説明

樹状細胞ならびに細胞標的および潜在的薬物のスクリーニングにおけるそれらの使用

【課題】樹状細胞が様々な刺激物に反応して、様々な転写プロフィールを発現することによる様々な反応、例えば微生物刺激に反応した樹状細胞によるIL-2産生を開始することに基づき、(1)遺伝子発現プロフィールのライブラリーおよび微生物刺激に反応した樹状細胞成熟に対応するライブラリーを作成する方法、(2)リンパ球および免疫反応を活性化するための方法および樹状細胞においてII-2を産生するか、または細胞ベースの治療法のために樹状細胞を調製する方法、(3)樹状細胞成熟に影響を与える薬剤をスクリーニングする方法および系を開発する。また、樹状細胞が免疫抑制性ウイルス感染の標的であることも示す。
【解決手段】免疫抑制性ウイルス感染または免疫抑制性ウイルス感染に伴う免疫抑制を治療するための方法、および、樹状細胞系を用いて免疫抑制性ウイルス感染を治療するのに適している治療剤候補をスクリーニングするための方法の確立。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、2001年7月31日に出願された米国仮出願第60/309,102号の優先権を35U.S.C.119(e)の下に主張するものである。
【0002】
本発明は、一般的には免疫系、より具体的には、様々な刺激に反応した樹状細胞活性に関する。
【0003】
免疫系の特徴は、自己組織に対して破壊的な反応を起こすことなしに感染要因に対応する能力である。侵入してくる病原体に対する防御の第一線を代表するのは、感染を検出しかつ制限する先天性免疫反応である。この先天性反応から適応性免疫反応が生じ、これが病原体を区別し記憶を生みだす。
【0004】
樹状細胞(DC)は、先天性免疫と適応的免疫双方の開始および自己寛容の維持に必要な制御性T細胞の分化に関与する極めて多目的な専門的抗原提示細胞(APC)である。DCの主要な機能には、抗原の取り込みおよびプロセシングならびにナイーブT細胞1の初回抗原刺激が含まれ、これらの機能は次第に分離される。皮膚および粘膜などの非リンパ系組織にある未成熟休止DCは抗原を取り込む。未成熟DCは、高い食作用を示し、プロセシングされT細胞に提示される可溶性かつ粒子状の抗原を連続的にインターナライズする。未成熟DCとT細胞との相互作用は、T細胞アネルギーの誘導を伴う発育不全T細胞の活性化または制御性T細胞の分化を誘導する。
【0005】
抗原が取り込まれT細胞を初回抗原刺激する能力のある成熟DCは、非リンパ系組織からリンパ節または脾臓のT細胞領域に遊走する。すなわち、未成熟DCは、炎症性刺激物と接触した場合に成熟プロセスを受けるが、このプロセスは、未成熟DCを食作用性かつ遊走性の細胞から非食作用性でナイーブT細胞反応の極めて効率的な刺激物質へと変える。成熟DCは、9〜10日以内にアポトーシス死を受けるようにプログラムされている。
【0006】
炎症性および微生物刺激はDC成熟プロセスを誘導するが、このプロセスは24時間後に終了する。成熟DCは、細胞表面において高レベルの安定なペプチド-MHC複合体および共刺激分子を発現し、ナイーブT細胞を初回抗原刺激する能力がある。分化プロセス中に、DCは、中間成熟段階を受け、この段階では、初めは先天性免疫反応の、次いで適応性免疫反応の活性化および制御に重要なサイトカインおよび細胞表面分子を厳密に定義された速度で発現する。
【0007】
未成熟単球由来ヒトDC(hMDC)または未成熟骨髄由来マウスDC(mBMDC)は、炎症性サイトカイン、リポ多糖(LPS)およびリポテイコ酸(LTA)のような細菌細胞産物、細菌DNAおよび二本鎖ウイルスRNA、ならびに生きている細菌を含む多くの様々な刺激物を用い、in vitroにおいて成熟に誘導することができる。この最後の刺激物は、マウスにおけるDC終末分化プロセスの最も強力な触媒の1つであり、迅速かつ効果的なDCの表現型的および機能的成熟を誘導する4。
【0008】
DCが活性化する先天性および適応的反応の範囲およびタイプは、それらが受ける刺激のタイプによって異なる。実際、DCは、病原体関連分子パターン (PAMP)と呼ばれる特異的な微生物分子構造と相互作用するパターン認識受容体(PRR)を発現するため、様々な病原体を区別することができる。こられの構成的かつ保存された微生物構造は、宿主哺乳動物細胞には存在せず、様々な微生物のサインに相当している。
【0009】
はっきりしているPRRは、トール様受容体(TLR)である。DC表面において様々なTLRを刺激すると、様々なシグナル伝達経路が活性化され、適応的免疫の結果に影響を与える様々な成熟プロセスが誘導される。この意味で、DCは、病原体特異的に反応することができる。
【0010】
転写プロフィール、トランスクリプトームは、細胞の表現型および機能の主要な決定要因である。遺伝子発現の差は、環境要因および動揺によって細胞中に誘導される形態学的、表現型的および機能的変化を示している。ヒトにおいてはTh1機能とTh2機能を、マウスにおいてはアネルギー性B細胞と活性B細胞を区別する遺伝子を識別するためにマイクロアレイがうまく応用されてきた。したがって、マイクロアレイ技術は、様々な外部要因によって特定の細胞タイプにおいて誘導される可能性のある差を研究するための妥当な手法である。
【0011】
DCに関して、未成熟およびLPS成熟ヒト単球由来DCの転写プロフィールが行われ、この2つの状況でスクリーニングされた合計10,962個の遺伝子のうち225個の差次的に発現する遺伝子が明らかにされている。これらの遺伝子は、主に、ケモカイン(RANTES、ELC、PARK、MDCおよびTARC)およびケモカイン受容体(CCR7)、酵素(胚中心キナーゼ関連プロテインキナーゼなど)、ならびにIFN誘導性タンパク質(リパーゼA、CD52、CD11b、CD23、およびグルコース6ホスファターゼ)からなっていた。しかしながら、DC成熟を誘導する際の効率に関する様々な刺激間の比較が行われたことはない。
【0012】
免疫抑制は、ウイルス感染の一般的転帰である。免疫反応のダウンレギュレーションは、感染した病原体に免疫監視から免れる機会を与え、宿主内で生き残り、必要に応じて複製し伝染する機会を最大限に高める。ウイルス感染によって引き起こされる全身性免疫抑制は、無関係なウイルスおよび/または細菌病原体による二次感染を伴うことが多く、深刻な臨床的問題点である。また、免疫抑制は、この場合も腫瘍が免疫反応を逃れる手段として腫瘍の発症を伴い、排除される確率を低下させることがある。したがって、免疫抑制の誘導に関与する機序を理解することは、よりよい免疫療法の開発への重要なステップである。
【0013】
サイトメガロウイルス(CMV)は、一過性であるが深刻な免疫抑制を誘導することが知られているヒトの3種類のウイルス病原体のうちの1つである。麻疹およびHIVとは異なり、独自の動物モデルが利用できるにもかかわらずCMV誘発性免疫抑制の根底にある機序は不明のところが多いままである。マウスサイトメガロウイルス(MCMV)感染は、ヒトCMV感染のモデルとして広く利用される。ヒトCMV(HCMV)は、新生児、移植患者およびAIDS患者などの免疫無防備状態の宿主で重篤な合併症を引き起こす。CMVは種特異的であるため、HCMVの病原性を研究するための実験動物モデルは存在しない。しかしながら、HCMVとMCMVとの間の構造および生物学の類似性のため、MCMVは、ヒト疾患の独自のモデルを提供し、重要なことに、自然宿主のin vivo感染についての研究を可能にしている。
【0014】
ヒトにおいて、CMV感染は、新生児および免疫抑制者の間の罹患および死亡の原因となっている。しかしながら、免疫適格性宿主では、CMVは、顕在的疾患を引き起こすことなく持続感染を確立することがある。宿主との安定な関係を持続しかつ確立する能力は、CMVの生存に重要であり、侵入した宿主の防御機序にその成功の根拠をなしている。正常な防御機序を覆すためにCMVが用いる戦略は、抗ウイルス反応において重要な役割を果たす細胞遺伝子産物の「ハイジャック」である。
【0015】
MCMVは、MHC-IおよびII分子のダウンレギュレーション、ケモカイン相同体の合成および細胞性MHC-Iのウイルス相同体の産生を含む複数の機序によって免疫系を妨害する能力を持っている。特異的なウイルスORFを欠く変異性ウイルスを使った研究により、T細胞活性の調節およびNK細胞反応の阻害におけるMCMVタンパク質の作用が明らかにされている。また、マウスモデルにおける研究も、特異的な細胞サブセットの役割を明らかにする手助けとなり、単球およびマクロファージがウイルスの蔓延および病原性に重要であることが分かってきた。興味深いことに、最近の研究から、HCMVが単球由来樹状細胞(DC)に感染することが分かった。しかしながら、重要なことに、MCMV感染におけるDCの役割についての報告は一切存在せず、DCは、in vivoにおけるDC感染の生物学的意義の分析を可能にする唯一の系である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国仮出願第60/309,102号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
当技術分野では、特にDC関連免疫反応と関連して、DCを調節するのに有用な方法および組成物を開発することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、様々な刺激に反応し、樹状細胞が、様々な転写プロフィールを産生することにより、例えば微生物刺激に反応した樹状細胞におけるIL-2産生によって様々な免疫反応を開始するという発見に一部基づいている。したがって、本発明は、遺伝子発現プロフィールのライブラリーおよびそれらで作られている微生物刺激に反応した樹状細胞成熟に対応するライブラリーを作成する方法を提供する。さらに、本発明は、リンパ球または免疫反応を活性化するための方法および樹状細胞においてIl-2を産生する、または細胞ベースの治療法のために樹状細胞を調製するための方法を提供する。また、本発明は、樹状細胞成熟に影響を与える薬剤をスクリーニングするための方法および系も提供する。
【0019】
さらに、樹状細胞が免疫抑制性ウイルス感染、例えばサイトメガロウイルス(CMV)またはHIV感染の標的とされることは本発明の発見である。したがって、本発明は、免疫抑制性ウイルス感染、例えばCMVもしくはHIV感染または免疫抑制性ウイルス感染に伴う免疫抑制を治療するための方法を提供する。また、本発明は、免疫抑制性ウイルス感染を治療するのに適している治療剤候補をスクリーニングするための方法も提供する。
【0020】
一実施形態では、本発明は、リンパ球を活性化するための方法を提供する。この方法には、樹状細胞の存在下にリンパ球をIL-2と接触させ、それによってリンパ球を活性化することが含まれる。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、樹状細胞刺激物によって接触した対象において免疫反応を活性化する方法を提供する。この方法には、有効量のIL-2を対象に投与し、刺激物によって刺激された樹状細胞と一緒になって免疫反応を活性化することが含まれる。
【0022】
さらに別の実施形態では、本発明は、樹状細胞においてIL-2産生を誘導する方法を提供する。この方法には、樹状細胞のトール様受容体を活性化する薬剤と樹状細胞を接触させることが含まれる。
【0023】
さらに別の実施形態では、本発明は、細胞ベースの治療法のために樹状細胞を製造する方法を提供する。この方法には、樹状細胞のトール様受容体を活性化する薬剤と樹状細胞を接触させ、樹状細胞のIL-2産生を誘導することが含まれる。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、樹状細胞成熟に影響を与えるための薬剤をスクリーニングする方法を提供する。この方法には、被験薬剤の存在下および非存在下で、微生物刺激および未成熟樹状細胞をインキュベートし、被験薬剤の存在下および非存在下で樹状細胞におけるIL-2発現を検出することが含まれる。被験薬剤によって引き起こされるIL-2発現の量の増加または減少は、樹状細胞成熟に影響を与える薬剤であることを示している。
【0025】
別の実施形態では、本発明は、樹状細胞成熟に影響を与える薬剤の能力をテストするのに有用なアッセイ系を提供する。この系には、被験薬剤の入った容器、微生物刺激、および未成熟樹状細胞が含まれ、樹状細胞のIL-2発現の検出を可能にする。
【0026】
さらに別の実施形態では、本発明は、微生物刺激に対応する樹状細胞成熟のための遺伝子発現プロフィールのライブラリーを作成する方法を提供する。この方法には、未成熟樹状細胞を微生物刺激とインキュベートし、微生物刺激によって発現レベルが変化した樹状細胞中の遺伝子を識別し、微生物刺激の存在下で樹状細胞における発現を変化させる1個または複数の遺伝子が含まれる微生物刺激のための遺伝子発現プロフィールを作成することが含まれる。
【0027】
別の実施形態では、本発明は、対象において免疫抑制性ウイルス感染に伴う免疫抑制を治療する方法を提供する。この方法には、このような治療を必要とする対象に、有効量のIL-2および樹状細胞の活性化因子を投与することが含まれる。
【0028】
さらに別の実施形態では、本発明は、免疫抑制性ウイルス感染を治療する方法を提供する。この方法には、このような治療を必要とする対象に、有効量のIL-2および樹状細胞の活性化因子を投与することが含まれる。
【0029】
さらに別の実施形態では、本発明は、免疫抑制性ウイルス感染を治療するための治療剤候補をスクリーニングする方法を提供する。この方法には、被験薬剤の存在下および非存在下、免疫抑制性ウイルス感染に伴う免疫抑制性ウイルスおよび樹状細胞をインキュベートし、樹状細胞活性化に特異的な活性のレベルを測定することが含まれる。被験薬剤によって引き起こされる樹状細胞における活性レベルの増加は、免疫抑制性ウイルス感染を治療するための治療剤候補であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】発生的同調DCを示す図である。図1aは、DCをDH5α大腸菌と共に感染多重度(MOI)10で1.5時間インキュベートし、示した時点においてCD40、B7.2およびMHCクラスIIの表面発現を測定することにより活性化を調べたことを示している。同調細胞からRNAを抽出した。図1bは、二重実験における遺伝子発現比較の例を示している(0時間目)。図1cは、2つの異なる時点の遺伝子発現比較を示している(0時間目および6時間目)。遺伝子発現レベルは、平均差値(AvgDiff)によって示す。Bにおけるプロットは、重複して存在すると思われた3340個の遺伝子を比較している。各時点の二重直線回帰のR2が0.9以下であることはなかった。Cにおけるプロットは、2つの異なる時点(0および6時間)の遺伝子発現を比較しており、両分析で一貫して存在しないと思われた遺伝子は除外した。比較分析直線回帰のR2は、通常0.7〜0.8であった。
【図2】PCA分析を示す図である。図2aは、PCA法によって得られたPC3係数対PC2係数のプロットを示している(表1参照)。実験aおよびbの結果を示す。図2bは、Xclusterプログラム(Gavin Sherlock、http://genome-www.stanford.edu/〜sherlock/cluster.html)を用いて得られる様々なタイプの遺伝子発現プロフィールを示している。フィルターを使用し、速度的に最高および最低の発現値の中で少なくとも3の発現レベルの差を示した遺伝子について検討した。遺伝子は、先ず自己組織化マップ(SOM)アルゴリズムを用いてクラスターとし、次いで各SOMクラスターに階層的方法を適用した。36個のクラスター数は、クラスター化を様々に試みた後で最も適切として選んだ。これより大きい数にすると、極めて類似した22のプロフィールを含むクラスターが増加し、これより小さい数からは階層的クラスターにおいて良好な相関係数が得られなかった。各グループでは、速度時点(0、4、6、12、18、24、48)を左から右へと示す。各ボックスの左上隅にあるラベルは、クラスターを識別し、右上隅の数は、各クラスターにいくつの遺伝子が存在するかを示している。
【図3】細菌に対するDCの転写反応を示す図である。130個の遺伝子の例を示す。公表データベース中および文献中で入手可能な情報によって推定される最も可能性の高い機能に従い、遺伝子をグループ化する。
【図4】DCによるIL-2発現を示す図である。図4aは、細菌による活性化後のD1細胞におけるIL-2 mRNAレベルを示している。値は、4個の異なるチップ上に分布する4個のプローブから算出された平均差(AvgDiff)および標準偏差である。図4bは、示した時点における細菌刺激後のmBMDCにおいてIL-2発現を示す半定量的PCRを示している。mBMDCからmRNAを得た。二本鎖cDNAをmRNAから転写し、精製して定量した。PCR反応には、各サンプル当たりcDNA40μgを使用した。図4cは、細菌活性化DCおよびマクロファージの上清に存在するIL-2量の定量を示している。IL-2は、示した時点においてELISAにより上清中で測定した。実験を4回繰り返したが、同様の結果であった。
【図5】DC由来のIL-2はT細胞活性化の重要な分子であることを示す図である。図5aは、細菌による刺激後のmBMDCの活性化プロフィールを示している。非刺激のDC(細線)および15時間細菌活性化DC(太線)をFACSにより、示した分子の発現について分析した。図5bは、細菌遭遇後の野性型およびIL-2-/-DCの生存曲線を示している。106個の細菌23活性化DCを6ウエルプレート中にプレートし、様々な時点において残っている生細胞をトリパンブルー排除によって評価した。図5cは、トリチウム化したチミジンの取り込みにより測定したアロ反応性T細胞の増殖反応を示している。段階的数の細菌活性化野性型およびIL-2-/-DCを96ウエルプレート中で2×105個の同種T細胞と共にインキュベートした。バックグラウンドT細胞増殖は、野性型DCと同系Tリンパ球を共培養することにより評価した。増殖は、16時間の[3H]チミジン暴露の72時間後に評価し、2回の平均cpmとして表す。(d、e)アロ反応性T細胞活性化。5×105個のDCを24ウエルプレート中で細菌により刺激し、2×106個のCSFE標識CD4+またはCD8+同種T細胞を培養液に加えた。図5dは、FACS分析により示した時点において細胞周期を進行中の細胞をチェックしたことを示している。図5eは、培養の48時間後、小さな細胞周期停止中のTリンパ球(細線)および大きなT細胞芽球(太線)についてCD69発現のレベルを評価したことを示している。
【図6】DCによるIL-2産生の微生物刺激を示す図である。
