説明

構造物の防汚装置

【課題】電気的触媒を用いた環境海水と接する構造物の防汚装置において、防汚用電流と陰極防食電流との干渉を防止し、さらに電気的触媒の表面状態が海水中に含まれている鉄イオンやマンガンイオン等の付着・堆積で変化するのを防止する。
【解決手段】陽極形成部材4の表面に被覆された電気的触媒3と、海水15に接触するように設置された導電体8とを備え、前記陽極形成部材4または前記電気的触媒3に接続され正極7A、前記導電体8に接続された負極7b、自動電位制御部7cおよびスイッチ回路部7dとを有し、前記自動電位制御部7cにより前記正極7Aと前記負極7bとの間の電位差を海水15中で塩素の発生を抑制しつつ酸素を発生させるような値に調整するとともに、前記スイッチ回路部7dにより前記正極7Aと前記負極7bとの間に通電停止時間を設定可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水と接する構造物における海水と接する側の表面に電気的触媒を設け、電気的触媒から酸素を発生させて海水側の表面への海生生物の付着を防止するようにした構造物の防汚装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海水を冷却水として取水する原子力発電所のようなプラントにおいては、環境海水と接する発電所設備の構造物として熱交換器があり、この熱交換器における伝熱管の入口や出口の管板に、海水中のイガイ、フジヅボ、ヒドロ虫とか海藻類等(以下海生生物と称する)が付着することがある。
【0003】
これらの海生生物は、伝熱管の管端部を塞いで洗浄用スポンジの通過障害になったり、伝熱管内面を閉塞したりする。このため、発電所は、これらの除去作業のために、しばしば操業の停止を余儀なくされている。そして、これらの海生生物は、鋼合金製や銅合金製の管板や伝熱管よりも、耐海水性のチタン製の管板や伝熱管に付着し易い。
【0004】
また、ゴムライニングされている鋼製の水室においては、ストレーナの網を通り抜けた幼生の海生生物が着生、成育およぴ脱落を繰返す。これにより、冷却用伝熱管の内面が閉塞する恐れがある。
【0005】
これら海生生物の駆除や付着防止(以下、防汚と称する)の対策として、塩素や塩素化合物の環境海水中への投入、毒性イオンを生成する顔料を含有する防汚塗料の塗布、および海水電解による塩素や銅などの、毒性イオンの生成等が行われている。
【0006】
これらの方法は、有効な防汚機能を発揮するが、大量の海水環境にあってはその量や濃度の管理が容易でない。そして、確実な防汚効果を期待するために塩素や塩素化合物の投与が過度になり、過大濃度にし勝ちであり、結果的に環境汚染の原因になる可能性が高い。このため、今日では、そのような防汚対策は禁止或いは抑制の方向にある。
【0007】
そこで、無公害、無毒性の環境海水の防汚対策が、最近多くの研究者や技術者によって開発が進められている。例えば、シリコーン系防汚塗料は無公害で無毒性であって防汚効果があることが知られている。
【0008】
しかしながら、シリコーン系防汚塗料は、貝殻等の異物の接触により防汚寿命が短くなること、施エコストが高いこと、大面積の対象物や既存の施設への簡単容易な施工手段がないこと、海水の流れを止めると防汚効果が減少すること等の欠点のため、広く実用化されるには至っていない。
【0009】
また、別の手段として、水や海水と接するチタン製熱交換器等の表面に、主として白金族金属の混晶或いはこれらの金属の酸化物との混合物からなる電気的触媒皮膜を形成し、これを陽極として電解し、塩素ガスを実質的に発生させないで十分な酸素を発生させることにより、水中の生物およびスケールの沈積を抑制するという手段が考えられている(例えば特許文献1参照)。
【0010】
しかしながら、この手段は、水や海水と接するチタン製構造部材の表面に電気的触媒を形成し陽極として作用させるため、チタン製構造部材と導通している熱交換器を構成する他の金属部材、例えば、水室或いは導水管などに施される通常鋼製のゴムライニング等も陽極的に負荷される。
