説明

樹脂供給装置、射出成形装置、及び樹脂成形品の製造方法

【課題】樹脂成形で得られる長繊維強化樹脂製の成形品の強度を向上させることができる樹脂供給装置、射出成形装置、及び樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂供給装置5は、長繊維強化樹脂ペレットPを搬送し射出成形機3に供給する樹脂供給装置である。樹脂供給装置5は、長繊維強化樹脂ペレットPの搬送方向(軸線A方向)に延在すると共に、長繊維強化樹脂ペレットPを内側に収容し筒軸A周りに回転自在に設けられた回転筒体25と、回転筒体25内の長繊維強化樹脂ペレットPを筒軸A方向に移動させるためのスクリュー部37と、回転筒体25内を加熱するバンドヒータ41と、回転筒体25を筒軸A周りに正逆両方向に回転させる回転制御部35と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化樹脂を取り扱う樹脂供給装置、射出成形装置、及び樹脂成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この分野の技術として、下記特許文献1の技術が知られている。この文献の射出成形装置では、長繊維強化樹脂ペレットを乾燥装置で予備加熱して、射出成形機のホッパに投入し、射出成形を行うこととしている。このようにペレットの予備加熱を行うことで、射出成形機内におけるペレットの可塑化時の圧縮及び剪断作用の影響を小さくして、ペレットに含まれる繊維の折損を抑えることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−181877号公報
【特許文献2】特開平7−52185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような長繊維強化樹脂の射出成形において、成形品に含有される繊維の長さは、その成形品の機械的強度と密接な関係があるため重要な評価項目である。原材料の長繊維強化樹脂ペレットは射出成形機のホッパからスクリューへ輸送され、溶融、計量されてスクリューの高速前進により金型に充填される。この射出成形機におけるスクリューでの輸送、混練のプロセスで、樹脂内の繊維は剪断力により著しく破損され、繊維長さが短くなってしまう。例えば、原材料内での繊維長は7〜11mmであった場合でも、成形品内ではほとんどの繊維が0.5〜1.5mmとなってしまう場合もある。その結果、成形品の衝撃強度などの機械物性は期待されるほど高くないこともある。このように、長繊維強化樹脂製の成形品を製造する場合には、成形中における繊維の折損が発生し、成形品の機械的強度を低下させてしまう問題がある。
【0005】
この問題に対応する特許文献1の射出成形装置にあっても、予備加熱したペレットをホッパに投入するため、熱によって軟化したペレットがホッパ壁面に溶着したり、ペレット同士が溶着したりする問題が発生し易い。このため、予備加熱の温度は、ペレットが十分に軟化しない程度の温度に抑えざるを得ず、ある程度硬い状態でペレットが投入されることになる。例えば、樹脂ペレットの基材樹脂がポリプロピレンであれば、予備加熱の温度は、120℃程度が上限であると思われる。従ってこの場合、射出成形機内における繊維の折損を抑える効果も十分であるとは言えず、成形品の機械的強度を十分に向上させるとは言えない。
【0006】
また、特許文献2に記載の樹脂成形装置では、搬送路内の長繊維樹脂材料をフィードスクリューで送りながら、当該搬送路に高温不活性ガスを通過させて、樹脂材料を加熱している。しかしながら、フィードスクリューを回転させて搬送する方式では、樹脂材料が重力によって搬送路の下部に溜まったままで前方に送られていく。このため、搬送路の下部に集まって移動する樹脂材料同士が溶着する問題が発生し易く、結局のところ加熱温度を抑えて樹脂の軟化をある程度抑えざるを得ない。従って、このような方式を予備加熱に用いたとしても、繊維の折損を抑える効果が十分であるとは言えず、成形品の機械的強度を十分に向上させるとは言えない。
【0007】
