説明

樹枝状構造物中の粒子の合成

本発明は、(i)樹枝状構造物および金属化合物前駆体を含む混合物を、その混合物が流体中に溶解しないような温度および圧力条件下でその流体と接触させること、および
(ii)金属化合物前駆体を化学変換すること、を含む、粒子系組成物の調製方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧下である温度の流体媒体中、特に超臨界流体媒体中での、粒子および樹枝状構造物に基づく組成物の調製方法、およびその方法により得ることができる組成物に関する。本発明は、また、特に有機合成における触媒としてのそれら組成物の使用に関する。
【0002】
本発明は、また、本発明による組成物調製に用いることができる樹枝状構造物に関する。
【背景技術】
【0003】
親水性分子、疎水性分子またはフッ素化された分子により官能化される場合もある樹枝状構造(デンドリマーおよびハイパーブランチポリマー)中でナノ材料を合成するための従来の方法は、多くの出版物(ウイルソン(Wilson)ら、2005;シュロッターベック(Schlotterbeck)ら、2004;ガルシア−ベルナーベ(Garcia−Bernabe)ら、2004)にて提供されてきた。このアプローチによると、第1段階は、適切な(極性、非極性またはフッ素化)溶媒中での樹枝状構造物および試薬の可溶化に関し、次に、試薬を樹枝状構造物のコア中に拡散する段階、および次に一般に還元の最終段階がある。主として、金属ナノ粒子が合成されてきた。
【0004】
超臨界流体媒体中での官能化ナノ粒子の合成は、一般に、化学変換または物理変換により達成される(キャンセル(Cansell)ら、2003;ユング(Jung)ら、2001)。超臨界流体媒体中での化学変換による官能化ナノ粒子の合成は、以下検討された条件下で、流体中に溶解可能な有機の安定剤および官能化剤ならびに前駆体または金属塩の存在下で達成される。
−官能化剤存在下での化学変換による合成(キャンセルら、2003;コーゲル(Korgel)ら、2003;アジシリ(Adischiri)ら、2005;ホルメス(Holmes)ら、2003;イエ(Ye)ら、2003;マクラウド(McLeod)ら、2004;シャー(Shah)ら、2004).
−逆ミセル中での合成(ホルメスら、2003;イエら、2003).
【0005】
また、ポリマーマトリクス中、超臨界流体媒体中での、ナノ粒子、主として金属ナノ粒子の合成に関する多くの研究がなされてきた(サトシ(Satoshi)ら、2004)。ポリマーマトリクスは、それらのガラス転移温度未満の高分子鎖からなり、樹枝状構造物ではない。超臨界流体は、ナノ粒子の合成を可能とする前駆体または金属塩タイプの試薬でポリマーマトリクスを含浸することを可能とする。これらの試薬は、検討された条件下で超臨界流体中に溶解しなければならない。続いて、一般に、例えば熱処理または水素存在下での還元により、ナノ粒子が形成される。
【0006】
デンドリマーは、主として触媒反応のため超臨界流体媒体中で用いられてきた(ウイルソンら、2005;ファールマン(Fahlman)B.D.2004;ダイ(Dai)L.2005;ゲーテエア(Goetheer)ら、2000)。デンドリマー中のナノ粒子の合成は、従来法により達成されてきた。
【0007】
樹枝状構造中のナノ粒子を合成するために従来から用いられる方法、特にソフト化学による方法は、多目的なものではない(スコット(Scott)ら、2005;ガルシア−ベルナーベら、2004)。合成しようとするシステムに従ってプロセス(溶媒の選択、試薬の選択および用いられる反応の速度などの合成パラメータの決定)を適合させることは必要であり、合成法の選択は、用いられる樹枝状構造物および合成しようとするナノ粒子の両方の特性を考慮に入れなければならない。用いられる溶媒に応じて、試薬の選択は多少難しくなる。複雑な分子を用いてもよいが、最終粒子を汚染するリスクがある。粒子の合成に関して、従来システムは、また、以下により限定される:
−ナノ粒子の性質:主として、金属および半導体の合成は文献中に見られる。酸化物を合成すること(共沈による)は一層難しく、窒化物を合成することは不可能である。
−粒径および粒径分布は、一般に、樹枝状構造物のコアの特性により制御される。粒径を調整するために、新しい樹枝状構造物を合成することが必要である。
−形態(morphology)は、合成されるナノ粒子の性質、樹枝状構造物の特性および用いられる反応の速度に依存する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、異なるタイプのナノ材料が同じシステムから、とりわけ同じ流体から調製されることを可能とする汎用の方法を提供することである。その目的および他は本発明により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様によれば、本発明は、
(i)樹枝状構造物および金属化合物前駆体を含む混合物を、混合物が流体中に溶解しないような温度および圧力条件下で流体と接触させること、および
(ii)金属化合物前駆体の化学変換、
を含む、粒子系組成物の調製方法に関する。
【0010】
「粒子系組成物」は、同一のまたは異なる樹枝状構造物と結合する、1または複数の金属化合物に基づく粒子を含む組成物を意味する。
【0011】
以下において、粒子(P)は、1または複数の金属化合物に基づくが、樹枝状構造物とは結合していない粒子を意味する。
【発明の効果】
【0012】
この方法は多くの利点を有する。詳細には、この方法はとりわけ多目的であり、とりわけ金属、半導体、酸化物、窒化物および炭化物などの種々の材料を得ることを可能とする。
【0013】
粒子を、科学文献に記載されているかまたは市販されている樹枝状構造物から合成することも可能であり、必要に応じて樹枝状構造物は、親水性または疎水性のポリマーマトリクス、とりわけフッ素化されたポリマーマトリクスなどの、分子または高分子により改質される。これらの樹枝状構造物は、有利には、すべてのタイプの媒体(親水性または疎水性)中の金属化合物粒子(P)の溶解度を調整することを可能にする。
【0014】
また、この方法は、粒子の粒径、形態および/または構造を制御することを可能とする。粒径は、とりわけ、加圧下のまたはある温度の流体中で用いられる反応の速度により制御することができる。また、この方法は、用途により決定される媒体中で一般に汚染されず再分散可能な出発樹枝状構造物に応じて、乾燥粉末またはペーストの形態で官能化粒子を回収する可能性を提供する。