したがって、万一、ゴムライニング等が何らかの理由で破損した場合、この破損部から流出電流が生じ、チタン材以外の構成金属部材が異常腐食してしまう恐れがある。
【0011】
さらに、この手段は、電気的触媒の触媒活性のための処理において、350〜450℃で数時間の電気抵抗加熱処理等を実施するので、その際の発生熱や熱応力等による構造物の損傷が懸念され、かつコストが膨大になる。したがって、この手段も広く実用化されるには至っていない。
【0012】
通常、チタン製熱交換器では、チタン製部材が使用されている所は伝熱管や管板に限定され、本体胴や水室、熱交換器へ海水を導く導水管や海水を海へ戻す放水管等は鋼製である。
【0013】
鋼製の水室、導水管、放水管などは電気的にチタン製部材と導通しているので、海水と接触するとガルバニ腐食を起こし、鋼が激しく腐食される。したがって、海水と接触する鋼材表面は、腐食防止のためにゴムライニング等が施工されている。
【0014】
万一、ゴムライニング等が破損した場合には、鋼製部材を電気的に鋼材の防食電位まで下げる陰極防食法を採用して、鋼製部材と導通しているチタン製部材を陰極的に負荷する必要があるが、前記公報記載の技術では、チタン製部材を陽極としているので、それに導通している鋼製の水室、導水管、放水管も陽極的に負荷されており、原理上陰極防食法が採用できず、破損部から流出電流が生じて鋼製材が異常腐食を起こしてしまう。
【0015】
そこで、熱交換器のチタン管板面等に、電気抵抗加熱等の熱を加えることなく容易に電気的触媒を設け、かつ、チタン管板等の熱交換器構造部材と電気的に絶縁することによって、万一、金属部材に設けられたゴムライニング等が何らかの理由で破損した場合でも、陰極防食法を採用し、破損部における金属部材の異常腐食を防止することができる防汚装置が考えられている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平1−46595号公報
【特許文献2】特開2000−119884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、前記特許文献2に記載の防汚装置においては、チタン製熱交換器のように耐食性の優れたチタン製伝熱管を使用し、伝熱管そのものに対して陰極防食法が必要ない場合には非常に有効であるが、アルミニウム黄銅管などのようにそれ自体の耐食性が劣り、伝熱管そのものに陰極防食法を適用しなければならない熱交換器の場合には、アルミニウム黄銅管に流れ込む陰極防食電流と防汚装置の負極に接続された導電体に流れ込む防汚用電流とが互いに対向して干渉し合うため、防汚装置の電流の制御すなわち電位の制御が難しくなり、防汚効果が減少する恐れがある。
【0017】
具体的な数値に基づいて説明すると、防汚装置において熱交換器管板面に貼り付けた陽極形成部材の電位を1.0Vに維持して酸素を発生させるために必要な防汚用電流密度を0.5A/m2とすると、1000MW級発電プラントの熱交換器管板の面積は約18m2であり、防汚に必要な管板面から流れ出る電流は約9Aである。
【0018】
一方、アルミニウム黄銅管の陰極防食に必要な防食電流(管板面に向かう電流で、正確にはアルミニウム黄銅管に流れ込むもの)は、その約7倍、60A程度である。両者が、水室内海水中で対向して流れ干渉し合うと、電流値の大きい陰極防食電流の制御は容易であるが、それと対向して管板面から流れ出る、約1/7と小さい防汚用電流の制御は難しく、防汚効果の維持に支障を来たすことがある。
【0019】
また、それ自体へ陰極防食法を適用する必要はないチタン製伝熱管を用いた場合でも、伝熱管に電気的に接続された水室や配管に陰極防食法を適用しなければならない場合もあり、このような場合には、上記と同様に防汚用電流と陰極防食電流との干渉に起因する問題が発生する恐れがある。
【0020】
