説明

極細金属線扁平化具、扁平化された極細金属線、極細金属線加工装置及び極細金属線の加工方法

【課題】複数本並列している極細金属線を同時に容易に扁平化するための治具、先端部が扁平化された極細金属線、扁平化された複数の極細金属線上に導電性ペーストを付着させる極細金属線加工装置、及び、この加工装置を用いる極細金属線の加工方法を提供する。
【解決手段】複数のV溝が一方向に並列して設けられているプレス定盤、前記V溝と咬合するクサビ状突起が一方向に複数並列して設けられているプレスヘッドからなり、前記クサビ状突起の先端、又は前記クサビ状突起の先端及び前記V溝の底面に平面部を有することを特徴とする極細金属線扁平化具、この極細金属線扁平化具を用いて製造することができる先端部が扁平化された極細金属線、前記極細金属線扁平化具を含む極細金属線加工装置、前記極細金属線加工装置を使用する極細金属線の加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本並列している極細金属線を扁平化するための治具である極細金属線扁平化具、及びこの極細金属線扁平化具を用いて製造することができるその先端部が扁平化された極細金属線に関する。又、本発明は、扁平化された極細金属線に導電性ペーストを付着させかつ接着剤層中に埋め込むための極細金属線加工装置、及びこの加工装置を用いる極細金属線の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化にともない、電気信号の伝送用の配線に極細同軸ハーネスが用いられている。極細同軸ハーネスとは、極細同軸線を複数本束ねたものであり、極細同軸線とは、極めて細い芯線の外周を、電磁波妨害を防ぐために、絶縁層を介して電導性のシールド線で被覆したものである。極細同軸ハーネスとしては、極細同軸線を並列して束ねたものが回路基板間を電気的に接続する配線に広く用いられている。
【0003】
極細同軸ハーネスと回路基板との電気的接続は、各極細同軸線の端末の芯線を露出させ、回路基板上にある微細な電極に、露出した芯線を接続する方法により行われる。従来、この電気的接続は、半田付けや異方性導電性膜を用いて行われていた。例えば、特許文献1には、異方性導電性膜を用いる方法が記載されている。しかし、これらの方法では、接続の際に熱や圧力を加える必要があり、熱や加圧による極細の芯線の変形、断線が問題となっていた。
【0004】
そこで、各芯線上に導電性ペーストを付着させ、これを導電性ペーストが露出するように接着剤層に埋め込んだものを、各導電性ペーストが基板の各微細電極に対向するように位置合わせしながらプレスして、各芯線と各微細電極を接続する方法が考えられている。この方法によれば、接着剤層と基板との接着により各芯線と各微細電極間の位置関係が強固に固定されるとともに、導電性ペーストにより芯線と微細電極間が高い接続信頼性で導通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−97929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の方法では、各芯線上に導電性ペーストが付着、接着され、芯線と導電性ペースト間が導通する。しかし、芯線と導電性ペースト間の接着面積が小さい場合は、芯線と導電性ペーストとの導通が不十分になり接続抵抗が増大する。さらにこの場合は、芯線と導電性ペースト間の接着力が小さくなるので、その後の工程で、導電性ペーストが芯線から脱離しやすくなり接続信頼性が低下する問題も生じやすい。
【0007】
