説明

楽器用弦

本発明は、アモルファス金属を有する改良型の楽器用弦を開示する。かかる弦は、アモルファス金属のワイヤ一本であってもよく、コアワイヤ及びカバーワイヤを有していてもよい。コアワイヤ及び/又はカバーワイヤはアモルファス金属を含んでなる。この弦は従来入手可能だった金属弦に比べ、長期にわたり、音のサステインがよく、かつ、より音量が大きい。かかる弦を備えた楽器も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス金属を有する楽器用弦に関し、さらに具体的には、耐用期間が延び、より長期の使用期間にわたって所定の初期振幅に対するビブレーションのサステインがより長く、より大きい音量を呈する楽器用弦に関する。
【背景技術】
【0002】
楽器用弦の材料科学は過去一世紀の間に大きく進歩し、音調及び演奏性に関する消費者の好みの多様性を満たすため、今日では種々の材料から弦が作られている。従来、アコースティクギター、バイオリン、ビオラ、チェロ、及びアコースティックベースは、目的とする一定の音質及び演奏性を実現するために用いられる天然ガット、ナイロン、その他の合成樹脂等の弾性が比較的低い材料を弦としていた。ガット弦は長い間楽器に使用され、多くの人から好まれてきたが、品質が不均一なことが多く、湿度を吸収することにより引張強度が変動し、温度及び湿度の変化に曝されると急速に劣化しがちである。ナイロンはガット弦に代わるものとして広く支持され、一貫した品質で製造され、耐久性も極めて優れているという利点を有する。しかし、ガット弦と同様に、ナイロンも湿度変化に弱く、時間経過とともに張力が著しく損なわれる。その他の合成材料も楽器用として提案されてきた。例えば、Tappe et al.に付与された米国特許第4339499号及び4382358号、及びUeba et al.に付与された米国特許第4833027号及び第5427008号は、ポリフッ化ビニリデン材料の使用を開示し、Infeldに付与された米国特許第4854213号は、芳香族ポリアミドを含んでなる楽器用弦を教示し、McIntosh et al.に付与された米国特許第5587541号は、熱可塑性芳香族ポリエーテルケトンの使用をクレームに記載し、日本の特許第61114297号は、延伸ポリアセタールで作製された音楽弦を記載している。ピアノ、電気ギター、電気ベース等の他の楽器は、一般的に例えばカーボンスチールワイヤ、ステンレススチールワイヤ、リン青銅線等の比較的弾性が高く、より低柔軟性の材料で構成された弦を採用している。
【0003】
今日、音楽家の間で最も求められている特徴の一つが、長期の使用期間にわたってビブレーションのサステインが保たれ、かつ、音量が大きいという特徴である。かかる特徴は、使用材質の内部ダンピング(damping)特性に大きく左右される。内部ダンピングが極めて低い弦では、弦のビブレーションによって生じる波動の大部分が、弦によって吸収されることなく楽器本体に伝播される。かかる特質は、楽器本体における共鳴が向上するので特にアコースティック楽器にとって好ましい。つまり、楽器用弦の材料ダンピングの程度が低ければ、弦のビブレーションの早すぎる減衰によって音が「平坦に(flat)」又は「にぶく(dull)」なることを防ぐことができる。すなわち、内部ダンピング特性を低下させることによってハーモニクスが長く持続し、結果的により明るく(brighter)かつ生き生きとした弦音が生まれる。
【0004】
通常、ガット、ナイロン及び合成樹脂の各材料は、これらの材料が粘弾性の挙動を示すことを主因として高いダンピング特性を示す。各種の処理を行うことにより、ナイロン弦の内部ダンピング特性を低下させる試みがいくつかなされてきた。例えば、米国特許第3842705号には、ナイロン弦の演奏特質を向上させるための、高強度電離放射線の照射の使用が記載されている。米国特許第4015133号には、ポリアミド弦における弾性を向上させ、ダンピング特性を低下させるための放射の使用が記載されている。しかし、これらの処理には放射活性源又は高強度の電子ビームの使用が必要とされ、実施するにはコストが高く技術的にも難しい。
【0005】
