説明

樹脂ワニス、絶縁電線及び電気コイル

【課題】絶縁電線の絶縁皮膜、又は複層からなる絶縁皮膜の層の形成に用いられ、優れた密着性、絶縁性、高い耐熱性、高い加工性と機械的強度を有する絶縁皮膜を形成することができるとともに、その保存安定性にも優れた樹脂ワニス、この樹脂ワニスを用いて形成された絶縁皮膜を有する絶縁電線、及びこの絶縁電線を捲線した電気コイルを提供する。
【解決手段】反応性基を有する熱可塑性樹脂を混合したポリアミドイミド原料モノマーに、ポリアミドイミド合成反応を施して製造されたことを特徴とする樹脂ワニス、絶縁皮膜により導体を被覆してなる絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、前記樹脂ワニスを、硬化して得られる絶縁層を含むことを特徴とする絶縁電線、及び、前記絶縁電線を捲線した電気コイル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の絶縁皮膜の形成に用いられる樹脂ワニス、及びこの樹脂ワニスを用いて形成された絶縁皮膜を有する絶縁電線に関する。本発明はさらに、この絶縁電線を捲線してなる電気コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電気機器のコイル(電気コイル)を形成する絶縁電線において、導線を被覆する絶縁皮膜には、導線に対する優れた密着性(接合性)、優れた絶縁性、高い耐熱性等が望まれている。特に近年は、各種電気機器の高出力化、又は小型化・省電力化への要請に伴い、さらに、高度の加工性(変形や加工により割れ等を生じない性質)や機械的強度が求められるようになっている。
【0003】
例えば、自動車等に使用される高出力モーターでは、高占積率化により高出力化を図るため、コイルを形成する絶縁電線の断面形状を、円形状から、六角形状や矩形状等にする加工が考えられているが、この場合には、加工に伴う絶縁皮膜の割れを防ぐために高度の加工性が求められる。又、コイルを形成する際に、より小さいコアに絶縁電線をより高密度かつ高速で捲線するようになり、その結果、捲線のときの絶縁皮膜の損傷を防ぐために、より高度の加工性と機械的強度が求められるようになっている。
【0004】
前記の要請を満たすために、ポリアミドイミド、ポリイミド等の耐熱性樹脂を用いた絶縁皮膜(特開平6−196025号公報)等がすでに提案されている。さらに特開2001−155551号公報では、単層構造の絶縁皮膜では前記の複数の要請を全て満たすことは困難との考えに基づき、樹脂の構成を違えた複数の層を積層し、単層構造では得られない優れた特性を有する絶縁皮膜が提案されている。
【0005】
具体的には、この絶縁皮膜は、ガラス転移温度が250℃以上の樹脂からなる第1絶縁層と、ポリアミドイミドにガラス転移温度140℃以上の熱可塑樹脂を配合してなる第2絶縁層からなるものであり、高い耐熱性を保持しながらこれまでよりもさらに優れた加工性、機械的強度を有する。ここで第1絶縁層を構成する樹脂は、ポリアミドイミド、ポリイミド等であり、又、第2絶縁層を構成し、ガラス転移温度140℃以上の熱可塑樹脂としては、ポリエーテルスルホンやポリエーテルイミドが好ましいものとして例示されている(段落0021)。そして、第2絶縁層は、ポリアミドイミドにポリエーテルスルホンやポリエーテルイミド等を配合してなる組成物を含む樹脂ワニスを、第1絶縁層上に塗布、焼付けすることにより形成できると記載されている(段落0023)。
【特許文献1】特開平6−196025号公報
【特許文献2】特開2001−155551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この第2絶縁層を形成する樹脂ワニスは、保存安定性が不十分であり、長期保管するとポリアミドイミドとポリエーテルスルホンやポリエーテルイミド等が分離しやすい問題があった。従って、その使用前に撹拌して再度均一に混合する必要があった。
【0007】
本発明は、絶縁電線の絶縁皮膜、特に複層からなる絶縁皮膜を構成する絶縁層の形成に用いられ、優れた密着性、絶縁性、高い耐熱性、高い加工性と機械的強度を有する絶縁皮膜を形成できるとともに、その保存安定性にも優れた樹脂ワニスを提供することを課題とする。
【0008】
又、本発明は、前記樹脂ワニスを用いて形成され、かつ優れた密着性、絶縁性、高い耐熱性とともに、高い加工性と機械的強度を有する絶縁皮膜を有する絶縁電線、さらに、この絶縁電線を捲線した電気コイルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、ポリアミドイミドに反応性基を有する熱可塑性樹脂を混合して得られる樹脂ワニスの代わりに、ポリアミドイミドを合成するための原料モノマーに、反応性基を有する熱可塑性樹脂を混合した後、該混合物についてポリアミドイミド合成反応を施して製造された樹脂ワニスにより、前記の課題が達成されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち請求項1に記載の本発明は、反応性基を有する熱可塑性樹脂を混合したポリアミドイミド原料モノマーに、ポリアミドイミド合成反応を施して製造されたことを特徴とする樹脂ワニスである。反応性基を有する熱可塑性樹脂の混合を、ポリアミドイミド合成反応前に行うことにより、優れた保存安定性が得られる。