さらに、環境海水中に微量含まれている鉄イオンやマンガンイオン等が陽極形成部材に被覆された電気的触媒の表面に付着・堆積すると、表面状態が変わり、電気的触媒自体の持つ電位一電流の相対的な関係が崩れ、自動定電位制御だけでは所定の防汚用電流が得られず、防汚効果の維持に支障を来たす恐れがある。
【0021】
実際に3ヶ月ほど連続運転した陽極形成部材に被覆された電気的触媒は、触媒自体の持つ電位一電流の相対的な関係が崩れ、所定の防汚用電流を得るために、より電位を高く設定する必要が生じた。このときの電気的触媒表面付着物を分析したところ、主に鉄やマンガンが検出された。
【0022】
陽極形成部材に被覆された電気的触媒の表面では、次の式(1)の反応で酸素が発生する。
4OH → O + 2HO +4e …………(1)
しかし、この酸素が海水中に微量含まれている鉄イオンやマンガンイオンと、次の式(2)や式(3)に示すように反応し、
Fe + 1/2O + HO → Fe(OH) …………(2)
Mn + 1/2O + HO → Mn(OH) …………(3)
鉄酸化物やマンガン酸化物が電気的触媒表面に付着して、経時的に触媒自体の持つ電位一電流の相対的な関係を崩したと考えられる。
【0023】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、防汚用電流と陰極防食電流との干渉を防止し、さらに陽極形成部材に被覆された電気的触媒の表面状態が海水中に微量含まれている鉄イオンやマンガンイオン等の付着・堆積で変化するのを防止し、確実かつ容易に海生生物の付着を防止できる構造物の防汚装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、本発明は、構造物の海水と接触する防汚対象部位の表面に、絶縁体を介して設けられた陽極形成部材と、
電気化学的に活性かつ安定な材料により構成され、前記陽極形成部材の表面に被覆された電気的触媒と、
海水に接触するように設置された導電体とを備え、
正極、負極、自動電位制御部およびスイッチ回路部を有し、前記正極が前記陽極形成部材または前記電気的触媒に接続されるとともに、前記負極が前記導電体に接続され、前記自動電位制御部により前記正極と前記負極との間の電位差を海水中で塩素の発生を抑制しつつ酸素を発生させるような値に調整するとともに、前記スイッチ回路部により前記正極と前記負極との間に通電停止時間を設定可能とし、陽極形成部材に被覆された電気的触媒の表面状態が海水中に微量含まれている鉄イオンやマンガンイオン等の付着・堆積で変化するのを防止し、確実かつ容易に海生生物の付着を防止する。
【発明の効果】
【0025】
以上のように本発明によれば、防汚用電流と陰極防食電流との千渉を防止し、スイッチ回路部を設けることにより、陽極形成部材に被覆された電気的触媒の表面状態が海水中に微量含まれている鉄イオンやマンガンイオン等の付着・堆積で変化するのを防止でき、無公害で確実かつ容易に海生生物の付着を防止でき、さらに電気的触媒の溶出量を最小限に留め、経済的に運用できる防汚装置を得ることができる。
特に熱交換器の場合は、通電率25%で運転すると4台の熱交換器を1電源で運転できることになる。
【0026】
さらに、通電停止時間を設けることで、連続通電が必要なくなり、従来電源として使用できなかった太陽電池、風力発電、燃料電池等の電源を用いることができ、電源から非常に離れた構造物や電源のない構造物、例えば冷却用海水取入れコンクリート製取水路や橋桁、ブイ、いけす、小型船舶、ヨット等にも容易に海生生物の付着を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ここで、各実施の形態に共通する構成要素については、同一符号を付し、その説明は先行する実施の形態により代表して行うこととする。
【0028】
