説明

樹脂スラリーの処理方法

【課題】樹脂スラリーを効果的に熱交換し、安定した樹脂スラリーの処理方法を提供する。
【解決手段】樹脂スラリーを熱交換するにあたり、熱交換器として、スパイラル式熱交換器を使用して熱交換を行うことを特徴とする樹脂スラリーの処理方法であり、好ましくは、ポリアリーレンスルフィド樹脂スラリーなどを150℃以上の温度に加熱し、冷却後、固液分離を行うスラリー処理方法であって、加熱及び冷却にスパイラル式熱交換器を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂スラリーの処理方法に関し、特にポリアリーレンスルフィド樹脂スラリーの熱交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気的特性及び寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックであり、射出成形、押出成形及び圧縮成型などの各種成型法により、各種成型品、フィルム、シート及び繊維などに成型可能であるため、電気・電子機器や自動車機器などの広範囲な分野において幅広く用いられている。
【0003】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は一般に射出成形時に発生する不純物によって金型内に付着した物質によって金型メンテナンス回数が多いなどの問題やプロジェクター、プロジェクションTVなど高温で使用されている部品においては、高温使用時にポリアリーレンスルフィド樹脂から発生する不純物によってレンズを曇らせてしまうという問題があり、これら不純物の削減についてはこれまでにも多くの検討がなされてきた。しかしながら、これら検討において熱交換方法、条件を規定した検討は数少ない。
【0004】
特許文献1には、ポリアリーレンスルフィド樹脂を130℃以上の熱水でスラリー処理後、固液分離を行い、更に130℃以上の酸でスラリー処理する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、二重管式熱交換器を用いてポリアリーレンスルフィド樹脂のスラリーを熱交換することが開示されている。また、熱交換方法として、処理スラリーの一部の加熱及び冷却に熱交換媒体の閉サイクルを利用する記載がある。
【特許文献1】特開平14−293934号公報
【特許文献2】特公平5−29649公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、ポリアリーレンスルフィド樹脂の不純物を削減させることができるが、高温でのスラリー処理における熱交換の方法に関する記載はなく、効率良くスラリー処理する上で課題があった。
【0007】
一般に液の加熱、冷却用の熱交換器としては多管式熱交換器が用いられる。しかし、この多管式熱交換器を用いてポリアリーレンスルフィド樹脂のスラリーを熱交換すると、ポリアリーレンスルフィド樹脂と溶媒との比重差によりポリアリーレンスルフィド樹脂の沈降、滞留が起こり、局所的にスラリー濃度が上昇することに起因する熱交換器内部の閉塞に至り、長期にわたる安定運転ができないという課題があった。
【0008】
熱交換器内での閉塞を防止する対策として、液流路を単一流路とし、かつ、熱交換器内での液滞留部を極力低減することが望ましいとされている。しかし、特許文献2記載の二重管式熱交換器を使用した場合も、液滞留時間が増大する、必要敷地面積が増大するなどの問題が有り、好ましくない。
【0009】
本発明は、かかる課題を鑑み、ポリアリーレンスルフィド樹脂などの樹脂スラリーを効率良く熱交換し、安定した樹脂スラリーの処理方法に関するもので、ポリアリーレンスルフィド樹脂などに含まれる不純物を効率良く取り除くことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ポリアリーレンスルフィド樹脂などのスラリーの処理方法にスパイラル式熱交換器を使用することで、上記課題を解決することを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)樹脂スラリーを熱交換するにあたり、熱交換器として、スパイラル式熱交換器を使用して熱交換を行うことを特徴とする樹脂スラリーの処理方法
(2)樹脂スラリーがポリアリーレンスルフィド樹脂スラリーであることを特徴とする(1)記載の樹脂スラリーの処理方法
(3)樹脂スラリーを150℃以上の温度に加熱し、冷却後、固液分離を行うスラリー処理方法であって、加熱及び冷却にスパイラル式熱交換器を使用することを特徴とする(1)または(2)記載の樹脂スラリーの処理方法
(4)ポリアリーレンスルフィド樹脂が重合終了後にフラッシュ法で回収されたポリアリーレンスルフィド樹脂であることを特徴とする(2)または(3)記載の樹脂スラリーの処理方法
(5)スパイラル式熱交換器が横型スパイラル式熱交換器であることを特徴とする(1)から(4)のいずれか記載の樹脂スラリーの処理方法
(6)加熱前の樹脂スラリーを加熱された樹脂スラリーで熱交換することを特徴とする(1)から(5)のいずれか記載の樹脂スラリーの処理方法