【0011】
ポリアミドイミドは、分子内にアミド結合とイミド結合を有する樹脂であり、ジイソシアネート成分と酸成分とを重合させる方法、ジアミン成分と酸成分とを反応させた後反応生成物を等モル量のジイソシアネート成分と重合させる方法、酸クロライドを含む酸成分とジアミン成分を重合させる方法等により製造される。ポリアミドイミド原料モノマーとは、これらの方法の原料として用いられるモノマーであり、従って、前記のジイソシアネート成分と酸成分の組合せ、ジアミン成分、酸成分とジイソシアネート成分の組合せ、酸クロライドを含む酸成分とジアミン成分の組合せ等が挙げられる。
【0012】
ここでジイソシアネート成分としては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、ビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,3’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジクロロビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジクロロビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジクロロビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジブロモビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジブロモビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジエチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジエトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,3’−ジエトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独で又は複数の組合せで使用する。中でも入手のしやすさ等の点で、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートが好ましい。
【0013】
前記ジイソシアネート成分と重合させる酸成分や酸クロライド成分としては、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、トリメリット酸クロライド、又はトリメリット酸の誘導体である三塩基酸等が挙げられる。これらは単独で又は複数の組合せで使用する。中でも入手のしやすさ等の点でトリメリット酸無水物が好ましい。
【0014】
前記ジアミン成分としては、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルスルフィド、ジアミノジフェニルプロパン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−[ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル]エーテル、4,4’−[ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル]メタン、4,4’−[ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル]スルホン、4,4’−[ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン等が挙げられる。これらは単独で又は複数の組合せで使用する。中でも入手のしやすさ等の点で、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0015】
特に、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートとトリメリット酸無水物を含む組合せが、本発明で用いられるポリアミドイミド原料モノマーとして好ましい。
【0016】
本発明の樹脂ワニスは、このようなポリアミドイミド原料モノマーに、反応性基を有する熱可塑性樹脂を混合した後、ポリアミドイミド合成反応を施して製造される。熱可塑性樹脂の混合は、例えば、ポリアミドイミド原料モノマーと熱可塑性樹脂のそれぞれを別個に溶剤に溶解した後その溶液を混合する、同じ溶剤に各原料モノマーと熱可塑性樹脂を同時に溶解して混合する、ポリアミドイミド原料モノマーと熱可塑性樹脂の一方又はこれらの一部を溶剤に溶解後、他の成分を添加して溶解、混合する等の方法により行われる。又、この溶剤中には、必要に応じて、後述する他の成分の溶解が行われる。
【0017】
反応性基を有する熱可塑性樹脂とは、分子内に水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基等の、ポリアミドイミドの末端等にあるアミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基と反応する反応性基を有する熱可塑性樹脂である。この熱可塑性樹脂としては、ポリアミドイミドの熱軟化温度の350℃以上との耐熱性の基準を満足させるために、ガラス転移温度が140℃以上であるものが好ましく、又、伸び率が高いものが好ましい。具体的には、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミド、熱可塑性ポリイミド等であって、分子内又は末端等の前記の反応性基を有するものが挙げられる。
