説明

構成粒子の熱伝導特性に基づくスラリー材の固有熱抵抗値推定方法

【課題】スラリー材を構成する個々の粒子のg値を求め、これを基にして、スラリー材のg値を、構成材料の配合条件のみから推定する方法を提供する。
【解決手段】水と固体粒子からなる2相混合体のg値を測定し、これを基にして並列モデルを作成し、この並列モデルを用いて各構成材料の粒子のg値を求め、当該構成材料別の固有熱抵抗値に並列モデルを適用し、泥水、セメント及び添加材等の複数相の混合体であるスラリー材のg値を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラリー材の固有熱抵抗値を推定する方法に関するもので、スラリー材の構成粒子の熱伝導特性を用いて推定する方法である。
【背景技術】
【0002】
地中送電線ケーブルの送電容量は、ケーブルからの熱放散性、すなわち周辺地盤の熱抵抗によって大きく影響される。この周辺地盤の固有熱抵抗を的確に知り、経済的なケーブルサイズを選定することは、コストダウンの重要な要素となっている。地中送電線管路などに用いられる中詰材等の充填材(以下スラリー材という)の開発では、経済的に、目標とする固有熱抵抗値(熱伝導率の逆数で、以下g値という)を満足させるためにいろいろな添加材が用いられ、その配合の決定には多くの配合試験が必要となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術では、スラリー材の構成材料の配合とg値との関係が明らかになっていなかったため、多数の試験の実施によりその傾向を掌握する必要があった。従って、目標とするg値を有するスラリー材を製造するに当って、添加材の配合決定に極めて手間がかかるものであった。
【0004】
そこで、スラリー材を構成する配合材料の個々の粒子の性質とスラリー材そのもののg値との関係が明らかになれば、その挙動を配合設計により制御することが可能である。そして、スラリー材を構成する材料の個々の粒子の性質のうちでも最も支配的と考えられる熱伝導率(すなわち、固有熱抵抗値)を基にしてスラリー材のg値を推定することが可能かどうか考察した。
この発明は、これらを鑑みて成されたものであり、スラリー材を構成する個々の粒子のg値を求め、これを基にして、スラリー材のg値を、構成材料の配合条件のみから推定する方法を提供し、上記課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1項の発明は、水と固体粒子からなる2相混合体のg値を測定し、これを基にして並列モデルを作成し、この並列モデルを用いて各構成材料の粒子のg値を求め、当該構成材料別の固有熱抵抗値に並列モデルを適用し、泥水、セメント及び添加材等の複数相の混合体であるスラリー材のg値を予測する方法とした。
【0006】
また、請求項2の発明は、水と固体粒子からなる2相混合体のg値を測定し、このg値と当該混合体の密度(ρ)との関係を実験的に定め、粒子の比重に相当する混合体密度に対するg値を求めることで構成材料の各粒子のg値を推定し、当該構成材料別の固有熱抵抗値に並列モデルを適用し、泥水、セメント及び添加材等の複数相の混合体であるスラリー材のg値を予測する方法とした。
【0007】
また、請求項3の発明は、水と固体粒子からなる2相混合体のg値を測定し、このg値と当該混合体の含水比との関係を実験的に定め、含水比がゼロとなる点のg値を求めることで各構成材料の粒子のg値を推定し、当該構成材料別の固有熱抵抗値に並列モデルを適用し、泥水、セメント及び添加材等の複数相の混合体であるスラリー材のg値を予測する方法とした。
【発明の効果】
【0008】
請求項1乃至3の発明によれば、スラリー材の構成材料の個々のg値に基づくスラリー材のg値予測モデルにより、十分な精度で、例えば4相混合体のスラリー材のg値が推定できる。従って、従来のように目標とするg値を満足させるために添加材の配合の決定にあたって、配合試験を多数回行う等の手間や費用を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
水と固体粒子からなる2相混合体のg値を測定し、これを基にして並列モデルを作成し、この並列モデルを用いて各構成材料の粒子のg値を求め、当該構成材料別のg値に並列モデルを適用し、泥水、セメント及び添加材の4相混合体であるスラリー材のg値を予測する方法とした。
【実施例1】
【0010】
この発明の推定方法(モデル)は、以下の第1ステップと第2ステップから構成される。
第1ステップでは、スラリー材に添加する各構成材料のg値を求める。まず、水と粒子からなら2相混合体(飽和度100%)のg値を測定し、スラリー材の構成粒子のg値を推定する。構成粒子としては、g値調整のための添加材として、フライアッシュ、ゴミ熔融スラグ、転炉スラグ、ドロマイト、石灰岩などがあり、またスラリー材の基本構成材料であるセメント(普通ポルトランドセメント等)及び泥である。ここで、水との2相系を扱うのは、g値を粒状の粒子単体で計測するのは難点が多いこと、また、空隙等の存在によりg値の大きな空気(g値=400〜3000°C・cm/w)が混入することでg値の変動幅が大きくなりやすくなることにある。検証用の材料として、岩体の熱伝導特性が既知である石灰岩粉体とドロマイト粉体を用い、岩体のg値を粉体のg値と同等とみなした。
【0011】
ここでは、3つの手法により構成粒子のg値を推定する。
1つ目の手法として、石灰岩(粉体)に加水した2相混合体のg値を測定し、石灰岩粉体のg値、及び水のg値を構成率に基づき重み付けし、推定するモデル(並列モデル)を作成し、その検証を行う。
次に、g値が未知の構成材料である、泥、セメント、フライアッシュ、ゴミ熔融スラグ、転炉スラグについてここで確定したモデルを用いて、各粒子のg値を推定する。
【0012】
次にこの手法での手順を説明する。
(1)粒子単体のg値(g)が既知である石灰岩(g=39°C・cm/w)について、水(水のg値、g=165°C・cm/w)で飽和させた2相混合体を作成する。含水比は6水準(w=20、30、40、50、60、70%)とした。
(2)(1)で作成した2相混合体のg値(g)を測定する。
(3)含水比w(%)をもとに2相混合体のg値(g)を計算する。計算式は重量比又は容積比による重み付けとし、下式とする。