以上のような問題に鑑み、本発明は、樹脂成形で得られる長繊維強化樹脂製の成形品の強度を向上させることができる樹脂供給装置、射出成形装置、及び樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の樹脂供給装置は、長繊維強化樹脂ペレットを搬送し樹脂成形機に供給する樹脂供給装置であって、前記長繊維強化樹脂ペレットの搬送方向に延在すると共に、前記長繊維強化樹脂ペレットを内側に収容し筒軸周りに回転自在に設けられた回転筒体と、前記回転筒体内の前記長繊維強化樹脂ペレットを前記筒軸方向に移動させる軸方向搬送手段と、前記回転筒体内を加熱する加熱手段と、前記回転筒体を前記筒軸周りに正逆両方向に回転させる回転制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この樹脂供給装置によれば、搬送される長繊維強化樹脂ペレットが回転筒体内に収容されて、筒軸方向に搬送される。そして、回転筒体は筒軸周りに正逆両方向に回転されるので、長繊維強化樹脂ペレットは回転筒体内で揺動され攪拌されながら搬送される。従って、長繊維強化樹脂ペレットは、加熱手段による加熱を受けてある程度軟化しても、回転筒体の内壁面に溶着したり、ペレット同士で溶着したりする現象が発生し難い。よって、加熱温度を高くしてもペレットの円滑な搬送が図られることから、長繊維強化樹脂ペレットを、より高温で十分に軟化させた状態で樹脂成形機に供給することができる。そして、十分に軟化された状態の長繊維強化樹脂ペレットでは、樹脂成形機内での更なる可塑化の際に、繊維が受ける機械的な負荷が十分に低く抑えられる。従って、繊維の折損の可能性が低減され、成形品に含有される繊維長の分布が平均的に長くなるので、成形品の機械的強度の向上を図ることができる。
【0010】
また、前記軸方向搬送手段は、前記回転筒体の内側で前記筒軸周りの螺旋状に設けられ前記回転筒体と一緒に前記筒軸周りに回転するスクリュー部を有することとしてもよい。このようなスクリュー部の存在により、長繊維強化樹脂ペレットを、回転筒体の回転に伴って、回転筒体内で筒軸方向に移動させることができる。
【0011】
また、前記スクリュー部は、前記回転筒体の内壁面に沿って螺旋状に延びることとしてもよい。この構成によれば、スクリュー部が内壁面に沿って延びており回転筒軸内の周縁部に位置するので、回転筒体の筒軸の周囲を中空にすることができる。従って、回転筒体の正逆回転に伴う長繊維強化樹脂ペレットの攪拌が効率よく行われ、回転筒体の内壁面に溶着したり、ペレット同士で溶着したりする現象がより発生し難くなる。
【0012】
また、前記回転制御部は、正回転の回転角度の合計が、逆回転の回転角度の合計よりも多くなるように前記回転筒体を回転させる筒体回転サイクルを繰り返し行うこととしてもよい。この構成によれば、筒体回転サイクルの度に長繊維強化樹脂ペレットを筒軸方向に移動させることができ、筒軸方向への長繊維強化樹脂ペレットの搬送が実現される。
【0013】
具体的には、前記筒体回転サイクルは、前記回転筒体の正逆回転を交互に少なくとも1往復行う往復回転ステップと、前記往復回転ステップの後に正回転を行う正回転ステップと、を含むこととしてもよい。
【0014】
また、本発明の射出成形装置は、上述の何れかの樹脂供給装置と、前記樹脂供給装置から供給された前記長繊維強化樹脂ペレットを射出成形して長繊維強化樹脂製の成形品を得る射出成形機と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
この射出成形装置では、上述の何れかの樹脂供給装置により、比較的高温の長繊維強化樹脂ペレットを射出成形機に供給することができる。従って、成形品の機械的強度の向上を図ることができる。
【0016】
本発明に係る樹脂成形品の製造方法は、筒体の内側に長繊維強化樹脂ペレットを収容し、前記筒体内を加熱すると共に前記筒体を筒軸周りに正逆両方向に回転させながら、前記長繊維強化樹脂ペレットを前記筒軸方向に搬送する樹脂搬送工程と、前記筒体から送り出された前記長繊維強化樹脂ペレットを、前記射出成形機に導入して射出成形し長繊維強化樹脂製の成形品を得る射出成形工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