【0018】
中でも、反応性基を有するポリエーテルスルホン又はポリエーテルイミドを用いた場合は、耐熱性、加工性に優れた絶縁皮膜を与えるので好ましい。請求項2はこの好ましい態様に該当する。
【0019】
特に、水酸基を持ったポリエーテルスルホンは、ポリアミドイミド末端基と反応しやすく、又、ポリエーテルスルホン同士の副反応が起こりにくいので、反応性基を有する熱可塑性樹脂として好ましい。請求項3はこの特に好ましい態様に該当する。
【0020】
前記のようにしてポリアミドイミド原料モノマーと前記反応性基を有する熱可塑性樹脂を混合した後、該混合物にポリアミドイミド合成反応が施され、該混合物中のポリアミドイミド原料モノマーが重合してポリアミドイミドが生成する。ポリアミドイミド合成反応としては、前記のジイソシアネート成分と酸成分を重合させる反応、ジアミン成分と酸成分とを反応させた後該反応生成物と等モル量のジイソシアネート成分を重合させる反応、酸クロライドを含む酸成分とジアミン成分を重合させる反応等が挙げられる。
【0021】
ポリアミドイミド原料モノマーと前記反応性基を有する熱可塑性樹脂の混合割合は、このポリアミドイミド原料モノマーにポリアミドイミド合成反応を施して合成されるポリアミドイミドの重量をA、前記反応性基を有する熱可塑性樹脂の重量をBとしたとき、A/Bが100/40〜100/80となる範囲内が好ましい。A/Bが100/40未満の場合、すなわちBが多い場合は、耐熱性が低下する傾向があり、A/Bが100/80を超える場合、すなわちBが少ない場合は、加工性が低下する傾向がある。すなわち、A/Bが100/40〜100/80の範囲内の場合、より高い加工性と機械的強度及び耐熱性を有する絶縁皮膜が得られる。請求項4は、この特に好ましい態様に該当する。この絶縁皮膜は、それを有する絶縁電線をプレス等により変形させたときの絶縁破壊電圧の低下が小さい。
【0022】
本発明の樹脂ワニスには、前記の必須成分に加えて、例えば顔料、染料等の着色剤、無機又は有機のフィラー、潤滑剤等の各種の添加剤を、その特性を損なわない範囲で添加してもよい。
【0023】
本発明は、前記の樹脂ワニスに加えて、前記の樹脂ワニスを用いて製造されたことを特徴とする絶縁皮膜を有する絶縁電線を提供する。
【0024】
すなわち請求項5に記載の発明は、導線とそれを被覆する絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、前記本発明の樹脂ワニスを、直接又は他の絶縁層を介して前記導線上に塗布し、その後焼付け処理を施して形成した絶縁層を、少なくとも1層有することを特徴とする絶縁電線である。
【0025】
ここで導線を形成する導体としては、絶縁電線に通常の用いられる導体、例えば、銅、銀、アルミニウム、これらを主成分とする合金等からなる線が挙げられ、導線の断面形状としては、丸線や、平角線、六角線等異形断面のものが例示され、制限されるものではないが、特に断面形状が六角である六角線が好ましい(請求項9)。本発明の絶縁電線は、例えば、この導線上に、前記樹脂ワニスを塗布した後、加熱、焼付けを行い、ポリアミドイミド樹脂を硬化することにより製造することができる。又、断面が丸形状の丸線に前記樹脂ワニスを塗布、焼付けした後、圧延加工や引抜き加工により導線の断面形状を異形にすることができる。なお、絶縁皮膜は、前記樹脂ワニスからなる絶縁層以外の層を有していても良い。以下に示す請求項6及び請求項7はその態様に該当する。又、樹脂ワニスが塗布される前記「他の絶縁層」とは、この前記樹脂ワニスからなる絶縁層以外の絶縁層を意味する。
【0026】
請求項6に記載の発明は、
導線とそれを被覆する絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、
前記絶縁皮膜が、第1絶縁層及びそれを被覆する第2絶縁層を有し、
前記第1絶縁層が、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリイミドから選ばれる少なくとも一種類の樹脂からなり、
前記第2絶縁層が、前記本発明の樹脂ワニスを、前記第1絶縁層上に塗布した後、焼付け処理を施して形成されるものであり、
前記第1絶縁層の膜厚T1と第2絶縁層の膜厚T2の比T1/T2が、5/95〜80/20の範囲内であることを特徴とする絶縁電線である。
【0027】
この絶縁電線の第1絶縁層を構成するポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリイミドは、耐熱性と導体に対する密着性に優れている。又、本発明の樹脂ワニスより形成される第2絶縁層は、耐熱性とともに可とう性に優れ、従って、優れた加工性が得られる。その結果、この絶縁電線の絶縁皮膜は、耐熱性や導体に対する良好な密着性とともに高い加工性を有し、圧延加工や巻線加工の厳しい条件に耐えることができる。
【0028】