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、ポリアリーレンスルフィド樹脂などの樹脂スラリーを熱交換する際の詰まりを防止し、必要敷地面積小、製造コスト小で、大量処理が可能になった。更に、スパイラル式熱交換器を使用することで、熱交換時に粒子と管壁、あるいは粒子同士の衝突頻度が増し、ポリアリーレンスルフィド樹脂中に含まれる水溶性不純物を効率的良く除去することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の処理方法は種々の樹脂スラリーに適用できるが、特にポリアリーレンスルフィド樹脂スラリーの処理に好適である。以下、代表的な例として、ポリアリーレンスルフィド樹脂の処理方法について説明する。
【0014】
ポリアリーレンスルフィド樹脂とは、下記式で表される繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたは、
【0015】
【化1】

【0016】
上記繰り返し単位と、上記繰り返し単位1モル当たり、1モル以下、好ましくは0.3モル以下の下記繰り返し単位とからなる共重合体である。
【0017】
【化2】

【0018】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリハロゲン化芳香族化合物およびスルフィド化剤を有機極性溶媒中で重合するなどの方法で得られる。スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物などが使用できる。
【0019】
[アルカリ金属硫化物]
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化リチウム、硫化ルビジウムおよび硫化セシウムなどが挙げられ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0020】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウムおよび水硫化セシウムなどが挙げられ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物、水溶液として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0021】
硫黄源の添加時期には特に制限は無く、後述する前工程、重合工程いずれの段階でも系内に導入可能であるが、重合工程の前までに導入するのが最も好ましい。
【0022】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物の具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1,4−ジクロロナフタレン、1,5−ジクロロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロビフェニル、3,5−ジクロロ安息香酸、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、および4,4’−ジクロロジフェニルケトンなどが挙げられ、これらのなかでもp−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、および4,4’−ジクロロジフェニルケトンなどが好ましく用いられ、特にp−ジクロロベンゼンが更に好ましく用いられる。なお、異なる2種類以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることももちろん可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0023】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のポリアリーレンスルフィド樹脂を得る点から、硫黄成分1モルに対して0.1から3モル、好ましくは0.5から2モル、更に好ましくは0.9から1.2モルの範囲である。
【0024】
ポリハロゲン化芳香族化合物の添加時期には特に制限はないが、重合工程の前に系内に導入することが好ましい。
【0025】
[有機極性溶媒]
有機極性溶媒の具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホンおよびテトラメチレンスルホキシドなどが挙げられ、なかでもN−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。
【0026】
有機極性溶媒の使用量は、反応系の有機極性溶媒量が、硫黄成分1モルに対して0.8から10モル、好ましくは2から8モル、より好ましくは3から7モルの範囲である。有機極性溶媒量が上記の範囲未満では、好ましくない反応が起こりやすくなり、上記の範囲を越えると、重合度が上がりにくくなる。
【0027】
有機極性溶媒の添加時期には特に制限はないが、重合工程の前までに系内に導入することが好ましい。
【0028】
[重合安定剤]
ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合においては、系内を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制することができる。重合安定剤としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、及びアルカリ土類金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属塩を併用することも可能である。なかでも、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物が好ましい。
