説明

樹脂エマルジョン組成物及びその製造方法

【課題】従来の製造方法と比較して、重合時間を短縮することができ、粗粒子の混入を抑制できる樹脂エマルジョンの製造方法および粗粒子の混入が少ない樹脂エマルジョン組成物を提供する。
【解決手段】乳化剤を用いて乳化したビニル系単量体を乳化重合することにより樹脂エマルジョンを製造する方法において、乳化剤としてポリビニルアルコールを用い、乳化したビニル系単量体の液滴の粒子径を0.1〜500μmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合時間を短縮することができ、粗粒子の生成を抑制できる樹脂エマルジョンの製造方法および粗粒子の混入が少ない樹脂エマルジョン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂エマルジョンは水系で安全性が高く、取り扱いも容易なため、塗料、接着、粘着、製紙、繊維、土木などの用途に広範囲に利用されている。中でもポリビニルアルコール(以下PVAと略する)を保護コロイドとして乳化重合により合成された酢酸ビニル系樹脂エマルジョンは、木材、紙等の繊維質基材への密着性に優れ、適度な硬度を有する皮膜を形成するため、木工用、紙工用接着剤として盛んに利用されている。
【0003】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの製造方法としては、ポリビニルアルコール、界面活性剤などの乳化剤を水中に分散させた後、酢酸ビニル及び重合開始剤を添加する方法が用いられている。重合に要する時間は、重合に供する酢酸ビニルの量、共重合単量体の種類や量、乳化剤の種類や量、重合温度、重合開始剤の種類や量、助触媒の添加などの条件により変動するものの、概ね2〜5時間程度が必要であったため、生産効率向上のために重合時間の短縮化が望まれていたものの有効な方法が見出されていなかった。
【0004】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの重合時間を短縮できない原因としては、酢酸ビニルの沸点が72℃と低く、重合中の濃度が一定以上になると揮発し易くなるため、重合場での濃度を上げられないことが挙げられる。また、気化熱により重合系中の温度が低下するため、この点も重合速度を低下させる原因と考えられる。また、外部から熱を加えることにより温度低下を防ごうとした場合、熱と接触する部位、例えばジャケットによる加熱の場合は壁部が局所的に高温となるため、さらに酢酸ビニルが揮発し易くなる。また、液面が壁面と接触する部位での皮ばりが発生しやすくなり、樹脂エマルジョン中に異物として混入したり、重合容器の洗浄に時間がかかるなどの問題も発生していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は重合時間を短縮することができ、粗粒子の生成を抑制できる樹脂エマルジョンの製造方法および粗粒子の混入が少ない樹脂エマルジョン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、予め乳化剤を用いて乳化したビニル系単量体を重合系に供することにより、ビニル系単量体の揮発を抑制し、重合時間を短縮できるのではないかとの着想に基づき、鋭意検討を行った。その結果、乳化したビニル系単量体の液滴を一定条件に制御することにより重合時間を短縮できることを見出した。さらに、得られた樹脂エマルジョン中に含まれる粗粒子が大幅に低減していることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
請求項1記載の発明は、乳化剤を用いて乳化したビニル系単量体を乳化重合することにより樹脂エマルジョンを製造する方法であって、乳化したビニル系単量体の液滴の粒子径が0.1〜500μmであることを特徴とする樹脂エマルジョンの製造方法である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記乳化剤としてポリビニルアルコールを含有し、前記ビニル系単量体として酢酸ビニルを含有することを特徴とする請求項1記載の樹脂エマルジョンの製造方法である。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の樹脂エマルジョンの製造方法を用いて製造された樹脂エマルジョンである。
【0010】
