説明

標的化アテローム性動脈硬化症治療法

本発明は、概してアテローム性動脈硬化症の少なくとも一つの症状または局面を改善する方法に関する。本方法は、治療薬にアテローム斑に関連する組織を標的とさせる際に有効な標的指向リガンドに結合された、アテローム性動脈硬化症の少なくとも一つの局面を改善するのに有効な治療薬を含む、標的化担体組成物の投与を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、アテローム性動脈硬化症の治療法、特に一次および二次予防戦略におけるアテローム斑の治療法に関する。これは特に、アテローム性動脈硬化症の少なくとも一つの局面を改善する際に有効な治療薬を含み、薬剤にアテローム斑を標的とさせる際に有効な標的指向リガンドを含む、標的化担体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
西洋における年間死亡率の大部分はアテローム性動脈硬化症によるもので、これは脳血管障害または心筋梗塞として現れることが多い。残念ながら、アテローム性動脈硬化症の包括的評価は一般に、この疾患過程の後期に斑破裂によって臨床事象が起こった後にのみ行われる。
【0003】
血管形成とアテローム性動脈硬化症との密接な関連が認められている。例えば、O'Brien et al. (1994) Am. J. Patrol. 145:883-894参照。血管形成はアテローム性動脈硬化症における斑発生の重要な特徴で、斑発生の開始と心筋梗塞および卒中につながるその後の斑破裂との両方において重要な役割を果たしている可能性がある。アテローム性動脈硬化症において、形成血管は原発の動脈腔から生ずるのではなく、主に斑の外膜層における脈管の血管から発生し、アテロームの肥厚内膜層に拡がる。広範な新生血管増殖がアテローム斑、特に不安定狭心症、心筋梗塞および卒中に臨床的に関連する「原因」病変に局在していた。斑の血管形成は斑成長の促進、斑内出血、および病変不安定において役割を果たすと考えられる。例えば、Zhang et al. (1993) Am. J.Pathol. 143:164-172;Tenaglia et al. (1998) Am. Heart J. 135:10-14;Moulton (2002) Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol. 67:471-482参照。
【0004】
増殖中の新生血管系によって発現される血管形成バイオマーカーであるαvβ3-インテグリンを標的とする常磁性ナノ粒子は、高コレステロール血症のウサギにおいて早期アテローム性動脈硬化症の高感度かつ特異的な検出および特徴づけを提供することができる。例えば、Winter et al. (2003) Circulation 108:2270-2274;Brooks et al. (1994) Cell. 79:1157-1164参照。そのような画像データから、早期アテローム性動脈硬化症過程がびまん性であることが再確認され、個々の大動脈セグメント内で見られる疾患がかなり不均質であることが示された。
【0005】
高用量で長期投与する場合、エンドスタチンおよびフマギリンの水溶性型であるTNP-470などの抗血管形成剤が、早期アテローム性動脈硬化症の動物モデルにおいて新生血管増殖および斑成長を低下させるいくらかの活性を示している(Wilson et al. (2002) Circulation 105:415-418;Moulton et al. (1999) Circulation 99:1726-1732)。例えば、TNP-470またはエンドスタチンで4ヶ月(20〜36週間)治療したApo E-/-マウスでは、内膜血管の数が減少し、アテローム拡張が減弱したが、総コレステロールレベルは上昇した。エンドスタチンまたはTNP-470はいずれも、早期アテローム発生中に泡沫細胞沈着または線維筋性損傷発生を変えず、これらは両方治療の後期(32〜48週間)には有効性が低かった(Moulton et al. (1999) 前記)。残念ながら、高用量TNP-470は、神経認知毒性などの重篤な副作用を有する(Herbst et al. (2002) J. Clin. Oncol. 20:4440-4447。
【0006】
アテローム性動脈硬化症に関連するものを含む、有害な新生血管系に特異的に到達し、これを減少させるのに有効な方法および組成物の開発が引き続き必要とされている。
【0007】
本明細書において引用されるすべての出版物および特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、アテローム斑に関連する症状および疾患を改善するための方法および組成物を目的とする。
【0009】
いくつかの態様において、本発明は、被検者の拡張した脈管の血管組織における血管形成を低下させる方法を目的とする。もう一つの態様において、本発明は、被検者の早期アテローム斑負荷を軽減する方法を目的とする。もう一つの態様において、本発明は、被検者のアテローム斑安定化法を目的とする。もう一つの態様において、本発明は、それを必要としている被検者のアテローム斑退縮法を目的とする。
【0010】
一つの態様において、本発明の方法において用いる組成物は、治療薬に結合された、脈管の血管に特異的な標的指向リガンドを含む標的化担体を含む。いくつかの態様において、標的化担体はナノ粒子の乳濁液である。いくつかの態様において、治療薬は抗血管形成剤である。
【0011】
発明の詳細な説明
発明者らは、抗血管形成剤に拡張した脈管の血管を標的とさせることで、アテローム斑の新生血管系が減少することを見いだした。標的化担体の形のそのような薬剤に拡張した脈管の血管を標的とさせることで、高脂血症動物における早期斑負荷の減少も起こる。斑の新血管新生の病理学的役割には下記が含まれる:1)拡散を制限する壁の厚みを越えて斑を拡張すること、2)炎症細胞を病変内に導くこと、および3)斑の不安定性および破裂を起こさせること。したがって、本発明は、拡張した脈管の血管における血管形成を減少させ、早期アテローム斑負荷を減少させるために用いる方法および組成物を提供する。本発明は、アテローム斑およびアテローム性動脈硬化症を安定化させ、かつ/またはその進行を逆行させる際に用いる方法および組成物も提供する。したがって、本発明は、一次(すなわち、臨床症状発現前)および二次(すなわち、臨床症状発現後)予防戦略においてアテローム斑を治療する方法を提供する。本発明の方法および組成物は、アテローム性動脈硬化症の早期、例えば、斑がまだ発生中の時点で、および/またはアテローム性動脈硬化症の後期、例えば、生成した斑を安定化するため、もしくは血管形成術後、例えば、再狭窄を軽減するために用いることができる。
【0012】
本発明の方法で用いるための標的化担体を、臨床活性を有する薬剤、抗血管形成剤、酵素阻害剤、代謝経路破壊剤、アポトーシス剤、サイトトキシンおよび抗炎症剤を含むが、それらに限定されるわけではない、少なくとも一つの治療薬を組み込むよう改変する。治療薬は標的化担体、例えば、粒子の表面上にあってもよく、もしくは表面に結合されていてもよく、または標的化担体、例えば、粒子の中心内にあってもよい。
【0013】
標的化担体を、治療薬を所望の標的細胞および/または組織、例えば、拡張した脈管の血管および再狭窄領域に誘導するための標的指向またはホーミングリガンドを含むよう、さらに改変する。
【0014】
いくつかの態様において、治療薬の送達に加えて、ナノ粒子などの標的化担体は造影剤としても役立ち、それらの標的への送達を撮像技術を用いて検出することができる。そのような標的化担体は、例えば、標的部位での治療の進行をモニターするため、および標的部位に誘導後に用量または治療薬の所望の調節を行うため、その部位を撮像することを可能にする。
【0015】
本発明は、インビボ適用を含む様々な適用において標的化担体を用いる方法を提供する。本発明は、本発明の方法において用いるために標的化担体を製造するためのキットおよび方法も提供する。
【0016】
標的化アテローム性動脈硬化症療法
本発明は、それを必要としている被検者において、拡張した脈管の血管における血管形成を低減する方法、および早期アテローム斑負荷を減少させる方法を提供する。本発明は、それを必要としている被検者において、アテローム斑退縮法およびアテローム斑安定化法も提供する。本方法は、標的指向リガンドと標的部位の血管形成を低減する治療薬とを含む標的化担体組成物を投与する段階を含む。したがって、本方法は血管および/または再狭窄の病理に関連する症状を軽減する際に有用である。血管壁への損傷が、血管形成術中のバルーン過伸展により発生することもある。
【0017】
本発明の標的化担体組成物は、担体複合体を拡張した脈管の血管に向け、抗血管形成剤をそれが最も有効な部位に送達するための標的指向リガンドを含む。例えば、αvβ3インテグリンに結合するリガンドを含むナノ粒子に、脈管の血管などの高い発現レベルのαvβ3インテグリンを含む組織を標的とさせる。高い発現レベルのαvβ3は活性化内皮細胞に典型的で、新生血管系の診断に役立つと考えられる。本方法は、標的指向なしで送達されるものと比べて、抗血管形成剤の量を減らすことを可能にする。
【0018】
本明細書において示すとおり、抗血管形成剤(フマギリン)および高レベルのαvβ3インテグリンを含む標的に向けられた標的指向リガンドを含むナノ粒子の投与は、薬剤の拡張した脈管の血管への送達を、薬剤を含む非標的化粒子による薬剤送達に比べて、および薬剤単独の投与に比べて、増強することになる。フマギリンを送達するための標的化ナノ粒子の使用により、Moulton et al. (1999) 前記において投与されたTNP-470の量に比べて5.6X104分の1という低い量の薬物投与が可能となった。Moulton et al. (1999)は1kgあたり30mgのTNP-470を1日おきに13週間、すなわち合計1.67g/kgの投与を報告している。本明細書において示すとおり、標的化ナノ粒子中で1回に投与するフマギリンの量は30μg/kgであった。薬剤は著しい副作用を有することが多いため、送達する治療薬の量を減らしうることは臨床上適切であると思われる。例えば、Herbst et al. (2002)、前記参照。
【0019】
治療薬を含む標的化担体の使用は、特にランタニド(例えば、ガドリニウム)、放射性核種、酸化鉄、光学活性物質(例えば、フルオロフォア)、またはX線造影剤(例えば、ヨウ素)などの造影剤の標的部位への送達も提供する。一般に、本明細書に記載のナノ粒子は本質的に音響反射性でもある。したがって、いくつかの態様において、標的細胞を特定することができ、細胞への薬物送達を確認することができ、かつ/または公知の撮像技術を用い、通常の撮像装置を用いて、標的化薬剤の効果をモニターすることができる。局所薬物濃度を定量しうることにより、投与した薬物のさらなるモニターおよび制御が可能となる。治療薬送達と撮像との組み合わせに加えて、本発明の標的化担体は一様式または多様式撮像において用いることができる。例えば、多様式撮像を、複数のタイプの撮像を可能にする補助試薬を含む標的化担体により実施することができる。
【0020】
したがって、本発明は患者の、例えば、新生または発生中の斑、アテローム斑、再狭窄に関連する斑形成、再狭窄に関連する過剰な治癒反応、梗塞、アテローム性動脈硬化症、および炎症状態を治療するための非侵襲手段を提供する。一般に、抗血管形成剤を、心組織およびすべての心血管、血管形成組織、心血管の任意の部分などを含むが、それらに限定されるわけではない、心血管関連組織における新生血管系または斑に関連する拡張した脈管の血管に送達する。本発明の方法を用いて治療する疾患状態には、血管系が病理学における重要な部分を果たす任意の疾患状態、例えば、心血管疾患、癌、関節リウマチを含む様々な障害の特徴となりうる炎症領域、血管形成術によって起こり、再狭窄を引き起こすものなどの刺激領域、腫瘍、およびアテローム性動脈硬化症の患部が含まれるが、それらに限定されるわけではない。治療するために関心が持たれる他の組織には、特定の悪性組織および/または腫瘍を含むもの、ならびに関節炎、脈管炎、または自己免疫疾患などの炎症反応を示す組織が含まれる。
【0021】
ほとんどの予定患者は潜在的アテローム性動脈硬化症および関連する脈管の血管拡張を示すため、一次予防戦略を開始する臨床上の決定は、公知の危険因子と早期アテローム性動脈硬化症負荷の過剰なリスクの量的推定との組み合わせに依存することになると思われる。この疾患過程は血管系に不均質に分布するため、全体の負荷と同様、局所的重症度を明らかにする必要がある。追跡管理にも同様の量的なセグメントごとの精密性が必要となる。
【0022】
本発明に記載の標的化担体および標的化担体組成物は、本発明の方法において有用であり、インビボ、エクスビボ、インサイチューおよびインビトロで細胞または組織と共に用いることができる。
【0023】
本発明の標的化担体の投与法は当業者には周知である。本発明の標的化担体を、例えば、静脈内注射により投与する。いくつかの場合に、ナノ粒子標的化担体を、約1〜3ml/分の速度の注入により投与する。いくつかの態様において、標的化担体を、例えば、特定の部位でのカテーテル滴加により局所投与してもよい。標的化担体は典型的には血管系に投与するが、投与後、標的化担体は血管系外に移動し、別の細胞および/または組織に到達してもよい。
【0024】
特定の標的化担体製剤の有効量および投与法は、個人、所望の結果および/または障害のタイプ、疾患の病期、ならびに当業者には明白な他の因子に応じて変動することがある。特定の適用において有用な投与経路は当業者には明らかである。
【0025】
本発明の標的化担体組成物を、薬学的に許容される組成物として投与する。組成物は、静脈内、非経口または局所を含むが、それらに限定されるわけではない、任意の適切な手段によって投与してもよい。組成物はボーラス注射もしくは持続注入による一回用量で、または用量を滴定するために選択した間隔で数回に分けた用量で投与することもできる。
【0026】
二次予防戦略用の方法のために、標的化担体組成物は傷害時、例えば、血管形成術の直後、および/または傷害後もしくは再狭窄開始後に投与してもよい。例えば、標的化担体組成物は、血管形成術の約1時間後、約12時間後、約1日後、約3日後、約7日後、約2週間後、約3週間後、約4週間後まで投与してもよい。組成物は必要に応じて1回またはそれ以上、2回またはそれ以上、または3回またはそれ以上投与してもよい。
【0027】
本明細書において用いられる「個人」または「被検者」は、脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトである。哺乳類には、ヒト、家畜、スポーツ動物、齧歯類およびペットが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0028】
本明細書において用いられる、物質の「有効量」または「十分な量」は、臨床結果を含む有益な、または所望の結果を生じるのに十分な量であり、したがって「有効量」はそれが適用される状況に依存する。有効量は一回または複数回で投与することができる。
【0029】
本明細書において用いられる単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、そうではないことが示されていない限り複数形を含む。例えば、「1つの(a)」標的細胞は一つまたは複数の細胞を含む。
【0030】
撮像を治療薬送達と共に行う場合、治療薬送達に併せて適切な製剤が生成されるなら、例えば、磁気共鳴撮像法(MRI)、核、光学、CT、またはポジトロン放出断層撮影(PET)法などの公知の技術を用いることができる。MRIを行う方法の場合、造影剤を含むナノ粒子を、米国特許第5,155,215号および第5,087,440号;Margerstadt et al. (1986) Magn. Reson. Med. 3:808;Runge et al (1988) Radiology 166:835;およびBousquet et al.(1988) Radiology 166:693に記載のとおり、他のMRI造影剤と同様の様式で用いてもよい。用いることができる他の物質は、米国特許第2002/0127182号に記載されているもので、これらはpH感受性で、パルスに応じて造影特性を変えることができる。一般に、造影剤の滅菌水溶液を患者に、体重1kgあたり0.01〜1.0mmolの範囲の用量で静脈内投与する。