【0029】
アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウムなどが挙げられ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムおよび水酸化マグネシウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
重合安定剤の導入時期については特に制限はないが、重合工程の前までに系内に導入することが好ましい。 このアルカリ金属塩の使用量としては、硫黄成分1モルに対して1モルから2モル、好ましくは1.005モルから1.5モル、更に好ましくは1.01モルから1.2モルの範囲が好ましい。
【0030】
[重合助剤]
ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合には、必要に応じて重合助剤を用いることができる。ここで、重合助剤とは、得られるポリマー粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。
【0031】
このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独または2種以上を同時に用いることができる。なかでも有機カルボン酸塩や水が好ましく用いられる。
【0032】
有機カルボン酸塩の具体例としては、式R(COOM)(式中Rは炭素数1から20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基であり、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である)により表される化合物が挙げられる。より具体的には、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウムおよびp−トルイル酸ナトリウムなどが挙げられる。有機カルボン酸塩は、有機極性溶媒中で有機カルボン酸とアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩よりなる群から選ばれる1種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して、反応させることにより形成させてもよい。有機カルボン酸塩は1種または2種以上を同時に用いることができる。なかでも酢酸リチウムおよび/または酢酸ナトリウムが好ましく用いられ、安価で入手しやすいことから酢酸ナトリウムがより好ましく用いられる。
【0033】
水は有機金属カルボン酸塩水和物または水溶液、アルカリ金属硫化物の水和物または水溶液、およびアルカリ金属水硫化物の水溶液として反応系内に存在するもの、あるいは反応系内に直接添加するもののいずれか一方でも両方でもよい。
【0034】
重合助剤を系内に導入する時期については特に制限はなく、前工程、重合工程のいずれの段階であっても系内に導入することが可能である。
【0035】
この重合助剤の使用量としては、好ましくは硫黄成分1モルに対して0.01モルから20モルであり、より好ましくは硫黄成分1モルに対して0.04モルから15モルであり、更に好ましくは硫黄成分1モルに対して0.07モルから15モルである。0.01モルよりも少ないとポリマー粘度を増大の効果を得ることができず、20モルよりも多いと重合速度が遅くなり、生産性が悪くなるため好ましくない。
【0036】
[前工程]
重合工程の前に、硫黄源、ポリハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒、必要に応じて重合安定剤および重合助剤を加え、好ましくは不活性ガス雰囲気下で、常温から220℃の範囲で脱水反応を行い、反応系内の水分量の調節を行ってもよい。
【0037】
ここでいう反応系の水分量とは、原料仕込み時に水溶液および水和物として反応系内に導入した水分量から、反応系外に除去された水分量を差し引いた量である。この量に特に制限はないが、特に仕込みの硫黄成分1モルに対して、好ましくは0モルから2モルの範囲であることが、重合速度、副生成物抑制の点から好ましい。
【0038】
[重合工程]
重合温度は、特に規定はないが、好ましくは210℃から300℃であり、より好ましくは220℃から290℃であり、更に好ましくは225℃から285℃である。210℃よりも重合温度が低いと重合が不十分となり、目的のポリアリーレンスルフィド樹脂を得ることができず、300℃よりも重合温度が高いと分解が発生し、好ましくない。
【0039】
重合時間は、他の反応条件によって広く変化するため特に規定はないが、一般には、0.01時間から10時間、好ましくは0.2時間から7時間、さらに好ましくは0.5時間から5時間の範囲内である。重合時間が0.01時間よりも短いと重合度が上がらず、10時間よりも長いと生産性が悪くなり好ましくない。
【0040】
そして、この重合は一般に、窒素のような不活性雰囲気下で行われるのが好ましい。
【0041】
[回収方法]
ポリアリーレンスルフィド樹脂は重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。
【0042】
フラッシュ法は、溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、回収時間も比較的短くできることから、経済性に優れた回収方法である。
