標的分子の検出方法
【課題】標的分子と特異的に結合する核酸を用いて標的分子を検出する場合において、アプタマーと標的分子との結合性に与える影響を与えることなく、標識を用いて高精度に標的分子を検出し得る方法の提供。
【解決手段】標的分子と特異的に結合し得る核酸を用いて標的分子を検出する方法であって、(a)標的分子と、第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、(b)前記工程(a)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、前記標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする標的分子の検出方法。
【解決手段】標的分子と特異的に結合し得る核酸を用いて標的分子を検出する方法であって、(a)標的分子と、第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、(b)前記工程(a)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、前記標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする標的分子の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子と特異的に結合し得るアプタマーを用いて標的分子を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸やタンパク質等の生体分子を検出する場合に、検出対象である標的分子と特異的に結合し得る検出用分子を用いて、当該検出用分子と標的分子との相互作用を利用して検出する方法が一般的に行われている。例えば、標的分子を抗原とする抗体を用いて、免疫比濁法等の凝集法、沈降法、ELISA、イムノクロマト法等の様々な方法により、標的分子の検出が行われている。
【0003】
近年では、検出用分子として、抗体に換えて、標的分子と特異的に結合し得るアプタマーを用いて検出する試みも行われている。アプタマーは、機能性一本鎖核酸であるため、自動核酸合成機等を用いて簡便に合成することが可能であり、かつ、主にタンパク質からなる抗体よりも安定であるという利点を有する。また、設計も比較的容易である。
【0004】
標的分子を検出する場合に、予め、検出用分子を蛍光物質や放射性同位体等を用いて標識しておくことにより、この標識から発されるシグナルを測定し、高精度かつ簡便に検出用分子と複合体を形成している標的分子を検出することができる。アプタマーの標識は、通常、従来から広く行われているPCR用プライマーやプローブの標識と同様に、蛍光物質等の標識物質を核酸に直接結合させることにより行われている。また、標識物質の結合による、アプタマーと標的物質との相互作用に対する影響を抑えるため、アプタマー領域と標識部位との間に適当なリンカーを間に設ける方法も開示されている(例えば、非特許文献1又は2参照。)。
【非特許文献1】三輪佳宏(編集)、羊土社、「蛍光・発光試薬の選び方と使い方」、第60〜61ページ。
【非特許文献2】コマツ(Komatsu, Y.)、外9名、バイオオーガニック・アンド・メディカル・ケミストリー(Bioorganic & Medicinal Chemistry)、2008年、第16巻第2号、第941〜949ページ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光物質等の標識物質をアプタマーに直接標識した場合には、例えアプタマー領域と標識部位との間にリンカーを設けていた場合であっても、標識物質の影響により、標識によりアプタマーと標的分子との結合性が低下しやすいという問題がある。特に、一分子蛍光分析法を利用した場合のように、溶液系で測定する場合には、標的分子とアプタマーとの結合力が著しく低下してしまい、正確な測定が困難となる場合が多い。
【0006】
本発明は、標的分子と特異的に結合する核酸を用いて標的分子を検出する場合において、核酸と標的分子との結合性に与える影響を与えることなく、標識を用いて高精度に標的分子を検出し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、第2の核酸との結合領域を有する第1の核酸と、第1の核酸との結合領域を有しており、かつ標識が付加されている第2の核酸とを用いることにより、アプタマーと標的分子との結合性に与える影響を抑制しつつ、アプタマーと標的分子とを有する複合体を標識することができるため、該標識から発されるシグナルを測定することにより標的分子を高精度に検出し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) 標的分子と特異的に結合し得る核酸を用いて標的分子を検出する方法であって、(a)標的分子と、第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、(b)前記工程(a)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、前記標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする標的分子の検出方法、
(2) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドを含むことを特徴とする前記(1)記載の標的分子の検出方法、
(3) 前記第1の核酸と前記第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が30nM以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の標的分子の検出方法、
(4) 前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が50nM以下であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(5) 前記人工的ヌクレオチドがBridged nucleic acid(BNA)であることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(6) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドと天然型ヌクレオチドが交互に配置されていることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(7) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドのみからなることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(8) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(9) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(10) 前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(11) 前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(12) 前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、5〜30塩基長であることを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(13) 前記第1の核酸において、前記アプタマー領域を挟んで、前記第2の核酸との結合領域の反対側に、当該第2の核酸との結合領域と特異的に結合する領域を有することを特徴とする前記(5)〜(12)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(14) 前記工程(a)が、前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成した後に、前記標的分子を反応させることにより、前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成する工程であることを特徴とする前記(1)〜(13)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(15) 前記工程(a)が、前記第1の核酸と前記標的分子との複合体を形成した後に、前記第2の核酸を反応させることにより、前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成する工程であることを特徴とする前記(1)〜(13)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(16) 前記標識が蛍光標識であり、前記工程(b)における前記標識から発されるシグナルの測定を、一分子蛍光分析法により行うことを特徴とする前記(1)〜(15)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(17) 前記一分子蛍光分析法が蛍光偏光解析法(Fluorescence Intensity Distribution Analysis−polarization;FIDA−PO)であることを特徴とする前記(16)記載の標的分子の検出方法、
(18) 核酸を検出する方法であって、(a’1)第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、(b’1)前記工程(a’1)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、アプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする核酸の検出方法、
(19) 生体内に投与された核酸の体内動態を測定する方法であって、(a’2−1)第1の核酸を生体に投与し、所定時間経過後に生体試料を採取する工程と、(a’2−2)前記工程(a’2−1)で採取された生体試料に、標識が付加されている第2の核酸を添加し、当該生体試料中の第1の核酸との複合体を形成する工程と、(b’2)前記工程(a’2−2)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、アプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする核酸の体内動態測定方法、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の標的分子の検出方法においては、アプタマーと標的分子とからなる複合体を標識するために、アプタマーに対して直接標識を付加する必要がない。このため、本発明の標的分子の検出方法を用いることにより、アプタマーと標的分子との結合性に与える影響を顕著に抑制しつつ、高精度に標的分子を検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願明細書において「標的分子」とは、検出対象となる分子を意味する。本発明における標的分子としては、核酸であってもよく、タンパク質であってもよく、ビタミン類やホルモン等の低分子化合物であってもよい。又、天然に存在する分子であってもよく、医薬品や環境ホルモン等のような人工的に合成された化合物等であってもよい。
【0011】
本願明細書において「核酸」とは、2以上のヌクレオチドがリン酸ジエステル結合して得られるポリヌクレオチド(ヌクレオチド鎖)を意味する。本発明における核酸としては、DNAやRNAのような天然型ヌクレオチド(天然に存在するヌクレオチド)のみからなるものであってもよく、生体試料等に含有されているRNAから逆転写酵素を用いて合成されたcDNA等の合成されたものであってもよく、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドとの両方を含むキメラ鎖であってもよい。また、人工的ヌクレオチドを一部又は全部に含む人工核酸であってもよい。その他、側鎖等がアミノ基等の官能基により修飾されたものであってもよく、タンパク質や低分子化合物等で標識されたものであってもよい。
【0012】
本願明細書において「人工的ヌクレオチド」とは、人工的に合成されたヌクレオチドであって、天然型ヌクレオチドとは構造が異なるが、天然型ヌクレオチドと同様に機能し得るものを意味する。ここで、「天然型ヌクレオチドと同様に機能し得る」とは、天然型ヌクレオチドと同様にリン酸ジエステル結合等によりポリマーを形成することができ、人工的ヌクレオチドを一部又は全部に用いて構成されたPCR用プライマーやプローブは、天然型ヌクレオチドのみを用いて構成されたPCR用プライマーやプローブと同様に鋳型核酸とハイブリダイズし得ることを意味する。
【0013】
このような人工的ヌクレオチドとしては、例えば、Bridged nucleic acid(BNA)や、天然型ヌクレオチドの4’位酸素原子が硫黄原子に置換されているヌクレオチド、天然型リボヌクレオチドの2’位水酸基がメトキシ基に置換されているヌクレオチドやHexitol Nucleic Acid(HNA)、ペプチド核酸(PNA)等が挙げられる。
【0014】
なお、本願明細書において、例えば、「アデニンを塩基にもつヌクレオチド」とは、アデニンを塩基にもつヌクレオチドとヌクレオチド誘導体のいずれであってもよく、アデニンを塩基にもつ天然型のデオキシリボヌクレオチド、アデニンを塩基にもつ天然型のリボヌクレオチド、アデニンを塩基にもつ天然型のヌクレオチドの誘導体、アデニンを塩基にもつ人工的ヌクレオチド等を意味する。
【0015】
本願明細書において「アプタマー」とは、主な構成成分を一本鎖核酸とし、標的分子に対して、高親和性かつ高特異性で結合するすべての分子を意味する。また、主な構成成分である核酸に対して、分解抑制等の機能を向上させるため、メチル基やエチル基、アルデヒド基、カルボニル基等の官能基で修飾したものであってもよく、有機化合物、無機物等を付加したものであってもよい。
【0016】
さらに、本願明細書において「ハイブリッド」とは、上記の核酸の何れかの間に形成される同種間及び異種間の二本鎖を意味し、DNA−DNA、DNA−RNA、RNA−RNA等が含まれる。
【0017】
本発明の標的分子の検出方法は、標的分子と特異的に結合する核酸を用いて標的分子を検出する方法であって、(a)標的分子と、第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、(b)前記工程(a)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、前記標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする。
【0018】
例えば、あるアプタマーが、標識を付加していない未標識の状態で標的分子と強く結合する場合であっても、該アプタマーを、蛍光物質等の標識物質を用いて標識した場合には、この付加された標識物質の影響により、標的分子との結合が弱くなってしまい、正確な測定が困難となる場合がある。
【0019】
これに対して、本発明の標的分子の検出方法は、アプタマーとして機能する第1の核酸と、この第1の核酸と結合する第2の核酸に標識を付加し、標的分子と第1の核酸(アプタマー)と第2の核酸(標識付加核酸)との三者複合体を形成させ、この三者複合体を、第2の核酸が有する標識に基づき検出する。このように、アプタマーに直接標識を付加するのではなく、アプタマーでも標的分子でもない第三の核酸分子に標識を付加し、アプタマーには、該核酸分子と結合するための領域を付加させることにより、付加された標識による、標的分子とアプタマーとの結合性に対する影響を顕著に抑制することができる。このため、標的分子とアプタマー(第1の核酸)のと標識付加核酸(第2の核酸)とは、三者複合体を形成しながらも、標的分子とアプタマーは強く結合することができ、標識を利用することにより、アプタマー(第1の核酸)と標的分子との結合の度合いを非常に正確に計測し解析することが可能となる。
【0020】
