説明

様々な不純物からの、フラーレン誘導体の精製

フラーレン誘導体のための精製法を記載する。この精製法は、フラーレン誘導体および不純物、例えば他のフラーレン誘導体および多環式芳香族炭化水素等を含む溶液を、活性炭に通す工程を含む。高い純度を持つフラーレン誘導体が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件特許出願は、2009年3月17日付で出願された、米国仮特許出願第61/160,812号に係る利益を請求するものであり、該米国仮特許出願の内容全体を、参考としてここに組入れる。該米国仮特許出願中に引用されているあらゆる特許、特許出願および刊行物の内容全体を、ここに記載する発明の完成時点における、当業者に知られている当技術の現状を、より一層十分に説明するために、参考としてここに組入れる。
【0002】
本発明は、一般的にフラーレンおよびフラーレン誘導体の精製法に関するものである。より具体的には、本発明は、C60誘導体、C70誘導体、その他のより高級なフラーレン誘導体、またはこれらの混合物を精製するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
フラーレンとは、中心部に空洞を持つ炭素ケージを含む一群の化合物を意味する。フラーレンおよびフラーレン誘導体は、潤滑剤、半導体、および超伝導体等の、その可能な用途のために、高い注目を集めている物質である。一般的に使用されているフラーレン誘導体は、フェニル-C61-酪酸-メチル-エステル(C60PCBM)、チエニル-C61-酪酸-メチル-エステル(C60ThCBM)、C60-インデンアダクト(Pupiovskis等, Tetrahedron Letters, 1997, Vol.38, No.2, 285-288;および米国特許出願第2008/0319207号)、C60-キノジメタンアダクト(Belik等, Angw. Chem. lnt. Ed., 1993. Vol.32, No.1, 78-80)、モジュラー(modular)両性イオン-媒介転移生成物、例えば後に様々な求核試薬と反応させられるC60-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト(Zhang等, J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 7714-7715およびJ. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 8446-8454)、およびC70誘導体を含む。一般的なフラーレンの官能化反応の他の例は、A. HirschおよびM. Brettreich,「フラーレンの化学および反応(Fullerenes Chemistry and Reactions)」, ウイリー-VCHフェアラーグ(Wiley-VCH Verlag), 2005, ISBN 3-527-30820-2等の文献に与えられている。
【0004】
C60は、通常様々な方法、例えばアーク蒸発、レーザーアブレーション、およびこれらの組合せを利用して製造される。このような方法は、またC60と共に、他のフラーレン生成物、例えば、C70、C84、およびその他のフラーレン、C120および他のフラーレンのダイマー、また燃焼生成物の場合には、多環式芳香族炭化水素(PAHs)等をも生成する。ポリアレン、ポリ-芳香族炭化水素または多核芳香族炭化水素とも呼ばれるPAHは、融合またはその他の連結芳香族リングからなっている。PAHは構造上の多様性を示し、また同一の分子量を持つ、かなり多くの異性体が同定されており、またしばしば合成されている(多環式芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons), Ronald G. Harvey, Wiley-VCH, N.Y., 1997, ISBN 0-471-18608-2)。通常、C60またはC70誘導体は、様々なC60またはC70の誘導体化反応を利用して合成されている。他のフラーレン、ダイマー、およびPAHsは、これらが反応混合物中に存在するC60またはC70との混合状態にある場合には、反応状態および未反応状態両者にある不純物である。特に燃焼法においては、10〜160なる範囲の炭素原子を含む、様々な型のPAHsが生成される可能性がある(Lafleur等, J. Am. Soc. Mass Spectrom., 1996, 7, 276-286)。フラーレン-形成炎の縮合材料における10〜32個の炭素原子を持つPAHの、クロマトグラフィーによる同定法が報告されており(Grieco等, Proc. Combust. Inst., 1998, 27, 1669-1675)、またこれらは、C60またはC70誘導体の精製の際に様々な困難をもたらす恐れがある。
【0005】
一般的に利用されているフラーレン誘導体の精製法は、固相としてシリカゲルを用いるカラムクロマトグラフィー法である。しかし、この方法は、しばしば高純度の物質を与える能力において制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
様々な不純物からのフラーレン誘導体の精製法を記載する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面において、フラーレン誘導体の精製法を記載する。この精製法は、
フラーレン誘導体-不純物混合物を、活性炭のカラムに導入する工程;および
溶媒系を用いて該フラーレン誘導体を溶出して、精製された該フラーレン誘導体を得る工程を含み、ここで
該フラーレン誘導体は、フラーレン誘導体またはフラーレン誘導体の混合物であり、
該不純物は、1種またはそれ以上の多環式芳香族炭化水素を含み、かつ
該フラーレン誘導体-不純物混合物中の約25質量%を越える該多環式芳香族炭化水素が、該精製処理後に除去される。
【0008】
任意の先行する態様において、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の約50質量%を越える該多環式芳香族炭化水素が、該精製処理後に除去される。
【0009】
任意の先行する態様において、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の約90質量%を越える該多環式芳香族炭化水素が、該精製処理後に除去される。
【0010】
任意の先行する態様において、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の約95質量%を越える該多環式芳香族炭化水素が、該精製処理後に除去される。
【0011】
任意の先行する態様において、該精製処理後の該フラーレン誘導体の純度は、約97%を越える。
