説明

模擬変圧器及び耐電圧模擬試験装置

【課題】低い電圧で耐電圧試験を模擬的に実現することができ、且つ試験条件を容易に変更することができる模擬変圧器及び耐電圧模擬試験装置を提供する。
【解決手段】この耐電圧模擬試験装置60は、商用電源電圧を所定の電圧範囲に昇降するスライダック12と、商用電源電圧とスライダック12の1次側とを断接する電源スイッチ13と、スライダック12に過電流が流入するのを防止するヒューズ14と、図1に記載の模擬変圧器50からサージ電圧が伝わるのを防止する絶縁変圧器11と、を備え、スライダック12の2次側を絶縁変圧器11の1次側と接続し、絶縁変圧器11の2次側を被試験用の模擬変圧器50と接続した状態で、実際の変圧器に印加される異常電圧に相当する電圧を模擬変圧器50に印加することにより、模擬変圧器50の耐電圧試験を実施する。尚、絶縁変圧器11とスライダック12との間に感電防止用の絶縁板15を立設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬変圧器及び耐電圧模擬試験装置に関し、さらに詳しくは、発電所又は変電所に設置する変圧器を模して小型化した模擬変圧器、及びそれを使用して耐電圧試験を行う耐電圧模擬試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発電所又は変電所を新設したり、変圧器の増設・取替工事を行う際、現地において変圧器の耐電圧試験が行われていたが、近年、それを省略する傾向にある。その理由として、従来は、輸送中に発生する衝撃により、変圧器が破損又は特性劣化をきたす虞があるため、現地でその有無を確認するために耐電圧試験を実施する必要があったが、輸送方法や梱包方法を改善することにより、殆ど破損又は特性劣化が発生しないことが判明したためである。しかし、その反面、耐電圧試験を必要とする事態が発生したときに、その技術を持つ作業員が少なくなり、作業に支障を来たすといった不具合が起こりつつある。
そこで、耐電圧試験関係の技術低下を防止するために、集合研修等で研修室の耐電圧試験関係の技術研修や変圧器研修により、移行電圧やサージアブソーバの必要性などの研修を実施しているが、研修室研修であるため理論面のみの知識習得となり、研修効果が十分得られないといった問題がある。この背景には、実際の変圧器を使用して耐電圧試験研修や変圧器工場でのサージアブソーバ関係の試験を実施した場合、高い研修効果が得られ実務に適用可能となるものの、高額な研修費用と長時間の研修時間が必要となり、事実上、実施できないといった現状がある。
このような課題を解決する1つの方法として特許文献1には、試験用変圧器の1次側に信号発生器を接続して、2次側にケーブルサンプルを接続して課電試験回路を構成し、信号発生器の周波数を定格周波数より高くすることにより1次と2次の電圧を定格電圧より上昇させて耐電圧試験を実施する耐電圧試験方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−241297公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の従来技術は、電力設備(特にCVケーブル)の耐電圧試験用であり、電力設備には高圧の電圧が印加されるため、安全性の点で難がある。また、実際に使用される変圧器を使用するため、現地まで出向かなければ試験が実施できないといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、スライダックと絶縁変圧器により構成される耐電圧試験装置に、実際の変圧器を模して小型化し、且つ実際の変圧器に存在する静電容量を模擬したコンデンサを備えた模擬変圧器を接続して耐電圧試験を実施することにより、低い電圧で耐電圧試験を模擬的に実施することができ、且つ試験条件を容易に変更することができる模擬変圧器及び耐電圧模擬試