【図7】in vitroおよびin vivoにおいてMCMVがDCに感染することを示す図である。図7aは、高度および軽度なMOI感染後のDCにおけるMCMVの複製を示している。細胞をMOI >3pfu/細胞(左のパネル)で感染させ、MEF単層上のプラークアッセイにより感染後の示した時間において全ウイルス(細胞関連および分泌された)力価を測定した。細胞をMOI 0.02pfu/細胞(右のパネル)で感染させ、MEF単層上のプラークアッセイにより感染後の示した時間において全ウイルス力価を測定した。図7bは、MCMV感染をFDG染色により検出し、LacZ発現MCMV組み換えウイルスによる感染の2日後にβガラクトシダーゼを発現するDCを検出したことを示している(塗りつぶしていないヒストグラム)。塗りつぶしたヒストグラムは、模擬感染(mock-infected)動物からのDCのFDG染色に相当する。
【図8】MCMV感染DCが抗原取り込みの障害を示すことを示す図である。様々な成熟段階におけるD1細胞および新鮮なDCによる(未成熟対成熟)、またはMCMV感染後の抗原取り込み(FITC-DX)を示す。図8aは、D1細胞による抗原取り込みを示している。平均蛍光強度(MFI)値は以下の通りである。2日目-MFI値:未成熟62.47±1.36;成熟9.28±2.44;MCMV感染-0.57±9.30;4日目-MFI値:未成熟21.95±1.25;成熟9.06±0.26;MCMV感染2.61±1.22。図8bは、新鮮なDCによる抗原取り込みを示している。LPSまたはMCMV感染後2日目に収集した脾DCのMFI値は以下の通りである。MFI値:対照動物からの未成熟DC187.3±5.9;LPS処理動物からの成熟DC56±1.65; MCMV感染動物からのDC57.67±2.28。
【図9a】MCMV感染が未成熟DI細胞の表現型を変化させることを示す図である。MCMV感染(MOI>3)またはLPS処理後2日目(図9a)におけるMHCおよび共刺激マーカーの発現を示す。対照未成熟D1(塗りつぶしたヒストグラム)、MCMV感染(実線)およびLPS処理D1細胞(破線)を示す。
【図9b】MCMV感染が未成熟DI細胞の表現型を変化させることを示す図である。MCMV感染(MOI>3)またはLPS処理後4日目(図9b)におけるMHCおよび共刺激マーカーの発現を示す。対照未成熟D1(塗りつぶしたヒストグラム)、MCMV感染(実線)およびLPS処理D1細胞(破線)を示す。
【図10】MCMV感染ex vivo由来DC上でMHCおよび共刺激分子がダウンレギュレートされることを示す図である。Flt3L処理マウスから精製されMCMVまたはLPSと共に2〜4日間培養された脾DC(CD11c++)上の関連マーカーの発現を示す。MHC、接着分子および共刺激分子の細胞表面発現が、対照DC(塗りつぶしたヒストグラム)、LPSで処理したDC(破線)またはMCMV(MOI>3)に感染したDC(実線)上に認められる。
【図11a】MCMV感染がin vivoにおいてDC上のDCマーカーの発現をダウンレギュレートすることを示す図である。図11aは、脾細胞のCD11cおよびMHC-II発現がDCの場合に富化したことを勾配遠心分離によって示している。対照マウスからのDCをMCMVに感染したマウスからのDCと2または4日間比較した。vDC=ウイルスで変化したDC。
【図11b】処理後2日目における模擬感染(塗りつぶしたヒストグラム)、LPS処理(破線)、またはMCMV感染マウス(実線)からの脾DC上のMHC-I/II、CD40、CD54、CD80およびCD86の発現を示す。
【図11c】処理後4日目における模擬感染(塗りつぶしたヒストグラム)、LPS処理(破線)、またはMCMV感染マウス(実線)からの脾DC上のMHC-I/II、CD40、CD54、CD80およびCD86の発現を示す。
【図12】MCMV感染DCはLPS刺激後の表現型成熟に不応性(refractile)であることを示す図である。MCMVを4日間感染させた後にLPS(10μ/ml、48時間)で処理したD1細胞上のCD40およびCD86の細胞表面発現(細実線)を示す。比較のため、MCMV感染非処理D1細胞(太実線)、未成熟D1細胞(塗りつぶしたヒストグラム)およびLPS活性化非感染D1細胞(破線)上のこれらのマーカーの発現を示す。
【図13】MCMV感染がDCによるIL-12およびIL-2の分泌を変化させることを示す図である。図13aは、D1細胞のLPs処理またはMCMV感染後に分泌されるIL-12のレベルを示している。図13bは、対照またはMCMV感染マウスから収集し(感染後1、2または4日目)LPSの存在下18時間培養した脾DCによって分泌されるIL-12のレベルを示している。図13cは、様々な時間LPSで処理したMCMV感染D1細胞によって分泌されるIL-2を示している。比較のため、対照および非感染LPS処理D1によって分泌されるIL-2の量を示す。図13dは、対照またはMCMV感染マウスから収集し(感染後1または2日目)LPSの存在下6または18時間培養した脾DCによって分泌されるIL-2のレベルを示している。
【図14】DCのMCMV感染がDCのアロ刺激能を損なうことを示す図である。MCMVに2日間(図14a)または4日間(図14b)感染したD1細胞のアロ刺激能を、MCMVに4日間(図14c)感染したマウスの脾臓から精製したDCのアロ刺激能と合わせて示す。D1細胞またはLPS(10μ/ml、48時間)により活性化された精製脾DCを対照として用いた。D1(H2b、I-Ab)実験では、BALB/c(H2d、I-Ad)マウスからの脾細胞を同種レスポンダーとして用い、C57BL/6マウスからの脾細胞を同系対照として用いた。逆に、刺激因子がBALB/cマウスから精製されたDCである実験では、C57BL/6マウスからの脾細胞を同種対照として用い、BALB/cマウスからの脾細胞を同系対照として用いた。
【図15a】LPSおよびTNF-α活性化DCにおいて差次的に発現される知られている遺伝子を非刺激細胞と対比して示す図である。遺伝子を4グループ(誘導された遺伝子、抑制された遺伝子、アップレギュレートされた遺伝子、ダウンレギュレートされた遺伝子)に分け、GenBank受け入れ番号によって示した。アップレギュレートされた遺伝子およびダウンレギュレートされた遺伝子については倍率変化値を示す。抑制された遺伝子および誘導された遺伝子については、それぞれ刺激前および刺激後の強度値を示す。白いボックス中の遺伝子は、示した条件下で変調されない。
【図15b】図15aの続き。
【図15c】図15aの続き。
【図15d】図15aの続き。
【図16】LPSはDCの最終的増殖停止を誘導するがTNF-αは誘導しないことを示す図である。LPSまたはTNF-αにより示した時間D1細胞を刺激した。示した時点における生細胞数を接種細胞に占める割合として表す。LPS、LPS刺激細胞;TNF-α、TNF-α刺激細胞;NS、非刺激細胞。5つの独立した実験の標準偏差を報告する。
【図17】LPSおよびTNF-α処理後のサイトカイン産生を示す図である。非刺激、TNF-αおよびLPS処理DCの上清を刺激18時間後に集め、ELISAによりIL-6、IL-12p40およびIL-1βの存在を調べた。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、一般に樹状細胞およびそれらの免疫反応との関連性に関する。微生物刺激が樹状細胞において異なる遺伝子発現プロフィールを誘導し、様々な免疫反応を開始させることは本発明の発見である。したがって、本発明は、樹状細胞遺伝子発現プロフィールライブラリーおよびおよびそれらで作られている微生物刺激に反応したライブラリーを作成する方法を提供する。さらに、本発明は、樹状細胞においてIL-2を誘導し、IL-2を用い、樹状細胞と関連してリンパ球および免疫反応を活性化する方法を提供する。また、本発明は、樹状細胞成熟に影響を与える能力を持つ薬剤をスクリーニングするのに有用な方法および系を提供する。
【0032】
また、樹状細胞が免疫抑制性ウイルス感染、例えばCMVまたはHIV感染の標的とされることも本発明の発見である。したがって、本発明は、免疫抑制性ウイルス感染、および免疫抑制性ウイルス感染に伴う免疫抑制を治療するための方法を提供する。また、本発明は、免疫抑制性ウイルス感染を治療するのに適している治療剤候補をスクリーニングするための方法も提供する。また、本発明は、樹状細胞に対する腫瘍の免疫抑制効果についてスクリーニングするための方法も提供し、そのような腫瘍を治療するのに適している治療剤候補をスクリーニングするための方法も提供する。
【0033】
本発明によれば、微生物刺激に暴露された樹状細胞について遺伝子発現プロフィールライブラリーを作成するための方法には、未成熟樹状細胞を微生物刺激、例えば樹状細胞成熟化刺激物とインキュベートし、微生物刺激に反応して発現レベルが変化した、例えば遺伝子発現レベルの本質的増加または減少のあった樹状細胞中の遺伝子を識別し、例えば遺伝子および刺激物に対応する変化のレベルを示すコンピュータ可読の媒体で遺伝子発現プロフィールを作成することが含まれる。
【0034】
一実施形態では、微生物刺激への暴露によって樹状細胞で差次的に発現される遺伝子を識別することによって遺伝子発現プロフィールを作成する。本発明の微生物刺激は、樹状細胞成熟、例えば樹状細胞のIL-2産生を引き起こすいかなる刺激であってもよい。例えば、微生物刺激は、微生物または1つもしくは複数のその産物もしくは成分であってもよい。一実施形態では、本発明の微生物刺激には、微生物、例えば、細菌、ウイルス、真菌生物体およびプリオンが含まれる。別の実施形態では、本発明の微生物刺激には、グラム陽性菌、リポテイコ酸(LTA、グラム陽性菌の成分)、グラム陰性菌、LPS(グラム陰性菌の成分)、メチル化されていないCpGモチーフを含むオリゴヌクレオチド、ザイモサン、酵母、例えばサッカロミセス・セレビシエ、および抗CD40抗体などのT細胞ヘルプによって媒介される刺激物が含まれる。
【0035】
遺伝子発現のレベルは、当業者が利用できるどのような適切な手段を用いても測定することができる。例えば、11000個の遺伝子および発現配列タグ(EST)を提示するマイクロアレイを用いて遺伝子転写のレベルを検出することにより、遺伝子発現のレベルを測定することができる。遺伝子発現のレベルを分析する一方法は、主成分分析(PCA)法を用いるもので、複雑なデータの次元を軽減することが可能である。
【0036】
差次的に発現した遺伝子は、当業者に知られているどのような手段を用いても識別することができる。例えば、自己組織化マップ(SOM)に基づき発現パターンの類似性に従って遺伝子をグループ化する最初の遺伝子クラスター化アルゴリズムを用いることができる。平均差に基づき発現の変化が所定のレベルを下回る場合には、遺伝子またはESTをプロフィールから除外する。また、第2の遺伝子クラスター化法、例えば、階層的クラスター化を用い、各SOMをさらに分析することができる。
【0037】
本発明によれば、樹状細胞遺伝子発現プロフィールの1つには、微生物刺激に反応したIL-2産生が含まれる。したがって、本発明の一態様は、IL-2を用いてリンパ球または免疫反応を活性化するための方法を提供する。
【0038】
一実施形態では、リンパ球を活性化するための方法には、樹状細胞の存在下にリンパ球をIL-2と接触させることが含まれる。本発明に従って活性化されるリンパ球は、免疫反応と関係のあるどのような細胞であってもよく、例えば、NK細胞、NKT細胞、B細胞およびT細胞を含むがそれらに限定されない、免疫系のエフェクター細胞であってもよい。この方法で使用する樹状細胞は、in vivoの樹状細胞またはin vitroで培養された樹状細胞であってもよい。通常、本発明の樹状細胞は、成熟または未成熟樹状細胞のどちらかであるかそれらの混合物であってもよい。一実施形態では、樹状細胞には、D1細胞、ランゲルハンス細胞、CD8α陽性細胞、CD8α陰性細胞、およびCD11c陽性細胞が含まれる。別の実施形態では、樹状細胞は、対象、例えば活性化すべきリンパ球を含むヒトなどの哺乳動物に対して内因性である。
【0039】
本発明で使用するIL-2は、投与するあるいは活性化すべきリンパ球に接触させてIL-2機能を提供するいかなる薬剤であってもよい。例えば、本発明で使用するIL-2は、完全長IL-2、IL-2の機能的等価体、または活性化すべきリンパ球を含む対象において所定の方法でIL-2産生を誘導する薬剤であってもよい。一般に、本発明で使用するIL-2は、活性体であるか、リンパ球への暴露で活性化することができる。一実施形態では、IL-2は、活性化すべき樹状細胞またはリンパ球に対して外因性である。
【0040】
本発明の別の実施形態は、樹状細胞刺激物と接触した対象または樹状細胞刺激物に暴露された対象において免疫反応を活性化するための方法を提供する。この方法には、有効量のIL-2を対象に投与することが含まれ、樹状細胞刺激物によって刺激された樹状細胞と組み合わせて免疫反応を活性化する。樹状細胞刺激物は、樹状細胞を活性化し、または樹状細胞の成熟を誘導するいかなる刺激であってもよい。一実施形態では、樹状細胞刺激物は、樹状細胞におけるIL-2産生を誘導する。別の実施形態では、樹状細胞刺激物は、微生物刺激である。
【0041】
本発明により提供される方法は、樹状細胞に関連するどの免疫反応を活性化するのにも有用である。一実施形態では、活性化される免疫反応は、先天性または適応性免疫反応である。別の実施形態では、活性化すべき免疫反応には、ナイーブT細胞を初回抗原刺激することおよびNK、BまたはT細胞反応の活性化が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の別の態様によれば、樹状細胞におけるIL-2産生は、樹状細胞のトール様受容体(TLR)の活性化または樹状細胞に対するT細胞ヘルプ媒介性刺激と関連している。したがって、本発明は、樹状細胞においてIL-2産生を誘導するための方法であって、樹状細胞中の1個または複数のTLRを活性化するまたはT細胞ヘルプを介して樹状細胞を刺激する薬剤と樹状細胞を接触させることによる方法を提供する。このような薬剤は、微生物刺激を含むが、それに限定されないすべての知られているまたは後に発見した薬剤であってもよい。一実施形態では、このような薬剤にいかなる炎症性サイトカインも含まれない。
【0043】
薬剤によって活性化されるTLRは、TLR2、TLR4、およびTLR9を含むがそれらに限定されない、樹状細胞のいずれのTLRであってもよい。このような方法によって得られる樹状細胞は、in vivoあるいはin vitroにおいていかなる目的にも使用することができる。例えば、活性化TLRを含む樹状細胞は、細胞ベースの治療法、例えば、悪性増殖または感染性疾患の治療処置のために免疫反応を誘導することのために用いることができる。
【0044】
本発明の別の態様によれば、本発明は、樹状細胞活性化または成熟に影響を与える能力を持つ薬剤をスクリーニングするのに有用な方法を提供する。この方法には、被験薬剤の存在下および非存在下で微生物刺激および未成熟樹状細胞をインキュベートし、被験薬剤の存在下および非存在下で樹状細胞活性化または成熟に対して特異的な1つまたは複数の活性を検出することが含まれる。被験薬剤によって引き起こされる樹状細胞活性化または成熟に対して特異的な活性の量における増加または減少は、樹状細胞活性化または成熟に影響を与える能力を持つ薬剤であることを示している。
【0045】
本発明のスクリーニング方法で使用する被験薬剤は、治療用途についてテストされるいかなる薬剤であってもよい。一実施形態では、被験薬剤は、化合物、小分子、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、およびそれらの誘導体である。
【0046】
樹状細胞活性化または成熟に対して特異的な活性には、樹状細胞活性化または成熟と具体的に関連するいずれの活性も含まれる。例えば、いくつかの活性は、微生物刺激に遭遇することにより樹状細胞と具体的に関連し、それらの活性には、抗原取り込み、サイトカインの産生、ナイーブT細胞の初回抗原刺激などのリンパ球の活性化、およびMHC-I、MHC-II、CD40、CD54、CD80、およびCD86などの細胞表面タンパク質の発現が含まれるが、これらに限定されるものではない。一実施形態では、IL-2発現を樹状細胞活性化に対して特異的な活性の1つとして使用し、被験薬剤の存在下および非存在下に検出する。
【0047】
また、本発明は、樹状細胞成熟に影響を与える薬剤の能力をテストするのに有用なアッセイ系を提供する。この系には、被験薬剤の入った容器、微生物刺激、および未成熟樹状細胞が含まれる。この系には、1個または複数の容器が含まれ、直接または他の系と共に使用して被験薬剤の存在下および非存在下に樹状細胞のIL-2発現を検出し、および/またはコンピュータ可読媒体でデータを集めることができる。一実施形態では、この系は、ハイスループット系である。
【0048】
本発明の別の態様によれば、樹状細胞は、免疫抑制性ウイルス感染、例えばサイトメガロウイルス(CMV)またはHIV感染の標的とされる。したがって、本発明の別の特徴は、免疫抑制性ウイルス感染、例えばCMVまたはHIV感染を治療するための治療剤候補をスクリーニングするために樹状細胞を用いる方法を提供する。一実施形態では、免疫抑制性ウイルス、例えばCMVまたはHIVおよび樹状細胞、例えばD1などの未成熟樹状細胞を被験薬剤の存在下および非存在下にインキュベートし、樹状細胞活性化に特異的な活性のレベルを測定する。被験薬剤によって引き起こされる活性レベルの増加は、免疫抑制性ウイルス感染、例えばCMVまたはHIV感染を治療するための治療剤候補であることを示している。
【0049】
樹状細胞活性化に対して特異的な活性には、微生物刺激と遭遇したときの樹状細胞の反応に具体的に関係するいかなる活性も含まれる。例えば、これらの活性には、抗原取り込み、サイトカインの産生、ナイーブT細胞の初回抗原刺激などのリンパ球の活性化、微生物刺激に対する反応、およびMHC-I、MHC-II、CD40、CD54、CD80、およびCD86などの細胞表面タンパク質の発現が含まれるが、これらに限定されるものではない。一実施形態では、IL-2発現を樹状細胞活性化に対して特異的な活性の1つとして使用し、被験薬剤の存在下および非存在下に検出する。
【0050】
本発明の別の特徴は、対象、例えばヒトなどの哺乳動物において免疫抑制性ウイルス感染、例えばCMVまたはHIV感染または免疫抑制性ウイルス感染に伴う免疫抑制を治療するための方法であって、有効量のIL-2および樹状細胞の活性化因子を対象に投与することによる方法を提供する。樹状細胞の活性化因子は、樹状細胞成熟またはIL-2の産生を誘導するどのような薬剤であってもよい。例えば、樹状細胞の活性化因子は、樹状細胞中の1個または複数のTLRを活性化する薬剤または樹状細胞を刺激する際に抗CD40抗体によるCD40活性化などのT細胞ヘルプを模倣する薬剤であってもよい。
