説明

楽器用調湿シート及びこれを用いた楽器用調湿セット

【課題】軽量且つ即効性の高い楽器用調湿シートと、これを用いた調湿セットを提供することを目的とする。
【解決手段】本実施の形態1における調湿セット1において、樹脂ケース10の内部に調湿シート2を収納する。当該調湿シート2として、ポリオール系高分子材料の基体に、ビニル共重合体等からなる吸放湿性高分子を分散させた調湿繊維301をシート状に構成してなるフェルト3を繊維構造体として構成し、これを外装メッシュ20に包含させて用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器用調湿シート及びこれを用いた楽器用調湿セットに関し、特に調湿効果の即効性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオリン、チェロ、ビオラ等の弦楽器若しくはこの演奏に用いられる弓、又はサックス、トランペット等の金管楽器等の保存、或いはピアノ等の保存においては、当該楽器の性能を保つために適度な湿度調整が要求される。
このため、例えば楽器収納ケース内に、顆粒状のシリカゲルを含むバッグを収納し、楽器の使用直後や、使用環境の変化によって生じた過度の湿気を除去し、保存雰囲気中の楽器収納ケース内の湿度を低減する対策がなされている。
【0003】
また、楽器の保存に際しては、湿度を低減するだけでなく、さらに一定の湿度を保つ必要がある。これは上記弦楽器や弓等がその材料特性上、乾燥が進みすぎると音質が変化する等の問題を起こしたり、極端な場合には割れ、切断等の物理的損傷を生じることもあるからである。
このため、例えば特許文献1〜3に示すように、吸放湿性を有する高分子を用い、これを基体となるゴム材料に混合させてなるゴムシートを形成し、楽器用調湿シート(例えば古河電気工業株式会社製「ドライキーパー」)として楽器収納ケースに配設して用いる対策がなされている。
【特許文献1】特開2003−010631号公報
【特許文献2】特開2003−001050号公報
【特許文献3】特開平9−324119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の従来技術による楽器用調湿シートでは、ある程度の調湿効果は望めるものの、その調湿に係る即効性が比較的遅いという課題がある。
ここで図6(a)は、従来のゴムシートからなる調湿シートの構成を示し、図6(b)は当該シートのx−x‘線に沿った模式的な拡大断面図を示す。
【0005】
当該調湿シートは、ポリエチレン等の機密性フィルム表面に対し、前記ゴムシートが貼着され、これが不織布袋に収納された構成を持つ。従って、当該不織布袋自体は良好な流通性を持つものの、ゴムシート自体の通気性は余り高くなく、且つ当該ゴムシートの片方の主面は機密性フィルムで覆われている。
このため、実際にはゴムシートに含まれる吸放湿性高分子が相当量あるにもかかわらず、外気と接触する面積が少ないため、非常に緩慢な速度で調湿がなされることから、楽器の調湿効果として求められる即効性の面では未だ課題が残されていると言える。
【0006】
特に、弦楽器に用いる弓等の場合は、湿度によって伸縮の激しい天然材料(馬の尾の毛等)が使われているため、調湿に係る適度な即効性が求められている。
また、チェロ、ビオラ等の比較的大型の楽器を収納する収納ケースには、これに相当する調湿シートを用いる必要があるが、この場合、上記ゴムシートはある程度の重さがあるため、使用数に応じて当該重量が増加しやすいという問題もある。
【0007】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、従来に比べ、軽量且つ即効性の高い楽器用調湿シートと、これを用いた調湿セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、高分子材料からなる基体に吸放湿性高分子を分散させた繊維材料が、シート状に構成されてなる繊維構造体を備えることを特徴とする楽器用調湿シートとした。
ここで、前記高分子材料からなる基体は、ポリオール系材料を含む材料からなり、前記吸放湿性高分子は水溶性ビニル単量体若しくはその前駆体と架橋剤が重合され形成されたものを含む材料から構成することができる。
【0009】
また前記繊維構造体は、不織布構造を有するものとすることもできる。
さらに本発明は、前記繊維構造体が、風袋に収納されてなる楽器用調湿シートとすることも可能である。