【0031】
診断用放射性医薬品を用いる場合、通常は食塩水溶液で、体重70kgあたり1〜100mCiの用量、または好ましくは5〜50mCiの用量で、静脈内注射により投与する。撮像は公知の方法を用いて実施する。治療用放射性医薬品を投与する態様において、治療用放射性医薬品は通常は食塩水溶液で、体重1kgあたり0.01〜5mCiの用量、または好ましくは体重1kgあたり0.1〜4mCiの用量で、例えば静脈内注射により投与する。これらの用量は対応する造影用同位体よりも高い。
【0032】
X線造影剤の場合、本発明の組成物は一般に1mM〜5M、好ましくは0.1M〜2Mの重原子濃度を有するべきである。静脈内注射により投与する用量は、典型的には0.5mmol/kg〜1.5mmol/kg、好ましくは0.8mmol/kg〜1.2mmol/kgの範囲となる。撮像は公知の技術、好ましくはX線コンピューター断層撮影を用いて行う。
【0033】
超音波造影剤の場合、組成物は一般に静脈内注射により投与する。例えば、脂質マイクロバブルを体重1kgあたり10〜30μLのエコー原性ガスの量で、または約10μL/kg/分の速度の注入により投与する。撮像は超音波断層撮影の公知の技術を用いて実施する。
【0034】
本発明の組成物
本発明において用いる標的化担体とは、治療薬に結合された標的指向リガンドを意味する。本明細書において用いられる「結合された(coupled)」ものとは、直接または間接的に結合(associated)、結合(joined)、連結(linked)結合(attached)または接続(connected)されている。例えば、いくつかの態様において、標的化担体の標的指向リガンドと治療薬とは、粒子、リポソーム、乳濁液、ヒドロゲル、ニオソームなどの中および/または上の共存により結合され、両方が標的細胞または組織に共に向けられてもよい。他の態様において、標的化担体の標的指向リガンドと治療薬とは、共有および/または非共有結合により複合体中で直接結合されていてもよい。他の態様において、標的化担体の標的指向リガンドと治療薬とは、少なくとも一つの中間成分を通して共有および/または非共有結合により間接的に結合されていてもよい。
【0035】
本明細書において用いられる「治療薬」とは、拡張した脈管の血管および/またはアテローム斑を含む領域に送達されたとき、疾患の活性を安定化させる物質を意味する。そのような治療薬には、殺滅活性を有する物質、抗血管形成剤、酵素阻害剤、代謝経路破壊剤、および抗炎症剤が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0036】
いくつかの態様において、治療薬を標的化担体の内部または表面上に組み込む。いくつかの態様において、治療薬を標的化担体の中心内に組み込む。本明細書に記載のとおり、本発明の標的化担体組成物はそれらの本来の形または標的化担体複合体への組み込みもしくは吸着を促進するために疎水性もしくは荷電部分で誘導体化された治療薬(例えば、薬物、プロドラッグ、遺伝子材料、放射性同位体、またはその組み合わせ)を組み込む。いくつかの態様において、治療薬を脂質アンカーで誘導体化して、薬剤を脂溶性にするか、またはその脂質への溶解性を高め、したがって乳濁液の脂質層および/または標的細胞の脂質膜における薬剤の保持を高めることができる。治療薬は、例えば、Sinkyla et al. (1975) J. Pharm. Sci. 64:181-210、Koning et al. (1999) Br. J. Cancer 80:1718-1725、米国特許第6,090,800号および米国特許第6,028,066号によって記載されたプロドラッグ製剤を含む、プロドラッグであってもよい。
【0037】
本発明における使用が企図される抗血管形成剤には、マトリックスの破壊の阻害、内皮細胞複製および/もしくは活性の阻害を通して、ならびに血管形成を活性化する分子の阻害を通して作用するものが含まれる。いくつかの場合において、活性化内皮細胞の活性を阻害する抗血管形成剤に特に興味がもたれる。したがって、本発明において用いる抗血管形成剤には、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害剤(例えば、MMP-2、MMP-9の阻害剤)、組織メタロプロテアーゼ阻害剤(TIMP、例えば、TIMP-1、TIMP-2、TIMP-3)、マリミスタット、ネオバスタット、トロンボスポンジン-1、トロンボスポンジン-1の内部断片、METH-1およびMETH-2(アミノ末端にメタロプロテアーゼおよびトロンボスポンジンドメインおよびディスインテグリンドメインを含むタンパク質)、フマギリン、フマギリン類縁体TNP-470、エンドスタチン、シンバスタチン、バスキュロスタチン、バソスタチン、アンギオスタチン、プロテインキナーゼCβ阻害剤、ゲニステイン、抗インテグリン、血管内皮成長因子阻害剤(VEGF-阻害剤)、血小板因子-4の断片(アミノ末端断片)、プロラクチンの誘導体、レスチン、アンギオポエチン-2(アンギオポエチン-1のアンタゴニスト)、プロリフェリン関連タンパク質、ヘパリナーゼ、抗トロンビンIII断片(抗トロンビンIIIのカルボキシ末端ループを欠損した断片)、bFGF-結合分子、bFGF阻害剤、プロラクチン16-kD断片(プロラクチンの誘導体)、SPARC切断生成物、オステオスポンチン切断生成物、サリドマイド、スクアラミン、インターフェロン(例えば、インターフェロン-α、インターフェロン-β)、インターフェロン誘導性タンパク質-10、アンスラサイクリン、15-デオキシスパガリン、D-ペニシラミン、エポネマイシン、ハービマイシンA、およびラパマイシンが含まれるが、それらに限定されるわけではない。VEGF活性も阻害しうる薬剤には、可溶性VEGF受容体などのVEGF中和キメラタンパク質が含まれ、VEGF受容体IgGキメラタンパク質であってもよい。bFGF阻害剤には可溶性bFGF受容体などのbFGF中和キメラタンパク質が含まれ、bFGF受容体IgGキメラタンパク質であってもよい。
【0038】
いくつかの態様において、治療薬には、α放射体(例えば、225Ac)およびβ放射体(例えば、90Y)を含む放射性核種が含まれる。
【0039】
本発明において用いる治療薬には、前血管形成成長因子(proangiogenic growth factor)の活性を阻害する薬剤が含まれる。前血管形成成長因子阻害剤は、前血管形成成長因子の有効な産生を阻止または防止するアンタゴニスト、前血管形成成長因子のその受容体への有効な結合を阻止または防止するアンタゴニスト、および/または前血管形成成長因子のシグナリングを阻止または防止するアンタゴニストの形であってもよい。そのような阻害剤活性を有する薬剤は、タンパク質(例えば、抗体または抗体断片)、核酸(例えば、アンチセンス分子、阻害剤をコードする発現ベクター)、医薬品などを含む広範なものでありうる。前血管形成成長因子の例には、血管内皮成長因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、線維芽細胞成長因子-3、線維芽細胞成長因子-4、トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)、表皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子/分散因子(HGF/SF)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、胎盤成長因子、血小板由来成長因子(PDGF)、顆粒球コロニー刺激因子、プレイオトロピン、インターロイキン-8、チミジンホスホリラーゼ(TP)-血小板由来内皮細胞成長因子(PD-ECGF)、アンギオゲニンおよびプロリフェリンが含まれる。
【0040】
本発明において治療薬として用いる遺伝子材料には、脈管の血管の新生血管系または再狭窄に関連する新生血管系の生成および/または発生を阻止するもの、例えば、血管形成の阻害を引き起こす(例えば、前血管形成因子の活性を阻止する)または血管形成を担う細胞(例えば、内皮細胞)の殺滅活性もしくは死滅を引き起こす遺伝子材料が含まれる。遺伝子材料の形の治療薬には、例えば、組換えRNAおよびDNAならびにアンチセンスRNAおよびDNA;ハンマーヘッドRNA、リボザイム、ハンマーヘッドリボザイム、抗原核酸、一本鎖および二本鎖RNAおよびDNAとその類縁体、免疫賦活性核酸、リボオリゴヌクレオチド、アンチセンスリボオリゴヌクレオチド、デオキシリボオリゴヌクレオチド、ならびにアンチセンスデオキシリボオリゴヌクレオチドを含む、天然または合成起源の核酸、RNAおよびDNAが含まれる。用いることができる他のタイプの遺伝子材料には、例えば、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体、および欠損または「ヘルパー」ウイルス、アンチジーン核酸、ホスホロチオエートおよびホスホロジチオエートオリゴデオキシヌクレオチドなどの一本鎖および二本鎖RNAおよびDNAとその類縁体などの、発現ベクター上に担持された遺伝子が含まれる。加えて、遺伝子材料は、例えば、蛋白質または他のポリマーと組み合わせてもよい。
【0041】
本明細書において用いられる「リガンド」なる用語は、標的化担体複合体自体とは別の異なる生物学的標的のもう一つの分子に特異的に結合する標的指向分子を意味することが意図される。反応は電子対を供与または受容して錯化合物の金属原子と配位共有結合を形成する分子を必要ともせず、除外もしない。したがって、いくつかの態様において、リガンドは粒子の表面または担体表面への直接結合のために共有結合されてもよく、または間接結合のために非共有結合されてもよい。
【0042】
標的化担体の表面に結合された標的指向リガンドは一般に所望の標的に特異的で、能動的な標的指向が可能となる。能動的標的指向とは、細胞の表面膜上または細胞外もしくは細胞内マトリックス内に提示される分子エピトープ、例えば、受容体、脂質、ペプチド、細胞接着分子、多糖、バイオポリマーなどへの局在化および結合による、薬剤の細胞、組織、または臓器へのリガンド指向性、部位特異的蓄積を意味する。抗体、抗体の断片、小さいオリゴペプチド、大きいポリペプチドもしくは三次元構造を有するタンパク質などのポリペプチド、ペプチド様物質、多糖、アプタマー、脂質、核酸、レクチン、またはその組み合わせを含む様々なリガンドを用いることができる。一般に、リガンドは細胞エピトープまたは受容体に特異的に結合する。
【0043】
本発明の標的化担体は、新生血管系、特に脈管の血管の新生血管系の上または中で発現される分子に対する標的指向リガンドを用いる。標的指向リガンドは、血管形成活性の部位で標的化担体、したがって治療薬の濃度を高めるのに役立つ。脈管の血管の新生血管成分には、活性化された、または増殖中の内皮細胞が含まれる。したがって、標的化担体において用いる標的指向リガンドには、複合体、例えばナノ粒子を、脈管の血管の活性化された、または増殖中の内皮細胞に特異的または優先的に向けるものが含まれる。例えば、αvβ3-インテグリンは形成血管系において発現され、αvβ3-インテグリンに特異的なリガンドが本発明における標的指向リガンドとして有用である。
【0044】
様々な種類の標的指向リガンドおよび標的指向リガンドを用いて標的化担体を製剤する方法のさらなる説明は、本明細書、特に以下の組成物の項に示す。
【0045】
標的指向リガンドおよび治療薬に加えて、標的化担体は、放射性核種、磁気共鳴撮像法(MRI)もしくはX線撮像法の造影剤またはフルオロフォアを用いての撮像および/または治療において有用な、担体表面に結合された「補助物質」を含んでいてもよい。いくつかの場合に、標的化担体複合体自体、例えば、ナノ粒子乳濁液は、超音波撮像法の造影剤として役立ちうる。
【0046】
標的化担体複合体がナノ粒子の形である態様において、本発明の方法および組成物においていかなるナノ粒子乳濁液を用いてもよい。例えば、PCT公報国際公開公報第95/03829号は、薬物が油滴内に分散または可溶化され、油滴がリガンドにより特定の部位に標的化されている、油乳濁液を記載している。米国特許第5,542,935号は、ガス充填パーフルオロカーボンミクロスフェアを用いた部位特異的薬物送達を記載している。薬物送達は、ミクロスフェアを標的に向け、次いでそれらを破裂させることにより達成される。気泡ができるよう、低沸点パーフルオロ化合物を用いて粒子を形成する。
【0047】
しかし、いくつかの場合に、ナノ粒子が米国特許第5,958,371号に記載のものなどの高沸点パーフルオロカーボン液である乳濁液が好ましい。液体乳濁液は脂質および/または界面活性剤で構成されるコーティングで囲まれた比較的高沸点のパーフルオロカーボンからなるナノ粒子を含む。囲んでいるコーティングは標的指向リガンドに直接結合可能であるか、または標的指向リガンドに任意にリンカーを通じて共有結合された中間成分を捕捉することができる、あるいはビオチンなどの非特異的カップリング剤を含んでいてもよい。または、コーティングは、一般には核酸、特にアプタマーなどの負に荷電したリガンドが表面に吸着されうるように、陽イオン性であってもよい。ナノ粒子乳濁液の表面および/または中心は、標的細胞または組織に送達するための、少なくとも一つの治療薬、例えば、抗血管形成剤も含む。
【0048】
いくつかの態様において、投与のための乳濁液は、中心としての高沸点パーフルオロカーボンと、一つまたは複数の所望の成分の多くのコピーをナノ粒子に結合するための媒体を提供する脂質/界面活性剤混合物である外部コーティングとを含むナノ粒子系である。外部表面に結合された成分には無関係に、本発明において用いるナノ粒子乳濁液および製剤、塩基性粒子の作成とそれらを含む乳濁液の形成が、米国特許第5,690,907号、第5,780,010号、第5,989,520号および第5,958,371号に記載されており、これらはすべて参照により本明細書に組み入れられる。
【0049】
典型的に、ナノ粒子乳濁液は、密接に分散された少なくとも二つの不混和性の液体、好ましくは水中に分散された油などの疎水性材料からなる。乳濁液は、典型的には約0.2μmの直径を有する液滴またはナノ粒子の形である。界面活性剤または細かく分離された固体などの添加物を乳濁液ナノ粒子中に組み込んで、それらの安定性を高めることもできる。ナノ粒子は典型的には疎水性中心の境界となる脂質単層を有する。
【0050】
フルオロカーボン乳濁液、特にパーフルオロカーボン乳濁液は生物医学的適用および本発明の実施における使用に非常に適している。パーフルオロカーボン乳濁液は安定で、生物学的に不活性かつ主として経肺胞蒸発(trans-pulmonic alveolae evaporation)により容易に代謝されることが知られている。さらに、粒径が小さいことにより、経肺通過が容易となり、循環半減期(「β排出」半減期:1〜2時間)は好都合にも他の薬剤の半減期よりもすぐれている。また、パーフルオロカーボンは今日まで、人工血液としての使用を含む、様々な生物医学的適用において使用されている。本発明における使用のために、フルオロカーボンがフルオロカーボン-炭化水素、パーフルオロアルキル化エーテル、ポリエーテルまたはクラウンエーテルであるものを含む様々なフルオロカーボン乳濁液を用いることができる。有用なパーフルオロカーボン乳濁液は米国特許第4,927,623号、米国特許第5,077,036号、米国特許第5,114,703号、米国特許第5,171,755号、米国特許第5,304,325号、米国特許第5,350,571号、米国特許第5,393,524号、および米国特許第5,403,575号に開示されており、パーフルオロカーボン化合物がパーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロデカリン、パーフルオロオクチルブロミド、パーフルオロジクロロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリメチルシクロヘキサンまたは他のパーフルオロカーボン化合物であるものが含まれる。さらに、そのようなパーフルオロカーボン化合物の混合物を本発明の実施において用いる乳濁液に組み込んでもよい。