【0015】
最後に、この方法は工業規模で有利に適用することができる汎用方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
樹枝状構造物
本明細書の文脈では、「樹枝状構造物」は、2を超える官能基を有する有機モノマー単位の重合(または共重合)により得ることができる分岐構造を有する高分子を意味する。こうした構造物の枝の末端に存在する化学官能基は、表現「末端官能基」により表される。定義により、樹枝状ポリマー上の末端官能基数は2を超える。
【0017】
本明細書の文脈では、樹枝状構造物はデンドリマーまたはハイパーブランチポリマーであることが可能である。
【0018】
デンドリマーは枝分かれプロセスに従って互いに結合するモノマーからなる高分子である。
【0019】
「カスケード分子」とも呼ばれるデンドリマーは、定義された構造の高度に分岐した官能化ポリマーである。これらの高分子は反復単位の結合に基づくため、実際にポリマーである。しかし、デンドリマーは、それらの枝分かれ構造に由来する固有の特性を有するため、基本的に従来型のポリマーとは異なる。デンドリマーの分子量および構造は正確に制御することができる。
【0020】
デンドリマーは、各反復単位および末端官能基の増殖を可能とする反応シーケンスの反復により段階的に構築される。各反応シーケンスはいわゆる「新しい世代」を形成する。枝分かれ構造は反応シーケンスを繰り返すことにより達成され、その反応シーケンスは、新しい世代ならびに数の増大する同一の枝および末端官能基を、各反応サイクルの終わりで得ることを可能とする。数世代後、デンドリマーは、高度に分岐しており周辺に存在する多数の末端官能基により多官能化されている、球状形態をとるのが一般的である。
【0021】
本発明の文脈では、「ハイパーブランチポリマー」は、デンドリマーを構成してデンドリマーの構造に相当する構造を有するもののような反復単位の結合により構成される、多分散ポリマー材料を意味する。ハイパーブランチポリマーは、それらの構造がさらに多分散化されて規則的でない点においてデンドリマーとは異なる。それらの合成は、一般に、デンドリマーに較べてより容易でより安価である。
【0022】
デンドリマーまたはハイパーブランチポリマーの例には、とりわけ、例えば、シグマ・アルドリッチ(Sigma Aldrich)から市販されているポリ(アミドアミン)(PAMAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ(プロピレンイミン)(PPI)およびポリプロピレンイミン・ドトリアコンタアミン(dotriacontaamine)・デンドリマー(DAB)が挙げられる。
【0023】
ハイパーブランチポリマーの他の例には、とりわけ、Y.H.キム(Kim)およびO.W.ウエブスター(Webster)により記載されているポリフェニレン、特許出願WO92/08749号明細書またはWO97/26294号明細書に記載されている樹枝状構造物を有するポリアミドまたはポリエステル、ポリグリセロール、または、さらに特許出願WO93/09162号明細書、WO95/06080号明細書もしくはWO95/06081号明細書に記載されているポリマーが挙げられる。
【0024】
樹枝状構造物は改質することができる。
【0025】
好ましくは、本発明による樹枝状構造物は、第2級アミン(−NH−)または第1級アミン(−NH2)官能基、ヒドロキシル官能基(−OH)、カルボン酸官能基(−COOH)、Cl、BrまたはIなどのハロゲン官能基(Hal)、チオール官能基(SH)、より好ましくはアミンまたはヒドロキシル官能基を含む、デンドリマーまたはハイパーブランチポリマーである。
【0026】
これらのアミンまたはヒドロキシル官能基は、改質デンドリマーを生成するために、(−COOH)、(−COHal)、またはエステル、例えば、(−COOAlk)などのカルボニル(CO)タイプの官能基を含む分子に、有利に結合することが可能である。
【0027】
本明細書の文脈では、「改質樹枝状構造物」は、すべてのまたは一部の官能基とりわけ末端官能基が、共有結合的または非共有結合的に、イオン性またはファンデルワールス相互作用により、親水性または疎水性であってよい分子または高分子と結合している構造物を意味する。これらの改質樹枝状構造物は、従って、最初のデンドリマーまたはハイパーブランチポリマーから形成される「コア」、および、とりわけフッ素化分子を含む親水性または疎水性の分子により形成される「表皮層(cortex)」を含む。
【0028】
「親水性の分子または高分子」は、水および極性溶媒中に溶解する分子を意味する。それらは、一般的に、OH、NH2、OAlk、COOHなどの1または複数の極性官能基を含む。本発明により用いることができる親水性分子の例には、とりわけオリゴ糖または多糖類、例えばセルロースまたはデキストラン、ポリエーテル(ポリエチレングリコール)、ポリアルコール(ポリビニルアルコール)、ポリアクリレート(ポリカルボキシレート)、および硫酸官能基、リン酸官能基またはアンモニウム官能基などの陰イオンまたは陽イオン官能基を有する分子が挙げられる。
【0029】
「疎水性の分子または高分子」は、水不溶性で、電気的に中性の非極性分子を意味する。本発明により用いることができる疎水性分子は、一般に、飽和(アルキル基)または不飽和(アルケニルまたはアルキニル基)である1または複数の長い直鎖または分岐鎖の脂肪族鎖、とりわけ2以上の炭素原子を有する脂肪族鎖、とりわけC5〜C20脂肪族鎖を含む。本発明により用いることができる疎水性分子の例には、とりわけ、飽和または不飽和である脂肪酸または脂肪酸のエステルが挙げられる。
【0030】
「フッ素化分子」は、1または複数の、ポリフッ素化または全フッ素化された、飽和または不飽和で直鎖または分岐鎖の脂肪族鎖、とりわけ2以上の炭素原子を有する脂肪族鎖、とりわけC5〜C20脂肪族鎖を含む、疎水性化合物を意味する。
【0031】
本発明によれば、アルキルすなわち「Alk」基は、1〜30個の炭素原子、好ましくは5〜20個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素基を表す。それらが直鎖である場合に、例としてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基およびオクタデシル基を特に挙げることが可能である。