前記第1絶縁層の膜厚T1と第2絶縁層の膜厚T2の比T1/T2は、5/95〜80/20の範囲内である。T1/T2が5/95未満の場合は、密着性や耐熱性が低下する傾向がある。一方、T1/T2が80/20を超える場合は、加工性が低下する傾向がある。すなわち、T1/T2が5/95〜80/20の範囲内で、高い加工性を維持しつつ絶縁皮膜全体としての耐熱性を、ポリアミドイミドと同等の高いレベルに保持することができる。なお、第1絶縁層の膜厚T1は、通常4〜60μm程度が好ましい。
【0029】
本発明の絶縁電線は、第1絶縁層を形成する樹脂ワニスを、導線上に塗布した後、焼付け硬化して第1絶縁層を形成し、その後、前記本発明の樹脂ワニス、すなわち第2絶縁層を形成する樹脂ワニスをその上に積層して塗布し、焼付け硬化することにより得ることができる。焼付け、硬化の条件等は、従来の絶縁電線の製造の条件と同様である。
【0030】
ポリイミドは、例えば、極性溶媒中で芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを低温で反応させることにより製造することができるが、一般に芳香族系ポリイミドは溶剤に不溶であるため、第1絶縁層がポリイミドからなる場合は、第1絶縁層を形成する樹脂ワニスとしては、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含有するものが使用され、塗布後に高温での熱イミド化反応によりイミド環を形成しポリイミドとなる。
【0031】
ここで使用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、たとえばピロメリット酸二無水物(以下、PMDAという)、3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。又、芳香族ジアミンとしては、ジアミノジフェニルエーテル(以下、DDEという)、ジアミノジフェニルメタン(以下、DDMという)、パラフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0032】
第1絶縁層がポリエステルイミドやポリアミドイミドからなる場合は、これらを溶剤に溶解した樹脂ワニスを、第1絶縁層を形成する樹脂ワニスとして用いることができる。なお、第1絶縁層を形成する樹脂ワニスには、さらに、導体との密着性向上剤等を添加してもよい。
【0033】
請求項7に記載の発明は、前記の請求項6の絶縁電線の第2絶縁層を、さらに、ポリアミドイミドからなる第3絶縁層で覆ったものであり、かつ第1絶縁層の膜厚T1、第2絶縁層の膜厚T2及び第3絶縁層の膜厚T3としたとき、(T1+T3)/T2=5/95〜80/20を満たすものである。
【0034】
(T1+T3)/T2が5/95未満の場合は、密着性や耐熱性が低下する傾向がある。一方、(T1+T3)/T2が80/20を超える場合は、加工性が低下する傾向がある。すなわち、(T1+T3)/T2が5/95〜80/20の範囲内で、高い加工性を維持しつつ絶縁皮膜全体としての耐熱性を、ポリアミドイミドと同等の高いレベルに保持することができる。なお、第3絶縁層の膜厚T3は、0.5μm以上が好ましい。
【0035】
第3絶縁層は、第2絶縁層を形成後、ポリアミドイミドからなる樹脂ワニスをその上に積層して塗布し、焼付け硬化することにより得ることができる。焼付け、硬化の条件等は、従来の絶縁電線の製造の条件と同様である。この第3絶縁層を設けることにより、耐摩耗性の向上、滑り性の向上による捲線性の向上が図れる。又、捲線時の皮膜加工による劣化の低減、絶縁性能低下の低減を図ることができる。
【0036】
本発明の絶縁電線の絶縁皮膜としては、破断伸びが50%以上である絶縁皮膜が好ましい。破断伸びを50%以上とすることにより、絶縁電線はより高い変形性を有する。請求項6や請求項7に記載の絶縁電線において、絶縁皮膜の破断伸びは、第2絶縁層の形成に用いる反応性基を有する熱可塑性樹脂の混合割合や、第1絶縁層の厚さT1、第2絶縁層の厚さT2、第3絶縁層の厚さT3間の比により変動する。50%以上の破断伸びを達成する混合割合や厚さの比は、これらを変動させた予備実験により容易に求めることができる。請求項8は、本発明の絶縁電線であってこの特に好ましい態様の絶縁電線に該当する。
【0037】
本発明の絶縁電線は、高い加工性と機械的強度及び耐熱性を有しているので、その断面形状を、円形状から、六角形状や矩形状にする等の加工を施しても、絶縁皮膜の割れ等の損傷が生じにくく、絶縁破壊電圧の低下が少ない。そこで、この絶縁電線を用いて捲線してなる電気コイルは、それをコイル中心部に向かって圧縮する圧縮加工等が容易であり、占積率の向上や、コイルの小型化が容易である。又、圧縮加工が施されたコイルは、高い占積率を有するとともに、高い絶縁破壊電圧も維持されている。本発明は、この優れた特徴を有する電気コイルも、その請求項10として、提供するものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明の樹脂ワニスは、それを導線上に塗布し、焼付け処理を施して硬化することにより、導体との間の優れた密着性、絶縁性、高い耐熱性、高い加工性と機械的強度を有する絶縁皮膜を形成することができる。さらに、本発明の樹脂ワニスは、その保存安定性にも優れており、長期間保管してもその成分が分離せず、使用前の撹拌等を要しない。