この製造方法によれば、搬送される長繊維強化樹脂ペレットが筒体内に収容されて、筒軸方向に搬送される。そして、筒体は筒軸周りに正逆両方向に回転されるので、長繊維強化樹脂ペレットは筒体内で揺動され攪拌されながら搬送される。従って、長繊維強化樹脂ペレットは、加熱を受けてある程度軟化しても、筒体の内壁面に溶着したり、ペレット同士で溶着したりする現象が発生し難い。よって、加熱温度を高くしてもペレットの円滑な搬送が図られることから、長繊維強化樹脂ペレットを、より高温で十分に軟化させた状態で樹脂成形機に供給することができる。そして、十分に軟化された状態の長繊維強化樹脂ペレットでは、樹脂成形機内での更なる可塑化の際に、繊維が受ける機械的な負荷が十分に低く抑えられる。従って、繊維の折損の可能性が低減され、成形品に含有される繊維長の分布が平均的に長くなるので、成形品の機械的強度の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、樹脂成形で得られる長繊維強化樹脂製の成形品の強度を向上させることができる樹脂供給装置、射出成形装置、及び樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の射出成形装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の樹脂供給装置の要部を示す一部破断斜視図である。
【図3】図2の樹脂供給装置の要部を示す分解斜視図である。
【図4】(a)〜(e)は、図1の回転筒体及びスクリュー部が回転する状態を、筒軸A方向に直交する断面で取って示した断面図である。
【図5】図1における回転筒体及びスクリュー部を、筒軸Aを含む水平断面で取って示す断面図である。
【図6】図1のスクリュー部に代わる変形例を示す断面図である。
【図7】図6の樹脂供給装置の要部を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る樹脂供給装置、射出成形装置、及び樹脂成形品の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、射出成形装置1は、樹脂製品を射出成形法により製造する装置である。射出成形装置1は、製品の射出成形を行う射出成形機3と、当該射出成形機3に樹脂ペレットPを一定速度で供給する樹脂供給装置5と、を備えている。
【0022】
ここで用いられる樹脂ペレットPは、長さ5mm以上のガラス等の繊維によって強化された長繊維強化樹脂ペレットであり、射出成形装置1で得られる樹脂製品は、ガラス等の繊維を含むことにより衝撃強度等が強化された長繊維強化樹脂製の成形品である。市販の長繊維強化樹脂ペレットは、束になったガラスなどの繊維に樹脂を含浸させ、棒状に引き取りながら等長に6mmから12mm程度に細かく裁断され円柱の粒状のペレットとされている。従って、市販の樹脂ペレットPに含まれる繊維は互いに平行であり、繊維の長さは樹脂ペレットPの長さとほぼ同である。このような長繊維強化樹脂ペレットは、それ自体強度が高く変形しにくい。また、射出成形装置1で用いられる樹脂ペレットPは、上記のような粒状ペレットとして市販されているものには限られず、例えば、長繊維強化樹脂製品から再生された粉砕樹脂であってもよい。
【0023】
射出成形機3は、公知のインラインスクリュー式の射出成形機であり、樹脂を溶融させて射出する射出部7と、射出された樹脂を金型で成形する成形部9とを備えている。射出部7には、ホッパ11から粒状の樹脂ペレットPが導入される。この樹脂ペレットPが、回転するスクリュー13に噛み込まれると、前方に送られながら周囲から熱を受けるとともに、加熱シリンダ15の内壁面からの剪断力によって樹脂ペレットPは軟化、変形し流動性を得る。更に、スクリュー13の溝の中の旋回流で樹脂の繊維分散が進行し、最終的に均質で良好な流動を有する溶融樹脂となり、スクリュー13の前方に準備される。そして、溶融樹脂をスクリュー13の前進によって前方に押し出すことで、先端のノズル17から溶融樹脂が成形部9に射出される。成形部9は、金型と当該金型を締め付ける型締機構を有しており、金型で成形され冷却固化されてなる樹脂成形品を、型締機構で金型を開いて製品として取り出す。