他方、金属弦の粘弾性は大幅に低く、そのダンピング特性も遥かに良好である。しかしながら、従来の金属弦は、機械エネルギーを吸収する結晶構造及びその本質的な欠陥ゆえに、ビブレーションのサステインや、より大きな音量を実現するための能力に限界がある。さらに、金属弦における明るい音調及びサステインは、弦が一旦楽器に装着されると通常は長く持続しない。つまり、所望のピッチにチューニングして演奏された後は、その弦によって生み出される音調又は音は次第に明るさを失い、最後は平坦又は「死んだ」音質となる。この現象は、破片や腐食が巻部の間に短い期間で堆積する金属巻弦で特に一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3824705号
【特許文献2】米国特許第4015133号
【特許文献3】米国特許第5587541号
【特許文献4】米国特許第4781771号
【特許文献5】米国特許第4735864号
【特許文献6】米国特許第3865513号
【特許文献7】米国特許第4523626号
【特許文献8】米国特許第4527614号
【特許文献9】米国特許第5000251号
【特許文献10】米国特許第4607683号
【特許文献11】米国特許第4806179号
【特許文献12】米国特許第5288344号
【特許文献13】米国特許第5368659号
【特許文献14】米国特許第5618359号
【特許文献15】米国特許第5735975号
【特許文献16】米国特許出願公開公報第2005/0034792号
【特許文献17】米国特許出願公開公報第2006/0076089号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち本発明の目的は、内部ダンピングを低下させることによりビブレーションのサステインが向上した楽器用弦を提供することにある。本発明の別の目的は、弦楽器の弓又はピアノ様楽器のハンマーによる摂動の所定振幅に対し、より長く大きい音量が得られるように、耐用期間が延び、かつエネルギー吸収が減少した金属弦に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、従来の弦よりもビブレーションをサステインし、大きな音量をもたらす楽器用弦を提供する。本発明の弦は通常、アモルファス金属又はアモルファス金属合金を有する。かかる楽器用弦は種々の楽器に用いることができ、低い内部ダンピング特性、高い張力、及び低い弾性によって特徴付けられ、弦の耐用期間にわたり、より長いビブレーションのサステイン及びより長く大きい音量がもたらされる。
【0009】
本発明はさらに、基本周波の減衰期間に対する第5高調波(fifth harmonic)の減衰期間の割合により測定されるビブレーションのサステインが、同じサイズ(dimension)の結晶構造を有する弦よりも長い楽器用弦に関する。基本周波の減衰期間に対する第五高調波の減衰期間の割合は、0.55を超えてもよい。さらに、本発明の弦においては、第二高調波の振幅がその基本周波の振幅より大きくてもよい。
【0010】
本発明には、本発明の弦を1又は2以上有する楽器も含まれる。
【0011】
本発明は、少なくとも一種のアモルファス金属又はその合金を含有する楽器用の改良された弦に関する。本明細書において「アモルファス金属」なる用語は、高度に不規則な原子配列を有する非晶質構造を有する金属材料を意味し、一種類の金属からなるアモルファス金属材料の他に、二種類以上の材料からなるアモルファス金属合金組成物も含む。アモルファス金属は一般的に、ガラス状合金、非晶質合金又はガラス状金属として言及され、種々の技術を利用して製造され、かかるアモルファス金属では、その金属成分がガス相又は液体相から素早く凝固する。あまりに素早く凝固するので原子が液状のまま凍結し、そのため、従来の結晶性金属の特徴である長距離秩序の原子配列が失われる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、楽器用弦にアモルファス金属を使用することにより、伝統的に楽器弦として用いられてきた従来の金属、金属複合材、及び非金属組成物に比べて驚くべき予想外の利点がもたらされる。アモルファス金属の張力は高く、その張力はカーボンスチール又はステンレススチール等の従来の楽器弦用金属の張力の最大10倍であり、弾性域も10倍広い。