説明

構造物の基礎構造

【課題】構造物が傾斜地等に建てられた場合に、土圧によって構造物が山側から押され、横方向へ滑動するのを簡易な方法で防止することができる構造物の基礎構造を得る。
【解決手段】アンカー部材24を地盤30に対して垂直に埋め込み、さらに、直接基礎22に固定された引張鋼材に張力を付与することで、直接基礎22が地盤30に引き付けられる。直接基礎22が地盤30に引き付けられることで、建物10が地盤30に作用する接地圧が増し、建物10と地盤30との間で生じる横方向の摩擦力が増加する。このように摩擦力を増加させることで、建物10が傾斜地等に建てられた場合に、土圧によって建物10が山側から押され、横方向へ滑動するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜地における構造物の基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、傾斜地における構造物の基礎構造が記載されている。
【0003】
詳細には、傾斜地を切り開いた敷地の切土斜面に構造物の壁面を接しさせて構築する場合に、切土斜面の土圧を受ける受圧部に構造物の山側へ埋め込まれたアンカー部材の基端部を定着させて土圧を受圧部で負担することで、構造物と地盤との間における摩擦抵抗の不足を補充するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許平5−1425号公報
【0005】
しかし、従来の基礎構造では、建物側面にアンカーン部材を打設するため、アンカー部材が敷地外に出てしまうことが考えられる。
【0006】
また、近年の都市部における地価上昇に伴い、傾斜地や崖地、軟弱な地盤、複雑な形状の土地などといった、比較的安価な土地での構造物の計画が増加している。特に、都心型集合住宅のニーズとしては、斜面地を利用して地下に居室を設けることで専有面積を最大限に確保し、事業性を高めようとする計画が求められている。
【0007】
しかしながら、傾料地を有効に活用する計画では、前述したように構造物は地盤による大きな土圧を常時受けることになり、地震時には、地震による水平力がこの土圧に加算される。
【0008】
さらに、土圧に対して、杭のみで抵抗しようとした場合には杭及び基礎梁の断面が過大になり、躯体数量の増大に加えて施工機械も大型化し、施工性の悪化・コスト高となる。
【0009】
本発明は係る事実を考慮し、構造物が傾斜地等に建てられた場合に、土圧によって構造物が山側から押され、横方向へ滑動するのを敷地外にアンカー部材を配置することなく簡易な方法で防止することが課題である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る構造物の基礎構造は、地盤上に構築された構造物と、一端が前記構造物に固定されて下方へ延設され、前記構造物を前記地盤に引き付けるアンカー部材と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、一端が構造物に固定されたアンカー部材が下方へ延設されて構造物を地盤に引き付けることで、構造物が地盤に作用する接地圧が増し、構造物と地盤との間で生じる横方向の摩擦力が増加する。
【0012】
これにより、構造物が傾斜地等に建てられた場合に、土圧によって構造物が山側から押され、横方向へ滑動するのを敷地外にアンカー部材を配置することなく簡易な方法で防止することができる。
【0013】
本発明の請求項2に係る構造物の基礎構造は、請求項1に記載において、前記アンカー部材は、前記地盤へ垂直方向に打ち込まれることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、アンカー部材を地盤へ垂直方向に打ち込むことで、効果的に構造物を地盤に引き付けることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、構造物が傾斜地等に建てられた場合に、土圧によって構造物が山側から押され、横方向へ滑動するのを敷地外にアンカー部材を配置することなく簡易な方法で防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造が採用された建物を示した構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図3】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図4】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図5】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図6】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図7】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図8】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図9】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図10】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図11】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材の施工工程を示した工程図である。
【図12】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材を示した断面図である。
