説明

構造転移ペプチド

【課題】、効果的にタンパク質の機能の活性化・不活性化を調節し、かつ調節の条件を容易に設定し得るスイッチングモジュールを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、1又は複数個の両親媒性ペプチドからなる応答部位と、1又は複数個の両親媒性ペプチドからなる添加部位とからなり、
応答部位と添加部位は、一は疎水部位の一部が正に帯電し、もう一は疎水部位の一部が負に帯電し、組み合わさることにより構造転移を起こしヘリックスバンドル構造を形成することを特徴とする構造転移ペプチドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造転移ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】

生体内でタンパク質は酵素等として様々な生理現象や疾患に関わる。生理現象又は疾患の解明には、タンパク質の機能の活性化・不活性化を調節し解析する手法が考えられる。機能の活性化・不活性化の調節能、すなわち機能のスイッチ能を有するタンパク質の創生は、それを検査薬等として使用することにより、生体機能の解明しいては医薬品の開発等へとつながる。
【0003】
以下にタンパク質の機能の調節に関する文献を示す。
【0004】
特許文献1は、自己凝集型調節分子を用いたタンパク質間相互作用の制御方法が記載されている。
【0005】
特許文献1における自己凝集型調節分子は、自己凝集作用を有する分子(自己凝集分子)と、標的タンパク質のホットスポットに結合する分子(調節分子)とをリンカーを介して結合させることにより、あるいは介さずに融合して得るとしており、その調節分子領域において標的タンパク質のホットスポットに結合し、かつその自己凝集作用領域において自律的に凝集することから、ある条件化で標的タンパク質と自己凝集型調節分子からなる巨大な複合体分子を形成することにより、幾何学的障害によりタンパク質間相互作用を制御し得るとしている。ここで、自己凝集分子がコイルドコイル形成ペプチドであることが開示されている。また、自己凝集型調節分子の活性の検討は、塩の有無および濃度、pH変化、温度変化、金属イオンの有無および濃度からなる群より選ばれる1以上の条件の変更下で行われるとしている。
【特許文献1】特開2007−97417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
文献1において、タンパク質間相互作用の制御は、調節分子領域において標的タンパク質のホットスポットに結合しかつ自己凝集作用領域において自律的に凝集するという二段階の過程を要することにより、複雑となる。また、標的タンパク質のみに結合する調節分子を設計あるいは選択することはあらゆる場合に対して対応が期待できない。さらに、標的タンパク質へ結合し、かつ、自己凝集作用を起こす条件は制限を要する。また、文献1における自己凝集型調節分子は、タンパク質間相互作用の制御を目的とするものであり、タンパク質の機能のうち、タンパク質以外のものとの相互作用を制御すること又はタンパク質単独で果たす機能を制御することは開示されていない。
【0007】
従って、効果的にタンパク質機能の調節を行い、かつ制御の条件を容易に設定するため、タンパク質のみで機能の活性化・不活性化を調節する概念が求められる。また、タンパク質間相互作用の制御だけでなく、タンパク質以外のものとの相互作用を制御又はタンパク質単独での機能の制御のために、タンパク質のみで機能の活性化・不活性化を調節すること、すなわちタンパク質自体がスイッチング能を有することが求められる。
【0008】
さらに、タンパク質の機能の活性化・不活性化を調節する手法は汎用性を持つことが望ましく、それら目的を達成し得るスイッチングモジュールの確立が求められている。
【0009】
本発明は、上記課題の少なくとも一つを解決する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、1又は複数個の両親媒性ペプチドからなる応答部位と、1又は複数個の両親媒性ペプチドからなる添加部位とからなり、応答部位と添加部位は、一は疎水部位の一部が正に帯電し、もう一は疎水部位の一部が負に帯電し、組み合わせることにより構造転移を起こしヘリックスバンドル構造を形成することを特徴とする構造転移ペプチドである。
【0011】
請求項1は、タンパク質の機能の活性化・不活性化を調節するために使用されるペプチドを開示することを意図する。本発明は、効果的にタンパク質機能の調節を行い、かつ調節の条件が容易に設定されることを意図する。また、タンパク質間相互作用の制御だけでなく、タンパク質以外のものとの相互作用を制御又はタンパク質単独での機能の制御を行うことを意図する。さらに、汎用性のある、タンパク質の機能の活性化・不活性化を調節するスイッチングモジュールを提供すること意図する。