図1は、本発明の第1の実施の形態を示す説明図である。図1に示すように、海水15に接する構造物の防汚装置20は、海水15に接するチタン製熱交換器1(構造物)の海水15側の表面において、酸素を発生させて、熱交換器1の海水15側の表面における海生生物の着生を抑制する防汚装置である。
熱交換器1は、チタン製管板1Aと、このチタン製管板1Aに支持された複数のチタン製伝熱管1bとを有している。
【0029】
図1に示すように、熱交換器1の海水15側には、内面にゴムライニング11が形成された水室10が形成されている。
防汚装置20は、熱交換器1における海水15側の表面の略全面に、絶縁性接着剤6を介して絶縁シート5が取付けられている。絶縁シート5の上面には、絶縁性接着剤6を介して、厚さが0.1〜0.3mmのパネル状のチタンシート4(陽極形成部材)が略全面に取付けられている。絶縁シート5およぴパネル状のチタンシート4は、図1に示すように、複数のチタン製伝熱管1bの管径に対応する複数の開孔を有している。
【0030】
パネル状のチタンシート4の図示上面側には、予め触媒被覆処理によって被覆され、電気抵抗加熱等により350〜450℃で数時間の加熱処理を行うことにより、熱活性化処理が施され電気化学的に活性で安定な電気的触媒3が設けられている。
【0031】
電気的触媒3は、具体的には、白金系金属または白金系金属酸化物、あるいは、コバルトまたはマンガンの酸化物からなる単一体、混晶体または複合体である。
また、ゴムライニング11から海水15側に向かって、導電体8が突出して設けられている。同様に、照合電極12も突出して設けられている。
【0032】
防汚装置20は、外部直流電源7を有しており、その正極7Aはパネル状のチタンシート4に接続され、負極は導電体8に接続され、照合極7rは照合電極12に接続されている。
【0033】
外部直流電源7は、自動電位制御部7cを内蔵しており、正極7Aと負極7bとの間に形成される通電回路の電位が海水15中で塩素の発生を抑制しつつ酸素を発生させる値に設定されている。
この値は、具体的には、海水電解で塩素が発生するSCE基準電位1.20Vより低く、かつ標準海水における酸素発生電位0.52Vより高い。
【0034】
外部直流電源7には、さらにスイッチ回路部7dが内蔵されており、正極7Aと負極7bとの間に通電停止時間を設定する。設定する通電停止時間は60分間以内、通電時間を運用時間(通電停止時間+通電時間)で除した通電率は25%以上に調整する。
なお、照合電極12は、パネル状のチタンシート4の電位をモニターするもので、その検出電圧は自動電位制御部7cの制御用データとして用いられる。
【0035】
次に、以上説明した第1の実施の形態の作用について説明する。陽極として機能するパネル状のチタンシート4(陽極形成部材)の電位、すなわち電気的触媒3の電位が、外部直流電源7により0.52Vから1.20Vの範囲に保持される。これにより、電気的触媒3の表面から、塩素の発生は抑制されて酸素が発生する。
【0036】
このとき、海水中に微量含まれている鉄イオンやマンガンイオン等が、陽極形成部材4に被覆された電気的触媒3の表面に付着・堆積すると表面状態が変わり、電気的触媒3自体の持つ電位一電流の相対的な関係が崩れる。この結果、自動定電位制御だけでは所定の防汚用電流が得られず、防汚効果の維持に支障をきたす場合には、スイッチ回路部7dにより正極7Aと負極7bとの間に通電停止時間を設定し、陽極形成部材に被覆された電気的触媒の表面状態が海水中に微量含まれている鉄イオンやマンガンイオン等の付着・堆積で変化するのを防止する。
設定する通電停止時間は60分間以内、通電時間を運用時間(通電停止時間+通電時間)で除した通電率は25%以上に調整する。
【0037】
通電を停止すると電気的触媒の表面で鉄酸化物やマンガン酸化物の生成が止まり、海水の流れの作用で電気的触媒の表面に付着していたこれら酸化物が流される。しかし、通電停止時間を長く設定すると海生生物の幼生が付着、成長してしまうことから通電停止時間は60分間以内が望ましい。