【0051】
乳化剤、例えば界面活性剤を用いて、乳濁液の生成を促進し、それらの安定性を高める。典型的に、水中油乳濁液の生成を促進するために水相界面活性剤が用いられている。界面活性剤は、親水性部分および疎水性部分を両方含む任意の物質である。水または溶媒に加えると、界面活性剤は表面張力を低下させる。
【0052】
水中油乳濁液の油相は、例えば、乳濁液の5〜50重量%、いくつかの場合には20〜40重量%を構成する。いくつかの態様において、油相はトリアシルグリセリル(トウモロコシ油)などの脂肪酸エステルを含んでいてもよい。いくつかの態様において、油または疎水性成分はフルオロケミカル液である。フルオロケミカル液には、直鎖、分枝鎖および環状パーフルオロカーボン、直鎖、分枝鎖および環状パーフルオロ3級アミン、直鎖、分枝鎖および環状パーフルオロエーテルおよびチオエーテル、クロロフルオロカーボンおよびポリマーパーフルオロエーテルなどが含まれる。50%までの水素置換化合物を用いることができるが、パーハロ化合物が好ましい。最も好ましいものは過フッ化化合物である。いかなるフルオロケミカル液、すなわち、体温(例えば、37℃)またはそれ以上で液体である物質を用いて、本発明のフルオロケミカル乳濁液を調製することができる。しかし、多くの目的のために、より長期間安定なフルオロケミカルの乳濁液が好ましい。そのような乳濁液を得るために、沸点が50℃よりも高いフルオロケミカル液を用いることができ、いくつかの場合には、沸点が約80℃よりも高いフルオロケミカル液を用いることができる。
【0053】
一例において、ナノ粒子はパーフルオロカーボン乳濁液で構成されてもよく、粒子は誘導体化天然または合成リン脂質、脂肪酸、コレステロール、脂質、スフィンゴミエリン、トコフェロール、糖脂質、ステリルアミン、カルジオリピン、エーテルもしくはエステル連結脂肪酸を有する脂質またはポリマー化脂質の外部コーティングを有する。
【0054】
本発明において有用なパーフルオロカーボン乳濁液の特定の例として、パーフルオロジクロロオクタンまたはパーフルオロオクチルブロミド乳濁液は、約50〜99.5モルパーセントのレシチン、好ましくは約55〜70モルパーセントのレシチン、0〜50モルパーセントのコレステロール、好ましくは約25〜45モルパーセントのコレステロールおよび約0.5〜10モルパーセントのホスファチジルエタノールアミン、好ましくは約1〜5モルパーセントのホスファチジルエタノールアミンを含むその脂質コーティングを含んでいてもよい。
【0055】
ビオチン化乳濁液が必要とされる態様のために、パーフルオロジクロロオクタンまたはパーフルオロオクチルブロミドの脂質コーティングは約50〜99.5モルパーセントのレシチン、好ましくは約55〜70モルパーセントのレシチン、0〜50モルパーセントのコレステロール、好ましくは約25〜45モルパーセントのコレステロールおよび約0.5〜10モルパーセントのビオチン化ホスファチジルエタノールアミン、好ましくは約1〜5モルパーセントのビオチン化ホスファチジルエタノールアミンを含んでいてもよい。ホスファチジルセリンなどの他のリン脂質をビオチン化してもよく、ステアリルアミンなどの脂肪酸アシル基をビオチンと結合してもよく、またはコレステロールもしくは他の脂肪溶解性化学物質をビオチン化して、粒子の脂質コーティングに組み込んでもよい。本発明の実施において用いる例示的なビオチン化パーフルオロカーボンの調製を、公知の方法に従って記載する。
【0056】
粒子上の外部コーティング(結合された標的指向リガンドを含むか、または所望の成分を表面に結合するための試薬を捕捉することができる)を生成するために用いる脂質/界面活性剤には、天然または合成リン脂質、脂肪酸、コレステロール、リゾ脂質、スフィンゴミエリン、トコフェロール、糖脂質、ステアリルアミン、カルジオリピン、プラスマローゲン、エーテルまたはエステル連結脂肪酸を有する脂質、およびポリマー化脂質が含まれる。いくつかの場合に、脂質/界面活性剤は脂質結合ポリエチレングリコール(PEG)を含むことができる。トゥイーン、スパン、トリトンなどを含む、様々な市販の陰イオン、陽イオン、および非イオン界面活性剤も用いることができる。いくつかの態様において、好ましい界面活性剤はリン脂質およびコレステロールである。
【0057】
油に溶解して乳濁するフッ化界面活性剤も用いることができる。適切なフルオロケミカル界面活性剤には、パーフルオロヘキサン酸およびパーフルオロオクタン酸などの過フッ化アルカン酸ならびにアミドアミン誘導体が含まれる。これらの界面活性剤は一般に0.01〜5.0重量%、好ましくは0.1〜1.0重量%の量で用いる。他の適切なフルオロケミカル界面活性剤には、過フッ化アルコールリン酸エステルおよびそれらの塩;過フッ化スルホンアミドアルコールリン酸エステルおよびそれらの塩;過フッ化アルキルスルホンアミド;アルキレン4級アンモニウム塩;N,N(カルボキシル置換低級アルキル)過フッ化アルキルスルホンアミド;ならびにその混合物が含まれる。本明細書において用いられる「過フッ化」なる用語は、界面活性剤が少なくとも一つの過フッ化アルキル基を含むことを意味する。
【0058】
適切な過フッ化アルコールリン酸エステルには、モノおよびビス(lH,1H,2H,2H-パーフルオロアルキル)リン酸のジエタノールアミン塩の遊離酸が含まれる。商品名ZONYL RP(Dupont, Wilmington, DE)として市販されているリン酸塩を公知の方法により対応する遊離酸に変換する。適切な過フッ化スルホンアミドアルコールリン酸エステルは米国特許第3,094,547号に記載されている。適切な過フッ化スルホンアミドアルコールリン酸エステルおよびその塩には、パーフルオロ-n-オクチル-N-エチルスルホンアミドエチルリン酸、ビス(パーフルオロ-n-オクチル-N-エチルスルホンアミドエチル)リン酸、ビス(パーフルオロ-n-オクチル-N-エチルスルホンアミドエチル)リン酸のアンモニウム塩、ビス(パーフルオロデシル-N-エチルスルホンアミドエチル)リン酸およびビス(パーフルオロヘキシル-N エチルスルホンアミドエチル)リン酸が含まれる。好ましい製剤は脂質界面活性剤としてホスファチジルコリン、誘導体化ホスファチジルエタノールアミンおよびコレステロールを用いる。
【0059】
PLURONIC F-68、HAMPOSYL L30(W.R. Grace Co., Nashua, NH)、ドデシル硫酸ナトリウム、Aerosol 413(American Cyanamid Co., Wayne, NJ)、Aerosol 200(American Cyanamid Co.)、LIPOPROTEOL LCO(Rhodia Inc., Mammoth, NJ)、STANDAPOL SH 135(Henkel Corp., Teaneck, NJ)、FIZUL 10-127(Finetex Inc., Elmwood Park, NJ)、およびCYCLOPOL SBFA 30(Cycle Chemicals Corp., Miami, FL);商品名:DERIPHAT 170(Henkel Corp.)、LONZAINE JS(Lonza, Inc.)、NIRNOL C2N-SF(Miranol Chemical Co., Inc., Dayton, NJ)、AMPHOTERGE W2(Lonza, Inc.)、およびAMPHOTERGE 2WAS(Lonza, Inc.)で市販されているものなどの両性界面活性剤;商品名:PLURONIC F-68(BASF Wyandotte, Wyandotte, MI)、PLURONIC F-127(BASF Wyandotte)、BRIJ 35(ICI Americas; Wilmington, DE)、TRITON X-100(Rohm and Haas Co., Philadelphia, PA)、BRIJ 52(ICI Americas)、SPAN 20(ICI Americas)、GENEROL 122 ES(Henkel Corp.)、TRITON N-42(Rohm and Haas Co.)、TRITON N-101(Rohm and Haas Co.)、TRITON X-405(Rohm and Haas Co.)、TWEEN 80(ICI Americas)、TWEEN 85(ICI Americas)、およびBRIJ 56(ICI Americas)で市販されているものなどの非イオン界面活性剤などの、他の公知の界面活性剤添加物を単独または組み合わせで、0.10〜5.0重量%の量で用いて、乳濁液の安定化を助けてもよい。
【0060】
ナノ粒子は、核酸およびアプタマーなどのリガンドを粒子表面に捕捉または吸着するのを促進する、界面活性剤層中の陽イオン脂質を用いて製剤してもよい。典型的な陽イオン脂質には、DOTMA、塩化N-[l-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム;DOTAP、1,2-ジオレオイルオキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン;DOTB、1,2-ジオレオイル-3-(4'-トリメチル-アンモニオ)ブタノイル-sn-グリセロール、1,2-ジアシル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン;DAP、1,2-ジアシル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン;TAP、1,2-ジアシル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン;1,2-ジアシル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン;3β-[N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモル]コレステロール-HCl、DC-コレステロール(DC-Chol);およびDDAB、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウムが含まれうる。一般に、脂質界面活性剤単層における陽イオン脂質の非陽イオン脂質に対するモル比は、例えば、1:1000〜2:1、好ましくは2:1〜1:10の間、より好ましくは1:1〜1:2.5の間の範囲で、最も好ましくは1:1でありうる(陽イオン脂質のモル量の非陽イオン脂質、例えば、DPPCのモル量に対する比)。様々な脂質、特に前述のものに加えてジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジル-エタノールアミンまたはジオレオイルホスファチジルエタノールアミンが界面活性剤の非陽イオン脂質成分を構成してもよい。前述の陽イオン脂質の代わりに、ポリリシンまたはポリアルギニンなどの陽イオンポリマーを有する脂質を脂質界面活性剤中に含み、遺伝子材料またはその類縁体などの負に荷電した治療薬を乳濁粒子の外側に結合することもできる。いくつかの態様において、脂質を架橋して、インビボで用いるための粒子に安定性を提供することもできる。
【0061】
標的化担体がリポソームで構成されている場合、そのようなリポソームは文献中に一般に記載されているとおりに調製してもよい(例えば、Kimelberg et al., CRC Crit. Rev. Toxicol. 6:25, 1978;Yatvin et al., Medical Physics 9:149, 1982;Lasic (1993) 「Liposomes: from Physics to Applications」Elsevier, Amsterdam参照)。リポソームは当技術分野において公知で、一般にレシチンおよびステロール、卵ホスファチジルコリン、卵ホスファチジン酸、コレステロールならびにα-トコフェロールを含む脂質材料を含む。
【0062】
リポソームは球形の二層に配列された、脂質に囲まれた水性媒質からなる小胞である。リポソームは通常は小さい単層小胞(SUV)、大きい単層小胞(LUV)、または多重層小胞(MLV)に分類される。SUVおよびLUVは定義から必然的に脂質二重層を一つだけ有するが、MLVは多くの同心性二重層を含む。リポソームを用いて、親水性分子を水性の内部もしくは二重層の間に組み込む、または疎水性分子を二重層内に組み込むことにより、様々な治療薬および材料を封入することができる。
【0063】
リポソームの構造上の基礎を形成している脂質二重層の組成は、一般には少なくともリン脂質で構成され、より一般的にはリン脂質と脂質自体の混合物で構成されている。例えば、リポソームにおいて、ホスファチジルコリン誘導体、ホスファチジルグリセロール誘導体などを、望まれる場合にはコレステロールなどの非リン脂質成分と共に用いる。適切な代替態様には、リン脂質と、例えば、トリグリセリドとの混合物が含まれる。加えて、リン脂質を含む、または含まない安定な脂質二重層に含まれうる脂肪酸、脂質ビタミン、ステロイド、親油性薬物および他の親油性化合物を用いることもできる。リポソーム中で用いるための他の脂質には、例えば、ジアシルグリセロールが含まれる。
【0064】
いくつかのリポソーム態様において、リン脂質が含まれ、リポソームは正味の正電荷、正味の負電荷を有していてもよく、または中性であってもよい。ジアセチルリン酸を含むことは、負電荷を与えるために都合のよい方法であり、ステアリルアミンを用いて正電荷を提供することができる。いくつかの場合に、リン脂質の少なくとも一つの頭部はホスホコリン、ホスホエタノールアミン、ホスホグリセロール、ホスホセリン、またはホスホイノシトールである。
【0065】
いくつかの態様において、標的化担体は脂質ミセルまたはリポタンパク質ミセルである。ミセルは、疎水性中心にある難溶性物質を送達するために用いる両親媒性脂質またはポリマー成分からなる、自己構築粒子である。ミセル送達媒体を調製するための様々な手段が利用可能で、当業者であれば容易に実施することができる。例えば、脂質ミセルはPerkins et al. (2000) Int. J. Pharm. 200:27-39に記載のとおりに調製することができる。リポタンパク質ミセルは、低および高密度リポタンパク質ならびにキロミクロンを含む天然または人工リポタンパク質から調製することができる。
【0066】
いくつかの態様において、標的化担体はポリマーセル(ナノカプセル)、ポリマーマトリックス(ナノスフェア)またはブロックコポリマーを含むナノ粒子またはマイクロ粒子であり、これらは架橋されていてもよく、または脂質層もしくは二重層で囲まれていてもよい。そのような脂質封入ナノ粒子およびマイクロ粒子は、シェル内に、マトリックス中に分散して、および/または疎水性中心内に治療薬をさらに含む。そのようなナノ粒子およびマイクロ粒子の一般的調製法は、当技術分野において、例えば、Soppimath et al. (2001) J. Control Release 70:1-20およびAllen et al. (2000) J Control Release 63:275-286に記載されている。例えば、脂質層が本明細書に記載の脂質の混合物からなる場合に、ポリカプロラクトンおよびポリ(d,l-ラクチド)などのポリマーを用いてもよい。誘導体化された一本鎖ポリマーはポリマー-薬剤結合体を形成するために、生物学的に活性な薬剤の共有結合のために適合させたポリマーである。ポリアミノ酸、デキストリンまたはデキストランなどの多糖、およびN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)コポリマーなどの合成ポリマーを含む多くのポリマーが、ポリマー-薬剤結合体の合成のために提唱されてきた。適切な調製法は、当技術分野において、例えば、Veronese et al. (1999) IL Farmaco 54:497-516に記載されている。他の適切なポリマーは薬学分野において公知のいかなるものでもよく、ヒドロキシエチルデンプン、タンパク質、糖ペプチドおよび脂質などの天然ポリマーが含まれるが、それらに限定されるわけではない。合成ポリマーは、直鎖または分枝、置換または無置換、ホモポリマー、コポリマー、または複数の異なる合成モノマーのブロックコポリマーであってもよい。
【0067】