一方、クウェンチ法は、重合反応物を、除冷して粒子状のポリアリーレンスルフィド樹脂を回収する方法である。
【0043】
但し、本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の回収法はどちらかに限定されるものではなく、どちらの回収方法でも良い。しかし、経済性、性能を鑑みた場合、フラッシュ法で回収されたものを用いることが工業的に有利である。
【0044】
フラッシュ法で回収された固形物は、ポリマーと共に副生成物を大量に含むため、水でスラリー化した後、固液分離し、ポリマーを得ることができる。この時のスラリー濃度は、水が多い方が好ましいが、通常スラリー濃度5質量%から20質量%、好ましくは10質量%から15質量%である。この処理に続いて、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0045】
[スラリー処理]
ポリアリーレンスルフィド樹脂は重合終了後、得られたポリマーをスラリー化し、本発明のスラリー処理を行う。スラリー処理に用いる溶媒として、水、酸性又は塩基性水溶液及び重合時に使用した有機極性溶媒によるスラリー化が行われるが、本発明の要件を満たす方法であれば、いずれの溶媒でもよい。酸の具体例として、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸及びプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸及び塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなポリアリーレンスルフィド樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。また、塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等のアルカリ金属土類、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等のアルカリ金属土類酸化物などが挙げられ、なかでもアルカリ金属水酸化物がより好ましく用いられる。以下代表的な例として水を用いたスラリー処理について説明する。使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。スラリー処理におけるスラリー濃度は、水が多い方が好ましいが、通常スラリー濃度5質量%から20質量%、好ましくは10質量%から15質量%が選択される。
【0046】
スラリー処理では、樹脂に含まれる不純物を効率良く除去するために、加熱、冷却した後、固液分離を行う。10℃から80℃の樹脂スラリーを沸騰しない圧力下で150℃から250℃に加熱し、30℃から100℃に冷却した後、固液分離するのが好ましい。加熱温度として、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上、特に好ましくは180℃以上とすることが好ましい。加熱温度が150℃未満ではポリマー中の不純物除去の効果が小さいため好ましくない。また、250℃以下が好ましく、220℃以下が更に好ましい。固液分離を行う温度は100℃を超えると水が蒸発してしまう点で好ましくなく、30℃未満までの冷却は、効率が悪く好ましくない。
【0047】
スラリーに含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂の粒径は、3mm以下にすることで不純物を効率良く除去することができ、1mm以下の粒径が特に好ましい。
【0048】
加熱後の保持時間に特に制限はないが、0.1分以上保持すれば十分な効果が得られる。生産性の面から保持時間の上限は、1時間以下が好ましい。
【0049】
処理後のスラリーを固液分離し、ポリマーを得ることができる。固液分離をする際は、100℃以下に冷却してから行うのが好ましい。この処理に続いて、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また、処理の雰囲気は、末端基の分解や酸化は好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。本発明におけるスラリー処理においては、処理回数、または溶媒の違いによるスラリー処理の組み合わせに何ら制限は無く、水、酸性水溶液の順、水、酸性水溶液、塩基性水溶液の順、有機極性溶媒、水の順、有機極性溶媒、酸性水溶液の順、有機極性溶媒、酸性水溶液、塩基性水溶液の順に行うスラリー処理などが挙げられ、水、酸性水溶液の順、又は、水、酸性水溶液、塩基性水溶液の順にスラリー処理を行うことが最も好ましい。
【0050】
これらの加熱、冷却の際に、本発明では、スパイラル式熱交換器を使用することが重要である。
【0051】
[スパイラル式熱交換器]
一般に、スパイラル式熱交換器には、竪型及び横型があり、熱交換を行う二流体の流路はいずれも単一、かつ、渦巻流路であり、また、向流にて熱交換を行うことが一般的である。 スパイラル式熱交換器の特徴として、(1)最外周を低温流体が流れるため熱の外部拡散が少ない、(2)流路曲線が連続するため、流体は乱流を発生しやすく、直線状の管を流れる流体に比べ、格段に伝熱性が高まる、(3)単一流路であるため、仮に詰まりが発生した場合でも詰まり箇所の断面積が小さくなることにより流速が増大し、詰まりを除去する自己洗浄作用が働く、などが挙げられる。本発明の樹脂スラリーの処理には、自己洗浄作用の大きい横型スパイラル式熱交換器が好ましい。