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、変圧器を模して小型化した模擬変圧器であって、模擬変圧器本体と、該模擬変圧器本体の上部に配設され、該模擬変圧器本体の各入出力端子を配置したブッシング端子板と、前記模擬変圧器本体を固定設置する台座と、該台座に設置され、前記各入出力端子を引き出して支持した端子台と、前記台座に設置され、前記模擬変圧器本体の1次側の負荷を切り替える負荷端子切換スイッチと、を備え、前記模擬変圧器本体は、前記変圧器の巻線構造を縮小して構成すると共に、各巻線間及び該巻線と外箱間に存在する静電容量を模擬した複数のコンデンサを配設し、前記端子台に印加する入力電圧を安全許容電圧値以下に設定したことを特徴とする。
本発明の模擬変圧器は、台座の上に実際の変圧器を模して小型化した模擬変圧器本体と、模擬変圧器本体の各入出力端子を引き出して接続する端子台と、1次側の負荷を切り替える負荷端子切換スイッチとを配置する。更に、模擬変圧器本体の上部には、模擬変圧器本体の各入出力端子を配置したブッシング端子板を備え、各巻線間及び巻線と外箱間に存在する静電容量を模擬した複数のコンデンサを配設した。これにより、模擬変圧器が、実際の変圧器を小型化し、且つ、その変圧器に存在する静電容量を模擬したコンデンサを有するので、変圧器と等価な耐電圧試験を安全に、且つ正確に実施することができる。
請求項2は、前記ブッシング端子板は、絶縁性部材により構成した中空体の内部に前記模擬変圧器本体の各入出力端子を延伸して、前記中空体の先端から突出させて固定して構成したことを特徴とする。
実際の変圧器では、高圧側端子はブッシングにより絶縁されて、変圧器との沿面距離が大きくなるように構成されている。本発明の模擬変圧器では、それを忠実に再現するために、絶縁性部材により構成した中空体の内部に模擬変圧器本体の各入出力端子を延伸して、中空体の先端から突出させて固定している。これにより、実際の変圧器に近い形状を実験的に認識することができる。
【0006】
請求項3は、前記模擬変圧器本体は、特別高圧で受電した電気を異なる電圧の特別高圧に変成して送電する変電所で使用される送電用変圧器を模した送電用模擬変圧器、又は前記特別高圧で受電した電力を配電線に供給する電圧に降下する変電所に使用される配電用変圧器を模した配電用模擬変圧器であることを特徴とする。
実際の変圧器には、特別高圧に変成する送電用変圧器と、一般の配電線に供給する低圧用の配電用変圧器がある。そこで本発明では、模擬変圧器もこれらの変圧器を模したものを用意する。これにより、変圧器の違いによる耐電圧試験を研修室で実施して体験することができる。
請求項4は、商用電源電圧を所定の電圧範囲に昇降するスライダックと、前記商用電源電圧と前記スライダックの1次側とを断接する電源スイッチと、前記スライダックに過電流が流入するのを防止するヒューズと、請求項1乃至3の何れか一項に記載の模擬変圧器からサージ電圧が伝わるのを防止する絶縁変圧器と、を備え、前記スライダックの2次側を前記絶縁変圧器の1次側と接続し、該絶縁変圧器の2次側を被試験用の前記模擬変圧器と接続した状態で、前記変圧器に印加される試験電圧に相当する電圧を前記模擬変圧器に印加することにより、該模擬変圧器の耐電圧試験を実施することを特徴とする。
模擬変圧器の耐電圧試験を実施するには、実際の変圧器に印加されるサージ電圧に相当する電圧を外部から発生させる必要がある。しかし、サージ電圧はその幅が非常に狭いため、それと同じ波形を実現することは困難である。そこで、本発明では、商用電源(50/60Hz)を使用して、電圧を例えば1/1000に低下させて行う。そのためには、スライダックと絶縁変圧器が必要となる。そして、絶縁変圧器の出力を被試験用の模擬変圧器に接続する。これにより、低い電圧で耐電圧試験を模擬的に実現することができ、且つ試験条件を容易に変更することができる。
【0007】