そこで、これらの問題を抑制するため、芯線の断面の扁平化が望まれている。すなわち、導電性ペーストは可塑性を有するので芯線上に付着させる際に芯線の外周に沿うように変形するが、芯線の断面が円形の場合は付着の際の変形が大きく、扁平な芯線へ付着させる場合に比べて接着面積や接着力が小さくなる。そこで、芯線の端末すなわち電極と接続される部分の扁平化が望まれ、多数の芯線を同時に容易に扁平化するための治具の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、極細同軸ハーネスの芯線のように、極細金属線が複数本並行している場合において、その複数の極細金属線を同時に容易に扁平化するための治具を提供することを課題とする。本発明は、又、前記治具により製造することができる先端部が扁平化された極細金属線、特に、導電性ペーストを介して回路基板上に並列している微細電極と接続したときに、低い接続抵抗、高い接続信頼性が得られ、線間の耐圧も大きい極細金属線を提供することも課題とする。本発明は、さらに、この扁平化された複数の極細金属線上に導電性ペーストを付着させる極細金属線加工装置、及びこの加工装置を用いる極細金属線の加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、複数のV溝が設けられているプレス定盤と複数のクサビ形状の突起が設けられているプレスヘッドを組合わせてなる治具により、並列している複数本の極細金属線を、同時に容易に扁平化することができることを見出し、以下に示す構成からなる本発明を完成した。
【0010】
請求項1の発明は、複数のV溝が一方向に並列して設けられているプレス定盤、及び前記V溝と咬合するクサビ状突起が一方向に複数並列して設けられているプレスヘッドからなり、前記クサビ状突起の先端、又は前記クサビ状突起の先端及び前記V溝の底面に平面部を有することを特徴とする極細金属線扁平化具である。
【0011】
極細金属線とは、通常、径が0.5mm以下の金属からなる線を言うが、本発明は、径が0.2mm以下の金属線に特に好適に適用される。極細同軸ハーネスの芯線としては、径が0.1mm以下の金属線が用いられる場合が多いので、本発明は極細同軸ハーネスの芯線の扁平化に好適に適用される。又、本発明が適用される極細金属線は、断面形状が丸型の単線に限定されず例えば撚線にも適用することができる。
【0012】
この極細金属線扁平化具により、極細金属線の扁平化を行うとき、先ず、複数本の極細金属線は、前記プレス定盤のV溝の底面に落し込まれる。その後プレスヘッドのクサビ状突起をV溝に咬合させ加圧すると、極細金属線の断面のクサビ状突起の先端に接する部分は、その先端の平面部により加圧されて変形し平面状となる。すなわち扁平化される。
【0013】
クサビ状突起の先端とともに、V溝の底面にも平面部を有する場合は、極細金属線の断面のV溝の底面に接する部分も、その底面の平面部により加圧されて変形し、平面状となる。すなわち扁平化される。そこで、極細金属線扁平化具を構成する前記プレス定盤を扁平プレス定盤と言い、前記プレスヘッドを扁平プレスヘッドと言う。
【0014】
V溝及びクサビ状突起は、互いに咬合して、極細金属線の断面を扁平化できるような位置関係や断面形状にある。すなわち、V溝及びクサビ状突起は、扁平プレス定盤及び扁平プレスヘッドのそれぞれに同一の間隔で設けられ、それらの断面形状は、咬合した際には扁平化後の極細金属線の断面の形状に相当する空洞が(底面部、先端部に)生じるようにかつ他の部分は互いに密接するような関係にあることが好ましい。
【0015】
V溝間及びクサビ状突起間の間隔は、扁平化される複数の極細金属線の間隔に対応する。又、V溝の深さ及びクサビ状突起の高さは、極細金属線の径に比べて充分大きくすることが望ましく、極細金属線の径の2倍以上が好ましい。
【0016】
V溝及びクサビ状突起の長さは、極細金属線上に付着される導電性ペーストの長さに対応する。極細金属線が、極細同軸ハーネスの芯線の場合は、芯線と基板上の微細電極との接続の長さに対応し、通常0.5〜10mmである。扁平プレス定盤や扁平プレスヘッドを形成する材料としては、扁平化の際に加えられる加圧に充分耐える材料から選ばれ、例えば、炭素鋼、合金鋼、金型用鋼、焼き入れ鋼、ステンレス鋼、超硬合金を挙げることができる。
【0017】