【0012】
任意の先行する態様において、該フラーレン誘導体-不純物混合物は、燃焼法により得たフラーレンの誘導体化によって得られる。
【0013】
任意の先行する態様において、該多環式芳香族炭化水素は、フルオレンまたはピレンを含む。
【0014】
任意の先行する態様において、該方法は、更に該第二の系を該溶液から取出して、高い純度を持つ該フラーレン誘導体を得る工程をも含む。
【0015】
任意の先行する態様において、得られた該フラーレン誘導体は、5%未満の多環式芳香族炭化水素を含む。
【0016】
任意の先行する態様において、得られた該フラーレン誘導体は、1%未満の多環式芳香族炭化水素を含む。
【0017】
任意の先行する態様において、得られた該フラーレン誘導体は、0.1%未満の多環式芳香族炭化水素を含む。
【0018】
任意の先行する態様において、得られた該フラーレン誘導体は、0.01%未満の多環式芳香族炭化水素を含む。
【0019】
任意の先行する態様において、精製後、該フラーレン誘導体の質量減少量は、5%未満である。
【0020】
任意の先行する態様において、精製後、該フラーレン誘導体の質量減少量は、3%未満である。
【0021】
任意の先行する態様において、該フラーレン誘導体-不純物混合物は、フラーレン誘導体化の際の反応混合物を、シリカゲルカラムに通し、第一の溶媒系を使用して、該フラーレン誘導体を溶出し、および該第一の溶媒を除去することにより得られる。
【0022】
任意の先行する態様において、該フラーレン誘導体は、C60誘導体を含む。
【0023】
任意の先行する態様において、該C60誘導体は、C60PCBM、ビス-アダクトC60PCBM、トリス-アダクトC60PCBM、テトラ-アダクトC60PCBM、ペンタ-アダクトC60PCBM、ヘキサ-アダクトC60PCBM、C60ThCBM、ビス-アダクトC60ThCBM、トリス-アダクトC60ThCBM、テトラ-アダクトC60ThCBM、ペンタ-アダクトC60ThCBM、ヘキサ-アダクトC60ThCBM、C60モノ-インデンアダクト、C60ビス-インデンアダクト、C60トリス-インデンアダクト、C60テトラ-インデンアダクト、C60ペンタ-インデンアダクト、C60ヘキサ-インデンアダクト、C60モノ-キノジメタンアダクト、C60ビス-キノジメタンアダクト、C60トリス-キノジメタンアダクト、C60テトラ-キノジメタンアダクト、C60ペンタ-キノジメタンアダクト、C60ヘキサ-キノジメタンアダクト、C60モノ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60ビス-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60トリス-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60テトラ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60ペンタ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60ヘキサ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、およびこれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種のC60誘導体である。
【0024】
任意の先行する態様において、該C60誘導体はC60PCBMである。
【0025】
任意の先行する態様において、前記溶媒系は、ベンゼン、トルエン、o-ジクロロベンゼン、o-キシレン、他のキシレン、クロロベンゼン、トリメチルベンゼン、シクロヘキサン、ナフタレン、メチルナフタレン、クロロナフタレン、任意の他の部分的にまたは完全に置換されたベンゼン、任意の他の部分的にまたは完全に置換されたナフタレン、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される、少なくとも1種の溶媒である。
【0026】
任意の先行する態様において、前記第二の溶媒系はトルエンを含む。
【0027】
任意の先行する態様において、該活性炭はノリットエロリット(Norit Elorit)である。
【0028】
任意の先行する態様において、前記C60PCBMは、97.5%を越える、98.0%を越える、98.5%を越える、99.0%を越える、99.5%を越える、または99.9%を越える純度にて得られる。
【0029】
任意の先行する態様において、前記C60PCBM-不純物混合物は、C60のPCBM誘導体化を通して得られる。
【0030】
任意の先行する態様において、該C60PCBM-不純物混合物は、燃焼法により得たC60のPCBM誘導体化を通して得られ、該混合物は、多環式芳香族炭化水素で汚染されている。
【0031】
任意の先行する態様において、該不純物は、TCBM、C70-PCBM誘導体、C120-PCBM誘導体、他のフラーレン-PCBM誘導体、多環式芳香族炭化水素、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の不純物である。
【0032】
任意の先行する態様において、該多環式芳香族炭化水素は、フルオレンまたはピレンである。
【0033】
任意の先行する態様において、精製後、該C60PCBMの質量減少量は、5%未満である。
【0034】
任意の先行する態様において、精製後、該C60PCBMの質量減少量は3%未満である。
【0035】
任意の先行する態様において、前記フラーレン誘導体は、C70誘導体、任意のより高級なフラーレン誘導体、またはこれらの任意の組合せである。
【0036】
任意の先行する態様において、該フラーレン誘導体はC70-PCBMである。
【0037】
本明細書において使用する用語「PAH」とは、多環式芳香族炭化水素を意味し、これはまた融合あるいは連結された芳香族リングからなるポリアレンまたは多核芳香族炭化水素とも呼ばれている。
【0038】
本明細書において使用する用語「誘導体化(derivatization)」とは、フラーレン等の分子を官能基で修飾することによって、該分子を、同様な構造を持つ生成物に変換することを意味する。本明細書において使用する用語「誘導体」とは、フラーレン等の分子を誘導体化した生成物を意味する。
【0039】