いくつかの態様において、標的化担体はニオソームなどの非脂質リポソームである。いくつかの態様において、標的化担体はヒドロゲルである。そのような担体複合体の様々な調製法が利用可能で、当業者であれば容易に実施することができる。
【0068】
特定の態様において、脂質/界面活性剤コーティングには、治療および/または撮像のために有用な標的指向リガンドおよび/または治療薬および/または補助物質を結合するために用いることができる反応性基を有する成分が含まれる。いくつかの態様において、一つまたは複数の所望の成分の複数のコピーを粒子に結合するための媒体を提供する脂質/界面活性剤コーティングが好ましい。以下に記載するとおり、脂質/界面活性剤成分を、脂質/界面活性剤成分に含まれる官能基を通じてこれらの反応性基に結合することができる。例えば、ホスファチジルエタノールアミンを、そのアミノ基を通じて所望の部分に直接結合してもよく、または以下に記載のカルボキシル、アミノ、またはスルフヒドリル基を提供しうる短いペプチドなどのリンカーに結合してもよい。または、マレイミドなどの標準的リンキング剤を用いてもよい。標的指向リガンド、治療薬および補助物質がある場合にはこれらを粒子に結合するために様々な方法を用いることができる。これらの戦略は、例えば、ポリエチレングリコールまたはペプチドなどのスペーサー基の使用を含みうる。
【0069】
例えば、脂質/界面活性剤でコーティングしたナノ粒子は典型的には水性媒質中の懸濁液において中心を形成する油と外層を形成する脂質/界面活性剤混合物との混合物を微小溶液化して乳濁液を形成することにより生成する。この方法において、脂質/界面活性剤は、それらを乳濁させてナノ粒子とする際に、追加のリガンドにすでに結合していてもよく、または単にその後の結合のために反応性基を含んでいてもよい。または、脂質/界面活性剤層に含まれる成分は単に補助材料の溶解特性によって層内で可溶化されていてもよい。水性媒質中の脂質/界面活性剤の懸濁液を得るために、超音波処理または他の技術が必要とされることもある。典型的に、脂質/界面活性剤外層における少なくとも一つの材料は、追加の所望の成分を結合するのに有用なリンカーもしくは官能基を含むか、または乳濁液を調製する時点で成分は材料にすでに結合されていてもよい。
【0070】
標的化リガンドおよび/または治療薬の脂質封入粒子中の材料への共有結合は、本発明の開示に基づき、当業者には容易に明らかとなる合成有機技術を用いて達成することができる。例えば、標的指向リガンドおよび/または治療薬は脂質を含む材料に、周知のカップリング剤または活性化剤を用いることにより結合することができる。
【0071】
標的指向リガンドおよび/もしくは治療薬または他の有機部分を外層の成分に共有結合することによる結合のために、様々なタイプの結合およびリンキング剤を用いてもよい。そのような結合の典型的な生成法には、カルボジアミドを用いてのアミドの生成、またはマレイミドなどの不飽和成分を用いることによるスルフィド結合の生成が含まれる。他のカップリング剤には、例えば、グルタルアルデヒド、プロパンジアールまたはブタンジアール、2-イミノチオラン塩酸塩;スベリン酸ジスクシンイミジル、酒石酸ジスクシンイミジル、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホンなどの二官能性N-ヒドロキシスクシンイミドエステル;N-(5-アジド-2-ニトロベンゾイルオキシ)スクシンイミド、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、およびスクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチレートなどのヘテロ二官能性試薬;1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン、4,4'-ジフルオロ-3,3'-ジニトロジフェニルスルホン、4,4'-ジイソチオシアノ-2,2'-ジスルホン酸スチルベン、p-フェニレンジイソチオシアネート、カルボニルビス(L-メチオニンp-ニトロフェニルエステル)、4,4'-ジチオビスフェニルアジド、エリスリトール二炭酸エステルなどのホモ二官能性試薬;ならびにアジポイミド酸ジメチル塩酸塩、スベルイミド酸ジメチル、3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル塩酸塩などの二官能性イミドエステルなどが含まれる。結合は、アシル化、スルホン化、還元的アミノ化などによっても達成することができる。所望のリガンドを外層の一つまたは複数の成分に共有結合するための複数の様式が当技術分野において周知である。リガンド自体は、その性質が適切であれば、界面活性剤層に含まれてもよい。例えば、リガンドおよび/または治療薬が高度に親油性の部分を含む場合、それ自体が脂質/界面活性剤コーティング中に埋め込まれてもよい。さらに、リガンドおよび/または治療薬がコーティングに直接吸着可能である場合、これもその結合を行うことになる。例えば、核酸は、負電荷を有するため、陽イオン界面活性剤に直接吸着する。
【0072】
共有結合は架橋および/または重合を含みうる。架橋は一般にはポリマー分子の二つの鎖の橋(元素、基、または化合物のいずれかからなり、鎖の特定の炭素原子を共有化学結合により連結する)による結合を意味する。例えば、架橋はポリペプチドにおいて起こることがあり、シスチン残基のジスルフィド結合により連結される。架橋は、例えば、(1)化学物質(架橋剤)を加え、混合物を熱に曝すことにより、または(2)ポリマーを高エネルギー放射線照射にかけることにより達成することができる。
【0073】
非共有結合は、標的指向リガンドおよび/または治療薬と標的化担体、例えば、ナノ粒子の表面上の部分内の残基とを含むイオン相互作用によっても起こりうる。非共有結合は、標的指向リガンドおよび/もしくは治療薬と荷電アミノ酸などのプライマー内の残基とを含むイオン相互作用によって、または標的指向リガンドおよび標的化担体、例えば、ナノ粒子の表面の両方と相互作用しうる荷電残基を含むプライマー部分の使用によっても起こりうる。例えば、非共有結合は、一般には負に荷電した標的指向リガンドまたはナノ粒子表面上の部分と、プライマーの正に荷電したアミノ酸残基、例えば、ポリリシン、ポリアルギニンおよびポリヒスチジン残基との間で起こりうる。もう一つの例において、非共有結合は、一般には負に荷電した標的指向リガンドまたは中間リンカー成分上の部分と、治療薬の正に荷電したアミノ酸残基との間で起こりうる。
【0074】
リガンドは粒子またはリポソームに直接結合してもよく、すなわちリガンドは粒子またはリポソーム自体と結合する。または、加水分解可能な脂質アンカーなどの加水分解可能なアンカーを用いて間接結合を行い、標的指向リガンドまたは他の有機部分を粒子またはリポソームの脂質/界面活性剤コーティングに結合してもよい。ビオチン/アビジンを通じて行うものなどの間接結合もリガンドのために用いることができる。例えば、ビオチン/アビジン仲介性標的指向において、標的指向リガンドを粒子またはリポソームではなく、ビオチン化型で標的組織に結合する。
【0075】
標的化担体、例えば、ナノ粒子に、コーティング層内への捕捉により結合しうる補助物質には放射性核種が含まれる。放射性核種は治療用または診断用のいずれであってもよく、そのような核種を用いた診断撮像は周知で、放射性核種に所望の組織を標的とさせることにより、治療上の利益も実現することができる。診断撮像用の放射性核種はγ放射体(例えば、96Tc)を含むことが多く、治療目的の放射性核種はα放射体(例えば、225Ac)およびβ放射体(例えば、90Y)を含むことが多い。典型的な診断用放射性核種には、99mTc、96Tc、95Tc、111In、62Cu、64Cu、67Ga、68Ga、および192Irが含まれ、治療用放射性核種には、225Ac、l86Re、l88Re、l53Sm、l66Ho、177Lu、149Pm、90Y、212Bi、103Pd、109Pd、159Gd、140La、198Au、199Au、169Yb、175Yb、165Dy、166Dy、123I、131I、67Cu、105Rh、111Ag、および192Irが含まれる。核種は様々な様式のあらかじめ形成された粒子に提供することができる。例えば、99Tc-過テクネチウム酸塩を過剰の塩化スズと混合し、あらかじめ形成したナノ粒子の乳濁液中に組み込んでもよい。スズオキシネートを塩化スズの代わりに用いることもできる。加えて、Nycomed AmershamによるCeretek(登録商標)として販売されているHM-PAO(エキサメタジン)キットなどの市販のキットを用いることもできる。様々な放射性リガンドを本発明の標的化担体に結合する手段は、当技術分野において理解されている。
【0076】
例えば磁気共鳴撮像法において用いる金属イオンを含むキレート剤も、補助物質として用いることができる。典型的には、常磁性金属または超常磁性金属を含むキレート剤を粒子上のコーティングの脂質/界面活性剤と結合させ、最初の混合物に組み込む。キレート剤はコーティング層の一つまたは複数の成分に直接結合させることができる。適切なキレート剤は大環状または直鎖キレート剤で、EDTA、DPTA、DOTAなどを含む様々な多座配位化合物が含まれる。これらのキレート剤は、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、オレイン酸塩、または任意の他の合成,天然もしくは官能基付加脂質もしくは脂質可溶性化合物中に含まれる官能基に直接結合させることができる。
【0077】
いくつかの場合の使用に適したキレート剤には、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸(DOTA)およびその誘導体、特にメトキシベンジル誘導体(MEO-DOTA)およびイソチオシアネート官能基を含むメトキシベンジル誘導体(MEO-DOTA-NCS)が含まれ、これらはホスファチジルエタノールアミンのアミノ基またはそのペプチド誘導体に結合させることができる。この型の誘導体は米国特許第5,573,752号に記載されており、他の適切なキレート剤は米国特許第6,056,939号に開示されている。
【0078】
DOTAイソシアネート誘導体も、脂質/界面活性剤に直接またはペプチドスペーサーを通じて結合させることができる。スペーサーとしてのgly-gly-glyの使用を下記の反応スキームに例示している。直接結合のためには、MEO-DOTA-NCSをホスホエタノールアミン(PE)と単純に反応させて結合生成物を得る。ペプチド、例えば、トリグリシルリンクを用いる場合は、PEをまずt-boc保護トリグリシンに結合させる。ジイソプロピルカルボジイミド(またはその等価物)と、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)またはヒドロキシベンゾトリアゾール(HBT)のいずれかを用いてt-boc-トリグリシンの遊離酸の活性化エステルを生成するなどの、標準的カップリング技術を用い、t-boc-トリグリシン-PEを精製する。
【0079】
t-boc-トリグリシン-PEをトリフルオロ酢酸で処理することにより、トリグリシン-PEを得て、これを次いで過剰のMEO-DOTA-NCSとDMF/CHCl3中、50℃で反応させる。溶媒を除去した後、残留固体を過剰の水で洗浄して過剰の溶媒および未反応または加水分解されたMEO-DOTA-NCSを除去して、最終生成物を単離する。

【0080】
他の補助物質には、フルオロフォア(フルオレセイン、ダンシル、量子ドットなど)および赤外色素または金属が含まれ、光学または光撮像法(例えば、共焦点顕微鏡検査および蛍光撮像法)において用いることができる。PET撮像法などの核撮像法のためには、トシル化および18Fフッ化化合物を補助物質として標的化担体に結合させてもよい。
【0081】
前述のすべての場合において、結合部分が標的指向リガンドまたは治療薬または補助物質のいずれであっても、規定の部分は脂質/界面活性剤層に非共有結合されてもよく、脂質/界面活性剤層の成分に直接結合されてもよく、またはスペーサー部分を通じてその成分に間接的に結合されてもよい。
【0082】
本明細書に記載のとおり、標的指向リガンドおよび/または治療薬を、担体複合体表面の性質に応じて様々な方法により、標的化担体、例えば、ナノ粒子の表面に化学的に結合させてもよい。結合は、用いるリガンドに応じて、乳濁液粒子を作る前または後に行ってもよい。リガンドのタンパク質物質に対する直接化学結合は、表面内に本質的に存在する多くのアミノ基(例えば、リシン)を利用することが多い。または、粒子を形成した後に、ピリジルジチオプロピオネート、マレイミドまたはアルデヒドなどの官能基として活性な化学基をリガンド結合のための化学的「フック」として表面に組み込んでもよい。他の一般的な後処理アプローチは、リガンドを加える前に表面カルボン酸塩をカルボジイミドで活性化することである。選択される共有結合戦略は主にリガンドの化学的性質によって決まる。抗体および他の大きいタンパク質は過酷な処理条件下で変性することがあるが、炭水化物、短いペプチド、アプタマー、薬物またはペプチド様物質の生物活性は保存できないことが多い。リガンド結合の高い完全性を確保し、標的化粒子の結合力を最大化するために、柔軟なポリマースペーサーアーム、例えば、ポリエチレングリコールまたは単純なカプロン酸エステルの橋を活性化表面官能基と標的指向リガンドとの間に挿入することもできる。これらの延長部分は10nmまたはそれ以上であってもよく、粒子表面相互作用によるリガンド結合の妨害を最小限に抑える。
【0083】
アビジン-ビオチン相互作用は、多くの生物学および分析システムに組み込まれ、インビボ適用において選択されている、非常に有用な非共有結合標的指向システムである。アビジンはビオチンに対する高い親和性(10-15M)を有し、生理的条件下での迅速かつ安定な結合を促進する。このアプローチを用いるいくつかの標的化システムは、製剤に応じて2段階または3段階で投与される。典型的にこれらのシステムにおいて、モノクローナル抗体などのビオチン化リガンドをまず投与し、独特の分子エピトープに対して「前標的化」する。次に、アビジンを投与し、これは「前標的化」リガンドのビオチン部分に結合する。最後に、ビオチン化乳濁液を加え、これがアビジン上に残っている空きのビオチン結合部位に結合し、それによりリガンド-アビジン-乳濁液「サンドイッチ」が完成する。アビジン-ビオチンアプローチは、表面抗体の存在に二次的な細網内皮系による標的化物質の加速された早期クリアランスを回避することができる。加えて、4つの独立したビオチン結合部位を有するアビジンはシグナル増強を提供し、検出感度を改善する。
【0084】
本明細書において用いられる、ビオチン乳濁液またはビオチン物質への結合に関しての「ビオチン乳濁液」または「ビオチン化」なる用語は、ビオチン、ビオシチン、ならびにビオチンアミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、ビオチン4-アミド安息香酸、ビオチンアミドカプロイルヒドラジドと、他のビオチン誘導体および結合体などの他のビオチン誘導体および類縁体を含むことが意図される。他の誘導体には、ビオチン-デキストラン、ビオチン-ジスルフィドN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、ビオチン-6アミドキノリン、ビオチンヒドラジド、d-ビオチン-Nヒドロキシスクシンイミドエステル、ビオチンマレイミド、d-ビオチンp-ニトロフェニルエステル、ビオチン化ヌクレオチドおよびN、イプシロン-ビオチン化-l-リシンなどのビオチン化アミノ酸が含まれる。アビジン乳濁液またはアビジン物質への結合に関しての「アビジン乳濁液」または「アビジン化」なる用語は、アビジン、ストレプトアビジンおよびストレプトアビジンまたはアビジン結合体などの他のアビジン類縁体、アビジンまたはストレプトアビジンの高度に精製し分画した種、ならびに非アミノ酸または部分アミノ酸変異体、組換えまたは化学合成アビジンを含むことが意図される。
【0085】
