説明

模擬金型装置及び金型合わせ作業訓練方法

【課題】未経験者に対して失敗を許容した訓練を行わせることができ、しかも、同一箇所に対する訓練を単位時間当たりに何度も行わせることが可能で、未経験者を熟練技能者に育て上げるまでの育成時間を短縮することができる模擬金型装置を提供する。
【解決手段】複数の金型を有し、型閉めの際に、複数の金型が組み合わさることによって内部にキャビティが形成される金型装置の一部を模した第1模擬金型装置10Aであって、第1傾斜面22を有する模擬上型14と、型閉めに模した操作の際に第1傾斜面22に当接される第2傾斜面28を有する模擬下型18と、模擬下型18内に摺動可能に収容され、且つ、型閉めに模した操作の際に模擬上型14の第1傾斜面22に接触する訓練作業面70を有する摺動部材46とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オペレータに対して、手作業工具を用いた金型合わせ作業を訓練する場合に好適な模擬金型装置及び金型合わせ作業訓練方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型装置は、複数の金型を有し、型閉めの際に、複数の金型が組み合わさることによって内部にキャビティ(ワーク成形面、製品成形面)が形成されるようになっている。そのため、ある金型の一部の部位が規定よりも寸法が違っていれば、複数の金型を合わせることができなくなる。この場合、金型の修正を行うことになるが、この修正作業は、手作業工具にて、金型の所定箇所を精密に削りとるものであり、一般に熟練技能者によって時間をかけて行われる。
【0003】
熟練技能者がもつ技能は、様々なケースを実体験しながら時間をかけて得られたものであり、従って、金型の修正作業について経験のない者(未経験者)を熟練技能者に育て上げるには、多大な時間がかかる。通常、手作業工具を使った技能は、失敗を繰り返しながらも、その失敗によって得られた経験を次の訓練で生かしていくことで、早期に習得できるものである。しかし、金型合わせ作業は、実物の金型を使って教育を兼ねた修正作業となることから、ほとんど失敗が許されない状況下での修正作業(実習)となり、例えば傾斜面のように、高度な技術が必要な箇所に対する修正作業では、未経験者ではなく、熟練技能者が修正作業を行っているのが現状で、未経験者が熟練技能者になるまでには多大な時間と人員(熟練技能者)が必要となる。
【0004】
そこで、従来では、例えば特許文献1に示す教育方法が提案されている。この特許文献1に記載の方法は、熟練者に直接指導を受けたり、実際に成形機を操作することなしに、樹脂成形の訓練を受けたり、試作や金型設計や製造の合理化の検討を行ったり、樹脂の新製品や新銘柄をユーザーに紹介等を行うことを可能にすることを目的としており、具体的には、サーバと端末をネットで結び、使用者(未経験者)が端末からサーバにアクセスして、樹脂成形に関するプログラム及び樹脂成形に関するデータベースを使用して、成形条件を入力し、データベースからデータを選択して入力して、各種プログラムを実行して、仮想的に樹脂成形を行い、結果を図形化して表示したり、コメントを表示したりするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−277320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法は、熟練者に直接指導を受けたり、実際に成形機を操作することなく、各種プログラムを実行して、表示画面を見ながら、仮想的に作業を行うことから、上述のような手作業工具を使った金型の修正作業の訓練には適用できないという問題がある。
【0007】
すなわち、コンピュータ上の仮想空間で金型を表示し、修正部分の位置、どの程度削ればよいか、力を入れる方向等がコメントとして表示されても、その情報は知識としてだけ取得されたに過ぎず、実際に、実物の金型に対して手作業工具で修正箇所を削ろうとした際に、どの程度の力をどの方向に加えればよいか、角度はどうかを、手元に伝わる力を頼りにどのように決定すればよいかがわからず、結局、技能としては習得できない。しかも、特許文献1においても、ほとんど失敗が許されない状況下での修正作業(実習)が必要になることは従来と変わりがなく、未経験者が熟練技能者になるまでには多大な時間と人員(熟練技能者)が必要となる。