【0024】
樹脂供給装置5は、樹脂ペレットPを加熱しながら水平に搬送し、射出成形機3のホッパ11に一定速度で樹脂ペレットPを投入する装置である。樹脂供給装置5は、水平に延在する円筒形状の外筒筐体21と、この外筒筐体21の後端部に設けられたペレット導入部23とを有している。ペレット導入部23の上部には、上方に向けてラッパ状に開口するホッパ27が設けられている。この樹脂供給装置5には、ホッパ27から樹脂ペレットPが供給される。
【0025】
更に、図2及び図3にも示されるように、外筒筐体21の内側には、外筒筐体21と同軸の円筒形状をなす回転筒体25が内蔵されている。ホッパ27から供給される樹脂ペレットPは、この回転筒体25内部の中空部分を通過して射出成形機3のホッパ11まで搬送される。すなわち、回転筒体25の中空部分は、樹脂ペレットPの搬送路26を構成する。具体的には、ホッパ27内の樹脂ペレットPは、重力によってペレット導入部23内を下方に移動し、回転筒体25の後端面に設けられたペレット入口25aを通じて回転筒体25の内部に導入される。そして、詳細は後述するが、樹脂ペレットPは回転筒体25内を前方に向けて移動し、回転筒体25の円柱面の先端部に開口されたペレット出口25bから落下し、外筒筐体21に開口されたペレット供給口5aを通じてホッパ11に投入される。
【0026】
この回転筒体25は外筒筐体21に対して、円筒の筒軸A周りに回転自在に支持されている。回転筒体25の後端面にはペレット導入部23の後方に突出したシャフト28が直結されており、当該シャフト28の後端部分にプーリ29が取り付けられている。そして、ペレット導入部23の下方にはモータ31が設けられており、当該モータ31は、ベルト33を介してプーリ29を回転させる。また、樹脂供給装置5は、モータ31に駆動信号を送信しモータ31の回転を制御する回転制御部35を備えている。回転制御部35は、駆動信号によりモータ31を正回転・逆回転させることが可能である。例えば、このような回転制御部35としては、コンピュータを用いることができる。このような構成により、回転筒体25は、回転制御部35の制御下で、筒軸A周りに、正回転・逆回転の両方向に回転する。
【0027】
図2及び図3にも示すように、回転筒体25の内側には、ペレット入口25aからペレット出口25bまでの範囲に、スクリュー部37が設置されている。スクリュー部37は、回転筒体25の内壁面25cに沿って筒軸A周りの螺旋状に延びたコイルスプリング状の部材である。スクリュー部37は、回転筒体25に固定されており、回転筒体25と一緒に筒軸A周りに回転する。また、スクリュー部37は、内壁面25cに対してほぼ隙間無く内接しており、図4にも示されるように、筒軸Aに平行に見れば、内壁面25cから筒軸Aに向かって所定の高さで立ち上がっている。
【0028】
また、スクリュー部37が内壁面25cに沿って螺旋状に延びていることから、回転筒体25内部の搬送路26には、スクリュー部37に内接する仮想円柱37s(図3)の形状を呈する中空部分39が形成される。ここでは、スクリュー部37は、回転筒体25とは別部材として設けられており、例えばネジ止めなどにより回転筒体25に着脱自在に固定されている。そして、スクリュー部37は、回転筒体25との固定を解除することにより、筒軸A方向に当該回転筒体25から抜き取ることができる。この構成により、回転筒体25の内壁面25cやスクリュー部37のメンテナンスが容易になる。なお、スクリュー部37は、回転筒体25の内壁面25c上に一体に形成されてもよい。
【0029】
このようなスクリュー部37の存在により、回転筒体25の筒軸A周りの回転に伴って、スクリュー部37も一緒に回転し、樹脂ペレットPが筒軸A方向に移動する。なお、以下の説明では、樹脂ペレットPがペレット出口25bに向かって前進するような回転筒体25の回転を「正回転」とし、樹脂ペレットPがペレット入口25aに向かって後退するような回転筒体25の回転を「逆回転」とする。回転筒体25は、回転制御部35で予め設定された回転サイクルを繰り返すことにより、搬送路26内で樹脂ペレットPを揺動し攪拌する。
【0030】