抗体、特にモノクローナル抗体も、新生血管系の上または中で発現される分子エピトープに向けられた部位標的指向リガンドとして用いてもよい。免疫グロブリン-γ(IgG)クラスモノクローナル抗体がナノ粒子および他の担体に結合されて、活性な部位特異的標的指向を提供している。一般に、これらのタンパク質は、重鎖および軽鎖の同じ対からなる対称糖タンパク質(MW約150,000ダルトン)である。二つのアームそれぞれの末端の超可変領域は、同じ抗原結合ドメインを提供する。多様なサイズの分枝炭水化物ドメインを補体活性化領域に結合させ、蝶番領域は、還元されてより小さい断片を生成しうる、特に到達可能な鎖間ジスルフィド結合を含む。
【0086】
いくつかの場合に、モノクローナル抗体を本発明の抗体組成物において用いる。新生血管系細胞表面の選択された抗原に特異的なモノクローナル抗体は、通常の技術を用いて容易に生成することができる(例えば、米国再発行特許第32,011号、米国特許第4,902,614号、米国特許第4,543,439号、および米国特許第4,411,993号参照)。ハイブリドーマ細胞を抗原と特異的に反応性の抗体産生についてスクリーニングすることができ、モノクローナル抗体を単離することができる。モノクローナル抗体を作成するために他の技術も用いることができる(例えば、Huse et al. (1989) Science 246:1275-1281;Sastry et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:5728-5732;Alting-Mees et al. (1990) Strategies in Molecular Biology 3:1-9参照)。
【0087】
本発明の文脈内で、抗体は、天然抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗原結合特異性を保持している抗体断片(例えば、Fab、およびF(ab')2)および組換えにより産生された結合相手、単一ドメイン抗体、ハイブリッド抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体などを含むが、必ずしもそれらに限定されるわけではない、様々な種類の抗体を含むと理解される。一般に、抗体が107M-1またはそれ以上の親和性(結合定数)で結合する場合、抗体は選択された抗原に対して反応性であると理解される。乳濁液と共に用いるための選択された抗原に対する抗体は、商業的供給元から得ることができる。
【0088】
本発明において部位標的指向リガンドとして有用な様々な種類の抗体のさらなる説明を本明細書、特にこの組成物の項の後半に提供する。
【0089】
本発明において有用な標的化担体は、抗体またはその断片以外のリガンドである標的指向物質も用いる。例えば、ポリペプチドは抗体と同様、標的指向リガンドとして用いるための高い特異性およびエピトープ親和性を有しうる。これらは、例えば、特有の受容体配列(例えば、血小板GIIbIIIa受容体のRGD受容体など)に特異的な、5〜10個のアミノ酸を有する小さいオリゴペプチドであってもよく、またはコレシストキニンなどの大きい生物活性ホルモンであってもよい。小さいペプチドは潜在的に、非ヒト化マウス抗体よりも低い固有の免疫原性を有する。細胞接着分子のペプチドまたはペプチド(非ペプチド)類縁体、サイトカイン、セレクチン、カドヘリン、Igスーパーファミリー、インテグリンなどは、それらが標的化担体を所望の標的、例えば、拡張した脈管の血管に向ける限り、標的化治療薬送達のために用いることができる。
【0090】
いくつかの場合に、リガンドは、米国特許第6,130,231号(例えば、式1に示される通り);米国特許第6,153,628号;米国特許第6,322,770号;およびPCT公報国際公開公報第01/97848号および国際公開公報第03/062198号に記載のものなどの、非ペプチド有機分子である。一般に「非ペプチド」部分は、遺伝子コードされた、または遺伝子コードされていない、アミノ酸の単純なポリマーである化合物以外のものである。したがって、「非ペプチドリガンド」は、ポリマー特性を持たない「小分子」と一般に呼ばれ、アミノ酸のポリマー以外の中心構造を必要とすることで特徴づけられる部分である。本発明において有用な非ペプチドリガンドは、ペプチドに結合してもよく、または標的部位への親和性を担うリガンドの部分に結合されたペプチドを含んでもよいが、その結合能力の元となるのはこのリガンドの非ペプチド領域である。例えば、αvβ3インテグリンに特異的な非ペプチドリガンドは米国特許第6,130,231号および米国特許第6,153,628号に記載されている。標的指向リガンドは炭水化物、糖タンパク質、および多糖も含んでいてもよい。
【0091】
アプタマーは、インビトロ選別実験(SELEX:試験管内進化法)により生成された高親和性、高特異性のRNAまたはDNAリガンドである。アプタマーは、分子抗原または細胞への吸着により選択的にスクリーニングされた20〜30ヌクレオチドの無作為配列から生成させ、濃縮して特定の高親和性結合リガンドを精製する。インビボでの安定性および有用性を高めるために、アプタマーは一般には、ヌクレアーゼ消化を低下させ、薬物、標識または粒子との結合を促進するために化学的に修飾する。他のより単純な化学的架橋を、リガンド相互作用に特に関与しない核酸と置き換えることも多い。溶液中ではアプタマーは統一された構造を持たないが、折りたたみ、標的エピトープを包んで、特異的認識を行うことができる。エピトープ周囲の核酸の独特の折りたたみによって、水素結合、静電相互作用、スタッキング、および形状相補性を通じて差別的な分子間連絡が生じる。タンパク質リガンドと比べて、一般にアプタマーは安定で、加熱滅菌に対して伝導力があり、かつ免疫原性が低い。アプタマーは現在、血管形成、活性化血小板、および固形腫瘍を含むいくつかの臨床上関連する病態を標的として用いられており、それらの使用は増大しつつある。治療用標的化担体のための標的指向リガンドとしてのアプタマーの臨床上の有効性は、核酸リン酸基による表面負電荷の排出速度に対する影響に依存すると考えられる。
【0092】
「プライマー材料」と呼ばれていたものを用いて、特定の結合種を特定の適用のための標的化担体に結合することも可能である。本明細書において用いられる「プライマー材料」とは、例えば、粒子と標的指向リガンドまたはそのサブユニットなどの標的指向リガンドの成分との間の共有結合を形成するために化学的に利用することができる、乳濁液脂質界面活性剤層に組み込まれた任意の成分または誘導体化成分を意味する。
【0093】
したがって、標的指向リガンドは、油/水界面への直接吸着により、またはプライマー材料を用いて、封入脂質単層上に固定してもよい。プライマー材料は、特定の結合または標的指向種と化学的に結合する、またはこれらを吸着するために、担体複合体、例えば、粒子に組み込まれた、いかなる界面活性剤適合性化合物であってもよい。例えば、乳濁液を水性連続層と、連続層および不連続層の界面でプライマー材料に吸着または結合された標的指向リガンドとを用いて形成することができる。アミン、カルボキシル、メルカプト、またはカップリング剤との特定の反応が可能な他の官能基を有する天然または合成ポリマー、および高度に荷電されたポリマーをカップリング工程において用いてもよい。標的指向リガンド(例えば、抗体)を、直接吸着または化学結合によって乳濁液粒子表面に固定してもよい。直接吸着によって固定することができる標的指向リガンドの例には、小ペプチド、ペプチド様物質、または多糖性の物質が含まれる。そのような乳濁液を作成するために、特定の結合種を乳濁液形成前に水相に懸濁または溶解してもよい。または、標的指向リガンドを乳濁液形成後に加え、pH7.0の緩衝液(典型的にはリン酸緩衝化食塩水)中、室温(約25℃)で緩やかに撹拌しながら1.2〜18時間インキュベートしてもよい。
【0094】
標的指向リガンドをプライマー材料に結合する場合、通常の結合技術を用いることができる。標的指向リガンドを当技術分野において公知の方法を用い、カップリング剤でプライマー材料に共有結合してもよい。プライマー材料には、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、N-カプロイルアミン-PE、n-ドデカニルアミン、ホスファチジルチオエタノール、N-1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[4-(p-マレイミドフェニル)ブチルアミド]、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[4-(p-マレイミドメチル)シクロヘキサン-カルボキシレート]、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート]、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N[PDP(ポリエチレングリコール)2000]、N-スクシニル-PE、N-グルタリル-PE、N-ドデカニル-PE、N-ビオチニル-PE、またはN-カプロイル-PEが含まれうる。その他のカップリング剤には、例えば、カルボジイミドまたはエチレン不飽和もしくは複数のアルデヒド基のいずれかを有するアルデヒドが含まれる。使用に適したその他のカップリング剤のさらなる説明を本明細書、特にこの組成物の項の後半に提供する。
【0095】
標的指向リガンドのプライマー材料への共有結合は、本明細書に示す試薬その他を用い、例えば、中性pHの水溶液中、25℃未満の温度で、1時間から終夜の、通常の周知の反応により実施することができる。非ペプチドリガンドを含むリガンドを結合するためのリンカーの例は当技術分野において公知である。
【0096】
特定の態様において、標的指向リガンドを本発明の組成物に非共有結合を介して組み込んでもよい。当技術分野において公知のとおり、非共有結合は一般に、例えば、関連する分子の極性、関連する分子に電荷がある場合には電荷(正または負)、分子ネットワークを通しての水素結合の程度などを含む、様々な因子の関数である。非共有結合は一般には、イオン相互作用、双極子相互作用、水素結合、親水性相互作用、ファンデルワールス力、およびその任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0097】
非共有相互作用を用いて標的指向リガンドを脂質に、または直接、脂質封入担体複合体の表面の別の成分に結合してもよい。例えば、アミノ酸配列Gly-Gly-Hisを脂質封入ナノ粒子の表面に、好ましくはPEGなどのプライマー材料により結合してもよく、次いで銅、鉄またはバナジルイオンを加えてもよい。次いで、米国特許第5,466,467号に記載のとおり、ヒスチジン残基を含む抗体などのタンパク質を、銅イオンによるイオン架橋を介して脂質封入粒子に結合してもよい。水素結合の例は、脂質組成物に組み込むことができるカルジオリピン脂質を含む。非共有結合の例は、標的指向リガンド、ならびに一般には負に荷電した標的細胞指向部分または脂質封入担体表面上の部分とプライマーの正に荷電したアミノ酸残基、例えば、ポリリシン、ポリアルギニンおよびポリヒスチジン残基との間のものを含む、荷電アミノ酸などの、プライマー内または担体複合体上の残基を含むイオン相互作用によっても起こりうる。
【0098】
アミンまたはヒドロキシル基などの反応性基を含む、ポリエチレングリコールエチルアミンなどの親水性プライマーの遊離末端を、標的指向リガンドを結合するために用いることができる。例えば、ポリエチレングリコールエチルアミンをN-スクシンイミジルビオチンまたはp-ニトロフェニルビオチンと反応させて、スペーサー上に有用なカップリング基を導入してもよい。例えば、ビオチンをスペーサーに結合させてもよく、これは容易にアビジンまたはストレプトアビジンを有するタンパク質または他の標的指向リガンドに非共有結合することになる。
【0099】
乳化および/または可溶化剤を乳濁液と共に用いてもよい。そのような物質には、アカシア、コレステロール、ジエタノールアミン、グリセリルモノステアレート、ラノリンアルコール、レシチン、モノグリセリドおよびジグリセリド、モノエタノールアミン、オレイン酸、オレイルアルコール、ポロキサマー、落花生油、パルミチン酸、ポリオキシエチレン50ステアレート、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル10オレイルエーテル、ポリオキシル20セトステアリルエーテル、ポリオキシル40ステアレート、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノステアレート、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ステアリン酸、トロラミン、および乳化ワックスが含まれるが、それらに限定されるわけではない。植物または動物由来の脂質中に見られる飽和または不飽和炭化水素脂肪酸の代わりに、脂質成分としてパーフルオロ脂肪酸を有するすべての脂質を用いることができる。乳濁液と共に用いてもよい懸濁化および/または増粘剤には、アカシア、寒天、アルギン酸、モノステアリン酸アルミニウム、ベントナイト、マグマ、カルボマー934P、カルボキシメチルセルロース、カルシウムおよびナトリウムおよびナトリウム12、カラギーナン、セルロース、デキストリン、ゼラチン、ガーゴム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、メチルセルロース、ペクチン、酸化ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポビドン、プロピレングリコールアルギネート、二酸化ケイ素、アルギン酸ナトリウム、トラガカント、およびザンサンガムが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0100】
本明細書に記載のとおり、標的化担体、例えば、ナノ粒子は粒子上にガドリニウム、マグネシウム、鉄、マンガンを含むが、それらに限定されるわけではない、常磁性または超常磁性元素を、その本来の形または化学的に結合した形で組み込んでもよい。同様に、ポジトロン放出体、γ放出体、β放出体、α放出体を含む放射性核種を、その本来の形または化学的に結合した形で粒子上または粒子中に含んでいてもよい。いくつかの場合に、これらの部分を加えることで、MRI、PET、および核医学撮像技術などの臨床撮像様式を治療薬の標的化送達との組み合わせで追加使用することが可能となりうる。
【0101】
加えて、患者の組織または領域を紫外から赤外の間のスペクトル範囲の電磁エネルギーで照射し、照射の結果生じた反射、散乱、吸収および/または蛍光エネルギーのいずれかを分析することにより生じる、患者の組織または領域の視覚的表示の生成を意味する、光学撮像法を、治療薬の標的化送達と組み合わせることもできる。光学撮像法の例には、可視写真およびその変形、紫外画像、赤外画像、蛍光定量法、ホログラフィー、可視顕微鏡検査、蛍光顕微鏡検査、分光光度法、分光法、蛍光偏光法などが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0102】
光活性物質、すなわち光の下で活性である、または光に反応する化合物には、例えば、診断または治療用の適用において用いうる、発色団(例えば、所定の波長で光を吸収する材料)、フルオロフォア(例えば、所与の波長で光を放出する材料)、光増感剤(例えば、インビトロおよび/またはインビボで組織の壊死および/または細胞死を引き起こしうる材料)、蛍光材料、リン光性材料などが含まれる。「光」とは、スペクトルの紫外(UV)領域、可視領域および/または赤外(IR)領域を含むすべての光源を意味する。本発明において用いることができる適切な光活性物質は、他者によって記載されている(例えば、米国特許第6,123,923号)。
【0103】
本明細書の他所に記載のものに加えて、下記は本発明の標的化担体の中で、および/または共に標的指向リガンドとして用いるのに適した様々な種類の抗体の詳細な説明である。
【0104】
