説明

樹木液である植物・微生物機能性液体とその製造方法

【課題】生物本来の自然成長力を促進、助長する資材として有用な、樹木液である植物・微生物機能性液体を得る。
【解決手段】イ 乾燥室1内に木材9を位置付ける工程
ロ 続いて、木材の温度上昇を図る手段(蒸気供給機構8より供給される水蒸気8)を木材9に適用する工程
ハ 続いて、熱交換機11と循環ファン12により達成される熱風雰囲気下で、木材を所定の水分含有量まで乾燥させる木材乾燥工程
前記イ〜ハの工程を含む木材の乾燥過程で、
前記ロ乃至ハの工程中に、木材から滲出し滲出液タンク4に採集される滲出液と、前記乾燥室から排出される気体を冷却して生じ凝縮液タンク10に採集される凝縮液を合わせた液体である植物・微生物機能性液体を採集する、植物・微生物機能性液体の製造方法であり、また当該製造方法により得られる植物・微生物機能性液体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木を加熱して得られる、植物の成長促進や醗酵促進などの作用を有する植物・微生物機能性液体の製造方法に関するものであり、また、当該樹木液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明と本明細書において、「樹木液」とは、樹木を加熱した時に、樹木から滲出する「滲出液」と、当該樹木から発散される気体(加熱媒体である水蒸気などを含むことがある)を冷却して生じる「凝縮液」を総称するものである。
【0003】
農林水産業において、生物本来の自然成長力を活用した有機栽培が注目されている。
従来より、生物本来の自然成長力を促進、助長する資材として、木酢液が知られている。
また、発明者は、樹木を炭化しない温度で加熱し、その過程で生成される成分と樹木から滲出する成分を含む液体(以下「無炭化樹木乾溜液」という)を採集し、これを殺菌剤や植物種子の発芽促進剤として使用する技術を開示している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−146821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
木酢液は、通常は炭焼きの副産物として生産され、林業が衰退している現状では、その生産に限りがある。また、木酢液は、炭焼きの煙を冷却して得た粗木酢液を精製する操作が必要であり、この精製操作は、通常、半年程度粗木酢液を静置して3層に分離し、その中間層を採取するものであり、その製造に手間と時間が必要である。
【0006】
無炭化樹木乾溜液は、樹木の伐採、自然乾燥、加熱採取工程が必要で、材料の入手に手間と費用がかかり、また、製造にも同様に手間と時間が必用である。
【0007】
本発明の課題は、有機栽培などに有用な、新規の、生物本来の自然成長力を促進、助長する資材を得ることにある。本発明のその他の課題は、以下の本発明の説明より明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、樹木液の研究開発を進めてきた。そして、樹木液に関して、以下のような知見を見出した。すなわち、
(1) 樹木液が、植物・微生物に対する好適な機能を有する。
(2) 樹木液が植物・微生物機能を発現するためには、樹木液採集工程において、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの木材成分の熱分解、気化、重合反応など(これら反応結果の生成物の一例は、木酢液中の酢酸)は必ずしも必要ない
(3) 樹木液を採取する樹木の部位は、材部があればよく、葉や樹皮は必ずしも必要ない
(4) 樹木液の採取には、樹木表面を急激に加熱するのではなく、まず、可能な限り樹木内部(芯部)と樹木表相部を含む全体を加熱して、その後に樹木液を採取することが好ましい。
上記の知見とその他の知見から、本発明に至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の一の態様は、以下の工程からなる植物・微生物機能性液体の製造方法である。