【0008】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、未経験者に対して失敗を許容した訓練を行わせることができ、しかも、同一箇所に対する訓練を単位時間当たりに何度も行わせることが可能となり、未経験者を熟練技能者に育て上げるまでの育成時間を短縮することができ、金型を使用した製品の生産性の向上につながる模擬金型装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の他の目的は、未経験者に対して失敗を許容した訓練を行わせることができ、しかも、同一箇所に対する訓練を単位時間当たりに何度も行わせることが可能となり、未経験者を熟練技能者に育て上げるまでの育成時間を短縮することができる金型合わせ作業訓練方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 第1の本発明に係る模擬金型装置は、複数の金型を有し、型閉めの際に、前記複数の金型が組み合わさることによって内部にキャビティが形成される金型装置の一部を模した模擬金型装置であって、第1面を有する第1模擬金型と、前記型閉めに模した操作の際に前記第1面に当接される第2面を有する第2模擬金型と、前記第2模擬金型内に摺動可能に収容され、且つ、前記型閉めに模した操作の際に前記第1模擬金型の前記第1面に接触する訓練作業面を有する摺動部材と、を有することを特徴とする。
【0011】
これにより、上型と下型の面同士を合わせる作業を手作業工具による削り取りを行いながら訓練することができ、金型合わせ作業を知識としてだけでなく、実際に手作業工具を使って習得することができる。しかも、失敗が許容された状況で作業を行うことができるため、未経験者に対し、難しい修正作業(例えば0.01〜0.02mm単位の削り作業等)を積極的に行わせることが可能となる。また、単位時間(例えば15分、30分、1時間等)当たりに同一箇所の修正作業を何度も行わせることができる。
【0012】
[2] 第1の本発明において、前記第1面及び前記第2面は互いに対向する傾斜面であることを特徴とする。これにより、金型合わせ作業の中でも難しいとされる傾斜面同士の合わせ作業をオペレータに訓練させることができる。
【0013】
[3] 第1の本発明において、前記第2模擬金型は、前記摺動部材が収容され、前記第2面に開口を有する中空部と、前記摺動部材を前記開口に向けて付勢する弾発部材と、前記摺動部材の前記中空部からの抜け落ちを阻止する規制部と、を有することを特徴とする。これにより、金型合わせ作業を知識としてだけでなく、実際に手作業工具を使って習得することができる。しかも、失敗した場合に、摺動部材を交換すればよいため、失敗が許容された状況で訓練作業を行うことができる。
【0014】
[4] 第1の本発明において、前記第2模擬金型は、前記摺動部材が収容され、前記第2面に開口を有する中空部と、前記摺動部材の前記中空部からの抜け落ちを阻止する規制部と、前記摺動部材を前記開口から突出させる押さえ部材とを有することを特徴とする。これにより、金型合わせ作業を知識としてだけでなく、実際に手作業工具を使って習得することができる。しかも、失敗した場合に、摺動部材を交換すればよいため、失敗が許容された状況で訓練作業を行うことができる。
【0015】
[5] 第1の本発明において、前記第1模擬金型及び前記第2模擬金型のうち、いずれか一方の模擬金型に収容され、前記キャビティの形状に模したキャビティ模擬部材と、前記第1模擬金型及び前記第2模擬金型のうち、いずれか他方の模擬金型に取り付けられ、前記型閉め操作の際に前記キャビティ模擬部材に対向する部位を有する訓練作業部材と、を有することを特徴とする。
【0016】
これにより、上型と下型の面同士を合わせる作業に加えて、金型をキャビティの形状に合わせた研削作業を手作業工具による削り取りを行いながら訓練することができ、未経験者に対して、金型合わせ作業の総合的な訓練を行うことができる。これは、さらなる育成時間の短縮化につながる。
【0017】
[6] 第2の本発明に係る金型合わせ作業訓練方法は、上述した第1の本発明に係る模擬金型装置を使用してオペレータに金型合わせ作業の訓練を行う金型合わせ作業訓練方法であって、前記第2模擬金型の前記第2面を手作業工具で削る第1ステップと、前記型閉めを模した型閉め操作を行って、前記第1模擬金型と前記第2模擬金型を合わせる第2ステップと、前記型閉め操作の際に、前記摺動部材が摺動した量を戻り量と定義したとき、該戻り量を測定する第3ステップとを有し、測定した前記戻り量が所定の量より大きい場合に、前記第1ステップから第3ステップを繰り返すことを特徴とする。
【0018】