本明細書において使用する用語「フラーレン誘導体」とは、フラーレン誘導体またはフラーレン誘導体の混合物を意味する。フラーレン誘導体は、共有結合によって結合した、あるいはまた1種またはそれ以上の原子または化合物が配位したフラーレンである。幾つかの態様において、フラーレン誘導体は、1種またはそれ以上の炭化水素化合物と共有結合により結合したフラーレンである。フラーレン誘導体の非-限定的な例は、メタノフラーレン誘導体、PCBM誘導体、ThCBM誘導体、プラト(Prato)誘導体、ビンゲル(Bingel)誘導体、ジアゾリン誘導体、アザフレロイド(azafulleroid)誘導体、ケトラクタム誘導体、およびディールス-アルダー誘導体を含む。より優先的には、フラーレン誘導体は、1種またはそれ以上のシクロプロピル基と結合したフラーレンであり、これは引続き2つの基R1およびR2と結合される。より好ましくは、フラーレン誘導体は、1種またはそれ以上のシクロプロピル基と結合したC60、C70、C76、C78、またはC84で構成されるフラーレンであり、これは引き続き2つの基R1およびR2と結合される。R1およびR2基は、同一または異なるものであり得る。R1およびR2基の非-限定的な例は、炭化水素基、水素原子、およびハロゲン原子を含む。幾つかの態様において、R1は芳香族化合物を含み、かつR2はエステルと結合したアルキル基を含む。幾つかの特定の態様において、R1はフェニル基であり、かつR2はその反対側の端部において、メチルエステルと結合した、脂肪族直鎖ブチル基である。幾つかの特定の態様において、該フラーレン誘導体は、C60PCBMまたはC70PCBMである。ここで使用する用語「PCBM」とは、フェニル-C61-酪酸-メチルエステルを意味する。ここで使用する用語「ThCBM」とは、チエニル-C61-酪酸-メチルエステルを意味する。
【0040】
次に、以下に列挙する図を参照して本発明を説明するが、以下の図は、本発明を例示する目的で提示されるものであり、本発明の限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、活性炭を用いて精製処理する前の、C60PCBM(材料A)の分析HPLCトレースを示す図である。
【図2】図2は、活性炭を用いて精製処理した後の、フラスコ1内に集められたC60PCBMの分析HPLCトレースを示す図である。
【図3】図3は、活性炭を用いて精製処理した後の、フラスコ2内に集められたC60PCBMの分析HPLCトレースを示す図である。
【図4】図4は、材料Aに関する、またフラスコ1および2内に集められたサンプルに関する、HPLCトレースのオーバーレイである。
【図5】図5は、活性炭を用いて精製処理した後の、C60PCBM(併合されたフラスコ1および2内のC60PCBM)の分析HPLCトレースを示す図である。
【図6】図6は、活性炭を用いる精製処理前後の、フルオレンおよびピレンを含む、C60PCBMサンプルに関する、分析HPLCトレースを比較した図である。
【図7】図7は、活性炭を用いる精製処理前(図7a)およびその後(図7b)の、C60ビスPCBMサンプルに関する、分析HPLCトレースを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
フラーレン誘導体の効果的な精製法を説明する。該フラーレン誘導体の精製は、一定量の不純物を除去する方法を意味し、該方法は、該フラーレン誘導体の純度の一定量の増加をもたらす。第一の溶媒系におけるフラーレン誘導体を、活性炭を含むカラムに導入し、第二の溶媒系を使用して、該フラーレン誘導体を溶出して、該フラーレン誘導体の本質的に純粋な第二の溶液を得る。該第一の溶媒系および該第二の溶媒系は、同一または異なるものであり得る。幾つかの態様において、該第二の溶媒系は、該溶出の溶出時間および精製分離度(resolution of the purification)を最適化するように選択される。幾つかの態様において、該第一の溶媒は、該活性炭に対する、該フラーレン誘導体の初期投入体積を最小化して、精製分離度を最大にするように選択される。
【0043】
フラーレンは、当分野において公知の、数種の方法で製造できる。例えば、フラーレンは、燃焼法または非-燃焼法により製造することができる。燃焼法は、通常、炭化水素の酸化的分解と呼ばれる。フラーレンを燃焼法により製造するための例示的方法は、米国特許第5,273,729号および米国特許出願第2008/0280240号に記載されている方法において見られる。他の例において、フラーレンは、プラズマ法によっても製造することができる[L. Fulcheri; N. Probst; G. Flamant; F. Fabry;およびE. Grivei, プラズマ加工:新たなグレードのカーボンブラック製造のための段階、第3回カーボンブラックに関するミュールーズ会議(F)(F)(Plasma Processing: A Step Towards The Production Of New Grades Of Carbon Black, Third international conference CARBON BLACK MULHOUSE (F)(F)), 2000, 10/25-26]。燃焼法等の方法により作成されたフラーレンは、通常除去することが困難な、ある量のPAHsを含んでいる。該フラーレンを更に誘導体化する場合に、該PAH不純物は、該合成されたフラーレン誘導体中に持込まれるであろう。HPLCまたはシリカゲルカラムクロマトグラフィー等の従来の精製技術は、該フラーレン誘導体の満足な純度をもたらすことはない。
【0044】
本出願人は、驚いたことに、活性炭の使用が、該フラーレン誘導体中の該PAH不純物の効果的な除去を可能とすることを発見した。幾つかの態様においては、精製処理後の該フラーレン誘導体-不純物混合物中の該フラーレン誘導体の純度は、精製前のその純度と比較して、少なくとも4%高められた。幾つかの態様においては、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の該多環式芳香族炭化水素の約25質量%を越える量が、精製処理後に除去される。幾つかの態様においては、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の該多環式芳香族炭化水素の約50質量%を越える量が、精製処理後に除去される。幾つかの態様においては、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の該多環式芳香族炭化水素の約90質量%を越える量が、精製処理後に除去される。幾つかの態様においては、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の該多環式芳香族炭化水素の約99質量%を越える量が、精製処理後に除去される。幾つかの態様において、該精製処理後には、該フラーレン誘導体-不純物混合物の質量は、本質的に同一の値に維持され、一方で該多環式芳香族炭化水素の量は、2-倍を越えて減少する。幾つかの態様において、該精製処理後には、該フラーレン誘導体-不純物混合物の質量は、本質的に同一の値に維持され、一方で該多環式芳香族炭化水素の量は、3-倍を越えて減少する。幾つかの態様において、該精製処理後には、該フラーレン誘導体-不純物混合物の質量は、本質的に同一の値に維持され、一方で該多環式芳香族炭化水素の量は、10-倍を越えて減少する。