イ 樹木を乾燥室内に位置付ける工程
ロ 続いて前記乾燥室内に水蒸気を供給して、一定時間、前記乾燥室内の温度を湿球温度35℃以上99℃以下とする工程
ハ 続いて一定時間、前記乾燥室内の温度を乾球温度45℃以上150℃以下とする工程
二 ロ乃至ハの工程中に、前記樹木から滲出する滲出液である植物・微生物機能性液体を採集する工程
【0010】
本発明の他の態様は、以下の工程からなる植物・微生物機能性液体の製造方法である。
イ 樹木を乾燥室内に位置付ける工程
ロ 続いて前記乾燥室内に水蒸気を供給して、一定時間、前記乾燥室内の温度を湿球温度35℃以上99℃以下とする工程
ハ 続いて一定時間、前記乾燥室内の温度を乾球温度45℃以上150℃以下とする工程
二 ロ乃至ハの工程中に、前記乾燥室から排出される気体を冷却して生じる凝縮液である植物・微生物機能性液体を採集する工程
【0011】
本発明のさらなる他の態様は、以下の工程からなる植物・微生物機能性液体の製造方法である。
イ 樹木を乾燥室内に位置付ける工程
ロ 続いて前記乾燥室内に水蒸気を供給して、一定時間、前記乾燥室内の温度を湿球温度35℃以上99℃以下とする工程
ハ 続いて一定時間、前記乾燥室内の温度を乾球温度45℃以上150℃以下とする工程
二 ロ乃至ハの工程中に、前記樹木から滲出する滲出液と、前記乾燥室から排出される気体を冷却して生じる凝縮液を合わせた液体である植物・微生物機能性液体を採集する工程
【0012】
また、本発明の他の一の態様は、
イ 乾燥室内に木材を位置付ける工程
ロ 続いて、木材の温度上昇を図る手段を前記木材に適用する工程
ハ 続いて、湿度調整した、あるいは湿度調整しない熱風雰囲気下で、前記木材を所定の水分含有量まで乾燥させる木材乾燥工程
前記イ〜ハの工程を含む木材の乾燥過程で、
前記ロ乃至ハの工程中に、前記木材から滲出する植物・微生物機能性液体である滲出液を採集する、植物・微生物機能性液体の製造方法である。
【0013】
本一の態様並びに以下に列記する本発明の他の態様により、木材乾燥工場で多量に産出される液体をそのまま、農林水産業などに用いる資材として活用できる。
【0014】
また、本発明の他の態様は、
イ 乾燥室内に木材を位置付ける工程
ロ 続いて、木材の温度上昇を図る手段を前記木材に適用する工程
ハ 続いて、湿度調整した、あるいは湿度調整しない熱風雰囲気下で、前記木材を所定の水分含有量まで乾燥させる木材乾燥工程
前記イ〜ハの工程を含む木材の乾燥工程で、
前記ロ乃至ハの工程中に、前記乾燥室から排出される気体を冷却して生じる植物・微生物機能性液体である凝縮液を採集する、植物・微生物機能性液体の製造方法である。
【0015】
さらに、本発明のその他の態様は、
イ 乾燥室内に木材を位置付ける工程
ロ 続いて、木材の温度上昇を図る手段を前記木材に適用する工程
ハ 続いて、湿度調整した、あるいは湿度調整しない熱風雰囲気下で、前記木材を所定の水分含有量まで乾燥させる木材乾燥工程
前記イ〜ハの工程を含む木材の乾燥過程で、
前記ロ乃至ハの工程中に、前記木材から滲出する滲出液と、前記乾燥室から排出される気体を冷却して生じる凝縮液を合わせた液体である植物・微生物機能性液体を採集する、植物・微生物機能性液体の製造方法である。
【0016】
本発明の好ましい実施態様においては、前記樹木乃至木材の樹種は、杉、ひのき、松乃至ヒバより選択される一種であっても良い。
これらの樹種は、我が国で伐採・乾燥される代表的な樹種である。よって、これらを原材料とすれば、さらに、樹木液の入手が容易となる効果がある。
【0017】
また、本発明は、以上の製造方法により得られる植物・微生物機能性液体である。
【0018】
以上の本発明、本発明の好ましい実施態様、その中に含まれる構成要素は、可能な限り組み合わせて実施することが出来る。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、建築材料などの樹木乾燥の副産物を、農業、酪農、林業、水産業などの資材として利用することができる。すなわち、樹木液の材料として、別途特別に樹木を伐採しなくても樹木液を得ることができる効果がある。