【0051】
治療上の処置に有用な本発明の薬剤は、単独で、適切な薬剤坦体を含む組成物で、または他の治療剤と組み合わせて投与することができる。投与すべき薬剤の有効量は、ケースバイケースで決定することができる。通常考慮すべき要素には、年齢、体重、状態の段階、他の疾患状態、治療期間、および初期治療に対する反応が含まれる。
【0052】
通常、薬剤は、注射用として、溶液あるいは懸濁液として調製する。しかしながら、注射の前に溶液、懸濁液、液体媒体に適している固体を調製することもできる。また、当技術分野で知られている方法に従い、腸溶性錠剤またはゲルカプセル中に薬剤を製剤化することもできる。
【0053】
本発明の薬剤は、治療されている疾患状態または傷害によって決められる医学的に許容可能ないずれの方法によっても投与することができる。可能な投与経路には、注射、血管内、静脈内、硬膜内などの非経口経路により、ならびに経口、経鼻、眼、直腸、局所、または肺、例えば吸入による経路が含まれる。また、組織表面に、例えば、手術中に薬剤を直接塗布することもできる。また、本発明には、デポ注射または侵食性埋込錠のような手段による徐放投与も具体的に含まれる。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は、例示することを意図しており、いかなる方法、形、または形態によっても明示的もしくは自動的に本発明を制限することは意図していない。これらの実施例は、使用される可能性のある実施例を代表しているが、当業者に知られている他の手順、方法、または技法を別法として使用することができる。
【0055】
実施例1
成熟化刺激物による樹状細胞遺伝子発現
樹状細胞(DC)は、一次T細胞反応の強力な活性化因子である。DCの独特な初回抗原刺激能力は、成熟化刺激との遭遇で獲得される。グラム細菌への暴露によって誘導される成熟により差次的に発現された遺伝子を識別するため、11000個の遺伝子および発現配列タグ(EST)を提示するマイクロアレイを用い、DC遺伝子発現の速度論的研究を行った。約3000個の差次的発現した転写物が識別された。予想外なことに、IL-2産生を引き起こす機能的インターロイキン(IL)-2転写物は、細菌遭遇後の早い時点で一過性にアップレギュレートされた。対照的に、マクロファージは、細菌刺激によってIL-2を産生しなかった。我々は、IL-2が、DCによる独特なT細胞刺激能力を付与するもう1つの重要な分子であることを明らかにした。
【0056】
材料および方法
DC、マクロファージおよび培地。10%熱不活化ウシ胎仔血清(GIBCO)、100 IUペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、2mM L-グルタミン(すべてSigmaより)、および50μM 2-メルカプトエタノールを含有するIMDM(Sigma、St. Louis、MO)(完全IMDM)中、R1培地からの30%上清(GM-CSFを形質移入されたNIH3T3線維芽細胞からの上清)と共にD1細胞を培養した。マクロファージおよびDCは、4匹の異なるマウスから集めた同じ骨髄細胞から取得し、2個の別々の培養液に分割した。30%R1培地における14日間の骨髄培養後にmBMDCが得られた。M-CSF存在下の14日間の骨髄培養後にマクロファージが得られた。野性型およびDCは、同じ同腹仔のマウスから得た。低いB7.2発現およびCD40の欠如によって判断し、mBMDCが未成熟であった場合にのみ細菌活性化に使用した。部分的な自然活性化を示す細胞は捨てた。
【0057】
細菌による感染。LB培地中で大腸菌DH5αを一夜培養した。一夜培養液100μlを新鮮なLB10mlに接種し、37℃でさらに培養した。細菌をMO1 10で細胞培養液に加えた。共培養液を1.5時間インキュベートした。DCまたはマクロファージ培養液を洗浄し、ゲンタマイシンおよびテトラサイクリンを、それぞれ50μg/mlおよび30μg/mlの最終濃度で添加した。
【0058】
試料調製およびアレイハイブリダイゼーション。アンチセンスcRNAは、Affymetrix(Santa Clara、CA) の推奨事項に従って調製した。手短に言うと、Trizol法を用いて凍結ペレットから全RNAを抽出した。Qiagen(Chatsworth、CA)製のOligotexキットを用い、mRNAを精製した。5'T7RNAポリメラーゼプロモーター配列で修飾したオリゴdTプライマーおよびcDNA合成用Superscript Choice System(Life Technologies、Gaithesbourg、MD)を用い、二本鎖cDNAを逆転写した。ENZOキット(Affymetrix)により、二本鎖cDNA 1μgをcRNAに転写した。
【0059】
アフィニティーカラム(RNeasy;Qiagen)でcRNAを精製し、次いで、40mMトリス酢酸塩pH8.1、100mM酢酸カリウムおよび30mM酢酸マグネシウム中94℃で35分間インキュベートすることにより50〜200塩基の平均サイズに断片化した。試料を、最終濃度0.05μmlでハイブリダイゼーション溶液(1M NaCl、10mMトリスpH7.6、0.005%トリトンX-100、0.1mg/mlニシン精子DNA、それぞれ1.5、5、25、100pMの濃度のBioB-、BioC-、BioD-、cre対照cRNA)に希釈し、94℃で5分間加熱した。
【0060】
試料の分析は、約11000個のマウス遺伝子およびESTを集合的に提示する2個の個別チップ(AおよびBと呼ばれる)からなるAffymetrix Mu1 lk GeneChip(登録商標)アレイに断片化されたcRNAをハイブリダイズすることにより行った。200μl/チップの最終容積でハイブリダイゼーションカートリッジ内に試料を置くことにより、プローブアレイハイブリダイゼーションを記載32のように行った。ハイブリダイゼーションは、45℃で16時間、回転させて行った。
【0061】
ハイブリダイゼーション後、6×SSPE-T(0.9M NaCl、60mM NaH2PO4、6mM EDTA、pH7.6に調整した0.005%トリトンX-100)および0.5×SSPE-Tでチップを洗い、2μg/mlストレプトアビジン-フィコエリトリン(Molecular Probes、Eugene、OR)および1mg/mlアセチル化BSA(Sigma)とのインキュベーションにより染色した。共焦点スキャナ(Affymetrix)を用い、7.5μmの解像度でアレイを読み取り、MicroArray Suite 4.0 Gene Expression分析プログラム(Affymetrix)により分析した。
【0062】
PCA分析。手短に言うと、我々はまず、9930の横列が遺伝子およびESTを表し(データ観察)、14の縦列が二つ組で7つの異なる時点を表す(独立変数)マトリックスという形で我々のデータセットを書き直した。マトリックスのaij番目の要素は、j番目の実験条件におけるi番目の遺伝子についての遺伝子発現レベル14を表す平均差とした。この方法は、マトリックスのユニタリー変換(回転)で進行し、2個の異なるマトリックス、すなわち固有ベクトルマトリックスおよび固有値マトリックスを返す。固有ベクトルマトリックスの縦列はデータセットの主成分(PC)であり、横列は、二つ組の時点である。固有値は、各成分が述べる全分散の割合を表している。PC1、PC2、PC3およびPC4は一緒になって、全分散の98%以上を記載することができる。
【0063】
PCRプライマーおよびIL-2 ELISA。使用したPVRプライマー対(5'から3')の配列は以下の通りである。
IL-2、TCCTCACAGTGACCTCAAGTCC(配列番号1)および
TGACAGAAGGCTATCCATCTCC(配列番号2);
β-アクチン、CATCGTGGGCCGCTCTAGGCAC(配列番号3)および
CCGGCCAGCCAAGTCCAGACGC(配列番号4)。
IL-2 ELISAは、DuoSetキット(R and D、Minneapolis、MN)を用い、製造業者の推奨事項に従って行った。
【0064】
MLR。5×105個の野性型およびIL-2-'-DCを細菌により活性化し、4〜7時間後に2×106個のCFSE標識T細胞と共にインキュベートした。48または72時間後に、FACS分析によってT細胞分裂を評価した。あるいは、段階的数の細菌活性化DCを2×105個のT細胞と共にインキュベートし、72時間後、[3H]チミジン取り込みにより増殖を調べた。BALB/cまたはC57BL/6マウスリンパ節から、マクロファージ、DC、B細胞およびCD4またはCD8 T細胞のネガティブ選択によりCD4+およびCD8+リンパ球を精製した(純度99%)。これらの細胞集団は、Mac1、Cdl 1c、B220およびCD4またはCD8抗体(すべてPharmingenより)とのプレインキュベーション後にMiniMACSカラム(Miltenyi Biotec、GmbH)を用いて除去した。
【0065】
マウス。無菌のC57BL/6およびBALB/cマウスは、Harlan-Italyから入手した。C57BL/6 IL-2-/-動物は無菌条件に保った。すべての実験は、関連法および施設のガイドラインを遵守して行った。
【0066】
発生的同調DCの転写分析
情報の希薄化および混入を避けるため、転写分析には均一な集団が必要である。柔軟性のため、mBMDCは極めて不均一であり、成熟DCおよび中間期DCを混入させずに均一な未成熟細胞を得ることは不可能である。我々は、in vivoにおけるDC成熟プロセスを模倣し、細菌、細菌細胞産物または炎症性サイトカインに反応して完全に成熟させることができる均一かつ未成熟な増殖因子依存性(顆粒球単球コロニー刺激因子)マウスDCの増殖を可能にするDC培養系について報告している。この培養系を用いて得られる十分に特徴が明らかにされたDC系であるD1を用いた研究は、新鮮な脾DCまたはBMDCに見られるのと同様な成熟を示す。
【0067】
本研究では、D1細胞をグラム細菌大腸菌で活性化し、11000個の遺伝子および発現配列タグ(EST)用のプローブを提示する高密度オリゴヌクレオチドアレイを用い、未成熟細胞および4、6、12、18、24、48時間刺激された細胞について転写分析を行った。刺激後の各時点において、主要な組織適合性複合体(MHC)クラスII、B7.2およびCD40の発現レベルを分析することにより、D1細胞の発生的同調の状態について表現型的に特徴を明らかにした(図1)。ビオチン標識cRNAを作成し、アレイ上でハイブリダイズさせた。アッセイの再現性を保証するため、全実験は二重に行い、遺伝子発現プロフィールを比較した(図1b)。
【0068】
観察された変動は遺伝子の5%を超えることはなく、検出下限に近い発現レベル(1.5pM)の転写物には影響した。アレイ上に提示された遺伝子およびESTの約30%は、試験の各時点で存在すると考えられた。全速度論的アッセイ中、常に検出限界以下のままであった遺伝子を除外し、我々は、少なくとも1時点で発現された9930個の遺伝子を得た。
【0069】
主成分分析
実験情報を失う(分散)ことなく我々の全データセットを近似的に可視化するため、我々はまず、複雑なデータの次元を軽減することが可能である主成分分析(PCA)法を適用した。したがって、我々は、対応するトランスクリプトームを最もよく説明する速度点(kinetic point)の特徴について全体的に説明することができた(表1)。
【0070】
【表1】

【0071】
我々は、最初の4個の主成分(PC)が全分散の98%以上を全体的に説明していることから、それらのみを分析した。PC1は、全分散の93%以上を説明することができるが、単に時間非依存の平均発現の尺度であるため、速度論的情報を一切含んでいなかった。逆に、PC2およびPC3は、2個の時間依存性パラメータであった。PC2は、経時的な発現の傾向を表し、遺伝子ダウンレギュレーションの尺度を与え、PC3は、この傾向の形を表し、発現曲線の凹面を示した。PC2対PC3係数を図2aにプロットする。
【0072】
定性的に、この分析は、活性化後に遺伝子発現の一般的組織化が直ちに影響を受けることを示している。次いで、細胞は、未成熟細胞と類似しているがそれとは明らかに区別される遺伝子発現へと徐々に戻る。したがって、未成熟細胞あるいは最終分化細胞のどちらかで持続的に発現される遺伝子の他に、活性化中に一過性に変調される遺伝子の顕著な波が存在し、これら2つのステージを特徴付けている。DC成熟分化のプロセスは活性化の24時間後に安定化した。PC4、(表1)は、2個の独立した複製物を区別することができ、1%未満の全分散に寄与する体系的実験誤差の存在を示した。誤差の系統的性質および相関プロットにおける直線回帰のR2を考えると(図1)、複製物を平均し、平均値について以下の分析を行うことは正しかった。
【0073】
遺伝子クラスター化
得られた9930個の遺伝子およびESTのコレクション中で差次的に発現した遺伝子を識別するため、我々はまず、自己組織化マップ(SOM)に基づき発現パターンの類似性に従って遺伝子をグループ化するクラスター化アルゴリズムを適用した。二組の平均差(AvgDiff、発現レベルを示すパラメータ)を利用してデータにフィルターをかけ、最高速度値と最低速度値の変化が3倍以下である遺伝子またはESTをすべて除外した。このフィルターにより、クラスター化すべき配列は2951に減少し、その約半数はESTであった(図2b)。
【0074】
次いで、より小さなプロフィールの差をさらに検討し、すべての配列が正確にグループ化されていることを検証するため、第2のクラスター化法(階層的クラスター化)を各SOMクラスターに適用した。この手法を用い、我々は、各階層クラスターが0.79以上の相関係数を有する遺伝子の良好なクラスター化を得た(図2b)。図2の詳細は、補助情報としてwww.btbs.unimib.it/DCgenesウェブサイトに見いだすことができる。様々なデータベース(GenBank、SwissProt、Kegg、およびGene Ontology)へ自動的に問い合わせ、遺伝子を分類して機能的ファミリーに分けた(図3)。予想通り、大部分の差次的発現遺伝子は転写因子およびシグナル伝達分子をコードした。それらは様々なクラスターに分布し、一部は様々な時点で一過性に誘導され、一部は安定に誘導されるかダウンレギュレートされた。
【0075】
細菌誘導によって影響を受ける遺伝子の例を図3に示す。この分析の妥当性を制御するため、我々は、様々なクラスター内で、DC活性化にとって既知のマーカーが記載の調節に従っていたか否かをチェックした。例えば、腫瘍壊死因子(TNF)α(クラスター26)、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-1α(クラスター23)、MIP-1β(クラスター27)、MIP-2(クラスター28)のような炎症性産物は、他のDC系で以前に観察されたように、速度論的アッセイ中に変調された。これらは、早い時点で誘導のピークを示し、速度論的アッセイの終了に向けて徐々にダウンレギュレートされ、DCの炎症活性は、主に活性化後の早い時期に、すなわちDCが炎症性部位を残す以前に作られていることを示唆している(図3)。
【0076】
さらに、活性化中にIL-12p35が一過性に誘導され(クラスター32、図2、図3)。発現のピークは4時間目であった。IL-12p35の一時的発現は、LPS活性化hMDCにおいても報告されているが、速度は遅い。IL-12p40 mRNA(クラスター17)は、細菌遭遇後の早い時点で強力にアップレギュレートされ、後の時点でダウンレギュレートされた(図2および図3)。細菌による活性化は、DC成熟および生存を誘導する。細菌遭遇後にアップレギュレートされる抗アポトーシス遺伝子は、マウスアポトーシス阻害タンパク質(MIAP)-1(クラスター17)、MIAP-2(クラスター11)、bcl-x(クラスター22)、TNF受容体関連因子(TRAF)1(クラスター23)およびTRAF2(クラスター29)であった。
【0077】
逆に、bcl-2 mRNAは、細菌刺激から4時間後にはすでにダウンレギュレートされ(クラスター0)、成熟DCの生存を維持することに関与していないことを示した(図3)。アクチン再構築下流特異的シグナルに関与するタンパク質であるVavファミリーおよびWASpのメンバーの発現は、成熟中に調節された(図3)。
【0078】
DCによるIL-2産生の誘導
我々は、クラスター32が、T細胞増殖因子IL-2をコードする転写物を含むことを観察した。細菌遭遇は、活性化後の早い時点(4〜6時間)でD1細胞における一過性のIL-2 mRNAアップレギュレーションを誘導した(図4a)。したがって、我々は、この分子がDCによって産生される重要な共刺激分子に相当するという仮説を検証した。
【0079】
IL-2発現は、D1細胞と類似した発現速度を示す新鮮なmBMDCによる半定量的PCRによりその妥当性を検査した。タンパク質分泌は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により測定した。上清中のIL-2の蓄積は、活性化後4時間から8時間まで、さらに14時間から18時間まで観察した(図4b)。
【0080】
細菌遭遇後のIL-2産生がDC特異的現象であるか否かを調べるため、我々は、骨髄由来マクロファージについて同一の分析を行った。細菌による活性化後、同様の時点で上清を集め、IL-2を測定した。図4bに示すように、マクロファージによるIL-2産生は一切観察されず、細菌活性化後は、DCにおいてのみIL-2が特異的に誘導されることを示している。
【0081】
DC由来IL-2はT細胞活性化を媒介する
初期の細菌で初回抗原刺激されたDCにより産生されるIL-2のT細胞活性化における役割は、一次混合リンパ球反応(MLR)アッセイにおいてアロ反応性CD4+およびCD8+T細胞を刺激するIL-2-/-および野性型DCの能力を分析することにより検討した。mBMDCは、野性型およびIL-2-'-マウス20から入手し、感染多重度10で細菌により活性化した(図1)。野性型およびIL-2-/-DCを細菌刺激によって同様に活性化し(図5a)、それらは生存度の差を全く示さなかった(図5b)。
【0082】
初期の細菌で初回抗原刺激されたDC(活性化後4〜7時間)にCD4+またはCD8+同種T細胞を加え、3日間の共培養後にチミジン取り込みによってDNA合成を調べた。図5cに示すように、IL-2-'-DCのT細胞増殖を誘導する能力は極めて損なわれた。さらにT細胞分裂をFACS分析で直接検討した。細胞色素カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識されたCD4+またはCD8+同種T細胞を、初期の細菌活性化野性型およびIL2-/-DCに加えた。このMLRアッセイでは、前の実験で識別された、最大のT細胞増殖活性を誘導することができる数のmBMDCを用いた。IL-2-/-DC培養液では、細胞周期を進行中のTリンパ球はほとんど観察されなかった(図5d)。これは、DC機能の非特異的欠如によるものではなく、48時間の培養後に初期活性化マーカーCD69を発現する芽細胞の数の増加によって判断されるように、IL2-/-DCがT細胞を活性化することができるためである(図5e)。DCの非存在下で培養されたT細胞ではCD69のアップレギュレーションは一切観察されなかった。