【0045】
本明細書に記載する如き該精製法は、該精製の効率および有効性を改善すべく、更に最適化することができる。幾つかの態様においては、本明細書に記載する如き該精製法は、該フラーレン誘導体の純度を更に高めるために、当分野において公知の任意の方法と組合せることができる。幾つかの態様においては、該活性炭の量または該活性炭のカラムの長さを調節して、該精製工程の性能を最適化することができる。
【0046】
幾つかの態様においては、誘導体化反応の後に、先ず、不純物を含む粗製フラーレン誘導体を、第一の溶媒系を用いてシリカゲルカラムに通して、該フラーレン誘導体の第一の溶液を得る。次いで、該第一の溶液を活性炭のカラムに投入する。次いで、第二の溶媒系を用いて、該フラーレン誘導体を溶出し、本質的に純粋な、該フラーレン誘導体の第二の溶液を得る。該第一の溶媒系および該第二の溶媒系は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0047】
幾つかの態様において、該フラーレン誘導体は、フラーレン誘導体の混合物である。フラーレンとPAHsとの混合物が誘導され、処理され、また該フラーレン誘導体の混合物は、本明細書に記載するような、活性炭のカラムを用いる方法により精製される。
【0048】
幾つかの態様において、該フラーレン誘導体は、燃焼法で得たフラーレンの、誘導体化によって得られる。
【0049】
幾つかの態様において、活性炭を用いた精製後の該フラーレン誘導体は、5%未満のPAHsを含む。幾つかの態様において、活性炭を用いた精製後の該フラーレン誘導体は、1%未満のPAHsを含む。幾つかの態様において、活性炭を用いた精製後の該フラーレン誘導体は、0.1%未満のPAHsを含む。幾つかの態様において、活性炭を用いた精製後の該フラーレン誘導体は、0.01%未満のPAHsを含む。
【0050】
幾つかの態様において、該フラーレン誘導体中に含まれる該PAH不純物は、ピレンである。幾つかの態様において、活性炭を用いた精製処理後の該フラーレン誘導体は、5%未満のピレンを含む。幾つかの態様において、活性炭を用いた精製処理後の該フラーレン誘導体は、1%未満のピレンを含む。更に別の特定の態様において、活性炭を用いた精製処理後の該フラーレン誘導体は、0.1%未満のピレンを含む。更に他の特定の態様において、活性炭を用いた精製処理後の該フラーレン誘導体は、0.01%未満のピレンを含む。
【0051】
幾つかの態様において、該フラーレン誘導体中に含まれる該PAH不純物は、フルオレンである。幾つかの態様において、活性炭を用いた精製処理後の該フラーレン誘導体は、5%未満のフルオレンを含む。他の特定の態様において、活性炭を用いた精製処理後の該フラーレン誘導体は、1%未満のフルオレンを含む。更に別の特定の態様において、活性炭を用いた精製処理後の該フラーレン誘導体は、0.1%未満のフルオレンを含む。更に他の態様において、活性炭を用いた精製処理後の該フラーレン誘導体は、0.01%未満のフルオレンを含む。
【0052】
幾つかの態様において、該活性炭を用いたフラーレン誘導体の精製は、該フラーレン誘導体の大幅な質量減少を伴うことなしに、該フラーレン誘導体-PAH混合物中の該PAH不純物の割合の、大幅な低下をもたらす。本明細書に記載するように、幾つかの態様においては、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の約25質量%を越える該多環式芳香族炭化水素が、該精製処理後に除去される。幾つかの態様においては、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の約50質量%を越える該多環式芳香族炭化水素が、該精製処理後に除去される。幾つかの態様においては、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の約90質量%を越える該多環式芳香族炭化水素が、該精製処理後に除去される。幾つかの態様においては、該フラーレン誘導体-不純物混合物中の約99質量%を越える該多環式芳香族炭化水素が、該精製処理後に除去される。幾つかの態様において、該精製処理後には、該フラーレン誘導体-不純物混合物の質量は、本質的に同一の値に維持され、一方で該多環式芳香族炭化水素の量は、2-倍を越えて減少する。幾つかの態様において、該精製処理後には、該フラーレン誘導体-不純物混合物の質量は、本質的に同一の値に維持され、一方で該多環式芳香族炭化水素の量は、3-倍を越えて減少する。幾つかの態様において、該精製処理後には、該フラーレン誘導体-不純物混合物の質量は、本質的に同一の値に維持され、一方で該多環式芳香族炭化水素の量は、10-倍を越えて減少する。幾つかの態様において、該フラーレン誘導体の質量減少量は、5%未満である。幾つかの態様において、該フラーレン誘導体の質量減少量は、3%未満である。
【0053】
フラーレンの誘導体化は、1種またはそれ以上の原子または化合物と、共有結合により結合された、あるいはこれらが配位したフラーレンの生成を含む。誘導体化反応の非-限定的な例は、PCBM誘導体化、ThCBM誘導体化、メタノフラーレン誘導体化、プラト(Prato)誘導体化、ビンゲル(Bingel)誘導体化、ジアゾリン誘導体化、アザフラーロイド(azafulleroid)誘導体化、ケトラクタム誘導体化、およびディールス-誘導体化を含む。
【0054】
次いで、該第二の溶媒系を除去し、こうして該フラーレン誘導体を、高純度にて得る。もう一つの態様においては、>97.5%なる純度を持つ該フラーレン誘導体が得られる。更に別の態様においては、>98.0%なる純度を持つ該フラーレン誘導体が得られる。更に別の態様においては、>98.5%なる純度を持つ該フラーレン誘導体が得られる。更に別の態様においては、>99.0%なる純度を持つ該フラーレン誘導体が得られる。更に別の態様においては、>99.5%なる純度を持つ該フラーレン誘導体が得られる。更に別の態様においては、>99.9%なる純度を持つ該フラーレン誘導体が得られる。
【0055】
上記の如き、活性炭を用いた、フラーレン誘導体の該精製法は、小規模並びに大規模の精製に適用できた。前記方法は、フラーレンを製造するための上記燃焼工程中に、生成される可能性のある、他のフラーレン誘導体並びにPAHsを効果的に除去するために利用できた。
【0056】
更に別の態様において、該フラーレン誘導体は、C60誘導体、C70誘導体、より高級なフラーレン誘導体、またはこれらの混合物である。
【0057】
C60またはC70は、アーク蒸発法、レーザーアブレーション法、または燃焼法により製造することができた。一特定の態様において、C60またはC70は、燃焼法により製造される。