なお、本発明者らが先行技術を調査したところ、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの重合において、予めPVAなどの乳化剤で乳化した酢酸ビニルを乳化する方法が用いられていた。しかしながら、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの重合は高圧のエチレン分圧下で行われるため、酢酸ビニルモノマーの沸点は相当上昇し、酢酸ビニルの揮発は特に問題とはならなかった。また、重合時間は10時間程度と長く、本発明の課題である重合時間の短縮を示唆するものではなかった。
【特許文献1】特許第2657600号公報
【特許文献2】特公平6−55874号公報
【発明の効果】
【0011】
本発明からなる樹脂エマルジョンの製造方法によって、重合時間の短縮化が可能であり生産性が向上する。また、重合容器に付着する樹脂分が少なく、洗浄が容易である。さらに、本発明からなる樹脂エマルジョンの製造方法を用いて製造された樹脂エマルジョンは粗粒子の含有量が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書中において、アクリルとメタクリルを総称して(メタ)アクリルと表記することがある。本発明における樹脂エマルジョンの製造において、乳化重合可能な公知のビニル系単量体を用いることができる。具体的には、酢酸ビニル、エチレン、(メタ)アクリル酸エステル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(N−メチロール)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸グリシジル、スチレンなどが挙げられる。ビニル系単量体として、酢酸ビニルを含有していることが好ましく、ビニル系単量体中の酢酸ビニルの割合が90重量%以上であることがより好ましく、ビニル系単量体中の酢酸ビニルの割合が95重量%以上であることがさらに好ましい。これは、本発明は沸点が低く揮発し易いビニル系単量体である酢酸ビニルを多く含有する場合に、より顕著に効果が現れるためである。
【0013】
ビニル系単量体を乳化するための乳化剤としては、PVA、多糖類、セルロース誘導体などの水溶性高分子や界面活性剤などが挙げられ、ビニル系単量体の組成に応じて適宜選択することができる。PVAはけん化度86〜99.5%程度、重合度300〜4000程度のものが好ましく、カルボキシル基、アセトアセチル基などを導入した変成PVAであっても良い。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを用いることができ、分子内に不飽和基を有する反応性界面活性剤であっても良い。ビニル系単量体として酢酸ビニルを用いる場合、PVAを単独で用いるか、あるいはノニオン性界面活性剤を併用することが好ましい。また、予めビニル系単量体を乳化する際に用いる乳化剤組成とは異なる組成の乳化剤を別途重合系に予め添加したり、重合中または重合後に添加することもできる。
【0014】
ビニル系単量体の乳化における乳化剤の使用量は、それぞれの組み合わせにより異なるものの、ビニル系単量体100重量部に対して、乳化剤の固形分を基準として0.1〜20重量部程度とするのが好ましく、0.3〜10重量部がより好ましい。0.1重量部未満ではビニル系単量体を十分に乳化することができず、20重量部を超えると重合生成物の耐水性が低下する。
【0015】
本発明の乳化工程について、一旦乳化剤を水に均一に溶解させる方法が好ましい。酢酸ビニルモノマーと乳化剤溶液の比については、酢酸ビニルモノマー100重量部に対して乳化剤溶液が10〜300重量部とするのが好ましく、15〜200重量部とするのがより好ましく、20〜100重量部とするのがさらに好ましい。10重量部未満の場合は得られる乳化モノマー溶液の粘度が高くなるため移送等の取り扱いが難しくなる。また、300重量部を超える場合は得られる重合生成物の不揮発分も低くなり、使用に適さない場合がある。
【0016】
ビニル系単量体と乳化剤溶液の混合、乳化については両者の存在下、適当なせん断力を有する攪拌を加えれば良い。例えば、両者を混合後、二層に分かれるまで一旦静置し、その後界面のやや下で攪拌を始め、界面の乳化状態を確認しながら次第に攪拌を強くして全体を乳化する方法が用いられる。また、ビニル系単量体および/または乳化剤溶液を追加しながら乳化を行っても良い。さらに、両者を重合系に添加する際、ライン中で乳化しても良い。本発明における乳化したビニル系単量体の液滴の粒子径は、0.1〜500μmであることが必要である。液滴の粒子径が0.1μm未満の場合、粘度が高くなり移送などの取り扱いが困難になる。500μmを超える場合、重合時間を短縮する効果が得られない。液滴の粒子径は、用いるビニル系単量体の組成に応じた乳化剤の種類や量、攪拌手段、攪拌速度、攪拌時間などの選択を行うことにより、好ましい範囲に調整することができる。