【0032】
それらが1または複数のアルキル基により分岐されるかまたは置換される場合、例としてイソプロピル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルブチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基および3−メチルヘプチル基を特に挙げることが可能である。
【0033】
本発明により用いることができる親水性または疎水性の分子は、また、樹枝状構造物の少なくとも一つの官能基、とりわけ一般に容易に接近しやすい末端官能基と反応することができる少なくとも一つの官能基を含む。
【0034】
こうした官能基の例には、とりわけ、官能基−COOH、−COOAlk、−OH、−NH2が挙げられる。
【0035】
樹枝状構造物と親水性または疎水性の分子との間に形成することができる共有結合の例として、アミド結合−(C=O)−NH−、−NH−(C=O)、およびエステル結合−(C=O)−O−、−O−(C=O)−、−C−O−C−、−C−C−を特に挙げることが可能である。
【0036】
本発明により用いることができる親水性または疎水性の分子の例として、さらに特定的に以下を挙げることが可能である:
−Rfがポリフッ素化または全フッ素化Alk基である、式RfCOOHのポリフッ素化または全フッ素化アルカン酸、とりわけ2H,2H,3H,3H−ペルフルオロウンデカン酸;
−AlkがC2〜C20アルキル基であるアルキルカルボン酸AlkCOOH;
−テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(HOH2C−CH2−(OCH2CH23−OCH3)、ポリエチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールまたはそれらのエーテル。
【0037】
好ましくは、樹枝状構造物の表面に結合される分子または高分子は、50〜10000g/モル、さらに好ましくは200〜1000g/モルの範囲にある分子量を有する。
【0038】
本発明により用いることができる改質樹枝状構造物は、親水性分子、疎水性分子またはフッ素化分子のグラフト化を可能にする、それ自体が公知および/または当業者の能力内である任意の方法、とりわけラロック(Larock)(Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers,1989)により記載されている方法を適用するか適合させることにより、または以下の例(ライナー・ハーグ(Rainer Haag)、2004;ステファン・メッキング(Stephan Mecking)、2002および2003;E.メイヤー(Meyer)、1996;デシモン(Desimone)J.M.、1997;R.M.クルックス(Crooks)、1999)において記載される方法を適用するか適合させることにより、調製することができる。
【0039】
金属化合物前駆体
「金属化合物前駆体」は、化学変換後に酸化状態n2(n1と同じであっても異なってもよい)の対応する金属元素Mn2を含む化合物となる、金属元素の性質に応じて0以上の、一般に+1〜+6の酸化状態n1の金属元素Mn1を含む金属化合物を意味する。
【0040】
例えば、化学変換が還元反応である場合に、得られる金属化合物Mn2の酸化数n2は、前駆体Mn1の酸化数n1以下である。
【0041】
金属元素Mは決定的ではなく、元素周期律表の第1〜15族からの任意の元素であることが可能である。本明細書において用いられる表現「金属元素」には、また、ホウ素、Bが含まれる。金属元素の例には、元素周期律表中の、第1族の元素(例えば、Li、Na、K)、第2族の元素(例えば、Mg、Ca、Sr、Ba)、第3族の元素(例えば、Sc、ランタノイド元素、アクチノイド元素)、第4族の元素(例えば、Ti、Zr、Hf)、第5族の元素(例えば、V)、第6族の元素(例えば、Cr、Mo、W)、第7族の元素(例えば、Mn)、第8族の元素(例えば、Fe、Ru)、第9族の元素(例えば、Co、Rh)、第10族の元素(例えば、Ni、Pd、Pt)、第11族の元素(例えば、Cu、AgおよびAu)、第12族の元素(例えば、Zn)、第13族の元素(例えば、B、Al、In)、第14族の元素(例えば、Sn、Pb)、および第15族の元素(例えば、Sb、Bi)が挙げられる。
【0042】
延長線上で考えると、表現「金属元素」には、本説明の文脈では第16族の元素(例えば、SおよびSe)も含まれる。
【0043】
好ましい金属元素には、遷移金属元素(元素周期律表の第3〜第12族の元素)が挙げられる。これらの中で、元素周期律表第5〜第11族の元素が好ましい。
【0044】
金属元素の原子価は決定的ではなく、0〜6であることが可能であり、多くの場合に約2または3である。
【0045】
金属化合物およびそれらの前駆体には、上述の金属元素の単体、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩および炭酸塩)、オキソ酸、イソ多塩基酸、ヘテロ多塩基酸および他の無機化合物;金属元素の有機酸塩(例えば、酢酸、プロピオン酸、青酸、ナフテン酸およびステアリン酸の塩)、錯体および他の有機化合物が挙げられるがそれらに限定されない。錯体を構成する配位子には、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基)、アシル基(例えば、アセチル基およびプロピオニル基)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニルおよびエトキシカルボニル基)、アセチルアセトナート、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(例えば、塩素および臭素原子)、CO、CN、酸素原子、H2O(アクオ)、ホスフィン(例えば、トリフェニルホスフィンおよび他のトリアリールホスフィン)、および他のリン化合物、NH3(アミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンおよび窒素原子を含有する他の化合物が挙げられる。