これにより、上型と下型の傾斜面同士を合わせる作業を手作業工具による削り取りを行いながら訓練することができ、金型合わせ作業を知識としてだけでなく、実際に手作業工具を使って習得することができる。しかも、失敗が許容された状況で作業を行うことができるため、未経験者に対し、難しい修正作業(0.01〜0.02mm単位の削り作業等)を積極的に行わせることが可能となる。また、単位時間(例えば15分、30分、1時間等)当たりに同一箇所の修正作業を何度も行わせることができる。また、金型合わせ作業の中でも難しいとされる傾斜面同士の合わせ作業をオペレータに訓練させることができる。従って、未経験者を熟練技能者に育て上げるまでの育成時間を短縮することができ、金型を使用した製品の生産性の向上につながることとなる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係る模擬金型装置によれば、未経験者に対して失敗を許容した訓練を行わせることができ、しかも、同一箇所に対する訓練を単位時間当たりに何度も行わせることが可能となり、未経験者を熟練技能者に育て上げるまでの育成時間を短縮することができ、金型を使用した製品の生産性の向上につながる。
【0020】
また、本発明に係る金型合わせ作業訓練方法によれば、未経験者に対して失敗を許容した訓練を行わせることができ、しかも、同一箇所に対する訓練を単位時間当たりに何度も行わせることが可能となり、未経験者を熟練技能者に育て上げるまでの育成時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1模擬金型装置の構成を示す分解斜視図である。
【図2】第1模擬金型装置における模擬下型の他の構成を示す斜視図である。
【図3】第1模擬金型装置を使用してオペレータに金型合わせ作業の訓練を行う金型合わせ作業訓練方法を示すフローチャートである。
【図4】図4Aは模擬下型の中空部内に摺動部材を収容した状態を示す説明図であり、図4Bは型閉め操作を行って模擬上型と模擬下型を合わせた状態を示す説明図である。
【図5】戻り量が所定範囲(例えば0.00〜0.03mm)となった状態を示す説明図である。
【図6】第2模擬金型装置の構成を示す分解斜視図である。
【図7】第2模擬金型装置を使用してオペレータに金型合わせ作業の訓練を行う金型合わせ作業訓練方法を示すフローチャートである。
【図8】図8Aは模擬上型の下端面と模擬下型の第2水平面との間に隙間が形成された状態を示す説明図であり、図8Bは型開き操作を行って模擬上型と模擬下型を離した状態を示す説明図である。
【図9】模擬上型の下端面と模擬下型の第2水平面との間に隙間がなくなった状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る模擬金型装置及び金型合わせ作業訓練方法の実施の形態例を図1〜図9を参照しながら説明する。
【0023】
本実施の形態に係る模擬金型装置は、複数の金型を有し、型閉めの際に、複数の金型が組み合わさることによって内部にキャビティ(ワーク成形面、製品成形面)が形成される金型装置の一部を模した装置である。
【0024】
そして、第1の実施の形態に係る模擬金型装置(以下、第1模擬金型装置10Aと記す)は、図1に示すように、下部に段差12が形成され、断面L字状の形状を有する模擬上型14(第1模擬金型)と、上部に段差16が形成され、断面L字状の形状を有する模擬下型18(第2模擬金型)とを有する。これら模擬上型14及び模擬下型18は、金型装置のうち、模された部分の材質と同じ材質にて構成されている。
【0025】
模擬上型14及び模擬下型18は、金型装置が例えば4つの上型(第1上型〜第4上型:図示せず)と4つの下型(第1下型〜第4下型:図示せず)で構成される場合、模擬上型14は例えば第1上型又はその一部を模して構成され、模擬下型18は例えば第1下型又はその一部を模して構成される。もちろん、様々な組み合わせが考えられる。
【0026】
そして、模擬上型14のうち、模擬下型18と対向する面は、水平に延びる下端面20と、鉛直方向に対して所定角度θ(例えば2°〜10°:この実施の形態では例えば2°や6°)だけ傾斜した第1傾斜面22(第1面)と、第1傾斜面22の端部から水平の延びる第1水平面24とを有する。
【0027】
同様に、模擬下型18のうち、模擬上型14と対向する面は、水平に延び、模擬上型14の下端面20と対向する第2水平面26と、鉛直方向に対して所定角度θだけ傾斜した第2傾斜面28(第2面)と、第2傾斜面28の端部から水平の延び、模擬上型14の第1水平面24と対向する上端面30とを有する。
【0028】