【0058】
更に別の態様においては、次いで、製造されたこのC60を、誘導体化反応に掛ける。合成される該C60誘導体の非-限定的な例は、C60PCBM、ビス-アダクトC60PCBM、トリス-アダクトC60PCBM、テトラ-アダクトC60PCBM、ペンタ-アダクトC60PCBM、ヘキサ-アダクトC60PCBM、C60ThCBM、ビス-アダクトC60ThCBM、トリス-アダクトC60ThCBM、テトラ-アダクトC60ThCBM、ペンタ-アダクトC60ThCBM、ヘキサ-アダクトC60ThCBM、C60モノ-インデンアダクト、C60ビス-インデンアダクト、C60トリス-インデンアダクト、C60テトラ-インデンアダクト、C60ペンタ-インデンアダクト、C60ヘキサ-インデンアダクト、C60モノ-キノジメタンアダクト、C60ビス-キノジメタンアダクト、C60トリス-キノジメタンアダクト、C60テトラ-キノジメタンアダクト、C60ペンタ-キノジメタンアダクト、C60ヘキサ-キノジメタンアダクト、C60モノ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60ビス-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60トリス-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60テトラ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60ペンタ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60ヘキサ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクトを含む。もう一つの態様において、該誘導体は、フラーレン誘導体の混合物である。更に別の態様において、該誘導体は、C60およびC70誘導体の混合物である。更に他の態様においては、C60PCBMが合成される。更に別の態様において、該生成物のC70は、次に誘導体化反応に付される。合成される該C70誘導体の非-限定的な例は、C70PCBMまたはその他のC70誘導体を含む。
【0059】
該誘導体化反応の経過後、該粗製C60誘導体混合物は、不純物を含む可能性がある。不純物の非-限定的な例は、C60、C70、未反応の誘導体化試薬、C70誘導体、フラーレンダイマーの誘導体、例えばC120誘導体、他のフラーレン誘導体、および多環式芳香族炭化水素並びにその反応生成物を含む。一特定の態様においては、C60PCBMが合成され、また該粗製C60PCBM混合物は、不純物、例えばトリル-C61-酪酸メチルエステル(TCBM)、C60、C70、C70-PCBM誘導体、C120-PCBM誘導体、他のフラーレン-PCBM誘導体および多環式芳香族炭化水素、例えばフルオレンまたはピレンを含む。シリカゲルは、C60PCBMを精製するために一般に使用される固相である。しかし、上記不純物の多くは、C60PCBMと共に同時に溶出され、そのためシリカゲルカラムクロマトグラフィー単独によって達成し得る、その最終的な純度は制限される。
【0060】
一特定の態様において、活性炭を用いた精製処理後の本質的に純粋な該C60PCBMは、98%を越える純度を持つ。もう一つの態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、99%を越える純度を持つ。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、99.5%を越える純度を持つ。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、99.9%を越える純度を持つ。
【0061】
一特定の態様において、活性炭を用いた精製処理後の本質的に純粋な該C60PCBMは、0.1%未満のTCBMを含む。もう一つの態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.05%未満のTCBMを含む。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.03%未満のTCBMを含む。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.025%未満のTCBMを含む。
【0062】
特定の一態様において、活性炭を用いた精製処理後の本質的に純粋な該C60PCBMは、0.1%未満のC60を含む。他の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.05%未満のC60を含む。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.02%未満のC60を含む。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.015%未満のC60を含む。
【0063】
特定の一態様において、活性炭を用いた精製処理後の本質的に純粋な該C60PCBMは、0.1%未満のC70を含む。他の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.05%未満のC70を含む。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.02%未満のC70を含む。
【0064】
特定の一態様において、活性炭を用いた精製処理後の本質的に純粋な該C60PCBMは、0.5%未満のあらゆるまたは全てのC120PCBM異性体を含む。他の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.1%未満のあらゆるまたは全てのC120PCBM異性体を含む。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.05%未満のあらゆるまたは全てのC120PCBM異性体を含む。更に別の態様において、更に別の態様において、本質的に純粋な該C60PCBM中の該あらゆるまたは全てのC120PCBM異性体の濃度は、HPLC等の装置の検出限界レベル以下である。
【0065】
特定の一態様において、活性炭を用いた精製処理後の、本質的に純粋な該C60PCBMは、0.005%未満のC70PCBMを含む。他の態様において、本質的に純粋な該C60PCBM中の、C70PCBMの濃度は、HPLC等の装置の検出限界レベル以下である。
【0066】