さらに本発明は、通気口を有するケースに、保湿剤と、前記楽器用調湿シートが収納されてなる楽器用調湿セットとすることもできる。
【0010】
ここで、具体的な前記保湿剤としては、ポリエチレングリコール系材料、植物枝葉、或いは繊維材料に水分を含浸させたものから選択されたものとすることができ、さらに前記ケースには、湿度計を収納することも可能である。
さらに本発明は、前記楽器用調湿シートが、帯状の通気性材料に内包又は担持されてなるピアノ用キーカバーとすることも可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の楽器用調湿シートとこれを用いた楽器用調湿セットによれば、繊維状基体に吸放湿性高分子を分散させているので、従来構造の調湿シートに比べて吸放湿性高分子が外気に触れる表面積が格段に増加され、当該調湿繊維の間隙において外気の流通の確保が図られる。
その結果、当該調湿繊維の間隙を通じて吸湿、排湿のいずれの特性も飛躍的に良好になされることとなり、従来のゴムシートからなる調湿シート(図6(b))に比べ、楽器用調湿シートとして求められる高い即効性が発揮される。
【0012】
また、このような調湿シートでは、実際には繊維を用いた不織布構造体(いわゆるフェルト)により構成されるため、ゴムシート構造である従来に比べて極めて軽量にすることができる。
このため、楽器収納ケースに収納しても、重量が増加した体感は全く感じられない。従って、ビオラやチェロなど、大型の楽器収納ケースに対しても、重量を気にすることなく、内部スペースの都合に応じて調湿シートの使用量を自由に調節することが可能である。
また、本発明の調湿シートをピアノ用キーカバーに適用すれば、使用後の鍵盤周辺の過剰な湿度を適切に低減させることができるので、経時的な音質の変化を抑制し、いつでも良好な音質が発揮される効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1における調湿セットの構成と、楽器収納ケースへの適用例を示す模式図である。
本実施の形態1における調湿セット1は楽器収納ケース5に収納されるものであって、図1(a)に示されるように、樹脂ケース10、調湿シート2、デジタル湿度計110等で構成される。
【0014】
樹脂ケース10は、ポリプロピレン(PP)材料を射出成型してなるものであって、長方形状の上蓋101と下蓋102が互いに内部空間を置いて対向配置されてなる。当該上蓋101、下蓋102の各主面には、開口或いはメッシュ加工されてなる通気口として、窓部101a、102a(不図示)がそれぞれ形成されている。当該樹脂ケース10の内部には、デジタル湿度計110と調湿シート2とがそれぞれ収納されている。
【0015】
デジタル湿度計110は、内部にサーミスタ素子及び電気容量型湿度素子がワンチップ基板上にボタン電池とともに配設されてなる公知の構成であって、その液晶ディスプレイに現在の温度とともに湿度が表示されるようになっている。当該デジタル湿度計110は図1(a)に示すように、樹脂ケース10の上蓋101における見やすい位置に配設される。なお、当然ながら当該湿度計はデジタル方式に限定されない。
【0016】
調湿シート2は、樹脂ケース10の窓部101a、102aに位置するように収納されている。本発明では、当該調湿シート2の構成に特徴を有し、これについて後に詳述する。当該シート2のサイズ例としては、縦90ミリ、幅55ミリ、厚さ2ミリとすることができる。
一方、樹脂ケース10のサイズ例としては、縦120ミリ、幅75ミリ、厚さ15ミリとすることができるが、このサイズは比較的大型であり、さらに小さくすることも可能である。
【0017】
また、樹脂ケース10の材質を塩化ビニル、ポリエチレン(PE)等の軟質樹脂、或いは多孔質状の紙製、プラスチック製バッグ等とすることによって、楽器収納ケース内の曲面状の内壁に対し、柔軟に貼付させることも可能である。
このような構成を持つ調湿セット1は、実際には図1(b)に示すように、例えばバイオリン用収納ケース5において、ケース本体50bの内部、内壁51、上部空間52、或いは蓋50aの内部のいずれかに配設することが可能である。また、当該配設に際しては、樹脂ケース10を両面テープにより固定、或いは面ファスナー等を用いて脱着自在に固定することもできる。
【0018】
<調湿シートの構成と効果について>
ここにおいて、本実施の形態1における調湿シート2は従来と異なり、高分子基体に、Bからなる吸放湿性高分子を分散させた繊維材料(吸放湿性樹脂分散体)が、シート状に構成されてなる繊維構造体として構成されている点に特徴を有する。