上記の回転サイクルは、1サイクル中で正回転の回転角度の合計が逆回転の回転角度の合計よりも大きくなるように設定される。例えば、回転サイクルは、回転筒体25の正逆回転を交互に少なくとも1往復行う往復回転ステップと、この往復回転ステップの後に正回転を行う正回転ステップと、を含むように設定される。この場合、例えば、回転筒体25の回転速度、往復回転ステップにおける回転筒体25の正回転・逆回転の回転回数、往復回転ステップにおける往復回数、及び正回転ステップにおける回転回数が、設定項目となる。
【0031】
この場合の、具体的な回転サイクルの一例は次のとおりである。例えば、各設定項目を、回転速度=毎秒3回転、
往復回転ステップにおける正回転の回転回数=1回転、
往復回転ステップにおける逆回転の回転回数=1回転、
往復回転ステップにおける往復回数=3回往復、
正回転ステップにおける回転回数=2回転、
などとする。この場合、回転筒体25は、毎秒3回転の回転速度で、1回転の正回転と1回転の逆回転とを、休止状態を挟まずに交互に繰り返す。このような正逆交互の回転を3往復行い、その後、更に正回転ステップにおける2回の正回転を加えた一連の回転動作が、1サイクルとして設定される。このような設定によれば、樹脂ペレットPは、上記回転サイクルの繰り返しにより、搬送路26内で前進と後退とを繰り返しながら、結果的に所望の速度で前方に搬送されていく。
【0032】
更に、樹脂供給装置5は、外筒筐体21の外周面に巻き付けるように配置されたバンドヒータ41を備えている。このバンドヒータ41の発熱により、回転筒体25の内部における樹脂ペレットPの搬送路26が加熱される。樹脂ペレットPは、内壁面25cからの伝熱及び搬送路26内の加熱された空気により、加熱焙煎されながら搬送路26を搬送されていく。従って、ペレット出口25bから排出される樹脂ペレットPは、ある程度高温になっており、樹脂供給装置5は、ある程度高温の樹脂ペレットPを、射出成形機3に供給することができる。
【0033】
以上の射出成形装置1の構成に基づき、回転筒体25の内側の搬送路26に長繊維強化樹脂ペレットPを収容し、回転筒体25内を加熱すると共に回転筒体25を筒軸A周りに正逆両方向に回転させながら、長繊維強化樹脂ペレットPを筒軸A方向に搬送する樹脂搬送工程が、樹脂供給装置5によって行われる。また、回転筒体25から送り出された長繊維強化樹脂ペレットPを、射出成形機3に導入して射出成形し長繊維強化樹脂製の成形品を得る射出成形工程が、射出成形機3によって行われる。このように、射出成形装置1においては、上記樹脂搬送工程と上記射出成形工程とによって、長繊維強化樹脂製の成形品が製造される。
【0034】
続いて、樹脂供給装置5を備える射出成形装置1が奏する作用効果について説明する。
【0035】
射出成形装置1が備える射出成形機3は、インラインスクリュー式の射出成形機である。このようなインラインスクリュー式の射出成形機3では、原材料の樹脂ペレットPがホッパ11からスクリュー13へ輸送され、溶融、計量されてスクリュー13の高速前進により金型に充填される。この射出成形機3で、長繊維強化樹脂ペレットPを取り扱う場合、スクリュー13での輸送、混練のプロセスで、樹脂ペレットPに含まれる繊維が剪断力により破断し、繊維長さが短くなってしまう。その結果、成形品の衝撃強度などの機械的物性が十分に得られないといった問題がある。このような樹脂ペレット中の繊維の破断現象は、特にスクリュー13に投入された直後における可塑化の初期が問題と考えられる。すなわち、スクリュー13への投入直後の軟化が十分でない時に、樹脂ペレットPがスクリュー13の混練プロセスによる強い剪断力や曲げを受けると繊維が折損しやすいためである。
【0036】
従って、この問題の対策として、樹脂供給装置5では、前述のとおり、樹脂ペレットPを搬送中に加熱し、樹脂ペレットPをある程度高温の状態で射出成形機3に供給することとしている。これにより、スクリュー13への投入直後においても樹脂ペレットPが軟らかく、スクリュー13による混練プロセスで樹脂ペレットP中の繊維に作用する剪断力等の機械的な負荷が低減される。従って、樹脂ペレットP中の繊維の折損の可能性が低減され、最終的に成形品に残存する繊維長の分布が平均的に長くなる。このように、長繊維強化樹脂の射出成形において、成形品の中に長い繊維を多く残存させることができるので、衝撃強度など機械物性で優れた成形品を得ることができる。