【0083】
考察
PCA法を用いて全データセットを可視化した。このようなタイプの研究では、PCAは、細胞活性化のプロセスを記述し、結果的に細胞分化のプロセスと区別することを可能にする。活性化は可逆的現象であり、所与の刺激物への暴露によって細胞は過渡的な機能的および表現型的改変を受け、次いで元の状態に戻る。これに反して、分化事象は、新たな機能的状態に向かう進行を誘導する不可逆的プロセスである。遺伝子発現プロフィールは、細胞表現型および機能の主要な決定要因であるため、速度論的研究において細胞遺伝子発現パターンに応用されるPCAにより、刺激後の同一細胞内における様々な状態の類似性を可視化することが可能である。
【0084】
DCの場合、PCAによって可視化されるように、細胞は分化を受けるが、それは遺伝子発現プロフィールが早い時点で活性化と呼応した著しい再プログラミングを示すが、その後、新たな別の定常状態に進行するためである。PCAが示すように、DC分化のプロセスは極めて早い。細菌遭遇後24時間のうちにDCは、未成熟細胞から成熟細胞へと進むのに必要なすべての転写修正を経験する。
【0085】
予想通り、細菌による活性化は、細胞骨格再配列、抗原プロセシング、遊走およびアポトーシスの制御、および炎症反応の調節に関与する多くの遺伝子の変調を誘導した。特に、アクチンフィラメントの動的性質を変調する多くの因子が成熟の間差次的に発現された。これらの分子は、VASPファミリーのタンパク質などのアクチンフィラメントを細胞表面にカップリングさせることに関与するタンパク質、もしくはファシン(fascin)などのアクチンフィラメントの架橋に関与するタンパク質、またはそれらの切断に関与するタンパク質、例えばゲルゾリンであった22。さらに、細胞伝播、細胞膜の波打ち現象およびF-アクチン23の広範な再組織化の結果としての膜状仮足の形成を含む典型的なRac-1およびRhoG様細胞骨格変化を誘導するVavタンパク質も、転写レベルで調節された。
【0086】
D1細胞では、中枢神経系の外部で発現される転写物であるミエリンと重なる転写物の構成的だが変調された発現が観察された(クラスター23)。胸腺DCが組織特異抗原を発現し自己反応性T細胞をネガティブ選択することはよく知られている。同様に、隔絶抗原の末梢性DC発現は、末梢性寛容を維持するための機序かもしれない。
【0087】
本研究の最も思いがけない知見は、DCが、厳重に調節されている時間枠でIL-2を産生することであった。すなわち、細菌のアジュバント特性は、DCにおいて共刺激表面タンパク質のアップレギュレーションおよび抗原を提示する際の効率の最大化を誘導することばかりでなく、IL-2などの共刺激分子の産生を誘導することによっても詳細に説明される。このことは、細菌活性化してもマクロファージはIL-2を産生できないことを我々が見いだしたことからも、DCの独特な特徴と思われる。
【0088】
細菌遭遇後のDCによるIL-2産生には2つの波が観察された。最初の波は細菌取り込み後4時間から8時間にあり、第2の波は、活性化後14時間から18時間にある。このタイミングは、細胞表面におけるMHCクラスII+ペプチドおよびMHCクラスI+ペプチド複合体の出現と一致している。特に、DCは、数時間のうちにCD4T細胞に外因性捕捉抗原を提示することができるが、プロセシングを行いMHCクラスI分子と共同して細菌抗原を提示するには少なくとも8時間を要する。したがって、早期の活性化DCは、MHCおよび膜関連強刺激分子ならびにIL-10などのT細胞阻害性サイトカインの発現は比較的低レベルであるにもかかわらず、CD4T細胞を初回抗原刺激する能力を完全に備えている。その後の時点で、DCは最終成熟段階にいまだ到達していないにもかかわらず、IL-2は、CD8T細胞の活性化における重要な共刺激タンパク質と思われる。このデータは、CD4非依存的にCD8T細胞を初回抗原刺激する活性化DCの能力を説明していると思われる。
【0089】
また、レスポンダー抗原特異的T細胞の頻度またはそれらのMHC+ペプチド複合体に対する親和性が低い場合には、このようなことが微生物に対する免疫反応中in vivoで頻繁に発生することがあることから、T細胞増殖を誘導するために外因性のIL-2源も必要なことがある。
【0090】
TCRおよびIL-2によって誘導されるシグナルは、βおよびγ鎖と一緒に高親和性IL-2受容体を形成するIL-2Rα転写の活性化および維持に関与している。αサブユニットは、スーパー抗原注射からちょうど8時間後に特異的T細胞の表面においてin vivoでアップレギュレートされると報告されている。活性化後8時間から10時間の上清中IL-2濃度の劇的な低下は、IL-2受容体を発現するDCによるサイトカインの再取り込みによって説明できるかもしれない。DCによるIL-2の放出を効率的に制御し、無関係なT細胞の対第3者活性化を避けることは極めて重要であると思われる。IL-2の分泌も、早期の活性化DCによって産生されることが報告されており、我々も高濃度で見いだしたIL-10の影響を相殺するのに必要と思われる。IL-2の非存在下で、IL-10は、同種抗原反応における十分に立証された阻害機能を有している。
【0091】
また、IL-2は、in vitroにおいてNK細胞を活性化すると考えられる。しかしながら、この作用は、免疫適格性反応中にin vivoと関連すると考えられたことはない。IL-2は、獲得性免疫反応中にもっぱらT細胞によって産生されるが、NK細胞の活性化は、それ以前の先天性反応中に起きると一般に考えられていた。DCは活性化後の早い時期にIL-2を産生することから、この仮定は見直すべきである。DCは、直接のNK-DC相互作用でNK細胞反応を活性化することができることは十分に確立していることから、我々は、IL-2が、関係のある明白な共刺激因子であると考えている。細菌取り込み後の早い時点でDCがIL-2を産生できるという知見は、先天性反応の活性化におけるDCの主な役割を示唆し、これらの細胞のTリンパ球を初回抗原刺激する独特な能力を説明する手助けになる。このような観察は20年以上前にCohnおよびSteinmanによってなされていたが、T細胞初回抗原刺激を担う分子事象が十分に解明されたことはない。
【0092】
実施例2
樹状細胞によるIL-2産生の刺激
本研究では、我々は、DCによるIL-2産生を誘導する様々な刺激物の能力および活性化後にIL-2を産生するランゲルハンス細胞などの組織常在性未成熟DCの能力を分析する。我々は、TLRと結合するが炎症性サイトカインとは結合しないことが知られている刺激物のみがDCによるIL-2分泌を誘導できること、およびIL-2産生はDC組織の由来とは無関係であることを示す。実際に、脾臓、骨髄あるいは皮膚(ランゲルハンス細胞)からの未成熟DCは、微生物刺激活性化後にIL-2を分泌することができる。興味深いことに、T細胞と相互作用する早期の活性化DCでは、IL-2は、T細胞接触部位に局在する。最後に、本研究で我々は、DCによるIL-2産生が細菌またはLPS注射後にin vivoでも起きることを示す。
【0093】
材料および方法
抗体および試薬。LPS(大腸菌026:B6、10μg/mlで使用)およびザイモサン(10μg/mlで使用)は、Sigma Chem.(St. Louis、MO)から入手した。rTNF(San Francisco)およびrIL-1(Genzyme、Cambridge MA)は、それぞれ100 U/mlおよび10μg/mlで使用した。IFNは、Schering-Plough(Dardilli、Fr.)よりご提供いただき、1000 U/mlで使用した。CpG(TCCATGACGTTCCTGATGCT)(配列番号5)およびCpG対照(TCCATGAGCTTCCTGATGCT)(配列番号6)オリゴはLife Technologiesから購入し、1mMの濃度で使用した。PE結合抗IL-2、PE結合ラットアイソタイプ対照、ビオチン化抗CD8αおよびFITC結合抗CD11cモノクローナル抗体は、Pharmingenから購入した。Quantum-red結合ストレプトアビジンは、Sigmaから入手した。抗I-Ad/I-Ed mAb(クローンM5/114、ラットIgG2b)は、Dr. A. Ager(NIMR、London、UK)よりご提供いただいた。FITC結合抗ラットは、Jackson ImmunoResearch(West Grove、PA)から購入した。抗CD40抗体[クローンFGK45(10)]は、20μg/mlの濃度で使用し、モノクローナル抗ラット抗体(10μg/ml、PharMingen)とクロスリンクさせた。
【0094】
マウス。無菌のC57BL/6およびBALB/cマウスは、Harlan-Italyまたはランゲルハンス細胞調製用にIffa Credo(L'arbresle、France)から入手し、6〜10週齢で使用した。C57BL/6およびBALB/c RAG2-/-動物は、Centre de Distribution、de Typage et d'Archivage動物(CDTA、Orleans-Cedex、Fr.)から入手し、無菌条件に保った。すべての実験は、関連法および施設のガイドラインを遵守して行った。
【0095】
DCおよび培地。10%熱不活化ウシ胎仔血清(GIBCO)、100 IUペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、2mM L-グルタミン(すべてSigmaより)、および50μM 2-メルカプトエタノールを含有するIMDM(Sigma、St. Louis、MO)(完全IMDM)中、R1培地からの30%上清[GM-CSFを形質移入されたNIH3T3線維芽細胞からの上清]と共にD1およびD8.1長期DCを培養した。
【0096】
新鮮なBMDCRAG2-/-は、RAG2-/- BALB/cまたはC57BL/6骨髄細胞から得た。通常、骨髄細胞を2日間培養し、冷凍した。BMDCRAG2-/-は、GM-CSF形質導入B16腫瘍細胞の上清10%を含有する培地中で7日間培養した後、解凍細胞から得た。低いB7.2およびCD40発現により判断し、BMDCRAG2-/-が未成熟であった場合にのみ活性化に使用した。部分的な自然活性化を示す細胞は捨てた。
【0097】
IL-2 ELISA。IL-2 ELISAは、DuoSetキット(R and D、Minneapolis、MN)を用い、製造業者の推奨事項に従って行った。
【0098】
DCによるIL-2産生のIn vivo分析。Flt3リガンド(FLT3L)またはGM-CSF(12)を形質導入したB16腫瘍細胞をC57BL/6マウスに移植した。18日後、LPS50μgまたは108個の大腸菌(DH5α)をマウスの腹腔内に注射した。処理から3時間後、脾臓を摘出し、単細胞懸濁液を作製し、ブレフェルジンA(10μg/ml、Sigma)と共に1.5時間インキュベートした。細胞を2%パラホルムアルデヒドで固定し、5%FCSおよび0.5%サポニンを含有するPBSで透過化処理し、PE標識IL-2特異的およびFITC標識CD11c特異的モノクローナル抗体(PharMingen)で染色した。
【0099】
細胞の免疫蛍光標識化。DCおよびT細胞の染色は、前述のように行った(13)。手短に言えば、DCをカバーガラス上にプレートし、LPS(10μg/ml)で活性化した。Dynabeads(Dynal A.S.、Oslo、No)を用いるB220+、CD8+、Mac1+およびCD11c+細胞のネガティブ選択によってTCR OVA、DO11.10 BALB/cトランスジェニックマウスからCD4+T細胞を精製し、LPS活性化から3時間後にOVAペプチド(1μg/ml)と一緒にDCに加えた。20分間のインキュベーションの後、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、PBSに溶かした3%パラホルムアルデヒドで固定し、5%FCSおよび0.5%サポニンを含有するPBSで透過化処理した。次いで、細胞を、抗IL-2および抗CD11c抗体で4℃において30分間標識した。
【0100】
細菌および酵母による感染。大腸菌DH5αを感染多重度(MOI)10でDCに加えた。共培養液を1.5時間インキュベートし、洗浄し、ゲンタマイシンおよびテトラサイクリンを、それぞれ50μg/mlおよび30μg/mlの最終濃度で添加した。
【0101】
酵母による活性化では、DCを生きているサッカロミセス・セレビシエで2時間パルスした後、2.5μg/mlの最終濃度でアンホテリシンB(Sigma)を添加した。
【0102】
ランゲルハンス細胞。1〜3%のLCを含む上皮細胞を標準的トリプシン処理により耳の表皮から調製した(14)。6ウエル組織培養プレート中の培地(RPMI 1640、10%ウシ胎仔血清、200mM L-グルタミンおよび20μg/mlゲンタマイシンを添加)(Gibco Laboratories)3 ml中、37℃で上皮細胞をインキュベートした。12時間のインキュベーション後、上皮細胞をLPS(10μg/ml)で刺激し、ブレフェルジンAを直ちに加えた。陰性対照として、刺激の1時間前に細胞をサイクロスポリンAで前処理した。
【0103】
6時間の刺激後、抗I-Ad/I-Ed mAb(クローンM5/114、ラットIgG2b)と、続いてFITC結合抗ラットAbおよびPE結合抗IL-2 mAbで上皮細胞を二重染色した。細胞内抗原を検出するため、表面の免疫染色の後、細胞を、2%パラホルムアルデヒドによる固定ならびにPBSに溶かした0.1%サポニンおよび1%BSAによる透過化処理にかけた。
【0104】
DCによるIL-2産生は、微生物刺激によって誘導されるが炎症性サイトカインによっては誘導されない
DCは、いったん活性化されると細胞内でシグナルを伝達し、炎症性サイトカイン、ケモカインおよび共刺激分子などの、侵入した病原体に対する防御に関与する遺伝子の誘導をもたらす様々な機能性TLRを発現する。様々なTLRの活性化がIL-2産生を誘導するかどうかを検討するため、グラム陰性菌の成分であるLPS、およびTLR4を介してシグナルを送るグラム陽性菌の成分であるリポテイコ酸(LTA)、TLR9によって認識される細菌DNAのメチル化されていないCpGモチーフを含むオリゴDNA、ザイモサン、酵母細胞壁粒子、およびTLR2によって認識されるグラム陽性菌のペプチグリカン(peptiglycan)(PGN)により、in vitroにおいてマウスDCを刺激した。
【0105】
2種類の長期増殖因子依存性(GM-CSF)マウスDC系(1つは脾臓由来(D1)であり、1つは骨髄由来である(D8))を使用した。DCの培養条件(材料および方法を参照)が結果に影響しないようにするため、長期DC系(材料および方法を参照)に用いたものと異なるGM-CSF源の存在下でin vitroにおいて分化させた短期骨髄由来DC、BMDC/RAG2-/-も使用した。
【0106】
図6に示すように、すべての微生物刺激は、DCによるIL-2産生を誘導することができた。一般に、長期DC系に比べ、新鮮なBMDC/RAG2-/-により大量のIL-2が産生され、これは活性化の閾値が低いためである可能性が高い。唯一の例外はザイモサンであり、長期と短期DC系のいずれによってもIL-2分泌の誘導に極めて効率的な刺激物となった。これと一致して、DCによるIL-2産生の最良の刺激物は生きた酵母であった(図6)。また、CpGおよびPGNもDCの刺激に効率的でIL-2を分泌した。脾臓(D1)と骨髄由来DC(BMDC/RAG2-/-およびD8細胞)との差は、LTAに反応する能力に見られた。LTA刺激により脾DCのみがIL-2を効率的に分泌したが、BMDC/RAG2-/-およびD8細胞は、測定可能だが限られたIL-2量を産生したに過ぎなかった。
【0107】
次いで、3種の異なる炎症性サイトカイン、TNFα、IL-1βおよびINFαがDCを刺激してIL-2を産生する能力について調べた。TNFαを選択したのは、未成熟DCを活性化し、癌の細胞ベースの治療用として多量のDCをin vitroにおいて産生するために広く用いられるからである。IL-1βを使用したのは、その細胞内シグナル伝達経路がLPSの1つと部分的に重なりあっているためであり、IFNαを使用したのは、DC活性化の良好な刺激物と報告されていたためである。微生物刺激の場合に観察されたこととは対照的に、個々に用いられた、あるいはDC培養液へ同時に添加されたいずれの炎症性サイトカインも、脾臓由来または骨髄由来DCによるIL-2分泌を促進することができなかった。したがって、DCは、その由来組織に関係なく、病原体またはその産物との接触後の早い時期にIL-2を産生するが、特異的炎症性サイトカインに反応してIL-2を産生することはない。
【0108】
食作用自体は、DCによるIL-2産生を誘導するのに不十分である
食作用プロセス自体がIL-2産生に関してDCを活性化するかどうかを検討するため、対照として不活性ラテックスビーズまたはグラム陰性菌の大腸菌DH5αと共にDCをインキュベートし、培養上清中のIL-2を測定した。我々の結果から、不活性ラテックスビーズ単独では脾DCまたは骨髄DCのいずれにおいてもIL-2産生を誘導することができないことが明らかとなり、このプロセスには微生物刺激が必要であるというこれまでの知見を支持している。
【0109】
T細胞媒介性刺激は、DCによるIL-2分泌を誘導する
DCによるIL-2分泌は、抗CD40抗体によるCD40の活性化などのT細胞ヘルプを模倣する刺激によっても誘導されると思われる。CD40の活性化は、D1細胞によってIL-2産生を誘導する際には微生物刺激と同程度に効率的な刺激である。対照的に、BMDCRAG2-/-培養液では、CD40刺激後の早い時点で少量のIL-2が上清中に検出されると思われる。このことは、細胞表面において新鮮な未成熟BMDCRAG2-/-が発現するCD40がD1系よりも少ない(細胞蛍光測定分析によりほとんど検出不可能)という事実に起因すると思われる。DCをまずLPSにより12時間処理し、次いでCD40活性化を行った場合には、IL-2産生の第2の遅延相が誘導されると思われ、微生物刺激による活性化後の早い時期には、DCが他の刺激に反応しないことを示している。
【0110】
DCによるIL-2産生は、リンパ組織に限定されない