請求項5は、前記模擬変圧器の3次巻き線にサージアブソーバを接続して該模擬変圧器の耐電圧試験を実施することを特徴とする。
実際の変圧器では、サージ電圧を低減するために、サージアブソーバを取り付けるのが一般的である。そこで本発明では、3次巻き線にサージアブソーバを接続して模擬変圧器の耐電圧試験を実施する。これにより、サージ電圧に対する効果を研修室で確認することができる。
請求項6は、前記絶縁変圧器と前記スライダックとの間に感電防止用の絶縁板を立設したことを特徴とする。
スライダックは入力電圧に比べて高い電圧を発生させることができる。従って、絶縁変圧器の2次側には更に高い電圧が出力される可能性もある。従って、試験中に作業者が誤って2次側端子に接触して感電する虞がないともいえない。そこで本発明では、絶縁変圧器とスライダックとの間に感電防止用の絶縁板を立設する。これにより、作業者が誤って感電する事故を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、模擬変圧器は、変圧器を小型化し且つ実際の変圧器に存在する静電容量を模擬したコンデンサを有するので、変圧器と等価な耐電圧試験を研修室で安全に、且つ正確に実施することができる。
また、絶縁性部材により構成した中空体の内部に模擬変圧器本体の各入出力端子を延伸して、中空体の先端から突出させて固定しているので、実際の変圧器に近い形状を研修室で認識することができる。
また、模擬変圧器もこれらの変圧器を模した模擬変圧器を用意するので、変圧器の違いによる耐電圧試験を研修室で実施して体験することができる。
また、商用電源(50/60Hz)を使用して、スライダックと絶縁変圧器を備え、絶縁変圧器の出力を被試験用の模擬変圧器に接続するので、低い電圧で耐電圧試験を模擬的に実現することができ、且つ試験条件を容易に変更することができる。
また、3次巻き線にサージアブソーバを接続して模擬変圧器の耐電圧試験を実施するので、サージ電圧に対する効果を研修室で確認することができる。
また、絶縁変圧器とスライダックとの間に感電防止用の絶縁板を立設するので、作業者が誤って感電する事故を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は220KV連係・110KV連係変圧器の側面図、(b)は500KV連係変圧器の上面図、(c)は220KV連係・110KV連係変圧器の上面図、(d)は110KV配電用変圧器の上面図である。
【図2】本発明の各模擬変圧器と耐電圧模擬試験装置の仕様を表す図である。
【図3】(a)は220KV連係変圧器の結線図、(b)は模擬変圧器のタップ電圧を表す図、(c)は結線図のシンボル凡例を表す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る耐電圧模擬試験装置の外観を示す図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
【図5】本発明の耐電圧模擬試験装置の結線を示す図である。
【図6】変圧器の耐電圧仕様の一例を示す図である。
【図7】耐電圧模擬試験装置により22/6.6kV単相変圧器を試験する場合の結線例を示す図である。
【図8】(a)は配電用変圧器の静電容量を模擬した図、(b)は簡略化した静電容量を模擬した図である。
【図9】(a)は試験用変圧器の各巻線間・大地間の静電容量を示す図であり、(b)はそのときの波形を示す図、(c)はサージアブソーバが無いときと有る時の計算値と測定値を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0011】