さらに、結晶性材料に本質的に備わる欠陥がないため、長期の使用期間にわたって向上したダンピング特性がもたらされる。より具体的には、従来の金属は、「結晶性」又は「結晶格子」構造と一般的に呼ばれる高度に規則的な原子配列によって特徴付けられている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従来の楽器用弦では、従来の金属弦の振動エネルギーが転位の動き、及び結晶構造に存在する粒界に吸収されて消散する。従来の金属弦において弦が繰返し動くことに連れて生じる金属弦内の転位の動きやそれに続く転位増殖により、結晶構造内の結晶の動きが遅くなり、その結果、振動運動をサステインする弦の能力が阻害される。さらに、従来の金属弦内における隣接する結晶の粒界間の相互作用により内部摩擦が生じ、振動エネルギーが効率的に熱に転換され、弦の振幅及び全体共鳴を減少させる。すなわち、弾く(pluck)、かき鳴らす(strum)、弓で弾く(bow)のいずれによるものであっても、従来金属の結晶構造は機械エネルギーを吸収し、振動する弦によって生じるサステインと全音量がどちらも抑制される。
【0014】
アモルファス金属を含有する楽器用弦では、そのアモルファス構造内に原子配列が存在しないことによりダンピング特性が向上し、機械エネルギーが増加する。摩擦が生じ、エネルギーが移転するというよりも吸収されてしまうという従来金属の結晶格子構造に本質的に存在する欠陥がアモルファス金属にはない。言い換えれば、弦の振動運動がより長期の使用期間にわたり、より高いエネルギーを維持する。その結果、アモルファス金属を含有する楽器用弦により生じるピッチは、従来材料で製造された楽器用弦よりも明るく、大きく、サステインが長い。
【0015】
本発明によると、楽器用弦は、アモルファス金属からなるソリッドワイヤ、又は複数の繊維(filament)が束になり、ねじられ、巻かれ、編まれ、又は他の方法で纏められたストランドワイヤを含有することができる。かかるストランドワイヤは、(同じ又は別の)アモルファス金属繊維からだけで構成されていても、アモルファス金属繊維と、本発明の目的を達成するために適した1以上の別の材料との組合せを含んでいてもよい。本発明の楽器用弦は、単一弦であっても巻弦であってもよい。単一弦は、ソリッドワイヤであってもストランドワイヤであってもよい。巻弦は、コアワイヤとカバーワイヤで構成されていてよく、柔軟性を保ちつつ大きな直径を有する楽器用弦を提供するために、カバーワイヤはコアワイヤの周囲を覆う。コアワイヤ及びカバーワイヤは、ソリッド状でもストランド状でもよく、アモルファス金属単独でできていても、他の適切な材料(ガット、合成材料、アルミニウム、ニッケル及びスチールを含むがこれらに限定されない)との組合せでできていてもよい。
【0016】
本発明の一実施形態では、アモルファス金属を含有する楽器用弦を提供し、かかるアモルファス金属には、具体的に以下の金属、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、モリブデン(Mo)及びマンガン(Mn)が1又は複数含まれる。より一般的には、アモルファス金属は(Fe)が含まれてよい。
【0017】
本発明の別の実施形態において、弦にはアモルファス金属合金が含有されていてもよい。かかるアモルファス金属合金組成物には、シリコン(Si)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)又はテルル(Te)から選ばれる一若しくは複数の半金属、或いは一若しくは複数の非金属、又は1又は2以上の希土類金属が含まれてよい。
【0018】
本発明の一実施形態において、楽器用弦には、鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、炭素(C)、及びホウ素(B)を含むアモルファス金属合金が含まれる。関連する形態では、弦には、イットリウム(Y)が含まれてよく、及び/又は以下に記載の原子割合を有する:鉄(Fe)(≦40%)、クロム(Cr)(<25%)、マンガン(Mn)(15〜25%)、モリブデン(Mo)(<25%)、炭素(C)(10〜25%)、ホウ素(B)(10〜25%)及びイットリウム(Y)(≦4%)。