なお、模擬上型14の下端面20には、複数(例えば4つ)の第1位置決め用突起32が形成され、模擬下型18の第2水平面26には、第1位置決め用突起32が挿入される複数の第1位置決め用穴34が形成されている。同様に、模擬上型14の第1水平面24には、複数(例えば2つ)の第2位置決め用突起36が形成され、模擬下型18の上端面30には、第2位置決め用突起36が挿入される複数の第2位置決め用穴38が形成されている。
【0029】
従って、型閉めに模した操作(型閉め操作)を行った場合、模擬上型14の下端面20、第1傾斜面22及び第1水平面24が、模擬下型18の第2水平面26、第2傾斜面28及び上端面30にそれぞれほとんど隙間なく接触することになる。
【0030】
さらに、模擬下型18は、第2傾斜面28に形成された第1開口40から模擬下型18の側面の第2開口42にかけて形成された中空部44(貫通孔)と、該中空部44内を摺動するほぼ円柱状の摺動部材46と、摺動部材46を第1開口40に向けて付勢する圧縮コイルばね48(弾発部材)と、摺動部材46が中空部44からの抜け落ちを阻止する規制部50と、第2開口42を塞ぐ押さえ板52とを有する。
【0031】
摺動部材46は、図4Aに示すように、軸方向ほぼ中央部分に形成されたフランジ部54と、先端(第1開口40から露出する部分)からフランジ部54までの大円柱部56と、後端(第2開口42から露出する部分)からフランジ部54までの小円柱部58とを有する。この摺動部材46は、模擬下型18と同じ材質で構成されている。
【0032】
中空部44は、第1開口40から軸方向ほぼ中央部分まで延びる小口径部60と、第2開口42から軸方向ほぼ中央部分まで延びる大口径部62とを有し、小口径部60と大口径部62との境界において円環状の段差64が形成されている。小口径部60の径は、摺動部材46の大円柱部56が摺動できる程度に該大円柱部56の外径よりもわずかに大きく設定され、大口径部62の径は、摺動部材46のフランジ部54が摺動できる程度に該フランジ部54の外径よりもわずかに大きく設定されている。
【0033】
また、圧縮コイルばね48は、中空部44内に収容された摺動部材46のフランジ部54と、第2開口42(押さえ板52にて塞がれている)との間に設置される。これによって、摺動部材46は、第1開口40に向けて付勢されることになるが、フランジ部54が中空部44の円環状の段差64に当接することから、それ以上の第1開口40に向かう摺動が規制される。つまり、上述した規制部50は、摺動部材46のフランジ部54と、中空部44における円環状の段差64とで構成される。
【0034】
なお、押さえ板52は、中央部分に貫通孔66が形成され、該貫通孔66を介して摺動部材46の小円柱部58の端部が後方に突出できるようになっている。また、この押さえ板52は、例えばねじ68(図1参照)によって模擬下型18に簡単に取り付け、取り外しができるようになっている。
【0035】
上述のように、中空部44内に摺動部材46を収容することで、第2傾斜面28の第1開口40からは摺動部材46における大円柱部56の先端面が露出することとなる。この先端面は、オペレータが手作業工具を使って修正作業を訓練するための面(訓練作業面70)として設定されている。この訓練作業面70も第2傾斜面28と同じ角度(所定角度θ)の傾斜面となっている。従って、摺動部材46を中空部44内に収容したとき、第2傾斜面28と訓練作業面70(傾斜面)とが平行になっていない場合がある。このときは、摺動部材46の後端を把持して摺動部材46全体を回転することで、第2傾斜面28と訓練作業面70(傾斜面)とを容易に平行にすることができる。
【0036】
もちろん、例えば図2に示すように、フランジ部54の一部に突起72を設け、中空部44の大口径部62に突起72が摺動する溝74を設けることによって、第2傾斜面28と訓練作業面70(傾斜面)とが平行である位置関係のときのみ、摺動部材46を中空部44内に収容できるようにしてもよい。
【0037】
また、摺動部材46における大円柱部56の軸方向の長さは、中空部44における小口径部60の軸方向の長さよりもわずかに長く設定されている。本実施の形態では、例えば0.1mm程度長く設定されている。従って、中空部44内に摺動部材46を収容すると、訓練作業面70は第2傾斜面28よりも0.1mm程度突出することになる(図4A参照)。この状態で、型閉め操作を行った場合、訓練作業面70が模擬上型14の第1傾斜面22によって押され、摺動部材46は圧縮コイルばね48の付勢に抗して第2開口42に向けて摺動することになる。摺動部材46が摺動した量を戻り量として定義したとき、この戻り量は、摺動部材46の後端の後方への変位量、すなわち、押さえ板52の貫通孔66を介して突出する摺動部材46の小円柱部58の後端の後方への変位量を、例えばマイクロメータ76を用いて測定することで簡単に求めることができる(図4B参照)。
