説明

樹脂の入れ替え方法

【課題】線状体に樹脂を被覆する押出成形機において、樹脂の入れ替え時における樹脂の無駄を極力抑えて短時間で作業を完了することが可能な樹脂の入れ替え方法を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂の入れ替え方法は、押出機31から供給された樹脂Rをクロスヘッド32で心線2に塗布してケーブル1を製造する押出成形機12において樹脂Rを入れ替える際に、押出機31への樹脂Rの投入を停止した後に、剥離材として塊状のステアリン酸からなる油脂を押出機31に投入し、その後、新たな樹脂Rを押出機31に投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状体に樹脂を被覆する押出成形機における樹脂の入れ替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送電用・通信用のケーブルとしては、絶縁や保護のために、電線あるいは光ファイバ心線などの線状体の外周に熱可塑性樹脂等からなる樹脂を被覆している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の樹脂によって被覆されたケーブルを製造するには、押出機からクロスヘッドへ樹脂を供給しつつ、クロスヘッドのニップルによって導かれた線状体をダイスの孔に通すことにより、ダイスとニップルとの間に充填された樹脂を線状体に被覆する押出成形を行っている。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−119410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、線状体に被覆する樹脂を変更する場合、樹脂を供給する押出機へ新たな樹脂を投入し、この押出機から新たな樹脂をクロスヘッドへ送り込み、押出機及びクロスヘッド内から既存の樹脂を完全に押し出して新たな樹脂に入れ替える必要がある。
【0006】
しかしながら、樹脂は粘性が高いため、樹脂の流路の内面に付着してしまう。このため、新たな樹脂を押し出しても残留していた樹脂が僅かずつ混入して押し出される状態が続き、残留していた樹脂が完全に押し出されるまでに新たな樹脂を大量に供給しなければならなかった。また、その作業には長時間を要していた。
【0007】
そこで本発明は、線状体に樹脂を被覆する押出成形機において、樹脂の入れ替え時における樹脂の無駄を極力抑えて短時間で作業を完了することが可能な樹脂の入れ替え方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできる本発明の樹脂の入れ替え方法は、押出機から供給された樹脂をクロスヘッドで線状体に塗布して被覆線状体を製造する押出成形機における前記樹脂の入れ替え方法であって、前記押出機への樹脂の投入を停止した後に、塊状の油脂からなる剥離材を前記押出機に投入し、その後、新たな樹脂を前記押出機に投入することを特徴とする。
なお、前記油脂として、常温で固体である脂肪酸または脂肪酸塩を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂の入れ替え方法によれば、常温で固体である脂肪酸または脂肪酸塩等の塊状の油脂からなる剥離材を投入してから新たな樹脂を押出機に投入することで、剥離材が流路内で徐々に溶け出して流路内に付着していた樹脂を流路の内壁から剥離させていく。そのため、残留していた樹脂は剥離材とともに速やかに押し出され、完全に押し出されるまでに消費する新たな樹脂の量を大幅に減らすことができる。このように、本発明によれば樹脂の入れ替え時における樹脂の無駄を極力抑えて短時間で作業を完了することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る樹脂の入れ替え方法について図面を参照して説明する。
図1は本実施形態が適用される押出成形機の断面図である。
図1に示すように、押出成形機12は、押出機31及びクロスヘッド32から構成されている。押出機31は、加熱シリンダ33とスクリュ34とを備えている。押出機31は、加熱シリンダ33内に入れた樹脂Rを加熱して溶融させ、スクリュ34を回転させて加熱シリンダ33内の圧力を高め、この樹脂Rを、供給路35を介してクロスヘッド32の内部へと送り出す。
【0011】
クロスヘッド32は、ホルダ孔41を有するダイスホルダ42を備えており、このホルダ孔41には、後方側から円筒状のニップルホルダ43が挿入されている。ニップルホルダ43には、その先端近傍部分に、後端側を大径とすることにより係止段部43aが形成されており、ニップルホルダ43をダイスホルダ42のホルダ孔41へ挿入した際に、この係止段部43aが、ホルダ孔41の内周面に形成された係止突起42aに係止し、軸方向の位置決めが行われる。