本発明の標的分子の検出方法により、このような効果が得られる理由は明らかではないが、標識物質を、標的分子と結合する第1の核酸ではなく、第2の核酸に付加することにより、標的物質が、第1の核酸中のアプタマー領域の立体構造に対して影響を及ぼさず、アプタマー領域の立体構造が変化しないためと推察される。なお、ここで、「立体構造が変化しない」とは、立体構造が、全く変化しないわけではなく、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体の検出及び測定に影響を及ぼさない程度の変化であって、実質的に変化していないことを意味する。
【0021】
本発明の標的分子の検出方法における第1の核酸は、標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、第2の核酸との結合領域を有する核酸である。第1の核酸においては、第2の核酸との結合領域は、アプタマー領域の5’側にあってもよく、3’側にあってもよい。
【0022】
本発明においてアプタマー領域とは、標的分子と特異的に結合するアプタマーとして機能し得る塩基配列を有するポリヌクレオチド領域を意味する。但し、本発明において、特異的に結合するとは、標的分子の検出や精製等に通常用いることができる程度に特異的に結合し得ることを意味し、他の物質等と交差するものであってもよい。
【0023】
アプタマー領域の塩基配列は、公知のアプタマーと同じ塩基配列を有していてもよく、所望の標的分子との結合能を有するように任意に設計したものであってもよい。なお、特定の標的分子と結合し得る特定の三次構造を有する一本鎖核酸の塩基配列は、常法により設計することができる。
【0024】
第1の核酸における第2の核酸との結合領域の塩基配列は、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響が小さいものであれば、特に限定されるものではないが、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることが好ましい。グアニンやシトシン等を塩基にもつヌクレオチドよりも、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響を小さくできることが期待できるためである。中でも、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることがより好ましい。
【0025】
また、第1の核酸における第2の核酸との結合領域の長さは、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響が小さく、かつ第2の核酸との十分な結合性を実現できる長さであれば、特に限定されるものではなく、アプタマー領域の種類等を考慮して適宜決定することができる。例えば、第2の核酸との結合領域の長さが、5〜30塩基長であれば、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響を抑えつつ、第2の核酸との結合性を良好にすることができる。
【0026】
本発明の標的分子の検出方法における第2の核酸は、標識が付加されており、かつ第1の核酸との結合領域を有する核酸である。ここで、第2の核酸に付加される標識としては、物質を検出する際の目印になるもの全てを意味する。具体的には、蛍光標識、発光標識、ラジオアイソトープを用いた標識等、一般的に核酸の標識に用いられるものの中から適宜選択して用いることができる。
【0027】
蛍光標識や発光標識の付加は、第2の核酸に、蛍光物質や化学発光物質、化学発光反応に用いられる酵素等の標識物質を結合させることにより行うことができる。第2の核酸への標識物質の結合は、常法により行うことができる。なお、標識位置は、第1の核酸と第2の核酸が結合した場合に、第2の核酸へ結合させた標識物質によって、第1の核酸と標的分子との結合が損なわれない部位であれば、特に限定されるものではない。例えば、第1の核酸における第2の核酸との結合領域が5’末端側にある場合には、第2の核酸の5’末端側に標識物質を結合させることが好ましい。一方、第1の核酸における第2の核酸との結合領域が3’末端側にある場合には、第2の核酸の3’末端側に標識物質を結合させることが好ましい。一方、ラジオアイソトープを用いた標識は、例えば、H3やP32、C14等のラジオアイソトープを有するヌクレオチドを用いて第2の核酸を合成することにより、行うことができる。
【0028】
標識に用いられる蛍光物質としては、特に限定されるものでなく、核酸等の標識において通常用いられている蛍光物質から適宜選択して用いることができる。このような蛍光物質としては、例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアナート)、フルオレセイン、ローダミン、TAMRA、NBD、TMR(テトラメチルローダミン)等がある。また、標識に用いられる化学発光物質としては、ルミノール等のように無機反応により発光する物質であってもよく、ルシフェリン、セランテラジン等の酵素によって触媒される発光物質であってもよい。さらに、標識に用いられる酵素としては、酵素反応を利用した標的物質の検出等において通常用いられている酵素から適宜選択して用いることができる。このような酵素として、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等がある。本発明における第2の核酸としては、検出感度及び安全性の点から、蛍光標識が付加された核酸であることが好ましい。
【0029】
第2の核酸における第1の核酸との結合領域の塩基配列は、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響が小さいものであれば、特に限定されるものではないが、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることが好ましい。グアニンやシトシン等を塩基にもつヌクレオチドよりも、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響を小さくできることが期待できるためである。中でも、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることがより好ましい。
【0030】
なお、第1の核酸における第2の核酸との結合領域とは、第2の核酸とハイブリダイズし得る領域であり、第2の核酸における第1の核酸との結合領域とは、第1の核酸とハイブリダイズし得る領域である。具体的には、第1の核酸における第2の核酸との結合領域は、第2の核酸における第1の核酸との結合領域と相補性の高い塩基配列を有するポリヌクレオチド領域である。
【0031】
第1の核酸と第2の核酸との結合性は高いことが好ましい。第1の核酸と第2の核酸との結合性が低い場合には、第1の核酸と結合している標的分子の検出感度が低下してしまうおそれがあるためである。また、反応系に標識された遊離の第2の核酸が多く存在している場合には、後の工程(b)における測定時にノイズが大きくなり、測定感度や精度が損なわれるおそれがある。具体的には、第1の核酸と第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が30nM以下であれば、反応系に添加する第1の核酸や第2の核酸の量、標識物質の種類等を適宜調整することにより、十分に標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体を形成させ、この複合体を精度よく検出することができるためである。本発明においては、第1の核酸と第2の核酸とのKd値は、25.8nM以下であることが好ましく、0.1〜25.8nMであることがより好ましく、0.7〜25.8nMであることがさらに好ましい。
【0032】
また、本発明においては、標的分子と第1の核酸と第2の核酸との結合性が高いことも好ましい。具体的には、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とのKd値が50nM以下であれば、非常に精度よく標的分子を検出することができ、定性的な検出のみならず、定量的又は半定量的な検出においてもより信頼性の高い結果を得ることができる。本発明においては、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とのKd値は、20nM以下であることが好ましく、10nM以下であることがより好ましい。
【0033】
第1の核酸と第2の核酸との結合性を十分に高く維持するため、第2の核酸における第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドを含むことが好ましい。人工的ヌクレオチドを含むことにより、天然型ヌクレオチドのみからなる領域よりも、第1の核酸との結合性を高くすることができるためである。本発明においては、特に、第2の核酸における第1の核酸との結合領域が、BNAを含むことが好ましい。BNAは、天然型ヌクレオチドの一部が架橋化された核酸であり、リボース環の2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して結合している架橋された人工的ヌクレオチドであるLocked nucleic acid(LNA)を含む。BNAは、このような架橋構造を有しているため、ポリヌクレオチドにBNAを含ませることにより、該ポリヌクレオチドのDNAやRNAに対する結合能を飛躍的に向上させることができる。
【0034】
本発明においては、第1の核酸と第2の核酸とのKd値を30nM以下にし得る限り、第2の核酸における第1の核酸との結合領域へ含ませる人工的ヌクレオチドの数や配列等は特に限定されるものではない。例えば、天然型ヌクレオチドと人工的ヌクレオチドをランダムに配置してもよく、交互に配置してもよく、天然型ヌクレオチドのみからなる部分と人工的ヌクレオチドのみからなる部分を有するように配置してもよい。また、該領域を構成するヌクレオチドを全て人工的ヌクレオチドとしてもよい。本発明においては、第2の核酸における第1の核酸との結合領域に、天然型ヌクレオチドと人工的ヌクレオチドとが交互に配置されていることが好ましい。人工的ヌクレオチドと天然型ヌクレオチドとの立体構造の差による影響を抑えつつ、第1の核酸との結合性を高めることができるためである。
【0035】
本発明においては、第2の核酸における第1の核酸との結合領域として、例えば、アデニンを塩基にもつ天然型ヌクレオチドと、アデニンを塩基にもつBNAとのみからなる領域や、チミンを塩基にもつ天然型ヌクレオチドと、チミンを塩基にもつBNAとのみからなる領域、ウラシルを塩基にもつ天然型ヌクレオチドと、ウラシルを塩基にもつBNAとのみからなる領域のいずれかであることが好ましい。加えて、BNAと天然型ヌクレオチドが交互に配置されている領域であることがより好ましい。
【0036】
また、第2の核酸における第1の核酸との結合領域が、BNAを含む場合には、第1の核酸は、アプタマー領域を挟んで、第2の核酸との結合領域の反対側に、当該第2の核酸との結合領域と特異的に結合する領域を有していることも好ましい。アプタマー領域を挟んで、互いに相補的な塩基配列からなる領域を有することにより、これらの領域が二本鎖を構成し、第1の核酸はより安定的な分子内ループ構造をとることができ、分子全体の安定性をより改善することができるためである。なお、BNAを有する人工核酸は、DNAやRNAに対する結合能が非常に高いため、この二本鎖の間に侵入し、第2の核酸との結合領域と結合することができる。
【0037】
工程(a)における標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体の形成は、まず、第1の核酸と第2の核酸とを結合させて複合体を形成した後に、標的分子を反応させることにより形成してもよく、第1の核酸と標的分子とを結合させて複合体を形成した後に、第2の核酸を反応させることにより形成してもよい。本発明において用いられる第2の核酸は、第1の核酸のアプタマー領域と標的分子との結合性に対してほとんど影響しないため、第1の核酸と第2の核酸とを先に結合させた場合と、第1の核酸と標的核酸を先に結合させた場合のいずれであっても、良好に標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体を形成することができるためである。
【0038】
本発明においては、第1の核酸と標的核酸とを結合させて複合体を形成させた後、標識が付加された第2の核酸を反応させることができるため、第1の核酸と標的核酸との反応の長期間を要するものや、第1の核酸と標的核酸との反応後測定操作までに待ち時間がある場合等であっても、第2の核酸との反応を測定操作の直前等行うことにより、標識の劣化による問題を回避し、精度の高い検出を行うことができる。例えば、生体中の標的分子を検出する場合には、まず、第1の核酸を生体内へ投与した後、一定時間経過するのを待ち、生体内において標的分子と投与された第1の核酸とを結合させる。所定時間経過後に生体試料を回収し、該生体試料に対して第2の核酸を反応させることにより、該生体試料に含まれている第1の核酸と結合した標的分子を標識し、検出することができる。また、第1の核酸は、標識を付加していないため、生体に投与した場合、例えば、血中や臓器のなかでは、標識に影響されることなく高次構造を保つことが可能となり、正確な体内動態を示すことができるようになる。このように、本発明の標的分子の検出方法を用いることにより、標的分子と、該標的分子と特異的に結合する核酸(本発明における第1の核酸)が結合しているか否かを、in vitroのみならず、in vivoにおいても確認することができる。
【0039】
このように生体中の標的分子を第1の核酸を用いて検出する前に、予め、第1の核酸の体内動態を調べておくことが好ましい。第1の核酸の体内動態は、上述したように、第1の核酸を生体内へ投与した後、所定期間経過後に生体試料を回収し、該生体試料に対して第2の核酸を反応させることにより、該生体試料に含まれている第1の核酸と第2の核酸との複合体を形成させる。この複合体を検出することにより、該生体試料中の第1の核酸を検出することができ、ひいては、第1の核酸の体内動態を測定することができる。
【0040】
形成された標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体は、標識から発されるシグナルを測定することにより、検出することができる。なお、本願明細書において「シグナル」とは、適当な手段により適宜検出・測定可能な信号を意味し、蛍光、放射能、化学発光等が含まれる。例えば、第2の核酸が蛍光物質を用いて標識されていた場合には、形成された複合体に、該蛍光物質の蛍光特性に適した波長の励起光を照射し、第2の核酸が有する蛍光物質から発される蛍光を測定することにより、該複合体を検出することができる。なお、蛍光物質や化学発光物質、化学発光反応に用いられる酵素等の標識物質から発されるそれぞれのシグナルの測定は、公知の測定手段を用いて常法により行うことができる。
【0041】
本発明においては、第2の核酸を蛍光物質で標識し、当該蛍光物質から発される蛍光の測定を、一分子蛍光分析法を用いて行うことにより、形成された標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体を簡便に検出することができる。なお、本願明細書において「一分子蛍光分析法」とは、蛍光相互相関法FCS(Fluorescence correlation spectroscopy)、 蛍光強度分布解析法FIDA (Fluorescence Intensity Distribution Analysis)、 蛍光偏光解析法FIDA−PO(Fluorescence Intensity Distribution Analysis−polarization)のいずれをも意味する。一分子蛍光分析法により測定し解析することにより、標的分子に結合する核酸を固相化したり、別個に標識したりする必要がないため、より生体内に近い環境で、計測及び解析ができるようになる。
【0042】
FCSは、検出された蛍光シグナルから、蛍光分子の並進拡散時間を求める解析法である。並進拡散時間は分子の大きさによって異なるため、分子の相互作用や分解、凝集等の大きさの変化をモニターするために主に用いられている。例えば、複合体を形成している第2の核酸は、複合体を形成していない遊離のものよりも分子の大きさが大きいため、各分子の並進拡散時間を求めることにより、複合体の割合や数量、すなわち、標的分子の割合や数量を求めることができる。
【0043】
