説明

樹脂射出成形品とその射出成形方法

【課題】射出ゲート周辺における強度ムラがより確実に抑制されており、熱負荷に対する耐久性も高い樹脂射出成形品を提供する。
【解決手段】溶融樹脂が射出される射出ゲート22に臨み、該射出ゲート22を中心として同心状に形成された、他の部位より厚肉な凸部11を有する樹脂射出成形品であって、凸部22の周壁は末広がりな斜面となっており、凸部22の周壁のうち少なくとも裾部が、周壁全体が平坦斜面である場合よりも外方へ拡がるように湾曲した曲面部とされている。曲面部の曲率半径は、0より大きく凸部22の高さ以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出ゲートに臨む凸部が形成された樹脂射出成形品と、これの射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂成形品は射出成形により製造されることが多い。この場合、成形用金型内に設けられた所定形状のキャビティへ溶融樹脂を充填・固化させることで、種々の形状の樹脂射出成形品を得ることができる。溶融樹脂は、キャビティに連通された射出ゲートを介してキャビティ内へ充填される。
【0003】
ところで、樹脂成形品を射出成形する場合、射出ゲートを介して射出充填された溶融樹脂は、当該射出ゲート周辺における流動性が悪くせん断速度が高くなるため、残留応力が発生し易い傾向にある。また、ガラス繊維などの強化繊維を含有する樹脂成形品(繊維強化プラスチック)の場合であれば、強化繊維の疎密(密度ムラ)も発生し易い傾向にある。したがって、得られた樹脂射出成形品においては、射出ゲート周辺部分の強度が他の部位に比べて低下したり、当該部分にクラックが発生し易くなるなどの問題がある。そこで、このような問題を解決する技術として、例えば下記特許文献1や特許文献2が提案されている。
【0004】
特許文献1や特許文献2では、カップ容器やキャップ部材のような薄肉部材を射出成形するに当たり、射出ゲートに臨む成形品の一部に、円錐台形の凸部を形成している。なお、特許文献1や特許文献2では、凸部の周壁は平坦面となっている。これによれば、凸部の存在により射出ゲートから射出された溶融樹脂の流動性が向上することで、射出ゲート周辺部分における強度ムラやクラックの発生を避けることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−26038号公報
【特許文献2】特開2010−30253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2では凸部の周壁は平坦である。この場合、図5に示すように、成形品本体100と凸部101との境界には、角部102が存在する。すると、角部102を境にして凸部101における溶融樹脂Rの流動方向(角度)rと成形品本体101の外面との間に明確な角度の開き△θがあることで、角部102の直下に溶融樹脂の滞留部103が生じてしまう。これでは、射出ゲート周辺における強度ムラの抑制効果には限界がある。しかも、一般的な使用条件においてはクラックの発生を避けることができるとしても、温度変化が激しく熱負荷が大きい過酷な環境に曝されるような使用条件では、残留応力や強化繊維の疎密による材料の線膨張差によってクラックが発生してしまうおそれが高くなる。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、射出ゲート周辺における強度ムラがより確実に抑制されており、これにより熱負荷に対する耐久性が高いことから、例え温度変化の激しい環境に晒されたとしてもクラックが生じ難い樹脂射出成形品と、その射出成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段として、第1の発明は、溶融樹脂が射出される射出ゲートに臨み、該射出ゲートを中心として同心状に形成された、他の部位より厚肉な凸部を有する樹脂射出成形品であって、前記凸部の周壁は、末広がりな斜面となっており、前記凸部の周壁のうち少なくとも裾部が、周壁全体が平坦斜面である場合よりも外方へ拡がるように湾曲した曲面部とされていることを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記曲面部の曲率半径が0より大きく前記凸部の高さ以下であることを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、溶融樹脂が射出される射出ゲートに臨むように、他の部位より厚肉な凸部を前記射出ゲートを中心として同心状に形成した樹脂射出成形品の射出成形方法であって、前記凸部の周壁を末広がりな斜面とし、且つ前記凸部の周壁のうち少なくとも裾部を、周壁全体が平坦斜面である場合よりも外方へ拡がるように湾曲した曲面部としたうえで、前記射出ゲートから溶融樹脂を射出することを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において、前記曲面部の曲率半径を0より大きく前記凸部の高さ以下としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、凸部周壁の少なくとも裾部を曲面部としていることで、成形品本体と凸部との境界がなだらかになる。