重量比:g=(100g+wg)/(100+w)

容積比:g=(100g+Gs・wg)/(100+Gs・w)

(4)g値の測定値(g)と計算値(g)の散布図を作成し、補正が必要な場合は上式を後述のように補正する。
(5)泥、ゴミ熔融スラグ、転炉スラグ、セメント、フライアッシュ粒子単体の熱伝導率は直接計測不可能である。ここでは水との2相混合体のg値を計測し、上記モデルで粒子単体のg値の逆算を行う。
含水比はゴミ熔融スラグについては3水準(w=15、24、32%)、転炉スラグについては4水準(w=29、33、36、49%)、セメントについては3水準(w=40、60、80%)、フライアッシュについては3水準(w=40、60、80%)とした。泥は4水準(w=47、55、123、176%)とした。
(6)(5)で作成した2相混合体のg値(g)を測定する。
(7)並列モデルをもとに材料粒子のg値(g)について解く。重量比による場合で、補正がない場合の計算式は下式とする。

=〔(100+w)g−wg〕/100

【0013】
上記の手法において、水と石灰岩粉末の混合体についてのg値の計算値(g)と測定値(g)との散布図を図1に示す。容積比によるものと、重量比によるものについて、どちらも測定値に対して過大な計算値を呈しているが、測定値と計算値の相関が高いことが分かる。これより一律の補正を行うことで構成比率に基づく推定が十分可能であると判断できる。なかでも重量比によるものの方が、離脱が小幅となっていることから、ここでは重量比によるものを採用する。補正式は以下の通りであり、