さらに、防汚効果と前記通電率の関係を試験したところ、通電率25%以上で実用上十分な防汚効果が得られることを確認した。
【0038】
これにより、電気的触媒3の表面から、塩素の発生は抑制されるとともに適正な酸素が発生し、海生生物の付着を防止することができる。
また、通電停止時間を設けることで、連続通電が必要なくなり、従来電源として使用できなかった太陽電池、風力発電、燃料電池等環境負荷の少ない電源を用いることができる。
【0039】
この第1の実施の形態によれば、予め電気的触媒3を被覆したパネル状のチタンシート4を、絶縁性接着剤6、絶縁シート5およびもう一つの絶縁性接着剤6を介して、常温で容易に熱交換器1の海水15側の表面に接着できる。このため、熱応力等による熱交換器1の損傷の懸念がなく、かつ、絶縁性接着剤6および絶縁シート5が介在するため、チタン管板1A等とパネル状のチタンシート4との電気的絶縁が達成され、チタン管板1Aと電気的に導通する金属部材の異常腐食を防止することができる。
【0040】
また、第1の実施の形態によれば、電気的触媒3が、白金系金属または白金系金属酸化物、あるいはコバルトもしくはマンガンの酸化物からなる単一体、混晶体または複合体であるため、電極としての活性化が図られると共に、溶出量が最小に抑えられる。これにより、長時間安定した酸素発生を実現できる。
【0041】
この効果は、特にスイッチ回路部7dにより通電停止時間を60分間、通電時間20分間、通電率25%等に調整することにより、陽極形成部材に被覆された電気的触媒の表面状態が海水中に微量含まれている鉄イオンやマンガンイオン等の付着・堆積で変化するのを防止でき、より一層顕著になる。
【0042】
また、絶縁シート5は、耐海水性に優れ、劣化しない塩化ビニールまたは繊維強化プラスチックにより構成されている。更に加工性にも優れているため、伝熱管1bの管径に対応する複数の開孔を容易に加工できる。特に、チタンシート4と絶縁シート5とを予め絶縁性接着剤6で接合した後の開孔加工を容易にできる。
【0043】
また、第1の実施の形態によれば、絶縁性接着剤6が、海水温度0〜500℃で安定した接着強度を有する変性シリコーンポリマーおよびエポキシ樹脂を主成分とした高機能弾力性接着剤であるため、安定で耐久性のある接着強度を得ることができるとともに、その弾力性によって異物等の衝突に対する耐性も高くできる。
【0044】
なお、陽極電位は、陽極表面の電流密度の関数であるから、電流密度が大きくなるほど電位は高くなり、それに比例して酸素の発生量も大きくなる。すなわち、陽極の電位を1.20Vにより近く維持すれば、塩素が生成することなく、また海生生物を死滅させることもなく、無公害で環境に優しい効果的な防汚が実現できる。ただし、この場合、陽極の電流密度が高過ぎると、電気的触媒3の溶出量が増加し、電気的触媒3の劣化が速まり、かつ、防汚用電流値が必要以上に高くなるから、防汚装置の運転コストが高くなり得策でない。
【0045】
そこで、スイッチ回路部7dにより通電停止時間を60分間、通電時間20分間、通電率25%等に調整することにより、電気的触媒3の溶出量を最小限に留め、かつ、防汚装置を経済的に運転できる。特に熱交換器の場合は、通電率25%で運転すると4台の熱交換器を1電源で運転できることになる。
【0046】
さらに、通電停止時間を設けることで、連続通電が必要なくなり、従来電源として使用できなかった太陽電池、風力発電、燃料電池等環境負荷の少ない電源を用いることができ、電源から非常に離れた構造物や電源のない構造物、例えば冷却用海水取入れコンクリート製取水路や橋桁、ブイ、いけす、小型船舶、ヨット等に対しても容易に海生生物の付着を防止できる。
【0047】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。図2は、本発明の第2の実施の形態の構成を示している。図2に示すように、この第2の実施の形態では、構造物の防汚装置20では、絶縁シート5が設けられず、熱交換器1の海水15側の表面に絶縁性接着剤6のみを介してチタンシート4が取付けられている。その他は、図1に示す第1の実施の形態と同様の構成である。