【0020】
樹木液が有する植物に対する機能は、発芽促進、成長促進、葉面微生物相の変化に起因する耐病性の向上、根腐れの防止、収穫物の品位向上などがある。樹木液が有する微生物に対する機能は、醗酵促進、微生物相の変化などがある。さらに、樹木液は、このような微生物機能に由来する地力向上の機能を有する。したがって、有機栽培などの好適な資材となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
樹木液の材料となる樹木乃至木材の樹種は、特に限定されず、針葉樹(杉、ひのき、松、ヒバ、赤松、チョセンゴヨウなど)、落葉広葉樹(コナラ、カエデ類など)、常緑広葉樹(カシ類など)が含まれる。また、竹であってもよい。副産物を利用する観点から、これらの中では、建築材料に多用される杉、ひのき、松、ヒバが好ましい。
【0022】
単一の樹種から採集された樹木液を単独で用いることができ、また、複数の樹種から採集された複数の樹木液を混合して用いることもできる。さらに、乾燥室内に複数の樹種の樹木または木材を位置付けて、樹種混合の樹木液を得てこれを用いることもできる。
【0023】
樹木の部位は、特に限定されず、材部、根部、樹皮、葉などを用いることができる。とりわけ、材部を含み、根部、樹皮及び葉のいずれか又は全てを含むことが好ましい。さらに、材部のみからなることがより好ましい。建築材料などの木材乾燥過程の副産物を利用する観点からである。また、植物・微生物機能に精油類は特に必要なく、さらに、樹脂類が少ないほうが、樹木液の取り扱いが容易となるからである。
【0024】
樹木や木材は、伐採後自然乾燥などの事前乾燥工程を経ることなく樹木液の採集に用いることができる。また、伐採後、事前乾燥工程を経てから、樹木液の採集に用いることができる。建築材料などの木材乾燥過程の副産物を利用する観点から、建築材料などの木材乾燥に多様されている事前乾燥工程を経ずに用いることが好ましい。
【0025】
採集される樹木液は、乾燥工程中に採集されるものが大部分であるが、加熱工程においても採集されることもある。したがって、樹木液の採集は、加熱工程と乾燥工程の両工程期間に渡り行われる。労力、冷却水の効率などを考慮すれば、乾燥工程期間においてのみ、採集することがより好ましい。
【0026】
次に、水蒸気による加熱工程を含む、樹木液の採集について、説明する。
樹木が乾燥室に入れられた後に、まず、水蒸気が導入される。すなわち、加熱工程である。樹木の芯部を加熱し、引続く樹木液採集工程(乾燥工程)における樹木内の水分傾斜を一定範囲に保ち、できるだけ樹木の全部分から均等に樹木液を採集するためである。この加熱温度と時間は、樹種、水分量、その後のスケジュールなどにより異なる。一般に加熱工程の温度は、湿球温度で、通常、35℃以上99℃以下、好ましくは、60度以上99度以下、より好ましくは70℃以上95℃以下である。加熱工程の時間は、通常5時間から24時間程度、より好ましくは8時間から16時間である。当該加熱工程中に、上記の湿球温度範囲で、湿球温度が変更されてもよい。加熱工程中は、乾球温度は、湿球温度と同程度に保たれる。
【0027】
加熱工程に引続く樹木液採集工程(乾燥工程)は、通常湿度調節された高温空気を循環させて行う。樹木液採集(乾燥)の実効を図るため、乾球温度は、湿球温度以上に保たれる。この加熱温度と時間は、樹種、当初の水分量等により異なる。通常、乾球温度は、45℃以上150℃以下、好ましくは、90℃以上130℃以下である。湿球温度は、乾球温度よりも20℃から40℃程度低温に保たれる。乾球温度は、上記の範囲内で、乾燥期間中に変更してもよい。さらに、樹木液採集後期には、湿球温度をより低く(つまり、乾球温度と湿球温度の差を大きく)してもよい。
なお、加熱工程に引続く樹木液採集工程(乾燥工程)は、湿度調節しない高温空気を循環させて行ってもよい。
【0028】
