説明

樹脂シートの成形方法

【課題】 加熱軟化させた熱可塑性樹脂シートを成形型で成形する際、シートの局部的な伸びを抑制し、厚みが不均一になるのを防止するとともに、加飾が施されているシートの場合は、見栄えが低下するような不具合を防止する。
【解決手段】 加熱軟化させた樹脂シートWを第1成形型1の上から降下させ、シートWの一部が成形面の突出部1tに接触した際、シートWの他の一部が第1、第2コア4、6に保持されて、突出部1t近傍のシートWが成形面に非接触状態となって型締めされるようにし、その後、第2コア6を突出部1t側に移動させて非接触部のシートWにゆとりを持たせながら、第1成形型1に真空引きして成形面に密着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂シートを加熱軟化させて成形型で成形する成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、熱可塑性樹脂シートを所望形状に成形する際、加熱軟化させたシートを成形型の上方から降下させてゆき、シートを成形型の成形面上に載置して真空引きまたは型締め等により成形面に密着させ、所望の形状に成形するようにしている。この成形時に、シートが伸ばされる率が大きい箇所では、シートが薄くなる等の不具合が発生し、また、シートとしてシボ模様や梨地模様等で加飾されたシートを使用するときは、伸長率の大きい部位のシボの残存深さが浅くなったり、シボパターンが大きくなったり、シートの表面艶が他の部位に較べて光沢が生じたりする等の不具合が生じ易くなる。
【0003】
このため、加熱軟化させたシートを成形型に当接する過程において、シートが最も伸長しやすい部分が過度に伸長しないようにするため、シートの周縁部に対応する成形型に肩部を設ける一方、シートの周縁部を肩部に向けて押圧することのできる押圧部材を設け、成形型の成形面にシートを当接させる際、押圧部材によってシートを肩部に向けて押圧することにより、押圧部位より内側の成形部側のシートの伸長を阻止するような技術(例えば、特許文献1参照。)が知られている。なお、この技術では、シートに対する押圧部材の接触部が左右側方にずれないよう、押圧部材はリンク機構として構成されている。
【特許文献1】特開平6−55625号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記技術では成形型にシートを当接させる段階で、シートの端部を押圧部材によって肩部に押圧し、それより内側の成形部側の伸長を阻止するようにしているが、押圧部材の押圧位置が固定されているため、その後、真空引き等によってシートを成形面に密着させる段階では、押圧部材より内側のシートの伸長を阻止することはできず、シートの伸長率防止に限界がある。
【0005】
そこで本発明は、シートの局部的な伸びを一層抑制し、厚みが不均一になるのを防止するとともに、加飾が施されているシートの場合は、見栄えが低下する等の不具合を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、加熱軟化させた熱可塑性樹脂シートを成形型の上方から降下させ、成形型の成形面上に密着させて成形する樹脂シートの成形方法において、前記熱可塑性樹脂シートを降下させ、前記成形面の突出部にシートの一部が接触した段階で、シートの突出部近傍の少なくとも一部を成形面に対して非接触状態にすることで該突出部近傍の一部のシートを張った状態にして型締めし、次いで、前記非接触状態のシート端部を、成形型に設けたシート保持部材で保持しつつ該シート保持材を前記突出部側に移動させ、非接触状態のシートを成形面に接触させるようにした。
【0007】
すなわち、シートの伸長率が最も大きくなる部位は、一般的に、成形面のうち、急激に突出する突出部近傍でシートに対して大きな角度で交差する側壁部分である。そこで、このような大きな角度で交差する側壁部分に対しては、シートを非接触にして張った状態で型締めし、その後、非接触のシート端部を保持するシート保持部材を突出部側に移動させれば、同部のシートにゆとりができ(成形に必要な量のシートを補充するようなイメージ)、局部的な伸びが緩和される。
なお、この際、シート保持部材で保持されるシートの保持部より外側部分(突出部とは反対側部分)は伸ばされるため、この部分が非製品部(意匠外部分)になるようにしておけば好ましい。
【発明の効果】
【0008】
加熱軟化させた熱可塑性樹脂シートを成形型で成形するにあたり、成形型の突出部にシートが接触した段階で、シートの突出部近傍の一部を成形面に対して非接触状態にし、その後、この非接触状態のシート端部を保持するシート保持部材を突出部側に移動させれば、最初に非接触であったシート部分にゆとりが生じ、伸び率を抑えることができて、局所的な伸びによる成形不良が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで図1は本発明に係る成形方法が適用される成形型の一部を示す説明図、図2は本成形方法の説明図である。
【0010】
本発明に係る樹脂シートの成形方法は、熱可塑性樹脂シートを加熱軟化させ、成形型の成形面に倣って成形するにあたり、成形形状が複雑で局部的な伸びが生じ易い場合でも、それを抑制して見栄えの低下が生じないようになれており、特にシートが伸び易い箇所のシートにゆとりを持たせて成形することを特徴としている。