【0037】
また、この場合、射出成形機3に投入される時点の樹脂ペレットPの温度が高いほど、樹脂ペレットPが軟らかく、その結果、繊維の折損を低減させ成形品の機械的強度を向上する効果が高いと考えられる。すなわち、成形品の機械的強度を向上させる観点からは、樹脂供給装置5により加熱される樹脂ペレットPの温度は高い方が好ましい。しかしながら、樹脂ペレットPの温度が高くなれば、軟化した樹脂ペレットPが回転筒体25の内壁面25cに溶着したり、樹脂ペレットP同士が溶着したりする問題が発生し易い。
【0038】
これに対し、樹脂供給装置5では、前述のとおり、回転筒体25を正逆に交互に回転させながら、回転筒体25内の樹脂ペレットPを搬送することとしている。図4(a)〜(e)に示されるように、回転筒体25を正逆交互に回転させることにより、回転筒体25内の樹脂ペレットPは、内壁面25cに引きずられて上昇・落下を繰り返しながら周方向に大きく交互に動くので、回転筒体25内で効果的に揺動・攪拌されながら加熱搬送される。
【0039】
ここで仮に、回転筒体25の回転方向を一方向とすれば、樹脂ペレットP各粒子の相互の位置の入れ替えが起こり難いので、樹脂ペレットPの各粒子同士が相対的に静止した集団で移動することになり易い。この場合、樹脂ペレットP粒子の表面の軟化に伴って、各粒子同士が溶着してオコシ状(ペレット塊)になり易く、ペレット供給口5aでブリッジが発生し、樹脂ペレットPがホッパ11に円滑に落下しないこともあり得る。
【0040】
これに対して、この樹脂供給装置5では、回転筒体25の回転方向を正逆交互に切り替えることとしているので、回転筒体25内における揺動・攪拌によって、樹脂ペレットPの各粒子は、内壁面25c上やスクリュー部37の表面上の同じ位置に長時間留まることはほとんどなく、樹脂ペレットPが内壁面25c等に溶着し難い。また、樹脂ペレットPの各粒子が、長時間同じ粒子に継続して接触することがほとんどないので、樹脂ペレットP同士が溶着する時間が与えられず、ペレット塊も発生し難い。また、樹脂ペレットPの各粒子の相互位置が頻繁に入れ替えられるので、樹脂ペレットPの局所的な過熱が避けられ、樹脂ペレットPの各粒子が均一に加熱される。
【0041】
以上のように、回転筒体25の正逆回転を行えば、樹脂ペレットPがある程度軟化した場合にも、樹脂ペレットPが内壁面25cに溶着しにくく、また、樹脂ペレット同士の溶着も発生し難いので、樹脂ペレットPの温度を高くし易い。例えば、この場合、樹脂ペレットPの基材樹脂が軟化点を超え、樹脂ペレットPは、ペンチなどで掴むと容易に潰れる程度の軟らかさになる程度に加熱することが可能である。例えば、樹脂ペレットPの樹脂基材がポリプロピレン樹脂である場合、約135℃に加熱することが可能である。このように、射出成形機3に供給する樹脂ペレットPを十分に高温にし十分に軟化させることができるので、射出成形機3内での更なる可塑化の際に繊維が受ける機械的な負荷が十分に低く抑えられる。そして、樹脂ペレットP中の繊維の折損の可能性が十分に低減され、その結果、成形品の機械的強度の向上を図ることができる。
【0042】
また、スクリュー部37は、回転筒体25の内壁面25cに沿って螺旋状に延びているので、スクリュー部37は、搬送路26の周縁部に位置している。従って、筒軸A近傍にはスクリュー部37のシャフトなどは存在せず、搬送路26の中央には中空部分39が形成される。従って、回転筒体25の正逆回転に伴う樹脂ペレットPの上昇・落下がシャフト等に妨げられることがなく、その結果、樹脂ペレットPの攪拌が効率よく行われる。従って、回転筒体25の内壁面25cに溶着したり、樹脂ペレットPでペレット塊が発生したりする現象が更に発生し難くなる。
【0043】