【0052】
図1は、横型スパイラル式熱交換器の概念図である。1は低温流体の流路、2は高温流体の流路、3は流路間隔、4は流路幅を示す。スパイラル式熱交換器は一般に市販されており、本発明ではこれら市販のものを使用することができる。例えば、(株)クロセ製のKSH−1H型などを挙げることができる。
【0053】
本発明において、液の流路間隔は6mm以上、好ましくは8〜10mmであり、流路間隔が6mm以上ではスラリー詰まりによる流路の閉塞を防ぐことができるので好ましい。液の平均流速は0.25m/秒以上が好ましく、流動状態が乱流となり、粒子同士の衝突及び粒子と管壁との衝突により、樹脂に含まれる不純物が効率良く除去出来る点で0.5〜1m/秒が更に好ましい。平均流速が1m/秒以下とすることで、熱交換効率よく樹脂スラリーの処理を行うことができるので好ましい。0.25m/秒以上とすることで、スラリー詰まりを防ぐことができるので好ましい。
【0054】
スパイラル式熱交換器に用いる材質として、JIS規格SUS304、SUS316、SUS316Lなどのオーステナイト系ステンレス鋼、SUS329J1、SUS329J2L、SUS329J4Lなどのオーステナイト−フェライト系ステンレス鋼、カーペンター(登録商標)、ハステロイ(登録商標)、チタンなどが挙げられるが、JIS規格SUS329J1、SUS329J4L又はカーペンターが好ましい。
【0055】
[熱交換方法]
一般的にスラリーを加熱、冷却する場合は、2基の熱交換器を用い、スラリーの加熱、冷却を行い、1基を加熱用に、他1基を冷却用に用いることが好ましい。この場合、スラリーの加熱時あるいは冷却時の全エネルギーを、熱交換する媒体が補う、あるいは奪う必要があり、エネルギー消費の観点から好ましくない。図2に示すように、4基のスパイラル式熱交換器を用い、2基を加熱用に、他2基を冷却用に用いることにより、部分的に熱交換媒体を循環することでエネルギーの一部をリサイクルし、効率良く熱交換を行うことができる。1基目の熱交換器において、スラリーは、3基目にて加熱されたスラリーと熱交換され温められた熱媒で熱交換し、2基目の熱交換器において、ボイラーなどで加熱された熱媒と熱交換し、150℃以上にまで加熱される。3基目の熱交換器において、2基目で加熱されたスラリーと1基目で熱を奪われた熱媒が熱交換し、4基目の熱交換器にて、スラリーは冷媒と熱交換され100℃以下に冷却できる。
【0056】
本発明では、ポリアリーレンスルフィド樹脂のスラリー処理において、3基のスパイラル式熱交換器を使用して行うことがエネルギーを効率良く使用できる点で好ましい。図3に示すように、1基目の熱交換器において、加熱前のスラリーを150℃以上に加熱されたスラリーで熱交換し、2基目の熱交換器において、1基目で加熱されたスラリーを熱媒で熱交換し、150℃以上にまで加熱することができる。150℃以上にまで加熱されたスラリーは、1基目の高温流体として加熱前スラリーと熱交換を行い冷却された後、3基目の熱交換器にて、冷媒と熱交換され100℃以下に冷却し、固液分離を行うことが好ましい。固液分離には、遠心分離又はろ布を用いたろ過が好ましい。
【0057】
[スラリー処理を行った樹脂スラリー]
本発明の方法でスラリー処理を行ったポリアリーレンスルフィド樹脂スラリーを固液分離して得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、不純物が十分に低減されており、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド繊維、ポリアリーレンスルフィドフィルムの原料などとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0059】
[発生ガス量]
ポリフェニレンスルフィド樹脂を130℃の真空オーブンにて3時間乾燥させ、ポリフェニレンスルフィド樹脂3gをガラスアンプル管に真空封入した。該ガラスアンプル管の片側(ポリフェニレンスルフィド樹脂のある方)を320℃に設定されたセラミックス電気管状炉:ARF−30K(アサヒ理化製作所製)に2時間放置し、その後、ガラスアンプル管の非加熱部(ポリフェニレンスルフィド樹脂のない方)を先端から約10cmを切り落とす。切り落としたガラスアンプル管の初期重量とガラスアンプル管に凝集・付着した成分をクロロナフタレン5gで洗浄した後、3時間、60℃で乾燥させたガラス管の重量との差から真空状態で320℃、2時間後のポリフェニレンスルフィド樹脂からの発生物質量を算出した。最終的に、この得られた発生物質量を初期のポリフェニレンスルフィド樹脂量3gで割った値を発生ガス量として算出した。
【0060】
参考例
撹拌機および底に弁のついたオートクレーブに、47.5重量%水硫化ナトリウム水溶液8267.37g(70.00モル)、96重量%水酸化ナトリウム水溶液2924.98g(70.20モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13860.00g(140.00モル)、酢酸ナトリウム2187.11g(26.67モル)、及びイオン交換水10500.00gを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14743.16gおよびNMP280.00gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.023モルであった。