【0039】
前記樹脂ワニスを用いて形成された絶縁皮膜を有することを特徴とする本発明の絶縁電線は、優れた密着性、絶縁性、高い耐熱性とともに、高い加工性と機械的強度を有する絶縁皮膜を有し、絶縁電線の断面形状の加工等において、絶縁皮膜の割れ等の損傷が生じにくく、絶縁破壊電圧の低下が少ない。前記絶縁電線を捲線してなることを特徴とする本発明の電気コイルは、それをコイル中心部に向かって圧縮する圧縮加工等が容易であり、占積率の向上や、コイルの小型化が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に、本発明を実施するための最良の形態を、以下の実施例により説明するが、本発明は、この実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
[樹脂ワニスの作製]
実施例1
昇温制御装置つきのマントルヒーターにセパラブルフラスコ(三口)及び冷却管をセットし、NMP(N−メチル−2−ピロリドン溶媒、三菱化学(株)製)の1022.0gに、MDI(ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、三井武田ケミカル(株)製、商品名:コスモネートPH)の212.8g、TMA(トリメリット酸無水物、三菱瓦斯化学(株)製)の158.5g、及びETM(トリメリット酸、三菱瓦斯化学(株)製)の3.6gを投入し、1時間かけて室温から80℃に昇温しながら撹拌し、溶解させた。
【0042】
80℃に達した後同温度で保持し、ポリアミドイミドの原料が完全に溶解した後、PES(ポリエーテルスルホン、住友化学工業(株)製、商品名:PES−5003P)を240.0g加え、80℃に保持しながら、撹拌し、溶解させる。PESが完全に溶解した後、撹拌しながら80〜130℃を3時間かけて昇温し、さらに撹拌しながら130℃で保持した。
【0043】
130℃に保持しながらフラスコ内容物の一部を、所定時間毎に抜き取り、その抜き取り分中の樹脂分が27%になるようにキシレンを加え、その抜き取り分の粘度を測定した。その粘度が30dPa・s(30℃)になったときに、加熱を停止し、キシレン(大伸化学(株)製)を438.0g加え、自然冷却させて樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをAI−PES80−27とする。なお、この樹脂ワニス中には、ポリアミドイミド樹脂が300.0g(A)、反応性基を有する熱可塑性樹脂(すなわちPES)が240.0g(B)含まれるので、前記A/Bは100/80となる。
【0044】
実施例2
MDIの量を225.3g、TMAの量を167.8g、ETMの量を3.8g、PESの量を222.4gに変えた以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをAI−PES70−27とする。なお、この樹脂ワニス中には、ポリアミドイミド樹脂が317.6g(A)、反応性基を有する熱可塑性樹脂(すなわちPES)が222.4g(B)含まれるので、前記A/Bは100/70となる。
【0045】
実施例3
MDIの量を239.4g、TMAの量を178.3g、ETMの量を4.0g、PESの量を202.5gに変えた以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをAI−PES60−27とする。なお、この樹脂ワニス中には、ポリアミドイミド樹脂が337.5g(A)、反応性基を有する熱可塑性樹脂(すなわちPES)が202.5g(B)含まれるので、前記A/Bは100/60となる。
【0046】
実施例4
MDIの量を255.4g、TMAの量を190.2g、ETMの量を4.3g、PESの量を180.0gに変えた以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをAI−PES50−27とする。なお、この樹脂ワニス中には、ポリアミドイミド樹脂が360.0g(A)、反応性基を有する熱可塑性樹脂(すなわちPES)が180.0g(B)含まれるので、前記A/Bは100/50となる。
【0047】
実施例5
MDIの量を273.6g、TMAの量を203.8g、ETMの量を4.6g、PESの量を154.3gに変えた以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをAI−PES40−27とする。なお、この樹脂ワニス中には、ポリアミドイミド樹脂が385.7g(A)、反応性基を有する熱可塑性樹脂(すなわちPES)が154.3g(B)含まれるので、前記A/Bは100/40となる。
【0048】
実施例6
MDIの量を294.6g、TMAの量を219.4g、ETMの量を5.0g、PESの量を124.6gに変えた以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをAI−PES30−27とする。なお、この樹脂ワニス中には、ポリアミドイミドが415.4g(A)、反応性基を有する熱可塑性樹脂(すなわちPES)が124.6g(B)含まれるので、前記A/Bは100/30となる。
【0049】
実施例7