【0012】
請求項1は、応答部位を構成するペプチドと添加部位を構成するペプチドとが組み合わさるときに、構造転移を起こすペプチドである。構造転移とは、ペプチドの立体構造が変化することをいう。応答部位と添加部位は、疎水部位で相互作用を起こし、一は疎水部位の一部が正に帯電しもう一は疎水部位の一部が負に帯電していることから、構造転移を起こして組合わさるときに強く結合する。すなわち、構造転移により形成される構造(ヘリックスバンドル構造)の安定性が高い。従って、本発明である構造転移ペプチドは構造転移能が高いという特徴を有する。両親媒性ペプチドとは、α-ヘリックス構造をとるペプチドであって、該両親媒性ペプチドを構成するアミノ酸を選択することにより疎水場と親水場とを形成させたペプチドである。ヘリックスバンドル構造とは、複数個のα-ヘリックス構造をとるペプチドが、該ペプチド間におけるアミノ酸の特異的な結合により、束なってできる構造である。複数個の両親媒性ペプチドとは、両親媒性ペプチドを2個以上含むことをいい、例えば2個含むことが考えられる。このとき両親媒性ペプチドはリンカーを介して結合させることが考えられる。
【0013】
本発明は、応答部位をタンパク質に結合させ、応答部位と添加部位が組み合わせることにより、結合したタンパク質の構造を転移させ、タンパク質の機能の調節を行う。
【0014】
請求項1において、応答性部位の疎水部位の一部が負に帯電し、添加部位の疎水部位の一部が正に帯電してもよい。また、応答性部位の疎水部位の一部が正に帯電し、添加部位の疎水部位の一部が負に帯電してもよい。また、応答部位と添加部位を構成する両親媒性ペプチドは、それぞれの部位内において又は応答部位と添加部位との間において、同じアミノ酸配列である場合と、異なるアミノ酸配列である場合とに限定されない。
【0015】
請求項2の発明は、応答部位と添加部位は、一はアミノ酸リジンを含むことにより疎水部位の一部が正に帯電し、もう一はアミノ酸アスパラギン酸を含むことにより疎水部位の一部が負に帯電することを特徴とする請求項1に記載の構造転移ペプチドである。
【0016】
請求項2は、請求項1の目的を達成しうること、及び目的を達成しうるペプチドを開示することを意図する。
【0017】
請求項2に記載の発明は、応答性部位にアミノ酸アスパラギン酸を含み、添加部位にアミノ酸リジンを含む場合と、応答性部位にアミノ酸リジンを含み、添加部位にアミノ酸アスパラギン酸を含む場合とを開示する。このとき、アミノ酸リジンを含むことにより正に帯電し、アミノ酸アスパラギン酸を含むことにより負に帯電する。
【0018】
また本発明である構造転移ペプチドにおいて、応答部位と添加部位は、一はアミノ酸アルギニンを含むことにより疎水部位の一部が正に帯電し、もう一はアミノ酸グルタミン酸を含むことにより疎水部位の一部が負に帯電するとしてもよい。
【0019】
応答部位と添加部位の疎水部位における、アミノ酸アスパラギン酸とアミノ酸リジンの存在する空間的配置(アミノ酸配列における結合位置)は、応答部位と添加部位とが組合わさるときに、強く結合する位置とする。
【0020】
請求項3の発明は、応答部位が配列番号1に記載のアミノ酸配列である請求項1又は2記載の構造転移ペプチドである。
【0021】
請求項3は、請求項1又は2の目的を達成しうること、及び目的を達成しうるアミノ酸配列を開示することを意図する。請求項3は、2個の両親媒性ペプチドを有する構成であり、2個の両親媒性ペプチドが添加部位を構成する両親媒性ペプチドと組合わさることにより凝集してヘリックスバンドル構造を呈する構成である。また、請求項3は、2個の両親媒性ペプチドがリンカーで結合された構造であることを意図する。リンカーとは、4乃至20個程度のアミノ酸配列をいい、アミノ酸の種類、数の選択は本発明の目的を達成する上で重要である。
【0022】
配列番号1に記載のアミノ酸配列は、応答部位にアミノ酸アスパラギン酸を含み、アミノ酸アスパラギン酸を含むことにより疎水部位の一部が負に帯電することを開示する。配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち1番目から28番目までのアミノ酸配列は両親媒性ペプチドに該当し、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち29番目から34番目までのアミノ酸配列はリンカーに該当し、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち35番目から62番目までのアミノ酸配列は両親媒性ペプチドに該当する。