【0048】
この第2の実施の形態のように、絶縁シート5を設けなくとも、絶縁性接着剤6による絶縁作用が十分であれば、チタン管板1A等とパネル状のチタンシート4との電気的絶縁が達成され、チタン管板1A等に電気的に導通する金属部材の異常腐食を防止することができる。
【0049】
次に本発明の第3の実施の形態について説明する。図3は、本発明の第3の実施の形態の構成を示す説明図である。この図3に示すように、熱交換器1は、複数のアルミニウム黄銅製の伝熱管1bと、これら複数の伝熱管1bを支えるネーバル黄銅製の管板1Aとを有している。
【0050】
アルミニウム黄銅製の伝熱管1bは海水に対する耐食性が劣るため、陰極防食法により防食されている。陰極防食には、外部電源方式および犠牲陽極方式を適用することができる。
【0051】
この第3の実施の形態では、外部電源方式を用いた例を示しており、伝熱管1bと陰極防食用電極41とが陰極防食用の外部直流電源装置40を介して接続され、陰極防食用電極41から伝熱管1bに陰極防食用電流が流れ込むようになっている。無論、擬制陽極方式により伝熱管1bに陰極防食用電流が流れ込むようにしてもよい。
【0052】
この第3の実施の形態によれば、伝熱管1bを外部直流電源7の負極7bに接続して、伝熱管1bの内周面を海水電解のための陰極、として用いているため防汚用電流と陰極防食電流とが同じ方向に流れる。したがって、防汚用電流と陰極防食電流との干渉を少なくすることができ、防汚用電流の制御、すなわち電位の制御をより確実に容易に行うことができる。
【0053】
また、照合電極12を陽極形成部材であるチタンシート4の近傍に突き出して設けたので、陽極形成部材の電位を精度良くモニターすることができ、電位の制御をより確実にできる。
【0054】
次に本発明の第4の実施の形態について説明する。図4は、本発明の第4の実施の形態の構成を示す説明図である。この図4に示すように、絶縁シート5を設けずに絶縁性接着剤6の絶縁作用を利用してチタンシートを設けた例を示したものである。
【0055】
すなわち、管板1A上に絶縁シート5なしで、絶縁性接着剤6のみを介してチタンシート4を設ける構成とすることができる。この場合も、図3に示す実施の形態と略同一の効果が得られる。
【0056】
次に本発明の第5の実施の形態について説明する。図5は、本発明の第5の実施の形態の構成を示す説明図である。この図5に示すように、照合電極12を設ける位置につき他の例を示したもので、伝熱管1bの管端の内部から海水15側に突出すように設けることができる。この場合、照合電極12を、チタンシート4すなわち陽極形成部材により近接して配置することができるため、電位の制御をさらに正確に行うことができる。
【0057】
次に本発明の第6の実施の形態について説明する。図6は、本発明の第6の実施の形態の構成を示す説明図である。この図6に示すように、海水15の流入側および放出側の水室10の壁体に設けたゴムライニング11(防汚対象部位)の表面に、電気的触媒3付きのチタンシート4を取付けた例を示している。このように構成して、電気的触媒3の表面から、塩素の発生を抑制し酸素を発生させるようにしてもよい。なお、この場合、ゴムライニング11とチタンシート4とを接着する接着剤16は、絶縁性を有するものでなくてもよい。
ここで、図5およぴ図6においては、陰極防食用電流を流す手段(陰極防食用の外部直流電源装置40およぴ陰極防食用電極41)の図示が省略されている。
【0058】
