説明

模様面の形成方法

【課題】美観性の高い筋状の模様を簡便な方法によって創出する。
【解決手段】(1)水性樹脂、粒子径1mm未満の粉粒体、及び粒子径1〜10mmの溶剤可溶性骨材を含有する水性塗材を塗付する工程、(2)当該水性塗材の塗膜が未乾燥状態であるうちに、塗膜表面に鏝を押し当てながら前記骨材を引きずる工程、(3)前記骨材に対する溶解能を有する溶剤を、前記骨材に接触させる工程、によって模様面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な意匠性を創出することができる模様面の形成方法に関する。本発明は、特に建築物の内外壁、土木構造物等における模様面形成に好ましく適用できるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、美観性をほどこした壁面等への関心が高まる中、天然石に類似した模様を塗装によって表出する方法が種々提案されている。
例えば、特開平10−296180号公報(特許文献1)には、基材に下吹き層を満遍なく吹き付け、次いで下吹き層の一部が露出するように上吹き層を吹き付けた後、上吹き層に研磨を施す方法が記載されている。特許文献1の方法によれば、虫食い状の筋状模様を有する、天然石調の模様面を形成することができる。
【0003】
しかしながら、上述の特許文献の方法では、研磨工程等が必要となるため、作業が煩雑となり、安定した模様面を得ることも困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−296180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の如き背景に鑑みなされたもので、美観性の高い筋状の模様を簡便な方法によって創出することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、溶剤可溶性を有する骨材を含む水性塗材を塗付し、その塗膜が未乾燥状態であるうちに、塗膜表面に鏝を押し当てながら当該骨材を引きずり、次いで当該骨材に溶剤を接触させる方法に想到し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.(1)水性樹脂、粒子径1mm未満の粉粒体、及び粒子径1〜10mmの溶剤可溶性骨材を含有する水性塗材を塗付する工程、
(2)当該水性塗材の塗膜が未乾燥状態であるうちに、塗膜表面に鏝を押し当てながら前記骨材を引きずる工程、
(3)前記骨材に対する溶解能を有する溶剤を、前記骨材に接触させる工程、
を有することを特徴とする模様面の形成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、美観性の高い筋状模様を簡便な方法によって創出することができる。本発明方法で得られる模様面では、筋状模様の形成に用いた骨材が最終的には目立たなくなるため、すっきりとした独自の美観性が表出される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0010】
本発明は、主に、建築物の内外壁面、土木構造物等に適用することができる。このような部位を構成する基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、石膏ボード、パーライト板、合板、プラスチック板、金属板等が挙げられる。これら基材は、何らかの表面処理(フィラー処理、パテ処理、サーフェーサー処理、シーラー処理等)が施されたものや、何らかの着色塗料が塗装されたもの、あるいは既に塗膜が形成されたものや、壁紙が貼り付けられたもの等であってもよい。
【0011】
本発明では基材に対し、まず工程(1)として、水性樹脂、粒子径1mm未満の粉粒体、及び粒子径1〜10mmの溶剤可溶性骨材を含有する水性塗材を塗付して塗膜を形成する。
【0012】
このうち水性樹脂は、結合材として作用する成分である。かかる水性樹脂としては、公知または市販の水分散性樹脂(樹脂エマルション)、及び/または水溶性樹脂が使用できる。樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アクリル酢酸ビニル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0013】
粒子径1mm未満の粉粒体は、塗材の充填材として作用し、さらには色彩を付与する成分である。本発明では、水性塗材においてかかる粉粒体が含まれることにより、塗膜の厚膜化、多彩化等が可能となり、模様形成の点で好適である。
【0014】
具体的に、かかる粉粒体としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、黒色酸化鉄、べんがら、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、ベンツイミダゾロンイエロー、フタロシアニングリーン、群青、紺青、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット等の着色顔料;重質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、珪藻土、タルク、沈降性硫酸バリウム、シリカ粉等の体質顔料;天然石粉砕物、陶磁器粉、珪砂、セラミック粉、ゴム粒、金属粒等、あるいはこれらの表面を着色コーティングしたもの等の如き細骨材が挙げられる。
