説明

標的核酸の検出方法及びテストストリップ

【課題】核酸増幅産物から、イムノクロマトグラフィー法により標的核酸の有無を容易に検出可能な方法の提供。
【解決手段】試料中の標的核酸1−1を、それぞれ第1、第2標識物質1−4、1−5により末端が標識された第1、第2プライマー1−6を用いてPCR増幅する工程と、得られた増幅産物1−8を、アプライ領域1−16、第1パートナー1−11が固定されているテスト領域1−18、及び第2パートナー1−12が結合している着色粒子1−10が流出可能な状態で保持されているコンジュゲート領域1−17を有するテストストリップ1−15のアプライ領域に滴下し、展開後、テスト領域における着色粒子の集積を指標として標的核酸を検出する工程とを有し、前記ストリップが、アプライ領域とテスト領域の間に第1プライマーと特異的に結合するが第1標識物質とは結合しない物質が固定されているキャプチャー領域を有する標的核酸の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR増幅により両端を異なる標識物質により標識した標的核酸を、イムノクロマトグラフィー法により検出する方法、及び、当該方法に用いられるテストストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の遺伝子解析技術の進歩に伴い、遺伝子欠失や薬剤感受性SNP(Single nucleotide polymorphism)等の遺伝子診断が広がりつつある。特に臨床検査においては、血液等の臨床検体から遺伝子である核酸を、簡便に、かつ良好な感度及び精度で検査できることが重要であり、このため、簡便さ、感度、及び精度の全てが良好な核酸分析方法が求められている。
【0003】
元来、臨床検体中の核酸は微量であり、増幅して分析することが一般的である。核酸の増幅方法としては、非特許文献1に示されるPCR(ポリメラーゼ・チェーン・リアクション)法が汎用されている。分析対象である核酸(標的核酸)をPCR増幅した後、この増幅された標的核酸を検出する方法としては、イムノクロマトグラフィー法、ラテックス凝集法、サンドイッチ法等が挙げられる。中でも、イムノクロマトグラフィー法は操作が簡便であり、臨床検査にも好適である。
【0004】
PCR増幅した標的核酸をイムノクロマトグラフィー法を用いて検出する方法としては、例えば、まず、PCR増幅により、標識化したオリゴヌクレオチドプライマーを用いて標的核酸を増幅すると共に標識を導入し、この増幅産物からなる試料をイムノクロマトグラフ用のテストストリップにアプライし、毛細管現象を利用してテストストリップ中を展開させ、当該テストストリップのテスト領域の呈色により標的核酸の有無を目視で分析する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照。)。より詳細には、標的核酸を含む可能性のある試料と、標識物質(第1の標識物質)で5’末端が標識化されているオリゴヌクレオチドプライマーと、前記オリゴヌクレオチドプライマーと異種の標識物質(第2の標識物質)で5’末端が標識化されているオリゴヌクレオチドプライマーとを用いて、標的核酸を増幅する核酸増幅工程、及び、前記核酸増幅工程で得られた増幅産物を、前記の各標識物質とそれぞれ特異的に結合可能なパートナーを用いてテストストリップ上で核酸を分析する方法であり、テストストリップに試料がアプライされる側に、前記標識物質の何れか一方に特異的に結合可能なパートナーが結合された着色粒子(コンジュゲート)を保持したコンジュゲート領域を設け、試料の流れの下流側にもう一方の標識物質と特異的に結合可能なパートナーが固定されたテスト領域を設けたテストストリップを用いて分析する。
【0005】
図1は、このイムノクロマトグラフィー法を用いて検出する従来法を、模式的に示した図である。図1(A)は、PCR前のPCR反応溶液中の標的核酸及びPCR増幅に用いるオリゴヌクレオチドプライマーを示した模式図であり、図1(B)はPCR後のPCR反応溶液中の標的核酸等を示した模式図である。なお、本来、PCR反応溶液には、PCRに必要な耐熱ポリメラーゼ等の酵素類や適当なバッファー類が含まれるが、これらは、本発明の本質には影響しないため、同図および以降の図においても、それらは省略して示す。
【0006】
PCR増幅前のPCR反応溶液には、標的核酸(1−1)、第1標識物質(1−4)で5’末端が標識化されたオリゴヌクレオチドからなる第1プライマー(1−2)、第1標識物質(1−4)とは異なる第2標識物質(1−5)で5’末端が標識化されたオリゴヌクレオチドからなる第2プライマー(1−3)が含まれる。これに対し、PCR増幅後のPCR反応溶液には、図1(B)に示すように、第1標識物質(1−4)及び第2標識物質(1−5)により標識化された標的核酸の増幅産物(1−8)と鋳型である標的核酸(1−1)とに加えて、PCRに用いられなかった未反応の第1プライマー(1−6/1−2)及び第2プライマー(1−7/1−3)が含まれている。
【0007】
次に、このPCR反応溶液を、テストストリップにアプライする。図1(C)は、当該従来法において用いられる典型的なイムノクロマトグラフ用のテストストリップを模式的に示した図である。主にニトロセルロースからなるメンブレンのテストストリップ(1−15)には、アプライ領域(1−16)を兼ねているコンジュゲート領域(1−17)、第1標識物質(1−4)と特異的に結合する第1パートナー(1−11)が固定されてなるテスト領域(1−18)が設けられている。ここで、当該コンジュゲート領域(1−17)は、第2標識物質(1−5)と特異的に結合する第2パートナー(1−12)と着色粒子(1−10)とを結合してなるコンジュゲート(1−9)が分散可能な状態で保持されている領域である。
【0008】
係るテストストリップに、図1(B)に示す増幅産物等を含むPCR反応溶液を試料溶液としてアプライし、イムノクロマトグラフィー法で分析する状態を図1(D)に示す。アプライ領域(1−16)にPCR反応溶液をアプライすると、まず、標的核酸の増幅産物(1−8)の第2標識物質(1−5)が、コンジュゲート(1−9)の第2パートナー(1−12)と試料溶液中で特異的に結合する(1−31)。このとき、試料溶液中の未反応の第2プライマー(1−7)も、第2標識物質(1−5)を介してコンジュゲート(1−9)と結合する(1−32)。これらを含有した試料溶液は、テストストリップ(1−15)中を毛管作用により流れてテスト領域(1−18)に至る。テスト領域(1−18)では、コンジュゲートと結合した標的核酸の増幅産物(1−31)が、当該領域に固定された第1パートナー(1−11)と特異的に結合して固定され(1−33)、着色粒子(1−10)の色にテスト領域(1−18)が呈色し、該呈色の有無により、標的核酸の有無が分析される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−154075号公報
【特許文献2】特開2003−194817号公報