=g+C
図1から補正値C=11.29となる。
=g+11.29

以上から、材料粒子のg値(g)の算定モデルは、含水比をw(%)、水のg値をg(165°C・cm/w)とすると、

=〔(100+w)(g+11.29)−wg〕/100

となる。
このモデルの妥当性を検証するために、石灰岩とドロマイトを用い、推定値(計算値)と文献値との比較を行ったところ、良好な値を得た。これを表1に示す。また、その他の材料について計算した結果についても当該表1の「1.構成率に基づく推定」に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
2つ目の手法として、上記のデータを基にして、水と粒子の2相混合体のg値と比重との関係を実験的に定め、粒子比重に対応したg値を求めることで、粒子のg値を推定する。
2相混合体の比重とg値の関係を図2に示す。g値が既知である石灰岩、ドロマイトとも推定値は文献値に近いと認められる。
また、各粒子についてg値を推定した結果を上記表1の「2.g−ρ関係に基づく推定」に示す。
【0016】
3つ目の手法として、上記のデータを基にして、水と粒子の2相混合体のg値と含水比との関係を実験的に定め、含水比がゼロとなる点のg値を求めることで、構成材料のg値を推定する。そして、g値が既知である石灰岩(g=39°C・cm/w)とドロマイト(g=22°C・cm/w)でモデルの検証をした結果を図3及び上記表1の「3.g−w関係に基づく推定」に示す。 石灰岩、ドロマイトいずれも推定値は文献値に近接した値を示しており、本手法による推定は妥当なものと判断された。その他の物質について推定した結果を上記表1の「3.g−w関係に基づく推定」及び図4に示す。
【0017】
第2ステップでは、上記第1ステップで求めた構成材料別のg値からスラリー材(泥+水+セメント+添加材の4相混合体)のg値を予測する。
泥とセメント及び添加材の乾燥重量比をm:n:(1−m−n)とし、g値をそれぞれgs1、gs2及びgs3とすると、スラリー材g値の推定式(推定値g)は以下の通りである。
【0018】
=〔100mgs1+100ngs2+100(1−m−n)gs3+wg〕/(100+w)−C
但しC:補正値(11.29)

計算値と実測値を比較した結果、図5に示すように、良好な精度(1σ=2.8°C・cm/w)がえられた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施例の第1ステップの1つ目の手法における検証例としての、水と石灰岩(粉体)からなる2相混合体のg値の計算値と測定値との散布図である。
【図2】この発明の実施例の第1ステップの2つ目の手法における2相混合体の比重とg値の関係を示すグラフ図である。
【図3】この発明の実施例の第1ステップの3つ目の手法におけるg−w関係による粒子g値推定方法の検証グラフ図である。
【図4】この発明の実施例の第1ステップの3つ目の手法におけるg−w関係による粒子g値推定のグラフ図である。
【図5】この発明の実施例の第2ステップにおけるスラリー材g値推定の検証グラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と固体粒子からなる2相混合体の固有熱抵抗値を測定し、これを基にして並列モデルを作成し、この並列モデルを用いて各構成材料の粒子の固有熱抵抗値を求め、当該構成材料別の固有熱抵抗値に並列モデルを適用し、複数相の混合体であるスラリー材の固有熱抵抗値を予測することを特徴とする、構成粒子の熱伝導特性に基づくスラリー材の固有熱抵抗値推定方法。
【請求項2】
水と固体粒子からなる2相混合体の固有熱抵抗値を測定し、この固有熱抵抗値と当該混合体の密度(ρ)との関係を実験的に定め、粒子の比重に相当する混合体密度に対する固有熱抵抗値を求めることで構成材料の各粒子の固有熱抵抗値を推定し、当該構成材料別の固有熱抵抗値に並列モデルを適用し、複数相の混合体であるスラリー材の固有熱抵抗値を予測することを特徴とする、構成粒子の熱伝導特性に基づくスラリー材の固有熱抵抗値推定方法。
【請求項3】
水と固体粒子からなる2相混合体の固有熱抵抗値を測定し、この固有熱抵抗値と当該混合体の含水比との関係を実験的に定め、含水比がゼロとなる点の固有熱抵抗値を求めることで各構成材料の粒子の固有熱抵抗値を推定し、当該構成材料別の固有熱抵抗値に並列モデルを適用し、複数相の混合体であるスラリー材のg値を予測することを特徴とする、構成粒子の熱伝導特性に基づくスラリー材の固有熱抵抗値推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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