【0061】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10254.40g(69.76モル)、NMP6451.83g(65.17モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、200℃から250℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、250℃で70分保持した。次いで、250℃から278℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、278℃で78分保持した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0062】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。
【0063】
実施例1
参考例で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂を水でスラリー化し、15質量%に調整を行い、調整したスラリーを70℃から195℃まで加熱するために、流路間隔10mmの横型スパイラル式熱交換器(型式KSH−1H (株)クロセ製)を使用し、ポリフェニレンスルフィド樹脂のスラリーを、平均流速0.4m/秒の条件下のもと図3に示すように通液し、スラリー処理を行った。195℃までの加熱時間は0.5分であり、また加熱に必要な伝熱面積は12mであった。冷却後のスラリーを固液分離後、乾燥し、ポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂の発生ガス量は0.73重量%であった。
【0064】
比較例1
ポリフェニレンスルフィド樹脂15質量%含有するスラリーを70℃から195℃まで加熱するために、内径40mmの二重管式熱交換器を使用し、ポリフェニレンスルフィド樹脂のスラリーを、平均流速0.4m/秒の条件下のもと図4に示すように通液し、熱交換を行った。195℃に至る加熱途中で二重管式熱交換器内に詰まりが発生し、継続運転が困難になった。
【0065】
比較例2
ポリフェニレンスルフィド樹脂15質量%含有するスラリーを70℃から195℃まで加熱するために、内径40mmの二重管式熱交換器を使用し、ポリフェニレンスルフィド樹脂のスラリーを、平均流速1.3m/秒の条件下のもと図4に示すように通液し、熱交換を行った。195℃までの加熱時間は5分であり、また加熱に必要な伝熱面積は60mであった。冷却後のスラリーを固液分離後、乾燥し、ポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂の発生ガス量は0.75重量%であった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】横型スパイラル式熱交換器の概念図である。
【図2】横型スパイラル式熱交換器を4基用いた樹脂スラリーの処理フローを示す図である。
【図3】横型スパイラル式熱交換器を3基用いた樹脂スラリーの処理フローを示す図である。
【図4】二重管式熱交換器を用いた樹脂スラリーの処理フローを示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 低温流体流路
2 高温流体流路
3 流路間隔
4 流路幅
5 横型スパイラル式熱交換器
6 樹脂スラリー
7 熱媒
8 冷媒
9 二重管式熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂スラリーを熱交換するにあたり、熱交換器として、スパイラル式熱交換器を使用して熱交換を行うことを特徴とする樹脂スラリーの処理方法。
【請求項2】
樹脂スラリーがポリアリーレンスルフィド樹脂スラリーであることを特徴とする請求項1記載の樹脂スラリーの処理方法。
【請求項3】
樹脂スラリーを150℃以上の温度に加熱し、冷却後、固液分離を行うスラリー処理方法であって、加熱及び冷却にスパイラル式熱交換器を使用することを特徴とする請求項1または2記載の樹脂スラリーの処理方法。
【請求項4】
ポリアリーレンスルフィド樹脂が重合終了後にフラッシュ法で回収されたポリアリーレンスルフィド樹脂であることを特徴とする請求項2または3記載の樹脂スラリーの処理方法。
【請求項5】
スパイラル式熱交換器が横型スパイラル式熱交換器であることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の樹脂スラリーの処理方法。
【請求項6】
加熱前の樹脂スラリーを加熱された樹脂スラリーで熱交換することを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の樹脂スラリーの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−100701(P2010−100701A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272036(P2008−272036)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】