二価のF(ab')2および一価のF(ab)断片をリガンドとして用いることもでき、これらはそれぞれペプシンまたはパパイン消化による全抗体の選択的切断から誘導される。抗体は通常の技術を用いて断片化することができ、この断片(「Fab」断片を含む)を全抗体に関しての前述と同様の様式で有用性についてスクリーニングする。「Fab」領域は、重鎖および軽鎖の分枝部分を含み、特定の抗原に対する免疫学的結合を示すことが判明しているが、エフェクターFc部分を欠いている配列とおおよそ同等、または類似である重鎖および軽鎖の部分を意味する。「Fab」は、一つの重鎖および一つの軽鎖の凝集体(一般にFab'として知られている)、ならびに2Hおよび2L鎖を含む四量体(F(ab)2と呼ばれる)を含み、これらは指定の抗原または抗原ファミリーと選択的に反応することができる。抗体のFab断片を産生する方法は当技術分野において公知で、例えば、タンパク質分解、および組換え技術による合成が含まれる。例えば、F(ab')2断片は抗体をペプシンで処理することにより生成することができる。得られたF(ab')2断片は、ジスルフィド架橋を還元する処理をして、Fab'断片を生成することもできる。「Fab」抗体は本明細書に記載のものと類似のサブセット、すなわち「ハイブリッドFab」、「キメラFab」、および「改変Fab」に分類してもよい。Fc領域の除去は、分子の免疫原性を大幅に低減し、結合した炭水化物に二次的な肝臓の非特異的吸収を低減し、かつ補体活性化およびその結果としての抗体依存性細胞毒性を軽減する。補体固定および関連する細胞毒性は、標的化部位を保存しなければならない場合には有害となり、宿主キラー細胞の動員および標的細胞の破壊が望まれる場合には有益となりうる。
【0105】
ほとんどのモノクローナル抗体はマウス由来で、本質的に他の種においては様々な程度で免疫原性である。マウス抗体の遺伝子操作によるヒト化は、生体適合性が改善され、循環半減期が長い、キメラリガンドの開発につながった。本発明において用いられる抗体には、ヒト化されたもの、またはそれらが投与されることになる個人に対してより適合性とされたものが含まれる。いくつかの場合に、組換え抗体の標的化分子エピトープへの結合親和性を、結合イディオタイプの選択的指定部位突然変異誘発により改善することができる。抗体分子のそのような遺伝子操作の方法および技術は当技術分野において公知である。「ヒト化」とは、ヒトに投与した場合にヒト化抗体に対してより少ない抗体および/または免疫応答が誘発されるような、抗体のアミノ酸配列の改変を意味する。ヒト以外の哺乳動物における抗体の使用のために、抗体をその種の様式に変換してもよい。
【0106】
ファージディスプレー技術を用いて、抗体産生動物を関与させずに、広範囲の異なる抗原に対する組換えヒトモノクローナル抗体を産生することができる。一般に、クローニングはヒトBリンパ球の全メッセンジャーRNA(mRNA)から酵素「逆転写酵素」によって導出および合成された、対応するDNA(cDNA)鎖の大きい遺伝子ライブラリを作成する。例として、免疫グロブリンcDNA鎖をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅させ、所与の抗原に特異的な軽鎖および重鎖をファージミドベクターに導入する。このファージミドベクターの適切な細菌への形質移入により、バクテリオファージの表面上で一本鎖Fv(scFv)免疫グロブリン分子が発現されることになる。特定の免疫グロブリンを発現するバクテリオファージを、所望の抗原(例えば、蛋白質、ペプチド、核酸、および糖)に対する免疫吸着/ファージ増殖周期を繰り返すことにより選択する。標的抗原に厳密に特異的なバクテリオファージを適切なベクター(例えば、大腸菌、酵母、細胞)中に導入し、発酵により増幅させて、一般には天然抗体に非常に類似の構造を有する、大量のヒト抗体断片を産生する。ファージディスプレー技術は当技術分野において公知で、標的指向および治療用の適用のための独特のリガンド産生を可能にした。
【0107】
選択された抗原に対するポリクローナル抗体は、当業者であればウマ、ウシ、様々な家禽、ウサギ、マウス、またはラットなどの様々な恒温動物から容易に生成することができる。いくつかの場合に、選択された抗原に対するヒトポリクローナル抗体をヒト原料から精製することもできる。
【0108】
本明細書において用いられる「単一ドメイン抗体」(dAb)は、指定の抗原と免疫学的に反応する、VHドメインからなる抗体である。dAbはVLドメインを含まないが、抗体に存在することが知られている他の抗原結合ドメイン、例えば、κおよびλドメインを含んでいてもよい。dAbの調製法は当技術分野において公知である。例えば、Ward et al. (1989) Nature 341:544-546参照。抗体はVHおよびVLドメイン、ならびに他の公知の抗原結合ドメインからなっていてもよい。これらの型の抗体およびそれらの調製法の例は当技術分野において公知である(例えば、米国特許第4,816,467号参照)。
【0109】
さらなる例示的抗体には「一価抗体」が含まれ、これらは第二の重鎖のFc(すなわち、定常)領域に結合した重鎖/軽鎖二量体からなる凝集体である。この型の抗体は一般に抗原変調を免れる。例えば、Glennie et al. (1982) Nature 295:712-714参照。
【0110】
「ハイブリッド抗体」は、重鎖と軽鎖の一つの対は第一の抗体におけるものと相同である一方で、重鎖と軽鎖の他の対は異なる第二の抗体におけるものと相同である、抗体である。典型的に、これら二対のそれぞれは、特に異なる抗原上の異なるエピトープを結合することになる。これは「二価」の性質、すなわち、二つの抗原を同時に結合する能力をもたらす。そのようなハイブリッドは、本明細書に示すとおり、キメラ鎖を用いて生成することもできる。
【0111】
本発明は「改変抗体」も含み、これは脊椎動物抗体における天然アミノ酸配列が変更されている抗体を意味する。組換えDNA技術を用いて、所望の特徴を得るために抗体を再設計することもできる。可能な変異は多く、一つまたは複数のアミノ酸の変更から領域、例えば、定常領域の完全な再設計の範囲にわたる。可変領域における変更は、抗原結合特性を変えるために行ってもよい。抗体を操作して、乳濁液の特定の細胞または組織部位への特異的送達を助けることもできる。所望の変更を分子生物学における公知の技術、例えば、組換え技術、指定部位突然変異誘発、および他の技術により行ってもよい。
【0112】
「キメラ抗体」は、重鎖および/または軽鎖が融合タンパク質である、抗体である。典型的に、鎖の定常ドメインは一つの特定の種および/または綱からで、可変ドメインは異なる種および/または綱からである。本発明はキメラ抗体誘導体、すなわちヒト以外の動物の可変領域とヒト定常領域とを結合する抗体分子を含む。キメラ抗体分子は、例えば、マウス、ラット、または他の種の抗体からの抗原結合ドメインを、ヒト定常領域と共に含みうる。キメラ抗体を作成するための様々なアプローチが記載されており、標的とされる細胞および/または組織の表面上の選択された抗原を認識する免疫グロブリン可変領域を含むキメラ抗体を作成するために用いることができる。例えば、Morrison et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81:6851;Takeda et al. (1985) Nature 314:452;米国特許第4,816,567号および米国特許第4,816,397号;欧州特許公報EP171496およびEP173494;英国特許GB2177096B参照。
【0113】
二重特異性抗体は、抗標的部位抗体の可変領域および標的化担体複合体の表面上の少なくとも一つの抗原に特異的な可変領域を含みうる。他の場合に、二重特異性抗体は抗標的部位抗体の可変領域およびリンカー分子に特異的な可変領域を含みうる。二重特異性抗体は、例えば、体細胞交雑によるハイブリッドハイブリドーマを形成して得ることができる。ハイブリッドハイブリドーマは、Staerz et al. (1986, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83:1453)およびStaerz et al. (1986, Immunology Today 7:241)に開示されているものなどの当技術分野において公知の方法を用いて調製することができる。体細胞交雑はクアドローマを生成する二つの確立されたハイブリドーマの融合(Milstein et al. (1983) Nature 305:537-540)または一つの確立されたハイブリドーマとトリオーマを生成する第二の抗原で免疫化されたマウス由来のリンパ球との融合(Nolan et al. (1990) Biochem. Biophys. Acta 1040:1-11)を含む。ハイブリッドハイブリドーマは、特定の薬物耐性マーカーに耐性の各ハイブリドーマ細胞株を作成することにより(De Lau et al. (1989) J. Immunol. Methods 117:1-8)、または各ハイブリドーマを異なる蛍光色素で標識し、異なる蛍光細胞を選別することにより(Karawajew et al. (1987) J. Immunol. Methods 96:265-270)選択する。
【0114】
二重特異性抗体は、Staerz et al. (1985) Nature 314:628およびPerez et al. (1985) Nature 316:354によって記載されているものなどの方法を用いた化学的手段によっても作成することができる。化学的結合は、例えば、E-アミノ基またはヒンジ領域チオール基を有するホモおよびヘテロ二官能性試薬の使用に基づいて行うこともできる。5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DNTB)などのホモ二官能性試薬は二つのFabの間にジスルフィド結合を生成し、O-フェニレンジマレイミド(O-PDM)は二つのFabの間にチオエーテル結合を生成する(Brenner et al. (1985) Cell 40:183-190、Glennie et al. (1987) J. Immunol. 139:2367-2375)。N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)などのヘテロ二官能性試薬は、クラスまたはアイソタイプに関係なく、抗体およびFab断片の露出したアミノ基を結合する(Van Dijk et al. (1989) Int. J. Cancer 44:738-743)。
【0115】
二官能性抗体は遺伝子操作技術によっても調製することができる。遺伝子操作は抗体の特定の断片をコードするDNA配列をプラスミドに連結するための組換えDNA技術を用いて、組換えタンパク質を発現させることを含む。二重特異性抗体は、二つのscFv断片をリンカーを用いて結合することにより一つの共有結合構造として(Winter et al. (1991) Nature 349:293-299);転写因子fosおよびjun由来の配列を同時発現するロイシンジッパーとして(Kostelny et al. (1992) J. Immunol. 148:1547-1553);p53の相互作用ドメインを同時発現するヘリックス-ターン-ヘリックスとして(Rheinnecker et al. (1996) J. Immunol. 157:2989- 2997)、または組換え型二重特異性抗体(diabody)として(Holliger et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6444-6448)作成することもできる。
【0116】
本明細書の他所に記載のものに加えて、下記は例えばプライマー材料を特定の結合または標的指向リガンドに結合する際に用いるのに適したカップリング剤の詳細な説明である。その他のカップリング剤は、1-エチル-3-(3-N,Nジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩または1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメチル-p-トルエンスルホン酸塩などのカルボジイミドを用いる。他の適切なカップリング剤には、アクロレイン、メタクロレイン、もしくは2-ブテナールなどのエチレン不飽和、またはグルタルアルデヒド、プロパンジアールもしくはブタンジアールなどの複数のアルデヒド基のいずれかを有するアルデヒドカップリング剤が含まれる。他のカップリング剤には、2-イミノチオラン塩酸塩;スベリン酸ジスクシンイミジル、酒石酸ジスクシンイミジル、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、ジスクシンイミジルプロピオネート、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)などの二官能性N-ヒドロキシスクシンイミドエステル;N-(5-アジド-2-ニトロベンゾイルオキシ)スクシンイミド、臭化p-アジドフェニル、p-アジドフェニルグリオキサール、4-フルオロ-3-ニトロフェニルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミジル-4-アジドベンゾエート、m-マレイミドベンゾイルN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、メチル-4-アジドフェニルグリオキサール、4-フルオロ-3-ニトロフェニルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミジル-4-アジドベンゾエート塩酸塩、p-ニトロフェニル2-ジアゾ-3,3,3-トリフルオロプロピオネート、N-スクシンイミジル-6-(4'-アジド-2'-ニトロフェニルアミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-スクシンイミジル(4-アジドフェニルジチオ)プロピオネート、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、N-(4-アジドフェニルチオ)フタルアミドなどのヘテロ二官能性試薬;1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン、4,4'-ジフルオロ-3,3'-ジニトロジフェニルスルホン、4,4'-ジイソチオシアノ-2,2'-ジスルホン酸スチルベン、p-フェニレンジイソチオシアネート、カルボニルビス(L-メチオニンp-ニトロフェニルエステル)、4,4'-ジチオビスフェニルアジド、エリスリトール二炭酸エステルなどのホモ二官能性試薬;ならびにアジポイミド酸ジメチル塩酸塩、スベルイミド酸ジメチル、3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル塩酸塩などの二官能性イミドエステルなどが含まれる。
【0117】
本発明の標的化担体は、本明細書に記載され、当技術分野において公知の、様々な技術によって調製することができる。本発明の標的化担体としてのナノ粒子乳濁液を調製するための典型的方法において、中心の油および脂質/界面活性剤コーティングの成分を水性媒質中で流動化して乳濁液を形成する。表面層の官能性成分は元の乳濁液に含まれていてもよく、または後でナノ粒子乳濁液の形成に続いて表面層に共有結合させてもよい。一つの特定の場合に、例えば、核酸標的指向物質または治療薬が含まれる場合、コーティングは陽イオン界面活性剤を用いてもよく、粒子が形成された後に核酸が表面に吸着される。
【0118】
一般に、乳化工程は、水溶液、プライマー材料または標的指向リガンド、中心の油および界面活性剤(含まれる場合)を含む混合物の高圧流を、それらが互いに衝突して厳密な粒径および分布が得られるよう誘導することを含む。MICROFLUIDIZER器具(Microfluidics, Newton, MA)を用いて好ましい乳濁液を作ることもできる。この器具は超音波処理または他の通常の方法で調製した乳濁液を後処理するためにも有用である。乳濁液の液滴流をMICROFLUIDIZER器具に通し、径が小さく、厳密な粒径分布の調合物が得られる。
【0119】
乳濁液を調製するための別法は、油と適切なプライマー材料および/または標的指向リガンドを含む水溶液との混合物の超音波処理を含む。一般に、これらの混合物は界面活性剤を含む。乳化する混合物を冷却し、界面活性剤の濃度を最小限に抑え、食塩水緩衝液で緩衝化することにより、典型的には、標的指向リガンドの特異的結合特性の保持、およびプライマー材料の結合能力の両方が最大となる。これらの技術は一般に、吸着したプライマー材料または標的指向リガンドの単位あたりの活性が高い、優れた乳濁液を提供する。