【0019】
別の実施形態において、楽器用弦は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、モリブデン(Mo)、及びマンガン(Mn)から選ばれる1又は2以上の金属のアモルファス金属合金を含有する。
【0020】
本発明の楽器用弦は、弦を必要とする種々の楽器に設けられ、かかる楽器にはバイオリン、ギター、ピアノ、ベース、チェロ、及びビオラが含まれるが、これらに限定されない。バイオリン、ギター、ベース、チェロ及びビオラ等、フレット板を備えた楽器では、弦の一方の端部に鳩目、ボール、又は単にノット状に結わえた材料そのものからなる従来式の固定特徴(securing feature)が設けられている。かかる固定特徴はテールピースのスロットを通って弦の前記端部を楽器に固定する。弦の他方の端部は、楽器の主軸体上のナットを経由して、やはり主軸体上に位置するチューニングピンに巻き付けられる。これらの弦は、チューニングピンを調整することにより張力をもった状態におかれる。バイオリン、アコースティックベース、チェロ及びビオラ等のある種の楽器にはブリッジも設けられ、ブリッジの位置及び高さによってフレット板から弦までの距離が決められる。このブリッジは、弦を支持し、弦が張った状態ではフレット板に接触しないようにする。ピアノでは各弦が、一方の端部ではピアノハープの弓状部分に配置されたヒッチピンによって、他方の端部ではチューニングブロックに摩擦を有し回転自在に維持された調節可能なチューニングピンによって、固定又は接地(grounded)される。弦は、チューニングピンをチューニング及び調節することによって張力をもった状態におかれる。
【0021】
コアワイヤ及びカバーワイヤの直径としては、本発明の目的を達成するような種々の範囲の直径が可能である。本発明の弦の直径は、約0.005〜約0.350インチであることが好ましい。さらに、弦は、約0.500〜約450ポンドの張力を有する。バイオリンで使用する場合、楽器用弦の直径は、約0.009〜約0.036インチとすることができ、張力は、約7.81〜約19ポンドとすることができる。電気ギターに使用する場合、楽器用弦の直径は、約0.008〜約0.084インチとすることができ、張力は、約9.1〜約39.0ポンドとすることができる。アコースティックギターに使用する場合、楽器用弦の直径は、約0.009〜約0.056インチとすることができ、張力は、約12.9〜約34.8ポンドとすることができる。電気ベースに使用する場合、楽器用弦の直径は、約0.018〜約0.135インチとすることができ、張力は、約30〜約67ポンドとすることができる。アコースティックベースの場合、楽器用弦の直径は、約0.046〜約0.149インチとすることができ、張力は、約39〜約75ポンドとすることができる。楽器用弦をピアノに使用する場合は、弦の直径は、0.350インチまで大きくすることができ、張力は少なくとも450ポンドまでとすることができる。しかし、本明細書に記載の本発明の目的が達成される限り、全ての楽器について、楽器用弦の直径は如何なるものでもよく、あらゆる張力まで張ることができる点に留意されたい。
【0022】
従来の弦と比較して本発明の弦の優位性を示す方法がいくつかある。例えば、本発明の弦は、粘弾性の高い材料の特徴であるダンピング特性を回避するため、ガット又はナイロン製の弦より大きい弾性率を有する。また、本発明の弦は、従来の金属弦におけるよりも弾性率が低く、本発明の弦のほうが、ビブレーションのサステインが長く、音量も大きい。以下の表は、楽器用弦に従来用いられてきた種々の材料について、Youngによる弾性率及び物質密度を示す表である。
【0023】
【表1】

【0024】
さらに改良してダンピングを低下させるには、弾性率が60〜150GPa、かつ、物質密度が2,700〜7,000kg/mであるアモルファス金属合金を選択すればよい。例えば、弾性率が150GPa未満のアモルファス金属を含有する音楽弦は、本発明に含まれる。同様に、物質密度が約2,000〜約8,000kg/mであるアモルファス金属を含有する弦も本発明の範囲に含まれる。同様にアモルファス金属は、約2,000〜約8,000kg/mの物質密度、及び/又は75GPa未満又は150GPa未満の弾性率を有していてもよい。楽器用の弾性率及び/又は物質密度は、弦が本発明の目的にしたがって機能する限りにおいて、どのようなものであってもよい。