【0023】
請求項4の発明は、添加部位が配列番号2に記載のアミノ酸配列である請求項1、2又は3記載の構造転移ペプチドである。
【0024】
請求項4は、請求項1の目的を達成しうること、及び目的を達成しうるアミノ酸配列を開示することを意図する。請求項4の構成は、1個の両親媒性ペプチドからなる構成であり、該両親媒性ペプチドが応答部位を構成する両親媒性ペプチドと組合わさることにより凝集してヘリックスバンドル構造を呈する構成である。
【0025】
配列番号2に記載のアミノ酸配列は、添加部位にアミノ酸リジンを含み、アミノ酸リジンを含むことにより疎水部位の一部が正に帯電することを開示する。
【0026】
請求項5の発明は、請求項1、2、3又は4に記載の構造転移ペプチドにおける応答部位をタンパク質に導入させ、添加部位を加えることにより、該タンパク質の機能を調節する方法である。
【0027】
請求項5は、効果的にタンパク質機能の調節を行い、かつ調節の条件が容易に設定される方法を提供することを意図する。また、タンパク質間相互作用の制御だけでなく、タンパク質以外のものとの相互作用を制御又はタンパク質単独での機能の制御を行う方法を意図する。
【0028】
請求項5は、応答部位をタンパク質に導入させ、応答部位と添加部位が組み合わせることにより、結合したタンパク質の構造を転移させ、タンパク質の機能の調節を行う方法である。応答部位のアミノ酸配列をタンパク質の適切な位置に導入(挿入)することにより、タンパク質は元来の構造が崩れ機能が消失する。そして、添加部位を加え、応答部位と添加部位が組み合わせることにより、タンパク質の構造が元来のものとなり機能が活性化される。
【0029】
また、請求項5は、添加部位をタンパク質に導入させ、応答部位と添加部位が組み合わせることにより、結合したタンパク質の構造を転移させ、タンパク質の機能の調節を行う方法としてもよい。また、応答部位又は添加部位とタンパク質との結合は、リンカーを介して結合させるとしてもよい。さらに、本発明である構造転移ペプチドを様々な物質に結合させて利用する方法が考えられる。
【0030】
請求項6の発明は、請求項1、2、3又は4に記載の構造転移ペプチドをコードするDNAである。
【0031】
請求項6は、請求項1、2、3又は4の目的を達成しうる構造転移ペプチドをコードするDNAを提供することを意図する。
【発明の効果】
【0032】
請求項1の発明は、1又は複数個の両親媒性ペプチドからなる応答部位と、1又は複数個の両親媒性ペプチドからなる添加部位とからなり、応答部位と添加部位は、一は疎水部位の一部が正に帯電し、もう一は疎水部位の一部が負に帯電し、組み合わせることにより構造転移を起こしヘリックスバンドル構造を形成することを特徴とする構造転移ペプチドである。
【0033】
請求項1は、タンパク質の機能の活性化・不活性化を調節するために使用されるペプチドであり、効果的にタンパク質機能の調節を行い、かつ制御の条件が容易に設定されるという特徴を有する。また、タンパク質間相互作用の制御だけでなく、タンパク質以外のものとの相互作用を制御又はタンパク質単独での機能の制御を行うという特徴を有する。さらに、汎用性のある、タンパク質の機能の活性化・不活性化を調節するスイッチングモジュールを提供する。また、本発明である構造転移ペプチドは構造転移能が高いという特徴を有する。
【0034】
請求項2の発明は、応答部位と添加部位は、一はアミノ酸リジンを含むことにより疎水部位の一部が正に帯電し、もう一はアミノ酸アスパラギン酸を含むことにより疎水部位の一部が負に帯電することを特徴とする請求項1に記載の構造転移ペプチドである。
【0035】
請求項2は、請求項1の目的を達成する。
【0036】
請求項3の発明は、応答部位が配列番号1に記載のアミノ酸配列である請求項1又は2記載の構造転移ペプチドである。
【0037】
請求項3は、請求項1又は2の目的を達成する。
【0038】
請求項4の発明は、添加部位が配列番号2に記載のアミノ酸配列である請求項1、2又は3記載の構造転移ペプチドである。
【0039】
請求項4は、請求項1、2又は3の目的を達成する。
【0040】
請求項5の発明は、請求項1、2、3又は4に記載の構造転移ペプチドにおける応答部位をタンパク質に導入させ、添加部位を加えることにより、
該タンパク質の機能を調節する方法である。
【0041】
請求項5は、タンパク質の機能の活性化・不活性化を調節する方法である。本発明は、効果的にタンパク質機能の調節を行い、かつ制御の条件が容易に設定されるという特徴を有する。また、タンパク質間相互作用の制御だけでなく、タンパク質以外のものとの相互作用を制御又はタンパク質単独での機能の制御を行うという特徴を有する。
【0042】