【0120】
いくつかの場合に、高濃度のプライマー材料または標的指向リガンドを脂質乳濁液にコーティングする場合、混合物を超音波処理中に加熱し、比較的低いイオン強度および中〜低pHを有していなければならない。イオン強度、pHが低すぎたり、加熱しすぎると、いくらかの分解または標的指向リガンドの有用な結合特性もしくはプライマー材料の結合能力すべての損失が起こることもある。乳化条件の注意深い制御と変動により、プライマー材料または標的指向リガンドの特性を最適化する一方で、高濃度のコーティングを得ることができる。
【0121】
乳濁液の粒径は、乳化技術および化学成分の改変によって制御および変動することができる。粒径を決定する技術および装置は当技術分野において公知で、レーザー光散乱および粒子によるレーザー光散乱を測定するための分析器が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0122】
適切にに調製された場合、標的化担体は複数のそのような官能性物質を外部表面上に含む。例えば、ナノ粒子は典型的には数百または数千の治療薬、標的指向リガンド、放射性核種、および/または造影剤分子を含む。MRI造影剤に関して、ナノ粒子に結合する成分のコピーの数は典型的には一つの粒子につき5,000コピーを超え、より好ましくは一つの粒子につき10,000コピー、さらにより好ましくは30,000、さらにより好ましくは一つの粒子につき50,000〜100,000またはそれ以上のコピーである。一つの粒子あたりの標的指向リガンドの数は典型的には数百程度少ないが、PET造影剤、フルオロフォア、放射性核種、および治療薬の濃度も変動する。
【0123】
乳濁液は成分の性質に応じて様々な方法で調製することができる。例示のためにのみ用いられる典型的な方法において、以下の方法を示す:臭化パーフルオロオクチル(PFOB、20%v/v)、ベニバナ油(2%w/v)、界面活性剤共同混合物(co-mixture)(2.0%w/v)、グリセリン(1.7%w/v)および量を合わせるための水を調製する。界面活性剤共同混合物は58モル%のレシチン、10モル%のコレステロール、1.8モル%のホスファチジルエタノールアミン、0.1モル%のPEG2000-ホスファチジルエタノールアミン(標的指向リガンド)に結合したペプチド様ビトロネクチンアンタゴニスト、および30モル%のクロロホルムに溶解したジエチレン-トリアミン-五酢酸-ビス-オレイン酸ガドリニウムを含む。治療薬を2%界面活性剤層の0.01〜50モル%の間、2%界面活性剤層の0.01〜20モル%の間、2%界面活性剤層の0.01〜10モル%の間、2%界面活性剤層の0.01〜5.0モル%の間、好ましくは2%界面活性剤層の0.2〜2.0モル%の間の滴定された量で加える。クロロホルム-脂質混合物を減圧下で蒸発させ、50℃の減圧乾燥器内で終夜乾燥し、超音波処理により水中に分散させる。懸濁液を蒸留水または脱イオン水中の油と共にブレンダーカップ(例えば、Dynamics Corporation of Americaから入手)に移し、30〜60秒間乳化する。乳化混合物をMicrofluidics乳化機に移し、20,000 PSIで4分間、連続的に処理する。完成した乳濁液をバイアルに入れ、窒素を充填し、使用まで栓圧着シールで密封する。対照乳濁液は、界面活性剤共同混合物から治療薬および/または標的指向リガンドを除いて、同じように調製することができる。粒径は一般にレーザー光散乱サブミクロン粒径分析器(Malvern Zetasizer 4, Malvern Instruments Ltd., Southborough, MA)を用い、37℃で三回繰り返して測定し、これは厳密で再現性の高い粒径分布を示す。組み込まれていない治療薬は、透析または限外ろ過技術により、乳濁液から除去することができる。
【0124】
キット
本発明の標的化担体を調製し、本発明の方法において直接用いてもよく、または標的化担体の成分をキットの形で供給してもよい。キットは、少なくとも一つの治療薬およびすべての所望の補助材料を緩衝液中または凍結乾燥体で含む、非標的化組成物を含んでいてもよい。キットは、少なくとも一つの治療薬およびすべての所望の補助材料ならびに標的指向材料を緩衝液中または凍結乾燥体で含む、あらかじめ調製した標的化組成物を含んでいてもよい。または、キットは、別に供給される標的指向物質を含まない標的化担体の形を含んでいてもよく、またはキットは、別に供給される治療薬を含まない標的化担体の形を含んでいてもよい。これらの状況下で、典型的には、標的化担体用の成分は、マレイミド基などの反応性基を含むことになり、この基は成分を標的指向物質および/または治療薬と混合する場合に標的指向物質および/または治療薬の標的化担体自体への結合を行う。別の容器がカップリングを行うのに有用な追加の試薬を提供してもよい。または、標的化担体用の成分は、それ自体が反応性基を含む、別に供給される所望の成分に結合されたリンカーに結合する反応性基を含んでいてもよい。適切なキットを作成するための多様なアプローチが構想されうる。最終的標的化担体を作る個々の成分は、したがって、別の容器で供給してもよく、またはキットはキット自体とは別に提供される他の材料と組み合わせるための試薬を単に含んでいてもよい。
【0125】
組み合わせの非網羅的リストには下記が含まれる:それらの脂質-界面層に治療薬およびフルオロフォアまたはキレート剤などの補助成分があればそれと、標的指向リガンドに結合するための反応性部分を含む、標的化担体調製物;標的化担体が標的指向リガンドに結合され、治療薬および補助材料があればそれに結合するための反応性基を含む、その逆;標的指向リガンドおよび治療薬の両方と、おそらくはキレート剤を含むが、キレート化される金属がキット中で供給されるか、または使用者により独立に提供される、乳濁液;脂質層の材料が異なる反応性基を含む、界面活性剤/脂質層と、標的指向リガンド用の一組の反応性基と、治療薬用の一組の反応性基と、補助物質用のもう一組の反応性基とを含むナノ粒子の調製物;反応性基がリンキング剤によって供給される、前述の任意の組み合わせを含む標的化担体の調製物。
【0126】
下記の実施例は例示のために示すもので、本発明を限定するものではない。
【0127】
実施例1
標的化アテローム性動脈硬化症治療-一次予防戦略
A. ナノ粒子製剤およびモデルシステム
本発明において用いるためのαvβ3-インテグリンを標的とする常磁性パーフルオロカーボンナノ粒子の乳濁液を、Winter et al. (2003) Circulation 108:2270-2274に記載のとおりに調製した。一般に、ナノ粒子乳濁液は20%(v/v)臭化パーフルオロオクチル(PFOB;Minnesota Manufacturing and Mining)、2%(w/v)ベニバナ油、2%(w/v)界面活性剤共同混合物(co-mixture)、1.7%(w/v)グリセリンおよび量を合わせるための水で構成されていた。界面活性剤共同混合物は58モル%のレシチン(Avanti Polar Lipids, Inc.)、10モル%のコレステロール(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)、0.1モル%のPEG2000-ホスファチジルエタノールアミン(Avanti Polar Lipids, Inc.)に結合したペプチド様ビトロネクチンアンタゴニスト(米国特許第6,322,770号)、1.8モル%のホスファチジルエタノールアミン(Avanti Polar Lipids, Inc.)、および30モル%のジエチレン-トリアミン-五酢酸-ビス-オレイン酸ガドリニウム(Gd3+、Gateway Chemical Technologies)(米国特許第5,571,498号)を含んでいた。
【0128】
フマギリンの局所送達において用いるためのナノ粒子製剤は、界面活性剤混合物中、レシチンを比例的に差し引いて0.2モル%のフマギリンを含んでいた。非標的化ナノ粒子はインテグリンホーミングリガンドを除外し、その代わりに界面活性剤混合物中でホスファチジルエタノールアミンが等量増加した。
【0129】
界面活性剤成分はLanza et al. (2002) Circulation 106:2842-2847およびWinter et al. (2003) Circulation 108:2270-2274に記載のとおりに調製し、PFOB、ベニバナ油および蒸留脱イオン水と混合した。混合物をM110S Microfluidics乳化機(Microfluidics, Inc, Newton, MA)中、20,000 PSIで4分間乳化した。粒径をレーザー光散乱サブミクロン粒子分析器(Malvern Instruments, Malvern, Worcestershire, UK)を用いて37℃で測定した。乳濁液中のGd3+およびナノ粒子の濃度を測定し、ナノ粒子一つあたりのGd3+-複合体の数を算出した。
【0130】
フマギリンナノ粒子乳濁液(250μl)を、60,000MWカットオフ透析管中、3.5mlの放出媒質(0.9%NaCl、0.2mg/mlヒト血清アルブミンおよび0.05%アジ化ナトリウム)に対し、37℃で連続撹拌して透析した。放出媒質は毎日取り替え、放出されたフマギリン濃度を分析した。フマギリンを逆相HPLC(Waters Corporation)で分析した。クロマトグラフィを、Waters Novapak C18、60Å、4μm逆相カラム(3.9X150mm)を用い、均一濃度の50%アセトニトリル/0.05%リン酸の移動相(1ml/分、室温)で実施した。
【0131】
アテローム性動脈硬化症を誘導するために、雄ニュージーランド白ウサギ(Charles River Laboratories)に0.5%コレステロール飼料(Purina Mills)を約80日間与えた。ベースラインで、すべてのウサギを1〜2%イソフルランで麻酔し、1.5Tの磁気共鳴撮像法(MRI)で撮像した。ベースラインMRIに続き、ウサギに耳静脈からαvβ3標的化フマギリンナノ粒子(n=5)、フマギリンなしのαvβ3標的化ナノ粒子(n=6)、または非標的化フマギリンナノ粒子(n=6)のいずれかを1ml/kgで注射した。ナノ粒子注射の4時間後、ウサギをMRIで再度撮像し、シグナル増強の程度および分布を評価した。
【0132】
ナノ粒子の投与後、すべてのウサギに通常のウサギ固形飼料(Purina Mills)を与えた。1週間後、各ウサギの血管形成のレベルを、治療中に用いたのと同じ撮像プロトコル(すなわち、ベースラインMRI、標的化造影剤の注射に続き、注射後4時間で二回目のMR)により、αvβ3標的化常磁性ナノ粒子(1.0ml/kg;薬物なし)を用いて分子撮像することにより再評価した。
【0133】
ベースラインでおよび最後の撮像作業(session)後(1週間後)に、血液試料を耳静脈から採取して、臨床化学および血液学評価を行った。
【0134】
B. 組織検査法および磁気共鳴撮像法
磁気共鳴撮像法を、臨床スキャナ(NT Intera CV, Philips Medical Systems)およびクワドラチャバードケージ型ラジオ周波数受信用コイルを用い、臨床上適切な磁場強度である1.5Tで行った。麻酔したウサギを常磁性ナノ粒子の静脈投与前と、投与の4時間後に走査した。腎動脈から横隔膜までの全腹部大動脈のマルチスライスT1強調、スピンエコー、脂肪抑制、ブラックブラッド(black-blood)画像を得た(TR=380ms、TE=11ms、画内分解能250X250μm、スライス厚5mm、平均シグナル数=8)。
【0135】
大動脈壁のMRIシグナル増強を、Winter et al. (2003) Circulation 108:2270-2274に記載の特注半自動セグメント化プログラムを用いて算出した。簡単に言うと、大動脈管腔を基点あり領域成長法(seeded region-growing algorithm)によりそれぞれ2次元画像に明確化した。動脈壁を管腔マスクの拡張によるセグメント化後、自動閾値化した。画像強度を、視野内においた基準マーカー(試験管ファントム内のガドリニウム-DTPA/食塩水溶液)に対して基準化した。大動脈壁のシグナル増強を、ベースラインでその動物の平均MRI強度に関してスライスごとに計算した。すべてのMRシグナルデータを、ANOVA法(すなわち、General Linear Models)と、ダンカンの多重検定を用いた有意モデル効果に対する治療群平均分類を用いて統計解析を行った(p<0.05、SAS, Inc.)。
【0136】
組織検査および免疫組織検査のために、横隔膜と腎動脈との間の大動脈の4分割それぞれからホルマリン固定した試料をパラフィン包埋し、切断(4μm)し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。早期新生内膜斑の発生が最も一貫して見られる横隔膜の付近から同様の大動脈セグメントを得た。これらのセグメントを、例えば、Winter et al. (2003) Circulation 108:2270-2274に記載の通常の方法を用い、形成血管上のαvβ3-インテグリン(LM-609, Chemicon International, Inc)および豊富な内膜細胞マーカーであるCD31(Chemicon International, Inc)について染色した。鏡検像をNikon E800研究用顕微鏡を用いて得て、Nikon DXM1200カメラでデジタル化した。
【0137】
C. 撮像、組織検査、臨床化学および血液学検査の結果
実験で用いるための3つの常磁性ナノ粒子製剤(すなわち、αvβ3標的化フマギリンナノ粒子、フマギリンなしのαvβ3標的化ナノ粒子、および非標的化フマギリンナノ粒子)はすべて、実施例1に記載のとおりに調製した。3つの常磁性ナノ粒子製剤はすべて、公称直径175nm〜220nmの範囲の類似の粒径分布および同様の常磁性ペイロード(粒子1個あたり約90,000のガドリニウムイオン)を有していた。標的化および非標的化フマギリンナノ粒子はいずれも、正味のペイロード約26μg/mlのために理論的薬物ペイロード(30μgフマギリン/ml)の約87%を組み込んだ。フマギリンはよく保持され、インビトロでの溶解中、シンク条件下で組み込まれた用量の9%未満がナノ粒子から拡散した(図1)。フマギリン放出の大部分は1日目に起こり(約5%)、さらなる放出は4日目まで検出されなかった。一般に、フマギリンの疎水性により<10%が放出されることになる。
【0138】
ベースライン走査中に、T1加重ブラックブラッド(T1-weighted black blood)画像からは腹部大動脈の壁内に著しい斑発生の肉眼的徴候は認められず、すなわち、年齢を対応させたアテローム性動脈硬化症を持たないウサギによる以前の実験に比べて、管腔狭窄または壁肥厚は見られなかった。フマギリンありとなし両方のαvβ3標的化ナノ粒子を注射したアテローム性動脈硬化症ウサギの大動脈壁からのMRIシグナル増強は、斑状分布を示し(図2、左図)、一般に横隔膜近辺で血管形成のレベルが高かった。非標的化ナノ粒子(フマギリンあり)は同様の不均一な分布であるが、範囲が狭く、レベルがはるかに低いMRI増強を示し、非標的化ナノ粒子による他の研究結果と一致していた。
【0139】
同様の増強が、フマギリンあり(図2上)またはなし(図2下)のαvβ3標的化常磁性ナノ粒子による治療時に認められ、ナノ粒子がうまく脈管の血管に送達されたことを示していた。すべての撮像スライスを平均したMRIシグナル増強は、フマギリンあり(16.7±1.1%)およびなし(16.7±1.6%)のαvβ3標的化ナノ粒子で同等であった(図3、黒棒)。しかし、非標的化ナノ粒子はではいずれのαvβ3標的化製剤と比べてもシグナル増強は小さく(10.8±1.1%、p<0.05)、透過性亢進形成血管系からの非特異的漏出を示していた。
【0140】
ナノ粒子治療の1週間後に、大動脈壁内の残存血管形成活性を評価した。ベースライン走査を繰り返した後、αvβ3標的化常磁性ナノ粒子(薬物なし)を注射し、注射の4時間後にコントラスト増強撮像を行った。ベースラインでの大動脈壁シグナル強度は治療時および追跡1週間後にすべての群で同等で、以前に投与した常磁性ナノ粒子が検出不可能であることが確認された。これは、本試験における4時間の時点を以前の2時間での測定に比べた場合の増強減衰(それぞれ20%と50%)に一致していた。実際、最小の増強が注射後24時間で観察され、ナノ粒子の比較的速い局所代謝が示唆される。
