説明

構造物の基礎構造

【課題】地震による流動化現象や、津波による洗掘被害を受けず、水平力に対して大きな抵抗を得ることができる構造物の基礎を提供する。
【解決手段】構造物の構築予定区域を包囲する状態で構築した矢板群と、包囲区域内の土砂を固化して区域内全体を一体化した改良土塊と、その改良土塊に対して地表から打設したグランドアンカーと、改良土塊の上面に打設した基礎コンクリートと、基礎コンクリート内で定着したグランドアンカーの定着部とより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の基礎構造に関するものであり、特に地震による津波の圧力や地盤の液状化、流れによる洗掘現象を受ける構造物のための基礎構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
国の津波避難ビルなどに係るガイドラインによれば、大きな津波圧力で計算することが必要となる。
そのために地震や津波に耐えうるように設計する場合には、一般の基礎以上に強固な基礎の構造が要求され、特許文献1に示すような大規模な基礎コンクリートのマットを構築することで対応している。
これは大規模な基礎コンクリートによって、地震による地盤の液状化と、津波による洗掘現象を防ぐという技術思想である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−239452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示すような従来の構造では、基礎コンクリートの大きさはそれを支持する地盤の耐力に依存することになる。
したがって津波にも耐えうる耐力を備えるためには、さらに大規模な基礎を構築する必要がある。
このように、従来は基礎を大きくするだけであって、基礎自体を津波対策のレベルで構築するような発想は存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために本発明の構造物の基礎構造は、構造物の構築予定区域を包囲する状態で構築した矢板群と、包囲区域内の土砂を固化して区域内全体を一体化した改良土塊と、その改良土塊に対して地表から打設したグランドアンカーと、改良土塊の上面に打設した基礎コンクリートと、基礎コンクリート内で定着したグランドアンカーの定着部とより構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の構造物の基礎構造は以上説明したようになるから次のような効果のいくつかを得ることができる。
<1> 基礎の周囲を矢板群で包囲したから、津波の浸水によっても洗掘の被害を受けることがない。
<2> 基礎の深さを自由に設定できるから、津波の浸水によるアップリフトを考慮する必要がない。
<3> 基礎の地下に一体化した改良土塊を形成してこれを反力体として利用するから、その上部に構築する建造物は安定している。
<4> 上部に構築した建造物の転倒反力を、矢板壁外周地盤の受働土圧で抵抗することができ、転倒に対しても安定している。
<5> 転倒などの外力に対して、深さで対応することができるから、占有する面積を最小限に縮小することができる。
<6> 想定した津波の外力に応じて、矢板の深さやアンカーの打設長を自由に選択できるから、避難用ビル、高層ビルのような建築物の基礎としてだけでなく、擁壁、橋脚などの基礎として、広い用途に利用することができる。
<7> 施工に際して特殊な重機を必要とせず、経済的である。
<8> 同様の機能を達成するための杭基礎、ケーソン基礎、重量基礎に比較して工期が短く、低工費の施工が可能である。
<9> 将来状況の変化で解体、撤去が必要になっても、使用している部材の構造が単純であるから、その解体、撤去作業が容易で経済的に行うことができる。
<10> 深基礎であるために、地盤の表面での液状化現象の影響を受けることがない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の構造物の基礎構造の実施例の説明図。
【図2】その実施例の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>全体の構成
本発明の構造物の基礎構造は、矢板1群と、矢板1群で包囲した改良土塊2と、改良土塊2内に打設したグランドアンカー3と、改良土塊2の上に設置した基礎コンクリート4と、グランドアンカー3の定着部31とより構成したものである。
【0010】
<2>矢板群
構造物の構築予定区域を包囲する状態で多数枚の矢板1を打設する。
この矢板1としてはシートパイル、コンクリート板など公知の矢板1を採用することができる。
この矢板1で構築予定区域の地中を矩形、円形に包囲する。