【0046】
本発明により用いることができる金属化合物およびそれらの前駆体の特定例には、例としてコバルト化合物を取り上げると、水酸化コバルト、酸化コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、リン酸コバルト、および他の無機化合物;酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、および他の有機酸塩;コバルトアセチルアセトナートおよび他の錯体、および他の2価または3価コバルト化合物が挙げられる。
【0047】
本発明により用いることができるバナジウム化合物およびそれらの前駆体の例として、水酸化バナジウム、酸化バナジウム、塩化バナジウム、塩化バナジル、硫酸バナジウム、硫酸バナジル、バナジウム酸ナトリウム、および他の無機化合物;バナジウムアセチルアセトナート、バナジルアセチルアセトナート、および他の錯体、ならびに他の2〜5の原子価を有するバナジウム化合物を挙げることが可能である。
【0048】
本発明により用いることができるパラジウム化合物またはそれらの前駆体の例として、特に、塩化パラジウムなどのパラジウム無機化合物、パラジウムアセチルアセトナートなどのパラジウム錯体、酢酸パラジウム、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、または硝酸パラジウムも挙げることが可能である。
【0049】
本発明により用いることができる銀化合物またはそれらの前駆体の例として、塩化銀などの銀無機化合物、銀アセチルアセトナート(Ag(acac))などの銀有機金属錯体、酢酸銀、硝酸銀またはクエン酸銀も挙げることが可能である。
【0050】
金属元素またはそれらの前駆体の化合物の他の例には、上述のコバルト、バナジウム、パラジウムまたは銀の化合物に相当する化合物が挙げられる。各金属化合物前駆体は、単独で、または組み合わせて用いることが可能である。
【0051】
好ましくは、前駆体はパラジウムまたは銀の化合物である。
【0052】
本発明の方法により用いられる金属化合物前駆体は、好ましくは、金属、半導体材料、金属酸化物または窒化物の前駆体から選択される。
【0053】
本発明の方法による前駆体から出発する化学変換により得られる金属化合物は、とりわけ、金属、金属酸化物、半導体材料、窒化物および炭化物である。
【0054】
半導体材料には、ケイ素、ゲルマニウム、灰色スズ(α−Sn)などの第IV族に属する金属元素;複合半導体、特に第V族の元素を有する第III族の元素を含む化合物、例えば、ガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、ガリウムリン(GaP)、ヒ化インジウム(InAs)、リン化インジウム(InP)、アンチモン化インジウム(InSb)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、リン化アルミニウム(AlP)、ヒ化アルミニウム(AlAs);CdTe、CdS、ZnSe、ZnTe、MgSなど、第V族の元素を有する第II族の元素を含む金属化合物;CuBr、CuCl、CuIなど、第VII族の元素を有する第I族の元素を含む金属化合物が挙げられる。
【0055】
本発明の方法により調製することができる金属窒化物の例には、遷移金属、とりわけ第III族の元素の窒化物、例えば、GaN、AlN、InN、および第IV族の窒化物、例えば、TiN、ZrN、HfN、Si34、第V族の窒化物、例えば、VN、NbN、TaN、または第VI族の窒化物、例えば、CrN、Cr2NまたはMnNも挙げられる。
【0056】
これらの材料は、種々の技術用途に利用することができる多くの特性、とりわけ機械的、化学的または光学的特性を有する。一般に、それらは耐火性である特定の態様を有すると共に、それらは金属と同様の熱伝導度を有する。また、それらは、特に、高度の耐磨耗性、極めて有利な光学的選択性、薬品による腐食および還元性環境に関する高度な安定性、または貴金属と同様の触媒特性も有することが可能である。
【0057】
本発明により調製することができる金属酸化物の例として、酸化鉄、とりわけフェライト、特にマグネタイト(Fe34)およびマグヘマイト(γ−Fe23)を挙げることが可能である。マグネタイトからマグヘマイトまでの物理化学組成を有するナノ粒子は、超常磁性物質であり、とりわけ磁気共鳴画像用の造影剤として用いることができる。
【0058】
化学変換
本発明の方法の段階(ii)において、金属化合物前駆体は、熱分解、酸化−還元反応、ゾル・ゲル反応またはソルボサーマル反応であることが可能な化学変換を行う。
【0059】
好ましくは、化学変換は酸化−還元反応を含む。樹枝状構造物および金属化合物前駆体を含む混合物は、次に、流体中の還元剤または酸化剤と接触する。
【0060】
還元剤は決定的ではなく、従来型の試薬から選択することができる。本発明により用いることができる還元剤の例には、とりわけ、水素、アルカリまたはアルカリ土類の金属水素化物などの金属水素化物、例えば、水素化ナトリウム(NaH)または水素化カリウム(KH)、NaBH4、Lが有機配位子であるNaBHL3などの過水素化物、またはCOも挙げられるが、水素がとりわけ好ましい。
【0061】
同様に、酸化剤は決定的ではなく、酸素、過酸化水素および過酸から選択することができ、酸素がとりわけ好ましい。
【0062】
一般に、本発明による方法の温度および圧力条件下でガス状態にある、還元剤または酸化剤が好ましい。なぜなら、それらは、とりわけ追加の精製段階なしで、反応の終わりで反応媒体から容易に除去することができるからである。
【0063】
流体
本説明の文脈では、「流体」は、加圧下である温度の流体、好ましくは超臨界条件下の流体を意味する。
【0064】
「加圧下の流体」は、0.1MPaを超え、さらに好ましくは1MPaを超え、さらに好ましくは10〜30MPaの圧力にある流体を意味する。
【0065】
「ある温度の流体」は、周囲温度を超え、さらに好ましくは流体の臨界温度を超え、好ましくは80℃〜250℃の温度の流体を意味する。
【0066】
超臨界流体は、液体およびガスの両方の特性を有する相または擬似相を表す。本明細書の文脈では、「超臨界流体」は、それぞれ臨界温度(Tc)および臨界圧力(Pc)よりも高い温度および圧力条件下にある流体を意味する。
【0067】