また、図5に示すように、搬送路26の下半分を上方から見た場合、搬送路26は、スクリュー部37のピッチに対応して、筒軸A方向に配列される複数の小部屋r1,r2,r3,…,rn,…に仕切られている。そして、各小部屋rnに樹脂ペレットPが小分けされ収納された状態をなしている。このような状態から、回転筒体25の正逆回転が行われると、上記のように搬送路26の中央に中空部分39(図2〜図4参照)が形成されていることから、樹脂ペレットPは、上昇・落下時に中空部分39を通過して、隣接する小部屋に容易に飛び移ることができる。
【0044】
そして、回転筒体25の正逆回転が繰り返される度に、各小部屋r1,r2,r3,…に収納される樹脂ペレットPの量が平均化されることになる。従って、ペレット出口25bに近づくほど、均一な量の樹脂ペレットPが各小部屋r1,r2,r3,…毎に小分けされる。このことは、回転筒体25の回転サイクルの繰り返しによって、バラツキが小さい正確な一定量の樹脂ペレットPが、ペレット供給口5aから排出されることを意味する。従って、回転筒体25の回転を、モータ31及び回転制御部35によって正確に制御可能であることも相俟って、ペレット供給口5aからホッパ11への樹脂ペレットPの供給速度(単位時間当たりの供給量)を高精度で一定速度に制御することができる。
【0045】
その結果、ホッパ11への樹脂ペレットPの供給速度を、射出成形機3での樹脂ペレットPの消費速度(単位時間当たりの消費量)に正確に合わせることができる。従って、ホッパ11内に高温の樹脂ペレットPが滞留させる必要がなく、樹脂ペレットPがホッパ11に溶着したり、樹脂ペレットPの粒子同士が溶着したりする可能性が低減される。よって、所謂ブリッジ現象により樹脂ペレットPが供給不可能になってしまう可能性を低減することができる。
【0046】
また、市販の長繊維強化樹脂ペレットの粒形状は円柱状であるため、スクリュー13の溝が浅い小型の射出成形機3を用いた場合に、室温の樹脂ペレットPをホッパ11に供給すれば、樹脂ペレットPをスクリュー13で噛み込むことができず、樹脂ペレットPを加熱シリンダ15内に導入することが出来なかった。これに対し、射出成形装置1では、加熱し軟化された樹脂ペレットPがホッパ11に供給されるので、スクリュー13の溝がある程度浅い場合にも、樹脂ペレットPを変形させながら加熱シリンダ15内に送り込むことができる。このように、射出成形装置1では、従来では小型の射出成形機3には用いることができない樹脂ペレットPを用いることができるようになる。
【0047】
なお、樹脂ペレットPの基材樹脂がポリプロピレン樹脂である場合において、上述したような各作用効果を効果的に奏するためには、ペレット供給口5aから排出される樹脂ペレットPの表面温度を、120〜140℃とすることが好ましい。ペレット供給口5aから排出される樹脂ペレットPの表面温度が120℃未満の場合には、樹脂ペレットP中の繊維の折損を低減する効果が十分に得られず、140℃を超える場合には、樹脂ペレットPの溶着性が大きくなり、樹脂ペレットの円滑な搬送が行われなくなる。ペレット供給口5aから排出される上記樹脂ペレットPの表面温度の更に好ましい範囲は、125〜135℃である。バンドヒータ41の出力を適宜調整し、又は、回転制御部35における回転サイクルの設定項目を適宜調整することによって、ペレット供給口5aから排出される樹脂ペレットPの表面温度を調整することが可能である。
【0048】
また、ポリアミド樹脂やポリカーボネート樹脂を基材とする樹脂ペレットPを用いる場合、射出成形機3に供給する前に、樹脂ペレットPの予備乾燥が不可欠である。このような樹脂ペレットPを用いる場合においては、樹脂供給装置5によって樹脂ペレットPの可塑化直前の高温乾燥が可能であるので、乾燥の効果が向上する。また、他の樹脂においても最終乾燥温度を従来の乾燥温度より約20〜30℃高めることができ、しかも均一な温度でムラなく乾燥できるので、乾燥不十分による成形トラブルを低減することができる。例えば、PET樹脂の粉砕材料を樹脂ペレットとして用いる場合については、樹脂供給装置5の加熱搬送によってほぼ完全な乾燥が可能となり、成形品における不良品が減少する。