【特許文献3】特許第3001906号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】サイキ(Saiki)、外7名、サイエンス(Science)、米国、1988年、第239巻、第487〜491ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般的に、PCRを効率よく行うために、PCR反応溶液中には過剰量のプライマーを添加する。このため、PCR増幅後のPCR反応溶液を、未反応のプライマーを除去することなくそのままイムノクロマトグラフ用のテストストリップにアプライした場合には、大量の未反応のプライマーも当該テストストリップに持ち込まれることになる。このため、試料溶液中の未反応の第1プライマー(1−6)も、テスト領域(1−18)に固定された第1パートナー(1−11)と結合するため(1−34)、本来の目的である標的核酸の増幅産物(1−31)と固定された第1パートナー(1−11)との結合が阻害され、増幅産物がテスト領域を通過してしまう結果、標的核酸の検出感度が低下してしまうという問題がある。
【0012】
これらの原因により、PCR法等による核酸増幅産物から直接イムノクロマトグラフィー法を用いて拡散を分析することは極めて困難であった。前記の文献では、これらの問題に関してなんら言及しておらず、また、解決方法も示していない。
【0013】
本発明は、前述した従来技術の問題点を鑑みてなされたものであり、PCR法等による核酸増幅産物から直接イムノクロマトグラフィー法を用いて分析した場合であっても、標的核酸の有無を容易に検出可能な簡便な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、イムノクロマトグラフ用のテストストリップにおいて、アプライ領域とテスト領域の間に、標的核酸の増幅産物とは結合せず、未反応のプライマーと結合する物質を固定した領域を設けることにより、未反応のプライマーを多く含むPCR増幅後の核酸増幅産物をそのままテストストリップにアプライした場合であっても感度よく標的核酸を検出し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1)イムノクロマトグラフィー法により標的核酸を検出する方法であって、核酸含有試料中の標的核酸を、第1標識物質により5’末端が標識されているオリゴヌクレオチドからなる第1プライマーと、第1標識物質とは異なる第2標識物質により5’末端が標識されているオリゴヌクレオチドからなる第2プライマーとを用いてPCR増幅する核酸増幅工程と、前記核酸増幅工程により得られた核酸増幅産物を、アプライ領域、前記第1標識物質と特異的に結合するパートナーが固定されているテスト領域、及び前記第2標識物質と特異的に結合するパートナーが結合している着色粒子が流出可能な状態で保持されているコンジュゲート領域を有するテストストリップのアプライ領域に滴下し、当該テストストリップ中を展開させ、前記テスト領域における前記着色粒子の集積を指標として標的核酸を検出する検出工程と、を有し、前記コンジュゲート領域は、前記アプライ領域とテスト領域の間にある領域又は前記アプライ領域と重複する領域であり、前記テストストリップが、アプライ領域とテスト領域の間に、前記第1プライマーと特異的に結合するが前記第1標識物質とは結合しない物質が固定されているキャプチャー領域を有することを特徴とする標的核酸の検出方法、
(2) 前記キャプチャー領域に固定されている、前記第1プライマーと特異的に結合するが前記第1標識物質とは結合しない物質が、当該プライマーと相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする前記(1)記載の標的核酸の検出方法、
(3) 前記テストストリップにおいて、前記キャプチャー領域が、前記アプライ領域と前記コンジュゲート領域の間に存在することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の標的核酸の検出方法、
(4) 前記キャプチャー領域に、前記第2プライマーと特異的に結合するが前記第2標識物質とは結合しない物質がさらに固定されていることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の標的核酸の検出方法、
(5) 2種類以上標的核酸を検出するものであり、前記第1標識物質は、標的核酸の種類ごとに異なる物質であり、かつ、前記第2標識物質は、全ての種類の標的核酸に共通の物質であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の標的核酸の検出方法、
(6) 2種類以上標的核酸を検出するものであり、前記第1プライマーは、標的核酸の種類ごとに異なるプライマーであり、かつ、前記第2プライマーは、全ての種類の標的核酸に共通するプライマーであることを特徴とする前記(5)記載の標的核酸の検出方法、
(7) 前記標識物質が、Dig(Digoxigenin)、FITC(Fluorescein isothiocyanate)、DNP(Dinitrophenyl)、及びBiotinからなる群より選択される物質であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載の標的核酸の検出方法、
(8) 前記標識物質がハプテンであり、前記パートナーが当該ハプテンと特異的に結合する抗体であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載の標的核酸の検出方法、
(9) 前記着色粒子が、金コロイド粒子又は着色ラテックス粒子であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか記載の標的核酸の検出方法、
【0016】
(10) 第1標識物質により一方の端が標識されており、第1標識物質とは異なる第2標識物質により他方の端が標識されている標的核酸を検出するために用いられるテストストリップであって、アプライ領域と、前記第1標識物質と特異的に結合するパートナーが固定されているテスト領域と、前記第2標識物質と特異的に結合するパートナーが結合している着色粒子が流出可能な状態で保持されているコンジュゲート領域と、前記第1プライマーと特異的に結合するが前記第1標識物質とは結合しない物質が固定されているキャプチャー領域とを有し、前記コンジュゲート領域及び前記キャプチャー領域が、前記アプライ領域と前記コンジュゲート領域の間に存在することを特徴とするテストストリップ、
(11) 前記キャプチャー領域が、前記アプライ領域と前記コンジュゲート領域の間に存在することを特徴とする前記(10)記載のテストストリップ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の標的核酸の検出方法により、PCR法等による核酸増幅産物から、未反応のプライマーを除去することなく、直接テストストリップにアプライした場合であっても、標識された標的核酸の増幅産物を簡便に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】PCR増幅した標的核酸をイムノクロマトグラフィー法を用いて検出する従来法を、模式的に示した図である。