粉粒体の色相は、無彩色、有彩色のいずれであってもよく、透明性を有するものであってもよい。本発明では、色相が異なる2種以上の粉粒体を組み合わせて用いることにより、塗材の多彩感を高めることができる。
粉粒体の重量比率は、上記結合材の固形分100重量部に対し、通常100〜4000重量部、好ましくは200〜2000重量部、より好ましくは300〜1500重量部である。
【0015】
粒子径1〜10mmの溶剤可溶性骨材としては、後述の工程(3)で用いる溶剤に溶解する性質を有するものが使用できる。かかる骨材は、工程(2)における筋状模様形成に必須の成分であり、工程(3)では溶剤に溶解され、最終的な模様面においては目立たなくなるものである。
かかる溶剤可溶性骨材としては、溶剤可溶性樹脂からなるもの等が使用できる。具体的に、溶剤可溶性樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられ、その他本発明の効果を損わない限り公知または市販の各種樹脂を使用することができる。特に、本発明における溶剤可溶性骨材としては、溶剤可溶性樹脂の発泡体からなるものが好適である。
溶剤可溶性骨材の混合比率は、結合材の固形分100容量部に対し、通常5〜500容量部、好ましくは10〜200容量部である。
【0016】
本発明における水性塗材は、上述の成分の他に、例えば、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、繊維、撥水剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒等を適宜含むものであってもよい。水性塗材は、以上のような成分を常法により均一に混合することで製造することができる。
【0017】
水性塗材の塗装方法としては、特に限定されず、吹付け塗装、ローラー塗装、刷毛塗り、コテ塗り等の方法を採用することができる。水性塗材は、基材の全面に対して塗装すればよい。水性塗材の塗付け量は、通常0.5〜5kg/m程度である。
【0018】
工程(2)では、前記水性塗材の塗膜が未乾燥状態であるうちに、塗膜表面に鏝を押し当てながら溶剤可溶性骨材を引きずる。この工程(2)により、工程(1)で形成された塗膜面の中に、非連続な筋状模様が現れ、陰影感が付与された美観性を得ることができる。
【0019】
次いで、工程(3)において、溶剤可溶性骨材に対する溶解能を有する溶剤を、当該骨材に接触させる。この工程(3)により、工程(2)で形成された各筋状模様の端部に位置する骨材が目立たなくなり、すっきりとした独自の美観性を表出することができる。
【0020】
工程(3)における溶剤としては、前記溶剤可溶性骨材に対する溶解能を有するものであれば特に制限されず、種々の溶剤を使用することができる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、オクタノール等のアルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル等のグリコール類、n−ヘキサン、n−ペンタン、n−オクタン、テルピン油、ミネラルスピリット等の炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類等が使用できる。
【0021】
工程(3)においては、骨材が位置する部分のみに溶剤接触させる方法、ないしは塗膜面全体に溶剤を接触させる方法を適宜採用することができる。骨材に溶剤を接触させる際には、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等の各種器具を使用することができる。骨材に溶剤を接触させるタイミングについては、骨材が溶解される限り特に制限されず、水性塗材の塗膜は未乾燥状態であってもよいし乾燥状態であってもよい。
工程(3)において、塗膜面全体に溶剤を接触させる場合には、溶剤と樹脂を構成成分として含むクリヤー塗料を用いることで、骨材の溶解と、塗膜面全体でのクリヤー塗膜形成とを同時に行うこともできる。
【0022】
本発明では、工程(1)の前に、工程(1’)として、水性樹脂、及び粒子径1mm未満の粉粒体を含有する水性塗材を塗付する工程を設けて、下地を整えておくこともできる。ここで、水性樹脂、粒子径1mm未満の粉粒体としては、前記工程(1)の水性塗材と同様のものが使用できる。また、粒子径1mm未満の粉粒体の重量比率は、水性樹脂の固形分100重量部に対し、通常100〜4000重量部(好ましくは200〜2000重量部、より好ましくは300〜1500重量部)程度である。