【0038】
従って、この第1模擬金型装置10Aを用いた訓練作業は、訓練作業面70を手作業工具で削ることによって、図4Aに示すように、型閉め操作を行った際に、戻り量が所定範囲(例えば0.00〜0.03mm)であって、且つ、訓練作業面の第1傾斜面に対する接触面積が訓練作業面の全体面積の70%以上にすることが挙げられる。
【0039】
次に、第1模擬金型装置10Aを使用してオペレータに金型合わせ作業の訓練を行う金型合わせ作業訓練方法を図3〜図5も参照しながら説明する。
【0040】
先ず、図3のステップS1において、オペレータは、図4Aに示すように、模擬下型18の中空部44内に摺動部材46を収容する。このとき、圧縮コイルばね48、押さえ板52の取り付けも行う。また、押さえ板52の貫通孔66から突出する摺動部材46の後端にマイクロメータ76を取り付ける。
【0041】
その後、ステップS2において、オペレータは、模擬上型14の第1傾斜面22のうち、少なくとも訓練作業面70と対向する部分に例えば光明丹を塗る。
【0042】
その後、ステップS3において、オペレータは、図4Bに示すように、型閉め操作を行って、模擬上型14と模擬下型18とを合わせる。
【0043】
このとき、ステップS4において、オペレータは、マイクロメータ76の指針を確認し、戻り量がどのくらいであるかを測定する。
【0044】
その後、ステップS5において、オペレータは、戻り量が所定の量(例えば0.03mm)より大きいか否かを判別し、大きければ、次のステップS6以降に進み、手作業工具による訓練作業に入る。
【0045】
すなわち、ステップS6において、オペレータは、型開きを模した操作(型開き操作)を行って模擬上型14と模擬下型18とを離す。
【0046】
その後、ステップS7において、オペレータは、訓練作業面70のうち、光明丹によって赤く色づいている部分(局部的に第1傾斜面22と当たっていた部分)を確認し、その部分を手作業工具で削り取るという訓練を行う。その後、上述したステップS3以降の処理を繰り返す。
【0047】
そして、上述のステップS5において、図5に示すように、戻り量が所定範囲(例えば0.00〜0.03mm)となった段階で、ステップS8に進み、オペレータは、型開きを模した操作(型開き操作)を行って模擬上型14と模擬下型18とを離す。
【0048】
その後、ステップS9において、オペレータは、光明丹によって赤く色づいている部分が全体の70%以上であるかどうか、すなわち、訓練作業面70の第1傾斜面22に対する接触面積が訓練作業面70の全体面積の70%以上であるかどうかを確認する。
【0049】
70%未満であれば、失敗(削り過ぎ)であり、摺動部材46を新しい摺動部材46に取り替えて、上述したステップS1以降の処理を繰り返す。
【0050】
ステップS9において、光明丹によって赤く色づいている部分が全体の70%以上であると確認された段階で、金型合わせ作業の訓練が終了する。
【0051】
ところで、ステップS7での訓練作業において、訓練作業面70を削り過ぎて失敗した場合は、その回の金型合わせ作業の訓練は一旦終了し、ステップS1から再度やり直すこととなるが、訓練の評価点は低くなる。
【0052】
このように、第1模擬金型装置10Aにおいては、上型と下型の傾斜面同士を合わせる作業を手作業工具による削り取りを行いながら訓練することができ、金型合わせ作業を知識としてだけでなく、実際に手作業工具を使って習得することができる。しかも、失敗が許容された状況で作業を行うことができるため、未経験者に対し、難しい修正作業(0.01〜0.02mm単位の削り作業等)を積極的に行わせることが可能となる。また、単位時間(例えば15分、30分、1時間等)当たりに同一箇所の修正作業を何度も行わせることができる。また、金型合わせ作業の中でも難しいとされる傾斜面同士の合わせ作業をオペレータに訓練させることができる。従って、未経験者を熟練技能者に育て上げるまでの育成時間を短縮することができ、金型を使用した製品の生産性の向上につながることとなる。
【0053】