請求項6の発明は、請求項1、2、3又は4に記載の構造転移ペプチドをコードするDNAである。
【0043】
請求項6は、請求項1、2、3又は4の目的を達成しうる構造転移ペプチドをコードするDNAを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
構造転移ペプチドを構成する応答部位および添加部位の生産及び評価について説明する。
【0045】
(1)構造転移ペプチドを構成する応答部位をコードする遺伝子、および添加部位をコードする遺伝子の導入された発現用ベクターの構築を説明する。
【0046】
制限酵素BamHIの認識配列を含む順方向プライマーと、EcoRIの認識配列を含む逆方向プライマーを用いて応答部位、及び添加部位のそれぞれの遺伝子をPCRによって増幅する。それら遺伝子DNAを制限酵素処理した後、pET32−a(ベクターの商品名/ノバジェン社)のBamHI/EcoRI部位にそれぞれインフレームで導入し、応答部位の発現ベクターであるDS6/pET32−a及び、添加部位の発現ベクターであるIZ−K/pET32−aを得る。
【0047】
(2)上記発現用ベクターDS6/pET32−a及びIZ−K/pET32−aの大腸菌への導入、細胞内での蛋白質生産、及び精製方法に関して説明する。
【0048】
大腸菌BL21(DE3)株にDS6/pET32−aをヒートショックにより導入し、LB寒天培地上で培養する。形成したコロニーをLB培地でプレ培養の後新たなLB培地に植菌し、OD(濁度の指標)が0.6になるまで37℃で培養する。ODが0.6になったところで1μMになるようにIsppropyl-thiogalactopyranoside(IPTG)を添加し、その後37℃で3時間培養を行うことにより、大腸菌内で構造転移ペプチドを構成する応答部位の生産を行う。この蛋白質はTrx-His Tagとの融合蛋白質として大腸菌内において発現し、Niアフィニティーカラムによって精製した後、トロンビン酵素処理による融合部位の除去、HPLCによる精製を行う。同様に、添加部位の発現ベクターであるIZ−K/pET32−aを用い、添加部位の生産、及び生成を行う。
【0049】
(3)円偏光二色性スペクトル(CD)測定の条件とその結果について説明する。
【0050】
応答部位および添加部位は、20mM Tris-HClバッファー(pH 7.5)、50mM NaClの溶液に溶かして測定する。添加部位、応答部位は各々10μMの濃度に調製したものを用いる。得られるCDスペクトルの概形よりどちらもランダム構造を取っている事が示唆され、各々単独では多量体構造を取ってはいない事が示される(図1)。一方で、添加部位と応答部位を1:1で混合してCD測定を行う。この際には、各々10μMずつ混合したものを用いる。得られたCDスペクトルの概形より、1:1で混合すると、コイルドコイル構造を形成していることが示される(図2)。これは、応答部位と添加部位が1:1で選択的に相互作用している事を示している。
【実施例】
【0051】
構造転移ペプチドを構成する応答部位を導入したT7リゾチーム変異体の生産及び評価について説明する。
【0052】
(1)構造転移ペプチドを構成する応答部位を導入したT7リゾチーム変異体をコードする遺伝子、およびこの遺伝子を導入した発現用ベクターDNAの構築を説明する。
【0053】
まず、制限酵素NcoIの認識配列を含む順方向プライマーとBamHIの認識配列を含む逆方向プライマーを用い、T7リゾチーム遺伝子を鋳型にしてPCRにより、T7リゾチームのN末端側から23番目のアミノ酸までの遺伝子を増幅する。また、同様の鋳型を用いて、EcoR1の認識配列を含む順方向プライマーとHindIIIの認識配列を含む逆方向プライマーを使いリゾチームの24番目のアミノ酸からC末端までの遺伝子をPCRにより増幅する。これら遺伝子DNAをpET21-d(ベクターの商品名/ノバジェン社)のNco1/BamH1部位、EcoR1/HindIII部位にインフレームで導入する。これによりベクターDNAであるLYS23/pET21-dを得る。
【0054】
次に、発明を実施するための最良の形態(1)で作成した発現用ベクターDNAであるDS6/pET32-aから制限酵素BamH1とEcoR1により応答部位をコードする遺伝子を切り出し、これをLYS23/pET21-dのBamH1/EcoR1部位にインフレームで導入する。これより応答部位を導入したT7リゾチーム変異体の発現用ベクターLYS23-DS6/pET21-dを得る。
(2)上記発現用ベクターLYS23-DS6/pET21-dの大腸菌への導入、細胞内での発現誘導、蛋白質精製方法に関して説明する。
【0055】
