでいても良いが、必要に応じて酸処理することによりフリーのスルホン酸基に変換することもできる。
【0032】
本発明の製造方法において、印加電圧は3〜100kVがよく、好ましくは5〜70kV、一層好ましくは5〜50kVである。なお、印加電圧の極性はプラスとマイナスのいずれであっても良い。
【0033】
本発明の製造方法において、紡糸をする雰囲気としては、一般的には空気中で行うが、二酸化炭素などの空気よりも放電開始電圧の高い気体中で静電紡糸を行うことで、低電圧での紡糸が可能となり、コロナ放電などの異常放電を防ぐこともできる。
【0034】
水がポリマーの貧溶媒である場合、ポリマーの析出が起こる場合がある。そこで、空気中の水分を低下させ、ポリマーの析出を防ぐことが好ましい。しかし、絶対湿度が2g/m以下になると、溶媒の蒸発が抑制され、得られた微細繊維集合体中に溶媒が残存し、これがポリマーを再溶解させ、膜化を招く。このため、空気中の水分は絶対湿度2〜13g/mで紡糸することが必要である。より好ましくは、3〜11g/mがよい。
【0035】
本発明の繊維集合体の厚みは、使用用途に応じて決められるものであり、特に限定されるものではないが、1〜300μmであることが好ましく、より好ましくは3〜250μmである。ここでいう厚みとは、マイクロメータで測定したものである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例における各物性は以下の方法により求めたものである。
【0037】
[溶液粘度]
ポリマー粉末を0.5g/dlの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/c)で評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0038】
[繊維径測定法]
評価するものを走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影を行い、5000倍または10000倍のSEM画像に映し出された多数の繊維からランダムに20本の繊維を選び、繊維径を測定する。測定した20本の繊維径の平均値を算出し、(平均)繊維径とした。
【0039】
(実施例1)
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩(略号:S−DCDPS)5.2335g、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)2.3323g、4,4’−ビフェノール4.5086g、炭酸カリウム3.8484g、モレキュラーシーブ2.61gを100ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。35mlのNMPを入れて、150℃で一時間撹拌した後、反応温度を195−200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約5時間)。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、乾燥した。ポリマーの対数粘度は1.24dL/gを示した。得られたポリマーにN、N−ジメチルアセトアミドを加え固形分濃度を15%にした。該樹脂溶液を図1に示す装置を用いて、該溶液を繊維状物質捕集電極5に20分間吐出した。紡糸ノズル2に18G(内径:0.9mm)の針を使用し、電圧は22kV、紡糸ノズル2から繊維を捕集する対向電極5までの距離は10.5cmであった。空気中の絶対湿度は6.0g/m3であった。得られた極細繊維集合体の平均繊維径は0.07μm、厚み20μmであった。得られたナノファイバーの透気度は90sec/100ccAirであった。
【0040】
(実施例2)
2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCB) 36.64g、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(略号:BP) 39.10g、炭酸カリウム 33.38g、乾燥したモレキュラーシーブ3−A 32gを1000ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。700mlのN−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP)を入れて、撹拌しながら、反応温度を195−200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約4時間)。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、室温の水に浸漬し、いったん100℃で乾燥した後、アセトンに浸漬した。その後、ポリマーを濾別し、室温、窒素気流下で乾燥した後、100℃で減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.18dL/gを示した。
得られたポリマーにN、N−ジメチルアセトアミドを加え固形分濃度を12%にした。該樹脂溶液中にポリマー重量に対し、4%の塩化リチウムを添加した。実施例1と同様に静電紡糸を行った。得られた極細繊維集合体の平均繊維径は0.10μm、厚み31μmであった。得られたナノファイバーの透気度は120sec/100ccAirであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の極細繊維、及びその製造方法によれば、極めて低繊度の高分子電解質極細繊維集合体が得られ、高い安定性が得られるため、多くの用途に展開することが可能となり、産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】静電紡糸装置の模式図
【符号の説明】
【0043】
1:静電紡糸装置
2:紡糸ノズル
3:溶液槽
4:高電圧電源
5:対向電極(捕集基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)とともに化学式(2)で示される構成成分を含むポリアリーレンエーテル系化合物からなることを特徴とする平均繊維径0.01〜1μmの極細繊維。
【化1】

(ただし、Arは2価の芳香族基、Yはスルホン基又はケトン基、RはHまたはSOX(XはH又は1価のカチオン種)を、mは1以上の整数を示す。)
【化2】

(ただし、Ar'は2価の芳香族基を、nは1以上の整数を示す。示す。)
【請求項2】
前記化学式(1)とともに化学式(3)で示される構成成分を含むポリアリーレンエーテル系化合物からなることを特徴とする平均繊維径0.01〜1μmの極細繊維。
【化3】

(ただし、Ar'は2価の芳香族基を,oは1以上の整数を示す。)
【請求項3】
化学式(4)とともに化学式(5)で示される構成成分を含むポリアリーレンエーテル系化合物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の極細繊維。
【化4】

(ただし、RはHまたはSOX(XはH又は1価のカチオン種)を、pは1以上の整数を示す。)
【化5】

(ただし、qは1以上の整数を示す。)
【請求項4】
樹脂と有機溶媒とからなる溶液を調製し、次いで得られた溶液を静電紡糸法により紡糸し、請求項1〜3いずれかに記載の極細繊維を得ることを特徴とする極細繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3いずれかに記載の極細繊維からなり、請求項4に記載の方法で作られた極細繊維集合体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−249770(P2009−249770A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99473(P2008−99473)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】