【図2】本発明の標的核酸の検出方法の検出工程において用いられるテストストリップ(A)、及び当該テストストリップを用いて標識済み標的核酸を検出した状態(B)の一態様を模式的に示した図である。
【図3】本発明の標的核酸の検出方法の検出工程において用いられるテストストリップの別の一態様を模式的に示した図である。
【図4】本発明の標的核酸の検出方法の検出工程において用いられるテストストリップの別の一態様を模式的に示した図である。
【図5】2種類の標的核酸を検出する場合に用いられるテストストリップを模式的に示した図である。
【図6】図5に記載の構成を有するテストストリップを用いて、1のSNPの野生型と変異型を検出する場合の一態様を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、標的核酸とは、検出の対象である特定の塩基配列を有する核酸を意味する。該標的核酸は、天然由来のものであってもよく、合成されたものであってもよい。また、DNAからなるポリヌクレオチドであってもよく、RNAからなるポリヌクレオチドであってもよく、DNA及びRNAからなるキメラポリヌクレオチドであってもよい。その他、人工核酸や、アミノ基等で修飾された修飾核酸を含むポリヌクレオチドであってもよい。該標的核酸として、例えば、ゲノムDNA、mRNA、hnRNA、RNAから逆転写酵素を用いて合成されたcDNA等がある。本発明においては、標的核酸をPCR増幅するため、標的核酸がmRNA等の一本鎖核酸である場合には、逆転写反応により予めcDNAを合成し、このcDNAをPCR増幅の鋳型とする。
【0020】
本発明において、核酸含有試料とは、標的核酸を含有することが期待される試料であれば、特に限定されるものではない。該核酸含有試料は、動物等から採取した生体試料であってもよく、培養細胞溶液等から調製した試料であってもよく、生体試料等から抽出・精製したゲノム溶液でもよい。特に臨床検査等に用いられるヒト由来の生体試料や、ヒト由来の生体試料から抽出・精製したゲノム溶液であることが好ましい。ヒト由来の生体試料として、例えば、血液、骨髄液、リンパ液、尿、喀痰、腹水、滲出液、羊膜液、腸管洗浄液、肺洗浄液、気管支洗浄液、膀胱洗浄液、膵液、唾液、精液、胆汁、胸水、爪、毛髪、又は大便等がある。また、該生体試料は、生物から採取された状態の試料であってもよく、調製した試料であってもよい。該調製の方法は、該生体試料中に含有されているゲノムを損なわない方法であれば、特に限定されるものではなく、通常、生体試料に対してなされている調製方法を行うことができる。
【0021】
本発明において用いられる標識物質としては、PCRを阻害することなく核酸の標識に用いることができるものであれば、特に限定されるものではない。このような標識物質として、例えば、Dig(Digoxigenin)、Digoxin、FITC(Fluorescein isothiocyanate)、Fluorescein、DNP(Dinitrophenyl)、Biotin、Rhodamin、Texas Red、Cy3、Cy5、Cy5.5等のCy dyeシリーズ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)、FAM、HEX、TET、TAMRA、NBD(7−nitrobenz−2−oxa−1,3−diazole)、TMR(Tetramethyl rhodamine)、Glutathione、2以上の糖からなる糖鎖、6以上のアミノ酸からなるポリペプチド、及びそれらの誘導体等が挙げられる。本発明においては、入手が容易であり、かつ比較的安価であること、及び、当該技術分野で汎用されているため、標的核酸の検出をより確実に確実で容易なものにすることができることから、Dig(Digoxigenin)、FITC(Fluorescein isothiocyanate)、DNP(Dinitrophenyl)、及びBiotinからなる群より選択される物質であることが好ましい。
【0022】
本発明において、パートナーとは、ある特定の物質と特異的に結合するものを意味し、当該物質と特異的に結合するものであれば、特に限定されるものではない。但し、本発明において、特異的に結合するとは、特定の物質と、当該物質の検出や精製等に通常用いることができる程度に特異的に結合し得ることを意味し、他の物質等と交差するものであってもよい。
【0023】
このようなパートナーとしては、例えば、標識物質として用いる物質又はそのフラグメントを抗原として作製された抗体が挙げられる。本発明において用いられるパートナーは、血清等の未精製の抗体や、ポリクローナル抗体であってもよく、キメラ抗体であってもよい。また、本発明において用いられるパートナーとしては、標識物質として用いる物質と親和性の高い化合物等であってもよい。親和性の高い化合物とは、例えば、プライマーの標識に用いた標識物質がビオチンの場合にはアビジンやストレプトアビジン、Glutathioneの場合にはGST(Glutathione−S−Transferase)、マルトース等のアミロースの場合にはMBP(マルトース結合タンパク質)、6以上のヒスチジンからなるポリペプチドである場合にはニッケル等が挙げられる。
【0024】
本発明においては、標識物質としてハプテンを用い、パートナーとして当該ハプテンに対する抗体を用いることが好ましい。なお、ハプテンとは、抗体と結合できるが、低分子であるため単独では抗原性を示さない低分子物質である。このため、ハプテンを標識物質としたプライマーを用いることにより、標識物質によるPCRへの影響を低減することができる。また、ハプテンは種類も豊富であることから、標識物質の選択や組み合わせの幅が広がるという効果を持つ。
【0025】
本発明において用いられるテストストリップは、多孔質部材のメンブレンから成る。このような多孔質部材としては、核酸を含む試料溶液が毛管作用により展開することが可能なものであれば、特に限定されるものではなく、イムノクロマトグラフ用として用いられているテストストリップのいずれを用いてもよい。具体的には、例えば、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ガラス繊維等からなるメンブレンを用いることができる。
【0026】
本発明において用いられる着色粒子としては、テストストリップ中の細孔を流出可能な着色された粒子であって、粒子表面にパートナーを結合することが可能であればいずれの粒子を用いてもよい。このような着色粒子として、例えば、金コロイド粒子等の金属コロイド粒子や、色素等で着色された着色ラテックス粒子等が挙げられる。中でも、金コロイド粒子又は着色ラテックス粒子を用いることが好ましい。イムノクロマトグラフィーの反応に影響を与えないためには、テストストリップ中を自由に移動できるように粒子径を小さくすることが重要であるが、これらの着色粒子は、呈色性に優れるため、粒子径を十分に小さくした場合でも、検出結果の視認性に優れるという効果を持つ。
【0027】