非リンパ組織に由来するDCが刺激によってIL-2を産生するか否かを調べるため、マウス表皮シートからトリプシン処理によって調製したランゲルハンス細胞をLPSで刺激し、6時間後にフローサイトメトリーによりIL-2産生を分析した。我々のデータは、極めて限られた数の非刺激ランゲルハンス細胞(MHCクラスII陽性細胞)がIL-2陽性であることを示していた。この数は、LPS刺激後に大きく増加した。IL-2産生の特異性を検証するため、LPS刺激の前にサイクロスポリンA(CsA)で上皮細胞を処理した。CsAは、LPS遭遇後のDCによるIL-2産生を大きく減少させる。CsA処理後、IL-2産生ランゲルハンス細胞の数は、未処理細胞に比べて減少した。
【0111】
DCは、in vivoにおける細菌またはLPS注射後にIL-2を産生する
次いで、我々は、IL-2を産生する能力がin vivoにおけるDCに共通の一般的なDC特性であるのか、in vitroにおいて分化した細胞だけの特徴であるのかを検討した。この目的のため、GM-CSFまたはFLT3L形質導入腫瘍をマウスに移植し、それぞれCD8α-CD11c+またはCD8α+CD11c+脾DC集団を増殖させ(21)、LPSまたは大腸菌DH5αを腹膜内注射してDCを初回抗原刺激した。LPSまたは細菌処理マウスの脾臓におけるIL-2発現CD11c+DCの存在を細胞蛍光測定分析によって明らかにした。
【0112】
細菌またはLPS処理から3時間後、GM-CSF処理マウスにおいてIL-2陽性のCD8α-CD11c+DC集団がはっきり見られた。IL-2陽性細胞が、実はDCとダブレットを形成したTリンパ球である可能性は、抗IL-2および抗CD11c抗体で染色した脾臓の単個細胞浮遊液の免疫細胞化学分析を行うことによって排除した。IL-2陽性細胞はCD11cを発現し、IL-2産生細胞が確かにDCであることを示している。FLT-3L処理マウスに対しても同じ分析を行った。LPS注射後、約19%のCD8α+CD11c+細胞がIL-2を産生した。免疫細胞化学分析は、IL-2発現細胞がCD11c陽性でもあることを裏付けた。一部のIL-2陽性DCは、活性化から2時間後にはすでに目に見え、ピークは3時間目であったが、GM-CSFとFLT-3L処理マウスのいずれにおいても6時間後には消失した。
【0113】
早期の活性化DCでは、IL-2は、DC-T細胞相互作用の境界に局在する
ナイーブT細胞の初回抗原刺激は、長時間のT細胞受容体刺激を必要とし、この刺激は、DCとT細胞との接触領域で起こる特殊化した分子組織である免疫学的シナプスの形成によって行われる。高レベルの共刺激分子およびMHC-ペプチド複合体のDC発現ならびにサイトカインの分泌は、APCとしてのDCの高い効率の源である。IL-2は、独特なナイーブT細胞刺激能力をDCに付与するもう1つの分子であることから、早期の活性化DCが産生するIL-2が相互作用するDCとT細胞の接触領域で動員されるかどうかが検討されてきた。
【0114】
LPS活性化BMDC/RAG2-/-にOVA-ペプチドを負荷し、DO.11.10トランスジェニック動物からのCD4+T細胞と共に20分間インキュベートし、次いで抗CD11cおよび抗IL-2抗体で染色した。DCによって産生されるIL-2は、DCとT細胞の境界に広く局在し、T細胞活性化のプロセスにおけるDC由来IL-2の関連性を裏付けている。
【0115】
考察
DCに独特な特徴は、NK、BおよびT細胞反応を活性化する能力である。DCによるNKおよびB細胞活性化を担う機序はほとんど不明であるが、DCによるT細胞の活性化は、プロセシング機序の効率、高レベルの共刺激分子およびペプチド-MHC複合体の発現ならびに極性サイトカインの産生などの多くの要素に左右される。最近、最近刺激後の早い時期にDCがIL-2を産生することを我々が立証し、DCのT細胞との、おそらくNKおよびB細胞との相互作用を理解する新たな可能性が開けた。したがって、in vitroにおいてDCによるIL-2分泌を誘導する刺激物およびin vivoにおけるDCのIL-2産生能を明確にすることが重要であった。
【0116】
様々なTLRを介してシグナルを伝達する微生物細胞産物でDCを活性化すると、DCはIL-2を分泌することができた。したがって、DCに対するTLRの刺激は、適応性免疫反応活性化に重要な共刺激分子の後期アップレギュレーションばかりでなく、IL-2の早期産生も引き起こし、先天性NKと適応的T細胞反応を共に維持することに関与している可能性がある。対照的に、調べたいずれの炎症性サイトカインもDCによるIL-2分泌を誘導することはできず、これらの細胞がサイトカイン媒介性炎症プロセスと感染が実際存在することを区別できることを示している。したがって、DCによるIL-2産生は、おそらく微生物または微生物細胞産物が実際に存在する場合に感染の初期相でのみ起こり、炎症反応、すなわち微生物が排除されサイトカインによって炎症が持続している後期には起きない。IL-1受容体(IL-1R)、TLR4、TLR2およびTLR9はいくつかのシグナル伝達成分を共有しているが、DCは、IL-1βとの相互作用後であってもIL-2を分泌できなかった。
【0117】
サイトカインがDCによるIL-2産生を刺激できなかったという事実は、刺激物の質がDC成熟プロセスに影響すること、および炎症性サイトカインは、T細胞反応の効率的初回抗原刺激に適している成熟レベルまでDCを後押しすることができないという証拠と一致する(24)。実際、TNFαの存在下で成熟したDCは寛容原性であることが判明した。
【0118】
酵母および酵母細胞壁の粒子ザイモサンは、DCによるIL-2分泌の誘導に最も効率的な刺激物であった。酵母およびザイモサン遭遇後のDCによる大量のIL-2産生は、酵母が強力なアジュバントとして働き、CD4+およびCD8+T細胞を初回抗原刺激し、in vivoにおいては養子移入により防御的抗腫瘍免疫を誘導するDCの能力を増強する理由を説明していると思われる。
【0119】
TLR活性化により誘導されるDC由来IL-2は、先天性NKおよび獲得性T細胞反応を効率的に初回抗原刺激し、感染と戦うために必要と思われる。T細胞初回抗原刺激におけるDC由来IL-2の役割は、持続感染を確立するサイトメガロウイルス(MCMV)などの免疫抑制性ウイルスは活性化DCによるIL-2産生を遮断し、DCのT細胞活性化能に影響を与えるという事実によって裏付けられる(27)。APCの中で、DCのみが細菌遭遇後にIL-2を産生することができ、マクロファージは産生することができない。
【0120】
抗原特異的T細胞の頻度またはそれらのペプチド+MHC複合体とのT細胞受容体(TCR)親和性が低い場合、有効なT細胞初回抗原刺激に外因性のIL-2源が重要なことがある。このようなことは、微生物に対する免疫反応中in vivoで頻繁に起きると思われる。実際、特異的反応を示すことができるT細胞はまれであり、不均一な親和性を持つ様々なTCRを運んでいる。さらに、DCは、微生物全体のプロセシングによって得られる1000種類にものぼる様々なペプチドを表面に提示するため、所与のT細胞が認識することができる特定のペプチド-MHC複合体の量は極めて少なくなることがある。したがって、このような状況では、外因性IL-2が重要な共刺激分子となり、IL-2Rα鎖の発現を活性化しかつ維持することによりT細胞増殖を助けることができる。
【0121】
DCが最高レベルのペプチド+MHC複合体および共刺激分子を発現する場合、DCは活性化後の遅い時期にナイーブT細胞反応を初回抗原刺激する能力を獲得すると一般に考えられている。しかしながら、早期のIL-2産生速度は、DCが微生物遭遇後ほぼ直ぐにT細胞を初回抗原刺激することを可能にしている。このことは、in vivoにおいて、DCによるナイーブCD4+T細胞初回抗原刺激の最初の徴候が抗原投与後1または2時間以内に検出できるという知見と一致する。
【0122】
DCによって産生されるIL-2のもう1つの役割は、高レベルの高親和性IL-2受容体を発現しIL-2に反応して増殖するがIL-2を産生することはできない制御性T細胞の恒常性維持であると思われる。実際、IL-2および共刺激分子は、IL-2-/-、CD28-/-、CD40-/-およびB7-/-マウスにおいてこの集団が大きく減少することから、制御性T細胞の恒常性において重要な役割を果たしていることは明白である。したがって、胃腸管では、CD4+CD25+制御性T細胞は、共生フローラに由来するLPSまたはLTAによってかねてから活性化されていたIL-2を産生しかつ共刺激分子を発現するDCと相互作用することによって生き残るものと思われる。
【0123】
DCは、抗原特異的CD4+T細胞との遭遇後にCD8+T細胞反応を直接初回抗原刺激する能力を獲得することが報告されている。この現象を説明するために提案された機序は、CD40-CD40Lを介するDCの活性化である。CD40活性化後にDCによって産生されるIL-2は、CD8+T細胞初回抗原刺激を助ける重要な分子であると思われる。このことは、CD40刺激が未成熟DCによるIL-2産生ばかりでなくLPS活性化DCによるIL-2分泌の第2後期を誘導することからも、非活性化DCとLPS成熟DCの双方についてもあてはまる。興味深いことに、早期の活性化DCがT細胞と接触した場合、接触部位においてIL-2が動員され、DCによるIL-2の分泌が十分に制御されていることを示唆している。このことは、無関係なT細胞のバイスタンダー活性化を避けるために必要であると思われる。
【0124】
DCの様々なサブセットは、IL-2を産生することができた。組織常在性ランゲルハンス細胞ならびにCD8α+およびCD8α-CD11c+脾DCは、LPS刺激後にIL-2陽性となった。CD8α+およびCD8α-CD11c+DCは、T細胞反応を活性化する際には同じように効率的であり、一貫して、両集団は、LPSまたは細菌活性化後にIL-2を産生することができる。
【0125】
ランゲルハンス細胞によるIL-2産生は、末梢組織における早期NK細胞活性化にとって重要であると思われる。このプロセスは、活性化NK細胞が多量のIFNαを産生することからも、マクロファージ活性化を促進し炎症を持続することに関連している可能性がある。まとめると、これらの知見は、早期免疫反応と後期免疫反応の双方を初回抗原刺激する際のDCの中心的役割を説明するための分子機序を示唆している。DC由来IL-2は、先天性および適応的免疫を調節しかつ結び付ける重要な因子であると思われる。
【0126】
実施例3
CMV感染の標的としての樹状細胞
本研究では、我々は、DCがマウスCMV(MCMV)感染を許すことを立証する。より重要なことに、DCの感染は、T細胞反応の活性化に必要とされる危険なシグナルのその後の伝達を予防する。本研究は、DC機能のCMV媒介性損傷が、この病原体による感染に伴い、鍵になる因子としてIL-2を巻き込む免疫抑制の誘導に極めて重要であるという初めての証拠を提供する。
【0127】
材料および方法
動物。6週齢の近交系C57BL/6(H2b、I-Ab)およびBALB/c(H2d、I-Ad)マウスをAnimal Resources Center(Perth、Western Australia)から入手し、University of Western AustraliaのAnimal Services Facilityにおいて特定の無菌条件で飼育した。すべての動物実験は、University of Western AustraliaのAnimal Ethics and Experimentation Committeeの承認を受け、National Health and Medical Research Council of Australiaのガイドラインに従って行った。
【0128】
細胞系および試薬。マウス胚線維芽細胞(MEF)は、ウシ胎仔血清(NCS-Gibco Life Sciences、Sydney、Australia)を添加した最小基本培地(MEM-Gibco Life Sciences、Sydney、Australia)中で培養した。D1細胞は、前述のように維持した。D1細胞または精製DCは、10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS-Gibco Life Sciences、Sydney、Australia);100 IU/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシン(Pharmacia and Upjohn、Sydney、Australia);2mM L-グルタミンおよび50μM 2-メルカプトエタノールを含有し、10〜20 ng/ml GM-CSFを含有する30%馴化培地を添加した完全Iscoves改良Dulbeccos培地(IMDM-Sigma Aldrich、St. Louis、MO)(完全IMDM-10)中で培養した。
【0129】
DCの懸濁および単離用のすべての培地は、マウス血清と等浸透性とした。初期の組織消化は、pH7.2 HEPESで緩衝化し、2% FBSを添加したIMDM(IMDM-2)中で行った。洗浄および標識中のDCとT細胞の再会合を避けるため、二価金属非含有溶液を使用した。DCの密度分離は、前述のようにNycodenz(Nycomed Pharma AS、Oslo、Norway)グラジエントを用いて行った。
【0130】
MCMVストックの調製および精製。MEFの集密単層に、37℃で1時間、感染多重度(MOI)0.05でMCMVの唾液腺継代ストックを感染させた。細胞変性効果(cpe)の跡について細胞を毎日監視し、100%cpeが観察された場合に上清を取り除いた。0.8および0.45ミクロンのフィルターにより懸濁液を徐々に濾過し、JA-20ローター中4℃において2時間、35000×gで遠心分離した。ウイルスペレットを氷冷IMDMに再懸濁し、等分して-180℃で保存した。ウイルス力価は、前述のようにMEFについて測定した。
【0131】
MCMVによる樹状細胞およびMEFの感染
一段階増殖曲線
感染試験では、MEFを増殖させて集密とし、D1細胞は、継代日に感染させた。精製CD11c+細胞(DC)は、細胞分取直後に感染させた。MEFの感染では、MOI>3で集密単層にウイルスを加え、37℃で1時間吸収させた。1時間後に残留種菌を除去し、室温で1分間クエン酸緩衝液(40mMクエン酸、10mM KCl、135mM NaCl pH3.0)で細胞を処理し、結合ウイルスを可逆的に除去した。次いで、細胞を十分に洗浄し、新鮮なMEM/2%NCSを加え、様々な時間細胞をインキュベートした後、-70℃で冷凍した。
【0132】
未成熟D1細胞またはDCの感染では、感染させる総数の細胞を完全IMDM-10中に再懸濁し、これにウイルス(MOI>3)を加えた。DCにMCMVを加えた接種材料を37℃で1時間インキュベートし、200×gで遠心分離した。次いで、ペレットをクエン酸緩衝液で再懸濁し、完全IMDM-10でよく洗浄した。細胞を完全IMDM-10中に再懸濁し、96ウエルトレイ(Corning Glass Works、Coming、NY)の1ウエル当たり104個の細胞に等分した。MEFと同じ時間にDC培養液から試料採取した。試料採取時間における力価は、前述のように測定した。
【0133】
多段階増殖曲線
多段階増殖曲線は前述のように測定したが、ただしMOIを0.02まで減らした。成熟D1細胞の感染では、感染の2日前にLPS(Sigmaからの大腸菌026:B6)(10μg/ml)をD1細胞に添加した。
【0134】
Flt3LによるCD11c+細胞の増殖。DCを増殖させるため、C57BL/6マウスを前述のFlt3リガンド(Flt3L)で処理した。手短に言うと、滅菌HBSSに溶かしたFlt3-L10μgを1日1回で9日間、マウスに腹腔内投与した。Flt3Lは、Immunex、Seattle、USAより供給していただいた。
【0135】
MCMVまたはLPSによるマウスの注射。Dr H Farrellより提供していただいたPBS/0.05%FBS中のMCMV-K181-PerthまたはMCMV-K181-LacZ104pfuにより、BALB/cマウスを腹腔内で感染させた。対照マウスにPBS/0.05%FBSを投与した。PBSで希釈したLPS(30μg/ml)をBALB/cマウスに静脈内注射し、対照マウスにはPBSのみを投与した。適当な時間にマウスを致死せしめ、DCを単離するために脾臓を摘出した。
【0136】
マウスからのDCの単離。Vremec他(2000年)によって記載された方法に改良を加え、単個細胞浮遊液を調製した。コラゲナーゼ(1mg/ml;II型;Sigma)およびDnase I(Boehringer Mannheim、Germany)を含有する改良IMDM-2を脾臓に注射し、小さな断片に切断し、室温(22℃)で25分間消化した。DC-T細胞複合体を分離するため、EDTAを0.01Mの濃度で加え、インキュベーションを5分間続けた。ステンレス鋼のふるいで濾過することにより未消化材料を除去した。細胞を遠心分離で回収し、1.077g/cm3の等浸透性Accudenz溶液に再懸濁し、4℃において15分間1700×gで遠心分離し、低密度分画を集めた。低密度細胞をEDTA-SSで希釈し遠心分離によって回収した。次いで、細胞分取または分析のために、適切なモノクローナル抗体と共に細胞をインキュベートした。
【0137】
DC表現型の特定。対照、LPS活性化およびMCMV感染D1細胞または新鮮なDCを適切な時点で集めた。細胞の一定量(1サンプル当たり1×106個)を、10%正常ヤギ血清(NGS)を含有するEDTA-SS-FCSと共に30分間氷上でプレインキュベートした。次いで、Fab2-Cy5結合ヤギ抗ラットmAb(Jackson Immunoresearch Laboratories、West Grove、PENN)で検出されるFITCまたはビオチン化コンジュゲートおよび抗クラスII MHC(TIB-120)として、またはFITCコンジュゲート(39-10-8)として用いられる抗CD11c(HL3)と共に細胞をインキュベートした。DCをT細胞の刺激に用いる場合には、クラスII MHCをブロッキングすることを避けるため、CD11c染色を単独で使用した。他のmAbは以下の通り使用した。抗CD11b-PE(M1/70);抗CD54-FITC(3E2);抗CD40-FITC(HM40-3); 抗CD86-PE(GLI); 抗CD80-ビオチン(16-10A1);抗クラスI MHC(TIB-126)を使用し精製した。
【0138】