【0025】
アモルファス金属を含有する弦の物質特性によりダンピングの低下という改良が生じるか否かを判断するための公知の方法の一つとして、第五高調波の減衰期間を基本周波の減衰期間と比較する方法がある。この割合は、組成及びサイズが同じ結晶性金属楽器の弦で得られる同様の割合とも比較することができる。アモルファス金属弦における割合が、同じ組成及びサイズの従来の金属弦における割合よりも大きいことが好ましい。かかるデータの入手方法がMcIntosh et al.に付与された米国特許第5587541号に記載され、その全体を参照として本明細書に組み込む。より具体的には、従来の金属弦では、基本周波の減衰期間に対する第五高調波の減衰期間の割合が約0.45である。一実施形態の楽器用弦では、この割合は0.55より大きい。
【0026】
基本振幅に対する第二高調波の振幅が増大すると音が明るくなることも知られている。本発明は、本発明の弦における基本周波の振幅に対する第二高調波の振幅の割合が、従来の結晶性金属弦における基本周波の振幅に対する第二高調波の振幅の割合よりも大きいことを意図する。
【0027】
したがって別の実施形態は、基本周波の減衰期間に対する第五高調波の減衰期間の割合に基づき、結晶構造を有する同じサイズの弦よりもビブレーションのサステインが長い楽器用弦に関する。基本周波の減衰期間に対する第五高調波の減衰期間の割合は、0.55を超えてもよい。さらに、本発明の弦では、その第二高調波の振幅が基本周波の振幅より大きくてもよい。
【0028】
本発明の弦は、当技術分野で公知の種々の方法によって製造することができる。例えば、断面が円状のアモルファス金属ワイヤ繊維は、米国特許第4781771号及び同4735864号に記載の方法により作製することができる。これらの米国特許はその全体を参照として本明細書に組み込む。
【0029】
本発明は、鉄基アモルファス金属合金及び銅基アモルファス金属合金のワイヤ繊維の使用を採用するが、かかる使用に限定されない。これら特定の合金は、他のアモルファス金属合金と比べ、優れたワイヤ形成能を有することが当技術分野で知られている。
【0030】
断面が円状のアモルファス金属ワイヤ繊維を得る一方法として、従来式の急速冷却法によって作製されたリボンを押し出し、巻き、又は延伸する方法がある。例えば米国特許第3865513号を参照のこと(その全体を参照として本明細書に組み込む)。あるいは、いずれも参照としてその全体を本明細書に組み込む米国特許第4523626号(断面が円状の鉄基アモルファス金属ワイヤ繊維)又は米国特許第4527614号に記載の「回転水中紡糸法(in-rotating-water spinning method)」を用いて円状の断面を得ることができる。
【0031】
この方法では、冷却液を回転ドラムに導入し、遠心力によりドラムの内壁に冷却液フィルムが形成される。この冷却液フィルムに紡糸ノズルから溶融合金を射出することにより冷却が開始する。高度に円状であり、ワイヤ径がほぼ均等である連続ワイヤを得るためには、紡糸ノズルから射出された溶融金属の流速を約5〜約30%上回るように回転ドラムの周速度を調節し、紡糸ノズルから射出されつつある溶融金属とドラム内壁に形成された冷却液フィルムとの角度を約20〜約70℃に調節することが好ましい。あるいは、その全体を参照として本明細書に組み込む米国特許第5000251号に、溶融金属の噴流を冷却液と接触させる前に気体雰囲気と接触させることが開示されている。
【0032】
本発明のアモルファスワイヤ繊維は、その全体を参照として本明細書に組み込む米国特許第4607683号に記載のいわゆる「コンベヤー法」によっても作製できる。この方法では、紡糸ノズルから溶融金属を射出し、稼働中の溝付きコンベヤーベルト上に形成された冷却液層と接触させることにより溶融金属を冷却する。
【0033】