【図13】本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造に用いられるアンカー部材を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る構造物の基礎構造20の一例について図1〜図13に従って説明する。
【0018】
(全体構成)
【0019】
図1に示されるように、本実施形態に係る基礎構造20が採用された構造物としての建物10は、傾斜地に建てられた地上3階の構造物であって、柱12及び梁16を用いて剛性支持された構造となっている。
【0020】
詳細には、基礎構造20は、地盤30に支持される直接基礎22とアンカー部材24を備えて構成されている。なお、基礎構造20については詳細を後述する。
【0021】
さらに、直接基礎22から、柱12及び躯体壁14が立設されており、また、一の躯体壁14から他の躯体壁14へ、建物10の内部を横切るように梁16が設けられ、梁16と躯体壁14及び柱12は、図示せぬ固定手段で固定されている。
【0022】
(要部構成)
【0023】
次ぎに、アンカー部材24及び直接基礎22を備える基礎構造20について説明する。
【0024】
地盤30に直接支持される直接基礎22には、アンカー部材24の上端部が固定され、アンカー部材24の下端部は、地盤30へ垂直方向に埋め込まれている。
【0025】
アンカー部材24の施工方法としては、先ず、図2に示されるように、施工対象の地盤30上にロータリーパーカッションに代表される削孔機32を据付け、ケーシングパイプ34を用いた中堀りを行い、アンカー定着用の孔36を削孔する。
【0026】
次ぎに、図3に示されるように、削孔された孔36に設けられたケーシングパイプ34の中ヘアンカー組立体38を仮挿入する。
【0027】
図13にはこの施工法で設置されたアンカー部材24が示されている。前述したアンカー組立体38は、圧着グリップ40で先端部支圧板42が止着されたアンボンドPC鋼より線44と、先端部支圧板42に伝達された緊張力を周辺地盤へ伝達し反力をとるべく外周面にフシが形成された厚肉鋼管状の耐荷体46と、耐荷体46の上端部から地上の直接基礎22までアンボンドPC鋼より線44を被覆する薄肉(約4.5mm位)のポリエチレン等の合成樹脂製パイプによる自由長部シース48を備えて構成されている。
【0028】
また、先端の圧着グリップ40は、先端部支圧板42へ固着された先端部キャップ50及びこの中に注入充填された防錆油等の錆止め充填材52により二重防錆が行なわれている。
【0029】
図3に示されるように、アンカー組立体38の自由長部シース48(図2参照)が合成樹脂パイプであるため、アンカー組立体38は軽量である。しかし、孔36内には未だ比重が小さい削孔水が満たされているため、アンカー組立体38は浮力に負けないで仮挿入することができる。
【0030】
次ぎに、図4に示されるように、孔36内へ仮挿入したアンカー組立体38の自由長部シース48及び耐荷体46(図13参照)の内部にグラウトホース56を先端部支圧板42(図13参照)へ達するまで挿入する。そして、アンカー組立体38の下端側からセメントミルク等の注入材58(図13参照)を注入充填する。
【0031】
これによりアンカー組立体38内の気密性が高まり、防錆対象のアンボンドPC鋼より線44は、自身のアンポンドシースを加えると、自由長部シース48又は耐荷体46と注入材58とによる三重防錆構造となる。なお、注入材58によってアンカー組立体38の重量が増すことで、後の本挿入の際に浮力に負けない挿入作業ができるようになっている。
【0032】
次ぎに、図5に示されるように、アンカー組立体38の仮挿入の確認ができた後、アンカー組立体38を孔36から外ヘー旦吊出す。
【0033】
そして、図6に示されるように、孔36の中ヘグラウトホース56を孔底へ達するまで挿入し、孔底側からセメントミルク等の注入材58(図13参照)を注入して充填し、削孔水と置換する。このように、削孔水との置換が円滑に行われる。
【0034】
次ぎに、図7に示されるように、注入材58で満たされた孔36へ、レッカー等で垂直に吊下げて待機していたアンカー組立体38を本挿入する。
【0035】
ここで、孔36内には比重が大きい注入材58が充填されているので、挿入するアンカー組立体38には相当に大きい浮力が働くが、アンカー組立体38の中にも注入材58が充填されており重くなっているため、浮力に負けることなく本挿入することができる。
【0036】
次ぎに、図8に示されるように、アンカー組立体38の本挿入が完了した後、ケーシングパイプ34の上端部に加圧ヘッド60を接続し、ケーシングパイプ34をアンカー部材定着長の1/2程度引き上げ、グラウトホース62を通じて注入材58の加圧注入を行ない、その注入圧力で孔壁を押し拡げて大径根部64を下端部に形成させはじめる。
【0037】
次ぎに、図9に示されるように、ケーシングパイプ34をさらに1/2定着長分だけ引き上げて、再度加圧注入を行ない、大径根部64を完成させる。耐荷体46(図13参照)は、この大径根部64を通じて周辺地盤が反力を受けるようになっている。
【0038】
次ぎに、図10に示されるように、ケーシングパイプ34を完全に引抜き、地上に引き出された引張鋼材66を架台68に固定し、注入材58の養生を行なう。これにより、孔36へ充填した注入材58が躯体を形成すると共に、防錆層としても働くようになっている。
【0039】
次ぎに、図11に示されるように、注入材58の養生後に直接基礎22を構築し、引張鋼材66に決められた張力を付与した上で直接基礎22に定着した後、直接基礎22の上に突出した部分の引張鋼材66に頭部キャップ68をかぶせて防錆処理を行う。
【0040】