【0017】
本発明の乳化重合に用いられる重合開始剤は、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩、アゾビスイソブチルニトリルなどのアゾ系化合物が挙げられる。また、酒石酸、アスコルビン酸などの還元剤を併用してレドックス系としても利用できる。この他に、重合調整剤としてチオグリコール酸、ブチルメルカプタン、ドテシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタンなどを使用しても良い。
【0018】
本発明の乳化重合は、反応容器に水、必要に応じて乳化剤などを仕込み、重合に適した所定温度にする。その後、乳化したビニル系単量体と重合開始剤を添加することにより行われる。乳化したビニル系単量体、重合開始剤、その他任意の添加剤の添加方法については特に限定はなく、一括、分割、連続等の方法により添加することができる。また、コア−シェル重合を行うなどの目的により、乳化したビニル系単量体とは異なる組成のビニル系単量体を添加することができ、乳化したビニル系単量体とは異なる工程から添加しても良いし、乳化したビニル系単量体とは異なるタイミングで添加しても良い。なお、重合に供する全てのビニル系単量体が予め乳化剤により乳化されていなくても良い。さらに、反応容器に予め他の樹脂エマルジョンを添加し、他の樹脂エマルジョンの存在下で乳化重合を行っても良い。
【0019】
本発明の重合方法によれば重合時間を短縮することができ、得られた樹脂エマルジョンは粗粒子が少ないという特徴を有する。なお、樹脂エマルジョンの使用形態に応じて、粘着付与樹脂、充填剤、増粘剤、分散剤、レベリング剤、耐水化剤、防腐剤、消泡剤、界面活性剤、架橋剤などを添加することができる。
【0020】
以下、実施例、比較例により本発明を更に説明する。なお表1に表示する配合量は重量部である。また、当然のことながら本発明は実施例、比較例に制約されるものではない。
【実施例】
【0021】
乳化モノマーAの調製
PVAとしてB−05(電気化学工業株式会社製、平均重合度500、ケン化度86.5〜89.5%、商品名)3部を水40部に溶解させてPVA水溶液を調製し、酢酸ビニル100部を混合して攪拌することにより、乳化モノマーAを調製した。乳化した酢酸ビニルの液滴を光学顕微鏡で観察したところ、その大きさは5〜30μm程度であった。
【0022】
乳化モノマーBの調製
乳化モノマーAの調製において、B−05を0.8部とした他は同様に調製を行い、乳化モノマーBを調製した。液滴は20〜500μmであった。
【0023】
乳化モノマーCの調製
乳化モノマーAの調製において、B−05を6部とした他は同様に調製を行い、乳化モノマーCを調製した。液滴は0.1〜10μmであった。
【0024】
乳化モノマーDの調製
乳化モノマーAの調製において、モノマーを酢酸ビニル97部およびアクリル酸(80%水溶液)3部とした他は同様に調製を行い、乳化モノマーDを調製した。液滴は10〜30μmであった。
【0025】
乳化モノマーEの調製
乳化モノマーAの調製において、B−05を0.3部とした他は同様に調製を行い、乳化モノマーEを調製した。確認できた液滴は600〜2000μmであったが、観察中にも経時で液滴が破壊して酢酸ビニルとPVA溶液に分離していく状態であった。
【0026】
実施例1
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコに水203部、PVAとしてB−05を6部、B−24N(電気化学工業株式会社製、平均重合度2400、ケン化度86〜89%、商品名)15部を仕込んで80℃に加熱して溶解させた後、酒石酸0.4部を添加した。80℃に保った状態で水20部に35%過酸化水素水溶液1.3部を溶解させた重合開始剤水溶液と前記乳化モノマーA256部を1時間かけて添加して乳化重合を行い、樹脂エマルジョンを得た。
【0027】
実施例2
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコに水203部、PVAとしてB−05 14部、B−24N 15部を仕込んで80℃に加熱して溶解させた後、酒石酸0.4部を添加した。80℃に保った状態で水20部に35%過酸化水素水溶液1.3部を溶解させた重合開始剤水溶液と前記乳化モノマーB256部を1時間かけて添加して乳化重合を行い、樹脂エマルジョンを得た。
【0028】
実施例3