MDIの量を319.2g、TMAの量を237.7g、ETMの量を5.4g、PESの量を90.0gに変えた以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをAI−PES20−27とする。なお、この樹脂ワニス中には、ポリアミドイミドが450.0g(A)、反応性基を有する熱可塑性樹脂(すなわちPES)が90.0g(B)含まれるので、前記A/Bは100/20となる。
【0050】
実施例8
MDIの量を348.2g、TMAの量を259.3g、ETMの量を5.9g、PESの量を49.1gに変えた以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをAI−PES10−27とする。なお、この樹脂ワニス中には、ポリアミドイミドが490.9g(A)、反応性基を有する熱可塑性樹脂(すなわちPES)が49.1g(B)含まれるので、前記A/Bは100/10となる。
【0051】
比較例1
昇温制御装置つきのマントルヒーターにセパラブルフラスコ(三口)及び冷却管をセットし、NMP(1)(N−メチル−2−ピロリドン溶媒、三菱化学(株)製)の567.8gに、MDI(三井武田ケミカル(株)製、商品名:コスモネートPH)の212.8g、TMA(三菱瓦斯化学(株)製)の158.5g、及びETM(三菱瓦斯化学(株)製)の3.6gを投入し、1時間かけて室温から80℃に昇温しながら撹拌し、溶解させた。
【0052】
完全に溶解した後、撹拌しながら80〜130℃に3時間かけて昇温し、さらに撹拌しながら130℃で保持した。130℃に保持しながらフラスコ内容物の一部を、所定時間毎に抜き取り、その抜き取り分中の樹脂分が27%になるようにキシレンを加え、その抜き取り分の粘度を測定した。その粘度が30dPa・s(30℃)になったときに、加熱を停止し、自然冷却させてポリアミドイミドワニスを得た。
【0053】
昇温制御つきのマントルヒーターにセパラブルフラスコ(三口)及び冷却管をセットし、NMP(2)(N−メチル−2−ピロリドン溶媒、三菱化学(株)製)の454.2gにPES(住友化学工業(株)製、商品名:PES−5003P)の240.0gを加え、1時間かけて室温から80℃に昇温させながら撹拌し、溶解させた。溶解後過熱を停止し、自然冷却させてPESワニスを得た。
【0054】
冷却した前記PESワニス中に、前記ポリアミドイミドワニスの全量とキシレン(大伸化学(株)製)の438.0gを加え、30分以上撹拌し、樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをai−pes80−27とする。なお、この樹脂ワニス中に含まれるポリアミドイミド及びPESの量は実施例1と同じなので、前記A/Bは100/80となる。
【0055】
比較例2
NMP(1)の量を601.2g、NMP(2)の量を420.8g、MDIの量を225.3g、TMAの量を167.8g、ETMの量を3.8g、PESの量を222.4gに変えた以外は比較例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをai−pes70−27とする。なお、この樹脂ワニス中に含まれるポリアミドイミド及びPESの量は実施例2と同じなので、前記A/Bは100/70となる。
【0056】
比較例3
NMP(1)の量を638.7g、NMP(2)の量を383.2g、MDIの量を239.4g、TMAの量を178.3g、ETMの量を4.0g、PESの量を202.5gに変えた以外は比較例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをai−pes60−27とする。なお、この樹脂ワニス中に含まれるポリアミドイミド及びPESの量は実施例3と同じなので、前記A/Bは100/60となる。
【0057】
比較例4
NMP(1)の量を681.3g、NMP(2)の量を340.7g、MDIの量を255.4g、TMAの量を190.2g、ETMの量を4.3g、PESの量を180.0gに変えた以外は比較例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをai−pes50−27とする。なお、この樹脂ワニス中に含まれるポリアミドイミド及びPESの量は実施例4と同じなので、前記A/Bは100/50となる。
【0058】
比較例5
NMP(1)の量を730.0g、NMP(2)の量を292.0g、MDIの量を273.6g、TMAの量を203.8g、ETMの量を4.6g、PESの量を154.3gに変えた以外は比較例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをai−pes40−27とする。なお、この樹脂ワニス中に含まれるポリアミドイミド及びPESの量は実施例5と同じなので、前記A/Bは100/40となる。
【0059】
比較例6
NMP(1)の量を786.2g、NMP(2)の量を235.8g、MDIの量を294.6g、TMAの量を219.4g、ETMの量を5.0g、PESの量を124.6gに変えた以外は比較例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをai−pes30−27とする。なお、この樹脂ワニス中に含まれるポリアミドイミド及びPESの量は実施例6と同じなので、前記A/Bは100/30となる。