本発明により用いることができる超臨界流体の例には、とりわけ、二酸化炭素(CO2)、メタン、エタン、プロパン、エチレン、クリプトン、キセノン、エタノール、水、アセトン、アンモニア、N2O、CHF3またはそれらの混合物が挙げられ、CO2がとりわけ好ましい。
【0068】
好ましくは、流体はCO2を含む。
【0069】
CO2は温度が31℃を超えると共に、その圧力が73.8×105Paを超える場合に超臨界状態にあると言われている。
【0070】
これらの条件下で、CO2は、ガス特性(拡散が大きいなど)を示すと共に、液体特性(密度が超臨界点で0.7kg/cm3であるなど)も得る。超臨界CO2は、特に適度な温度条件(30℃)下で溶解力を変化させる可能性、および小さな圧力変化に対してその溶解力が大きく変化することを含む多くの利点を有する。さらに、超臨界CO2は、周囲温度および圧力の条件下でガス状態に戻るので、毒性残留物を全く残さない。CO2は、また、再生利用可能であり、安価、豊富、非可燃性で非毒性のガスである。
【0071】
本発明の文脈では、流体の温度および圧力は、樹枝状構造物および金属化合物前駆体を含む混合物が流体中に溶解しないように選択される。
【0072】
このことは、一般に、流体中への化学化合物の溶解度が、一方では化合物の性質と、他方では流体の性質ならびに温度および圧力条件に依存する流体密度と、密接に関連するために可能となる。このようにして、流体の圧力および温度条件を適合させることにより、媒体中の試薬の溶解度を制御すること、および試薬がほとんど溶解しないかまたはさらに不溶性である条件を作り出すことが可能となる。
【0073】
「不溶性」は、10-2g/gよりも低い、好ましくは10-4g/g(比率g/gは溶質グラム(g)/流体グラム(g)で表される)よりも低い、流体中での混合物の溶解度を意味する。
【0074】
樹枝状構造物がフッ素化「表皮層」を有する混合物に関して、フッ素化分子が超臨界CO2中に可溶性であることが一般に認められている。他方、フッ素化表皮層を有する樹枝状構造物の超臨界CO2中への溶解度は、表皮層の性質、表皮層質量対コア質量の比率および超臨界流体の密度に依存する。これらの分子が0.9〜1程度の高密度CO2に対してだけ可溶性であることが見出されている。
【0075】
化学変換をもたらす化学薬品、例えば、還元剤または酸化剤が段階(ii)において用いられる場合、化学薬品は流体中に可溶性であってもなくてもよい。好ましくは、化学薬品は、樹枝状構造物および金属化合物前駆体を含む混合物内に拡散可能であるように可溶性である。
【0076】
いかなる特定理論によっても縛られようとは望まないが、発明者らにより、流体が混合物を膨潤させることが可能であることが観察された。従って、圧力−温度パラメータに基づき混合物の粘度を調整することが可能である。これらの条件下で、化学反応は前駆体の変換を開始して粒子の形成をもたらし、それらの粒径の制御は媒体の粘度と密接に関連する。これは、超臨界流体媒体中でのナノ材料の合成方法についての発明者らの知見(キャンセルら、2004)により実証されている。特定の粒径の時点で、粒子はもはや成長せずに樹枝状構造物により安定化される、さらに詳細には、粒子はタイプS、N、O、・・・の樹枝状構造物のコアを構成する一部の原子との特定の相互作用により安定化される。
【0077】
本発明により用いることができる樹枝状構造物および前駆体の混合物の例として、Pd(acac)2およびPEI−COCH2CH2Rf、PEI−CO−CH2−CH2−(OCH2−CH23−OCH3またはDAB−CO−CH2CH2Rfから選択される樹枝状構造物を含むものを挙げることが可能である。
【0078】
好ましくは、本方法による前駆体/樹枝状構造物のモル比は、1以上、好ましくは10〜200である。
【0079】
前駆体を金属化合物へ化学変換する段階の持続時間は、反応速度に応じて大きく変えることが可能である。
【0080】
一般的に、変換は、1分を超え、一般に、15分〜5時間にわたって行われる。
【0081】
単一の樹枝状構造物により安定化されるいくつかの粒子は、樹枝状構造物の粒径、構造および化学組成に従って形成することが可能である。樹枝状構造物の組成は、また、金属化合物粒子との相互作用に影響を及ぼすことが可能である。逆に、本方法により得られる生成物は、金属化合物粒子当りいくつかの樹枝状構造物を含むことが可能である。また、樹枝状構造物当り一つの粒子とすることも可能である。
【0082】
本発明による方法は、好ましくは、得られる粒子系組成物の回収を含む。回収は従来法に従って行うことができる。一例として、化学変換剤がガスである場合、反応の終わりで、超臨界流体またはガス状流体および化学変換剤は反応槽から除去することができ、乾燥粉末が回収される。減圧の間、温度は、好ましくは、超臨界流体またはガス状流体が液体状態になってしまうことを防ぐようなやり方で調整される。
【0083】
別の態様によれば、本発明は、本発明の方法により得ることができる粒子系組成物に関する。
【0084】
粒子(P)は、一般に、1nm〜1μm、好ましくは1nm〜100nm、さらに好ましくは1〜10nmの平均径を有する。本発明による粒子(P)の平均径は、透過型電子顕微鏡法(TEM)(とりわけ高分解能走査型電子顕微鏡(FESEM)による)で測定される径を指す。さらに正確には、この平均径は、粒子集団の平均径を足し算して、その集団を構成する粒子数で割ることにより計算される。
【0085】
そうして得られる粒子(P)は、複合材料であることが可能であり、異なる形態(例えば、球状、シート様または菱面体形状)を有することが可能である。
【0086】
別の態様によれば、本発明は、電子工学、触媒反応、医薬、生物学、光学、化粧品およびナノ複合材料の分野における粒子系組成物の使用に関する。
【0087】
特に、本発明による粒子(P)に基づく組成物は、
−有機化学における合成用、とりわけ触媒反応、例えば、2相コロイド触媒反応用に;
−表面被覆用、例えば、表面上への疎水性および/または抗菌性の堆積物の製造用に;
−金属化合物粒子が磁気特性、とりわけ超常磁性特性を有する場合、医療用画像、とりわけMRI用の造影剤として、
用いることができる。
【0088】
この最後のケースにおいて、免疫系が粒子(P)を認識することを防ぐために、PEGなどの生体適合性の親水性分子または高分子を用いて樹枝状構造物を改質することが、特に好ましい。
【0089】