矢板1の打設、圧入、その他の構築方法は、公知の多数の方法の中から選択して採用することができる。
このように本発明の構造では一定範囲の土砂を矢板1で包囲するから、津波の際にも構造物の直下の基礎構造は洗掘の被害を受けることがなく、構造物を安定して支持することができる。
【0011】
<3>改良土塊
矢板1群で包囲した一定の区域内の地盤を改良する。
地盤の改良の方法には、注入固化、機械撹拌、高圧噴射撹拌など各種の方法が存在する。
本発明ではいずれの土砂を固化する方法も採用することができる。
そのようないずれかの方法によって、土砂に固化材を撹拌混合して支持強度を大きくする。
この固化材はモルタルその他の公知の材料を採用することができる。
このような固化材を撹拌混合するためには多くの装置が実用化されている。
地盤中に固化材を注入して撹拌した場合には、一般には固化材の周囲への拡散が発生しやすく、地下水の影響も受けやすい。
しかし本願発明の構造では一定の区域はその周囲を矢板1群で包囲してあるから、土砂内に固化材を注入撹拌した場合にも、予定の範囲外へ流出してしまう可能性はなく、効率よく一体化した改良土塊2を形成することができる。
固化材を撹拌混合して固化することによって、矢板1群で包囲した一定の区域内の土砂だけでなく、その下部の一定範囲の土砂層も含めて、全体を一体化した改良土塊2として構成することができる。
【0012】
<4>グランドアンカー
地表から改良土塊2の内部に向けて鉛直方向に複数本のグランドアンカー3を打設する。
グランドアンカー3は、一般には安定した地盤まで削孔し、その中にPC鋼線、PC鋼棒からなるテンドンを挿入し、安定地盤内に位置するテンドン先端付近にグラウトを加圧注入してテンドン先端をアンカー体32として地中に定着し、グラウトの硬化後に孔外からジャッキで緊張力を与えて構造物の安定化を図るものである。
しかし本発明の方法では、安定地盤までのアンカー孔の削孔は不要であり、矢板1群で包囲した改良土塊2の底部付近にアンカー体32を構築すれば足りるものである。
そのため深い削孔を行う時間や労力の必要がなく、アンカー鋼材も短いもので足りる。
孔外から自由長部に緊張を与えた後に、支圧板の外側に定着具を取り付けて定着部31を組み立てる。
そして、緊張を与えてグランドアンカーの定着が完了する。
下部地盤状況によりグランドアンカーの一部の定着部を深く設置することもできる。
【0013】
<5>基礎コンクリート
改良土塊2の上面には、配筋後にコンクリートを打設して、これを地上構造物の基礎コンクリート4とする。
グランドアンカー3の定着部31は、箱状の穴を形成しておき、その内部で定着して基礎コンクリート4とグランドアンカー3の定着部31を一体化する。
このように基礎コンクリート4とグランドアンカー3の定着部31が一体になっているから、グランドアンカー3の地中側のアンカー体の位置を深くとれば大きな引き抜き抵抗を得ることができる。
したがって転倒などの外力に対して、深さで対応できるために、狭隘な土地であっても占有する面積を最小限に抑えることができる。
【0014】
<6>上部工
基礎コンクリート4の上には、津波避難用のビル、一般の耐津波性能を備えたビル、あるいは橋脚、擁壁などを構築する。
これらの構造物は、改良土塊2を反力体として支持することができるので、構造物の転倒に対する反力も十分に得ることができる。
なお、グランドアンカー3の一部は、基礎コンクリート4に定着させるだけではなく、さらに上方へ延長して構造物の内部で定着し、構造物自体も改良土塊と連結させ安定化を図ることもできる。
グランドアンカー3のPC鋼材の延長は、公知の各種の方法を採用することができる。
【符号の説明】
【0015】
1:矢板
2:改良土塊
3:グランドアンカー
4:基礎コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の構築予定区域を包囲する状態で構築した矢板群と、
包囲区域内の土砂を固化して区域内全体を一体化した改良土塊と、
その改良土塊に対して地表から打設したグランドアンカーと、
改良土塊の上面に打設した基礎コンクリートと、
基礎コンクリート内で定着したグランドアンカーの定着部とより構成した
構造物の基礎構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−91922(P2013−91922A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233037(P2011−233037)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(592063869)株式会社モチヅキ (4)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】