図3(a)は、調湿シート2の外観図、図3(b)は調湿シートのA-A‘断面図、図3(c)は当該調湿シートの拡大断面図をそれぞれ示す。
【0019】
図3(a)に示される調湿シート2は、外装メッシュ20と、これに内包されたフェルト3によって構成される。
外装メッシュ20は、直径2ミリ程度の間隙201を持つ粗めのメッシュ構造を有する風袋であって、これによって図3(b)に示すように、内部のフェルト3が十分外気と触れることができるようになっている。
【0020】
フェルト3は、調湿繊維301が互いに適度な密度で凝縮されてなる不織布構造体である。ここで、調湿繊維301は、高分子基体に、吸放湿性高分子を分散させてなる。
ここで、高分子基体としては以下のポリオール系材料を用いることができる。
すなわち、当該ポリオール系材料としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、エポキシポリオール、エポキシ変性ポリオール、ポリヒドロキシアルカン、油変性ポリオール、ヒマシ油、或いは、主鎖がC-C結合よりなるポリオール、ポリオールの水酸基をアルコール又はカルボン酸で一部封鎖したエーテル化物及びエステル化物が挙げられる。このうち、ポリエーテルポリオール及びポリエステルポリオールが好適であることが分かっている。
【0021】
一方、吸放湿性高分子としては、以下のものを用いることができる。
すなわち、水溶性ビニル単量体、若しくは加水分解により水溶性となるビニル単量体の重合体を、架橋剤により架橋して形成されたものが挙げられる。本発明において水溶性ビニル単量体としては、少なくとも1個のカルボン酸(塩)基、スルホン酸(塩)基、燐酸(塩)基、水酸基、アミド基、アミノ基、4級アンモニウム塩基等の親水性基を有する重合性単量体が挙げられる。
【0022】
ここで、加水分解により水溶性となるビニル単量体としては、少なくとも1個の加水分解性基(エステル基、ニトリル基、アミド基等)を有するモノマーが挙げられる。
エステル基を有するモノマーとしては、例えば、モノエチレン性不飽和カルボン酸の低級アルキル(C1〜C3)エステル[例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等]、モノエチレン性不飽和アルコールのエステル[例えば、酢酸ビニル、酢酸(メタ)アリル等]などが挙げられる。ニトリル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0023】
これらのうち、好ましくは水溶性のビニル単量体である。更に好ましくは、カルボン酸(塩)基、スルホン酸(塩)基を有する単量体であり、特に好ましくはアクリル酸及び/又はアクリル酸塩である。これら重合性単量体は単独で使用してもよく、また、必要により2種以上を併用してもよい。
<調湿繊維の作製方法>
以上の高分子基体材料、吸放湿性高分子材料を用いた調湿繊維301の作製方法例としては、以下の手順を採ることができる。
【0024】
本発明における調湿繊維301は、具体的には以下の方法で作製することができる。
(1)水溶性ビニル単量体もしくはその前駆体、架橋剤、及び必要により他のビニル単量体を混合してなる水溶液または水分散液を用意する。そして、これにポリオール系材料及び必要により乳化剤を混合した液を滴下する。その後は、必要によりラジカル重合触媒を用いて加熱するかまたは放射線、電子線、紫外線などを照射する。
【0025】
(2)ポリオール系材料に水溶性ビニル単量体もしくはその前駆体、架橋剤及び必要により他のビニル単量体の水溶液又は水分散液を滴下し、必要によりラジカル重合触媒および乳化剤を用いて、その後(1)と同様に操作をする。
(3)ポリオール系材料と水の混合物に水溶性ビニル単量体もしくはその前駆体、架橋剤及び必要により他のビニル単量体の水溶液または水分散液を滴下し、必要によりラジカル重合触及び乳化剤を用いて、その後(1)と同様に操作する。
【0026】
(4)ポリオール系材料、乳化剤及び水からなる分散液に、必要によりラジカル重合触媒を存在させて、水溶性ビニル単量体もしくはその前駆体、架橋剤及び必要により他のビニル単量体を滴下し、その後と同様に操作する。
ここで、調湿繊維301中の吸放湿性高分子の含有量は、当該吸放湿性高分子の分散性の観点から、通常は1重量%〜70重量%の範囲、好ましくは5重量%〜65重量%の範囲、特に好ましくは10重量%〜60重量%の範囲に設定することが望ましい。
【0027】