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコに水203部、PVAとしてB−05 4部、B−24N 15部を仕込んで80℃に加熱して溶解させた後、酒石酸0.4部を添加した。80℃に保った状態で水20部に35%過酸化水素水溶液1.3部を溶解させた重合開始剤水溶液と前記乳化モノマーC256部を1時間かけて添加して乳化重合を行い、樹脂エマルジョンを得た。
【0029】
実施例4
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコに水203部、PVAとしてB−05 6部、B−24N 15部を仕込んで80℃に加熱して溶解させた後、酒石酸0.4部を添加した。80℃に保った状態で水20部に35%過酸化水素水溶液1.3部を溶解させた重合開始剤水溶液と前記乳化モノマーD256部を1時間かけて添加して乳化重合を行い、樹脂エマルジョンを得た。
【0030】
比較例1
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコに水277部、PVAとしてB−05 15部、B−24N 15部を仕込んで80℃に加熱して溶解させた後、酒石酸0.4部を添加した。80℃に保った状態で水20部に35%過酸化水素水溶液1.3部を溶解させた重合開始剤水溶液と酢酸ビニル186部を添加して乳化重合を行った。重合系の温度および酢酸ビニルの還流量を確認しながら重合を進めたところ、重合開始剤水溶液と酢酸ビニルの添加には2.5時間を要し、樹脂エマルジョンを得た。
【0031】
比較例2
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコに水277部、PVAとしてB−05 15部、B−24N 15部を仕込んで80℃に加熱して溶解させた後、酒石酸0.4部を添加した。80℃に保った状態で水20部に35%過酸化水素水溶液1.3部を溶解させた重合開始剤水溶液と酢酸ビニル186部を1時間で添加して乳化重合を行い、樹脂エマルジョンを得た。重合中は酢酸ビニルが多量に還流し、気化した酢酸ビニルが細かい泡となって入り込んで液面を押し上げる現象が見られた。また、重合系の温度低下が著しく、断続的に加温が必要な状況であった。
【0032】
比較例3
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコに水203部、PVAとしてB−05 10部、B−24N 15部を仕込んで80℃に加熱して溶解させた後、酒石酸0.4部を添加した。80℃に保った状態で水20部に35%過酸化水素水溶液1.3部を溶解させた重合開始剤水溶液と前記乳化モノマーE226部を添加して乳化重合を行った。重合系の温度および酢酸ビニルの還流量を確認しながら重合を進めたところ、重合開始剤水溶液と酢酸ビニルの添加には2.3時間を要し、樹脂エマルジョンを得た。
【0033】
各実施例、比較例の樹脂エマルジョンついて、以下の評価を行った結果を表1に示した。
重合時間
モノマーの添加時間(h)。
重合率
JISK6833に準じて、樹脂エマルジョンの不揮発分を測定した。樹脂エマルジョンの揮発分は水および未反応の酢酸ビニルであるため、以下の式によって酢酸ビニルの重合率(%)を求めた。
【数1】

粗粒子
樹脂エマルジョンをガラス板上に薄く塗布し、粗粒子の有無を確認した。
容器の状態:重合後の重合容器を観察し、樹脂の付着度合いを確認した。
○ 樹脂の付着が軽微であり、洗浄が容易
△ 樹脂の付着が中程度である、普通の洗浄性
× 樹脂の付着が多く、洗浄が困難
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明になる樹脂エマルジョンの製造方法は、重合時間を短縮することができ、容器への樹脂の付着が少ないため洗浄が容易であり、生産効率の向上に有効である。また、本発明になる樹脂エマルジョンの製造方法を用いて製造された樹脂エマルジョンは粗粒が生成せず、塗料、接着、粘着、製紙、繊維、土木などの用途に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤を用いて乳化したビニル系単量体を重合することにより樹脂エマルジョンを製造する方法であって、乳化したビニル系単量体の液滴の粒子径が0.1〜500μmであることを特徴とする樹脂エマルジョンの製造方法。
【請求項2】
前記乳化剤としてポリビニルアルコールを含有し、前記ビニル系単量体中の酢酸ビニルの割合が90重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の樹脂エマルジョンの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の樹脂エマルジョンの製造方法を用いて製造された樹脂エマルジョン。