着色粒子にパートナーを結合させる方法は、特に限定されるものではなく、物理的に吸着させてもよく、粒子表面の官能基に化学的に結合させてもよい。例えば、金コロイド粒子等の金属コロイド粒子は、粒子表面が負に帯電しているため、金属粒子と抗原等のパートナーをインキュベートすることにより、パートナーが結合した着色粒子を得ることができる。また、粒子表面を官能基等で修飾したラテックス粒子の場合には、各官能基に適した方法により受容体を結合させることができる。例えば、水溶性カルボジイミドでカルボン酸とアミノ基を結合させるEDAC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル) −カルボジイミド塩酸塩)法、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドハイドロクロライド(EDC)とN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)とを予め混合してカルボン酸とアミノ基とを結合させる方法等がある。
【0028】
本発明の標的核酸の検出方法は、イムノクロマトグラフィー法により標的核酸を検出する方法であって、標的核酸をPCR増幅し、標的核酸の両端がそれぞれ異なる標識物質により標識された核酸増幅産物を得る核酸増幅工程と、得られた核酸増幅産物を、テストストリップにアプライし、イムノクロマトグラフィー法により検出する検出工程と、を有する。本発明においては、後述するキャプチャー領域を有するテストストリップを用いることにより、核酸増幅産物中に含まれているPCR未反応のプライマーによる影響を低減し、標的核酸を簡便かつ感度よく検出することができる。
【0029】
まず、核酸増幅工程として、核酸含有試料中の標的核酸を、第1標識物質により5’末端が標識されているオリゴヌクレオチドからなる第1プライマーと、第1標識物質とは異なる第2標識物質により5’末端が標識されているオリゴヌクレオチドからなる第2プライマーとを用いてPCR増幅する。
【0030】
PCR増幅には、増幅対象である核酸領域の両端とハイブリダイズする2種類のオリゴヌクレオチドからなるプライマー(フォワードプライマーと、それに対応するリバースプライマー)を用いる。本発明における第1プライマーと第2プライマーは、このPCRに用いられる2種類のプライマーであり、第1プライマーと第2プライマーのどちらか一方がフォワードプライマーとして用いられ、他方がリバースプライマーとして用いられる。
【0031】
第1プライマー及び第2プライマーを構成するオリゴヌクレオチドは、PCRのプライマーとして機能し得る核酸からなるものであれば特に限定されるものではなく、DNAからなるオリゴヌクレオチドであってもよく、RNAからなるオリゴヌクレオチドであってもよく、DNA及びRNAからなるキメラオリゴヌクレオチドであってもよく、修飾核酸を含むオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0032】
このようなプライマーは、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても設計することができる。例えば、公知のゲノム配列データと汎用されているプライマー設計ツールを用いて、簡便にプライマーを設計することができる。該プライマー設計ツールとして、例えば、Web上で利用可能なPrimer3(Rozen, S., H.J.Skaletsky、1996年、http: //www−genome.wi.mit.edu/genome_software/other/primer3. h t m l)や、Visual OMP(DNA Software社製)等がある。また、公知のゲノム配列データは、通常、国際的な塩基配列データベースである、NCBI(National center for Biotechnology Information)や、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)等において入手することができる。
【0033】
このようにして設計したプライマーは、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても合成することができる。例えば、オリゴ合成メーカーに合成をされ依頼してもよく、市販の合成機を用いて独自に合成してもよい。また、各プライマーは、標的核酸とハイブリダイズする領域以外にも、標的核酸のPCR増幅を阻害しない程度において、付加的な配列を有することができる。該付加的な配列として、例えば、制限酵素認識配列や、核酸の標識に供される配列等がある。
【0034】
第1プライマー及び第2プライマーは、標的核酸とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの5’末端が、標識物質により標識されているプライマーである。ここで、第1プライマーの標識に用いられる標識物質(第1標識物質)は、第2プライマーの標識に用いられる標識物質(第2標識物質)とは異なる種類の標識物質を用いる。このため、第1プライマーと第2プライマーを用いてPCR増幅を行うことにより、両端が互いに異なる種類の標識物質により標識された標的核酸(標識済み標的核酸)を得ることができる。なお、オリゴヌクレオチドの5’末端への標識物質の結合は、当該技術分野において公知のいずれの方法で行ってもよい。
【0035】
核酸増幅工程におけるPCR増幅は、使用するポリメラーゼの種類、プライマーのTm値、増幅される標的核酸の長さ等に基づいて決定される反応条件で、通常行われる方法により行うことができる。PCRの反応条件の決定方法は、当該技術分野においてよく知られている。また、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、反応バッファー等の、PCRに用いられる試薬は、特に限定されるものではなく、通常PCRを行う場合に用いられるものを、通常用いられる量で用いることができる。鋳型となる核酸含有試料の添加量、並びに第1プライマー及び第2プライマーの添加量も、通常用いられる量であれば、特に限定されるものではない。
【0036】
次に、検出工程として、核酸増幅工程により得られた核酸増幅産物を、テストストリップのアプライ領域に滴下(アプライ)し、当該テストストリップ中を展開させた後、予め設けられているテスト領域の着色を指標として標的核酸を検出する。
【0037】
本発明において用いられるテストストリップは、試料溶液(核酸増幅工程により得られた核酸増幅産物)をアプライするアプライ領域、第2標識物質と特異的に結合するパートナーが結合している着色粒子が流出可能な状態で保持されているコンジュゲート領域、第1標識物質と特異的に結合するパートナーが固定されているテスト領域、及び、前記第1プライマーと特異的に結合するが前記第1標識物質とは結合しない物質が固定されているキャプチャー領域を有する。
【0038】