別の態様によれば、本発明は式(I):
【化1】

(式中、PEIはポリエチレンイミンを示し、nは、好ましくは3〜5の範囲にある整数である。)
の樹枝状構造物に関する。
【0090】
これらの樹枝状構造物は、本発明による組成物を調製するための合成中間体として用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下の例は本発明を説明するが、しかし、それを限定するものではない。用いられる出発製品は公知の製品か、または公知の方法により調製される製品である。
【0092】
装置および方法
TEM:Jeol 2000 FX
XPS:Escalab 220 IXL(バキューム・ジェネレータ(Vacuum Generator))
XRD:従来型X線粉末回折Cu−Kα放射
試薬PEI、DABは本会社により供給された。
【0093】
例1:フッ素化分子により改質されたポリエチレンイミン中のPdおよびAgナノ粒子
a)樹枝状構造物の合成
この例において、用いられる樹枝状構造物は、フッ素化分子(表皮層−「COCH2CH2Rf」(Rfは−(CF27CF3))により改質されたハイパーブランチポリマー(コア−分子量5000g/モル(PEI5k)のポリエチレンイミン(PEI))である。
【0094】
THF(10mL)中に溶解した2H,2H,3H,3H−ペルフルオロウンデカン酸(1.06g、2.16ミリモル)を、緩やかにTHF(10mL)中カルボニルジイミダゾール(338mg、2.09ミリモル)の溶液に添加する。混合物を周囲温度で1時間にわたり攪拌する。生成するCO2を除去するためにアルゴン流を用いる。次に、混合物をポリエチレンイミン(293mg、末端「アミノ基」2.09ミリモル)を入れた反応槽に移す。反応混合物を一夜にわたり40℃で加熱する。溶媒の体積を10mlに減らし、水50mlを添加する。白色沈殿物を単離し、数回洗浄する。真空下で乾燥後、白色粉末を得る(480mg、収率83%)。
【0095】
この樹枝状構造物(PEI−COCH2CH2Rf)の分析結果は以下の通りである。
1H NMR(C66)δppm:2.4〜3.6(m、NCH2CH2NおよびRfCH2CH2CO).13C NMR(C66)δppm:27.2(RfCH22CO)29.0(Rf2CH2CO)39(N2CH2NHCO)50〜55(NCH2CH2N)107〜125(CF2)173.5(CH2ONHCH2).IR:N−H伸縮3306cm-1、C=O1653cm-1、N−H変角1559および第2級アミン1451cm-1、C−F1205、1149cm-1
【0096】
「第1級アミン」基の98%は変換された、すなわち、樹枝状構造物のすべてのアミン官能基の27%は変換された。
【0097】
b)PEI−COCH2CH2Rf中でのパラジウム(Pd)ナノ粒子の合成
標準実験において、PEI−COCH2CH2Rf(100mg)とパラジウム前駆体であるパラジウムアセチルアセトナート(Pd(acac)2−125mg)のよく混じった混合物を作る。これらの量はPEI−COCH2CH2Rf/Pd(acac)2比(R)80に相当する。この混合物を、次に、上述の反応器中に導入し、続いて、CO2(5MPa)および水素0.4MPaを添加する。反応器を100℃に加熱し、圧力をCO2添加により15MPaまで上げ、反応混合物を1時間にわたりこれらの条件下で保持する。温度を、次に、40℃に下げ、反応混合物を続いて減圧する。減圧フェーズの間、CO2が液体領域中に入ってしまうことを防ぐために温度を40℃に保持する。減圧後、温度を周囲温度に戻す。この手順は、実験の終わりに、きれいで乾燥した黒色粉末が回収されることを可能とする。
【0098】
これらの条件(15MPa、100℃)下で、試薬(PEI−COCH2CH2RfおよびPd(acac)2)がCO2中に溶解しないことが、IR分光法により検証された。
【0099】
得られる粉末は、例えば、トリフルオロエタノール中に再分散することができ、安定なコロイド状溶液を形成することができる。このタイプの官能化ナノ粒子は、2相触媒反応を達成するために用いることができる。ナノ材料を分析するための種々の技術:透過型電子顕微鏡法(TEM)、電子線回折、X線光電子分光法(XPS)およびX線粉末回折(XRD)を用いた。
【0100】
図2はTEM画像および対応ヒストグラムを示す。図2は平均粒径5.7nmを有する官能化パラジウムナノ粒子が合成されたことを示す。PEI−COCH2CH2Rfがない場合に、粒子の凝集が見られる。このことは、樹枝状構造物によってナノ粒子の安定化が可能であることを示す。
【0101】
ナノ粒子の性質をXPSにより検証した。XPS分析は、それが実際に合成されたパラジウムナノ粒子であることを示す。
【0102】
1時間の反応時間後、XPS分析は、還元されなかった少量のPd(acac)2がまだ残っていることを示す。合成反応器中の滞留時間を3時間に増加させることにより、すべての前駆体は金属に還元される。
【0103】
最終的に、構造解析(XRDおよび電子線回折)により、面心立方構造を有する金属パラジウムが実際に合成されたことが確認される。
【0104】
圧力、温度、滞留時間、比率RおよびPd(acac)2濃度の各種プロセスパラメータを変えることにより、数nm〜数十nmの樹枝状構造物により官能化されるパラジウムナノ粒子の粒径を制御することが可能である。
【0105】
c)PEI−COCH2CH2Rf中での銀(Ag)ナノ粒子の合成
PEI−COCH2CH2Rf(100mg)と銀前駆体である酢酸銀(Ag(ac)−67mg)のよく混じった混合物、およびパラジウムナノ粒子合成について記載した実験プロトコルから出発して、平均粒径23nmを有する十分に結晶化した銀ナノ粒子を得た(図3)。
【0106】
得られる乾燥したきれいな粉末は、フッ素化溶媒中に再分散することができると共に、例えば、表面上に疎水性で抗菌性の堆積物を生成するために用いることができる。
【0107】
例1は、同じアプローチが同じ樹枝状構造物により安定化される各種材料の合成を可能とすることを示す。パラジウムナノ粒子と銀ナノ粒子の粒径の違いは、還元の反応速度および二つのタイプの材料の成長の違いにより説明することができる。
【0108】
例2:フッ素化分子により改質されたDAB中のPdナノ粒子