詳細には、図12に示されるように、自由長部シース48の上端部は頭部シース70の内側に嵌め込まれており、頭部シース70の上面まで直接基礎22が打設されている。
【0041】
また、パッキン72が自由長部シース48の上端に相当する頭部シース70上に配置され、その上に頭部支圧板74が設けられている。これにより、頭部シース70と自由長部シース48との隙間を通じて自由長部シース48の内側へ侵入する空気や水は、パッキン72により遮断されるようになっている。
【0042】
さらに、頭部支圧板74の上側に定着金具76及び定着くさび78をセットし、図示せぬストロングホールドジャッキにより所謂ストロングホールド工法のコントロールセッティング法でアンポンドPC鋼より線44に所定の大きさの張力を付与し、アンポンドPC鋼より線44を定着くさび78で定着金具76へ定着する。
【0043】
また、定着金具76の図示せぬ注入孔から自由長部シース48の上方空間に錆止め充填材80が充填され、自由長部シース48内は錆止め充填材80で満たされる。
【0044】
さらに、PC鋼より線44は、再緊張に必要な長さの余長部を残して切断されており、この引張鋼材66(図10参照)及び定着金具76は、頭部キャップ68で覆われているようになっている。
【0045】
また、頭部キャップ68の頭部支圧板74との当接部には、Oリング82が設けられており、ボルト84で頭部支圧板74の上から頭部キャップ68を固定することで、頭部キャップ68と頭部支圧板74との間がOリング82でシールされるようになっている。
【0046】
さらに、頭部キャップ68内には、錆止め充填材80が注入され、錆止め充填材80は頭部キャップ68上端まで一杯に満たされている。頭部キャップ68を頭部支圧板74の上にかぶせた時点でその中に存在していた空気が、錆止め充填材80によって追い出され、PC鋼より線44及び定着金具76は完全に錆止め充填材80とのみ接触する状態とされる。
【0047】
また、錆止め充填材80を排出させ頭部キャップ68を取り外すことにより引張鋼材66に再度張力を付与することを何時でも行なうことができるようになっている。
【0048】
(作用・効果)
【0049】
以上説明したように、アンカー部材24を地盤30に対して垂直に埋め込み、さらに、直接基礎22に固定された引張鋼材66に張力を付与することで、直接基礎22が地盤30に引き付けられる。
【0050】
直接基礎22が地盤30に引き付けられることで、建物10が地盤30に作用する接地圧が増し、建物10と地盤30との間で生じる横方向の摩擦力が増加する。
【0051】
このように摩擦力を増加させることで、建物10が傾斜地等に建てられた場合に、土圧によって建物10が山側から押され、横方向へ滑動するのを防止することができる。
【0052】
また、アンカー部材24を地盤30へ垂直方向に打ち込むことで、効果的に建物10を地盤30に引き付けることができる。
【0053】
また、アンカー部材24を地盤30へ垂直方向に打ち込むことで、敷地外へアンカー部材24が配置されるのを防止することができる。
【0054】
また、従来の杭を必要としない、又は従来の杭の本数を少なくすることができるため、施工性を向上させ、低コストとすることができる。
【0055】
ここで、本願出願の発明者は、従来施工工法で使用される杭の代わりにアンカー部材が使用可能であることを確認したので以下に記載する。
【0056】
<条件>
【0057】
1.建物接地圧 200kN/m
【0058】
2.建物面積 650m
【0059】
3.保有耐力時震度 0.56(傾斜地のため0.56とした)
【0060】
4.底面摩擦係数 0.4
【0061】
とすると、杭径φ2600mm、長さ17mの場所打ちコンクリート杭が20本必要となる。
【0062】
これに対し、直接基礎にアンカー部材を設ける場合について検討する。
【0063】
アンカー部材は、先端径がφ170×6mで全長20m、アンカー部材の引張抵抗が1500kN/1本のSTK−200を使用することを前提に計算を行った。
【0064】
地震力=建物接地圧×建物面積×保有耐力時震度より、
【0065】
地震力(必要な抵抗力)は、72800kNとなり、
【0066】
摩擦抵抗力=建物接地圧×建物面積×底面摩擦係数より、
【0067】
アンカー無しでの摩擦抵抗力は、52000kNとなり、
【0068】
これより、必要なアンカー本数=(地震力−摩擦抵抗力)/(底面摩擦係数×アンカーの引張抵抗)から、必要なアンカー本数=34.7となり、必要なアンカー部材の本数は35本となる。
【0069】
このように、従来の杭を20本使用する代わりに、アンカー部材を35本使用することで、耐震性を確保することができることが分かる。
【0070】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、アンカー部材24を地盤30へ垂直方向に埋め込んだが、垂直方向に限定されず、アンカー部材の張力で直接基礎を地盤に押し付けることができれば垂直方向に対して傾斜した方向であってもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 建物(構造物)
20 基礎構造
24 アンカー部材
30 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に構築された構造物と、
一端が前記構造物に固定されて下方へ延設され、前記構造物を前記地盤に引き付けるアンカー部材と、
を備える構造物の基礎構造。
【請求項2】
前記アンカー部材は、前記地盤へ垂直方向に打ち込まれる請求項1に記載の構造物の基礎構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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