アモルファス金属ワイヤ繊維の作製方法は冷間加工性において向上してきており、疲労特性が良好で非常に丈夫なアモルファス金属微細ワイヤの製造が当技術分野で知られている。例えば、米国特許第4806179号(参照として本明細書に組み込む)には、加工工程中に十分な丈夫さを示す特定のFe−Co−Cr−Si−B組成物を有するアモルファス合金が開示されている。これらの特徴は特に有利であり、ストランドワイヤを作製するため、束にして、ねじって、巻いて、編んで、又は他の方法により纏めることのできるアモルファス金属を提供する。本発明のアモルファス金属ワイヤは、良好な疲労特性を示し、非常に丈夫であり、従来の金属ワイヤ延伸法を用いて破損させることなく連続的に冷間延伸することもできる。ダイを多数使用することにより、所望のワイヤ径が得られるまでワイヤを延伸することができる。
【0034】
上記にそれぞれ記載のアモルファス金属及びアモルファス金属合金を作製する方法に加え、他の方法も同様に有用であり当業者に知られている。それらの例として、米国特許第3865513号、同第5288344号、同第5368659号、同第5618359号、及び同第5735975号、並びに米国特許出願公開公報第2005/0034792号が挙げられ、それぞれ参照として本明細書に組み込まれているが、これらの方法に限定されることはない。断面径の大きいバルクアモルファス金属合金の形成法としては、吸引鋳造法、溶融紡糸法、平面ブロー鋳造法、及び従来のダイカスト法が含まれ、これらもまた当技術分野で公知である。
【0035】
一実施形態では、楽器用弦はバルクアモルファススチールを有する。バルクアモルファススチールの組成物には、鉄、クロム、マンガン、モリブデン、炭素、及びホウ素が含まれていてよい。かかる組成物の一つが、商標名DARVA-Glass1として市販されている。このバルクアモルファススチール組成物にも鉄、クロム、マンガン、モリブデン、炭素、ホウ素、及びイットリウム等の希土類元素が含まれていてよい。イットリウムを加えると競合する結晶構造が不安定化し、非常に低温で合金が「液状」構造を維持することが可能となり、その結果、凝固する際にアモルファス状態が維持される。イットリウムはまた炭化鉄結晶の成長を遅らせると考えられ、スチールが結晶化することを防ぐ。かかる組成物の一つが、商標名DARVA-Glass 101として市販され、従来のスチールの二倍以上の堅さ及び強度を有し、従来のスチールの三分の一程度の重さである。ガラス形成能が増強した同様の鉄基バルクアモルファス金属類が、参照として本明細書に組み込まれている米国特許出願公開公報第2005/0034792号に開示されている。
【0036】
本発明の楽器用弦は、ジルコニウム−チタン−ニッケル−銅−ベリリウム合金でもよい。この実施形態では、バルク凝固アモルファス合金のガラス転移温度は約350〜約400℃であり、流体温度は約700〜800℃である。この実施形態における原子百分率は、ジルコニウムが約41.2%、チタンが約13.8%、ニッケルが約10%、銅が約12.5%、及びベリリウムが約22.5%であり、その全体が本明細書に組み込まれている米国特許第5288344号に記載されている。
【0037】
本発明の楽器用弦は、ジルコニウム(Zr)とハフニウム(Hf)の合計が約25〜約85%、アルミニウム(Al)が約35%、並びにニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)の合計が約5〜約70%、さらに雑不純物、これらの割合の総計が100原子百分率となるように構成されていてもよい。米国特許出願公開公報第2006/0076089号にもジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)及びニッケル(Ni)からなる同様の高ジルコニウム含有5種合金が開示されている。
【0038】
本明細書中の範囲に関する記載は便宜上のためだけであり、かかる範囲に含まれるあらゆる中間値も本発明者らに帰属する。すなわち、本明細書に開示の範囲内の中間値又は小範囲も本質的に開示されていると解釈されるべきである。さらに、本明細書に開示のアモルファス金属合金の全ての組合せは本発明者らに帰属し、便宜上だけの理由により個別に挙げているのではない。
【0039】