この例において、用いられる樹枝状構造物は、第4世代デンドリマー(コア−フッ素化分子により改質された分子量3500g/モルのDAB、および表皮層−「COCH2CH2Rf」(Rfは−(CF27CF3))である。コアを改質するための実験プロトコルは例1に記載したものと同じである。「第1級アミン」基の98%が変換された。この樹枝状構造物(DAB−COCH2CH2Rf)の分析結果は以下の通りである。
1H NMR(C66)δppm:2.4〜3.6(m、NCH2CH2NおよびRfCH2CH2CO).13C NMR(C66)δppm:27.2(RfCH22CO)29.0(Rf2CH2CO)39(N2CH2NHCO)50〜55(NCH2CH2N)107〜125(CF2)171.7(CH2ONHCH2).IR:N−H伸縮3303cm-1、C=O1650cm-1、N−H変角1563、C−F1204、1149、1112cm-1
【0109】
15MPaおよび100℃で、樹枝状構造物、DAB−COCH2CH2RfがCO2中に溶解しないことが、IR分光法により検証された。
【0110】
DAB−COCH2CH2Rf(100mg)とパラジウム前駆体であるパラジウムアセチルアセトナート(Pd(acac)2−125mg)のよく混じった混合物、およびPEI−COCH2CH2Rf中でのパラジウムナノ粒子合成について記載した実験プロトコルから出発して、平均粒径7nmを有する十分に結晶化したパラジウムナノ粒子を得た(図4)。
【0111】
DAB−COCH2CH2Rf中で安定化したパラジウムナノ粒子は、きれいで乾燥した粉末の形態で回収され、2相コロイド触媒反応用のトリフルオロエタノールタイプのフッ素化溶媒中に再分散することができる。
【0112】
この例は、例1に較べて、樹枝状構造物のコアの性質が、最終粒径に影響を与えたことを示す(同じ条件下で、Pd−PEI−COCH2CH2Rf→5.7nmおよびPd−DAB−COCH2CH2Rf→7.0nm)。コアの性質は、おそらく検討された圧力および温度条件下で系の粘度にも影響を及ぼしている。
【0113】
例3:疎水性分子により改質されたポリエチレンイミン中のPdナノ粒子
この例において、用いられる樹枝状構造物は、疎水性分子(表皮層−「COC1531」)により改質されたハイパーブランチポリマー(コア−分子量5000g/モルのポリエチレンイミン(PEI))である。コアを改質するための実験プロトコルは、フッ素化分子によるPEI改質について記載したものと同じである。「第1級アミン」基の98%が変換された。この樹枝状構造物(PEI−COC1531)の分析結果は以下の通りである。
1H NMR(CDCl3)δppm:0.83(t、3H、CH3)、1.22(m、24H、CH2)1.57(m、2H、COCH2CH2)2.11(m、2H、COCH2CH2)2.4〜2.8(m、NCH2CH2N)3.22(m、CONCH2CH2N)3.6(m、NH).13C NMR(CDCl3)δppm:14.3(CH3)、22.9、29.6、29.9および32.1(CH2)、26.2(COCH2CH2)36.7(COCH2CH2)33.4(CONCH2CH2N)37.7(CONCH2CH2N)47.4、49.0、51.5、52.8および53.7(NCH2CH2N)174.0(CH2ONHCH2).IR:1645cm-1
【0114】
15MPaおよび100℃で、樹枝状構造物、PEI−COC1531がCO2中に溶解しないことが、IR分光法により検証された。
【0115】
PEI−COC1531(100mg)とパラジウム前駆体であるパラジウムアセチルアセトナート(Pd(acac)2−188mg)のよく混じった混合物、およびPEI−COCH2CH2Rf中でのパラジウムナノ粒子合成について記載した実験プロトコルから出発して、平均粒径8.2nmを有する十分に結晶化したパラジウムナノ粒子を得た(図5)。
【0116】
先行例におけるように、官能化ナノ粒子は、トルエンタイプの有機溶媒中に再分散可能なきれいで乾燥した粉末の形態で回収される。このタイプの材料はコロイド触媒反応用に用いることができる。
【0117】
この例は、同じ方法により、疎水性分子により官能化される樹枝状構造物中でナノ粒子を安定化させることが可能であることを示す。
【0118】
例4:親水性分子により改質されたポリエチレンイミン中のPdナノ粒子
この例において、用いられる樹枝状構造物は、親水性分子(表皮層−「CO−CH2−(OCH2CH23−OCH3」)により改質されたハイパーブランチポリマー(コア−分子量5000g/モルのポリエチレンイミン(PEI))である。コアを改質するための実験プロトコルはこれまでのプロトコルとは異なる。テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(2.08g、0.01モル)、水酸化カリウム(1.12g、0.02モル)および過マンガン酸カリウム(3.16g、0.02モル)を、周囲温度で12時間にわたり水100ml中で攪拌する。得られる褐色の沈殿物を濾過し、次に、数回水で洗浄する。水溶液の体積を50mlに減らした後、生成物をジクロロメタンで抽出する。有機溶液をNa2SO4上で乾燥し、次に、濾過する。溶媒を蒸発させ、3,6,9−トリオキサドデカン酸を得る(1.4g、収率63%)。THF(25mL)中に溶解したこのオイル(1.22g、5.5ミリモル)を、緩やかにカルボニルジイミダゾール(842mg、5.2ミリモル)の溶液に添加する。反応混合物を、CO2を除去するためにアルゴン流下、周囲温度で1時間にわたり攪拌する。次に、混合物を、ハイパーブランチポリマー(PEI5k、745mg、末端「アミノ」基5.2ミリモル)の入ったビーカーに移す。反応混合物を一夜にわたり40℃で加熱し、溶媒を蒸発させ、生成物を水中透析により精製する(1.4g、収率80%)。「第1級アミン」基の98%が変換した。この樹枝状構造物(PEI−COCH2(OCH2CH23OCH3)の分析結果は以下の通りである。
1H NMR(CDCl3)δppm:2.4〜2.8(m、NCH2CH2N)3.33(s、3H、OCH3)、3.6(m、12H、OCH2CH2O)3.94(m、2H、COCH2O).13C NMR(CDCl3)δppm:59.2(CH3)、70〜72(OCH2CH2O)、70(COCH2O)37(CONCH2CH2N)39.7(CONCH2CH2N)47、49、52および54(NCH2CH2N)170.3(OCH2ONHCH2).