FIDAは、蛍光分子の一分子当たりの蛍光強度を求める解析法であり、反応系に蛍光強度が異なる2種類以上の蛍光分子が存在している場合、それぞれの蛍光強度を有する分子の数量及び割合を算出することもできる。このため、例えば、複合体を形成することにより、第2の核酸に標識された蛍光物質の蛍光強度が変化する場合には、各分子の蛍光強度を求めることにより、複合体(すなわち標的分子)の割合や数量を求めることができる。
【0044】
FIDA−POは、FIDAと蛍光偏光解析を複合させた解析法であり、蛍光分子の蛍光偏光度と分子数を求めることができる。例えば、複合体を形成している第2の核酸は、複合体を形成していない遊離のものよりも分子が大きく、回転運動はゆっくりとなるため、蛍光偏光度が大きくなる。そこで、各分子の蛍光偏光度を求めることにより、複合体の割合や数量、すなわち、標的分子の割合や数量を求めることができる。
【0045】
このように、一分子蛍光分析法では、複合体を形成している第2の核酸と、遊離の第2の核酸とでは、一分子当たりの大きさや蛍光強度が異なることを利用して、反応系中の複合体の割合や数量を求めることにより、該複合体を形成している標的分子を検出し得る。また、従来法のように、標的分子と結合するアプタマーに直接標識を付加した場合には、標識済アプタマーの大きさに比べて標的分子の大きさが小さく、遊離の標識済アプタマーと、標的分子と結合した標識済アプタマーとの大きさの差が小さい場合には、FCSやFIDA−POでは、複合体と遊離の標識済アプタマーとの区別ができず、標的分子を正確に検出することはできなかった。これに対して本発明の標的分子の検出方法は、遊離の第2の核酸と、標的分子と第1の核酸と第2の核酸との三者からなる複合体との一分子当たりの大きさの差は、例えば、標識した遊離の第1の核酸と、標識した第1の核酸と標的分子との二者からなる複合体との一分子当たりの大きさの差よりも大きいため、FCSやFIDA−POを用いて、従来法よりもより信頼性の高い測定結果を得ることができる。特に、本発明においては、FIDA−POにより測定し解析することが好ましい。
【0046】
FCS、FIDA、FIDA−PO等の一分子蛍光分析法では、遊離の第2の核酸と、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体と、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体とを、それぞれ区別して検出することが可能である。このため、本発明において、工程(b)における複合体の検出を一分子蛍光分析法を用いて行うことにより、より精度の高い検出が可能となる。特に、測定されたシグナルを2成分解析等により解析することによって、該シグナルを発している複合体が、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体(2者複合体)であるのか、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体(3者複合体)であるのかを区別することもできる。例えば、2者複合体と3者複合体の和に対する3者複合体の割合が、予め定められた所定値(例えば10%)以上である場合には、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とがそれぞれ結合しており、該試料中には標的分子が存在していると判断することができる。このように、本発明の標的分子の検出方法は、一分子蛍光分析法を利用することにより、半定量的に標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体を検出することが可能であるため、標的分子と第1の核酸のKd値を求めることも可能である。
【0047】
その他、FCS、FIDA、FIDA−PO等の一分子蛍光分析法では、2成分解析等により、遊離の第2の核酸と、複合体を形成している第2の核酸とを、それぞれ区別して検出することもできる。なお、ここで、「複合体を形成している第2の核酸」とは、遊離のもの以外の全ての第2の核酸を意味し、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体と標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体のいずれをも含まれる。すなわち、ある試料中に第2の核酸を添加して反応させた後、該試料を一分子蛍光分析により解析することにより、該試料中の遊離の第2の核酸と、複合体を形成している第2の核酸とを、区別して検出することができるため、該試料中の第1の核酸を検出することができる。具体的には、例えば、第1の核酸を生体内へ投与した後、所定期間経過後に生体試料を回収し、該生体試料に対して第2の核酸を反応させる。この生体試料を一分子蛍光分析法により2成分解析することにより、該生体試料に含まれている第1の核酸と第2の核酸との複合体を検出することができる。この複合体を検出することにより、該生体試料中の第1の核酸を検出することができ、ひいては、第1の核酸の体内動態を測定することができる。
【0048】
なお、例えば、第2の核酸の標識に用いる蛍光物質とは蛍光特性の異なる蛍光物質を用いて、予め標的分子を標識しておくことにより、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体を、蛍光相互相関分光法FCCS(Fluorescence cross correlation spectroscopy)を用いて検出し定量することも可能である。
【実施例】
【0049】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、FIDA−POによる計測は、0.05%Tween20含有PBSを測定用バッファーとし、測定容量を30μLとして、MF20(OLYMPUS社製)を用いて行った。計測条件は、10秒間10回、レーザーパワーは100Wで行った。
【0050】
[実施例1]
TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域を有するRNAを用いて、本発明の標的分子の検出方法によりTATタンパク質を検出した。
まず、TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域の5’末端にアデニンを12個付加したRNA(T−アプタマー)と、TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域の5’末端にTAMRA標識を付加したRNA(5TAM−アプタマー)とを合成した。さらに、チミンを塩基とするBNAとチミンを塩基とする天然型リボヌクレオチドとを交互に結合させ15merにしたRNA(BNA1)の5’末端にTAMRA標識を付加したRNA(BNAプローブ)を合成した。すなわち、TATタンパク質を標的分子とし、T−アプタマーは第1の核酸に相当し、BNAプローブは第2の核酸に相当する。また、5TAM−アプタマーは、従来法のアプタマーに直接標識を付加したものである。図1はT−アプタマーの構造を、図2は5TAM−アプタマーの構造を、図3はBNAプローブの構造を、それぞれ模式的に示した図である。図中、星印はTAMRAを示す。また、「T」はチミンを塩基とするBNA(チミン型BNA)を、「t」はチミンを、それぞれ示している。
【0051】
BNAプローブ5nMに対して、T−アプタマー5nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。また、同様にして、5TAM−アプタマー8nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。
測定結果を表1に示す。また、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図4に、BNAプローブとTATタンパク質とを反応させた結果を図5に、5TAM−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図6に、それぞれ示す。
表1及び図4から、TATタンパク質濃度が増加すると蛍光偏光度が増加していることが確認された。これは、TATタンパク質濃度依存的に、反応溶液中の蛍光分子の分子量が増加していることを示し、すなわち、TATタンパク質濃度依存的に、T−アプタマーとTATタンパク質が結合した分子(複合体)が増加していることを示している。
また、表1及び図5から、TATタンパク質の濃度が増加したときでも蛍光偏光度があまり変化しないことが確認された。これは、BNAプローブとTATタンパク質とは、直接には結合していないことを示している。すなわち、図4のT−アプタマーとTATタンパク質との結合が、特異的であることを示している。さらに、TATタンパク質濃度が50nM以下では、蛍光偏光度にほとんど変化が確認されなかったことから、50nM以下の濃度では、粘性の影響をほとんど受けないことが示唆される。
さらに、表1及び図6から、TATタンパク質濃度依存的に蛍光偏光度が増加する傾向が観察されたものの、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた場合よりもはるかに蛍光偏光度の増加の割合は低下した。例えば、TATタンパク質濃度が50nMの場合に0nMの場合と比べた蛍光偏光度の増加量は、図4では129.8であったにもかかわらず、図6では32.4しかなかった。このことは、直接アプタマーに蛍光標識すると、アプタマーと標的分子との結合力が弱くなることを示している。
【0052】
【表1】
【0053】
その後、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質との反応に対して、未標識アプタマー(TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域のみであり、アデニン付加配列を有さないもの)を加えて、阻害アッセイを行った。具体的には、BNAプローブ5nMとT−アプタマー5nMとTATタンパク質25nMとに、未標識アプタマー500nM又は1000nMをそれぞれ添加し、室温で15分間競合反応させ、同様にFIDA−POにて計測を行った。
測定結果を表2及び図7に示す。この結果、未標識アプタマー500nM、1000nMでは、蛍光偏光度がそれぞれ202.2、203.3であったのに対して、未標識アプタマー0nMでは273.0であった。これは、未標識アプタマーにより三者複合体の形成が阻害されたことを示している。これにより、三者複合体は、TATタンパク質と特異的に結合していることが確認された。
【0054】
【表2】
【0055】
[実施例2]
第1の核酸と第2の核酸との結合性の、標的分子の検出に対する影響を調べた。
まず、表3に記載の塩基配列を有するRNAの5’末端にTAMRA標識を付加した2種類のプローブ(BNA7merプローブ及びBNA3merプローブ)と、表3に記載の塩基配列を有するDNAの5’末端にTAMRA標識を付加しプローブ(DNAプローブ)とを合成した。
この3種類のプローブのそれぞれ1nMに対して、実施例1で用いたT−アプタマーを5〜1000nMの範囲で濃度をかえて添加し、室温15分間反応させ、実施例1と同様にしてFIDA−POにて計測を行い、それぞれのKd値を算出した。算出された結果は表3に示す。3種類のプローブのうち、BNA7merプローブがT−アプタマーと最も結合力が強く、次に、BNA3merプローブの結合力が強く、人工的ヌクレオチドを含有しないDNAプローブでは、最も結合力が小さかった。
【0056】
【表3】
【0057】
次に、これらのKd値の異なるプローブを用いて、プローブとT−アプタマーとTATタンパク質との結合状態を確認する実験を行った。BNA7merプローブ、BNA3merプローブ、及びDNAプローブのそれぞれ1nMに対して、T−アプタマー1nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、実施例1と同様にしてFIDA−POにて計測を行った。
測定結果を表4に示す。また、BNA7merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図8に、BNA3merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図9に、DNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図10に、それぞれ示す。
図8、図9に示すように、BNA7merプローブ又はBNA3merプローブを用いた場合には、TATタンパク質濃度依存的に、プローブ、T−アプタマー、TATタンパク質の三者の結合が確認された。BNA7merプローブでは、蛍光偏光度が最高(TATタンパク質濃度50nMのとき)175.5増加した(図8)。一方、BNA3merプローブでは、最高で(TATタンパク質濃度50nMのとき)81.0増加した(図9)。但し、BNA3merプローブでは、TATタンパク質濃度依存的に結合していることが確認されたものの、BNA7merプローブと比較すると、結合力が弱かった。これに対して、DNAプローブでは、T−アプタマー、TATタンパク質との有意な結合は確認されなかった。(図10)。
これらのデータより、T−アプタマーと、蛍光標識したBNAやDNA等のプローブとの結合力が強いほど、すなわち、Kd値が小さいほど、蛍光標識したプローブとTATタンパク質とT−アプタマーの三者複合体の結合度が大きくなることが示された。蛍光標識したプローブとT−アプタマーとの結合力が弱い場合は、T−アプタマーとは結合せずに、単独で溶液中に蛍光標識したプローブが存在し、三者複合体と混在することになる。このため、結合力が小さい場合は、結合力が大きい場合より、分子量の小さな分子の割合が多い状態となる。FIDA−POにて計測する場合、これらの平均で求めるため、結合力が弱い場合は、蛍光偏光度が小さな値となる。
【0058】
【表4】
【0059】
[実施例3]
表3のプローブに加えて、チミン型BNAとチミンの割合をふったプローブを設計し、合わせて表5記載のプローブを合成した。これらの7種類のプローブのT−アプタマーとの結合のKd値を、実施例2と同様にして測定した。さらに、プローブ、T−アプタマー、TATタンパク質の三者の結合のKd値も同様にして測定した。それぞれの測定結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
このうち実施例2と同様にして、BNA2merプローブ、BNA4merプローブ、BNA5merプローブ、及びBNA15merプローブのそれぞれ1nMに対して、T−アプタマー1nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。
この結果、BNA2merプローブではTATタンパク質濃度が50nMの場合にようやく有意な結合が確認できた。これに対して、BNA3merプローブ、BNA4merプローブ、BNA5merプローブ、及びBNA15merプローブを用いた場合には、BNA2merプローブに比べて、結合力が強いことが明らかとなった。特に、BNA4merプローブ、BNA5merプローブ、及びBNA15merプローブでは、BNA7merプローブよりもやや弱いものの、十分に良好な結合が確認できた。
これらの結果から、本発明の標的分子の検出方法においては、第1の核酸と第2の核酸との結合性が重要であること、特に、第1の核酸と第2の核酸との結合におけるKd値が30nM以下程度であれば、良好に標的分子を検出し得ること、特に、標的分子と第1の核酸と第2の核酸との結合が50nM以下程度であればさらに精度よく標的分子を検出し得ることが明らかである。
【0062】
[実施例4]
FIDA−POにて、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体(2者複合体)と、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体(3者複合体)とを区別して検出し、標的分子を検出した。
具体的には、BNA15merプローブ5nMに対して、T−アプタマー5nMとTATタンパク質0〜1000nMとを、それぞれ添加し、実施例1と同様に、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。測定の結果得られたシグナルデータを2成分解析により、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体と、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体との和に対する、それぞれの複合体の割合を算出した。