第2ステップの染色は、ビオチン結合mAbの場合にはPE-ストレプトアビジン(Pharmingen、San Diego、CA)とし、精製MHC-Iの場合にはFab2-Cy5結合ヤギ抗ラットmAbとした。抗クラスI MHC(M1/42.3.9.8)および抗クラスII MHC(m5/114.15.2)ハイブリドーマは、Dr A Scalzoより提供していただいた。他のすべてのmAbは、Pharmingen(San Diego、CA)から購入した。MCMV-K181-LacZを感染させた細胞は、37℃において1分間、フルオレセインジ-β-D-ガラクトピラノシド(FDG)(Molecular Probes、Eugene、OR)を添加することにより検出した。MCMV感染DCの割合は、模擬感染動物から得られたDCの蛍光を差し引くことにより決定した。次いで、感染DCを、下記のままである95%の集団として定義した。最終洗浄液にヨウ化プロピジウム(PI)を1μg/mlで取り込み、死細胞を除外した。アポトーシス検出のため、アネキシン-V-FITC(Boehringer Mannheim、Mannheim、Germany)およびPIの存在下で15分間細胞をインキュベートした。アポトーシスを起こした細胞数は、DC集団内のアネキシン-V+PI細胞の頻度を分析することによって決定した。
【0139】
DCのフローサイトメトリー分析および細胞分取。蛍光標識DC調製物をFACSCalibur(登録商標)(Becton Dickinson、San Jose、CA)で分析した。用いたチャンネルは、FITCについてはFL1、PEについてはFL2、Cy5についてはFL4およびPI陽性細胞を除外するためのFL3とした。適当に染色した対照を、使用した全ての蛍光色素に対する補正を調べるために用いた。2〜5×104個のDC(CD11chigh/MHC-IIhigh、PI陰性)事象のファイルを集め、Cell Questソフトウェア(Becton Dickinson、San Jose、CA)で分析した。高速細胞分取は、70μmのノズルにより18PSIのシース(sheath)圧力においてFACSVantage(登録商標) (Becton Dickinson、San Jose、CA)機器でTURBOSort(登録商標)により行った。FL3およびFL2チャンネルを用い、それぞれPI陽性細胞を除外し、PE-CD11c highDCを検出した。30%馴化培地を添加した70%FBS中に細胞を集めると通常>97%純度のDCが含まれていた。細胞分取後の生存度(通常>98%)をトリパンブルー排除法によって測定した。
【0140】
飲食作用。FITC-デキストラン(FITC-DX 40,000ダルトン)は、Molecular Probes(Oregon、USA)から購入した。未処理、LPS処理または適切な時間MCMVを感染させたマウスのグループ(8)に0.1mgのFITC-DXを注射した。1時間後、脾臓からDCを単離し、前述のように単個細胞浮遊液を調製した。単離した脾細胞をCD11cおよびMHC-II抗体で標識し、フローサイトメトリーにより分析した。D1細胞は、10μg/ml LPSの存在下または非存在下で増殖させるか、MCMV(MOI>3)に感染させた。適切な時間に、37℃または4℃において、細胞を0.5mg/mlのFITC-DXと共に1時間インキュベートした。氷冷FACS(登録商標)緩衝液を添加することにより取り込みを停止させた。細胞を洗浄し、FACSCalibur(登録商標)を用いて分析した。4℃におけるFITC-DXの細胞表面結合を37℃において得られた取り込み値から差し引くと、真の取り込み値が得られた。
【0141】
ELISAによるIL-12およびIL-2の定量。D1によるIL-12産生は、示した時間にMCMV感染、LPS成熟(10μg/ml)または未成熟D1から上清を試料採取することにより測定した。脾DCによるIL-12産生は、前述のように10μg/ml LPSおよび100U/ml IL-4と共に18時間濃縮DCを培養することにより測定した。上清中のIL-12 p40/p70は、C15.6(捕捉)およびC17.8ビオチン結合ラット抗マウス(検出)抗体(Pharmingen)を用いて検出した。D1によるIL-2産生は、未成熟D1、LPS処理D1またはLPSで処理したMCMV感染D1から上清を試料採取することにより測定した。捕捉(JES6-1A12)および検出(JES6-5H4: ビオチン結合ラット抗マウスIL-2)抗体(Pharmingen)は、製造業者の推奨事項に従って使用した。両アッセイでは、ストレプトアビジン(CLB、Amsterdam、Netherlands)およびK-Blue(Elisa Systems、Brisbane、Australia)が結合したポリ-西洋わさびペルオキシダーゼ(ポリ-HRP)により検出を行った。自動ELISAリーダー(SpectraMAX250; Molecular Devices、Sunnyvale、CA)で450nmにおいて吸光度を読み取った。両アッセイの検出限界は3pg/mlであった。
【0142】
混合リンパ球反応アッセイ。未成熟、成熟(10μg/ml LPS)またはMCMV感染D1を用いて一次同種MLRを行った。あるいは、MCMV感染または対照BALB/cマウスの脾臓からDCを精製した。刺激物質は、マイトマイシンC(50μM/ml、37℃で20分;Sigma)で処理し、完全IMDM200μl中1ウエル当たり105個の同種脾細胞と共に共培養した。3日目に、1ウエル当たり1μCiの[3H]チミジン(比活性2.0Ci/mmol;Amersham、Amersham Place、UK)で培養液をパルスした。[3H]チミジンの取り込みは、18時間後に液体シンチレーションカウンタ(TopCount NXT)で測定した。三つ組の培養液の平均cpmを図に示す。D1アッセイでは、刺激物質がC57BL/6バックグランド上にあるため、レスポンダーは、同種BALB/c脾細胞から作成した。MCMV感染BALB/cマウスに由来する刺激物質は、同種C57BL/6脾細胞について用いた。
【0143】
樹状細胞培養液中でMCMVは感染し、生産的に複製する
免疫反応の開始および調節においてDCが果たす中心的役割を考えて、我々は、感染に対するそれらの感受性および生産的MCMV複製を維持するそれらの能力を調べた。D1培養系を用いる我々の初期分析により、MCMV複製に対するDC成熟状態の関連性を評価することができた。高い感染多重度(MOI)(>3pfu/細胞)における未成熟D1細胞、または標準的マウス胚性線維芽細胞(MEF)培養液の感染はウイルス産生をもたらした。しかしながら、D1細胞におけるウイルス産生は、MEFにおけるよりも少なかった(図7a)。MEFの感染後、感染から18時間後にウイルス子孫が放出される(図7a)。対照的に、D1細胞では、感染後27時間まで感染ウイルスは検出されず、ウイルスの力価は、感染後4日間にわたり増加し、最終的にMEFによって産生されるレベルを上回った。
【0144】
D1細胞の感染が感染ウイルスを産生したことを裏付けるため、未成熟DCおよびMEFを低いMOI(0.02pfu/細胞)で感染させた。MEFでは、感染後6日目に100%細胞変性効果(cpe)が観察されるまで感染ウイルスが産生された(図7a)。D1細胞の感染後は、この場合もまたより速度の遅いウイルス産生が観察され(MEFより約24時間遅い)、この場合もまたウイルス力価が時間と共に増加し、最終的に感染MEFで観察されるレベルを上回るレベルに達することが観察された(図7a)。
【0145】
DCの成熟状況がMCMV感染および複製と関連していたか否かを判定するため、前述のようにLPS活性化D1細胞に感染させた(MOI=0.02pfu/細胞)。LPSで48時間刺激することによりD1細胞の成熟を誘導し、前述のようにMHC-I/II、CD40、CD80およびCD86のアップレギュレーションにより、MCMVによる感染に先立って培養液の成熟状況を確認した。LPS活性化D1細胞を低MOIで感染させた場合には、ウイルス複製が観察されたが、生産的ウイルスの収量は、未成熟D1培養液の感染に比べると著しく低下した(図7a)。
【0146】
Flt3L処理マウスの脾臓から精製したex vivo由来の細胞を用い、DCの感染を確認した。Flt3L由来のDCを高MOIでMCMVに感染させた場合、我々は、LPS活性化D1細胞の感染後に得られたと同様のウイルス産生を観察した。このことが予想されたのは、採集および細胞分取のプロセス中にDCが活性化表現型を獲得することが知られているためである。したがって、MCMVは、未成熟DC、およびそれ程ではないにしろ成熟DCに感染することができ、感染は、高力価のウイルス産生をもたらす。ヨウ化プロピジウム(PI)およびアネキシン-V染色によって評価されるように、MCMV感染後のDCの生存度に有意差は認められなかった。MCMV感染(低MOI)後8日目まで1日おきに調べた培養液では、生細胞の割合は>80%を保ち(85.25±4.66%)、非感染培養液で観察された生存度(87%)に匹敵していた。
【0147】
MCMVは、in vivoにおいて樹状細胞に感染する
In vitroにおいてDCに感染させ得ることを立証したことから、in vivoにおける感染との関連でDCがどのような役割を果たしているかを判断することが重要となった。MCMVがin vivoにおいてDCに感染するか否かを明らかにするため、我々は、LacZ遺伝子産物を発現する組み換えウイルスを利用した。LacZの発現は、M33 ORFのイントロン中のLacZカセットの安定な挿入によって生じる。この挿入は、感染との関連でLacZの安定な発現をもたらし、この発現がウイルス複製に対する有害な影響を及ぼさないことはすでに分かっている。LacZ遺伝子産物のβ-ガラクトシダーゼの基質としてFDGを用いると、蛍光分析によってMCMV感染細胞を検出することが可能であった(図7b)。CD11c、MHC-IIおよびFDGによる標識化後に、感染の過程における感染DCの割合を測定した。脾DCは感染から24時間後にMCMV陽性(10.10±4.21%)となり、2日目までに大部分が感染した(74.61±6.22%)。
【0148】
In vitro分析によれば、MCMVは、MCMV感染動物の脾臓から回収されたDCの全生存度を変化させなかった。MCMV感染後1、2および4日目には77%以上の脾DCが生存し、これに比べると模擬感染マウスのDCでは生存度が80%であり、2日間LPSを感染させたマウスのDCでは65%であった。
【0149】
MCMVは、DCの飲食作用能力に影響を与える
未成熟抗原プロセシング細胞から成熟抗原提示細胞へのDCの成熟は、飲食作用の能力の低下を伴う。フルオレシン(Fluorescin)結合デキストラン(FITC-DX)の取り込みを測定することにより、MCMV感染D1細胞の飲食作用能力を未成熟またはLPS刺激D1細胞と比較した。感染から2日後、未成熟D1細胞に比べ、MCMV感染細胞では50%の取り込み低下が観察されたが(図8a)、完全な阻害は、感染から4日後に観察された(図8a)。
【0150】
脾臓由来DCの機能的飲食作用能力に対するin vivoのMCMV感染の影響も調べた。対照マウスの脾臓から得られた濃縮DCは、高い飲食作用能力を示したが、LPS処理またはMCMV感染マウスの脾臓から得られたDCは、抗原取り込みの効率が低かった(図8a)。FITC-DXが細胞表面に付着するのではなく飲食作用を受けた確証は、蛍光顕微鏡により得られた。
【0151】
MCMV感染は、DCの表現型活性化を妨害する
MCMVが生産的にDCに感染できることが明らかになったことから、これらの細胞の表現型に関してこのような感染の影響を判定することが重要となった。D1系を用いて初期分析を行った。D1細胞は、CD11c、CD11bおよびCD54ならびにMHCクラスIおよびII、CD40、CD80およびCD86を発現する。MCMVによる未成熟D1細胞の感染後(MOI>3)、2段階の表現型変化が観察された。感染後2日目には、MHCクラスIおよびII、CD40、CD54およびCD86のレベルは、LPS活性化後に観察されるレベルに類似したレベルまで増加した(図9a)。興味深いことに、CD80のレベルは未変化のままであった。感染から4日後に同じ抗原を分析した場合、試験したすべてのマーカーの発現に減少が観察され(図9b)、MHCクラスIIの場合に最も顕著な影響が起きた。
【0152】
D1細胞のMCMV感染後に観察される接着、ホーミング、MHCおよび共刺激分子のダウンレギュレーションがこの培養系の人為的結果でないことを保証するため、ex vivoの精製脾DCを用いて感染の影響を調べた。これらの実験では、MHC-II、CD40、CD80、CD86およびCD54が、未処理またはLPS処理対照に比べ、感染から2および4日後に減少した(図10)。MHC-I発現の低下は、感染から4日後に観察されたに過ぎなかった(図10b)。これらの実験では、LPS媒介性表現型成熟はわずかであり、抽出/精製プロトコル中にDCが部分的に活性化されたためであった。
【0153】
最後に、感染の過程でMCMV感染動物の脾臓から得られたDCに起きた表現型変化を分析することにより、MCMVの影響を調べた。In vivo由来のDCを分析すると、MCMVに感染したマウスの脾臓にCD11c+/MHC-II+細胞の2つの集団が同定された。対照動物で見いだされたCD11chigh/MHC-IIhigh集団は、感染後2日目までMCMV感染マウスに存在したが、感染後4日目にはもはや検出できなかった(図11a)。
【0154】
CD11cint/MHC-IIdim表現型を特徴とするDCの第2の集団は、感染後2日目にMCMV感染動物から得られた脾細胞中で検出され、感染後4日目に最大数に達した(図11a)。以下ウイルスで変化したDC(vDC)と呼ぶこの細胞集団は、模擬感染(図11a)およびLPS(18時間)処理マウスのどちらでも観察されなかった。感染から2日後にMCMV感染マウスから単離されたCD11chigh/MHC-IIhigh細胞は、vDC集団がこれらの典型的DCから生じることを示した。感染から2日後のMCMV感染(FDG+)DCの表現型分析は、CD40およびCD86の発現増加がLPS刺激後に観察される発現に匹敵することを示した(図11b)。対照的に、感染から4日後、感染(FDG+)DCは、MHC-II、CD40およびCD80の著しい発現低下ならびにCD54、MHC-IおよびCD86の発現低下を示した(図11c)。CD86レベルは2日目に著しく増加し、それに比べ、感染後4日目には顕著に低下した。
【0155】
MCMV感染DCは、成熟化刺激に対する反応性を失う
MCMV感染がDCの表現型活性化を妨害することを考えると、MCMVによる感染後のDCが他の刺激物による活性化に反応性のままであるか否かを判定することが重要となった。感染後2または4日目にLPSで48時間刺激されたMCMV感染D1は、活性化刺激物に反応せず、共刺激分子の発現に増加は観察されなかった(図12)。
【0156】
MCMV感染DCは、変化したサイトカインプロフィールを示す
MCMVによる感染後のDCで観察される表現型変化がそれらの機能に影響を与えるか否かを判定するため、我々は、サイトカイン産生との機能的関連が存在するか否かを調べた。D1細胞は、LPS処理などの活性化刺激物に反応してIL-12を分泌した(図13a)。しかしながら、MCMVに感染したD1細胞は、感染後2および4日目までIL-12を分泌する能力の低下を示した(図13a)。同じことは、2または4日間MCMVに感染させたマウスの脾臓から単離されたDCについてもあてはまった(図13b)。
【0157】
感染後の早い時期に観察されるアップレギュレーションと調和を保つように、感染後1日目にMCMV感染マウスから収集した脾DCはある程度のIL-12を分泌することが判明したが、感染後2または4日目に収集したDCではレベルが存在しなかった。最近、我々は、細菌刺激物によって誘導される活性化後にDCがIL-226を分泌することを示した。IL-2を分泌するDCの能力は、MCMVに感染したD1細胞を様々な時間LPSで刺激することによって調べた。MCMVに感染したD1細胞は、IL-2を分泌する能力に顕著な低下を示した(図13c)。同様に、LPS刺激後、IL-2は、未処理マウスから単離された脾DCにより分泌されたが、MCMV感染動物から単離されたDCによっては分泌されなかった(図13d)。
【0158】
MCMV感染DCには、ナイーブ同種T細胞を初回抗原刺激する能力がない
MCMV感染DCのナイーブ同種T細胞の増殖を刺激する能力は、D1細胞(図14aおよびb)または精製DC(図14c)を用い、in vitroにおいて評価した。LPS活性化D1細胞は、処理から2日後と4日後の双方で同種T細胞の最も効率的な刺激物であり、同系対照に比べ、5〜10倍の増殖を誘導した(図14aおよびb)。
【0159】
前述のように、未成熟D1細胞は、T細胞反応の初回抗原刺激であまり効率的でなかった(図14aおよびb)。感染後2日目に、MCMV感染D1は、未成熟D1細胞および同系対照を用いた培養後に観察されるレベルに類似したレベルまでT細胞増殖を誘導した(図14a)。感染後4日目に、同種T細胞をMCMV感染D1細胞と共培養すると、同系培養後に観察されるレベルと同程度の増殖レベルをもたらした(図14b)。感染から4日後にMCMV感染マウスの脾臓から精製したDCを、非感染対照動物の脾臓から精製したDCと比較した場合、ナイーブアロ反応性T細胞の初回抗原刺激の妨害も観察された(図14c)。
【0160】
考察
CMV感染の1つの目立った特徴は、感染プロセスの初期を特徴付ける一過性であるが重大な免疫不全である。一過性で数週間から数ヶ月続くが、CMV関連免疫不全は、宿主の生存に対して重要な意味を有している。移植手術を受ける患者では、このウイルス誘発性抑制は実に有益なことがあり、移植拒絶反応の低下と関わっていることが分かっている。しかしながら、二次的日和見感染の発生率が上昇するため、CMV誘発性免疫抑制は、好ましくない転帰につながることが多い。したがって、CMV誘発性免疫抑制をよりよく理解することは、改良されたウイルス療法の設計における重要な検討材料である。
【0161】
CMV誘発性免疫抑制につながる機序を理解することの他の重要性は、最近の、遺伝子治療またはワクチン送達用のベクターとしてCMVを含むウイルスを用いることへの関心から生じている。免疫抑制を誘導することが知られている他の2種類のヒト病原体である麻疹およびHIVとは異なり、CMV感染中に起きる免疫抑制の根底にある機序に関してはほとんど知られていない。
【0162】
我々の研究において、我々は、MCMVによるD1培養液の感染は、ウイルス子孫の産生をもたらすことを観察した。速度は、線維芽細胞培養液の感染後に観察される速度よりも遅いが、感染ウイルスの力価は、最終的にMEFで観察される力価を上回るレベルに達する。成熟または精製DCに感染させた場合に、我々は、ウイルス子孫の産生が減少し、感染ウイルスが検出されるまでの時間の長さがさらに伸びることを観察した。線維芽細胞に比べ、DCの感染後に観察される速度が遅くなる正確な理由は不明であるが、MEFとは異なり、感染した場合のG0においてDC培養液が同調しないために起こる可能性がある。重要なことに、未成熟および成熟DCにおけるウイルスの増殖速度を比較すると、MCMVは、活性化成熟DCに比べ、未成熟DCにおいて優先的に感染しかつ複製することが示唆される。未成熟DCの優先的感染は、これらの細胞のそれに続く活性化を妨害する機会をウイルスに提供することがある(下記参照)。