【0141】
αvβ3標的化フマギリンナノ粒子治療の1週間後の形成血管系から得たMRIシグナル増強は、範囲(図2、右上図)および強度(図3)において顕著に低下し(2.9±1.6%;p<0.05)、血管形成のレベル低下を反映していた。これに比べて、フマギリンなしのαvβ3標的化ナノ粒子治療の1週間後のMRIシグナル増強は減衰しなかった(18.1±2.1%;図2、右下図および図3)。したがって、治療の1週間後、フマギリンありのαvβ3標的化ナノ粒子で治療した動物では、薬物なしの対応する動物に比べて血管形成の顕著な低下が観察された。
【0142】
個々の動物の傾向(図3、実線)は、αvβ3標的化フマギリンナノ粒子で治療した5羽のウサギすべてで非常に一貫した低下を示す。これとはまったく対照的に、フマギリンなしのαvβ3標的化ナノ粒子を注射した6羽のうち5羽でMRコントラストは静止または増大した。αvβ3標的化ナノ粒子は、標的化フマギリン粒子による治療1週間後に有意に低い血管形成を示す(図4)。非標的化フマギリンナノ粒子による治療は、治療後1週間のMRIシグナル増強により評価して、フマギリンなしのαvβ3標的化ナノ粒子に比べて血管形成を有意に阻害しなかった(12.4±0.9%)(図4)。
【0143】
αvβ3標的化フマギリンナノ粒子で治療した5羽のウサギにおいて、各ウサギからの大動脈増強データを二つの広い解剖学的部位、すなわち横隔膜(上半分)と腎動脈(下半分)に分け、治療時に検出されたコントラストシグナルの強度を治療後1週間で観察されたコントラスト変化のパーセンテージに対してプロットした。治療時に高いMRI増強(すなわち、薬物の最大送達)を示す大動脈領域は、1週間後に血管形成の最も大きい低下を示した(図5)。したがって、撮像により標的化療法の重要なフィードバックが得られ、薬物送達の妥当性はシグナルの強度に関連し、これは次いで治療効果に相関している。
【0144】
ナノ粒子治療の1週間後に得た腹部大動脈切片の試験から、すべてのウサギで早期アテローム性動脈硬化症に一致する、軽度の不均質に分布した内膜肥厚が示された。新生内膜斑が厚いほど、一般には外膜-中膜境界面にそって観察される新生血管増殖の程度が高かった。治療群に関係なくすべてのウサギは明らかに正常な領域が不均質に散在する内膜斑を有していたが、最も顕著な病態はフマギリンなしのαvβ3標的化ナノ粒子で治療したウサギで認められた(図6a)。これらの高脂血症対照動物において、大動脈内膜肥厚は実質的にすべての場合に脈管の血管の根源的な血管形成拡大を伴っていた(図6b)。
【0145】
これと対比して、αvβ3標的化フマギリンナノ粒子を投与したウサギでは、根源的血管形成を伴う内膜斑はほとんど見られず、斑の大部分は新生血管系を伴っていなかった。内膜斑が完全に環状で、αvβ3-インテグリン陽性微小血管系の発現が見られない切片もあれば、斑の下の部分の外膜で新生血管系が検出されるが、他の領域の下では検出されないものもあった(図6c)。これらの場合に、斑は形成血管がない領域に比べて外膜の新生血管系の上で顕著に厚かった(図6d)。時折、外膜における持続的血管形成領域は斑を伴い、これは新生血管性の脈管の血管拡張が観察されない領域で厚さを急激に変化させた(図7)。
【0146】
非標的化フマギリンナノ粒子により治療したウサギからの組織検査は一般に、対照群のフマギリンなしのαvβ3標的化ナノ粒子に曝露された大動脈切片と同様であった。いくつかの斑はほとんど、またはまったく血管形成を示さなかった(フマギリンありのαvβ3標的化ナノ粒子を投与したウサギと同様)が、これらの所見の頻度は低かった。
【0147】
ベースライン血清コレステロールレベルは1565±155mg/dlであった。ナノ粒子治療後、すべてのウサギに通常のウサギ固形飼料を与えたが、総血清コレステロールレベルは高いままで、屠殺時には3群すべてでほぼ同等であった(αvβ3標的化フマギリンナノ粒子:1132±192mg/dl;αvβ3標的化対照ナノ粒子:1454±221mg/dl;非標的化フマギリンナノ粒子:1485±213mg/dl)。治療の1週間後、どのナノ粒子製剤(フマギリンありまたはなしのαvβ3標的化または非標的化)も、公表されている正常範囲に比べて(例えば、Olfert et al. (1993) Guide to The Care and Use of Experimental Animals. 2 ed. Ontario, Canada: Canadian Council on Animal Care参照)、電解質、肝機能、または血液検査値を変えることはなかった。
【0148】
前述のとおり、Moulton et al. (1999)は1kgあたり30mgのTNP-470(フマギリン類縁体)を1日おきに13週間、すなわち合計1.67g/kgの投与により、内膜血管の減少およびアテローム拡大の減衰を報告した。標的化ナノ粒子による前述の結果は、30μg/kgのフマギリンの単回投与で達成された。したがって、フマギリンを送達するための標的化ナノ粒子の使用により、Moulton et al. (1999)において投与されたTNP-470の量に比べて5.6X104分の1という低い量の薬物投与が可能となった。
【0149】
実施例2
標的化アテローム性動脈硬化症治療-二次予防戦略
下記のモデルを用いて、バルーン過伸展傷害後の正常およびアテローム性硬化動脈における新生血管発生を、αvβ3標的化フマギリン常磁性ナノ粒子により抑制することの、新生内膜発生に対する効果を評価する。
【0150】
正常およびコレステロール給餌ニュージーランド白ウサギ(0.25%コレステロール飼料で約90日間)をベースライン腹部大動脈MR撮像(プロトンおよび19フッ素)にかけた後、αvβ3-インテグリンを標的とする常磁性ナノ粒子(例えば、治療薬なしで実施例1に記載のとおり)の静脈内注射を行う。注射の2時間後、ウサギを傷害前MRIシグナルを得たのと同様の方法に従い再度撮像する。
【0151】
動物にカテーテルを留置し、腹部大動脈内でバルーン過伸展により傷害する。動物にはすべてその試験前飼料を続けて与える。傷害後0日目、5日目、10日目および15日目に、常磁性ナノ粒子を用いて再度撮像(傷害前と同様)することにより、傷害血管セグメントにおける血管形成を評価し、傷害前シグナルレベルと比較する。MRI血管造影をすべての動物で行い、続いて分子撮像を行ってインビボ管腔径を評価する。15日目のMR撮像後、各動物を剖検し、傷害大動脈セグメントを組織検査(例えば、H&E、αvβ3-インテグリン、ウサギ内皮マーカー、マクロファージ)用に摘出する。この評価により、傷害後血管形成をαvβ3標的化フマギリンナノ粒子存在下での試験と比較するための一時的情報が得られる。
【0152】
治療薬を含む標的化ナノ粒子による試験のために、正常およびコレステロール給餌ニュージーランド白ウサギ(0.25%コレステロール飼料で約90日間)に腹部大動脈内のバルーン過伸展傷害を行った後、αvβ3-インテグリンを標的とする常磁性ナノ粒子を用いてベースライン腹部大動脈MRI撮像(プロトンおよび19フッ素)を行う。MRI(TOF、造影剤無添加)血管造影をすべての動物で行い、続いて分子撮像を行ってインビボ管腔径を評価する。指定された日(上の試験で決めたとおり)に、各飼料群の動物の半数にαvβ3-インテグリンを標的とするフマギリンを含む常磁性ナノ粒子(実施例1に記載のとおり)を投与し、残りの動物には薬物なしの分子撮像物質を投与する。注射の2時間後、ウサギを同様のMR法に従い再度撮像する。動物にはすべてその試験前飼料を続けて与える。14日および28日後に傷害血管セグメントの血管形成の進行および新生内膜狭窄を、血管セグメントのMR血管造影を行った後、αvβ3標的化常磁性ナノ粒子を用いて再度撮像することにより評価する。28日目のMR撮像後、各動物を剖検し、傷害大動脈セグメントを組織検査(例えば、H&E、αvβ3-インテグリン、ウサギ内皮マーカー、マクロファージ)用に摘出する。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】ナノ粒子からのフマギリンの1日あたり(四角)および累積(丸)放出を示すグラフである。
【図2】フマギリンを含む、またはフマギリンなしのαvβ3標的化ナノ粒子を注射したアテローム性動脈硬化症動物の治療時(左)および治療後1週間(右)の、シグナル増強パーセントのフォールスカラーオーバーレイによる腹部大動脈の解剖学的MR画像を示す図である。カラーコードシグナル増強をベースラインを越えたパーセントで示している(青から赤のフォールスカラー)。
【図3】フマギリンを含む、またはフマギリンなしの標的化ナノ粒子を注射したアテローム性動脈硬化症動物の大動脈壁からの、治療時(黒棒)および治療後1週間(白棒)の全撮像セクションを平均したMRIシグナル増強を示すグラフである。実線は個々の動物の治療時から治療後1週間までの反応を示す。
【図4】フマギリンを含む、もしくはフマギリンなしの標的化ナノ粒子、またはフマギリンを含む非標的化粒子を注射したアテローム性動脈硬化症動物の大動脈壁からの、治療後1週間のMRI増強を示すグラフである。
【図5】フマギリンを含むαvβ3標的化ナノ粒子を注射した動物の治療時のMRI増強の程度(水平軸)に対し治療1週間後のMRI増強の変化をプロットしたグラフである。
【図6】ナノ粒子治療の1週間後に得た腹部大動脈の組織切片を示す図である。画像上、大動脈の各部分を以下の通りに示す:P−斑、L−管腔、A−外膜、M−中膜。図6aは、フマギリンなしのαvβ3標的化ナノ粒子を用いて治療した動物からのαvβ3-インテグリン発現について染色した腹部大動脈切片(4X)を示しており、大きいアテローム斑が明らかである。図6bは、斑成長を支持するためにαvβ3-インテグリンを発現している脈管の血管の高い新生血管拡張(黒矢印)を、高倍率(60X)で示している。図6cは、αvβ3-インテグリン発現について染色した、αvβ3標的化フマギリンナノ粒子治療の7日後の腹部大動脈切片(4X)を示している。図6dは、残存斑(赤矢印)の下には形成血管がないことを示している。
【図7】αvβ3標的化フマギリンナノ粒子治療の1週間後に得た腹部大動脈の組織切片を示す図である。黒矢印は斑に関連する外膜の持続性血管形成領域を示し、赤矢印は新生血管性脈管の血管拡張が観察されない領域に関連する斑の厚みの急激な変化を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張した脈管の血管組織における血管形成を低下させる方法であって、そのような組織を有する被検者に、抗血管形成剤に結合した脈管の血管組織に特異的な標的指向リガンドを含む標的化担体を投与する段階を含む方法。
【請求項2】
標的化担体がナノ粒子乳濁液であり、かつ標的指向リガンドと抗血管形成剤とがナノ粒子中の共存により結合される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
標的指向リガンドが活性化内皮細胞上の部分に向けられる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
標的指向リガンドがαvβ3インテグリンに結合する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
抗血管形成剤がフマギリンである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
被検者が一次予防的治療または二次予防的治療を必要としている、請求項1記載の方法。
【請求項7】
標的化担体が撮像造影剤をさらに含み、かつ被検者への投与後に標的化担体を撮像する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
早期アテローム斑負荷を軽減する方法であって、それを必要としている被検者に、抗血管形成剤に結合した脈管の血管組織に特異的な標的指向リガンドを含む標的化担体を投与する段階を含む方法。
【請求項9】
標的化担体がナノ粒子乳濁液であり、かつ標的指向リガンドと抗血管形成剤とがナノ粒子中の共存により結合される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
標的指向リガンドが活性化内皮細胞上の部分に向けられる、請求項8記載の方法。
【請求項11】
標的指向リガンドがαvβ3インテグリンに結合する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
抗血管形成剤がフマギリンである、請求項8記載の方法。
【請求項13】
標的化担体が撮像造影剤をさらに含み、かつ被検者への投与後に標的化担体を撮像する段階をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項14】
アテローム斑安定化法であって、そのような斑を有する被検者に、抗血管形成剤に結合した脈管の血管組織に特異的な標的指向リガンドを含む標的化担体を投与する段階を含む方法。
【請求項15】
標的化担体がナノ粒子乳濁液であり、かつ標的指向リガンドと抗血管形成剤とがナノ粒子中の共存により結合される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
標的指向リガンドが活性化内皮細胞上の部分に向けられる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
標的指向リガンドがαvβ3インテグリンに結合する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
抗血管形成剤がフマギリンである、請求項14記載の方法。
【請求項19】
標的化担体が撮像造影剤をさらに含み、かつ被検者への投与後に標的化担体を撮像する段階をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項20】
アテローム斑退縮法であって、そのような斑を有する被検者に、抗血管形成剤に結合した脈管の血管組織に特異的な標的指向リガンドリガンドを含む標的化担体を投与する段階を含む方法。
【請求項21】
標的化担体がナノ粒子乳濁液であり、かつ標的指向リガンドと抗血管形成剤とがナノ粒子中の共存により結合される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
標的指向リガンドが活性化内皮細胞上の部分に向けられる、請求項20記載の方法。
【請求項23】
標的指向リガンドがαvβ3インテグリンに結合する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
抗血管形成剤がフマギリンである、請求項20記載の方法。
【請求項25】
標的化担体が撮像造影剤をさらに含み、かつ被検者への投与後に標的化担体を撮像する段階をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項26】
ナノ粒子が脈管の血管組織に特異的な標的指向リガンドに結合され、かつナノ粒子が抗血管形成剤を含む、ナノ粒子の乳濁液を含む組成物。
【請求項27】
標的指向リガンドが活性化内皮細胞上の部分に向けられる、請求項26記載の組成物。
【請求項28】
標的指向リガンドがαvβ3インテグリンに結合する、請求項27記載の組成物。
【請求項29】
抗血管形成剤がフマギリンである、請求項26記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−517874(P2007−517874A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549216(P2006−549216)
【出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/001106
【国際公開番号】WO2005/077407
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(506245648)
【Fターム(参考)】