結果を表6に示す。表中、「Frac.K1[%]」は、BNA15merプローブとT−アプタマーとの2者複合体が存在している割合を示めしており、「Frac.K2[%]」は、BNA15merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質との3者複合体が存在している割合を示している。
これらの結果から明らかであるように、本発明の標的分子の検出方法は、FIDA−PO等の一分子蛍光分析法を利用することにより、半定量的に、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体と、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体とを区別して検出することが可能である。
【0063】
【表6】
【0064】
[実施例5]
TATタンパク質を標的分子とし、TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域の5’末端にアデニンを15個付加し、3’末端にチミンを15個付加したRNA(AT−アプタマー)を第1の核酸とし、チミンを塩基とするBNAとチミンを塩基とする天然型リボヌクレオチドとを交互に結合させ15merにしたRNA(BNA1)の3’末端にTAMRA標識を付加したRNA(3’末端TAMRA標識BNAプローブ)として、本発明の標的分子の検出方法を用いてTATタンパク質の検出を行った。さらに、TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域の3’末端にTAMRA標識を付加したRNA(3TAM−アプタマー)とTATタンパク質との結合も確認した。図11はAT−アプタマーの構造を、図12は3TAM−アプタマーの構造を、それぞれ模式的に示した図である。図中、星印はTAMRAを示す。AT−アプタマーの5’末端のアデニン15merと3’末端のチミン15merは、相補的配列であるため、理論的には相補的に結合し二本鎖を構成している。
【0065】
3’末端TAMRA標識BNAプローブ5nMに対して、AT−アプタマー5nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、実施例1と同様にして、FIDA−POにて計測を行った。また、同様にして、3TAM−アプタマー8nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。
測定結果を表7に示す。また、3’末端TAMRA標識BNAプローブとAT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図13に、3’末端TAMRA標識BNAプローブとTATタンパク質とを反応させた結果を図14に、5TAM−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図15に、それぞれ示す。
表7及び図13から、TATタンパク質濃度依存的に、3’末端TAMRA標識BNAプローブとAT−アプタマーとTATタンパク質が結合した三者複合体が形成されることが確認された。
また、表7及び図14から、3’末端TAMRA標識BNAプローブとTATタンパク質とは、直接には結合せず、非特異結合はしないことが、明らかとなった。同時に、TATタンパク質は、この濃度では、粘性の影響を与えないことが、明らかとなった。
さらに、表7及び図15から、3TAM−アプタマーとTATタンパク質との結合が観察されたものの、その結合は非常に弱いことが明らかとなった。例えば、TATタンパク質濃度が50nMの場合に0nMの場合と比べた蛍光偏光度の増加量は、図13では47.1であったにもかかわらず、図15では9.8しかなかった。このことは、直接アプタマーに蛍光標識すると、アプタマーと標的分子との結合力が弱くなることを示している。
【0066】
【表7】
【0067】
[実施例6]
標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体の形成において、第1の核酸と第2の核酸とを先に結合させた場合と、第1の核酸と標的核酸を先に結合させた場合とを比較した。
まず、BNAプローブ5nMに対して、T−アプタマー5nMを添加して室温15分間反応させ、その後、さらにTATタンパク質50nMを添加して室温15分間反応させたものを試料5Aとした。
一方、TATタンパク質50nMに対して、T−アプタマー5nMを添加して室温15分間反応させ、その後、さらにBNAプローブ5nMを添加して室温15分間反応させたものを試料5Bとした。
また、対照として、BNAプローブ5nMにT−アプタマー5nMを添加して室温15分間反応させたものを試料5Cとし、BNAプローブ5nMにTATタンパク質50nMを添加して室温15分間反応させたものを試料5Dとし、BNAプローブ5nMのみを添加して室温15分間反応させたものを試料5Eとした。
各試料を実施例1と同様にしてFIDA−POにて計測を行った。測定結果を表8に示す。これにより、BNAプローブとT−アプタマーとを先に結合させた後にTATタンパク質を結合させた場合のほうが、TATタンパク質とT−アプタマーとを先に結合させた後にBNAプローブを結合させた場合よりも若干良好ではあるが、両者のいずれの方法であっても良好にBNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質との複合体を形成し得ることが明らかとなった。
【0068】
【表8】
【0069】
[実施例7]
マウスにT−アプタマー(図1)又はAT−アプタマー(図11)を投与し、生体中における濃度変化を調べた。
まず、各アプタマー濃度を調べるための検量線を作成した。具体的には、各濃度のアプタマーとBNAプローブ5nMとを添加して室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。測定の結果を表9に示す。
【0070】
【表9】
【0071】
ここで、BNAプローブとアプタマーのハイブリダイゼーションの反応を、次のような平衡反応であると仮定した。
【0072】
【数1】
【0073】
Kd値、bottom値、top値を定数として、以下の式が成立すると考え、フィッテヒングを行った。なお、式中、yは蛍光偏光度、xは添加したアプタマー濃度[nM]、A0はBNAプローブ初期濃度(2nM)を、それぞれ示す。
【0074】
【数2】
【0075】
フィッティング結果を図16に示す。図16において、横軸のA(nM)はアプタマー濃度を、縦軸のBは蛍光偏光度を示す。また、各点は計測値を示し、曲線は、フィッティングによって得られた検量線を示す。なお、対数グラフ作成の都合上、アプタマー濃度0nMの点は、0.01nMと表記した。該検量線から、Kd=5.2±1.5nMであると予想された。
【0076】
マウスに、T−アプタマー又はAT−アプタマーを、各個体1mg/mL投与し、0、1、8、24、48、72時間ごとに採血を行い、血液中のアプタマー濃度の計測を行った。採取した血液を、0.05%Tween20含有PBSで50倍希釈し、TAMRA標識したBNA7merプローブ5nMを添加して、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。計測結果を図17に示す。
さらに、得られた結果に対して、上記の検量線を元に濃度計算を行い、血液中のアプタマーの濃度を算出した。推定された血中濃度を表10に示す。
このように、本発明において用いられる標的分子と結合する第1の核酸(アプタマー)は、標識が付加されていないため、標識による影響を排除したより正確な体内動態を測定することも可能である。
【0077】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の標的分子の検出方法を用いることにより、アプタマーと標的分子との結合性に与える影響を顕著に抑制しつつ、高精度に標的分子を検出することができるため、特に核酸やタンパク質等の生体分子を検出し解析するような生化学、分子生物学、臨床検査等の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】T−アプタマーの構造を模式的に示した図である。
【図2】5TAM−アプタマーの構造を模式的に示した図である。
【図3】BNAプローブの構造を模式的に示した図である。
【図4】実施例1において、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図5】実施例1において、BNAプローブとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図6】実施例1において、5TAM−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図7】実施例1において、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質との反応に、未標識アプタマーを反応させた阻害アッセイの結果を示した図である。
【図8】実施例2において、BNA7merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図9】実施例2において、BNA3merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図10】実施例2において、DNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図11】AT−アプタマーの構造を模式的に示した図である。
【図12】3TAM−アプタマーの構造を模式的に示した図である。
【図13】実施例5において、3’末端TAMRA標識BNAプローブとAT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図14】実施例5において、3’末端TAMRA標識BNAプローブとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図15】実施例5において、5TAM−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図16】実施例7において作成した、アプタマー濃度の検量線を示した図である。
【図17】実施例7において、血液の50倍希釈液中の各アプタマー濃度の計測結果を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子と特異的に結合し得るアプタマーを用いて標的分子を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸やタンパク質等の生体分子を検出する場合に、検出対象である標的分子と特異的に結合し得る検出用分子を用いて、当該検出用分子と標的分子との相互作用を利用して検出する方法が一般的に行われている。例えば、標的分子を抗原とする抗体を用いて、免疫比濁法等の凝集法、沈降法、ELISA、イムノクロマト法等の様々な方法により、標的分子の検出が行われている。
【0003】
近年では、検出用分子として、抗体に換えて、標的分子と特異的に結合し得るアプタマーを用いて検出する試みも行われている。アプタマーは、機能性一本鎖核酸であるため、自動核酸合成機等を用いて簡便に合成することが可能であり、かつ、主にタンパク質からなる抗体よりも安定であるという利点を有する。また、設計も比較的容易である。
【0004】
標的分子を検出する場合に、予め、検出用分子を蛍光物質や放射性同位体等を用いて標識しておくことにより、この標識から発されるシグナルを測定し、高精度かつ簡便に検出用分子と複合体を形成している標的分子を検出することができる。アプタマーの標識は、通常、従来から広く行われているPCR用プライマーやプローブの標識と同様に、蛍光物質等の標識物質を核酸に直接結合させることにより行われている。また、標識物質の結合による、アプタマーと標的物質との相互作用に対する影響を抑えるため、アプタマー領域と標識部位との間に適当なリンカーを間に設ける方法も開示されている(例えば、非特許文献1又は2参照。)。
【非特許文献1】三輪佳宏(編集)、羊土社、「蛍光・発光試薬の選び方と使い方」、第60〜61ページ。
【非特許文献2】コマツ(Komatsu, Y.)、外9名、バイオオーガニック・アンド・メディカル・ケミストリー(Bioorganic & Medicinal Chemistry)、2008年、第16巻第2号、第941〜949ページ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光物質等の標識物質をアプタマーに直接標識した場合には、例えアプタマー領域と標識部位との間にリンカーを設けていた場合であっても、標識物質の影響により、標識によりアプタマーと標的分子との結合性が低下しやすいという問題がある。特に、一分子蛍光分析法を利用した場合のように、溶液系で測定する場合には、標的分子とアプタマーとの結合力が著しく低下してしまい、正確な測定が困難となる場合が多い。
【0006】
本発明は、標的分子と特異的に結合する核酸を用いて標的分子を検出する場合において、核酸と標的分子との結合性に与える影響を与えることなく、標識を用いて高精度に標的分子を検出し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、第2の核酸との結合領域を有する第1の核酸と、第1の核酸との結合領域を有しており、かつ標識が付加されている第2の核酸とを用いることにより、アプタマーと標的分子との結合性に与える影響を抑制しつつ、アプタマーと標的分子とを有する複合体を標識することができるため、該標識から発されるシグナルを測定することにより標的分子を高精度に検出し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) 標的分子と特異的に結合し得る核酸を用いて標的分子を検出する方法であって、(a)標的分子と、第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、(b)前記工程(a)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、前記標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする標的分子の検出方法、
(2) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドを含むことを特徴とする前記(1)記載の標的分子の検出方法、
(3) 前記第1の核酸と前記第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が30nM以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の標的分子の検出方法、