樹木液は、主として切断面から滲出し、乾燥室の床に落ちるので、これを乾燥室外の滲出液タンクに導く。また、乾燥室の壁面に凝集した液体も滲出液タンクに導かれる。さらに、乾燥室からの排気管に冷却器をつけ、凝縮する液体を凝縮液タンクに導く。滲出液タンクと凝縮液タンクは、それぞれ別であってもよく、同一であってもよい。
【0029】
樹木液の採集期間は、1日間から7日間程度である。樹木の水分量が5〜15%程度になった時点で樹木液の採集を終了する。
【0030】
以上の樹木液の採集工程は、蒸気式木材乾燥機を用いる木材の乾燥工程と等しい。蒸気式木材乾燥機の代表例として、蒸気を熱源とし、室内に送風機を持つ蒸気式内部送風機型(IF型)乾燥機を挙げることができる。
【0031】
次に、材木乾燥過程においての樹木液の採集について説明する。
用いる木材は、板材に切断されていてもよく、柱材に切断されていてもよく、樹皮が付いたままの丸太であってよく、また、丸太を適宜の長さに切断したものであってもよい。
【0032】
木材乾燥過程で、樹木液を採集する本発明の一の態様において、「木材の温度上昇を図る手段」とは、乾燥室内への水蒸気の導入・循環、マイクロ波の照射及び/又は燻煙の導入・循環などをいう。ただし、「木材の温度上昇を図る手段」には、湿度調整をしない高温乾燥空気の導入・循環は含まない。
【0033】
木材は乾燥すると熱伝導が悪くなるため、乾燥工程の初期の段階で、木材の表面部分が乾燥するとその後の芯部の乾燥進行が遅れる。このため、通常は、乾燥空気の導入に先立ち、「木材の温度上昇を図る手段」が適用される。木材の乾燥において、最も多用されている「木材の温度上昇を図る手段」は、蒸気乾燥法すなわち、水蒸気と熱風の対流方式である。経済的に樹木液を採集する観点から、本発明における「木材の温度上昇を図る手段」として、水蒸気の導入・循環による手段が好ましい。
【0034】
この「木材の温度上昇を図る手段」の適用は、引続く乾燥工程においても、継続されることもある。たとえば、マイクロ波による加熱手段を備えた乾燥室を使用する場合には、乾燥工程中にも加熱が継続されることもある。一方、温度上昇を図る手段として、水蒸気を導入する場合には、加熱工程と引続く乾燥工程は、明確な区別をすることなく行われる場合もある。たとえば、乾燥工程が、湿度調整した熱風雰囲気下で行われる場合を挙げることができる。
本発明における乾燥室内で行われる木材の乾燥過程には、加熱工程と乾燥工程の明確な区別の如何にかかわらずこれら2工程を含む乾燥過程を包含することが意図されている。
【0035】
このようにして得られる滲出液と凝縮液は、植物や微生物に同様な作用を及ぼす。これらを植物・微生物機能性液体として、単独で用いることができ、混合して用いることもできる。
同時に採集される、滲出液と凝縮液の比率は、通常、5:1程度である。すなわち、滲出液量が多い。滲出液は、樹脂成分(やに)を含むことがある。また、滲出液は、そのまま室温に放置すると、夏季で、一週間程度で白濁腐敗する。
【0036】
一方、凝縮液は、樹脂成分(やに)の含有量が少ない。また、腐敗し難いという性質がある。
滲出液に蒸留などの操作をして、凝縮液類似の液体を得ることもできる。この凝縮液類似の液体も、植物・微生物機能を有する。
【0037】
樹木液には防腐剤を加えてもよい。防腐剤の一例として木酢液、合成防腐剤を挙げることができる。合成防腐剤の一例としてパラベン(Methyl p-hydroxybenzoate、Ethyl p-hydroxybenzoate、Propyl p-hydroxybenzoate、Benzyl p-hydroxybenzoateなど)を挙げることができる。
これらの中では、天然素材である観点から、木酢液が好ましい。防腐剤として木酢液を用いる場合の好ましい量は、樹木液1容量部に対して、木酢液1/7〜1/5容量部である。
【0038】
以上述べた製造方法により得られる樹木液は、農作物、園芸作物や牧草などを含む植物の発芽促進、成長促進、葉面微生物相の改善などに用いることが出来る。また、堆肥醗酵促進、土壌改良などの用途に用いることが出来る。さらに、養殖魚用醗酵飼料の製造に用いることができ、また、農薬などの貼着剤として用いることが出来る。