【0119】
PEI−COCH2(OCH2CH23OCH3(100mg)とパラジウム前駆体であるパラジウムアセチルアセトナート(Pd(acac)2−203mg)のよく混じった混合物、およびPEI−COCH2CH2Rf中でのパラジウムナノ粒子合成について記載した実験プロトコルから出発して、平均粒径6.1nmを有する十分に結晶化したパラジウムナノ粒子を得た。
【0120】
先行例におけるように、官能化ナノ粒子は、水性溶媒中に再分散可能なきれいで乾燥した粉末の形態で回収される。このタイプの材料は水中でのコロイド触媒反応用に用いることができる。酸化鉄タイプのナノ粒子の場合、樹枝状コア周りのPEG官能基がそれら粒子を隠すであろうから、これらの材料はMRI造影剤として使用可能であると思われる。
【0121】
この例は、同じ方法により、親水性分子により官能化される樹枝状構造中でナノ粒子を安定化させることが可能であることを示す。
【0122】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】流体を導入するための機器(クライオスタットおよび高圧ポンプ)(1)、圧力制御器(デジタル圧力センサー、圧力計、ラプチャーディスクおよび廃棄デバイス)および温度制御用システム(加熱カバー、熱電対)を備えた合成反応器(2)からなる実験装置を示し、本システムは閉鎖または半連続モードで運転する。
【図2】TEMにより測定される粒径(nm)を表すと共に、PEI−COCH2CH2Rf中のPdから出発する690のナノ粒子に関して作られたヒストグラムを示す。
【図3】TEMにより測定される粒径(nm)を表すと共に、PEI−COCH2CH2Rf中のAgの100のナノ粒子に関して作られたヒストグラムを示す。
【図4】TEMにより測定される粒径(nm)を表すと共に、DAB−COCH2CH2Rf中のパラジウムの226のナノ粒子に関して作られたヒストグラムを示す。
【図5】TEMにより測定される粒径(nm)を表すと共に、PEI−CO−CH2−(OCH2CH23−OCH3中のパラジウムの146のナノ粒子に関して作られたヒストグラムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)樹枝状構造物および金属化合物前駆体を含む混合物を、その混合物が流体中に溶解しないような温度および圧力条件下でその流体と接触させること、および
(ii)前記金属化合物前駆体の化学変換、
を含む、粒子系組成物の調製方法。
【請求項2】
前記方法が、得られた前記粒子系組成物の回収を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記樹枝状構造物がハイパーブランチポリマーまたはデンドリマーである、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記樹枝状構造物が、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ(プロピレンイミン)(PPI)、またはポリプロピレンイミン・ドトリアコンタアミン・デンドリマー(DAB)から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記樹枝状構造物が親水性または疎水性の分子により改質されている、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記親水性または疎水性の分子が、
−Rfが直鎖または分岐鎖のポリフッ素化または全フッ素化アルキル基を表す、RfCOOH、
−Alkが直鎖または分岐鎖のC2〜C20アルキル基を示す、Alk−COOH、
−ポリオキシアルキレングリコールまたはそれらのエーテル、
から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属化合物前駆体が、金属、半導体材料、金属酸化物または窒化物の前駆体から選択される、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記前駆体がパラジウムまたは銀の化合物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記流体がCO2を含む、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記圧力が10〜30MPaである、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記温度が80℃〜250℃である、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前駆体/樹枝状構造物のモル比率が10〜200である、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記化学変換が、熱分解反応、酸化還元反応、ゾル・ゲル反応またはソルボサーマル反応である、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記化学変換が酸化還元反応である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化還元反応が水素の存在下で行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1つに定義される方法により得られる粒子系組成物。
【請求項17】
粒子の平均径が1nm〜1μmである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
有機合成触媒反応用の、表面被覆用の、または医用画像用造影剤としての、請求項16または17に記載の粒子系組成物の使用。
【請求項19】
式(I):
【化1】

(式中、PEIはポリエチレンイミンを示し、nは3〜5の範囲にある整数である。)
の樹枝状構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−523180(P2009−523180A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546506(P2008−546506)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002691
【国際公開番号】WO2007/080253
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】