コンジュゲート領域には、第2標識物質と特異的に結合するパートナー(以下、「第2パートナー」ということがある。)が結合している着色粒子が流出可能な状態で保持されている。本発明において、「着色粒子が流出可能な状態で保持されている」とは、テストストリップに試料溶液がアプライされる前の乾燥状態では、着色粒子はコンジュゲート領域に留まっているが、試料溶液がアプライされると、試料溶液とともにテストストリップ中を拡散できる状態を意味する。例えば、第2パートナーが結合している着色粒子(以下、「コンジュゲート」ということがある。)を、テストストリップに局所的に滴下し、速やかに乾燥させることにより、コンジュゲート領域を設けることができる。その他、コンジュゲートを染み込ませて乾燥させたメンブレン等の支持体を、テストストリップに接着させ、当該メンブレンを接着させた領域をコンジュゲート領域としてもよい。
【0039】
テスト領域には、第1標識物質と特異的に結合するパートナー(以下、「第1パートナー」ということがある。)が固定されている。テストストリップへの第1パートナーの固定方法は、特に限定されるものではなく、パートナー分子の種類に応じて、公知の固定方法の中から適宜選択して行うことができる。具体的には、前述の着色粒子へのパートナーの結合方法と同様の方法が挙げられる。
【0040】
キャプチャー領域には、第1プライマーと特異的に結合するが、第1標識物質とは結合しない物質(以下、「第1プローブ」ということがある。)が固定されている。このような物質として、例えば、第1プライマーと相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチド又は当該オリゴヌクレオチドを含む物質等が挙げられる。なお、このようなオリゴヌクレオチドは、第1プライマーとハイブリダイズし得るものであればよく、修飾核酸等からなるものであってもよく、第1プライマーと相補的な配列以外に付加的な配列を有していてもよい。また、当該オリゴヌクレオチドは、ポリペプチドや低分子化合物等により修飾されていてもよい。
【0041】
テストストリップへの第1プローブの固定方法は、特に限定されるものではなく、プローブの種類に応じて、公知の固定方法の中から適宜選択して行うことができる。具体的には、前述の着色粒子へのパートナーの結合方法と同様の方法が挙げられる。例えば、アミノ修飾した第1プライマーと相補的な塩基配列を持つプローブオリゴヌクレオチドを第1プローブとし、カルボジイミド修飾したニトロセルロースメンブレンからなるテストストリップとすることにより、当該第1プローブのアミノ基と、当該テストストリップのカルボジイミド基とを縮合させることによって、テストストリップにキャプチャー領域を設けることができる。なお、キャプチャー領域には、核酸増幅産物中に多量に含まれている第1プライマーと十分に結合可能な量の第1プローブを固定することが好ましい。
【0042】
アプライ領域にアプライされた試料溶液(核酸増幅産物)は、テストストリップ中を毛管作用により流れて展開し、コンジュゲート領域とキャプチャー領域を通過した後にテスト領域に到達する。この試料溶液中に標識済み標的核酸が存在していた場合には、この標識済み標的核酸は、コンジュゲート領域を通過する際に、当該領域中に保持されているコンジュゲートと第2パートナーを介して結合し、この状態でテストストリップ中を展開し、テスト領域に到達する。テスト領域において、標識済み標的核酸は、当該領域に固定されている第1パートナーと第1標識物質を介して結合することにより、捕捉される。従って、アプライされた試料溶液中に標識済み標的核酸が含まれていた場合には、コンジュゲートと結合した標識済み標的核酸がテスト領域に集積することにより、当該テスト領域は着色粒子が発する色に呈色される。一方、試料溶液中に標識済み標的核酸が含まれていなかった場合には、着色粒子がテスト領域に集積せず、当該テスト領域は呈色しない。このように、テスト領域における着色粒子の集積を指標として、すなわち、テスト領域の呈色の有無により、標的核酸を簡便に検出することができる。
【0043】
アプライされた試料溶液中に含まれている未反応の第1プライマーは、キャプチャー領域を通過する際に、当該領域に固定されている第1プローブと結合し、捕捉される。この結果、テスト領域に到達する未反応の第1プライマー量が顕著に低減され、当該領域において、未反応の第1プライマーによって阻害されることなく、標識済み標的核酸が第1パートナーと結合できることから、標的核酸の検出感度が高められる。
【0044】
コンジュゲート領域は、テストストリップ中の、アプライ領域にアプライされた試料溶液中の核酸増幅産物が、テスト領域に到達するまでに通過するいずれかの領域にあればよい。このため、コンジュゲート領域は、例えば、アプライ領域とテスト領域との間にあってもよく、アプライ領域と重複する領域であってもよい。
【0045】
同様に、キャプチャー領域は、テストストリップ中の、アプライ領域にアプライされた試料溶液中の核酸増幅産物が、テスト領域に到達するまでに通過するいずれかの領域にあればよく、例えば、アプライ領域とテスト領域との間にあってもよく、アプライ領域と重複する領域であってもよい。
【0046】
コンジュゲート領域とキャプチャー領域は、テストストリップの試料溶液が流れる方向に対して、どちらがアプライ領域により近い部位にあってもよい。例えば、アプライ領域にアプライされた試料溶液が、キャプチャー領域を通過後にコンジュゲート領域を通過し、その後テスト領域に到達するように、各領域をテストストリップに設けてもよく、コンジュゲート領域を通過後にキャプチャー領域を通過し、その後テスト領域に到達するようにしてもよい。本発明においては、予め余剰のプライマーを除去した後にコンジュゲートと結合させることができるため、アプライ領域にアプライされた試料溶液が、キャプチャー領域を通過後にコンジュゲート領域を通過するように両領域を設けることが好ましい。
【0047】
本発明においては、キャプチャー領域に、さらに、第2プライマーと特異的に結合するが第2標識物質とは結合しない物質(以下、「第2プローブ」ということがある。)を固定することが好ましい。第1プローブと同様に、このような物質としては、例えば、第2プライマーと相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチド又は当該オリゴヌクレオチドを含む物質等が挙げられる。
【0048】
従来法においては、図1(D)に示すように、コンジュゲート領域(1−17)において、試料溶液中の未反応の第2プライマー(1−7)もコンジュゲート(1−9)と結合する(1−32)ため、未反応の第2プライマー(1−7)が多量に持ち込まれると、コンジュゲート(1−9)が第2プライマー(1−7)により消費される結果、本来の目的である標的核酸の増幅産物(1−8)との結合に係わるコンジュゲート量の低下をまねいてしまう、という問題も生じる。標的核酸の増幅産物(1−8)との結合に係わるコンジュゲート量が低下すると、アプライされた標的核酸の増幅産物(1−8)は、コンジュゲート(1−9)と結合しない状態でテスト領域(1−18)に到達し、固定された第1パートナー(1−11)と結合する(1−35)ことにより、呈色に寄与しない結合が生じ、標的核酸の検出精度が低下してしまう。
【0049】
そこで、キャプチャー領域に、さらに、第2プローブを固定することにより、当該領域にて未反応の第2プライマーを捕捉し、これらのプライマーによる影響を低減することができる。
【0050】