特定の一態様において、該活性炭を用いた精製処理後のC60PCBMは、5%未満のPAHsを含む。他の態様において、活性炭を用いた精製処理後の本質的に純粋な該C60PCBMは、1%未満のPAHsを含む。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の本質的に純粋な該C60PCBMは、0.1%未満のPAHsを含む。更に別の態様において、活性炭を用いた精製処理後の本質的に純粋な該C60PCBMは、0.01%未満のPAHsを含む。
【0067】
特定の一態様において、該活性炭を用いた精製処理後のC60PCBMは、5%未満のピレンを含む。他の態様において、該活性炭を用いた精製処理後のC60PCBMは、1%未満のピレンを含む。更に別の態様において、該活性炭を用いた精製処理後のC60PCBMは、0.1%未満のピレンを含む。更に別の態様において、該活性炭を用いた精製処理後のC60PCBMは、0.01%未満のピレンを含む。
【0068】
特定の一態様において、該活性炭を用いた精製処理後のC60PCBMは、5%未満のフルオレンを含む。他の態様において、該活性炭を用いた精製処理後のC60PCBMは、1%未満のフルオレンを含む。更に別の態様において、該活性炭を用いた精製処理後のC60PCBMは、0.1%未満のフルオレンを含む。更に別の態様において、該活性炭を用いた精製処理後のC60PCBMは、0.01%未満のフルオレンを含む。
【0069】
様々な型、ブランド、およびメッシュサイズを持つシリカゲルを、C60誘導体の精製において使用できる。特定の一態様においては、シリカゲル(230-400メッシュ)を、C60誘導体の精製において使用する。
【0070】
あらゆる極性または非-極性活性炭が、C60誘導体の精製のために使用できる。特定の一態様においては、ノリットエロリット活性炭が、C60誘導体の精製のために使用される。活性炭のその他の例は、ノリット(Norit) A活性炭を含む。
【0071】
該活性炭を介して前記フラーレン誘導体を溶出するのに使用する、前記第一および第二溶媒系は、ベンゼン、トルエン、o-ジクロロベンゼン、o-キシレン、その他のキシレン、クロロベンゼン、トリメチルベンゼン(特定の異性体またはその混合物)、シクロヘキサン、ナフタレン、メチルナフタレン(特定の異性体またはその混合物)、クロロナフタレン(特定の異性体またはその混合物)、任意の他の部分的にまたは完全に置換されたベンゼン、任意の他の部分的にまたは完全に置換されたナフタレン、またはこれらの組合せであり得る。特定の一態様においては、トルエンが、該活性炭を介して前記C60誘導体を溶出するための該第二の溶媒系として使用される。特定のもう一つの態様においては、トルエンが、シリカゲルカラムを通して、該C60誘導体を溶出するための該第一の溶媒系として使用される。更に別の態様においては、該活性炭のカラムからC70誘導体を溶出するために、該第二の溶媒系は、トルエン、o-キシレン、p-キシレン(またはo-およびp-キシレンの混合物)、クロロベンゼンおよびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0072】
当分野において公知のGC、HPLC、またはその他の分析法が、C60またはC70誘導体サンプルの純度を測定するために使用できる。特定の一態様においては、HPLCを、C60またはC70誘導体サンプルの純度を測定するために使用する。
【実施例】
【0073】
一般的な実験に関する情報
C60は、米国特許第5,273,729号および米国特許出願第2008/0280240号に記載されている方法に従って、HPLC分析は、バッキプレプ(Buckyprep)カラムを用いた、アジーレン1100シリーズ(Agilent 1100 Series)HPLCを用いて行った。トルエンは、ヒューストンケミカル(Houghton Chemical)社から購入し、更に精製することなしに使用した。シリカゲル(230-400メッシュ)は、アルファアエサール(Alfa Aesar)社から購入した。ノリットエロリット(Norit Elorit)活性炭は、ノリット(Norit)社から購入した。
【0074】
実施例1:C60PCBMの合成および精製
出発材料として、非-燃焼法により得たC60を用いて、C60PCBMの合成を、変更を加えた、1) Hummelen等, J. Org. Chem., 1995, 60, 532;2) Wienk等, Angew. Chem. Int. Ed., 2003, 42, 3371-3375;または3) Kooistra等, Chem. Mater., 2006, 18, 3068-3073に記載された方法に従って、実施した。
【0075】
C60PCBMを含有する該反応混合物を、先ず、以下に説明するようなシリカゲルカラムを用いて精製した。
【0076】
該反応混合物を、VWRサイズ410濾紙(ポアサイズ:1μm)を使用した、真空濾過を利用して濾過し、可溶性の反応混合物を、不溶性の塩から分離した。C60PCBMを含有する該可溶性混合物を、シリカゲルカラム(750g、230-400メッシュ)に通し、また溶離剤としてo-ジクロロベンゼンを使用して、該C60バンドを溶出させた。次いで、トルエンを使用して、該C60PCBMバンドを溶出させたが、これは該C60バンドに続いて直ぐに現れた。C60PCBMを含有する1Lのトルエンサンプルを集め、その純度をHPLCによって分析した。次いで、高い純度を持つC60PCBMを含有するトルエンサンプルを、物質A(3L)として併合した。
【0077】
次いで、C60PCBMを、ノリットエロリット(Norit Elorit)活性炭を用いて、更に精製した。
【0078】
該物質Aの純度は、HPLCにより分析し、またこのHPLCトレースを図1に示した。図1が示すように、C60PCBMの純度は98.45%であり、TCBM、同定されていないが望ましからぬ化合物、C120PCBM異性体の混合物等の、様々な不純物を含んでいる。初期の実験は、上記粗製溶液がより濃厚である場合に、C60PCBMの、その不純物からの良好な分離が達成できることを示した。従って、該物質Aの体積を、ロータリーエバポレータを用いた蒸発により、3Lから約500mLまで減じた。該物質Aの一回の注入を、約2.54cm(1インチ)のガラスカラム内のトルエン中に詰められた、45gのノリットエロリット(活性炭)に対して行った。全ての物質が該活性炭カラムに首尾よく投入された時点において、該対象とする生成物(C60PCBM)を、トルエンを用いて溶出させた。サンプルの収集は、該溶出液の顕著な色彩の変化または暗色化が観測された時点において開始した。該収集された物質に関する該HPLC分析からの関連する計算値が、無視できる濃度を示すまで、サンプルを、容量1Lの三角フラスコ中に集められた。該注入された物質A由来の2つのサンプルを集め、フラスコ1(1,000mL)およびフラスコ2(650mL)としてラベルを貼って識別した。これらサンプルの純度をHPLCにより分析し、また該HPLCトレースを、夫々図2および図3に示した。これらHPLCトレースは、該フラスコ1内のサンプルが、純度99.92%を持つC60PCBMを含み(図2)、また該フラスコ2内のサンプルが、純度99.84%を持つC60PCBMを含む(図3)ことを示した。