(4) 前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が50nM以下であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(5) 前記人工的ヌクレオチドがBridged nucleic acid(BNA)であることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(6) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドと天然型ヌクレオチドが交互に配置されていることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(7) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドのみからなることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(8) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(9) 前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(10) 前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(11) 前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(12) 前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、5〜30塩基長であることを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(13) 前記第1の核酸において、前記アプタマー領域を挟んで、前記第2の核酸との結合領域の反対側に、当該第2の核酸との結合領域と特異的に結合する領域を有することを特徴とする前記(5)〜(12)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(14) 前記工程(a)が、前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成した後に、前記標的分子を反応させることにより、前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成する工程であることを特徴とする前記(1)〜(13)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(15) 前記工程(a)が、前記第1の核酸と前記標的分子との複合体を形成した後に、前記第2の核酸を反応させることにより、前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成する工程であることを特徴とする前記(1)〜(13)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(16) 前記標識が蛍光標識であり、前記工程(b)における前記標識から発されるシグナルの測定を、一分子蛍光分析法により行うことを特徴とする前記(1)〜(15)のいずれか記載の標的分子の検出方法、
(17) 前記一分子蛍光分析法が蛍光偏光解析法(Fluorescence Intensity Distribution Analysis−polarization;FIDA−PO)であることを特徴とする前記(16)記載の標的分子の検出方法、
(18) 核酸を検出する方法であって、(a’1)第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、(b’1)前記工程(a’1)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、アプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする核酸の検出方法、
(19) 生体内に投与された核酸の体内動態を測定する方法であって、(a’2−1)第1の核酸を生体に投与し、所定時間経過後に生体試料を採取する工程と、(a’2−2)前記工程(a’2−1)で採取された生体試料に、標識が付加されている第2の核酸を添加し、当該生体試料中の第1の核酸との複合体を形成する工程と、(b’2)前記工程(a’2−2)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、アプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする核酸の体内動態測定方法、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の標的分子の検出方法においては、アプタマーと標的分子とからなる複合体を標識するために、アプタマーに対して直接標識を付加する必要がない。このため、本発明の標的分子の検出方法を用いることにより、アプタマーと標的分子との結合性に与える影響を顕著に抑制しつつ、高精度に標的分子を検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願明細書において「標的分子」とは、検出対象となる分子を意味する。本発明における標的分子としては、核酸であってもよく、タンパク質であってもよく、ビタミン類やホルモン等の低分子化合物であってもよい。又、天然に存在する分子であってもよく、医薬品や環境ホルモン等のような人工的に合成された化合物等であってもよい。
【0011】
本願明細書において「核酸」とは、2以上のヌクレオチドがリン酸ジエステル結合して得られるポリヌクレオチド(ヌクレオチド鎖)を意味する。本発明における核酸としては、DNAやRNAのような天然型ヌクレオチド(天然に存在するヌクレオチド)のみからなるものであってもよく、生体試料等に含有されているRNAから逆転写酵素を用いて合成されたcDNA等の合成されたものであってもよく、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドとの両方を含むキメラ鎖であってもよい。また、人工的ヌクレオチドを一部又は全部に含む人工核酸であってもよい。その他、側鎖等がアミノ基等の官能基により修飾されたものであってもよく、タンパク質や低分子化合物等で標識されたものであってもよい。
【0012】
本願明細書において「人工的ヌクレオチド」とは、人工的に合成されたヌクレオチドであって、天然型ヌクレオチドとは構造が異なるが、天然型ヌクレオチドと同様に機能し得るものを意味する。ここで、「天然型ヌクレオチドと同様に機能し得る」とは、天然型ヌクレオチドと同様にリン酸ジエステル結合等によりポリマーを形成することができ、人工的ヌクレオチドを一部又は全部に用いて構成されたPCR用プライマーやプローブは、天然型ヌクレオチドのみを用いて構成されたPCR用プライマーやプローブと同様に鋳型核酸とハイブリダイズし得ることを意味する。
【0013】
このような人工的ヌクレオチドとしては、例えば、Bridged nucleic acid(BNA)や、天然型ヌクレオチドの4’位酸素原子が硫黄原子に置換されているヌクレオチド、天然型リボヌクレオチドの2’位水酸基がメトキシ基に置換されているヌクレオチドやHexitol Nucleic Acid(HNA)、ペプチド核酸(PNA)等が挙げられる。
【0014】
なお、本願明細書において、例えば、「アデニンを塩基にもつヌクレオチド」とは、アデニンを塩基にもつヌクレオチドとヌクレオチド誘導体のいずれであってもよく、アデニンを塩基にもつ天然型のデオキシリボヌクレオチド、アデニンを塩基にもつ天然型のリボヌクレオチド、アデニンを塩基にもつ天然型のヌクレオチドの誘導体、アデニンを塩基にもつ人工的ヌクレオチド等を意味する。
【0015】
本願明細書において「アプタマー」とは、主な構成成分を一本鎖核酸とし、標的分子に対して、高親和性かつ高特異性で結合するすべての分子を意味する。また、主な構成成分である核酸に対して、分解抑制等の機能を向上させるため、メチル基やエチル基、アルデヒド基、カルボニル基等の官能基で修飾したものであってもよく、有機化合物、無機物等を付加したものであってもよい。
【0016】
さらに、本願明細書において「ハイブリッド」とは、上記の核酸の何れかの間に形成される同種間及び異種間の二本鎖を意味し、DNA−DNA、DNA−RNA、RNA−RNA等が含まれる。
【0017】
本発明の標的分子の検出方法は、標的分子と特異的に結合する核酸を用いて標的分子を検出する方法であって、(a)標的分子と、第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、(b)前記工程(a)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、を有し、前記第1の核酸が、前記標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする。
【0018】
例えば、あるアプタマーが、標識を付加していない未標識の状態で標的分子と強く結合する場合であっても、該アプタマーを、蛍光物質等の標識物質を用いて標識した場合には、この付加された標識物質の影響により、標的分子との結合が弱くなってしまい、正確な測定が困難となる場合がある。
【0019】
これに対して、本発明の標的分子の検出方法は、アプタマーとして機能する第1の核酸と、この第1の核酸と結合する第2の核酸に標識を付加し、標的分子と第1の核酸(アプタマー)と第2の核酸(標識付加核酸)との三者複合体を形成させ、この三者複合体を、第2の核酸が有する標識に基づき検出する。このように、アプタマーに直接標識を付加するのではなく、アプタマーでも標的分子でもない第三の核酸分子に標識を付加し、アプタマーには、該核酸分子と結合するための領域を付加させることにより、付加された標識による、標的分子とアプタマーとの結合性に対する影響を顕著に抑制することができる。このため、標的分子とアプタマー(第1の核酸)のと標識付加核酸(第2の核酸)とは、三者複合体を形成しながらも、標的分子とアプタマーは強く結合することができ、標識を利用することにより、アプタマー(第1の核酸)と標的分子との結合の度合いを非常に正確に計測し解析することが可能となる。
【0020】
本発明の標的分子の検出方法により、このような効果が得られる理由は明らかではないが、標識物質を、標的分子と結合する第1の核酸ではなく、第2の核酸に付加することにより、標的物質が、第1の核酸中のアプタマー領域の立体構造に対して影響を及ぼさず、アプタマー領域の立体構造が変化しないためと推察される。なお、ここで、「立体構造が変化しない」とは、立体構造が、全く変化しないわけではなく、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体の検出及び測定に影響を及ぼさない程度の変化であって、実質的に変化していないことを意味する。
【0021】
本発明の標的分子の検出方法における第1の核酸は、標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、第2の核酸との結合領域を有する核酸である。第1の核酸においては、第2の核酸との結合領域は、アプタマー領域の5’側にあってもよく、3’側にあってもよい。
【0022】
本発明においてアプタマー領域とは、標的分子と特異的に結合するアプタマーとして機能し得る塩基配列を有するポリヌクレオチド領域を意味する。但し、本発明において、特異的に結合するとは、標的分子の検出や精製等に通常用いることができる程度に特異的に結合し得ることを意味し、他の物質等と交差するものであってもよい。
【0023】
アプタマー領域の塩基配列は、公知のアプタマーと同じ塩基配列を有していてもよく、所望の標的分子との結合能を有するように任意に設計したものであってもよい。なお、特定の標的分子と結合し得る特定の三次構造を有する一本鎖核酸の塩基配列は、常法により設計することができる。
【0024】
第1の核酸における第2の核酸との結合領域の塩基配列は、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響が小さいものであれば、特に限定されるものではないが、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることが好ましい。グアニンやシトシン等を塩基にもつヌクレオチドよりも、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響を小さくできることが期待できるためである。中でも、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることがより好ましい。
【0025】
また、第1の核酸における第2の核酸との結合領域の長さは、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響が小さく、かつ第2の核酸との十分な結合性を実現できる長さであれば、特に限定されるものではなく、アプタマー領域の種類等を考慮して適宜決定することができる。例えば、第2の核酸との結合領域の長さが、5〜30塩基長であれば、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響を抑えつつ、第2の核酸との結合性を良好にすることができる。
【0026】
本発明の標的分子の検出方法における第2の核酸は、標識が付加されており、かつ第1の核酸との結合領域を有する核酸である。ここで、第2の核酸に付加される標識としては、物質を検出する際の目印になるもの全てを意味する。具体的には、蛍光標識、発光標識、ラジオアイソトープを用いた標識等、一般的に核酸の標識に用いられるものの中から適宜選択して用いることができる。
【0027】
蛍光標識や発光標識の付加は、第2の核酸に、蛍光物質や化学発光物質、化学発光反応に用いられる酵素等の標識物質を結合させることにより行うことができる。第2の核酸への標識物質の結合は、常法により行うことができる。なお、標識位置は、第1の核酸と第2の核酸が結合した場合に、第2の核酸へ結合させた標識物質によって、第1の核酸と標的分子との結合が損なわれない部位であれば、特に限定されるものではない。例えば、第1の核酸における第2の核酸との結合領域が5’末端側にある場合には、第2の核酸の5’末端側に標識物質を結合させることが好ましい。一方、第1の核酸における第2の核酸との結合領域が3’末端側にある場合には、第2の核酸の3’末端側に標識物質を結合させることが好ましい。一方、ラジオアイソトープを用いた標識は、例えば、H3やP32、C14等のラジオアイソトープを有するヌクレオチドを用いて第2の核酸を合成することにより、行うことができる。
【0028】
標識に用いられる蛍光物質としては、特に限定されるものでなく、核酸等の標識において通常用いられている蛍光物質から適宜選択して用いることができる。このような蛍光物質としては、例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアナート)、フルオレセイン、ローダミン、TAMRA、NBD、TMR(テトラメチルローダミン)等がある。また、標識に用いられる化学発光物質としては、ルミノール等のように無機反応により発光する物質であってもよく、ルシフェリン、セランテラジン等の酵素によって触媒される発光物質であってもよい。さらに、標識に用いられる酵素としては、酵素反応を利用した標的物質の検出等において通常用いられている酵素から適宜選択して用いることができる。このような酵素として、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等がある。本発明における第2の核酸としては、検出感度及び安全性の点から、蛍光標識が付加された核酸であることが好ましい。
【0029】
第2の核酸における第1の核酸との結合領域の塩基配列は、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響が小さいものであれば、特に限定されるものではないが、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることが好ましい。グアニンやシトシン等を塩基にもつヌクレオチドよりも、アプタマー領域と標的分子との結合性に対する影響を小さくできることが期待できるためである。中でも、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることがより好ましい。
【0030】
なお、第1の核酸における第2の核酸との結合領域とは、第2の核酸とハイブリダイズし得る領域であり、第2の核酸における第1の核酸との結合領域とは、第1の核酸とハイブリダイズし得る領域である。具体的には、第1の核酸における第2の核酸との結合領域は、第2の核酸における第1の核酸との結合領域と相補性の高い塩基配列を有するポリヌクレオチド領域である。
【0031】
第1の核酸と第2の核酸との結合性は高いことが好ましい。第1の核酸と第2の核酸との結合性が低い場合には、第1の核酸と結合している標的分子の検出感度が低下してしまうおそれがあるためである。また、反応系に標識された遊離の第2の核酸が多く存在している場合には、後の工程(b)における測定時にノイズが大きくなり、測定感度や精度が損なわれるおそれがある。具体的には、第1の核酸と第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が30nM以下であれば、反応系に添加する第1の核酸や第2の核酸の量、標識物質の種類等を適宜調整することにより、十分に標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体を形成させ、この複合体を精度よく検出することができるためである。本発明においては、第1の核酸と第2の核酸とのKd値は、25.8nM以下であることが好ましく、0.1〜25.8nMであることがより好ましく、0.7〜25.8nMであることがさらに好ましい。