請求項2の発明は、その先端部が押しつぶされ、扁平化されていることを特徴とする極細金属線である。ここで扁平化されたとは、極細金属線が径(太さ)方向に押しつぶされ、押しつぶされた方向の径(縦径)をXとしその垂直な方向の径(横径)をYとしたときのY/Xで表される扁平率が1より大きいことを意味する。先端部とは、極細金属線の少なくとも一方の端部又はその端部に近い部分を意味し、極細金属線が、極細同軸ハーネスの芯線の場合は、先端部は、基板上の微細電極と接続する部分に対応する。従って、上記のように、この場合の先端部の長さは通常0.5〜10mmである。
【0018】
請求項2の扁平化された極細金属線は、請求項1の極細金属線扁平化具を用い上記のように扁平化を行うことにより容易に製造することができる。この扁平化された極細金属線では、導電性ペーストをその先端部に付着させる際に、導電性ペーストの変形が小さく大きな接着力が得られ又大きな接着面積が得られるので好ましい。上記のように、極細金属線とは径が0.5mm以下の金属からなる線を言うが、この扁平化された極細金属線としては、扁平化前の径が0.2mm以下のものが好ましい。
【0019】
請求項3の発明は、前記扁平化がされている部分の断面の縦径をX及び横径をYとしたとき、Y/Xで表される扁平率が2〜25であることを特徴とする請求項2に記載の極細金属線である。扁平率が2以上となるように扁平部を形成するとより優れた接続安定性が得られ、3以上であると特に優れた接続安定性が得られるので好ましい。一方、扁平率が25を超える扁平部を形成すると隣接する極細金属線の扁平部間が近接し、線間の耐圧が低下し短絡等が生じやすくなる。従って、扁平部の扁平率は25以下が好ましく、より好ましくは20以下であり、さらに好ましくは17以下である。
【0020】
請求項4の発明は、極細同軸ハーネスの芯線であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の極細金属線である。前記のように、極細同軸ハーネスの芯線としては、径が0.1mm以下の金属線が用いられる場合が多いが、本発明の極細金属線の特に好ましい例として、極細同軸ハーネスの芯線として用いられる極細金属線を挙げることができる。
【0021】
請求項5の発明は、請求項1に記載の極細金属線扁平化具、前記プレス定盤のV溝と同一の形状のV溝が同一の間隔で設けられているピッチ保持ガイド、転写プレス定盤、及びヒートツールを有することを特徴とする極細金属線加工装置である。
【0022】
ピッチ保持ガイドは、極細金属線に導電性ペーストを付着させる工程で、扁平化具の扁平プレス定盤が取り外された後も、極細金属線間の間隔(ピッチ)を一定に保持するために使用される治具である。従って、間隔(ピッチ)を一定に保つためのV溝を有しており、このV溝の間隔は、扁平化される複数の極細金属線の間隔に対応する。又、扁平プレス定盤のV溝と同一の傾斜角(溝が並列する方向の平面と溝の側面が形成する角度)のV溝が、同一の間隔で一方向に並列して設けられていることが好ましい。ピッチ保持ガイドは、好ましくは2枚からなり、扁平プレス定盤や転写プレス定盤がこの2枚の間に挟持されるように設けられる。
【0023】
転写プレス定盤は、後述する導電性ペーストの転写の際に、並列する極細金属線を保持するためのものである。この転写プレス定盤上に極細金属線束が保持され、後述するように、転写フィルムが被せられてヒートツールによるプレスが行われる。
【0024】
ヒートツールは、後述する導電性ペーストの転写の際に、転写フィルムを加熱、加圧するものであり、この加熱、加圧により、転写フィルム上の導電性ペーストが、扁平化された極細金属線上に付着、接着される。
【0025】
転写フィルムとは、極細金属線に付着される導電性ペーストの層が、その表面に露出するように設けられているフィルムである。この転写フィルムを、転写プレス定盤上に並列している極細金属線の束上に、極細金属線と導電性ペーストの層が接するように被せ、加熱、加圧することにより、導電性ペーストが、極細金属線上に転写されて付着する。
【0026】
従って、導電性ペーストの層は極細金属線と同間隔で設けられている。転写フィルムは、好ましくは、離型フィルムとその上に設けられた接着剤層からなり、接着剤層中に導電性ペーストの層が形成されている。
【0027】