【0079】
活性炭の使用は、上首尾でC60PCBMを不純物から分離し(図1において溶出時間10.5および11.4分を持つピーク)、また更にC60PCBMの大幅な質量減少量を示すことはなかった。図4は、フラスコ1および2内のサンプル、および物質Aに関するHPLCトレースのオーバーレイを示す。図4から明らかな如く、該物質A内に存在するC120PCBM異性体IおよびIIは、活性炭を用いることによって首尾よく除去された。
【0080】
次いで、フラスコ1および2内のサンプルを併合し、ロータリーエバポレータを用いた蒸発によりトルエンを除去して、結晶を得たが、この結晶を更に処理した。7.88gのC60PCBMを得た(ロット番号:JC090122)。この物質(ロット番号:JC090122)中のC60PCBMの純度をHPLCによって分析したところ(図5)、該純度は99.91%であった。
【0081】
実施例2:活性炭を用いた、C60PCBMからの、燃焼法に起因する不純物の除去
多環式芳香族炭化水素(PAHs)は、一般に燃焼法によってC60を製造する際に生成され、PCBMによるC60の誘導体化反応後も依然として存在し得る。該PAH不純物を除去する際の、本発明の活性炭法の有効性を明らかにするために、C60PCBM(7.52g)の本質的に純粋なサンプルを、フルオレン(0.235g)およびピレン(0.251g)(これらフルオレンおよびピレン両者は、燃焼法により得られるフラーレン物質中に見出されるPAHsである)と混合した。トルエン(800mL)を、この固体混合物に添加し、得られた該混合物を一夜攪拌して、該固体物質を溶解させた。45gのノリットエロリット(活性炭)を、径約2,54cm(1インチ)のガラスカラム内に、トルエンを用いて投入した。PAHsを含む該C60PCBM混合物の溶液800mLを、該ノリットエロリットカラムに注入し、該カラムを、トルエンで溶出した。5つの分離単位を採取し、290nmおよび360nm両者において、HPLCにより分析した。図6は、該活性炭を用いた精製前後の、該C60PCBMサンプルに関するHPLCトレースのオーバーレイを示すものである。フルオレンおよびピレンのピーク(溶出時間3分と3.5分との間の、部分的に重なり合っているピーク)は、該活性炭を用いた精製後、該HPLCトレースに関する低い吸光度を示した。図6が示すように、PAHsで汚染されたC60PCBMサンプルを活性炭に通すことにより、C60PCBMの有意な質量減少量を示すことなしに、PAHの含有率の有意な低下をもたらした。即ち、該C60PCBMの質量減少量は、2.9%であった。C60PCBMの純度は、該活性炭を用いた精製によって、93.30%から97.99%まで改善された。該C60PCBMサンプル中に含まれるピレンの割合は、4.53%から1.99%まで減じられた。該C60PCBMサンプル中に含まれるフルオレンの割合は、2.17%から0.02%まで減じられた。図6の結果は、活性炭が、燃焼法によるフラーレン中に通常見られるPAHs、例えばピレンまたはフルオレンを効果的に除去して、高度に純粋なC60PCBMを得るために利用できることを示している。
【0082】
実施例3:活性炭を用いた、C60ビスPCBMからの、燃焼法に起因する不純物の除去
濃度14.8g/LのC60ビス-PCBMのトルエン溶液2L(図7a参照)を、300gのノリットエロリットを含むカラム(径約7.62cm(3インチ)に投入した。該物質の溶出のためにトルエンを使用し、単一の6Lの分離単位を得た(図7b参照)。C60ビス-PCBMオキサイドは、0.29%から0.20%まで減少し;C60PCBMは、0.80%から0.23%まで減少し;PCBMのトシレート(C60PCBM-TS)は、0.69%から0.00%まで低下した。溶出時間6.3分および6.6分において溶出する、2種の未確認であるが、望ましくない化合物は、(夫々)0.78%および0.56%から0.00%まで減少した。C60の含有率は同一であり、0.02%であった。溶出時間9.4分において溶出する、未確認であるが、望ましくない化合物は、0.34%から0.00%まで減少した。該C60ビス-PCBMの全体としての純度は、90.93%から93.91%まで増大した。
【0083】
以上は、本発明の特定の態様を例示したものである。本発明のその他の改良並びに変更は、ここに提示された教示に鑑みれば、当業者には容易に明らかとなるであろう。以上の説明は、本発明を実施する際の例示として意図され、本発明の実施を限定するものではない。本発明の範囲を規定するのは、あらゆる等価物を包含する、添付した特許請求の範囲である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン誘導体を精製する方法であって、
フラーレン誘導体-不純物混合物を、活性炭のカラムに導入する工程;および
溶媒系を用いて該フラーレン誘導体を溶出して、精製された該フラーレン誘導体を得る工程を含み、
該フラーレン誘導体が、フラーレン誘導体またはフラーレン誘導体の混合物であり、
該不純物が、1種またはそれ以上の多環式芳香族炭化水素を含み、かつ
前記フラーレン誘導体-不純物混合物中の約25質量%を越える該多環式芳香族炭化水素が、前記精製後に除去される、
ことを特徴とする、前記フラーレン誘導体の精製方法。
【請求項2】
前記フラーレン誘導体-不純物混合物中の約50質量%を越える前記多環式芳香族炭化水素が、前記精製後に除去される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記フラーレン誘導体-不純物混合物中の約90質量%を越える前記多環式芳香族炭化水素が、前記精製後に除去される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記フラーレン誘導体-不純物混合物中の約95質量%を越える前記多環式芳香族炭化水素が、前記精製後に除去される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記精製後の前記フラーレン誘導体の純度が、97%を越えるものである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記フラーレン誘導体-不純物混合物が、燃焼法により得たフラーレンを、誘導体化することにより得られる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記多環式芳香族炭化水素が、フルオレンまたはピレンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