未反応の第2プライマーによるコンジュゲートの消費をより効果的に抑制することができるため、アプライ領域にアプライされた試料溶液が、第2プローブが固定されたキャプチャー領域を通過した後にコンジュゲート領域を通過するように設けることが好ましい。また、第2プローブは、第1プローブを固定するキャプチャー領域と同じ領域に固定してもよく、別の領域に固定してもよい。
【0051】
本発明の標的核酸の検出方法は、1の標的核酸を検出するものであってもよいが、2以上の標的核酸を検出することもできる。例えば、それぞれの標的核酸について、第1プライマーと第2プライマーを設計し、PCR増幅し、核酸増幅産物を得る。PCR増幅は、標的核酸の種類ごとに別個に行ってもよく、マルチプレックスPCRを行ってもよい。なお、標的核酸の種類ごとに別個にPCR増幅を行った場合には、得られた核酸増幅産物を混合して1の試料溶液としたものを、テストストリップにアプライする。
【0052】
第2標識物質は、標的核酸の種類ごとに異なるものを用いてもよく、同種の標識物質を用いてもよいが、第1標識物質は、標的核酸の種類ごとに別の種類の標識物質を用いなければならない。テストストリップの別個の領域に、標的核酸の種類ごとにテスト領域を設け、各テスト領域に、当該領域の検出対象である標的核酸の第1標識物質に応じた第1パートナーを固定することにより、複数の標的核酸を簡便に検出することができる。
【0053】
2以上の標的核酸を検出する場合には、標的核酸の種類ごとに、キャプチャー領域を設けてもよく、各標的核酸に対する第1プライマー特異的結合物質を一のキャプチャー領域に固定してもよい。また、標的核酸の種類ごとに異なるコンジュゲートを用いる場合には、用いるコンジュゲートの種類ごとにコンジュゲート領域を設けてもよく、一のコンジュゲート領域に全種類のコンジュゲートを保持させてもよい。なお、各標的核酸の第2標識物質を同種の標識物質とすることにより、1種類のコンジュゲートのみで複数の標的核酸を検出することができる。
【0054】
例えば、SNPを検出する場合には、一般的に、各アレルに特異的なプライマーと、全てのアレルに共通するプライマーとを用いてPCR増幅を行う。そこで、アレル特異的なプライマーを第1プライマーとし、全てのアレルに共通するプライマーを第2プライマーとすることにより、本発明の標的核酸の検出方法を用いて、SNPのタイプを簡便に分析することができる。この場合には、第1プライマーは、標的核酸の種類ごと(SNPのタイプごと)に異なるプライマーであり、かつ、前記第2プライマーは、全ての種類の標的核酸に共通するプライマーとなる。
【0055】
図2は、本発明の標的核酸の検出方法の検出工程において用いられるテストストリップ(A)、及び当該テストストリップを用いて標識済み標的核酸を検出した状態(B)の一態様を模式的に示した図である。なお、本発明の標的核酸の検出方法の核酸増幅工程、及び得られる核酸増幅産物については、図1(A)及び(B)に示す従来法と同様である。なお、以下の図2〜6のテストストリップの断面図は、本発明の構成を説明のために模式的に示したものであり、キャプチャー領域のプローブやテスト領域のパートナーを設ける部位は、テストストリップの表面に限られるものではなく、テストストリップの細孔内にわたって設けられることができる。但し、テストストリップの表面に設ける場合には、キャプチャー領域のプローブやテスト領域のパートナーは、試料溶液をアプライする側の表面に設けることが好ましい。
【0056】
図2(A)に示すテストストリップは、1種類の標的核酸を検出する場合に用いられるものであり、アプライ領域(1−16)とコンジュゲート領域(1−17)が重複するものである。テストストリップ(1−15)に、アプライ領域(1−16)と兼ねており、かつ第2標識物質と特異的に結合する第2パートナー(1−12)と着色粒子(1−10)が結合したコンジュゲート(1−9)を流出可能な状態で保持するコンジュゲート領域(1−17)、余剰な第1プライマーの量と十分に結合可能な量の第1プローブ(1−13)を固定したキャプチャー領域(1−19)、第1標識物質と特異的に結合する第1パートナー(1−11)を固定して成るテスト領域(1−18)を、試料を流す順に設けて構成される。
【0057】
次に、本発明の基本構成の作用を図2(B)に基づいて説明する。前記の基本構成によるテストストリップに、図1(B)に示された核酸増幅産物(試料溶液)を、アプライ領域(1−16)を兼ねるコンジュゲート領域(1−17)に滴下する。試料溶液は、多孔質のテストストリップに展開されて、下流方向、すなわちテスト領域方向に流れる。まず、核酸増幅産物中に標識された標的核酸の増幅産物(1−8、以下、「標識済み標的核酸」)が含まれていた場合には、コンジュゲート領域(1−17)において、コンジュゲート(1−9)と標識済み標的核酸(1−8)が結合する(1−31)。その際、未反応の第2プライマー(1−7)とコンジュゲート(1−9)も結合し(1−32)、第1プライマー(1−6)は結合せずに下流に展開される。試料溶液がキャプチャー領域(1−19)に至ると、未反応の第1プライマー(1−6)は、それと相補的な配列を持つ第1プローブ(1−13)とハイブリダイズして結合し(1−36)、キャプチャー領域にトラップされ、試料溶液中から除去される。次に、試料溶液が下流に位置するテスト領域に至ると、コンジュゲートと結合した標識済み標的核酸(1−31)は、その第1標識物質を介して、テスト領域に固定された第1パートナーと結合して固定される(1−33)。結合反応に寄与しない余剰なコンジュゲート(1−9)及びコンジュゲートと結合した未反応の第2プライマー(1−32)は、テスト領域の下流に流される。従って、標的核酸が試料中に存在した場合には、テスト領域(1−18)が、コンジュゲートと結合した標識済み標的核酸による着色粒子により呈色し、結果として、標的核酸が試料中に存在したと分析される。また、標的核酸が試料中に存在しない場合、前述の標識済み標的核酸(1−8)が存在せず、テスト領域が呈色することはない。これにより、試料中に標的核酸がないと分析される。
【0058】
このように、本発明によれば、未反応の第1プライマーがテスト領域に至る前に試料中から除去されて、テスト領域における標的核酸の第1標識物質と第1パートナーとの結合が効率的に行われる。したがって、本発明のテストストリップを用いるイムノクロマトグラフィー法によって、核酸増幅産物から直接、試料中の標的核酸の有無を分析することが可能となる。
【0059】
図3は、本発明の標的核酸の検出方法の検出工程において用いられるテストストリップの別の一態様を模式的に示した図である。アプライ領域(1−16)とコンジュゲート領域(1−17)を分けて設け、キャプチャー領域(1−19)を前記アプライ領域とコンジュゲート領域の間に設ける。係る構成のテストストリップを用いた場合でも、前述の構成のテストストリップを用いた場合と同様の作用と効果を持つことは明らかである。
【0060】