【0032】
また、本発明においては、標的分子と第1の核酸と第2の核酸との結合性が高いことも好ましい。具体的には、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とのKd値が50nM以下であれば、非常に精度よく標的分子を検出することができ、定性的な検出のみならず、定量的又は半定量的な検出においてもより信頼性の高い結果を得ることができる。本発明においては、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とのKd値は、20nM以下であることが好ましく、10nM以下であることがより好ましい。
【0033】
第1の核酸と第2の核酸との結合性を十分に高く維持するため、第2の核酸における第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドを含むことが好ましい。人工的ヌクレオチドを含むことにより、天然型ヌクレオチドのみからなる領域よりも、第1の核酸との結合性を高くすることができるためである。本発明においては、特に、第2の核酸における第1の核酸との結合領域が、BNAを含むことが好ましい。BNAは、天然型ヌクレオチドの一部が架橋化された核酸であり、リボース環の2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して結合している架橋された人工的ヌクレオチドであるLocked nucleic acid(LNA)を含む。BNAは、このような架橋構造を有しているため、ポリヌクレオチドにBNAを含ませることにより、該ポリヌクレオチドのDNAやRNAに対する結合能を飛躍的に向上させることができる。
【0034】
本発明においては、第1の核酸と第2の核酸とのKd値を30nM以下にし得る限り、第2の核酸における第1の核酸との結合領域へ含ませる人工的ヌクレオチドの数や配列等は特に限定されるものではない。例えば、天然型ヌクレオチドと人工的ヌクレオチドをランダムに配置してもよく、交互に配置してもよく、天然型ヌクレオチドのみからなる部分と人工的ヌクレオチドのみからなる部分を有するように配置してもよい。また、該領域を構成するヌクレオチドを全て人工的ヌクレオチドとしてもよい。本発明においては、第2の核酸における第1の核酸との結合領域に、天然型ヌクレオチドと人工的ヌクレオチドとが交互に配置されていることが好ましい。人工的ヌクレオチドと天然型ヌクレオチドとの立体構造の差による影響を抑えつつ、第1の核酸との結合性を高めることができるためである。
【0035】
本発明においては、第2の核酸における第1の核酸との結合領域として、例えば、アデニンを塩基にもつ天然型ヌクレオチドと、アデニンを塩基にもつBNAとのみからなる領域や、チミンを塩基にもつ天然型ヌクレオチドと、チミンを塩基にもつBNAとのみからなる領域、ウラシルを塩基にもつ天然型ヌクレオチドと、ウラシルを塩基にもつBNAとのみからなる領域のいずれかであることが好ましい。加えて、BNAと天然型ヌクレオチドが交互に配置されている領域であることがより好ましい。
【0036】
また、第2の核酸における第1の核酸との結合領域が、BNAを含む場合には、第1の核酸は、アプタマー領域を挟んで、第2の核酸との結合領域の反対側に、当該第2の核酸との結合領域と特異的に結合する領域を有していることも好ましい。アプタマー領域を挟んで、互いに相補的な塩基配列からなる領域を有することにより、これらの領域が二本鎖を構成し、第1の核酸はより安定的な分子内ループ構造をとることができ、分子全体の安定性をより改善することができるためである。なお、BNAを有する人工核酸は、DNAやRNAに対する結合能が非常に高いため、この二本鎖の間に侵入し、第2の核酸との結合領域と結合することができる。
【0037】
工程(a)における標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体の形成は、まず、第1の核酸と第2の核酸とを結合させて複合体を形成した後に、標的分子を反応させることにより形成してもよく、第1の核酸と標的分子とを結合させて複合体を形成した後に、第2の核酸を反応させることにより形成してもよい。本発明において用いられる第2の核酸は、第1の核酸のアプタマー領域と標的分子との結合性に対してほとんど影響しないため、第1の核酸と第2の核酸とを先に結合させた場合と、第1の核酸と標的核酸を先に結合させた場合のいずれであっても、良好に標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体を形成することができるためである。
【0038】
本発明においては、第1の核酸と標的核酸とを結合させて複合体を形成させた後、標識が付加された第2の核酸を反応させることができるため、第1の核酸と標的核酸との反応の長期間を要するものや、第1の核酸と標的核酸との反応後測定操作までに待ち時間がある場合等であっても、第2の核酸との反応を測定操作の直前等行うことにより、標識の劣化による問題を回避し、精度の高い検出を行うことができる。例えば、生体中の標的分子を検出する場合には、まず、第1の核酸を生体内へ投与した後、一定時間経過するのを待ち、生体内において標的分子と投与された第1の核酸とを結合させる。所定時間経過後に生体試料を回収し、該生体試料に対して第2の核酸を反応させることにより、該生体試料に含まれている第1の核酸と結合した標的分子を標識し、検出することができる。また、第1の核酸は、標識を付加していないため、生体に投与した場合、例えば、血中や臓器のなかでは、標識に影響されることなく高次構造を保つことが可能となり、正確な体内動態を示すことができるようになる。このように、本発明の標的分子の検出方法を用いることにより、標的分子と、該標的分子と特異的に結合する核酸(本発明における第1の核酸)が結合しているか否かを、in vitroのみならず、in vivoにおいても確認することができる。
【0039】
このように生体中の標的分子を第1の核酸を用いて検出する前に、予め、第1の核酸の体内動態を調べておくことが好ましい。第1の核酸の体内動態は、上述したように、第1の核酸を生体内へ投与した後、所定期間経過後に生体試料を回収し、該生体試料に対して第2の核酸を反応させることにより、該生体試料に含まれている第1の核酸と第2の核酸との複合体を形成させる。この複合体を検出することにより、該生体試料中の第1の核酸を検出することができ、ひいては、第1の核酸の体内動態を測定することができる。
【0040】
形成された標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体は、標識から発されるシグナルを測定することにより、検出することができる。なお、本願明細書において「シグナル」とは、適当な手段により適宜検出・測定可能な信号を意味し、蛍光、放射能、化学発光等が含まれる。例えば、第2の核酸が蛍光物質を用いて標識されていた場合には、形成された複合体に、該蛍光物質の蛍光特性に適した波長の励起光を照射し、第2の核酸が有する蛍光物質から発される蛍光を測定することにより、該複合体を検出することができる。なお、蛍光物質や化学発光物質、化学発光反応に用いられる酵素等の標識物質から発されるそれぞれのシグナルの測定は、公知の測定手段を用いて常法により行うことができる。
【0041】
本発明においては、第2の核酸を蛍光物質で標識し、当該蛍光物質から発される蛍光の測定を、一分子蛍光分析法を用いて行うことにより、形成された標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体を簡便に検出することができる。なお、本願明細書において「一分子蛍光分析法」とは、蛍光相互相関法FCS(Fluorescence correlation spectroscopy)、 蛍光強度分布解析法FIDA (Fluorescence Intensity Distribution Analysis)、 蛍光偏光解析法FIDA−PO(Fluorescence Intensity Distribution Analysis−polarization)のいずれをも意味する。一分子蛍光分析法により測定し解析することにより、標的分子に結合する核酸を固相化したり、別個に標識したりする必要がないため、より生体内に近い環境で、計測及び解析ができるようになる。
【0042】
FCSは、検出された蛍光シグナルから、蛍光分子の並進拡散時間を求める解析法である。並進拡散時間は分子の大きさによって異なるため、分子の相互作用や分解、凝集等の大きさの変化をモニターするために主に用いられている。例えば、複合体を形成している第2の核酸は、複合体を形成していない遊離のものよりも分子の大きさが大きいため、各分子の並進拡散時間を求めることにより、複合体の割合や数量、すなわち、標的分子の割合や数量を求めることができる。
【0043】
FIDAは、蛍光分子の一分子当たりの蛍光強度を求める解析法であり、反応系に蛍光強度が異なる2種類以上の蛍光分子が存在している場合、それぞれの蛍光強度を有する分子の数量及び割合を算出することもできる。このため、例えば、複合体を形成することにより、第2の核酸に標識された蛍光物質の蛍光強度が変化する場合には、各分子の蛍光強度を求めることにより、複合体(すなわち標的分子)の割合や数量を求めることができる。
【0044】
FIDA−POは、FIDAと蛍光偏光解析を複合させた解析法であり、蛍光分子の蛍光偏光度と分子数を求めることができる。例えば、複合体を形成している第2の核酸は、複合体を形成していない遊離のものよりも分子が大きく、回転運動はゆっくりとなるため、蛍光偏光度が大きくなる。そこで、各分子の蛍光偏光度を求めることにより、複合体の割合や数量、すなわち、標的分子の割合や数量を求めることができる。
【0045】
このように、一分子蛍光分析法では、複合体を形成している第2の核酸と、遊離の第2の核酸とでは、一分子当たりの大きさや蛍光強度が異なることを利用して、反応系中の複合体の割合や数量を求めることにより、該複合体を形成している標的分子を検出し得る。また、従来法のように、標的分子と結合するアプタマーに直接標識を付加した場合には、標識済アプタマーの大きさに比べて標的分子の大きさが小さく、遊離の標識済アプタマーと、標的分子と結合した標識済アプタマーとの大きさの差が小さい場合には、FCSやFIDA−POでは、複合体と遊離の標識済アプタマーとの区別ができず、標的分子を正確に検出することはできなかった。これに対して本発明の標的分子の検出方法は、遊離の第2の核酸と、標的分子と第1の核酸と第2の核酸との三者からなる複合体との一分子当たりの大きさの差は、例えば、標識した遊離の第1の核酸と、標識した第1の核酸と標的分子との二者からなる複合体との一分子当たりの大きさの差よりも大きいため、FCSやFIDA−POを用いて、従来法よりもより信頼性の高い測定結果を得ることができる。特に、本発明においては、FIDA−POにより測定し解析することが好ましい。
【0046】
FCS、FIDA、FIDA−PO等の一分子蛍光分析法では、遊離の第2の核酸と、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体と、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体とを、それぞれ区別して検出することが可能である。このため、本発明において、工程(b)における複合体の検出を一分子蛍光分析法を用いて行うことにより、より精度の高い検出が可能となる。特に、測定されたシグナルを2成分解析等により解析することによって、該シグナルを発している複合体が、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体(2者複合体)であるのか、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体(3者複合体)であるのかを区別することもできる。例えば、2者複合体と3者複合体の和に対する3者複合体の割合が、予め定められた所定値(例えば10%)以上である場合には、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とがそれぞれ結合しており、該試料中には標的分子が存在していると判断することができる。このように、本発明の標的分子の検出方法は、一分子蛍光分析法を利用することにより、半定量的に標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体を検出することが可能であるため、標的分子と第1の核酸のKd値を求めることも可能である。
【0047】
その他、FCS、FIDA、FIDA−PO等の一分子蛍光分析法では、2成分解析等により、遊離の第2の核酸と、複合体を形成している第2の核酸とを、それぞれ区別して検出することもできる。なお、ここで、「複合体を形成している第2の核酸」とは、遊離のもの以外の全ての第2の核酸を意味し、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体と標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体のいずれをも含まれる。すなわち、ある試料中に第2の核酸を添加して反応させた後、該試料を一分子蛍光分析により解析することにより、該試料中の遊離の第2の核酸と、複合体を形成している第2の核酸とを、区別して検出することができるため、該試料中の第1の核酸を検出することができる。具体的には、例えば、第1の核酸を生体内へ投与した後、所定期間経過後に生体試料を回収し、該生体試料に対して第2の核酸を反応させる。この生体試料を一分子蛍光分析法により2成分解析することにより、該生体試料に含まれている第1の核酸と第2の核酸との複合体を検出することができる。この複合体を検出することにより、該生体試料中の第1の核酸を検出することができ、ひいては、第1の核酸の体内動態を測定することができる。
【0048】
なお、例えば、第2の核酸の標識に用いる蛍光物質とは蛍光特性の異なる蛍光物質を用いて、予め標的分子を標識しておくことにより、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体を、蛍光相互相関分光法FCCS(Fluorescence cross correlation spectroscopy)を用いて検出し定量することも可能である。
【実施例】
【0049】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、FIDA−POによる計測は、0.05%Tween20含有PBSを測定用バッファーとし、測定容量を30μLとして、MF20(OLYMPUS社製)を用いて行った。計測条件は、10秒間10回、レーザーパワーは100Wで行った。
【0050】
[実施例1]
TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域を有するRNAを用いて、本発明の標的分子の検出方法によりTATタンパク質を検出した。
まず、TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域の5’末端にアデニンを12個付加したRNA(T−アプタマー)と、TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域の5’末端にTAMRA標識を付加したRNA(5TAM−アプタマー)とを合成した。さらに、チミンを塩基とするBNAとチミンを塩基とする天然型リボヌクレオチドとを交互に結合させ15merにしたRNA(BNA1)の5’末端にTAMRA標識を付加したRNA(BNAプローブ)を合成した。すなわち、TATタンパク質を標的分子とし、T−アプタマーは第1の核酸に相当し、BNAプローブは第2の核酸に相当する。また、5TAM−アプタマーは、従来法のアプタマーに直接標識を付加したものである。図1はT−アプタマーの構造を、図2は5TAM−アプタマーの構造を、図3はBNAプローブの構造を、それぞれ模式的に示した図である。図中、星印はTAMRAを示す。また、「T」はチミンを塩基とするBNA(チミン型BNA)を、「t」はチミンを、それぞれ示している。
【0051】