また、図3ないし図6に示す実施の形態においては、管板1Aの材料としてネーバル黄銅を用い、伝熱管1bの材料としてアルミニウム黄銅を用いた例を示したが、材料の組み合わせはこれらに限定されない。例えば、管板1Aの材料としてアルミニウム青銅を、また伝熱管1bの材料としてアルミニウム黄銅を用いてもよい。他に、管板1Aの材料としてネー一バル黄銅、伝熱管1bの材料としてスーパーステンレス鋼とするとか、管板1Aの材料としてアルミニウム青銅、伝熱管1bの材料としてスーパーステンレス鋼とするとか、管板1Aの材料およぴ伝熱管1bを共にスーパーステンレス鋼とするとか、してもよい。
【0059】
また、管板1Aおよぴ伝熱管1bの材料を共にチタンとしてもよい。この場合、チタンが耐食性に優れているため、それ自体へ陰極防食法を適用する必要はないが、それに接続された熱交換器を構成する他の部材、例えば水室や配管に陰極防食法を適用することがあり、この場合にも防汚用電流と陰極防食電流が互いに干渉することがあるため、本発明を適用することには十分に意味がある。
【0060】
次に本発明の第7の実施の形態について説明する。図7は、本発明の第7の実施の形態を示すものである。図7に示すように、第7の実施の形態における防汚装置20は、海水15の流入側および放出側の水室10に設けたゴムライニング11(構造物)の海水15側の表面において、酸素を発生させて、海生生物の着生を抑制する防汚装置である。
【0061】
防汚装置20は、ゴムライニング11の海水15側の表面に、接着剤16を介して厚さが0.1〜0.3mmのチタンシート4(陽極形成部材)が取付けられている。接着剤16は、絶縁性を有する必要がない。
その他の構成は、図1に示す第1の実施の形態と同様の構成である。
【0062】
この第7の実施の形態によれば、絶縁体であるゴムライニング11に設けられた電気的触媒3の表面から、塩素の発生は抑制されて酸素が発生する。したがって、絶縁体であるゴムライニング11の海水15側の表面においても、海生生物の付着を防止することができる。
【0063】
次に本発明の第8の実施の形態について説明する。図8は、本発明の第8の実施の形態の構成を示す説明図である。図8に示すように、第8の実施の形態における防汚装置20は、冷却用海水取入れコンクリート製取水路14(構造物)における海水15側の表面において酸素を発生させて海生生物の着生を抑制するものであり、導電体8が冷却用海水取入れコンクリート製取水路14の補強用鉄筋(一部が海水15と接触している)として形成されている他は、図7に示した第4の実施の形態と同様の構成である。
【0064】
この第8の実施の形態によれば、絶縁体である冷却用海水取入れコンクリート製取水路14の海水15側の表面に設けられた電気的触媒3の表面から、塩素の発生は抑制されて酸素が発生する。したがって、冷却用海水取入れコンクリート製取水路14の海水15側の表面においても、海生生物の付着を防止することができる。
なお本発明は、チタンシート4は、ゴムライニング11、冷却用海水取入れコンクリート製取水路14の他、樹脂材などの種々の絶縁体部分にも設けることができる。
【0065】
上記実施の形態では、本発明は防汚対象物として熱交換器を構成する部材を適用対象としたが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、防汚用電流と陰極防食電流との干渉が問題となるあらゆる種類の海水と接して使用される構造物に適用することができる。
【0066】
また、通電停止時間を設けることで、連続通電が必要なくなり、従来電源として使用できなかった太陽電池、風力発電、燃料電池等の電源を用いることができ、電源から非常に離れた構造物や電源のない構造物、例えば冷却用海水取入れコンクリート製取水路や橋桁、ブイ、いけす、小型船舶、ヨット等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す説明図。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示す説明図。
【図3】本発明の第3の実施の形態を示す説明図。
【図4】本発明の第4の実施の形態を示す説明図。
【図5】本発明の第5の実施の形態を示す説明図。