【0163】
DCをin vitroで感染させうることを示し、LacZリポーターを運ぶ組み換えMCMVを用いてin vivo感染に関する我々の知見を裏付けたことにより、我々は、MCMVがDCを表現型的および機能的に損なう可能性に取り組んだ。我々は、MCMV感染後に、DCの体液相の食作用能力が損なわれることを示した。これらのデータは、感染DCが、未成熟DCの特性である抗原を捕捉する能力を失い、この点でLPS刺激後に観察され成熟DCに典型的な機能表現型に類似した機能表現型を示すことを示唆している。
【0164】
DC機能に関してMCMV感染の関連性をさらに理解するため、免疫反応の誘導に関与する細胞表面タンパク質の調節を調べた。MHC-I/II、CD40、CD54およびCD86の発現が一過性に増加した後、感染DCは、上記の細胞表面抗原すべてならびにCD80の発現低下を示した。In vitroにおけるD1細胞の感染後に観察される初期活性化は、組織の消化および細胞分取の過程でそれらの細胞が活性化されるため、ex vivoの精製脾DCを用いて調べることはできなかった。しかしながら、D1培養液に関しては、ex vivoの精製脾DCのMCMV感染後に、MHC-I/II、CD40、CD54、CD80およびCD86の発現の低下が観察された。
【0165】
MHC-IおよびIIのCMV誘発性ダウンレギュレーションの現象は、線維芽細胞およびマクロファージで十分に立証されており、マクロファージは、MHC-Iのダウンレギュレーションを免れる。本明細書に示すデータは、DCにおけるMHC-I/II、CD40、CD54、CD80およびCD86のMCMV媒介性ダウンレギュレーションの初めての証拠を提供する。意義深いことに、マクロファージの感染は、CD86の表面発現に影響しないことが分かったが、我々は、DCの感染後にCD86発現の著しい低下を観察した。
【0166】
最近、DCは、原形質膜に運ばれる前に、特殊化した小胞運搬体中にMHC-IIおよびCD86を選択的に蓄積することが分かった。MCMV感染に続いて観察されるMHC-IIおよびCD86のダウンレギュレーションは、これらの小胞運搬体からの放出のMCMVによる妨害および/または内部移行の亢進に起因する可能性がある。
【0167】
MHC分子のダウンレギュレーションの結果は、MCMVにとって有益かつ有害なことがある。MHC-Iの喪失は、その後のウイルス特異的CTLの活性化を妨害すると思われるが、感染DCをNK細胞媒介性溶解に対してより感受性にするとも思われる。これまでの研究から、CD80は、NK細胞媒介性細胞溶解の引き金となるシグナルとして働き、MHCクラスIの防御作用より優位に立つことが分かっている。MCMV感染は、CD80のアップレギュレーションを予防し(図3、4および5)、NK細胞媒介性溶解を妨害することが知られているウイルスタンパク質gpm144の表面発現をもたらす。
【0168】
表現型変化と呼応して、MCMV感染後の様々な時間にサイトカインプロフィールの変化が観察された。早期には、我々は、IL-12産生の増加を観察したが、急速に消失し、感染後4日目にはほとんど産生されなかった。
【0169】
我々は、実施例1において、細菌と遭遇したDCによってIL-2が分泌されることを示した。IL-2を分泌する能力は、T細胞反応の活性化にとって不可欠である。この報告で、我々は、MCMVによる感染後、DCが、細菌刺激物に反応してIL-2を分泌する能力を失うことを示した。いくつかの研究は、CMV感染後のIL-2合成の欠損を報告しており、この欠損をCMV感染の初期を特徴付けるT細胞アネルギーの発生と関連づけている。
【0170】
興味深いことに、IL-2療法は、CMV感染に伴って損なわれたT細胞反応の一部を補正することが分かっている。実際、in vivoにおけるIL-2免疫療法は、CD8+CTLの抗ウイルス作用を増強し、ウイルス複製の制御の改善をもたらすことが分かっている。CMV関連T細胞アネルギーが多くの研究の焦点になっているにもかかわらず、またIL-2について記載された効果にもかかわらず、関連する細胞エフェクターの特徴は明らかにされていない。実際、CMV関連免疫抑制に付随することが多いIL-2欠損の原因である細胞は、いくらか論争の対象であった。興味深いことに、単球のCMV感染は、それに続く免疫抑制において中心的役割を果たすことが分かっている。ここではじめて、我々は、MCMVがIL-2を放出するDCの能力を妨害し、最終的にT細胞反応を初回抗原刺激するDCの能力を損なうという証拠を提供する。
【0171】
DC表現型に対して観察されたMCMV感染の影響に基づけば、感染DCは、「成熟」DC表現型を有するように見える感染から2日後におけるT細胞活性化の初回抗原刺激に効率的であると予想された。これは事実と異なり、これらのDCを同種MLRで調べた場合、T細胞増殖を刺激するには極めて非効率的であることが分かった。感染時にIL-2を産生するDCの能力がすでに影響を受けているという知識に基づけば、「表現型的に活性化された」ように見える場合にMCMV感染DCがT細胞反応性を初回抗原刺激できないことが観察されたのは、IL-2分泌のMCMV媒介性妨害が原因である可能性が高い。感染から4日後、感染DCが「成熟」表現型を示す場合、T細胞増殖を初回抗原刺激する能力はさらに減少した。
【0172】
T細胞反応を初回抗原刺激する能力の損傷は、感染マウスの脾臓から精製したvDCを調べた場合にも裏付けられた。予備データは、T細胞を初回抗原刺激するDCの能力の他に、T細胞集団ではアポトーシスが起きていることを示唆している。
【0173】
DC機能に対するMCMV感染の免疫抑制作用の他の証拠は、感染後DCが細菌刺激物に反応する能力を失うという我々の知見に由来する。感染DCのLPS刺激後にMHCまたは共刺激マーカーの表現型的増加は観察されず、前述のように、IL-12およびIL-2を含むサイトカインを産生する能力は損なわれた。これらの結果は、免疫抑制者においてこのウイルスの感染を伴うことが多い日和見感染の発生率増加の説明になっていると考えられる。
【0174】
この報告では、我々は、MCMV感染後、DCが飲食作用能力の損傷の混合表現型、表面MHCおよび共刺激分子のほぼ完全な欠如、ならびにT細胞を十分に初回抗原刺激する能力の損傷を示すことを示した。樹状細胞を標的としそれらの機能を妨害することにより、MCMVは、免疫の専門的イニシエータを、抗ウイルス免疫反応を開始するのに必要とされる「危険な」シグナルを伝達することができない「未熟者(novices)」に変換する能力を持っていた。IL-2分泌を標的とした妨害と、続くT細胞活性化の完全な欠如をもたらす刺激(シグナル1-MHC-I/II)および共刺激(シグナル2-CD80、CD86など)分子のダウンレギュレーションは、DCが仕事を行うことを妨げ、実際、DCを免疫抑制に寄与させ、ウイルスの持続を可能にしてしまうことがある。結論として、我々は、DCのMCMV感染が、ウイルス誘発性免疫抑制の機序であること、およびDC媒介性IL-2分泌を妨害するMCMVの能力が極めて重要であることを明らかにした。
【0175】
実施例4
分化刺激物による樹状細胞の転写再プログラミング
未成熟および成熟樹状細胞(DC)の機能的および表現型的特徴を十分に明らかにしてきた。微生物またはリポ多糖(LPS)などの細菌産物と腫瘍壊死因子(TNF-α)を含む炎症性分子は共に、DCに先天性および適応性免疫反応を開始させかつ増幅させるDC成熟プログラムを活性化すると考えられている。しかしながら、DCの機能状態は様々な刺激物によって誘導され、免疫反応の結果に関係しているという証拠が増えつつある。したがって、我々は、LPS刺激あるいはTNF-α刺激後の成熟移行型DCおよび未成熟DCの転写プログラムを比較した。約6,500のマウス遺伝子およびESTを提示するGeneChip(登録商標)オリゴヌクレオチドマイクロアレイをこの分析に使用した。2種類の刺激物により遺伝子発現の極めて様々な変調が観察された。LPS処理細胞のみが、決定的な増殖停止ならびに免疫反応の適切な活性化および制御に一致する遺伝子の発現パターンを示した。
【0176】
材料および方法
細胞および試薬。D1細胞は、マウス脾DCから入手し、前述の30%R1馴化培地を添加したIMDM中にin vitroで維持した。LPS(大腸菌血清型026:B6)はSigma Chemical Co.から購入し、10μg/mlで使用した。マウスTNF-α(Genetech Inc.、San Franscisco、CA)は、100U/mlで使用した。細胞は同時に増殖させ、採集した。
【0177】
ハイブリダイゼーションのためのRNAの抽出、増幅および標識化。アンチセンスcRNAは、Affymetrix(Santa Clara、CA) の推奨事項に従って調製した。手短に言うと、Qiagen(Chatsworth、CA)製のDirect Oligotexキットを用い凍結ペレットからmRNAを直接抽出し、5'T7RNAポリメラーゼプロモーター配列で修飾したオリゴdTプライマーおよびcDNA合成用Super-script Choice System(Life Technologies、Gaithesbourg、MD)を用い、二本鎖cDNAに変換した。非標識ATP、CTP、GTP、UTPならびにビオチン標識CTPおよびUTPの混合物(ENZO Diagnostics、Farmingdale、NY)の存在下、T7 RNAポリメラーゼ(T7 Megascriptキット;Ambion、Austin、TX)により、二本鎖cDNA(0.5μg)をcRNAに転写した。アフィニティーカラム(RNeasy;Qiagen)でcRNAを精製した。
【0178】
プローブアレイハイブリダイゼーションおよびスキャニング。Mu6500 GeneChipは、6,500個のマウス遺伝子およびESTを集合的に提示するA〜Dの4個一組のチップからなる。D1試料の分析は、cRNAをGeneChipアレイA〜Dとハイブリダイズすることによって行った。プローブアレイハイブリダイゼーションは前述のように行った。40mMトリス酢酸塩pH8.1、100mM酢酸カリウムおよび30mM酢酸マグネシウム中94℃で30分間インキュベートすることによりcRNAを50〜200塩基の平均サイズに断片化した。
【0179】
次いで、試料を、最終濃度0.05μg/mlでハイブリダイゼーション溶液(1M NaCl、10mMトリスpH7.6、0.005%トリトンX-100、0.1mg/mlニシン精子DNA、それぞれ1.5、5、25、100pMの濃度のBioB-、BioC-、BioD-、cre対照cRNA)に希釈し、94℃で5分間加熱し、ハイブリダイゼーションカートリッジ(200μl/チップ)中に置いた。ハイブリダイゼーションは、40℃で16時間行った。ハイブリダイゼーション後、6×SSPE-T(0.9M NaCl、60mM NaH2PO4、6mM EDTA、pH7.6に調整した0.005%トリトンX-100)および0.5×SSPE-Tでチップを洗い、2μg/mlストレプトアビジン-フィコエリトリン(Molecular Probes、Eugene、OR)および1mg/mlアセチル化BSA(Sigma, St. Louis, MO)と共にインキュベートすることにより染色した。
【0180】
共焦点スキャナ(Affymetrix)を用い、7.5μmの解像度でアレイを読み取り、GeneChip 3.3 Gene Expression分析プログラム(Affymetrix)により分析した。2つの独立した実験において、刺激細胞でベースラインよりも少なくとも2の倍率変化を示した遺伝子を、差次的に発現したと見なした。
【0181】
ELISA。DuoSEt ELISA Development System(R&D、Systems Minneapolis、MN)を用い、IL-1β、IL-12p40およびIL-6を定量した。
【0182】
ゲノムスケールの遺伝子発現分析
DC初回抗原刺激に対するTNF-α対LPSの差次的影響を検討するため、我々は、数千個の遺伝子の発現を同時に分析することができるAffymetrix Gene-Chip技術を用いた。情報の希薄化および混入を避けるため、これらの分析には均一な細胞集団が必要である。骨髄由来マウスDCは極めて不安定であり、成熟DCおよび中間期DCを混入させずに均一な未成熟細胞を得ることは不可能である。新鮮なDC機能と密接に平行する細胞系が妥当な選択肢である。したがって、我々は、前述のマウスDC系D1を利用した。D1は、未成熟状態で培養液中に無期限に維持することができる脾性、骨髄性および増殖因子依存性のDC系である。この細胞系は、様々な刺激物を用いて完全な成熟にすることができる。特に、D1細胞は、表現型の特徴(クラスIIおよび共刺激分子のアップレギュレーション)および抗原提示、遊走の阻害、抗原取り込みの遮断、細胞骨格再配列のような機能的特徴によって評価されるように、LPSまたはTNF-α刺激から18時間後には成熟状態に到達する。
【0183】
遺伝子発現分析は、約6,500個の異なるマウス遺伝子およびESTを提示するGeneChipオリゴヌクレオチドプローブアレイを用い、未成熟、移行型(6時間のLPSおよびTNF-α活性化)および成熟(18時間のLPSおよびTNF-α活性化)D1細胞について行った。6,500個のプローブセットは、4個の個別チップA〜Dに細分され、各々が約1,600個の遺伝子およびEST用のオリゴヌクレオチドプローブを含んでいる。ハイブリダイズされたアレイは、GeneChip Expression Analysis Program 3.3を用いて分析した。この方法のデータ分析プロトコル、感度および定量的側面は、これまでに詳細に記載してきた。手短に言えば、遺伝子プローブは、20個の完全マッチ20量体オリゴヌクレオチド(PM)および単一ミスマッチを含む20個の対照オリゴヌクレオチド(MM)である。遺伝子発現レベルは、全プローブセットにわたりすべてのプローブ対のPMとMMとの差を平均して(AvgDiff)定義される。
AvgDiff=(Σ(PM-MM))/(対のn)
20のAvgDiffは、検出遺伝子について蛍光強度の低値に近い。各プローブアレイの絶対(個別)分析を行い、分析した各標的cRNAにおける遺伝子発現レベルを測定した。次いで、各チップアレイについてシグナル強度の平均値を測定し、固定された任意の値(目標強度)にスケーリングすることにより、ハイブリダイズされたアレイ間でシグナル強度を正規化した。我々は、マウスGeneChipについてシグナル強度の平均値を考慮して算出された100の目標強度を用いた。GeneChipの性能および試料調製の変動を最小限に抑えるためにこの手順を開発した。
【0184】
続いて、TNF-αおよびLPS活性化D1細胞試料とハイブリダイズさせたプローブアレイを、同一のベースライン試料(非刺激細胞)と比較し、処理細胞と未処理細胞との発現レベルの差を測定した。チップ上に提示された遺伝子およびESTのうち25%が、非刺激DCならびに6時間および18時間のLPSおよびTNF-α活性化DCに存在すると見なされた。ハイブリダイゼーション効率は、3種類の対照細菌BioB、BioC、BioDおよび1種類のファージcre遺伝子cRNAのシグナル強度を測定することにより、各アレイついて評価した(4項を参照)。通常、1.5pMのBioB「スパイク」が検出された。したがって、これらのハイブリダイゼーション条件下の検出限界は、約1.5pMであった。
【0185】
未処理細胞に対して処理細胞で変調された遺伝子は、4つの主なグループ、すなわち誘導された遺伝子(非活性化細胞では検出されないが活性化細胞では検出される)、アップレギュレートされた遺伝子、ダウンレギュレートされた遺伝子、抑制された遺伝子(非活性化細胞では検出されるが活性化細胞では検出されない)に分けた。アップレギュレートされた遺伝子およびダウンレギュレートされた遺伝子として、我々は、2つの独立した実験においてmRNA発現のレベルに少なくとも2倍の変化を示した遺伝子のみを考えた(倍率変化≧2;図15)。
【0186】
発現の差は、処理細胞から得られた遺伝子の強度値(AvgDiff)を非刺激細胞から得た遺伝子の強度値で割ることによって算出した。検出されない遺伝子は信頼のおける強度値を持たないことから、我々は、誘導された遺伝子および抑制された遺伝子の発現分析用パラメータとして倍率変化を用いることはできなかった。したがって、誘導された遺伝子は、刺激後に到達した発現レベル(2つの独立した実験において最低で40のAvgDiff)に基づいて選択し、抑制された遺伝子は、非刺激細胞における遺伝子の発現レベル(2つの独立した実験において抑制された最低で40のAvgDiff)に基づいて選択した(図15)。
【0187】
LPSおよびTNF-αは、DC成熟にとって等価な因子と考えたが、これら2種類の異なる刺激物で活性化されたD1細胞は、極めて様々な遺伝子発現プログラムを示した(図15)。我々は、非刺激細胞に比べて成熟DCにおいて差次的に発現されたまたは変調された遺伝子ファミリーの例を表2に列挙した。
【0188】
【表2a】

【表2b】

【0189】
細胞周期制御および生存に関与する遺伝子
分化の終了は、増殖している細胞の増殖停止をもたらす。未成熟な脾臓のマウスDCにおける細胞周期制御は厳密に制御されていないという証拠があり、線維芽細胞および内皮細胞の放射線処理された間質細胞単層上にそれらをプレートした場合に、細胞数の僅かな増加が観察されることがある。成熟DCは増殖能力を完全に失い、活性化から8〜9日後にアポトーシスによって死滅する。
【0190】
In vitroにおいて増殖停止および終末分化を受ける未成熟D1細胞においても、極めて類似した分化プロセスを誘導することができる。LPS活性化D1細胞とTNF-α活性化D1細胞との重要な差は、細胞周期進行の制御に関与する遺伝子パターンの複雑さにあった(表2)。サイクリンは通常有糸分裂誘発中に発現され細胞増殖を制御する。サイクリンAおよびBは、それぞれG1/SおよびG2/M移行の制御に関与している。LPSは、DNA複製を開始させるMCM2のような遺伝子を含むA型およびB型サイクリンの抑制を誘導した。
【0191】
対照的に、TNF-α活性化D1細胞は、G2期を通過するために必要なサイクリン(サイクリンB1、サイクリンB2)の排他的抑制を示し、それらが依然としてDNA複製を開始できることおよびSとG2間の細胞周期のチェックポイントにおいて停止させられる可能性を示唆している。D型サイクリンは、他のタイプのサイクリンに比べ、様々なパターンの発現を有している。それらは、マイトジェンによって多くの様々な細胞タイプにおいて誘導され、G1期進行にとって不可欠であるが、それらの分化プロセスを容易にする巨核球において分化刺激物によって誘導されるということも報告されている。さらに、サイクリンD2は、LPSの抗分裂促進刺激後のマクロファージにおいて誘導される。興味深いことに、D型サイクリング(cycling)のアップレギュレーションをLPSは誘導するがTNF-αは誘導しない(表1)。さらに、BTG1、GAS、RCKなどの抗増殖遺伝子は、LPS活性化D1細胞においてもっぱらアップレギュレートされた(表2)。