図4は、本発明の標的核酸の検出方法の検出工程において用いられるテストストリップの別の一態様を模式的に示した図である。テスト領域の前に、さらに未反応の第2プライマーを捕捉する第2プローブを固定した領域を設けたものである。アプライ領域(1−16)とコンジュゲート領域(1−17)の間に、第1プライマーと結合する第1プローブ(1−13)及び第2プライマーと結合する第2プローブ(1−14)を固定したキャプチャー領域(1−19)を設けたことが異なる他は、図3に示すテストストリップの構成と同様である。係る構成のテストストリップを用いた場合でも、前述の構成のテストストリップを用いた場合と同様の作用と効果を持つことは明らかである。特に、この構成では、コンジュゲート領域(1−17)の上流側に、第2プローブ(1−14)を固定したキャプチャー領域(1−19)を設けているため、余剰な第2プライマーがコンジュゲート領域に至る前にキャプチャー領域で除去される。この結果、不要な第2プライマーとコンジュゲートの結合をなくすことができ、従って、コンジュゲートと標識済み標的核酸の結合が効率よく行われる。
【0061】
図5は、2種類の標的核酸を検出する場合に用いられるテストストリップを模式的に示した図である。具体的には、2種類の標的核酸(標的核酸A及びB)を、標的核酸ごとに、標識物質も、標識されるオリゴヌクレオチドの塩基配列も異なる第1プライマーと、両方の標的核酸に共通して用いられる第2プライマーとを用いてPCR増幅し、得られた核酸増幅産物をアプライして両方の標的核酸を検出するために用いられるテストストリップである。テストストリップ(1−15)の構成を、上流側から順に説明する。まず、アプライ領域(1−16)を設け、その次に、標的核酸Aの第1プライマーと特異的に結合する第1プローブ(1−13−1)、標的核酸Bの第1プライマーと特異的に結合する第1プローブ(1−13−2)、及び両方の標的核酸に共通して用いられる第2プライマーと特異的に結合する第2プローブ(1−14−1)を固定したキャプチャー領域(1−19)を設ける。次いで、第2プライマーと特異的に結合する第2パートナーを結合した着色粒子であるコンジュゲート(1−9)を流出可能な状態で保持するコンジュゲート領域(1−17)を設ける。コンジュゲート領域の下流には、標的核酸Aの第1プライマーを標識する第1標識物質と特異的に結合する第1パートナー(1−11−1)が固定されたテスト領域(1−18−1)が設けられ、その下流に、このテスト領域(1−18−1)とは別個に、標的核酸Bの第1プライマーを標識する第1標識物質と特異的に結合する第1パートナー(1−11−2)が固定されたテスト領域(1−18−2)が設けられている。さらにその下流に、第2プライマーを標識する第2標識物質が固定されたコントロール領域(1−20)を設けている。
【0062】
図6は、図5に記載の構成を有するテストストリップを用いて、1のSNPの野生型と変異型を検出する場合の一態様を模式的に示した図である。図6(A)は、PCR前の試料の主要構成を示す。検出対象であるSNPを含む可能性のある核酸(1−1)、標的核酸W(野生型)を増幅するための第1プライマー(1−2−1)、標的核酸M(変異型)を増幅するための第1プライマー(1−2−2)、標的核酸Wと標的核酸Mに共通して用いられる第2プライマー(1−3−1)が含まれている。標的核酸Wの第1プライマー(1−2−1)は、ハプテンである標識物質Dig(1−4−1)により標識されており、標的核酸Mの第1プライマー(1−2−2)は、ハプテンである標識物質FITC(1−4−2)により標識されており、第2プライマー(1−3−1)は、ハプテンである標識物質Biotin(1−5−1)により標識されている。核酸含有試料に、変異型アレルと変異型アレルの両方が含まれるヘテロ型の場合の、当該核酸含有試料を鋳型としてPCR増幅した後の試料構成要素を、図6(B)に示す。PCR増幅して得られた核酸増幅産物中には、Dig及びBiotinにより標識された標的核酸Wの増幅産物(1−8−1)と、FITC及びBiotinにより標識された標的核酸Mの増幅産物(1−8−2)とに加えて、未反応の過剰なプライマー(1−2−1、1−2−2、及び1−3−1)及び元々核酸含有試料に含まれていた増幅前の標的核酸(1−1)が含まれている。
【0063】
次に、本発明の基本構成の作用を図6(C)に基づいて説明する。 図5記載の基本構成によるテストストリップに、図6(B)に示された核酸増幅産物(試料溶液)をアプライして、分析した状態を図6(C)に示す。アプライ領域(1−16)に滴下された試料溶液は、展開して、キャプチャー領域(1−19)に到達する。キャプチャー領域(1−19)において、試料溶液中に存在していた標的核酸Wの第1プライマーは、当該プライマーと特異的に結合する第1プローブとハイブリダイズし(1−37−1)、標的核酸Mの第1プライマーは、当該プライマーと特異的に結合する第1プローブとハイブリダイズし(1−37−2)、両方に共通の第2プライマーは、当該プライマーと特異的に結合する第2プローブとハイブリダイズする(1−37−3)。これにより、試料溶液中に余剰に存在していた未反応のプライマーは、キャプチャー領域(1−19)に固定されているプローブと結合して捕捉され、これより下流に流れることはない。二本鎖核酸である標的核酸Wの増幅産物(1−8−1)及び標的核酸Mの増幅産物(1−8−2)は、キャプチャー領域に捕捉されずにさらに下流に展開し、コンジュゲート領域(1−17)で、それぞれ、BiotinのパートナーであるAvidinが金コロイド粒子に結合したコンジュゲート(1−9)と結合し、さらに下流へと流れる。Digのパートナーである抗Dig抗体が固定されたテスト領域(1−18−1)に到達すると、試料溶液中に存在するコンジュゲートと結合した標的核酸Wの増幅産物(1−8−1)は、抗Dig抗体と特異的に結合して捕捉され(1−38−1)、このテスト領域(1−18−1)は、金コロイドから成る着色粒子により着色される。さらに、下流へと流れ、FITCのパートナーである抗FITC抗体が固定されたテスト領域(1−18−2)に到達すると、試料溶液中に存在するコンジュゲートと結合した標的核酸Mの増幅産物(1−8−2)が抗FITC抗体結合して捕捉され(1−38−2)、このテスト領域(1−18−2)の呈色が起きる。試料溶液に流出した余剰のコンジュゲートは、さらに下流へと展開し、コントロール領域(1−20)に固定されたBiotinと特異的に結合する(1−39)。これにより、試料がテストストリップ中を流れて分析が行われたことがわかる。
【0064】
図6(D)は、ヘテロ型、ホモ型の試料を図5記載のテストストリップで分析した場合の、テストストリップ(1−15)の状態を、マクロ的・模式的に示したものである。遺伝子のタイプがヘテロ型である場合(野生型アレルと変異型アレルの両方を有している場合)には、図6(D)の上段に示すように、両方のテスト領域(1−21、1−22)及びコントロール領域(1−23)が呈色する。一方、遺伝子のタイプがホモ型である場合(野生型アレルと変異型アレルのいずれか一方のみを有している場合)は、図6(D)の中段及び下段に示すように、テスト領域(1−21)とテスト領域(1−22)のいずれか一方と、コントロール領域(1−23)とが呈色する。当然、試料溶液に標的核酸が含まれない場合には、6図(B)の増幅産物(1−8−1、1−8−2)が生じることは無く、結果として、テストストリップの両方のテスト領域は呈色せず、コントロール領域(1−23)のみが呈色することは、明らかである。