図1は本発明の一実施形態に係る模擬変圧器の外観を示す図である。図1(a)は220KV連係・110KV連係変圧器の側面図、図1(b)は500KV連係変圧器の上面図、図1(c)は220KV連係・110KV連係変圧器の上面図、図1(d)は110KV配電用変圧器の上面図である。この模擬変圧器50は、実際の変圧器を模して小型化した模擬変圧器50であって、図1(a)のように、模擬変圧器本体(鉄心と各巻線コイルから構成されている)2と、模擬変圧器本体2の上部に配設され、模擬変圧器本体2の各入出力端子を配置したブッシング端子板1と、模擬変圧器本体2を固定設置する台座6と、台座6に設置され、各入出力端子を引き出して配置した端子台4と、台座6に設置され、模擬変圧器本体2の1次側の負荷を切り替えるLTC模擬SW(負荷端子切換スイッチ)3と、実際の変圧器の各巻線間及び巻線と外箱間に存在する静電容量を模擬した複数のコンデンサ5と、を備えて構成されている。尚、この例ではブッシング端子板1には、図1(c)のように、1次側としてU、V、W、O端子、2次側としてu、v、w、o端子、3次側としてa、b、c端子が夫々備えられている。また、台座6の底面にはゴム足7が取り付けられている。
【0012】
また、図1(b)のブッシング端子板1には、1次側としてU、V、W、o端子、2次側としてu、v、w端子、3次側としてa、b、c端子が夫々備えられている。
また、図1(d)のブッシング端子板1には、1次側としてU、V、W、O端子、2次側としてu1、v1、w1、o1端子、3次側としてu2、v2、w2、o2端子が夫々備えられている。
即ち、本実施形態の模擬変圧器50は、台座6の上に実際の変圧器を模して小型化した模擬変圧器本体2と、模擬変圧器本体2の各入出力端子を引き出して接続する端子台4と、1次側の負荷を切り替えるLTC模擬SW3とを配置する。更に、模擬変圧器本体2の上部には、模擬変圧器本体2の各入出力端子を配置したブッシング端子板1を備え、各巻線間及び巻線と外箱間に存在する静電容量を模擬した複数のコンデンサ5を配設した。これにより、模擬変圧器50が、変圧器を小型化し、且つ実際の変圧器に存在する静電容量を模擬したコンデンサを有するので、変圧器と等価な耐電圧試験を研修室で安全に、且つ正確に実施することができる。
【0013】
また、実際の変圧器では、高圧側端子はブッシングにより絶縁されて変圧器との沿面距離が大きくなるように構成されている。本発明の模擬変圧器50では、それを忠実に再現するために、樹脂パイプ(絶縁性部材)8により構成した中空体の内部に模擬変圧器本体2の各入出力端子を延伸して、中空体の先端から突出させて固定している。これにより、実際の変圧器に近い形状を研修室で認識することができる。
また、実際の変圧器には、特別高圧に変成する送電用変圧器と、一般の配電線に供給する低圧用の配電用変圧器がある。そこで本実施形態では、模擬変圧器もこれらの変圧器を模した模擬変圧器を用意する。これにより、変圧器の違いによる耐電圧試験を研修室で実施して体験することができる。
【0014】
図2は本発明の各模擬変圧器と耐電圧模擬試験装置の仕様を表す図である。即ち、500kV連係模擬変圧器の仕様は、電圧を1/1000にして、1次側500v、2次側220v、3次側63vのタップがあり、0.2kVAの容量を有する三相低圧変圧器である。同様に、220kV連係模擬変圧器の仕様は、電圧を1/1000にして、1次側220v、2次側110v、3次側66vのタップがあり、0.2kVAの容量を有する三相低圧変圧器である。110kV連係模擬変圧器の仕様は、電圧を1/1000にして、1次側110v、2次側66v、3次側22vのタップがあり、0.2kVAの容量を有する三相低圧変圧器である。110kV配電用模擬変圧器の仕様は、電圧を1/1000にして、1次側107v、2次側6.9v、3次側23vのタップがあり、0.2kVAの容量を有する三相低圧変圧器である。尚、上記の各模擬変圧器は、LCT模擬SW3、端子台4、ブッシング端子板1、コンデンサ5を含む。また、150kV耐電圧模擬試験装置の仕様は、スライダックが入力電圧100v、出力電圧が0〜150v、及び0〜50の2タップ方式であり、絶縁変圧器は0.2kVAの単相変圧器である。
【0015】