これにより、射出ゲートから射出された溶融樹脂が凸部から成形品本体へ流動する際に、流動方向が急激に変化することなく円滑に流動することができるので、凸部の周囲に滞留部が生じることを避けることができる。以って射出ゲート周辺における強度ムラを従来よりも確実に抑制することができる。また、これにより残留応力や補強繊維の疎密による材料の線膨張差も低減して熱負荷に対する耐久性が向上することで、例え温度変化の激しい環境に晒されたとしても、クラックの発生を避けることができる。このような効果は、流動抵抗もしくはせん断速度が高く射出ゲート周辺で滞留に起因する強度ムラが生じ易い薄肉部材を射出成形する場合に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1の凸部周辺を示す要部拡大断面図である。
【図2】実施形態2の凸部周辺を示す要部拡大断面図である。
【図3】実施例の凸部周辺の断面SEM写真である。
【図4】比較例の凸部周辺の断面SEM写真である。
【図5】従来の凸部周辺を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の樹脂射出成形品は、図1や図2に示すように、内部に所定形状のキャビティCを有する金型20によって成形される。金型20は、例えば上型と下型や右型と左型、必要に応じて複数のスライドコアを有するなどのように複数に分割されており、各分割型同士を突き合わせて型閉めすることで、樹脂成形用の中空空間であるキャビティCが形成される。キャビティC用の凹みは、1つの分割型のみに形成されて、それのみで所定形状が成り立っている場合もあるし、複数の分割型に形成されて、各分割型同士を突き合わせることで所定形状が成り立つ場合もある。各分割型は、1つが固定型でその他が可動型とされている場合や、各分割型がそれぞれ可動型となっている場合もある。
【0015】
また、金型20内には、溶融樹脂の供給経路となるランナ21と、ランナ21の先端に連続し、キャビティC内へ溶融樹脂を射出するための射出ゲート22が設けられている。射出ゲート22は先窄まり形状を呈し、その先端がキャビティCに連通している。ランナ21を通して供給されてきた溶融樹脂は、射出ゲート22からキャビティC内へ射出充填されて固化することで、所定形状の樹脂射出成形品が成形される。その後、金型20を開いて成形品を取り出し、ゲート跡突起を除去することで、樹脂射出成形品を得ることができる。
【0016】
樹脂射出成形品を形成する樹脂としては、射出成形可能な熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)などの熱可塑性樹脂を使用できる。
【0017】
これを前提として、本発明の代表的な実施形態について説明する。なお、以下では、説明の便宜上、キャビティCによって成形される部材名によって説明する。また、以下の実施形態としては、少なくとも薄肉な板状部を有し、該板状部に射出ゲートが連通された樹脂射出成形品を成形する場合を例に挙げて説明する。板状部とは、扁平な板状はもちろん、湾曲ないし屈曲した板状や複雑形状の板状も含まれる。板状部を有する樹脂射出成形品としては、板材やカップ状部材などその全部が板状のものでもよいし、少なくともその一部が板状のものでもよい。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態1の樹脂射出成形品は、図1に示すように、成形品本体10と、他の部位より厚肉な凸部11とを一体的に有する。凸部11は、射出ゲート22に臨んで(連通されて)おり、射出ゲート22を中心として同心円状に形成されている。凸部11は末広がりな円錐台形であり、その上端面の直径は射出ゲート22の先端面の直径と同一となっている。凸部11の高さは特に限定されないが、一般的には0.5〜10mm程度、好ましくは0.7〜5mm程度である。
【0019】
本実施形態1では、凸部11の周壁全体が、該周壁全体が図1において想像線(破線)で示すように平坦斜面である場合よりも外方へ拡がるように、凹湾曲した曲面とされている。曲面部(本実施形態1では周壁全体)の曲率半径は、0より大きく凸部11の高さ以下に設定されている。例えば凸部11の高さが0.75mmであれば、曲面部の曲率半径は0より大きく0.75mm以下に設定する。曲面部の曲率半径が0では周壁が従来と同様に平坦面となるので、本発明の効果が得られない。一方、曲面部の曲率半径はできるだけ大きい方が好ましいが、あまりに大きいと実質的に平坦面に近くなり、やはり本発明の効果が得られ難い。曲面部の曲率半径は、好ましくは凸部11の高さの50〜90%である。例えば凸部11の高さが0.75mmであれば、曲面部の曲率半径は約0.38〜0.68とする。
【0020】
樹脂射出成形品を射出成形する際に、ランナ21を通して供給されてきた溶融樹脂が射出ゲート22を介して射出されると、凸部11において溶融樹脂が放射状に拡散しながら成形品本体10へ流入充填されていく。これにより、射出ゲート22周辺における溶融樹脂の流動性が向上することで樹脂が均一化され、強度ムラが抑制される。さらに、凸部11の周壁が曲面となっており、成形品本体10と凸部11とがなだらかに連続していることで、溶融樹脂の流動方向は、凸部11の周壁に沿って成形品本体10にかけて円滑に変化していく。これにより、凸部11の直下における溶融樹脂の滞留が防がれることで、射出ゲート22周辺の強度ムラをより確実に抑制することができる。