このような方法で各種材料を混合し、加工することによって、本発明の調湿繊維301を得ることができる。
なお、調湿繊維301の構成、及び上記作製方法自体については、例えば特開平9-324119号公報、特開平2003-1050号公報に開示されており、公知のものである。しかしながら、これらの刊行物には、調湿繊維301を用いた本発明の楽器用調湿シート及び調湿セットについての構成や適用例についての開示・示唆はない。
【0028】
なお、ここでは調湿繊維301の凝縮構造として不織布構造(フェルト)を示しているが、本発明はこれに限定されず、織布構造体として作製してもよい。
<調湿シート2の効果>
このような構成を持つ調湿シート2によれば、繊維状基体に吸放湿性高分子を分散させていることから、従来構造の調湿シートに比べて吸放湿性高分子が外気に触れる表面積が格段に増加し、且つ、外装メッシュ20の間隙201及び調湿繊維301間隙において外気の流通の確保が図られる。その結果、図3(c)に示すように、外装メッシュ20の間隙201及び調湿繊維301の間隙を通じて吸湿、排湿のいずれも良好になされることとなり、従来構造(図6(b))に比べて飛躍的に高い即効性が発揮される。
【0029】
また、調湿シート2は、調湿繊維301を用いたフェルト3により構成されるため、ゴムシート構造である従来に比べて極めて軽量(例えば、同様のサイズで比べた場合、ゴムシート構造では20g程度のものが本発明において1g以下で作製できる)に作製することができる。このため、楽器収納ケースに収納しても、重量が増加した体感は全く感じられない。
【0030】
従って本発明によれば、ビオラやチェロなど、大型の楽器収納ケースに対しても、重量を気にすることなく、内部スペースに余裕がある限り大量に調湿シート2を収納することが可能である。
なお、本実施の形態1では、樹脂ケース10に調湿シート2及びデジタル湿度計110を配設してなる調湿セット1を用いる構成例について示したが、本発明では、樹脂ケース10及びデジタル湿度計110は任意に用いることができ、必須要素ではない。
【0031】
また樹脂ケース10等のように、堅いケースを用いず、柔らかい材料(多孔性ナイロン等)からなるケースを用いるか、ケース自体を省略して調湿シート2のみを利用する場合においては、楽器ケースの内面形状に合わせて自由に調湿シート2及びこれを収納するケースを曲げて貼着することができるので、その点で良好な利便性も望めると考えられる。
また、調湿シート2についても、必ずしも外装メッシュ20に対してフェルト3を収納した構成を必要とするものではなく、少なくともフェルト3を用いる構成であればよい。
【0032】
さらに、図1では楽器収納ケース5の内部に調湿セット1を配設する例を示したが、これに加えて図2に示すように、楽器収納ケース5の内張501、502と楽器ケース本体503との間に調湿シート2を複数にわたりはさみ込むようにして配設してもよい。なお、この場合にデジタル湿度計110等が不要であれば、調湿セット1の使用を省くこともできる。
【0033】
また、前記内張501、502自体を調湿シート2として構成し、これを楽器収納ケース5の内部に貼着して用いることも可能である。
<実施例>
図4は、本発明の調湿シートについての実施例と、従来の各調湿シートの性能を比較したデータを示す。図4(a)は実施例のデータ、図4(b)は従来例のデータをそれぞれ示す。従来例としては、ゴムシート状の調湿シートである古川電工(株)性「ドライキーパー」についての特性を表している。
【0034】
まず、図4(b)に示されるように、従来例では、シートの吸湿に係る飽和までは約50時間程度を要する。このような結果は、図6(b)を用いて前述したように、基体形状が比較的密なゴム状基体であり、且つ、ゴムシートの片面がフィルムで覆われているため、ゴムシートの内部にまで水分が進入するのに時間が掛かる理由によるものと思われる。また、例え前記フィルムが設けられていなくても、前記ゴムシートを用いる限り、短時間ではその表面付近において実質的な吸排湿が行われることになるので、やはり楽器用調湿シートとしての性能は十分に発揮されないと考えられる。
【0035】
なお、当然ながら、ゴムシートに混入させる吸放湿性高分子の量によって(さらに具体的には、ゴムシート表面において外気と接触する吸放湿性高分子の量によって)、この特性は変化し、当該高分子の量が増加すれば、それに応じて吸放湿性も高められるものと考えられるが、ここでは実施例との比較のために、ゴムシートの表面及び内部を区別することなく、均一な材料特性の観点から言及している。