更に、前記第二の系を前記溶液から取出して、高い純度を持つ前記フラーレン誘導体を得る工程をも含む、請求項1または6記載の方法。
【請求項9】
得られた前記フラーレン誘導体が、5%未満の多環式芳香族炭化水素を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
得られた前記フラーレン誘導体が、1%未満の多環式芳香族炭化水素を含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
得られた前記フラーレン誘導体が、0.1%未満の多環式芳香族炭化水素を含む、請求項8記載の方法。
【請求項12】
得られた前記フラーレン誘導体が、0.01%未満の多環式芳香族炭化水素を含む、請求項8記載の方法。
【請求項13】
精製後に、前記フラーレン誘導体の質量減少量が5%未満である、請求項8記載の方法。
【請求項14】
精製後に、前記フラーレン誘導体の質量減少量が3%未満である、請求項8記載の方法。
【請求項15】
前記フラーレン誘導体-不純物混合物が、フラーレン誘導体化の際の反応混合物を、シリカゲルカラムに通し、第一の溶媒系を使用して該フラーレン誘導体を溶出し、および前記第一の溶媒を除去することにより得られる、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記フラーレン誘導体が、C60誘導体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記C60誘導体が、C60PCBM、ビス-アダクトC60PCBM、トリス-アダクトC60PCBM、テトラ-アダクトC60PCBM、ペンタ-アダクトC60PCBM、ヘキサ-アダクトC60PCBM、C60ThCBM、ビス-アダクトC60ThCBM、トリス-アダクトC60ThCBM、テトラ-アダクトC60ThCBM、ペンタ-アダクトC60ThCBM、ヘキサ-アダクトC60ThCBM、C60モノ-インデンアダクト、C60ビス-インデンアダクト、C60トリス-インデンアダクト、C60テトラ-インデンアダクト、C60ペンタ-インデンアダクト、C60ヘキサ-インデンアダクト、C60モノ-キノジメタンアダクト、C60ビス-キノジメタンアダクト、C60トリス-キノジメタンアダクト、C60テトラ-キノジメタンアダクト、C60ペンタ-キノジメタンアダクト、C60ヘキサ-キノジメタンアダクト、C60モノ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60ビス-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60トリス-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60テトラ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60ペンタ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、C60ヘキサ-(ジメチルアセチレンジカルボキシレート)アダクト、およびこれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種のC60誘導体である請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記C60誘導体が、C60PCBMである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記溶媒系が、ベンゼン、トルエン、o-ジクロロベンゼン、o-キシレン、他のキシレン、クロロベンゼン、トリメチルベンゼン、シクロヘキサン、ナフタレン、メチルナフタレン、クロロナフタレン、任意の他の部分的または完全に置換されたベンゼン、任意の他の部分的または完全に置換されたナフタレン、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される、少なくとも1種の溶媒である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記第二の溶媒系が、トルエンを含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記活性炭が、ノリットエロリットである、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記C60PCBMが、97.5%を越える、98.0%を越える、98.5%を越える、99.0%を越える、99.5%を越える、または99.9%を越える純度にて得られる、請求項18記載の方法。
【請求項23】
前記C60PCBM-不純物混合物が、C60のPCBM誘導体化を通して得られる、請求項18記載の方法。
【請求項24】
前記C60PCBM-不純物混合物が、燃焼法により得たC60のPCBM誘導体化を通して得られ、多環式芳香族炭化水素で汚染されている、請求項18記載の方法。
【請求項25】
前記不純物が、TCBM、C70-PCBM誘導体、C120-PCBM誘導体、他のフラーレン-PCBM誘導体、多環式芳香族炭化水素、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の不純物である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
前記多環式芳香族炭化水素が、フルオレンまたはピレンである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
精製後、前記C60PCBMの質量減少量が、5%未満である、請求項18記載の方法。
【請求項28】
精製後、前記C60PCBMの質量減少量が、3%未満である、請求項18記載の方法。
【請求項29】
前記フラーレン誘導体が、C70誘導体、任意のより高級なフラーレン誘導体、またはこれらの任意の組合せである、請求項1記載の方法。
【請求項30】
前記フラーレン誘導体が、C70-PCBMである、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2012−520826(P2012−520826A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500928(P2012−500928)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/027675
【国際公開番号】WO2010/107924
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(504068384)ナノ−シー,インク. (7)
【Fターム(参考)】