請求項6の発明は、請求項5に記載の極細金属線加工装置を用い、前記プレス定盤のV溝及びピッチ保持ガイドのV溝を密接させて形成したV溝に、極細金属線を落し込んだ後、前記プレス定盤のV溝と前記クサビ状突起を咬合させて前記プレスヘッドを加圧し、前記極細金属線の断面を扁平化する工程1、工程1の後、前記プレス定盤と転写プレス定盤を交換し転写プレス定盤上に極細金属線を設置する工程2、工程2の後、導電性ペーストの層がその表面に露出するように設けられている転写フィルムを、極細金属線と導電性ペーストの層が接するように被せ、ヒートツールによりこの転写フィルムを加熱、加圧する工程3を有することを特徴とする極細金属線の加工方法である。
【0028】
この加工方法によれば、極細金属線を扁平化するとともに扁平化された極細金属線上に導電性ペーストを容易に、各導電性ペーストが一平面上に並ぶように付着させることができる。この導電性ペーストが、一平面上に並ぶように付着した極細金属線の束を使用することにより、それぞれの極細金属線を基板上の並列する微細な電極のそれぞれに、容易に接続することができ、高い接続信頼性、低い接続抵抗を達成することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の極細金属線扁平化具を用いることにより、極細同軸ハーネスの芯線のように、複数本並列している極細金属線の断面を、同時に容易に扁平化することができる。本発明の扁平化された極細金属線では、導電性ペーストをその先端部に付着させる際に、大きな接着面積が得られ又導電性ペーストの変形が小さく大きな接着力が得られる。又、本発明の極細金属線加工装置、及び極細金属線の加工方法によれば、極細金属線の扁平化を容易に行えるとともに扁平化された極細金属線上に導電性ペーストを容易に付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の極細金属線加工装置を構成する各部材及びこの極細金属線加工装置により加工される極細同軸ハーネスの端末部を表わす斜視図である。
【図2】本発明の極細金属線の加工方法の一工程を示す図である。
【図3】本発明の極細金属線の加工方法の一工程を示す図である。
【図4】本発明の極細金属線の加工方法の一工程を示す図である。
【図5】本発明の極細金属線を基板と接続する方法の一工程を示す図である。
【図6】本発明の極細金属線を基板と接続する方法の一工程を示す図である。
【図7】従来の極細金属線を基板と接続した状態の例を示す図である。
【図8】実施例における接続抵抗の測定方法を模式的に示す図である。
【図9】実施例における絶縁抵抗の測定方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の範囲はこの形態に限定されるものではなく本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0032】
図1は、本発明の極細金属線加工装置を構成する各部材及びこの極細金属線加工装置により加工される極細同軸ハーネスの端末部(すなわち極細金属線の束)を表わす斜視図である。図中、1は扁平プレス定盤であり、2は扁平プレスヘッドであり、3はピッチ保持ガイドであり、4は転写プレス定盤であり、5はヒートツールである。
【0033】
又、10は、極細同軸ハーネスの端末部を表わすが、極細同軸ハーネス10は、極細同軸線11が平行に一定間隔で並んでなるものであり、極細同軸線11は、極細の芯線12、その外周を被覆する絶縁体(図示されていない)、絶縁体の外周を被覆するシールド線13からなる。図中の14は、グランドバーであり、シールド線13がシールド効果(電磁妨害を防ぐ効果)を奏するようにシールド線13と接続するとともに接地回路(図示されていない)とも接続している。グランドバー14は、極細同軸線11が一定間隔で並列するように保持する機能も有する。
【0034】
ヒートツール5は、転写フィルムを加熱、加圧するものであるが、加熱、加圧をする面である加熱面6とともに、段6’を有する段付きヒートツールである。段付きとすることにより、高さが異なる芯線部とグランドバー部を一括でプレスすることができる。図中の一点破線で示されるように、ヒートツール5の加熱面6、扁平プレス定盤1、扁平プレスヘッド2及び転写プレス定盤4の幅は同一である。