【実施例1】
【0039】
以下実施例により本発明をさらに詳述する。本実施例の材料、部材、構成要素の配置、採集条件などは、例示であり、特に特定する記述のない限り、本発明をこれらに限定するものではない。
【0040】
図1は、本発明にかかる樹木液の製造方法に使用する樹木乾燥機の説明図である。
乾燥室1内には、蒸気供給機構8、熱交換器11、循環ファン12が設置されている。21はボイラーで、過熱水蒸気を生成する。過熱水蒸気は、蒸気制御弁22を経由して、蒸気供給管23を通過して蒸気供給機構8から乾燥室1内に導入される。また、過熱水蒸気は熱交換器11の熱源である。すなわち、過熱水蒸気は、熱交換器制御弁24を経由して、熱源供給管25を通過して熱交換器11に入り、熱源帰還管26を通過して、ボイラー21に戻る。14は排気弁であり、15は吸気弁である。
【0041】
乾燥室内の乾球温度と湿球温度は、ボイラーからの過熱水蒸気量、熱交換器の熱量、吸気弁14、排気弁15の開閉などにより制御される。
乾燥室1の下面には、滲出液採集管2が設置されている。滲出液採取管2は、U字管3を経由して、滲出液タンク4に開口している。また、5は排気管であり、排気管の先端は上下方向に伸びており、上方の排気管部分には冷却器6が取り付けられている。冷却器6は、排気管を取り囲む円筒であり、下から上方向に冷却水を流している。排気管5の下部はU字管を経由して凝縮液タンク10に開口している。
乾燥室1内には、台車16に載置した木材9が収納される。
【0042】
続いて、この乾燥機を使用した樹木液の採集を説明する。
まず、伐採後に乾燥工場に運ばれてきた杉材を自然乾燥することなく、132mm柱材にカットし、これを台車16に載置し、乾燥室1内に収納した。続いて、ボイラーから過熱水蒸気を供給し、乾燥室内の湿球温度を95℃にし、12時間この温度を保った。その後、48時間乾球温度120℃、湿球温度90℃に保った。杉材から滲出液が滲出し、床面に落ち、滲出液採集管2を経由して滲出液タンク4に採集された。また、排気管5の冷却器からは凝縮液が発生し、凝縮液タンク10に採集された。その後、乾球温度105℃、湿球温度75℃にして、さらに48時間樹木液の採取を継続した。
なお、当該杉柱は、含水率(全体)11%程度に乾燥された。
【0043】
上記の製造方法により得られた、杉樹木液の性質は以下のとおりであった。
(1)杉滲出液
色:無色(少し白濁)
臭い:かすかな杉の香り
粘度:粘度は蒸留水と同程度である
泡立ち:数百倍希釈(媒体蒸留水)までは泡立ちが目立つ
pH:7.1
(2)杉凝縮液
色、臭い、粘度、泡立ちは杉滲出液と同一
pH:6.0
【0044】
なお、杉滲出液と杉凝縮液の混合液(混合割合3:1)を地下水で100倍、1000倍に希釈した液体のpHはどちらも6.8であった。
【0045】
杉樹木液の製造方法と同様にして、松樹木液を得た。材料として使用した松材は、樹皮付のまま丸太状に切断したものである。得られた松樹木液の性質は以下のとおりであった。
(3)松滲出液
色:無色(少し白濁)
臭い:かすかな松の香り
粘度:粘度は蒸留水と同程度である
泡立ち:数百倍希釈(媒体蒸留水)までは泡立ちが目立つ
pH:6.7
(4)松凝縮液
色、臭い、粘度、泡立ちは松滲出液と同一
pH:5.5
【0046】
(試験例)
<試験例1 発芽試験(1)>
植物種子発芽に及ぼす杉滲出液と杉凝縮液の作用を試験するために、発芽試験を行った。
【0047】
高分子ポリマー粉末をシャーレに適量入れ、杉滲出液と杉凝縮液を井戸水で1/100に希釈した液を適量入れた。各シャーレに小松菜種子を約20粒ずつ播種した。当該シャーレをインキュベータに入れて、1日後と、9日後に発芽状態と初期成長を観察した。コントロールとして井戸水のみを入れた試験区を設けた。観察結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