なお、図示しないが、上述の第1の実施の形態の弾性部材(圧縮コイルばね48)を、剛性を有した筒状の押さえ部材に、すなわち、摺動部材46が図4Aの状態を維持するような、換言すると、摺動部材46のフランジ部54が中空部44における円環状の段差64に接したままになるような長さの前記押さえ部材に変更することもできる。そうすると、型閉め操作を行った際、第1位置決め用突起32と第1位置決め用穴34とがずれることになるため、模擬上型14の下端面20と模擬下型18の第2水平面との間に隙間が形成される。従って、同様に、金型合わせ作業の訓練は、訓練作業面70を手作業工具で削ることにより、第1位置決め用突起32と第1位置決め用穴34とが合致し、模擬上型14の下端面20と模擬下型18の第2水平面26との間に隙間がなくなった段階で終了する。もちろん、この場合も、削りすぎた場合は、失敗として一旦終了し、最初からやり直すことになる。
【0054】
また、一連の金型合わせ作業の訓練の過程において、熟練技能者が手作業工具による削り作業の指導(映像による指導を含む)、助言を行うことで、効率よく育成させることも可能となる。
【0055】
次に、第2の実施の形態に係る模擬金型装置(以下、第2模擬金型装置10Bと記す)について図6を参照しながら説明する。
【0056】
この第2模擬金型装置10Bは、上述した第1模擬金型装置10Aとほぼ同様の構成を有するが、傾斜面同士を合わせるための訓練作業と金型の一部をキャビティの形状に合わせるための訓練作業とを同時に行わせることができる構造を有する。
【0057】
具体的には、上述した第1傾斜面22及び第2傾斜面28、摺動部材46等に加えて、模擬上型14の下端面20に形成された第1凹部80と、該第1凹部80内に収容され、キャビティの形状に模したキャビティ模擬部材82と、模擬下型18の第2水平面26のうち、第1凹部80と対向する位置に形成された第2凹部84と、該第2凹部84内に収容され、キャビティ模擬部材の形状に対応した形状を有する訓練作業部材86とを有する。
【0058】
キャビティ模擬部材82は、下面にキャビティの一部を構成する凸部82aが形成されている。また、キャビティ模擬部材82は、例えば模擬上型14の上面からねじ込まれるねじ88によって、模擬上型14の第1凹部80に簡単に取り付け、取り外しができるようになっており、様々な形状のキャビティ模擬部材82を第1凹部80に設置できるようになっている。キャビティ模擬部材82は、キャビティを想定しているため、材質にはこだわらず、樹脂製であってもよい。
【0059】
訓練作業部材86は、模擬下型18と同じ材質で構成され、上面にキャビティ模擬部材82の凸部82aが挿入される凹部86aを有する。また、この訓練作業部材86は、例えば模擬下型18の下面からねじ込まれるねじ90によって、模擬下型18の第2凹部84に簡単に取り付け、取り外しができるようになっており、キャビティ模擬部材82に対応した形状を有する訓練作業部材86を第2凹部84に設置できるようになっている。
【0060】
また、訓練作業部材86の凹部86aのうち、上端縁及び底部周縁の形状(C面、R面等)は、キャビティ模擬部材82の凸部82aの根元周縁及び下端縁の形状(C面、R面等)と異なっており、形状的に互いに干渉するようになっている。訓練作業部材86に対する訓練では、主に、凹部86aの上端縁及び/又は底部周縁を手作業工具で研削して、キャビティ模擬部材82の凸部82aの根元周縁及び下端縁と干渉しない形状にする。すなわち、形状上の干渉をなくすことを目的としている。
【0061】
次に、第2模擬金型装置10Bを使用してオペレータに金型合わせ作業の訓練を行う金型合わせ作業訓練方法を図7〜図9も参照しながら説明する。
【0062】
先ず、図7のステップS101において、第1傾斜面22と第2傾斜面28とを合わせる訓練を行う。この訓練は、図3のステップS1〜ステップS9と同じであるため、その説明を省略する。
【0063】
ステップS102において、オペレータは、図8Aに示すように、型閉め操作を行う。その後、ステップS103において、オペレータは、模擬上型14の下端面20と模擬下型18の第2水平面26間に隙間が形成されているか否かを確認する。
【0064】
隙間が形成されていれば、ステップS104において、オペレータは、図8Bに示すように、型開き操作を行って、模擬上型14と模擬下型18を離す。
【0065】
その後、ステップS105において、オペレータは、確認した隙間の情報に基づいて、模擬下型18に収容されている訓練作業部材86の凹部86aのうち、主に上端縁及び/又は底部周縁を手作業工具で研削する。その後、ステップS102以降の作業を繰り返す。
【0066】
そして、上述のステップS103において、図9に示すように、模擬上型14の下端面20と模擬下型18の第2水平面26間に隙間がなくなった段階で、この第2模擬金型装置10Bを用いた金型合わせ作業の訓練が終了する。