BNAプローブ5nMに対して、T−アプタマー5nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。また、同様にして、5TAM−アプタマー8nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。
測定結果を表1に示す。また、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図4に、BNAプローブとTATタンパク質とを反応させた結果を図5に、5TAM−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図6に、それぞれ示す。
表1及び図4から、TATタンパク質濃度が増加すると蛍光偏光度が増加していることが確認された。これは、TATタンパク質濃度依存的に、反応溶液中の蛍光分子の分子量が増加していることを示し、すなわち、TATタンパク質濃度依存的に、T−アプタマーとTATタンパク質が結合した分子(複合体)が増加していることを示している。
また、表1及び図5から、TATタンパク質の濃度が増加したときでも蛍光偏光度があまり変化しないことが確認された。これは、BNAプローブとTATタンパク質とは、直接には結合していないことを示している。すなわち、図4のT−アプタマーとTATタンパク質との結合が、特異的であることを示している。さらに、TATタンパク質濃度が50nM以下では、蛍光偏光度にほとんど変化が確認されなかったことから、50nM以下の濃度では、粘性の影響をほとんど受けないことが示唆される。
さらに、表1及び図6から、TATタンパク質濃度依存的に蛍光偏光度が増加する傾向が観察されたものの、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた場合よりもはるかに蛍光偏光度の増加の割合は低下した。例えば、TATタンパク質濃度が50nMの場合に0nMの場合と比べた蛍光偏光度の増加量は、図4では129.8であったにもかかわらず、図6では32.4しかなかった。このことは、直接アプタマーに蛍光標識すると、アプタマーと標的分子との結合力が弱くなることを示している。
【0052】
【表1】
【0053】
その後、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質との反応に対して、未標識アプタマー(TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域のみであり、アデニン付加配列を有さないもの)を加えて、阻害アッセイを行った。具体的には、BNAプローブ5nMとT−アプタマー5nMとTATタンパク質25nMとに、未標識アプタマー500nM又は1000nMをそれぞれ添加し、室温で15分間競合反応させ、同様にFIDA−POにて計測を行った。
測定結果を表2及び図7に示す。この結果、未標識アプタマー500nM、1000nMでは、蛍光偏光度がそれぞれ202.2、203.3であったのに対して、未標識アプタマー0nMでは273.0であった。これは、未標識アプタマーにより三者複合体の形成が阻害されたことを示している。これにより、三者複合体は、TATタンパク質と特異的に結合していることが確認された。
【0054】
【表2】
【0055】
[実施例2]
第1の核酸と第2の核酸との結合性の、標的分子の検出に対する影響を調べた。
まず、表3に記載の塩基配列を有するRNAの5’末端にTAMRA標識を付加した2種類のプローブ(BNA7merプローブ及びBNA3merプローブ)と、表3に記載の塩基配列を有するDNAの5’末端にTAMRA標識を付加しプローブ(DNAプローブ)とを合成した。
この3種類のプローブのそれぞれ1nMに対して、実施例1で用いたT−アプタマーを5〜1000nMの範囲で濃度をかえて添加し、室温15分間反応させ、実施例1と同様にしてFIDA−POにて計測を行い、それぞれのKd値を算出した。算出された結果は表3に示す。3種類のプローブのうち、BNA7merプローブがT−アプタマーと最も結合力が強く、次に、BNA3merプローブの結合力が強く、人工的ヌクレオチドを含有しないDNAプローブでは、最も結合力が小さかった。
【0056】
【表3】
【0057】
次に、これらのKd値の異なるプローブを用いて、プローブとT−アプタマーとTATタンパク質との結合状態を確認する実験を行った。BNA7merプローブ、BNA3merプローブ、及びDNAプローブのそれぞれ1nMに対して、T−アプタマー1nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、実施例1と同様にしてFIDA−POにて計測を行った。
測定結果を表4に示す。また、BNA7merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図8に、BNA3merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図9に、DNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図10に、それぞれ示す。
図8、図9に示すように、BNA7merプローブ又はBNA3merプローブを用いた場合には、TATタンパク質濃度依存的に、プローブ、T−アプタマー、TATタンパク質の三者の結合が確認された。BNA7merプローブでは、蛍光偏光度が最高(TATタンパク質濃度50nMのとき)175.5増加した(図8)。一方、BNA3merプローブでは、最高で(TATタンパク質濃度50nMのとき)81.0増加した(図9)。但し、BNA3merプローブでは、TATタンパク質濃度依存的に結合していることが確認されたものの、BNA7merプローブと比較すると、結合力が弱かった。これに対して、DNAプローブでは、T−アプタマー、TATタンパク質との有意な結合は確認されなかった。(図10)。
これらのデータより、T−アプタマーと、蛍光標識したBNAやDNA等のプローブとの結合力が強いほど、すなわち、Kd値が小さいほど、蛍光標識したプローブとTATタンパク質とT−アプタマーの三者複合体の結合度が大きくなることが示された。蛍光標識したプローブとT−アプタマーとの結合力が弱い場合は、T−アプタマーとは結合せずに、単独で溶液中に蛍光標識したプローブが存在し、三者複合体と混在することになる。このため、結合力が小さい場合は、結合力が大きい場合より、分子量の小さな分子の割合が多い状態となる。FIDA−POにて計測する場合、これらの平均で求めるため、結合力が弱い場合は、蛍光偏光度が小さな値となる。
【0058】
【表4】
【0059】
[実施例3]
表3のプローブに加えて、チミン型BNAとチミンの割合をふったプローブを設計し、合わせて表5記載のプローブを合成した。これらの7種類のプローブのT−アプタマーとの結合のKd値を、実施例2と同様にして測定した。さらに、プローブ、T−アプタマー、TATタンパク質の三者の結合のKd値も同様にして測定した。それぞれの測定結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
このうち実施例2と同様にして、BNA2merプローブ、BNA4merプローブ、BNA5merプローブ、及びBNA15merプローブのそれぞれ1nMに対して、T−アプタマー1nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。
この結果、BNA2merプローブではTATタンパク質濃度が50nMの場合にようやく有意な結合が確認できた。これに対して、BNA3merプローブ、BNA4merプローブ、BNA5merプローブ、及びBNA15merプローブを用いた場合には、BNA2merプローブに比べて、結合力が強いことが明らかとなった。特に、BNA4merプローブ、BNA5merプローブ、及びBNA15merプローブでは、BNA7merプローブよりもやや弱いものの、十分に良好な結合が確認できた。
これらの結果から、本発明の標的分子の検出方法においては、第1の核酸と第2の核酸との結合性が重要であること、特に、第1の核酸と第2の核酸との結合におけるKd値が30nM以下程度であれば、良好に標的分子を検出し得ること、特に、標的分子と第1の核酸と第2の核酸との結合が50nM以下程度であればさらに精度よく標的分子を検出し得ることが明らかである。
【0062】
[実施例4]
FIDA−POにて、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体(2者複合体)と、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体(3者複合体)とを区別して検出し、標的分子を検出した。
具体的には、BNA15merプローブ5nMに対して、T−アプタマー5nMとTATタンパク質0〜1000nMとを、それぞれ添加し、実施例1と同様に、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。測定の結果得られたシグナルデータを2成分解析により、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体と、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体との和に対する、それぞれの複合体の割合を算出した。
結果を表6に示す。表中、「Frac.K1[%]」は、BNA15merプローブとT−アプタマーとの2者複合体が存在している割合を示めしており、「Frac.K2[%]」は、BNA15merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質との3者複合体が存在している割合を示している。
これらの結果から明らかであるように、本発明の標的分子の検出方法は、FIDA−PO等の一分子蛍光分析法を利用することにより、半定量的に、標的分子と第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体と、第1の核酸と第2の核酸とからなる複合体とを区別して検出することが可能である。
【0063】
【表6】
【0064】
[実施例5]
TATタンパク質を標的分子とし、TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域の5’末端にアデニンを15個付加し、3’末端にチミンを15個付加したRNA(AT−アプタマー)を第1の核酸とし、チミンを塩基とするBNAとチミンを塩基とする天然型リボヌクレオチドとを交互に結合させ15merにしたRNA(BNA1)の3’末端にTAMRA標識を付加したRNA(3’末端TAMRA標識BNAプローブ)として、本発明の標的分子の検出方法を用いてTATタンパク質の検出を行った。さらに、TATタンパク質と特異的に結合するアプタマー領域の3’末端にTAMRA標識を付加したRNA(3TAM−アプタマー)とTATタンパク質との結合も確認した。図11はAT−アプタマーの構造を、図12は3TAM−アプタマーの構造を、それぞれ模式的に示した図である。図中、星印はTAMRAを示す。AT−アプタマーの5’末端のアデニン15merと3’末端のチミン15merは、相補的配列であるため、理論的には相補的に結合し二本鎖を構成している。
【0065】
3’末端TAMRA標識BNAプローブ5nMに対して、AT−アプタマー5nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、実施例1と同様にして、FIDA−POにて計測を行った。また、同様にして、3TAM−アプタマー8nMとTATタンパク質0〜50nMとを、それぞれ添加し、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。
測定結果を表7に示す。また、3’末端TAMRA標識BNAプローブとAT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図13に、3’末端TAMRA標識BNAプローブとTATタンパク質とを反応させた結果を図14に、5TAM−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を図15に、それぞれ示す。
表7及び図13から、TATタンパク質濃度依存的に、3’末端TAMRA標識BNAプローブとAT−アプタマーとTATタンパク質が結合した三者複合体が形成されることが確認された。
また、表7及び図14から、3’末端TAMRA標識BNAプローブとTATタンパク質とは、直接には結合せず、非特異結合はしないことが、明らかとなった。同時に、TATタンパク質は、この濃度では、粘性の影響を与えないことが、明らかとなった。
さらに、表7及び図15から、3TAM−アプタマーとTATタンパク質との結合が観察されたものの、その結合は非常に弱いことが明らかとなった。例えば、TATタンパク質濃度が50nMの場合に0nMの場合と比べた蛍光偏光度の増加量は、図13では47.1であったにもかかわらず、図15では9.8しかなかった。このことは、直接アプタマーに蛍光標識すると、アプタマーと標的分子との結合力が弱くなることを示している。
【0066】
【表7】
【0067】
[実施例6]
標的分子と第1の核酸と第2の核酸との複合体の形成において、第1の核酸と第2の核酸とを先に結合させた場合と、第1の核酸と標的核酸を先に結合させた場合とを比較した。
まず、BNAプローブ5nMに対して、T−アプタマー5nMを添加して室温15分間反応させ、その後、さらにTATタンパク質50nMを添加して室温15分間反応させたものを試料5Aとした。
一方、TATタンパク質50nMに対して、T−アプタマー5nMを添加して室温15分間反応させ、その後、さらにBNAプローブ5nMを添加して室温15分間反応させたものを試料5Bとした。
また、対照として、BNAプローブ5nMにT−アプタマー5nMを添加して室温15分間反応させたものを試料5Cとし、BNAプローブ5nMにTATタンパク質50nMを添加して室温15分間反応させたものを試料5Dとし、BNAプローブ5nMのみを添加して室温15分間反応させたものを試料5Eとした。
各試料を実施例1と同様にしてFIDA−POにて計測を行った。測定結果を表8に示す。これにより、BNAプローブとT−アプタマーとを先に結合させた後にTATタンパク質を結合させた場合のほうが、TATタンパク質とT−アプタマーとを先に結合させた後にBNAプローブを結合させた場合よりも若干良好ではあるが、両者のいずれの方法であっても良好にBNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質との複合体を形成し得ることが明らかとなった。
【0068】
【表8】
【0069】
[実施例7]
マウスにT−アプタマー(図1)又はAT−アプタマー(図11)を投与し、生体中における濃度変化を調べた。
まず、各アプタマー濃度を調べるための検量線を作成した。具体的には、各濃度のアプタマーとBNAプローブ5nMとを添加して室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。測定の結果を表9に示す。
【0070】
【表9】
【0071】
ここで、BNAプローブとアプタマーのハイブリダイゼーションの反応を、次のような平衡反応であると仮定した。
【0072】
【数1】
【0073】
Kd値、bottom値、top値を定数として、以下の式が成立すると考え、フィッテヒングを行った。なお、式中、yは蛍光偏光度、xは添加したアプタマー濃度[nM]、A0はBNAプローブ初期濃度(2nM)を、それぞれ示す。
【0074】
【数2】
【0075】
フィッティング結果を図16に示す。図16において、横軸のA(nM)はアプタマー濃度を、縦軸のBは蛍光偏光度を示す。また、各点は計測値を示し、曲線は、フィッティングによって得られた検量線を示す。なお、対数グラフ作成の都合上、アプタマー濃度0nMの点は、0.01nMと表記した。該検量線から、Kd=5.2±1.5nMであると予想された。
【0076】
マウスに、T−アプタマー又はAT−アプタマーを、各個体1mg/mL投与し、0、1、8、24、48、72時間ごとに採血を行い、血液中のアプタマー濃度の計測を行った。採取した血液を、0.05%Tween20含有PBSで50倍希釈し、TAMRA標識したBNA7merプローブ5nMを添加して、室温15分間反応させ、FIDA−POにて計測を行った。計測結果を図17に示す。
さらに、得られた結果に対して、上記の検量線を元に濃度計算を行い、血液中のアプタマーの濃度を算出した。推定された血中濃度を表10に示す。