【0065】
本実施の形態により、PCR増幅により得られる核酸増幅産物に含まれる未反応の第1プライマーと第2プライマーとがキャプチャー領域でそれぞれに相補的な配列を持つプローブとハイブリダイズして固定され、試料中から除去されて、これより下流に流れない。このため、PCR未反応の第1プライマーは、テスト領域に固定した第1パートナーと結合することがなく、標識済み標的核酸と第1パートナーとの結合が十分に行われる結果、テスト領域が十分に呈色する。さらには、未反応の第2プライマー(標的核酸Wと標的核酸Mの共通プライマー)も、キャプチャー領域に固定された第2プローブとハイブリダイズすることにより試料中から除去されるため、キャプチャー領域に固定され、試料溶液中から除去されるため、当該第2プローブの標識物質Biotinが、コンジュゲートのAvidinと結合することが無く、従って、無駄にコンジュゲートが消費されることがない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の標的核酸の検出方法により、PCR等の核酸増幅産物から直接イムノクロマトグラフィー法で標的核酸の有無を簡便に検出することができるため、試料中の標的核酸を検出し解析するような生化学、分子生物学、臨床検査等の分野で利用が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1−1…標的核酸、1−2…第1プライマー、1−3…第2プライマー、1−4…第1標識物質、1−5…第2標識物質、1−6…第1プライマー、1−7…第2プライマー、1−8…標識化された標的核酸の増幅産物、1−9…コンジュゲート、1−10…着色粒子、1−11…第1パートナー、1−12…第2パートナー、1−13…第1プローブ、1−14…第2プローブ、1−15…テストストリップ、1−16…アプライ領域、1−17…コンジュゲート領域、1−18…テスト領域、1−19…キャプチャー領域、1−20…コントロール領域、1−21…テスト領域、1−22…テスト領域、1−23…コントロール領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イムノクロマトグラフィー法により標的核酸を検出する方法であって、
核酸含有試料中の標的核酸を、第1標識物質により5’末端が標識されているオリゴヌクレオチドからなる第1プライマーと、第1標識物質とは異なる第2標識物質により5’末端が標識されているオリゴヌクレオチドからなる第2プライマーとを用いてPCR増幅する核酸増幅工程と、
前記核酸増幅工程により得られた核酸増幅産物を、アプライ領域、前記第1標識物質と特異的に結合するパートナーが固定されているテスト領域、及び前記第2標識物質と特異的に結合するパートナーが結合している着色粒子が流出可能な状態で保持されているコンジュゲート領域を有するテストストリップのアプライ領域に滴下し、当該テストストリップ中を展開させ、前記テスト領域における前記着色粒子の集積を指標として標的核酸を検出する検出工程と、
を有し、
前記コンジュゲート領域は、前記アプライ領域とテスト領域の間にある領域又は前記アプライ領域と重複する領域であり、
前記テストストリップが、アプライ領域とテスト領域の間に、前記第1プライマーと特異的に結合するが前記第1標識物質とは結合しない物質が固定されているキャプチャー領域を有することを特徴とする標的核酸の検出方法。
【請求項2】
前記キャプチャー領域に固定されている、前記第1プライマーと特異的に結合するが前記第1標識物質とは結合しない物質が、当該プライマーと相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項1記載の標的核酸の検出方法。
【請求項3】
前記テストストリップにおいて、前記キャプチャー領域が、前記アプライ領域と前記コンジュゲート領域の間に存在することを特徴とする請求項1又は2記載の標的核酸の検出方法。
【請求項4】
前記キャプチャー領域に、前記第2プライマーと特異的に結合するが前記第2標識物質とは結合しない物質がさらに固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の標的核酸の検出方法。
【請求項5】
2種類以上標的核酸を検出するものであり、前記第1標識物質は、標的核酸の種類ごとに異なる物質であり、かつ、前記第2標識物質は、全ての種類の標的核酸に共通の物質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の標的核酸の検出方法。
【請求項6】
2種類以上標的核酸を検出するものであり、前記第1プライマーは、標的核酸の種類ごとに異なるプライマーであり、かつ、前記第2プライマーは、全ての種類の標的核酸に共通するプライマーであることを特徴とする請求項5記載の標的核酸の検出方法。
【請求項7】
前記標識物質が、Dig(Digoxigenin)、FITC(Fluorescein isothiocyanate)、DNP(Dinitrophenyl)、及びBiotinからなる群より選択される物質であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の標的核酸の検出方法。
【請求項8】
前記標識物質がハプテンであり、前記パートナーが当該ハプテンと特異的に結合する抗体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の標的核酸の検出方法。
【請求項9】
前記着色粒子が、金コロイド粒子又は着色ラテックス粒子であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の標的核酸の検出方法。
【請求項10】
第1標識物質により一方の端が標識されており、第1標識物質とは異なる第2標識物質により他方の端が標識されている標的核酸を検出するために用いられるテストストリップであって、
アプライ領域と、前記第1標識物質と特異的に結合するパートナーが固定されているテスト領域と、前記第2標識物質と特異的に結合するパートナーが結合している着色粒子が流出可能な状態で保持されているコンジュゲート領域と、前記第1プライマーと特異的に結合するが前記第1標識物質とは結合しない物質が固定されているキャプチャー領域とを有し、
前記コンジュゲート領域及び前記キャプチャー領域が、前記アプライ領域と前記コンジュゲート領域の間に存在することを特徴とするテストストリップ。
【請求項11】
前記キャプチャー領域が、前記アプライ領域と前記コンジュゲート領域の間に存在することを特徴とする請求項10記載のテストストリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−207123(P2010−207123A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55115(P2009−55115)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】