上記の記載を読んだ当業者は、ある程度の変更や改良を思いつくであろう。そのようなあらゆる変更及び改良は、本明細書では簡潔性及び読みやすさの観点から除外しているが、それらは本願クレーム記載の発明の精神及び範囲に当然含まれると解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス金属を含有する楽器用弦。
【請求項2】
アモルファス金属が以下の金属の1又は2以上を含有する、請求項1に記載の弦:
鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、モリブデン(Mo)、及びマンガン(Mn)。
【請求項3】
アモルファス金属が、シリコン(Si)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)、及びテルル(Te)からなる群から選択される1又は2以上の半金属を含む合金である、請求項1に記載の弦。
【請求項4】
アモルファス金属が、1又は2以上の非金属を含む合金である、請求項1に記載の弦。
【請求項5】
アモルファス金属が、1又は2以上の希土類元素を含む合金である、請求項1に記載の弦。
【請求項6】
弦の直径が、約0.005〜約0.0350インチである、請求項1に記載の弦。
【請求項7】
約0.500〜約450ポンドの張力をかけた、請求項1に記載の弦。
【請求項8】
約2,000〜約8,000kg/mの物質密度を有する、請求項1に記載の弦。
【請求項9】
アモルファス金属の弾性率が、75GPa未満である、請求項1に記載の弦。
【請求項10】
アモルファス金属の弾性率が、150GPa未満である、請求項1に記載の弦。
【請求項11】
アモルファス金属が鉄(Fe)を含有する、請求項2に記載の弦。
【請求項12】
弦が、コアワイヤと前記コアワイヤの周囲に巻かれたカバーワイヤとを有し、前記コアワイヤ、前記カバーワイヤ、又はその両方がアモルファス金属を含有する、請求項1に記載の弦。
【請求項13】
コアワイヤが、ガット材料、合成樹脂、又は金属ワイヤである、請求項12に記載の弦。
【請求項14】
鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、炭素(C)、及びホウ素(B)を含むアモルファス金属合金を含有する楽器用弦。
【請求項15】
アモルファス金属合金がイットリウム(Y)を含有する、請求項14に記載の弦。
【請求項16】
アモルファス金属合金が、以下の原子百分率を有する、請求項15に記載の弦:
鉄(Fe) ≦40%
クロム(Cr) <25%
マンガン(Mn) 15〜25%
モリブデン(Mo) <25%
炭素(C) 10〜25%
ホウ素(B) 10〜25%
イットリウム(Y) ≦4%。
【請求項17】
アモルファス金属を有する楽器用弦であって、基本周波の減衰期間に対する第五高調波の減衰期間の割合から測定するビブレーションのサステインが、結晶構造を有する同じサイズの弦に比べて大きい弦。
【請求項18】
割合が、0.55より大きい、請求項17に記載の弦。
【請求項19】
弦の第二高調波の振幅が、前記弦の基本周波の振幅より大きい、請求項17に記載の弦。
【請求項20】
鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、銅(Cu)、ベリリウム(Be)、ハフニウム(Hf)、モリブデン(Mo)、及びマンガン(Mn)からなる群から選択される1又は2以上の金属を含むアモルファス金属合金を含有する楽器用弦。

【公表番号】特表2010−501885(P2010−501885A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525120(P2009−525120)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際出願番号】PCT/IB2007/002361
【国際公開番号】WO2008/023231
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(506002409)ズーリ ホルディングズ リミテッド (6)
【Fターム(参考)】