図3(a)は220KV連係変圧器の結線図、図3(b)は模擬変圧器のタップ電圧を表す図、図3(c)は結線図のシンボル凡例を表す図である。図3(a)から分かるとおり、◎は模擬変圧器ブッシング模擬端子であり、1次側はU、V、W、Oがあり、夫々が●に示すように模擬変圧器50の端子台4に引き出され、○で示すタップ電圧は135.7vである。また、LTC模擬SW3は中性点Oに接続され、U2、V2、W2が20.8v、U3、V3、W3が8、7vである。尚、X、Y、Zは0vである。また、2次側はu、v、wがあり、夫々が●に示すように模擬変圧器50の端子台4に引き出され、○で示すタップ電圧は63.5vである。また、3次側はa、b、cがあり、夫々が●に示すように模擬変圧器50の端子台4に引き出され、○で示すタップ電圧は66.0vである。また、点線は端子台4の模擬変圧器側で結線した状態を示す。
【0016】
図4は本発明の一実施形態に係る耐電圧模擬試験装置の外観を示す図である。図4(a)は側面図、図4(b)は上面図である。この耐電圧模擬試験装置60は、台座10の上に、商用電源電圧を所定の電圧範囲に昇降するスライダック12と、商用電源電圧とスライダック12の1次側とを断接する電源スイッチ13と、スライダック12に過電流が流入するのを防止するヒューズ14と、図1に記載の模擬変圧器50からサージ電圧が伝わるのを防止する絶縁変圧器11と、を備え、スライダック12の2次側U、V端子を絶縁変圧器11の1次側と接続し、絶縁変圧器11の2次側u1端子を被試験用の模擬変圧器50の1次側U、V端子と接続し、絶縁変圧器11の2次側v端子を被試験用の模擬変圧器50の2次側u、v端子と接続た状態で、実際の変圧器に印加される試験電圧に相当する電圧を模擬変圧器50に印加することにより、模擬変圧器50の1次側と2次側間の耐電圧試験を実施する。尚、絶縁変圧器11とスライダック12との間に感電防止用の絶縁板15を立設する。
即ち、模擬変圧器50の耐電圧試験を実施するには、実際の変圧器に印加されるサージ電圧に相当する電圧を外部から発生させる必要がある。しかし、サージ電圧はその幅が非常に狭いため、それと同じ波形を実現することは困難である。そこで、本実施形態では、商用電源(50/60Hz)を使用して、電圧を例えば1/1000に低下させて行う。そのためには、スライダック12と絶縁変圧器11が必要となる。そして、絶縁変圧器11の出力を被試験用の模擬変圧器50の1次側と2次側間に接続する。これにより、低い電圧で模擬変圧器50の1次側と2次側間の耐電圧試験を模擬的に実現することができ、且つ試験条件を容易に変更することができる。
また、スライダック12は入力電圧に比べて高い電圧を発生させることができる。従って、絶縁変圧器11の2次側には更に高い電圧が出力される可能性もある。従って、試験中に作業者が誤って2次側端子に接触して感電する虞がないともいえない。そこで本実施形態では、絶縁変圧器11とスライダック12との間に感電防止用の絶縁板15を立設する。これにより、作業者が誤って感電する事故を未然に防止することができる。
【0017】
図5は本発明の耐電圧模擬試験装置の結線を示す図である。X、Y端子に商用電源100vを入力する。商用電源は電源スイッチ13によりON・OFFされてヒューズ14を介してスライダック12の1次側に接続される。スライダック12は、スライダ12aを上下させることで、2次側に0〜140vの電圧が出力される。2次側の出力電圧は絶縁変圧器11のU、V端子に接続され、その2次側には、u1−v端子間に150v、u2−v端子間には50vが出力される。尚、絶縁変圧器11の2次側にヒューズ16を設けても良い。図5の絶縁変圧器タップ電圧から明らかなように、この変圧器11は、入力電圧150vのときu1の出力電圧が同じ電圧の150vであり、電圧を昇圧する目的ではなく、2次側から回り込むサージ電圧を1次側に伝達させないように、1次側と2次側を絶縁した構造の変圧器である。
【0018】