【0035】
図1に示されているように、扁平プレス定盤1では、複数のV溝8が一方向に並列して設けられている。又、扁平プレスヘッド2では、複数のクサビ状突起7が一方向に並列して設けられている。図1に示される例では、クサビ状突起7の先端及びV溝8の底部には平面部7’及び8’がそれぞれ設けられている。
【0036】
又、図1に示される例では、2枚のピッチ保持ガイド3が、扁平プレス定盤1を挟むように密着して設けられている。ピッチ保持ガイド3は、V溝8と同じ大きさでありかつ同じ形状であるV溝9が同じ間隔で設けられている。
【0037】
図1に示されるような本発明の極細金属線加工装置は、0.1〜0.5mm程度の線径を有し、芯線径が0.02〜0.2mm程度であり、芯数が2〜80芯程度、ピッチが0.1〜1mm程度、芯線長(芯線の扁平化される部分の長さ)が0.5〜10mm程度の極細同軸ハーネスに好適に適用される。
【0038】
次に、図1に示される極細金属線加工装置を使用して、複数の極細金属線を扁平化し、扁平化された極細金属線上に、導電性ペーストを付着させる方法を説明する。
【0039】
先ず、芯線12のそれぞれを各V溝8に落し込む。図2は、その様子を示す図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は部分断面図であり、図中の矢印で示す方向に、芯線12の束を移動させて、芯線12をV溝8の底部に落し込む。
【0040】
次に、芯線12の断面の扁平化が行われる。図3は、その様子を示す図であり、図3(a)は斜視図、図3(b)は部分断面図である。具体的には、V溝8にクサビ状突起7が咬み合わされるようにして、扁平プレスヘッド2を図3中の矢印で示す方向に移動させて扁平プレス定盤1のV溝8の底部にある芯線12をプレス(扁平プレス)する。芯線12は、(クサビ状突起7の先端の)平面部7’と(V溝8の底部の)平面部8’の間に挟まれて圧縮され、その断面は扁平化する。極細金属線が、径0.1mm以下の極細同軸線の芯線(銅線)の場合、扁平プレスの荷重及びプレス時間は、通常それぞれ5〜100MPa及び5〜300秒程度である。
【0041】
芯線12が扁平化された後、扁平プレス定盤1及び扁平プレスヘッド2は装置から取り外される。図4は、その様子を示す図であり、図4(a)は斜視図、図4(b)は部分断面図である。扁平プレス定盤1及び扁平プレスヘッド2は、それぞれ図中の矢印で示す方向に移動させて取り外される。図4中の12は、扁平化された芯線を表わす。図4に示されているように、扁平プレス定盤1が取り外された後も、ピッチ保持ガイド3のV溝9により芯線12間の間隔(ピッチ)は保持される。
【0042】
次に、ピッチ保持ガイド3のV溝9により保持されている芯線12に、転写プレス定盤4を接触させて、転写プレス定盤4上又は転写プレス定盤4上に保持されたフィルム上に芯線12を保持させる。図5は、その様子を示す図であり、図5(a)は斜視図、図5(b)は部分断面図である。芯線12に転写プレス定盤4を接触させるために、転写プレス定盤4は図中の矢印で示す方向に移動される。芯線12の位置を確実に保持するため、転写プレス定盤上又は転写プレス定盤4上に保持されたフィルム上に接着剤層を設け、接着剤により芯線の位置を固定することが好ましい。図5の例では、転写プレス定盤4上に接着剤層4’が設けられ、この接着剤層4’により芯線12の位置が固定されている。
【0043】
次に、転写プレス定盤4上に(接着剤層4’により)保持されている芯線12の束に、転写フィルム20が被せられ、ヒートツール5の加熱面6により、転写フィルム20が加熱、加圧される。図6は、その様子を示す図であり、図6(a)は斜視図、図6(b)は部分断面図である。転写フィルム20は、図6(b)に示すように、離型フィルム23と、それに接して設けられている接着剤層22及び導電性ペースト層21からなる。導電性ペースト層21は、芯線12間の間隔と同じ間隔で複数並列して設けられており、又、それぞれの導電性ペースト層21の間に、接着剤層22が設けられている。