【0036】
一方、図4(a)に示されるように、実施例では約30分程度で吸湿の飽和が達成されており、従来例に比べて高い即効性を有することが確認できる。また、同様に排湿性能についても、前記吸湿特性と同様の即効性を呈することが確認され、吸湿、排湿のいずれがの特性が他方の特性より優れているということではなく、これら両特性が同様に良好な性能を発揮されることが確認される。
【0037】
このような効果は、図3(c)に示されるように、本発明の調湿シート2がフェルト3を備え、当該フェルト3内部の隅々まで外気が流通でき、調湿に係る有効な表面積が確保されていることによるものと思われる。
<実施の形態2>
次に示す図5は、本発明の実施の形態2における調湿機能を備えたピアノ用キーカバーの構成を示す図である。図5(a)、図5(b)はそれぞれ別のキーカバーの構成を示す。図5(a)では、模式的なピアノの鍵盤の上に配設されるキーカバーの様子を示し、且つB−B‘線においてキーカバー内部を部分的に示している。
【0038】
まず図5(a)に示すキーカバー4は、ピアノの鍵盤と鍵盤蓋との間に挟み込んで使用されるものであって、通気性材料の一例である長尺帯状のフェルト外装40の内部に、外装メッシュ20に覆われた調湿シート2が収納されてなる。調湿シート2は、フェルト外装40に合わせてサイズ変更した長尺状のものを使用しているが、図5(b)に示すように比較的小さいサイズの調湿シート2を複数にわたりフェルト外装40に収納するようにしてもよい。
【0039】
フェルト外装40は、フェルト材料は従来のキーカバーと同様のポリエステル不織布であって、不織布の繊維密度の調整により一定の通気性を有している。これにより、当該フェルト外装40に内包される調湿シート2が外部と良好に通気性を保てるようになっている。なお、通気性材料としては、フェルト材料以外の材料(一定の強度及び通気性を持つクラフト紙等)を用いて構成してもよい。
【0040】
キーカバー4のサイズはどのようなものであってもよく、例えば標準的なグランドピアノの88鍵からなる鍵盤の大きさに合わせることが可能である。また、調湿シート2は実施の形態1で述べた通り、数ミリ単位で十分薄く構成できるので、ピアノの鍵盤蓋を閉めても当該鍵盤蓋が浮き上がることはなく、鍵盤蓋をしっかり閉めた状態で、鍵盤と鍵盤蓋との間において良好に挟設することができる。
【0041】
以上の構成を持つキーカバー4によれば、使用後にユーザの指や外気により湿気を含んだ鍵盤が鍵盤蓋に覆われた後も、鍵盤周辺から過剰な水分を吸湿し、且つ、乾燥時には前記取り込んだ水分を適宜放出する調湿効果がなされる。一般にピアノは金属・木、フェルト等の比較的湿気に弱い材料で構成されており、特に鍵盤周辺はピアノ線とハンマー機構とを構成するためにフェルト及び積層された木製材料で構成されている。このため、ユーザの汗や多湿環境による影響を受けて、これらの構成要素が水分を含むことにより、音響効果が変化することがあるので、適宜調律や細かなメンテナンスが要求される等、経時的に一定の音質を保つことが困難な場合がある。これに対し本発明では、鍵盤と鍵盤蓋という密閉された空間において、鍵盤表面及び隣接する鍵盤間を中心に調湿効果が発揮されるので、鍵盤のコンディションが常に良好に保たれ、いつでも安定した音質で演奏を行うことが可能となる。
【0042】
なお、キーカバー4の構成は、図5(a)のように調湿シート2をフェルト外装40で完全に覆うものに限定されず、これ以外の構成を取ってもよい。ここで図5(b)は本実施の形態2の別のバリエーションに係るキーカバーの構成を示す。当図5(b)に示すキーカバー6は、内部には調湿シート2が複数にわたり配設されているが、フェルト外装40の裏表面がメッシュ401で形成された特徴を有する。これにより、図5(a)に比べて一層の通気性の向上が図られているので、優れた即効性が期待できるものである。
【0043】
また、図5では、調湿シート2をフェルト外装40に内包する構成を示したが、フェルト外装40は袋状にする必要はなく、例えばこれを帯状体とし、当該帯状のフェルト表面に直接調湿シート2を貼着、縫着する等の手法で担持させるようにしてもよい。
<その他の事項>
上記実施の形態1では、楽器収納ケースに調湿セットのみを入れる構成を示したが、楽器を乾燥環境において長期間にわたり保存するような場合には、調湿シートの保有する水分のみで楽器収納ケース内の調湿を賄うのが難しい場合がある。この場合、前記調湿セットに別途、保湿剤を備えることにより、この問題を解決できるので好適である。