図6は変圧器の耐電圧仕様の一例を示す図である。例えば、区分が1次、1次中性点では、公称電圧110kvのとき、交流耐電圧は230kv必要であり、雷インパルス耐電圧は550kvとなる。また、公称電圧が66kvのときは、夫々140kv、350kvとなる。このように、各区分毎に公称電圧に対する交流耐電圧と雷インパルス耐電圧が決められている。尚、移行電圧検討には、2次・3次側電力ケーブルの静電容量を考慮してもよい。また、1次から2次・3次に移行誘起される異常電圧に対して、2次または3次にサージ吸収コンデンサ・避雷器を併用して耐えるようにしてもよい。
【0019】
図7は耐電圧模擬試験装置により22/6.6kV単相変圧器を試験する場合の結線例を示す図である。上側に実際の設備により試験する場合の結線図であり、各点線の枠内と対応する本発明の耐電圧模擬試験装置60を下側に示す。例えば、受電盤20、制御盤21、絶縁変圧器22、誘導電圧調整器23、及び試験用変圧器24を含むA枠が耐電圧模擬試験装置60のa枠に対応し、電流計25のB枠がデジタルテスタ30の電流のb枠に対応し、耐圧試験器付属PT27のD枠がデジタルテスタ31の電圧のd枠に対応する。尚、耐電圧模擬試験装置60にはリアクトル26を省略している。そして、試験用変圧器24の出力にリアクトル26と耐圧試験器付属PT27と試験する22/6.6kV単相変圧器28の1次側U、V端子に接続し、2次側端子u、vをグランドに接続する。また、耐電圧模擬試験装置60では、絶縁変圧器11のu1端子と試験する22/6.6kV単相変圧器28の1次側U、V端子に接続し、2次側端子u、vをグランドに接続する。また、絶縁変圧器11のv端子をグランドに接続する。更にデジタルテスタ31でu1とv間の電圧を測定する。
【0020】
図8(a)は配電用変圧器の静電容量を模擬した図、図8(b)は簡略化した静電容量を模擬した図である。配電用変圧器の巻線断面は、図8(a)の配置(片側のみ図示)が標準的である。即ち、変圧器タンク40と1次巻線41間にC1−1、1次巻線41と3次巻線42間にC2−1、3次巻線42と2次巻線43間にC3−1、2次巻線43と安定巻線44間にC4、安定巻線44と鉄心45間にC5が存在する。また、1次ブッシング46と変圧器タンク40間にC1−2、3次ブッシング47と変圧器タンク40間にC2−2、2次ブッシング48と変圧器タンク40間にC3−2が夫々存在する。尚、変圧器タンク40と各ブッシング間の静電容量C1−2、C2−2、C3−2は、巻線間の静電容量に比較すると小さな値であり、無視しても大きな誤差とはならないので、図8(b)に示す模擬でも大きな問題とはならない。
【0021】
図9(a)は試験用変圧器の各巻線間・大地間の静電容量を示す図であり、図9(b)はそのときの波形を示す図、図9(c)はサージアブソーバ(以下、SAと呼ぶ)が無いときと有る時の計算値と測定値を表す図である。実際の雷インパルス耐電圧試験は、1/50μsのランプ波により実施するが、適切なパルスジェネレータ及び観測装置がないため、商用周波数の交流電圧を印加し、プラス側波高値が規定電圧の1/10000となる電圧を印加し(550kVを波高値55Vの電圧とする)、異常電圧を模擬することでオシロスコープにより観測する。
【0022】
次に1次側から550kVの異常電圧が進入したとき、3次及び2次に移行される電圧、及び3次側から150kVの異常電圧が進入したときの2次側に移行される電圧を計算する。また、3次側に0.15μFのSAを設置したときに2次側に移行される電圧を計算する。
1次側異常電圧進入時の3次移行電圧V3−1は、
V3−1=(0.33−1+0.68−1+0.68−1)/(0.10−1+0.33−1+0.68−1+0.68−1)×550kV≒205.6kV
1次側異常電圧進入時の2次移行電圧V2−1は、
V2−1=(0.68−1+0.68−1)/(0.10−1+0.33−1+0.68−1+0.68−1)×550kV≒101.3kV