【0044】
転写フィルム20は、導電性ペースト層21が芯線12の方向に沿うようにして芯線12の束に被せられ、その後加熱、加圧される。その結果、各芯線12(扁平化された極細金属線)上に導電性ペーストが付着する。
【0045】
前記で例示された好ましい大きさの極細同軸ハーネスの接続の場合は、転写フィルムの加圧、加熱は、温度100〜180℃程度、荷重0.1〜2.5MPa程度、加圧時間1〜30秒程度の条件で通常行われる。導電性ペーストの付着後、離型フィルム23は除去される。
【0046】
このようにして芯線12に付着した各導電性ペースト層21は一平面上に並列し、かつ導電性ペースト間には接着剤層22があるので、これを、基板の各微細電極と各導電性ペーストが対向するように位置合わせしてプレスすると、導電性ペーストを介して、各芯線12と各微細電極を接続することができる。そして、この方法によれば、接着剤層と基板との接着により各芯線と各微細電極間の位置関係が強固に固定される。又、芯線(極細金属線)12は扁平化されており、扁平化している部分(扁平部)に導電性ペースト層21が付着されるので、付着の際の導電性ペーストの変形が小さくなり、又大きな接着面積、大きな接着力が得られ、微細電極との接続についても高い接続信頼性が達成される。
【0047】
一方、各極細金属線の断面が扁平化していない場合は、極細金属線と導電性ペースト層間の接続に種々の問題が発生しやすく、高い接続信頼性が得られ難い。図7は、各極細金属線の断面が扁平化していない場合に生じる種々の問題の例を模式的に示す断面図である。すなわち、図7(a)に示すように極細金属線と導電性ペースト層間の接触が点接触となる、図7(b)に示すように極細金属線のピッチが乱れる、図7(c)に示すように極細金属線に押しつぶされて導電性ペースト層が分断する等の問題が発生し、微細電極との接続についても接続が不安定になりやすい。
【実施例】
【0048】
間隔300μmで4本並列している径60μmの芯線(極細金属線)を表1に示す縦横比(横径Y/縦径X)で扁平化した。扁平化後、扁平部に銀ペーストを付着させた後この銀ペーストを、回路基板上に並列している微細電極に付着させ、芯線と微細電極間を導通させた。導通後、下記の方法で、接続抵抗、絶縁抵抗、接着力を測定した。
【0049】
[接続抵抗の測定]
図8は、接続抵抗の測定方法を模式的に示す断面図である。図に示すように4端子法により一定電流を流して電圧を測定し、電圧の測定値より接続抵抗を求めた。測定は5回行い、その平均値を表1の「接続抵抗(初期)」の欄に示す。
[絶縁抵抗(線間耐圧)の測定]
図9は、絶縁抵抗の測定方法を模式的に示す図である。図に示すように隣接する芯線間に、500Vの電圧を1分間印加した後の電流を測定し、その測定値より絶縁抵抗を求めた。その結果を表1の「絶縁抵抗(線間耐圧)」の欄に示す。
[接着力の測定]
接着力の測定結果を表1の「接着力」の欄に示す。
【0050】
前記で得られた芯線と微細電極間を導通させた回路を、60℃、95%RHの高温高湿の環境下で500時間保持した後、前記と同じ方法で接続抵抗を5回測定した。その平均値を表1の「接続抵抗(高温高湿)」の欄に示す。
【0051】
前記で得られた芯線と微細電極間を導通させた回路について、「−40℃で4時間保持−2時間かけて85℃に昇温−85℃で4時間保持−0.5時間かけて25℃まで降温−25℃で1時間保持−0.5時間かけて−40℃まで降温」のヒートサイクルを5回繰り返した後、前記と同じ方法で接続抵抗を5回測定した。その平均値を表1の「接続抵抗(ヒートサイクル)」の欄に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示されている結果から、次が明らかである。