【0060】
比較例7
NMP(1)の量を851.7g、NMP(2)の量を170.3g、MDIの量を319.2g、TMAの量を237.7g、ETMの量を5.4g、PESの量を90.0gに変えた以外は比較例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをai−pes20−27とする。なお、この樹脂ワニス中に含まれるポリアミドイミド及びPESの量は実施例7と同じなので、前記A/Bは100/20となる。
【0061】
比較例8
NMP(1)の量を929.1g、NMP(2)の量を92.9g、MDIの量を348.2g、TMAの量を259.3g、ETMの量を5.9g、PESの量を49.1gに変えた以外は比較例1と同様にして樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをai−pes10−27とする。なお、この樹脂ワニス中に含まれるポリアミドイミド及びPESの量は実施例8と同じなので、前記A/Bは100/10となる。
【0062】
[保存安定性の測定]
実施例1〜8及び比較例1〜8で得られた樹脂ワニスを試験管に取り、蓋をしてそのまま室温に放置した。3日、及び30日経過後、樹脂ワニスの分離等の有無を目視にて確認した。その結果(放置後の分離状態)を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示す測定結果より明らかなように、実施例1〜8で得られた本発明の樹脂ワニスは優れた保存安定性を示すが、比較例1〜8で得られた樹脂ワニスは、保存安定性が低く、保存により濁りや分離が発生する。すなわち表1の結果は、ポリアミドイミド合成反応を行う前に熱可塑性樹脂を混合し、その後ポリアミドイミド合成反応を行うことにより、優れた保存安定性が得られることを示している。
【0065】
[絶縁電線の作製]
直径1mmφの丸線状の銅線(導体)の上に、実施例1〜8で得られた樹脂ワニス(表2中では、実施例の番号で表す)、及び市販のポリアミドイミドワニス(日立化成(株)製、商品名:HI−400)(表2中では、「比較例PAI」と表す)、ポリイミドワニス((株)I.S.T.製、商品名:Pyre m.l.RC5057)(表2中では、「比較例PI」と表す)を、下部300℃、上部400℃の熱風循環竪型焼付炉を用いて、繰り返し焼付け塗装して、膜厚23μmを目標に絶縁層(絶縁皮膜)を形成し絶縁電線を得た。
【0066】
[絶縁破壊電圧の測定]
このようにして得られた絶縁電線をプレス機((株)東洋精機製作所製)によりプレスして、プレス電線を得た。このとき、プレス後の電線の厚み(断面の薄い方の大きさ)をM、プレス前の電線の径をNとしたとき、(N−M)/Nをプレス圧下率とする。
【0067】
その後、プレス部分の絶縁電線にアルミ箔約50mmを巻き付け、JIS C3003 11に準拠して、アルミ箔と導体間に電圧を印加し、電圧を徐々に上昇させて、絶縁破壊が起こる電圧(絶縁破壊電圧、BDV)を測定した。測定結果を、膜厚の実測値と併せて表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2の結果より明らかなように、実施例の樹脂ワニスから得られた絶縁皮膜は、高い絶縁性を有する。特に、前記A/Bが100/40〜100/80の範囲内である実施例1〜5の樹脂ワニスから得られた絶縁皮膜は、プレスにより電線の断面形状を変形しても、BDVの低下は小さく、ポリイミドと同等の、又はそれに近い高い変形性を有している。従って、高価なポリイミドに代わる材料として好適であることが示されている。
【0070】
実施例9〜13
直径1mmφの丸線状の銅線(導体)の上に、ポリアミドイミドワニス(日立化成(株)製、商品名:HI−400)を、前記[絶縁電線の作製]における樹脂ワニスの塗布、焼付けと同様にして、塗布、焼付けして、第1層の絶縁層を形成した。その後第1層の上に、実施例4で得られた樹脂ワニス(AI−PES50−27)を、前記[絶縁電線の作製]における樹脂ワニスの塗布、焼付けと同様にして、塗布、焼付けして第2層の絶縁層を形成させ、総膜厚23μmを目標に絶縁皮膜を形成した。
【0071】
同様な操作を第1層の膜厚T1(及び第2層の膜厚T2)を変えるようにして行い、各層の膜厚及び膜厚比T1/T2がそれぞれ異なる実施例9〜13の絶縁電線を得た。実施例9〜13の各実施例における各絶縁層の膜厚の実測値及び膜厚比を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
実施例14〜18
直径1mmφの丸線状の銅線(導体)の上に、ポリアミドイミドワニス(日立化成(株)製、商品名:HI−400)を、前記[絶縁電線の作製]における樹脂ワニスの塗布、焼付けと同様にして、塗布、焼付けして第1層の絶縁層を形成した後に、実施例4で得られた樹脂ワニス(AI−PES50−27)を、前記[絶縁電線の作製]における樹脂ワニスの塗布、焼付けと同様にして、塗布、焼付けして第2層の絶縁層を形成させ、さらに自己潤滑ポリアミドイミドワニスを、前記[絶縁電線の作製]における樹脂ワニスの塗布、焼付けと同様にして、塗布、焼付けして第3層の絶縁層を形成させ、総膜厚23μmを目標に絶縁被膜を形成した。
【0074】