このように、本発明において用いられる標的分子と結合する第1の核酸(アプタマー)は、標識が付加されていないため、標識による影響を排除したより正確な体内動態を測定することも可能である。
【0077】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の標的分子の検出方法を用いることにより、アプタマーと標的分子との結合性に与える影響を顕著に抑制しつつ、高精度に標的分子を検出することができるため、特に核酸やタンパク質等の生体分子を検出し解析するような生化学、分子生物学、臨床検査等の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】T−アプタマーの構造を模式的に示した図である。
【図2】5TAM−アプタマーの構造を模式的に示した図である。
【図3】BNAプローブの構造を模式的に示した図である。
【図4】実施例1において、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図5】実施例1において、BNAプローブとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図6】実施例1において、5TAM−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図7】実施例1において、BNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質との反応に、未標識アプタマーを反応させた阻害アッセイの結果を示した図である。
【図8】実施例2において、BNA7merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図9】実施例2において、BNA3merプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図10】実施例2において、DNAプローブとT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図11】AT−アプタマーの構造を模式的に示した図である。
【図12】3TAM−アプタマーの構造を模式的に示した図である。
【図13】実施例5において、3’末端TAMRA標識BNAプローブとAT−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図14】実施例5において、3’末端TAMRA標識BNAプローブとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図15】実施例5において、5TAM−アプタマーとTATタンパク質とを反応させた結果を示した図である。
【図16】実施例7において作成した、アプタマー濃度の検量線を示した図である。
【図17】実施例7において、血液の50倍希釈液中の各アプタマー濃度の計測結果を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子と特異的に結合し得る核酸を用いて標的分子を検出する方法であって、
(a)標的分子と、第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、
(b)前記工程(a)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、
を有し、
前記第1の核酸が、前記標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、
前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする標的分子の検出方法。
【請求項2】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項1記載の標的分子の検出方法。
【請求項3】
前記第1の核酸と前記第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が30nM以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の標的分子の検出方法。
【請求項4】
前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が50nM以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項5】
前記人工的ヌクレオチドがBridged nucleic acid(BNA)であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項6】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドと天然型ヌクレオチドが交互に配置されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項7】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドのみからなることを特徴とする請求項2〜6のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項8】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項9】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項10】
前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項11】
前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項12】
前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、5〜30塩基長であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項13】
前記第1の核酸において、前記アプタマー領域を挟んで、前記第2の核酸との結合領域の反対側に、当該第2の核酸との結合領域と特異的に結合する領域を有することを特徴とする請求項5〜12のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項14】
前記工程(a)が、前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成した後に、前記標的分子を反応させることにより、前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成する工程であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項15】
前記工程(a)が、前記第1の核酸と前記標的分子との複合体を形成した後に、前記第2の核酸を反応させることにより、前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成する工程であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項16】
前記標識が蛍光標識であり、前記工程(b)における前記標識から発されるシグナルの測定を、一分子蛍光分析法により行うことを特徴とする請求項1〜15のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項17】
前記一分子蛍光分析法が蛍光偏光解析法(Fluorescence Intensity Distribution Analysis−polarization;FIDA−PO)であることを特徴とする請求項16記載の標的分子の検出方法。
【請求項18】
核酸を検出する方法であって、
(a’1)第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、
(b’1)前記工程(a’1)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、
を有し、
前記第1の核酸が、アプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、
前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする核酸の検出方法。
【請求項19】
生体内に投与された核酸の体内動態を測定する方法であって、
(a’2−1)第1の核酸を生体に投与し、所定時間経過後に生体試料を採取する工程と、
(a’2−2)前記工程(a’2−1)で採取された生体試料に、標識が付加されている第2の核酸を添加し、当該生体試料中の第1の核酸との複合体を形成する工程と、
(b’2)前記工程(a’2−2)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、
を有し、
前記第1の核酸が、アプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、
前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする核酸の体内動態測定方法。
【請求項1】
標的分子と特異的に結合し得る核酸を用いて標的分子を検出する方法であって、
(a)標的分子と、第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、
(b)前記工程(a)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、
を有し、
前記第1の核酸が、前記標的分子と特異的に結合するアプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、
前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする標的分子の検出方法。
【請求項2】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項1記載の標的分子の検出方法。
【請求項3】
前記第1の核酸と前記第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が30nM以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の標的分子の検出方法。
【請求項4】
前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸とのKd値(平衡解離定数)が50nM以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項5】
前記人工的ヌクレオチドがBridged nucleic acid(BNA)であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項6】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドと天然型ヌクレオチドが交互に配置されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項7】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、人工的ヌクレオチドのみからなることを特徴とする請求項2〜6のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項8】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項9】
前記第2の核酸における前記第1の核酸との結合領域が、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項10】
前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、アデニンを塩基にもつヌクレオチド、チミンを塩基にもつヌクレオチド、及びウラシルを塩基にもつヌクレオチドからなる群より選択される1以上のヌクレオチドのみからなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項11】
前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、アデニンヌクレオチドのみからなる領域、チミンヌクレオチドのみからなる領域、又はウラシルヌクレオチドのみからなる領域であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項12】
前記第1の核酸における前記第2の核酸との結合領域が、5〜30塩基長であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項13】
前記第1の核酸において、前記アプタマー領域を挟んで、前記第2の核酸との結合領域の反対側に、当該第2の核酸との結合領域と特異的に結合する領域を有することを特徴とする請求項5〜12のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項14】
前記工程(a)が、前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成した後に、前記標的分子を反応させることにより、前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成する工程であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項15】
前記工程(a)が、前記第1の核酸と前記標的分子との複合体を形成した後に、前記第2の核酸を反応させることにより、前記標的分子と前記第1の核酸と前記第2の核酸との複合体を形成する工程であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項16】
前記標識が蛍光標識であり、前記工程(b)における前記標識から発されるシグナルの測定を、一分子蛍光分析法により行うことを特徴とする請求項1〜15のいずれか記載の標的分子の検出方法。
【請求項17】
前記一分子蛍光分析法が蛍光偏光解析法(Fluorescence Intensity Distribution Analysis−polarization;FIDA−PO)であることを特徴とする請求項16記載の標的分子の検出方法。
【請求項18】
核酸を検出する方法であって、
(a’1)第1の核酸と、標識が付加されている第2の核酸との複合体を形成する工程と、
(b’1)前記工程(a’1)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、
を有し、
前記第1の核酸が、アプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、
前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする核酸の検出方法。
【請求項19】
生体内に投与された核酸の体内動態を測定する方法であって、
(a’2−1)第1の核酸を生体に投与し、所定時間経過後に生体試料を採取する工程と、
(a’2−2)前記工程(a’2−1)で採取された生体試料に、標識が付加されている第2の核酸を添加し、当該生体試料中の第1の核酸との複合体を形成する工程と、
(b’2)前記工程(a’2−2)において形成された複合体を、前記標識から発されるシグナルを測定することにより、検出する工程と、
を有し、
前記第1の核酸が、アプタマー領域と、前記第2の核酸との結合領域を有しており、
前記第2の核酸が、前記第1の核酸との結合領域を有していることを特徴とする核酸の体内動態測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−41951(P2010−41951A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207287(P2008−207287)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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