コントロールである地下水に比較して、滲出液、凝縮液共に、植物種子の発芽と初期成長を促進する機能を有することが確認された。また、滲出液と凝縮液は、発芽と初期成長促進機能に関して、同様であり、その差は認められなかった。
【0050】
<試験例2 発芽試験(2)>
植物種子発芽に及ぼす樹木液の作用を試験するために、発芽試験を行った。
【0051】
高分子ポリマー粉末をシャーレに適量入れ、樹木液、木酢液、キトサンそれぞれを井戸水で希釈して適量入れた。各シャーレに小松菜と葉大根の種子を約20粒ずつ播種した。当該シャーレをインキュベータに入れて、発芽と初期成長を観察した。コントロールとして井戸水のみをいれた試験区を設けた。木酢液区、キトサン区は比較のために設けた。
【0052】
樹木液は、杉木材の蒸気式乾燥で得た滲出液と凝縮液の混合液(混合割合3:1)である。以下の試験例3〜6についても、樹木液として、同一混合液を使用した。木酢液はウバメガシの炭を焼いた時の産物である。キトサンは、日本キレート株式会社の市販品(液体)を購入して使用した。
【0053】
観察期間は、9日間である。
発芽の有無と新芽の状態(初期成長)を観察した。観察結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
観察結果表示の説明
新芽の成長状態が、コントロールである井戸水区に比較して、
成長特に良 ◎
成長良 ○
変化なし −
成長悪い △
発芽せず ×

樹木液では、実験した希釈割合では、いずれもコントロールである井戸水に比較して初期成長の促進が観察された。この中では、1/100希釈液が良い結果であった。
【0056】
木酢液では、小松菜に対する1/1000希釈液で初期成長の促進が観察された。1/10希釈液では発芽しなかった。
キトサンでは、葉大根に対して、1/100、1/1000希釈液で初期成長の促進が観察された。また、原液と1/10希釈液は、初期成長の阻害が観察された。
【0057】
<試験例3 植物成長試験(1)>
植物成長に及ぼす樹木液の作用を試験するために、キュウリとトマトの成長試験を行った。
【0058】
ポットに市販の植物培養土を入れ、3月28日に苗を移植した。これらを屋外に置き、樹木液と市販植物成長液(名称:HB101、成分不祥)を井戸水で希釈したものと、井戸水のみをほぼ毎日葉の上から散布した。散布液はポット内の培養土にも落下した。
樹木液は、1/100希釈液区、1/1000希釈液区、市販植物成長液区は、1/100希釈液区、1/1000希釈液区を作り、また、コントロールとして井戸水のみ散布区を作った。
【0059】
4月22日に観察した。キュウリは、井戸水区に比較して、樹木液区、市販植物成長液区共に、コントロール区に比較して、丈が大きく、また、葉の大きさも大きく、成長が促進されていることが確認できた。
【0060】
トマトは、樹木液区、市販植物成長液区共に、コントロール区に比較して、羽状複葉の小葉が小さく、また、とがった感があり、葉のテリがあり、緑が濃い。しかし、丈に違いは認められていない。
【0061】
<試験例4 植物成長試験(2)>
植物成長に及ぼす樹木液の作用を試験するために、トマトの結実試験を行った。
【0062】
ポットに市販の植物培養土を入れ、5月17日に苗を移植した。これらを屋外に置き、樹木液と市販植物成長液(名称:HB101、成分不祥)を井戸水で希釈したものと、井戸水のみをほぼ毎日葉の上から散布した。散布液の大部分はポット内の培養土に落下した。
樹木液は、1/100希釈液区、1/1000希釈液区、市販植物成長液区は、1/100希釈液区、1/1000希釈液区を作り、また、コントロールとして井戸水のみ散布区を作った。
【0063】
最初の花が付いた日は、樹木液区9日後、市販植物成長液区11日後、コントロール区22日後であった。最初の果実が熟した日は、樹木液区31日後、市販植物成長液区35日後、コントロール区50日後であった(日数は、苗の移植日からの経過日数)。
樹木液区と市販植物成長液区において、希釈割合の相違による生長の違いは観察されなかった。
【0064】