【図6】本発明の第6の実施の形態を示す説明図。
【図7】本発明の第7の実施の形態を示す説明図。
【図8】本発明の第8実施の形態を示す説明図。
【符号の説明】
【0068】
1…熱交換器、1A…管板(防汚対象部位)、1b…伝熱管、3…電気的触媒、4…陽極形成部材(チタンシート)、5…絶縁シート、6…絶縁性接着剤、7…外部直流電源、7A…正極、7b…負極、7c…自動電位制御部、7d…スイッチ回路部、7r…照合極、8…導電体、10…水室、11…ライニング(ゴムライニング)、12…照合電極、14…冷却用海水取入れコンクリート製取水路、15…海水、40…陰極防食用の外部直流電源装置、41…陰極防食用電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水と接する構造物の海水と接触する防汚対象部位の表面に、絶縁体を介して設けられた陽極形成部材と、電気化学的に活性かつ安定な材料により構成され、前記陽極形成部材の表面に被覆された電気的触媒と、海水に接触するように設置された導電体とを備え、正極、負極、自動電位制御部およびスイッチ回路部を有し、前記正極が前記陽極形成部材または前記電気的触媒に接続されるとともに、前記負極が前記導電体に接続され、前記自動電位制御部により前記正極と前記負極との間の電位差を海水中で塩素の発生を抑制しつつ酸素を発生させるような値に調整するとともに、前記スイッチ回路部により前記正極と前記負極との間に通電停止時間を設定可能としたことを特徴とする構造物の防汚装置。
【請求項2】
前記絶縁体は、耐海水性があるシートにより構成されたことを特徴とする請求項1記載の構造物の防汚装置。
【請求項3】
前記絶縁体は、前記構造物に前記陽極形成部材を固定するための接着剤により形成されたことを特徴とする請求項1記載の構造物の防汚装置。
【請求項4】
前記構造物の海水側絶縁部の表面は、ゴム系あるいは樹脂系のライニングが施されていた壁面であることを特徴とする請求項1記載の構造物の防汚装置。
【請求項5】
前記構造物がコンクリート製構造物であって、前記導電体が、前記構造物の補強用鉄筋として形成されていることを特徴とする請求項1記載の構造物の防汚装置。
【請求項6】
前記構造物の少なくとも一部を構成する海水と接触する金属材料からなる部材に陰極防食電流を流す手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の構造物の防汚装置。
【請求項7】
前記構造物は、少なくとも金属材料からなる複数の伝熱管とこれら複数の伝熱管を支える金属材料からなる管板とを備えて構成された熱交換器であり、前記伝熱管または前記伝熱管に電気的に接続された熱交換器の海水と接触する構成部材に陰極防食電流を流す手段を備え、前記伝熱管の内表面を、酸素を発生させるための電気分解用の陰極として用いることを特徴とする請求項1記載の構造物の防汚装置。
【請求項8】
前記防汚対象部位は、前記熱交換器の管板であることを特徴とする請求項7記載の構造物の防汚装置。
【請求項9】
前記防汚対象部位は、熱交換器の水室を構成する壁体の内面であり、前記壁体の内面にはゴム系若しくは樹脂系のライニングが施されており、前記陽極形成部材は、前記ライニング上に設けられていることを特徴とする請求項7記載の構造物の防汚装置。
【請求項10】
スイッチ回路部により設定する通電停止時間は60分間以内、通電時間を運用時間(通電停止時間+通電時間)で除した通電率は25%以上としたことを特徴とする請求項1記載の構造物の防汚装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−177449(P2007−177449A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375349(P2005−375349)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】