【0012】
ニップルホルダ43とホルダ孔41との間には、その先端側において、円筒状に形成された樹脂供給流路51が形成されている。また、ダイスホルダ42には、連通路52が形成されている。この連通路52は、押出機31から樹脂Rが送り込まれる供給路35及び樹脂供給流路51にそれぞれ連通されている。
【0013】
これにより、押出機31から供給路35を介して供給される樹脂Rは、連通路52を介して樹脂供給流路51へ導入される。
ニップルホルダ43には、その先端部に、先細り形状のニップル61が保持されている。このニップル61には、その中心に、心線導入孔61aが形成されており、この心線導入孔61aには、線状体である心線2が挿通されるようになっている。
【0014】
このニップル61は、その後端部に、周方向へ沿って外周側へ突出した係止突条61bが形成されている。また、ニップルホルダ43には、その先端部における内径を小径とすることにより係合段部43bが形成されている。そして、このニップル61をニップルホルダ43の後端側から挿入すると、ニップル61の係止突条61bがニップルホルダ43の係合段部43bに係合し、ニップルホルダ43に対してニップル61が軸方向へ位置決めされる。
【0015】
また、ダイスホルダ42の先端側には、ニップル61側がすり鉢状に形成されたダイス62が保持されており、このダイス62とニップル61との間には、樹脂導入間隙63が形成されている。そして、円筒状の樹脂供給流路51に供給された樹脂Rが、樹脂導入間隙63に導入される。
【0016】
ダイス62には、成形するケーブル1の外径に合わせて形成されたダイス孔62aが形成されている。このダイス孔62aには、平面視にて、ニップル61の心線導入孔61aが中心に配置されている。これにより、心線導入孔61aから導き出された心線2が、樹脂導入間隙63へ導入される樹脂Rとともにダイス孔62aから押し出される。
【0017】
上記構成の押出成形機12では、押出成形機12の押出機31から供給路35、連通路52を介して円筒状の樹脂供給流路51へ樹脂Rが供給され、さらに樹脂Rは、この樹脂供給流路51から樹脂導入間隙63へ導入され、ニップル61の心線導入孔61aに挿通された心線2とともにダイス62のダイス孔62aから押し出される。これにより、中心に心線2が配置され、心線2の外周が樹脂Rによって被覆された被覆線状体であるケーブル1が押出成形される。
【0018】
次に、上記の押出成形機12における樹脂Rを変更すべく、押出成形機12内の樹脂Rの入れ替え作業を行う場合について説明する。
【0019】
まず、押出機31への樹脂Rの投入を停止した状態で、ダイス62を外してスクリュ34を回転させ、押出機31内の樹脂Rをクロスヘッド32へ送り出し、外部へ排出する。または、ダイス62を外さずにスクリュ34を回転させ、樹脂Rをダイス孔62aから外部へ排出する。
【0020】
次に、押出機31の加熱シリンダ33内に、塊状の油脂からなる所定量の剥離材を投入し、押出機31を作動させる。油脂が常温で塊状であるには、勿論常温で固体である。
【0021】
この剥離材として用いる油脂は、洗剤の材料となる脂肪酸または脂肪酸塩が好適である。例えば、ステアリン酸またはステアリン酸塩が好適であり、このステアリン酸またはステアリン酸塩を、所定の大きさの塊状に形成したものが用いられる。
【0022】
なお、このステアリン酸またはステアリン酸塩を所定の塊状とするには、例えば、所定の大きさの型に粉末のステアリン酸またはその塩を充填して押し固める。加熱して溶融させ、その後、冷却して固化させても良い。このようにすると、ステアリン酸またはその塩が所定の大きさの塊状の固形物とされる。
【0023】
また、剥離材の投入量は、押出機31の加熱シリンダ33の容積に応じて適切な量が調整されるが、スクリュ34の長さが100〜250cm、径が4.5〜9.0cmであれば数gの投入量で良く、例えば、スクリュ34の長さが145.0cm、径が6.0cmであれば、5g程度の投入量で良い。
【0024】
上記のように、押出機31内に所定量の塊状のステアリン酸を投入して押出機31を作動させると、押出機31内に投入された塊状のステアリン酸が加熱シリンダ33内の熱で徐々に溶融されながらスクリュ34によってクロスヘッド32側へ送り出され、押出機31内に残留している樹脂Rが供給路35からクロスヘッド32側へ押し出される。
【0025】
所定量の塊状のステアリン酸を押出機31の加熱シリンダ33内へ投入したら、変更する新たな樹脂Rを押出機31の加熱シリンダ33へ投入する。新たな樹脂Rを投入するタイミングは、ステアリン酸を投入した時点から、ステアリン酸と新たな樹脂Rがすぐに混ざらないような時間差をおいた時がよい。例えば、ステアリン酸を投入してから約5秒後とすればよい。
【0026】