このように、樹木液は植物の結実促進の機能を有することが明らかになった。
【0065】
<試験例5 植物成長試験(3)>
植物成長に及ぼす樹木液の作用を試験するために、ウリの成長試験を行った。
【0066】
5月17日に露地にウリの苗を植え、ほぼ3日間隔で樹木液希釈液と井戸水(コントロール区)を与え、その成長を観察した。
【0067】
6月10日に観察すると、樹木液使用区では、葉が根を中心に円を描くように茂っている。すなわち、古い葉にも勢いがある。対してコントロール区では、葉が周辺に茂っている。新しい葉には勢いがあるが、古い葉には元気がない。植物体の全長には大きな差がない。
【0068】
その後、梅雨末期の大雨により、コントロール区2株のなかで、1株は根腐れを起こして枯れた。樹木液区では根腐れは観察されなかった。
さらに、収穫されたウリの糖度は、樹木液区の糖度が、コントロール区の糖度よりも上であった。
【0069】
<試験例6 堆肥醗酵試験>
堆肥醗酵に及ぼす樹木液の作用を試験するために、油粕と米ぬかの堆肥化試験を行った。
【0070】
油粕5kgと米ぬか0.5kg、畑の表土50gに、A区は樹木液の1/10井戸水希釈液5Lを加え、B区は井戸水5Lを加え混合して、各々パッドに入れ、雨水のかからない日陰に放置し、混合物の内部温度を測定した。
【0071】
温度測定結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表中の気温は、内部温度測定時の外気温である。
【0074】
樹木液区では、井戸水区に比較して堆肥の内部温度上昇が2日程度先行し、また、内部温度の下降も3日程度先行している。堆肥の内部温度は、醗酵微生物の活動を反映するものと考えられるので、樹木液を加えたことにより、堆肥化醗酵が促進されたものと考えられる。
【0075】
<試験例7 植物成長試験(4)>
植物成長に及ぼす松凝縮液の作用を試験するために、キュウリの成長試験を行った。
【0076】
3月23日に、露地に、キュウリの苗を移植した。松凝縮液と市販植物成長液(名称:HB101、成分不祥)を井戸水で希釈したものと、井戸水のみをほぼ3日おきに葉の上から散布した。
【0077】
松凝縮液は、1/100希釈液区、1/1000希釈液区、市販植物成長液区は、1/100希釈液区、1/1000希釈液区を作り、また、コントロールとして井戸水のみ散布区を作った。観察結果を表4に示した。
【0078】
【表4】

【0079】
コントロールとの成長の差が明瞭に観察され、松凝縮液が、植物成長機能を有することが明らかになった。
【0080】
(機能の由来)
樹木液の植物・微生物に対する機能は、未だ論理的に解明されていない。しかし、木材中には、植物の成長を促進し、また自身の生体を防御する成分(例えば植物ホルモンや各種補酵素、これらの前駆体など)が含まれていると考えられる。そして、木材を100℃には至らない温度で、その細胞間や細胞内に含まれる水を搾り出すと、これらの有用成分が水とともに搾り出されるものと考えられる。
【0081】
植物ホルモンや各種補酵素は、農作物などにそのまま取り込まれその成長促進を行うものと考えられる。一方、樹木の生体を防御する成分は、例えば土壌中の微生物群のバランスを変更する作用を担うものと考えられる。さらに、農作物の葉面、根圏の微生物バランスが改善されると、耐病性の改善効果が発揮されるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明にかかる樹木液である植物・微生物機能性液体は、農業、酪農、林業における種子の発芽促進、植物成長促進のための資材として使用できる。また、農業、酪農、林業における土壌改善、有機物堆肥化促進のための資材として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】樹木液の製造に使用する樹木乾燥機の説明図である。
【符号の説明】
【0084】
1 乾燥室
2 滲出液採集管
4 滲出液タンク
5 排気管
6 冷却器
8 蒸気供給機構
9 木材