本発明では、このような工程(1’)を設けることで、下地が露出する程度に筋状模様を形成した場合であっても、調和のとれた質感を得ることができる。さらに、工程(1)と工程(1’)で用いる水性塗材の色調を同色ないし同系色に設定すれば、全体的な統一感をいっそう高めることができる。
【0023】
工程(1’)の水性塗材の塗装方法としては、特に限定されず、吹付け塗装、ローラー塗装、刷毛塗り、コテ塗り等の方法を採用することができる。この工程(1’)では、基材の全面に対して塗装を行えばよく、その塗付け量は、通常0.5〜5kg/m程度である。また、工程(1)は、この工程(1’)の塗膜が乾燥した後に行えばよい。
【0024】
本発明では、目地部を形成させることを目的として、工程(1)の前に、基材に可剥性目地材を貼着し、工程(2)または工程(3)の後に、当該可剥性目地材を除去することができる。上述の工程(1’)を行う場合は、工程(1’)で得られた塗膜表面に可剥性目地材を貼着し、工程(2)または工程(3)の後に、当該可剥性目地材を除去すればよい。
かかる方法によって目地部を形成させる場合、可剥性目地材を貼着する位置、間隔等は、所望の目地模様に応じて決定すればよい。例えば、均等間隔に貼り付けることもできるし、ランダムに貼り付けることもできる。模様としては、例えば、タイル調模様、レンガ調模様、幾何学的模様、水玉模様、縞模様、格子模様、渦巻き模様、紋章柄の他、動植物、器物、文字等をデザイン化した図形模様等が可能である。これらの模様を表出するためには、直筋状の目地材を複数組合わせて用いてもよいし、平面状の型紙を模様形状に応じて打ち抜いたものを目地材として用いてもよい。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0026】
(水性塗材の製造)
結合材として、アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、最低造膜温度24℃)を200重量部用意し、これに造膜助剤(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)を16重量部、ポリウレタン系増粘剤を5重量部、シリコーン系消泡剤を3重量部、粒子径0.1〜0.5mmの着色骨材(淡黄色)を550重量部混合し、常法により均一に撹拌して水性塗材Pを製造した。
また、上記水性塗材Pに対し、溶剤可溶性骨材として粒子径1.5mmの発泡ポリスチレン粒子を8容量%混合し、常法で均一に撹拌することにより水性塗材Qを製造した。
【0027】
(実施例1)
90cm×90cmのスレート板に対し、エポキシ系下塗材を塗付け量0.2kg/mで塗付し、2時間乾燥した後、水性塗材Pを塗付け量1kg/mで塗付した。4時間乾燥後、水性塗材Qを塗付け量5kg/mで塗付し、その直後、水性塗材Qの塗膜表面に鏝を押し当てながら溶剤可溶性骨材を引きずり、筋状模様を形成し、部分的に水性塗材Pの塗膜を露出させた。次いで、24時間乾燥後、ソルベッソ100(エクソンケミカル社製)を含ませた刷毛を用いて、筋状模様の端部に位置する発泡ポリスチレン粒子を溶かし、その後3日間養生した。なお、以上の工程は、すべて標準状態(温度23℃・相対湿度50%)で行った。
以上の方法により、淡黄色基調の塗膜面中に、ランダムな筋状模様による陰影感が付与された模様面が得られた。
【0028】
(実施例2)
90cm×90cmのスレート板に対し、エポキシ系下塗材を塗付け量0.2kg/mで塗付し、2時間乾燥した後、水性塗材Pを塗付け量1kg/mで塗付した。4時間乾燥後、水性塗材Qを塗付け量5kg/mで塗付し、その直後、水性塗材Qの塗膜表面に鏝を押し当てながら溶剤可溶性骨材を引きずり、筋状模様を形成し、部分的に水性塗材Pの塗膜を露出させた。次いで、24時間乾燥後、クリヤー塗料(アクリル樹脂20重量%、ソルベッソ100(エクソンケミカル社製)80重量%)を塗付け量0.3kg/mで刷毛塗りし、この工程により、筋状模様の端部に位置する発泡ポリスチレン粒子を溶かし、その後3日間養生した。なお、以上の工程は、すべて標準状態(温度23℃・相対湿度50%)で行った。
以上の方法により、淡黄色基調の塗膜面中に、ランダムな筋状模様による陰影感が付与された模様面が得られた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水性樹脂、粒子径1mm未満の粉粒体、及び粒子径1〜10mmの溶剤可溶性骨材を含有する水性塗材を塗付する工程、
(2)当該水性塗材の塗膜が未乾燥状態であるうちに、塗膜表面に鏝を押し当てながら前記骨材を引きずる工程、
(3)前記骨材に対する溶解能を有する溶剤を、前記骨材に接触させる工程、
を有することを特徴とする模様面の形成方法。

【公開番号】特開2008−173584(P2008−173584A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10426(P2007−10426)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】