【0011】
そこで、まず、本成形方法が採用される成形型の概要について図1に基づき説明する。
本成形型は、加熱軟化される熱可塑性樹脂シートを真空成形するための真空成形型として構成され、図1に示すように、表面に突出部1tを有する成形面を備え且つ成形面に多数の真空引き孔が形成される第1成形型1と、第1成形型1の上方で上下動自在な第2成形型2と、シートWの周縁部を把持する把持枠3を備えており、この把持枠3は、第1、第2成形型1、2の間に配置されるとともに、第1成形型1に対して上下動自在にされている。
【0012】
前記第1成形型1には、第1コア4が設けられ、この第1コア4は、ガイド部材5に沿って水平方向にスライド自在にされるとともに、通常時は、不図示の復元機構により、図1に示す左方の位置に移動し待機している。
【0013】
前記第2成形型2には、型本体に対して水平方向にスライド自在な第2コア6が設けられ、第2成形型2が降下すると、第2コア6が第1コア4の外側近傍に降下し、第2コア6が成形面側に向けて水平内側にスライドすると、第1コア4を押圧して第1コア4と一緒にスライドするようにされている。
【0014】
以上のような成形型を使用した本成形方法について、図2に基づき説明する。
把持枠3で把持するTPO、PPシート等の熱可塑性シートWで、凹凸模様や、皮模様や、幾何学模様等のシボ模様や、梨地仕上げ等で加飾されたものを約180℃程度の成形可能な温度に加温した後、第2成形型2と把持枠3を降下させることにより、シートWを第1成形型1に当接させる。すると、図2(a)に示すように、シートWは最初に成形面の突出部1tに当接する。なお、この時の第1成形型1の金型温度は約70℃程度のシートが固化可能な温度である。
【0015】
そして、第2成形型2と把持枠3を更に降下させると、図2(b)に示すように、シートWの一部が第1成形型1の第1コア4と、第2成形型2の第2コア6により挟み込まれた状態で保持され、型締めが終了した段階では、突出部1tの頂点と、第1、第2コア4、6の保持部との間のシートWが、成形面とは非接触で引張られた状態になる。なお、この箇所は、通常であればシートWの伸長率が最も大きい箇所である。
【0016】
次いで、図2(c)に示すように、第2コア6を前進させると、シートWの一部を挟んで第1コア4も押されて、突出部1tの頂点と、第1、第2コア4、6の保持部との間のシートWが成形面に近づくようになる。そして、第1成形型1の真空引き孔から真空引きすれば、突出部1tの頂点と、第1、第2コア4、6の保持部との間のシートWが大きく伸ばされることなく、同部の薄肉化が防止されるとともに、シボ模様等のシボ深さやパターンが変化したり、光沢に差が生じたりするような不具合を防止できる。
【0017】
一方、第1、第2コア4、6の保持部より外側部分(図の左方部分)のシートWは、伸びが大きくなり、薄肉化や品質低下が生じ易くなるが、本実施例では、この部分は製品面部外の非製品部であり、後からトリミングで除去するため、外観品質の悪化はない。
以上のような要領により、製品面部のうちシートWが一番伸び易い部分の伸びが抑制され、薄肉化が防止されるとともに、シボ模様の変化のなくなり、成形品質を高めることができる。
【0018】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば、熱可塑性樹脂シートWの素材等は任意であり、また、第1成形型1の成形面の形状等は例示である。
更に、本成形方法は真空成形に限られるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
加熱軟化させた熱可塑性樹脂シートを成形型で成形する際、局部的な伸びを抑制して、薄肉化が生じるのを防止するとともに、シボ模様の変化等の成形不良を防止して品質のよい成形品を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る成形方法が適用される成形型の一部を示す説明図
【図2】本成形方法の説明図
【符号の説明】
【0021】
1…第1成形型、1t…突出部、2…第2成形型、4…第1コア、6…第2コア、W…樹脂シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱軟化させた熱可塑性樹脂シートを成形型の上方から降下させ、成形型の成形面上に密着させて成形する樹脂シートの成形方法であって、前記熱可塑性樹脂シートを降下させ、前記成形面の突出部にシートの一部が接触した段階で、シートの突出部近傍の少なくとも一部を成形面に対して非接触状態にすることで該突出部近傍の一部のシートを張った状態にして型締めする工程と、前記非接触状態のシート端部を、成形型に設けたシート保持部材で保持しつつ該シート保持材を前記突出部側に移動させ、非接触状態のシートを成形面に接触させる工程を備えたことを特徴とする樹脂シートの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−281708(P2006−281708A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107835(P2005−107835)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】