10 凝縮液タンク
11 熱交換機
12 循環ファン
21 ボイラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程からなる植物・微生物機能性液体の製造方法
イ 樹木を乾燥室内に位置付ける工程
ロ 続いて前記乾燥室内に水蒸気を供給して、一定時間、前記乾燥室内の温度を湿球温度35℃以上99℃以下とする工程
ハ 続いて一定時間、前記乾燥室内の温度を乾球温度45℃以上150℃以下とする工程
二 ロ乃至ハの工程中に、前記樹木から滲出する滲出液である植物・微生物機能性液体を採集する工程
【請求項2】
以下の工程からなる植物・微生物機能性液体の製造方法
イ 樹木を乾燥室内に位置付ける工程
ロ 続いて前記乾燥室内に水蒸気を供給して、一定時間、前記乾燥室内の温度を湿球温度35℃以上99℃以下とする工程
ハ 続いて一定時間、前記乾燥室内の温度を乾球温度45℃以上150℃以下とする工程
二 ロ乃至ハの工程中に、前記乾燥室から排出される気体を冷却して生じる凝縮液である植物・微生物機能性液体を採集する工程
【請求項3】
以下の工程からなる植物・微生物機能性液体の製造方法
イ 樹木を乾燥室内に位置付ける工程
ロ 続いて前記乾燥室内に水蒸気を供給して、一定時間、前記乾燥室内の温度を湿球温度35℃以上99℃以下とする工程
ハ 続いて一定時間、前記乾燥室内の温度を乾球温度45℃以上150℃以下とする工程
二 ロ乃至ハの工程中に、前記樹木から滲出する滲出液と、前記乾燥室から排出される気体を冷却して生じる凝縮液を合わせた液体である植物・微生物機能性液体を採集する工程
【請求項4】
イ 乾燥室内に木材を位置付ける工程
ロ 続いて、木材の温度上昇を図る手段を前記木材に適用する工程
ハ 続いて、湿度調整した、あるいは湿度調整しない熱風雰囲気下で、前記木材を所定の水分含有量まで乾燥させる木材乾燥工程
前記イ〜ハの工程を含む木材の乾燥過程で、
前記ロ乃至ハの工程中に、前記木材から滲出する植物・微生物機能性液体である滲出液を採集する、植物・微生物機能性液体の製造方法。
【請求項5】
イ 乾燥室内に木材を位置付ける工程
ロ 続いて、木材の温度上昇を図る手段を前記木材に適用する工程
ハ 続いて、湿度調整した、あるいは湿度調整しない熱風雰囲気下で、前記木材を所定の水分含有量まで乾燥させる木材乾燥工程
前記イ〜ハの工程を含む木材の乾燥工程で、
前記ロ乃至ハの工程中に、前記乾燥室から排出される気体を冷却して生じる植物・微生物機能性液体である凝縮液を採集する、植物・微生物機能性液体の製造方法。
【請求項6】
イ 乾燥室内に木材を位置付ける工程
ロ 続いて、木材の温度上昇を図る手段を前記木材に適用する工程
ハ 続いて、湿度調整した、あるいは湿度調整しない熱風雰囲気下で、前記木材を所定の水分含有量まで乾燥させる木材乾燥工程
前記イ〜ハの工程を含む木材の乾燥過程で、
前記ロ乃至ハの工程中に、前記木材から滲出する滲出液と、前記乾燥室から排出される気体を冷却して生じる凝縮液を合わせた液体である植物・微生物機能性液体を採集する、植物・微生物機能性液体の製造方法。
【請求項7】
前記樹木乃至木材の樹種は、杉、ひのき、松乃至ヒバより選択される一種であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載の植物・微生物機能性液体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか記載の方法により得られる植物・微生物機能性液体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−56857(P2006−56857A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243078(P2004−243078)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(598095042)株式会社森林研究所 (24)
【Fターム(参考)】