SA設置時における1次側異常電圧進入時の3次移行電圧V3−1は、
SA及び3次〜2次〜安定〜大地間の合成静電容量Cは、
C=(0.15×3相)+1/(0.33−1+0.68−1+0.68−1)≒0.617μF
よって、
V3−1=(0.617−1)/(0.10−1+0.617−1)×550kV≒76.7kV
SA設置時における1次側異常電圧進入時の2次移行電圧V2−1は、
V2−1=(0.68−1+0.68−1)/(0.33−1+0.68−1+0.68−1)×76.7kV≒37.83kV
以上の結果より、SAが無い場合、3次への移行電圧が200kVを超過、2次への移行電圧も100kVを超過しており、JEC値(3次150kV1分間、2次60kV1分間)以上となることから、絶縁破壊を起こす可能性がある。尚、SAを設置した場合は、2次、3次ともにJEC値以下となりSAの必要性が理解できる。
【符号の説明】
【0023】
1 ブッシング端子板、2 模擬変圧器本体、3 LTC模擬SW、4 端子台、5 コンデンサ、6 台座、7 ゴム足、8 樹脂パイプ、10 台座、11 絶縁変圧器、12 スライダック、13 電源スイッチ、14 ヒューズ、15 絶縁板、50 模擬変圧器、60 耐電圧模擬試験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器を模して小型化した模擬変圧器であって、
模擬変圧器本体と、
該模擬変圧器本体の上部に配設され、該模擬変圧器本体の各入出力端子を配置したブッシング端子板と、
前記模擬変圧器本体を固定設置する台座と、
該台座に設置され、前記各入出力端子を引き出して支持した端子台と、
前記台座に設置され、前記模擬変圧器本体の1次側の負荷を切り替える負荷端子切換スイッチと、を備え、
前記模擬変圧器本体は、前記変圧器の巻線構造を縮小して構成すると共に、各巻線間及び該巻線と外箱間に存在する静電容量を模擬した複数のコンデンサを配設し、前記端子台に印加する入力電圧を安全許容電圧値以下に設定したことを特徴とする模擬変圧器。
【請求項2】
前記ブッシング端子板は、絶縁性部材により構成した中空体の内部に前記模擬変圧器本体の各入出力端子を延伸して、前記中空体の先端から突出させて固定して構成したことを特徴とする請求項1に記載の模擬変圧器。
【請求項3】
前記模擬変圧器本体は、特別高圧で受電した電気を異なる電圧の特別高圧に変成して送電する変電所で使用される送電用変圧器を模した送電用模擬変圧器、又は前記特別高圧で受電した電力を配電線に供給する電圧に降下する変電所に使用される配電用変圧器を模した配電用模擬変圧器であることを特徴とする請求項1又は2に記載の模擬変圧器。
【請求項4】
商用電源電圧を所定の電圧範囲に昇降するスライダックと、前記商用電源電圧と前記スライダックの1次側とを断接する電源スイッチと、前記スライダックに過電流が流入するのを防止するヒューズと、請求項1乃至3の何れか一項に記載の模擬変圧器からサージ電圧が伝わるのを防止する絶縁変圧器と、を備え、
前記スライダックの2次側を前記絶縁変圧器の1次側と接続し、該絶縁変圧器の2次側を被試験用の前記模擬変圧器と接続した状態で、前記変圧器に印加される試験電圧に相当する電圧を前記模擬変圧器に印加することにより、該模擬変圧器の耐電圧試験を実施することを特徴とする耐電圧模擬試験装置。
【請求項5】
前記模擬変圧器の3次巻き線にサージアブソーバを接続して該模擬変圧器の耐電圧試験を実施することを特徴とする請求項4に記載の耐電圧模擬試験装置。
【請求項6】
前記絶縁変圧器と前記スライダックとの間に感電防止用の絶縁板を立設したことを特徴とする請求項4又は5に記載の耐電圧模擬試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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