大腸菌BL21(DE3)株にLYS23-DS6/pET21-dをヒートショックにより導入し、LB寒天培地上で培養した。形成したコロニーをLB培地でプレ培養の後新たなLB培地に植菌し、OD(濁度の指標)が0.6になるまで37℃で培養する。ODが0.6になったところで1μMになるようにIsppropyl-thiogalactopyranoside(IPTG)を添加し、その後37℃で3時間培養を行うことにより、大腸菌内で構造転移ペプチドを構成する応答部位の生産を行う。この蛋白質はHis Tagとの融合蛋白質として大腸菌内において発現し、Niアフィニティーカラムによって精製する。これにより得られた応答部位を導入したT7リゾチーム変異体LYS23-DS6は8M Ureaで一旦変性させた後、透析により徐々に希釈する事によりでリフォールディングを行う。
(3)応答部位を導入したT7リゾチーム変異体の、添加部位の添加によるin vitro転写に対する阻害活性変化の検討について説明する。
【0056】
in vitro転写活性の評価は、80mM HEPES(pH 7.5)、24mM MgCl、2mM Spermidine、40mM DTTの溶液に、T7RNA polymerase18u、RNase inhibitor10u、rNTP(各5mM)、転写されるRNAをコードする遺伝子DNAをT7プロモータ−の下流に含む直鎖状DNA(およそ1800b.p)50pg、LYS23-DS6 15μMを添加し37℃で2時間反応させることにより行う。添加部位は0μMまたは15μMになるように添加する。転写反応の終了後、DNaseI 4uを系に加えて37℃で15分間インキュベートすることによりRNAをコードする遺伝子を含む直鎖状DNAを分解させ、転写産物であるmRNAを、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈殿を経て得る。得られたmRNAの量の評価は、それぞれのm−RNAをRNase Freeの滅菌水に溶解し熱変性の後に、1%アガロースゲルによる電気泳動で確認をする。その結果、LYS23-DS6不在下、及び存在下においてはRNAの転写量に変化が見られなかったことより、LYS23-DS6のみでは転写の抑制は起こっていないことに対して、LYS23-DS6に添加部位を添加した際に関して、RNAの転写量に抑制がみられる(図3)。
【0057】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0058】

【図1】応答部位単独および添加部位単独でのCDスペクトル
【図2】応答部位と添加部位を等量混合した際のCDスペクトル
【図3】応答部位を導入したT7リゾチーム変異体を用いた、添加部位の添加による転写活性の制御

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数個の両親媒性ペプチドからなる応答部位と、1又は複数個の両親媒性ペプチドからなる添加部位とからなり、
応答部位と添加部位は、一は疎水部位の一部が正に帯電し、もう一は疎水部位の一部が負に帯電し、
組み合わさることにより構造転移を起こしヘリックスバンドル構造を形成することを特徴とする構造転移ペプチド。
【請求項2】
応答部位と添加部位は、一はアミノ酸リジンを含むことにより疎水部位の一部が正に帯電し、もう一はアミノ酸アスパラギン酸を含むことにより疎水部位の一部が負に帯電することを特徴とする請求項1に記載の構造転移ペプチド。
【請求項3】
応答部位が配列番号1に記載のアミノ酸配列である請求項1又は2記載の構造転移ペプチド。
【請求項4】
添加部位が配列番号2に記載のアミノ酸配列である請求項1、2又は3記載の構造転移ペプチド。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4に記載の構造転移ペプチドにおける応答部位をタンパク質に導入させ、添加部位を加えることにより、該タンパク質の機能を調節する方法。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4に記載の構造転移ペプチドをコードするDNA。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−60878(P2009−60878A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233589(P2007−233589)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化学会第87春季年会 2007年 講演予稿集II社団法人日本化学会 平成19年3月12日発行
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】