【0067】
このように、第2模擬金型装置10Bにおいては、上型と下型の傾斜面同士を合わせる作業に加えて、金型をキャビティの形状に合わせた研削作業を手作業工具による削り取りを行いながら訓練することができ、未経験者に対して、金型合わせ作業の総合的な訓練を行うことができる。これは、さらなる育成時間の短縮化につながる。
【0068】
上述の例では、模擬金型に形成された傾斜面同士を合わせる作業を行う例を主体に説明したが、その他、傾斜面に代えて鉛直方向に延びる垂直面を形成し、垂直面同士を合わせる作業を訓練させるようにしてもよい。
【0069】
なお、本発明に係る模擬金型装置及び金型合わせ作業訓練方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0070】
10A…第1模擬金型装置 10B…第2模擬金型装置
14…模擬上型 18…模擬下型
20…下端面 22…第1傾斜面
24…第1水平面 26…第2水平面
28…第2傾斜面 30…上端面
40…第1開口 42…第2開口
44…中空部 46…摺動部材
48…圧縮コイルばね 50…規制部
52…押さえ板 54…フランジ部
70…訓練作業面 76…マイクロメーター
80…第1凹部 82…キャビティ模擬部材
82a…凸部 84…第2凹部
86…訓練作業部材 86a…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金型を有し、型閉めの際に、前記複数の金型が組み合わさることによって内部にキャビティが形成される金型装置の一部を模した模擬金型装置であって、
第1面を有する第1模擬金型と、
前記型閉めに模した操作の際に前記第1面に当接される第2面を有する第2模擬金型と、
前記第2模擬金型内に摺動可能に収容され、且つ、前記型閉めに模した操作の際に前記第1模擬金型の前記第1面に接触する訓練作業面を有する摺動部材と、
を有することを特徴とする模擬金型装置。
【請求項2】
請求項1記載の模擬金型装置において、
前記第1面及び前記第2面は互いに対向する傾斜面であることを特徴とする模擬金型装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の模擬金型装置において、
前記第2模擬金型は、
前記摺動部材が収容され、前記第2面に開口を有する中空部と、
前記摺動部材を前記開口に向けて付勢する弾発部材と、
前記摺動部材の前記中空部からの抜け落ちを阻止する規制部と、
を有することを特徴とする模擬金型装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の模擬金型において、
前記第2模擬金型は、
前記摺動部材が収容され、前記第2面に開口を有する中空部と、
前記摺動部材の前記中空部からの抜け落ちを阻止する規制部と、
前記摺動部材を前記開口から突出させる押さえ部材と、
を有することを特徴とする模擬金型装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の模擬金型装置において、
前記第1模擬金型及び前記第2模擬金型のうち、いずれか一方の模擬金型に収容され、前記キャビティの形状に模したキャビティ模擬部材と、
前記第1模擬金型及び前記第2模擬金型のうち、いずれか他方の模擬金型に取り付けられ、前記型閉め操作の際に前記キャビティ模擬部材に対向する部位を有する訓練作業部材と、
を有することを特徴とする模擬金型装置。
【請求項6】
請求項1記載の模擬金型装置を使用してオペレータに金型合わせ作業の訓練を行う金型合わせ作業訓練方法であって、
前記第2模擬金型の前記第2面を手作業工具で削る第1ステップと、
前記型閉めを模した型閉め操作を行って、前記第1模擬金型と前記第2模擬金型を合わせる第2ステップと、
前記型閉め操作の際に、前記摺動部材が摺動した量を戻り量と定義したとき、該戻り量を測定する第3ステップとを有し、
測定した前記戻り量が所定の量より大きい場合に、前記第1ステップから第3ステップを繰り返すことを特徴とする金型合わせ作業訓練方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−156809(P2011−156809A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21796(P2010−21796)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】