扁平率(縦横比Y/X)が1.0(すなわち扁平化していない)の場合、初期の接続抵抗は低いが、高温高湿環境化での長時間保持後やヒートサイクルの繰返し後では、接続抵抗が、規格(接続抵抗20mΩ以下)をはるかに超えるまで上昇し接続安定性に劣ることが示されている。図7に示されるような点接触、極細金属線のピッチの乱れ、銀ペースト層の分断等が生じ接続抵抗が上昇したものと思われる。一方、扁平率(縦横比Y/X)が3.0以上の場合は、高温高湿環境化での長時間保持後や、ヒートサイクルの繰返し後でも接続抵抗は変化せず規格範囲内であり、接続安定性が優れていることが示されている。
【0054】
絶縁抵抗(線間耐圧)は、扁平率(縦横比Y/X)が1.0〜16.2まではほとんど変化がなく規格(1GΩ以上)をはるかに超える値を示しているが、扁平率がさらに増大すると絶縁抵抗(線間耐圧)は低下する。そして、扁平率20程度までは規格を満たすものの、扁平率27では3MΩとなり規格を満たさない。隣接する芯線(極細金属線)間の距離が短く短絡が生じ易いためと思われる。
【0055】
以上の結果より、扁平率(縦横比Y/X)は、2〜25の範囲が好ましく、より好ましくは3〜20の範囲であることが判る。なお、接着力については、扁平率1〜27の範囲で規格(10N/cm)を満たしている。
【0056】
又、上記は、間隔(ピッチ)300μmで4本並列している径60μmの極細金属線についての結果であるが、径が30〜200μm、ピッチ100〜1000μmの範囲で同様な結果が得られると思われる。
【符号の説明】
【0057】
1 扁平プレス定盤
2 扁平プレスヘッド
3 ピッチ保持ガイド
4 転写プレス定盤
4’ 接着剤層
5 ヒートツール
6 加熱面
6’ 段
7 クサビ状突起
7’ (クサビ状突起の先端の)平面部
8、9 V溝
8’ (V溝の底部の)平面部
10 極細同軸ハーネスの端末部
11 極細同軸線
12 芯線
13 シールド線
14 グランドバー
20 転写フィルム
21 導電性ペースト層
22 接着剤層
23 離型フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のV溝が一方向に並列して設けられているプレス定盤、及び前記V溝と咬合するクサビ状突起が一方向に複数並列して設けられているプレスヘッドからなり、前記クサビ状突起の先端、又は前記クサビ状突起の先端及び前記V溝の底面に平面部を有することを特徴とする極細金属線扁平化具。
【請求項2】
その先端部が押しつぶされ、扁平化されていることを特徴とする極細金属線。
【請求項3】
前記扁平化がされている部分の断面の縦径をX及び横径をYとしたとき、Y/Xで表される扁平率が2〜25であることを特徴とする請求項2に記載の極細金属線。
【請求項4】
極細同軸ハーネスの芯線であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の極細金属線。
【請求項5】
請求項1に記載の極細金属線扁平化具、前記プレス定盤のV溝と同一の形状のV溝が同一の間隔で設けられているピッチ保持ガイド、転写プレス定盤、及びヒートツールを有することを特徴とする極細金属線加工装置。
【請求項6】
請求項5に記載の極細金属線加工装置を用い、前記プレス定盤のV溝及びピッチ保持ガイドのV溝を密接させて形成したV溝に、極細金属線を落し込んだ後、前記プレス定盤のV溝と前記クサビ状突起を咬合させて前記プレスヘッドを加圧し、前記極細金属線の断面を扁平化する工程1、工程1の後、前記プレス定盤と転写プレス定盤を交換し転写プレス定盤上に極細金属線を設置する工程2、工程2の後、導電性ペーストの層がその表面に露出するように設けられている転写フィルムを、極細金属線と導電性ペーストの層が接するように被せ、ヒートツールによりこの転写フィルムを加熱、加圧する工程3を有することを特徴とする極細金属線の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−20938(P2013−20938A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−67636(P2012−67636)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】