【0021】
(実施形態2)
上記実施形態1は、凸部11の周壁全体を曲面としたが、図2に示す実施形態2のように、凸部11の周壁のうち、少なくとも裾部のみを曲面部11rとすることもできる。この場合、凸部11の周壁の上端部は平坦面11fとなっている。凸部11の周壁のうち、曲面部11rとする範囲は、凸部11の高さのうち、少なくとも下方30%程度、好ましくは下方50%程度、より好ましくは下方70%程度とする。曲面部11rの範囲が大きいほど、本発明の効果を得られ易い。
【0022】
上記実施形態1や実施形態2のようにして得られた樹脂射出成形品は、キャップ部材、各種容器、板状部材、各種機械的機構の構成部材など、種々の部材として成形することができる。特に、本発明の樹脂射出成形品は、従来よりも強度ムラが抑制されているので、熱負荷に対する耐久性も高い。したがって、例えば自動車の内燃機関周辺など、温度変化の激しい環境に晒されるような部材として好適に適用することができる。
【0023】
なお、上記実施形態1や実施形態2では、薄肉な板状部に凸部11を形成して射出ゲート22を連通させた例について説明したが、これに限らず、十分な厚みを有するブロック状の部位に凸部11を形成することもできる。
【実施例】
【0024】
平坦斜面の凸部を使用した比較例と、曲面部を有する凸部を使用した実施例とを比較評価した。実施例には、高さ0.75mm、下半分が曲率半径0.5mmの曲面部となっている、円錐台形の凸部を形成した。一方比較例には、高さ0.75mmの円錐台形の凸部を形成した。成形樹脂には、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を使用した。
【0025】
得られた実施例の樹脂射出成形品における、凸部周辺の断面SEM写真を図3に示す。また、得られた比較例の樹脂射出成形品における、凸部周辺の断面SEM写真を図4に示す。なお、実施例には、樹脂の流動軌跡を判別し易いように、ガラス繊維を配合している。
【0026】
図3の結果から明らかなように、凸部の周壁の裾部を曲面部とした実施例では、凸部から成形品本体に掛けて樹脂が円滑に流動しており、凸部の直下において滞留が生じていないことが確認された。一方、図4の結果から明らかなように、凸部の周壁が平坦斜面となっている比較例では、凸部の直下において明らかに滞留が生じていた。
【0027】
また、上記実施例及び比較例の熱負荷に対する耐久性についても比較評価した。試験条件としては、−40℃雰囲気と150℃雰囲気にそれぞれ1時間交互に晒して、クラックが発生するまでのサイクル数を計測した。その結果を表1に示す。1サイクルは、−40℃雰囲気と150℃雰囲気とにそれぞれ1回ずつ晒したことを意味する。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果から明らかなように、少なくとも裾部が曲面部となっている凸部を有する実施例は、周壁全体が平坦斜面の凸部を有する比較例に比べて、熱負荷に対する耐久性が著しく向上していることが確認された。
【符号の説明】
【0030】
10 成形品本体
11 凸部
11f 平坦面
11r 曲面部
20 金型
21 ランナ
22 射出ゲート
C キャビティ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂が射出される射出ゲートに臨み、該射出ゲートを中心として同心状に形成された、他の部位より厚肉な凸部を有する樹脂射出成形品であって、
前記凸部の周壁は、末広がりな斜面となっており、
前記凸部の周壁のうち少なくとも裾部が、周壁全体が平坦斜面である場合よりも外方へ拡がるように湾曲した曲面部とされていることを特徴とする、樹脂射出成形品。
【請求項2】
前記曲面部の曲率半径が、0より大きく前記凸部の高さ以下であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂射出成形品。
【請求項3】
溶融樹脂が射出される射出ゲートに臨むように、他の部位より厚肉な凸部を前記射出ゲートを中心として同心状に形成した樹脂射出成形品の射出成形方法であって、
前記凸部の周壁を末広がりな斜面とし、且つ前記凸部の周壁のうち少なくとも裾部を、周壁全体が平坦斜面である場合よりも外方へ拡がるように湾曲した曲面部としたうえで、前記射出ゲートから溶融樹脂を射出することを特徴とする、樹脂射出成形品の射出成形方法。
【請求項4】
前記曲面部の曲率半径を、0より大きく前記凸部の高さ以下としたことを特徴とする、請求項3に記載の樹脂射出成形品の射出成形方法。



【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−6341(P2013−6341A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140232(P2011−140232)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】