このようにすると、この新たに投入した樹脂Rがスクリュ34によってクロスヘッド32側へ送り出され、これにより、ステアリン酸が溶融しつつ新たな樹脂Rによってクロスヘッド32の連通路52を介して円筒状の樹脂供給流路51へ押し込まれ、さらに、この樹脂供給流路51から樹脂導入間隙63へ押し込まれる。
【0027】
これにより、残留している既存の樹脂Rは、ステアリン酸とともにクロスヘッド32の樹脂供給流路51及び樹脂導入間隙63からダイス62のダイス孔62aへ押し出され、このダイス孔62aから外部へ押し出される。
【0028】
その後、クロスヘッド32へ押し込まれたステアリン酸は、新たな樹脂Rによってさらに押し出され、ダイス62のダイス孔62aから外部へ押し出される。このとき、クロスヘッド32の連通路52、樹脂供給流路51及び樹脂導入間隙63では、溶融したステアリン酸が通過することにより、内壁に付着して残留している既存の樹脂Rが剥離し、ステアリン酸とともにダイス孔62aから押し出される。
【0029】
なお、仮に押出機31内に粉末のステアリン酸を投入しても、加熱シリンダ33内ですぐに溶融してしまい、スクリュ34に噛み込まれずクロスヘッド32側へ送り出しにくくなる。そのため、本実施形態では塊状としたものを用いることで、徐々に溶融させながら、ある程度は固形のままクロスヘッド32内に送るため、塊全体が溶融するまでの時間を稼いで、クロスヘッド32内での剥離効果を十分に発揮できるようにしている。
【0030】
クロスヘッド32の連通路52、樹脂供給流路51及び樹脂導入間隙63が完全に新たな樹脂Rに入れ替わったら、ニップル61の心線導入孔61aに挿通させた心線2とともに新たな樹脂Rをダイス62のダイス孔62aから押し出す。これにより、中心に心線2が配置され、心線2の外周が新たな樹脂Rによって被覆されたケーブル1が押出成形される。
【0031】
ここで、加熱シリンダ33の長さが145.0cm、径が6.0cmの押出機31を備えた押出成形機12において樹脂Rを入れ替える際に、ステアリン酸を投入しなかった場合、新たな樹脂Rに完全に入れ替わるまでの押出時間に12分を要し、また、ダイス孔62aから排出された樹脂Rの量は6kgであった。これに対して、本実施形態のように、樹脂Rを入れ替える際に塊状のステアリン酸を5g投入すると、新たな樹脂Rに完全に入れ替わるまでの押出時間が2分程度に短縮され、また、このときのダイス孔62aから排出された樹脂Rの量は1kgに削減された。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の樹脂の入れ替え方法によれば、押出機31への樹脂Rの投入を停止した後に、塊状のステアリン酸を押出機31に投入し、その後、新たな樹脂Rを押出機31に投入することにより、ステアリン酸を徐々に溶かしつつ確実にクロスヘッド32内へ送り込んで、残留している既存の樹脂Rをステアリン酸によって極めて円滑に樹脂Rの流路の内壁から剥離させて排出させることができる。
【0033】
これにより、樹脂Rの入れ替え時における樹脂Rの無駄を極力抑えることができ、また、短時間で入れ替え作業を完了することができる。特に、ステアリン酸からなる塊状の油脂を剥離材として用いるため、樹脂Rの流路の内壁面に付着して残留した樹脂Rを剥離させる効果を、押出成形機12の流路全体にわたって発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る樹脂の入れ替え方法が適用される押出成形機の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ケーブル(被覆線状体)
2 心線(線状体)
12 押出成形機
31 押出機
32 クロスヘッド
R 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機から供給された樹脂をクロスヘッドで線状体に塗布して被覆線状体を製造する押出成形機における前記樹脂の入れ替え方法であって、
前記押出機への樹脂の投入を停止した後に、塊状の油脂からなる剥離材を前記押出機に投入し、その後、新たな樹脂を前記押出機に投入することを特徴とする樹脂の入れ替え方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂の入れ替え方法であって、
前記油脂として、常温で固体である脂肪酸または脂肪酸塩を用いることを特徴とする樹脂の入れ替え方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−250209(P2007−250209A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68109(P2006−68109)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】