【0049】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、コイルスプリング状のスクリュー部37を軸方向搬送手段として採用しているが、これに代えて、図6及び図7に示すようなスクリュー部137を採用してもよい。このスクリュー部137は、筒軸A上に延在するシャフト137aと、当該シャフト137aの周りに設置された螺旋状のフライト137bと、を備えるものである。
【0050】
このスクリュー部137は、回転筒体25に固定されて回転筒体25と一緒に筒軸A周りに回転する。また、スクリュー部137のフライト137bは、回転筒体25の内壁面25cに外接している。ここでは、スクリュー部137は、回転筒体25とは別部材として設けられており、例えばネジ止めなどにより回転筒体25に着脱可能に固定されている。そして、スクリュー部137は、回転筒体25との固定を解除することにより、筒軸A方向に当該回転筒体25から抜き取ることができ、メンテナンスを容易にしている。このようなスクリュー部137を用いても、回転筒体25の回転によって、樹脂ペレットPを筒軸A方向に送ることができる。
【符号の説明】
【0051】
1…射出成形装置、3…射出成形機(樹脂成形機)、5…樹脂供給装置、25…回転筒体、25a…回転筒体の内壁面、35…回転制御部、37…スクリュー部(軸方向搬送手段)、41…バンドヒータ(加熱手段)、137…スクリュー部(軸方向搬送手段)、A…筒軸、P…長繊維強化樹脂ペレット。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維強化樹脂ペレットを搬送し樹脂成形機に供給する樹脂供給装置であって、
前記長繊維強化樹脂ペレットの搬送方向に延在すると共に、前記長繊維強化樹脂ペレットを内側に収容し筒軸周りに回転自在に設けられた回転筒体と、
前記回転筒体内の前記長繊維強化樹脂ペレットを前記筒軸方向に移動させる軸方向搬送手段と、
前記回転筒体内を加熱する加熱手段と、
前記回転筒体を前記筒軸周りに正逆両方向に回転させる回転制御部と、を備えることを特徴とする樹脂供給装置。
【請求項2】
前記軸方向搬送手段は、
前記回転筒体の内側で前記筒軸周りの螺旋状に設けられ前記回転筒体と一緒に前記筒軸周りに回転するスクリュー部を有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂供給装置。
【請求項3】
前記スクリュー部は、前記回転筒体の内壁面に沿って螺旋状に延びることを特徴とする請求項2に記載の樹脂供給装置。
【請求項4】
前記回転制御部は、
正回転の回転角度の合計が、逆回転の回転角度の合計よりも多くなるように前記回転筒体を回転させる筒体回転サイクルを繰り返し行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の樹脂供給装置。
【請求項5】
前記筒体回転サイクルは、
前記回転筒体の正逆回転を交互に少なくとも1往復行う往復回転ステップと、前記往復回転ステップの後に正回転を行う正回転ステップと、を含むことを特徴とする請求項4に記載の樹脂供給装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の樹脂供給装置と、
前記樹脂供給装置から供給された前記長繊維強化樹脂ペレットを射出成形して長繊維強化樹脂製の成形品を得る射出成形機と、
を備えたことを特徴とする射出成形装置。
【請求項7】
筒体の内側に長繊維強化樹脂ペレットを収容し、前記筒体内を加熱すると共に前記筒体を筒軸周りに正逆両方向に回転させながら、前記長繊維強化樹脂ペレットを前記筒軸方向に搬送する樹脂搬送工程と、
前記筒体から送り出された前記長繊維強化樹脂ペレットを、前記射出成形機に導入して射出成形し長繊維強化樹脂製の成形品を得る射出成形工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−98499(P2011−98499A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254283(P2009−254283)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(598102546)南真化学工業株式会社 (12)
【出願人】(300030554)
【Fターム(参考)】