同様な操作を各絶縁層の膜厚を変えるようにして行い、各層の膜厚(T1、T2、T3)及び膜厚比(T1+T3)/T2がそれぞれ異なる実施例14〜18の絶縁電線を得た。なお、自己潤滑ポリアミドイミドワニスとしては、ポリアミドイミドワニス(日立化成(株)製、商品名:HI−400)の固形分100重量部に対し、コロネート2503(日本ウレタン(株)製)を固形分で50重量部、及びポリエチレンワックス(三井化学(株)製、商品名:220P)を3重量部配合したものを用いた。各実施例における絶縁層の各膜厚の実測値、及び膜厚比を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
[絶縁破壊電圧の測定]
実施例9〜18で得られた絶縁電線について、実施例1〜8の樹脂ワニスについて行った前記の絶縁破壊電圧の測定と同様にして、プレス電線を作製し、絶縁破壊電圧(BDV)を測定した。測定結果を表5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
表5の結果より、本発明の樹脂ワニスを第2層として用い、複層化した場合であっても、膜厚比T1/T2が5/95〜80/20の範囲(実施例9〜12)、膜厚比(T1+T3)/T2が5/95〜80/20の範囲(実施例14〜17)の範囲である場合は、すぐれた加工性が維持されている。特に第2層の膜厚が、第1層の膜厚より、はるかに大きい場合、実施例9や実施例14等の場合では、第1層等を設けない場合(表2の実施例4)よりも加工性は向上している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性基を有する熱可塑性樹脂を混合したポリアミドイミド原料モノマーに、ポリアミドイミド合成反応を施して製造されたことを特徴とする樹脂ワニス。
【請求項2】
前記反応性基を有する熱可塑性樹脂が、反応性基を有するポリエーテルスルホン又はポリエーテルイミドであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂ワニス。
【請求項3】
前記反応性基を有する熱可塑性樹脂が、水酸基を有するポリエーテルスルホンであることを特徴とする請求項2に記載の樹脂ワニス。
【請求項4】
前記ポリアミドイミド合成反応により合成されるポリアミドイミドの重量をA、前記反応性基を有する熱可塑性樹脂の重量をBとしたとき、A/Bが100/40〜100/80の範囲内であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の樹脂ワニス。
【請求項5】
導線とそれを被覆する絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の樹脂ワニスを、直接又は他の絶縁層を介して前記導線上に塗布し、その後焼付け処理を施して形成した絶縁層を、少なくとも1層有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項6】
導線とそれを被覆する絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、
前記絶縁皮膜が、第1絶縁層及びそれを被覆する第2絶縁層を有し、
前記第1絶縁層が、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリイミドから選ばれる少なくとも一種類の樹脂からなり、
前記第2絶縁層が、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の樹脂ワニスを、前記第1絶縁層上に塗布した後、焼付け処理を施して形成されるものであり、
前記第1絶縁層の膜厚T1と第2絶縁層の膜厚T2の比T1/T2が、5/95〜80/20の範囲内であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項7】
前記絶縁皮膜がさらに、前記第2絶縁層を被覆し、ポリアミドイミドからなる第3絶縁層を有し、前記第1絶縁層の膜厚T1、第2絶縁層の膜厚T2及び第3絶縁層の膜厚T3が、(T1+T3)/T2=5/95〜80/20を満たすことを特徴とする請求項6に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記絶縁皮膜の破断伸びが、50%以上であることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項9】
前記導線の断面形状が六角形であることを特徴とする請求項5ないし請求項8のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項10】
請求項5ないし請求項9のいずれかに記載の絶縁電線を捲線してなることを特徴とする電気コイル。

【公開番号】特開2007−287399(P2007−287399A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111230(P2006−111230)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(302068597)住友電工ウインテック株式会社 (22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】