【0044】
保湿剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)等の親水性、保冷性を有する公知の保冷バッグが利用できる。
また、その他の保湿剤の構成として、繊維材料に水分等を含浸させたもの(いわゆる紙製のお手ふき等と類似する構成)、或いは植物枝葉も利用できる。
当該植物枝葉としては、和楽器(尺八等)の保存において用いられる、白菜に代表される葉菜の種類であって、葉に相当の厚み・保水力があり、且つ匂いの少ないものが好適である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の楽器用調湿シート及びこれを用いた楽器用調湿セットは、バイオリン、ビオラ、チェロ等の弦楽器や、トロンボーン、サックス、トランペット等の金管楽器等の各種楽器用調湿シート及び調湿セットとして用いることが可能である。或いは前記楽器用調湿シートは、調湿機能を備えたピアノキーカバーとして用いることもできる他、ピアノの内部に配置して使用することも可能である。楽器の種類は前述のものに限定されるものではなく、各種打楽器、木管楽器等にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態1における調湿セットの構成と楽器収納ケースへの適用例を示す模式図である。
【図2】楽器収納ケースへの調湿シートの適用例(バリエーション)を示す図である。
【図3】調湿シートの構成を示す図である。
【図4】本発明と従来の各調湿シートの性能を比較したデータである。
【図5】本発明の実施の形態2におけるピアノ用キーカバーの構成を示す図である。
【図6】従来の調湿シートの模式的な構成を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 調湿セット
2 調湿シート
3 フェルト
4、6 ピアノ用キーカバー
5 バイオリン用楽器収納ケース
10 収納ケース
20 外装メッシュ
40 フェルト外装
101 上蓋
101a 窓部
102 下蓋
110 デジタル湿度計
201 メッシュの間隙
301 調湿繊維
501、502 内張
503 楽器収納ケース本体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなる基体に吸放湿性高分子を分散させた繊維材料が、シート状に構成されてなる繊維構造体
を備えることを特徴とする楽器用調湿シート。
【請求項2】
前記高分子材料からなる基体は、ポリオール系材料を含む材料からなり、前記吸放湿性高分子は水溶性ビニル単量体若しくはその前駆体と架橋剤が重合され形成されたものを含む材料からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の楽器用調湿シート。
【請求項3】
前記繊維構造体は、不織布構造を有するものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の楽器用調湿シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の前記繊維構造体が、風袋に収納されてなる
ことを特徴とする楽器用調湿シート。
【請求項5】
通気口を有するケースに、保湿剤と、請求項1〜4のいずれかに記載の楽器用調湿シートが収納されてなる
ことを特徴とする楽器用調湿セット。
【請求項6】
前記保湿剤は、ポリエチレングリコール系材料、植物枝葉、或いは繊維材料に水分を含浸させたものから選択されたものである
ことを特徴とする請求項5に記載の楽器用調湿セット。
【請求項7】
さらに前記ケースには、湿度計が収納されている
ことを特徴とする楽器用調湿セット。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の前記楽器用調湿シートが、帯状の通気性材料に内包又は担持されてなる
ことを特徴とするピアノ用キーカバー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−293260(P2006−293260A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178404(P2005−178404)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(505101547)
【出願人】(505101558)
【Fターム(参考)】