【0192】
この特有の発現パターンは、LPSのみが最終的なDCの増殖停止を誘導することができることを示唆していると思われる。LPS活性化DCは、刺激から24時間後にはすでに不可逆的な増殖停止を受けたが、TNF-α活性化D1細胞は、大きな増殖速度の低下のみを示し、最終的な増殖停止は示さず(図16)、倍加時間は130時間であった。これらの結果は、LPSのみがDCの完全な終末分化を促進すること、およびTNF-αは部分的なDC活性化のみを誘導することを意味している。
【0193】
LPSがDC成熟と最終分化DCの生存を共に促進することができるという知見と一致するように、LPS活性化D1細胞は、TIS(トポイソメラーゼ阻害剤抑制)などの抗アポトーシス遺伝子も後の時点で発現した。さらに、(TNF-α誘発性アポトーシス細胞死を阻害するためにTRAF-1(アップレギュレートされる)およびTRAF-2(発現される)と合わせて必要とされる)c-IAP-1タンパク質をコードするmRNAが、TNF-α活性化D1細胞とLPS活性化D1細胞の双方で観察された。
【0194】
抗原プロセシングおよびMHC分子に対するペプチド負荷に関与する遺伝子
LPS刺激後に増殖停止したDCの生存には、成熟DCをリンパ組織中に移動させ、ナイーブCDB+およびCD4+T細胞を初回抗原刺激させることが必要と思われる。この仕事を行うため、DCは、MHCクラスIおよびクラスII分子上に負荷するべきペプチドを天然タンパク質抗原から産生する能力を拡大しなければならない。興味深いことに、抗原提示機能に関与する遺伝子は、LPSまたはTNF-α活性化D1細胞において特有の発現パターンを示した。
【0195】
LPSのみがPA2Bプロテアソーム活性化因子およびTAP-1分子mRNAをアップレギュレートした(表2)。PA2Bタンパク質は、産生されるペプチドのスペクトルおよび20Sプロテアソームの効率を劇的に増加させ、一方、TAP-1分子は、プロテアソームが産生したペプチドをサイトゾルから小胞体まで移動させるのに必要である。プロテアソーム活性化因子は、LPS活性化から6時間後にすでにアップレギュレートされたが、TAP-1のアップレギュレーションは、後の時点でのみ測定可能であった。
【0196】
LPS刺激後のD1細胞におけるmRNAアップレギュレーションのこのパターンは、D1細胞におけるMHCクラスIの新たな生合成速度とよく相関しており、細菌またはLPS刺激から18時間後にピークとなる。さらに、MHCクラスI分子のアップレギュレーションを誘導する際に、LPSはTNF-αより効率的であり、DCをTNF-αではなくLPSで前処理した場合、DCの表面におけるペプチド-MHC複合体発現の安定性を24時間から72時間へ延ばすことができる。したがって、LPS刺激は、クラスI抗原提示機能に必要な全細胞内装置の顕著な活性化を誘導する。我々は、GeneChip分析でいかなるクラスI mRNAアップレギュレーションも観察しなかった。実際に、クラスIオリゴヌクレオチドプローブはH-2D分子に特異的であり、チャレンジから18時間後にD1細胞において観察された表面クラスIアップレギュレーションは、H-2Kタンパク質に関連していた。
【0197】
MHCクラスII遺伝子に関して、我々は、クラスIIタンパク質合成のアップレギュレーションは極めて素早く、早ければDC活性化から1時間後にはピークに達し、著しいダウンレギュレーションが続くことを以前に示した。GeneChipの手法により、DC成熟中のMHCタンパク質発現に関する以前の分析の妥当性を調べ、LPS刺激D1細胞においてクラスII分子mRNAがダウンレギュレートされることを示した。また、クラスII分子mRNAは、LPS刺激ヒトDCにおいてもダウンレギュレートされる。さらに、活性化DCにおいてペプチド-MHCクラスII複合体に観察される安定性の増加に一致して、抗原ペプチドによるMHCクラスII負荷を調節するH-2M分子がダウンレギュレートされるか抑制され、この場合もまた、ダウンレギュレーションのレベルは、TNF-α刺激D1細胞に比べ、LPS処理D1細胞においてより顕著であった。ダウンレギュレーションは、LPS刺激から6時間後にはすでに認められた(表2)。
【0198】
この遺伝子発現パターンは、成熟DCに典型的な提示活性の再プログラミングを誘導する際、LPSはTNF-αより有効であることを意味している。全体として見ると、これらのデータは、DCを免疫反応活性化に適している成熟段階に向かわせるにはLPSで十分であり、TNF-αでは不十分であることを示している。我々の知見は、in vitroのMLRアッセイにおいてT細胞を活性化する際、およびin vivoのマウスモデルで腫瘍防御を与える際、TNF-α活性化DCは実際にむしろ非効率的であるという知見によっても裏付けられる。我々の知見は、TNF-α処理D1細胞ではなくLPS活性化D1細胞における、よく知られている白血球化学誘引物質であるRAN-TES、MIP1αおよびMIP2をコードするmRNAの強力なアップレギュレーションによっても裏付けられる(表2)。
【0199】
LPS刺激後の早い時点および遅い時点で同様のパターンのケモカインアップレギュレーションもRNase保護アッセイおよび走化性アッセイを用いて観察されている。さらに、LPS刺激D1細胞はインターロイキン(IL)-6を発現したが、TNF-α刺激D1細胞は発現しなかった(表2および図17)。このサイトカインは、DCによって提示されるペプチドのスペクトルを増加させること、白血球動員、およびB細胞分化に関与していることが知られている。
【0200】
炎症反応の制御に関与する遺伝子
生理学的免疫反応は、十分に制御された炎症反応に由来している。炎症プロセスの活性化および制御に関与する遺伝子は、2種類の異なる刺激物の存在下で成熟したDCにおいて差次的に調節される(表2)。LPS成熟DCにおいて、それほどではないにせよTNF-α処理細胞において、補体分子C1qの抑制または強力なダウンレギュレーションが観察される(表2)。
【0201】
このタンパク質は、マクロファージおよび好中球の食作用活性および微生物殺害を高めることにより、免疫グロブリンのB細胞分泌を亢進することにより、および血小板上の接着分子の発現を誘導することにより炎症反応の一因となっていることが知られている。さらに、C1q分子は、慢性炎症の部位における線維芽細胞付着および増殖の基盤であると報告されている。最近、中枢神経系における強力な炎症性役割がC1qによるものとされた。したがって、遅い時点におけるC1q転写のダウンレギュレーションは、炎症反応を制御する方法であると思われる。
【0202】
多くのin vivo研究は、病原体に対する反応に影響を与える際、IL-1とIL-1RAのバランスが重要であることを示している。実際に、明確な抗炎症性の役割は、感染に対する宿主の反応に続く臓器傷害を制限する際に重要な役割を有するIL-1RA分子によるものとされてきた。LPS成熟D1では、IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1RA)mRNAの発現と併せ、IL-1βの強力なアップレギュレーションが早い時点と遅い時点双方で観察される。一方、TNF-α刺激D1細胞では、ほんの僅かなIL-1β産生が観察され、IL-1RA発現は観察されない(表2)。したがって、LPS成熟DCは、炎症反応を刺激する際ばかりでなく制御する際にも重要な役割を有している可能性が高い。
【0203】
TNF-a処理01細胞に比べ、LPS活性化D1細胞において差次的に発現したもう1つのサイトカインはIL-12p40である(表2、図17)。IL-12p40ホモ二量体は、in vitroにおいてはIL-12p75アンタゴニストであり、in vivoにおいてはTh1反応の強力な免疫抑制剤として働く。NODマウスにおいてCD4+T細胞をTh2表現型にする膵臓の逸脱を誘導するばかりでなく自然発症糖尿病の発症を軽減することが分かっている。
【0204】
同時に、上記データは、異なる刺激物によって誘導されるDC活性化の明確な差を示している。TNF-αは、DCを終末分化させることができない緩和で敏感な刺激物ということになる。DCベースの治療法にとってDC成熟を誘導するのに使用される刺激物の関連性を考慮しなければならないのは、活性化の質が臨床反応の最終結果に影響を与える可能性が高いからである。
【0205】
マイクロアレイ手法により、大量の遺伝子の遺伝子発現を定量的に同時分析することができる。多くの細胞プロセスはmRNAレベルの変化によって調節される。したがって、遺伝子発現パターンの系統的研究は、自然の刺激物の細胞への影響を研究するのに極めて有用であり、具体的な細胞機能に関与する分子事象および重要な経路を識別するための強力なツールであることが分かった。
【0206】
本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を説明してきたが、本発明の精神を逸脱することなく様々な修正形態を実施できることは理解されるであろう。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ球を活性化するための方法であって、樹状細胞の存在下にリンパ球をIL-2と接触させ、それによってリンパ球を活性化することを含む方法。
【請求項2】
前記リンパ球が免疫系のエフェクター細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リンパ球がNK細胞、NKT細胞、B細胞、またはT細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記樹状細胞がリンパ球を含む対象にとって内因性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記樹状細胞がランゲルハンス細胞、CD8α陽性、CD8α陰性、またはCD11c陽性である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記IL-2が樹状細胞にとって外因性である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
樹状細胞刺激と接触した対象において免疫反応を活性化する方法であって、有効量のIL-2を対象に投与することを含み、ここでIL-2が前記刺激によって刺激される樹状細胞と共同して免疫反応を活性化する方法。
【請求項8】
前記免疫反応が先天性または適応性免疫反応である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記樹状細胞刺激が樹状細胞におけるIL-2産生を誘導する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記樹状細胞刺激が微生物刺激である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記樹状細胞刺激がグラム+細菌、リポテイコ酸、グラム-細菌、LPS、メチル化されていないCpGモチーフを含むオリゴDNA、ザイモサン、酵母、および抗CD40抗体からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
樹状細胞におけるIL-2産生を誘導する方法であって、前記樹状細胞のトール様受容体を活性化する薬剤と前記樹状細胞とを接触させることを含む方法。
【請求項13】
前記トール様受容体(TLR)がTLR2、TLR4、またはTLR9である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤が微生物刺激である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記薬剤がグラム+細菌、リポテイコ酸、グラム-細菌、LPS、メチル化されていないCpGモチーフを含むオリゴDNA、ザイモサン、酵母、および抗CD40抗体からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
細胞ベースの治療法のための樹状細胞を製造する方法であって、前記樹状細胞のトール様受容体を活性化する薬剤と前記樹状細胞とを接触させることを含み、該活性化が前記樹状細胞のIL-2産生を誘導するものである方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法によって製造される樹状細胞。
【請求項18】
樹状細胞成熟に影響を与える薬剤をスクリーニングする方法であって、被験薬剤の存在下および非存在下で微生物刺激および未成熟樹状細胞をインキュベートし、被験薬剤の存在下および非存在下で樹状細胞におけるIL-2発現を検出することを含み、ここで被験薬剤によって引き起こされるIL-2発現の量の増加または減少が樹状細胞成熟に影響を与える薬剤であることの指標である方法。
【請求項19】
前記被験薬剤が、化合物、小分子、ポリヌクレオチド、およびポリペプチドからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記微生物刺激が、細菌、ウイルス、真菌性微生物、およびプリオンからなる群から選択される微生物である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記未成熟樹状細胞がD1細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
樹状細胞成熟に影響を与える薬剤の能力をテストするのに有用なアッセイ系であって、被験薬剤、微生物刺激、および未成熟樹状細胞が入った容器を含み、樹状細胞のIL-2発現の検出を可能にする系。
【請求項23】
前記被験薬剤が、化合物、小分子、ポリヌクレオチド、およびポリペプチドからなる群から選択される、請求項22に記載の系。
【請求項24】
前記微生物刺激が、細菌、ウイルス、真菌性微生物、およびプリオンからなる群から選択される微生物である、請求項22に記載の系。
【請求項25】
前記未成熟樹状細胞がD1細胞である、請求項22に記載の系。
【請求項26】
微生物刺激に対応する樹状細胞成熟用遺伝子発現プロフィールのライブラリーを作成する方法であって、
未成熟樹状細胞を微生物刺激と共にインキュベートすること、
微生物刺激が遺伝子発現に変化を引き起こす樹状細胞中の遺伝子を識別すること、および
微生物刺激の遺伝子発現プロフィールであって、微生物刺激の存在下で樹状細胞における発現を変化させる1種または複数の遺伝子を含むプロフィールを作成すること
を含む方法。
【請求項27】
前記樹状細胞がD1細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記微生物刺激が、細菌、ウイルス、真菌性微生物、およびプリオンからなる群から選択される微生物である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
請求項26に記載の方法によって作成される遺伝子発現プロフィールライブラリーであって、コンピュータ可読形態であるライブラリー。
【請求項30】
対象において免疫抑制性ウイルス感染に伴う免疫抑制を治療する方法であって、そのような治療を必要とする対象に有効量のIL-2および樹状細胞の活性化因子を投与することを含む方法。
【請求項31】
前記免疫抑制性ウイルス感染がCMV感染またはHIV感染である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
免疫抑制性ウイルス感染を治療する方法であって、そのような治療を必要とする対象に有効量のIL-2および樹状細胞の活性化因子を投与することを含む方法。
【請求項33】
前記免疫抑制性ウイルス感染がCMV感染またはHIV感染である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
免疫抑制性ウイルス感染を治療するための治療剤候補をスクリーニングする方法であって、被験薬剤の存在下および非存在下において免疫抑制性ウイルス感染に関係する免疫抑制性ウイルスと樹状細胞とをインキュベートすること、樹状細胞活性化に特異的な活性のレベルを測定することを含み、前記被験薬剤によって引き起こされる活性レベルの増加が、免疫抑制性ウイルス感染を治療するための治療剤候補であることの指標である方法。
【請求項35】
前記活性が、抗原取り込み、細胞表面タンパク質発現、微生物刺激に対する反応、サイトカインを産生する能力、およびT細胞を初回抗原刺激する能力からなる群から選択される、請求項34の記載の方法。
【請求項36】
前記被験薬剤が、化合物、小分子、ポリヌクレオチド、およびポリペプチドからなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記樹状細胞が未成熟樹状細胞である、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記樹状細胞がD1細胞である、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記免疫抑制性ウイルスがCMVまたはHIVである、請求項34に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9a】
image rotate

【図9b】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11a】
image rotate

【図11b】
image rotate

【図11c】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15a】
image rotate

【図15b】
image rotate

【図15c】
image rotate

【図15d】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2009−279004(P2009−279004A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176527(P2009−176527)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【分割の表示】特願2003−517256(P2003−517256)の分割
【原出願日】平成14年7月31日(2002.7.31)
【出願人】(504191534)セクメド・エス・アール・エル (1)
【Fターム(参考)】