説明

樹脂成形体強化用の繊維基材及び樹脂成形体

【課題】2次元シート状繊維構造物がマトリックス樹脂中に充填された樹脂成形体において、樹脂成形体の面内方向強度の低下を起こさずに、層間強度を向上させることが可能な、繊維基材を提供する。
【解決手段】紡績糸により構成された2次元シート状繊維構造物の単体または複数積層物である樹脂成形体強化用の繊維基材であって、前記2次元シート状繊維構造物は、紡績糸の繊維束間に直径50μm以上1000μm以下の空隙を100個/cm2以上1000個/cm2以下もち、かつ直径1000μmを超える空隙が多くても2個/cm2であり、かつ、起毛加工を施されたものである樹脂成形体強化用の繊維基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体強化用の繊維ないし繊維を主成分として含む繊維基材に関する。また、本発明は、この繊維基材で強化された樹脂成形体、特に、アラミド繊維ないしアラミド繊維基材で強化された樹脂成形体に関する。この繊維強化樹脂成形体は、樹脂製歯車等の機械部品に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、機械部品の用途に用いられる繊維強化樹脂成形体は、所定の形状や厚みを得るために、2次元シート状繊維構造物を複数重ね合わせて、あるいは立体形状をもつ繊維構造物を単体もしくは複数重ね合わせて繊維基材とし、そこに樹脂を含浸させて硬化処理をされ、必要な場合は所定の形状に切削されることにより完成品となっていた。上記各種繊維基材のうち、樹脂成形体を作製する工程において、高強度で構造設計しやすく、さらに低コストであることを理由として、織布や編布、不織布を代表とした2次元シート状繊維構造物が多く使用されている。ここで、織布や編布は繊維束から成る紡績糸により構成されており、一方、不織布は繊維が絡み合ってできている。
しかしながら、一般に2次元シート状繊維構造物を用いた樹脂成形体はシートの面内方向の引張強度は比較的強いものの、シートとシートの間の層間の強度(剥離強度、面外強度)が極端に弱いという欠点があった。以下、シートとシートの間を層間と呼ぶ。2次元シート状繊維構造物を用いた成形体の層間強度が低い理由として、樹脂リッチ部の存在が知られている。織布や編布、不織布を代表とした2次元シート状繊維構造物を用いた場合、構成成分のシートとシートの間には繊維が存在していないため、基材に樹脂を含浸させることにより、層状の樹脂リッチな部分が生成する。この樹脂成形体に荷重が加えられた際、繊維の存在しない樹脂リッチ部でマイクロクラックが発生し、層間の強度が極端に低下する結果となる。さらに、特に織布や編布などの紡績糸により構成された2次元シート状繊維構造物においては、シートの面内に、紡績糸の繊維束の間の空隙部分が多く存在し、ここも樹脂含浸後は樹脂リッチ部分となり、強度低下の原因となっている。以下、この面内の繊維束間空隙部分を、繊維束間と呼ぶ。
このため、高荷重がかかる航空機構造体などや、高荷重でさらに様々なモードの荷重伝播がおこる機械部品などの用途に耐えうる繊維強化樹脂を作製することは、強度、耐久性の面で限界があり、これまで繊維強化樹脂の実質的な使用は応力の比較的小さい分野、もしくは荷重のかかる方向・モードが単純な分野に限定されていた。
これら2次元シート状繊維構造物で構成された樹脂成形体の強度を向上させるためには、上記したように、層間の繊維の絡み合いを多くし、層間の樹脂リッチ部を減少させることにより層間強度を向上させること、および繊維束間の樹脂リッチ部を減らすことが重要であると考えられる。
層間の強度を向上し、成形体の強度や耐久性を改善する手法として、航空機構造体の複合材料の炭素繊維基材について、ニードルパンチにより積層体の層間を繊維で絡み合わせる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、他にも一般に、繊維の絡み合いを向上させる方法として、ステッチング、ニッティングなどが知られている。(例えば、特許文献2、3参照)
【特許文献1】特開2004−60058号公報
【特許文献2】特許第3031110号
【特許文献3】特開2004−218133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来行われている、ニードルパンチ、ステッチング、ニッティングでは、一般に、直径100μm〜1mm程度、長さ5cm程度以下の針を基材に貫通させて用いるため、繊維基材の厚みに制限があり、さらに繊維基材に針が通るための一定の隙間が必要であるため、嵩高い、もしくはある程度緻密な繊維基材に対してはこれらの処理を行うことができなかった。さらに、ニードルパンチ、ステッチング、ニッティングの処理により層間強度は向上するものの、2次元シート状繊維構造物の面内に針が通った痕跡が残り、そこが新たな樹脂リッチ部分となる、もしくは繊維が損傷するため、面内方向については強度が低下するといった問題点があった。このように2次元繊維構造物による繊維基材の面内方向の強度維持と、層間の強化を両立することは困難であった。
【0004】
貫通する針を用いずに、層間および繊維束間に繊維を絡ませる方法として、紡績糸の表面に起毛加工を施す方法が考えられるが、2次元シート状繊維構造物を複数重ね合わせる際に、起毛した繊維が布地に押しつけられ、結果的に絡み合いの効果が少なくなり、強度を満足する基材は得られていなかった。
【0005】
一方、歯車のように高い頻度で相手部材と接触する機械部品の用途の場合、使用用途によっては、表面の樹脂が摩擦により発熱し、徐々に樹脂が熱劣化する心配がある。このとき劣化した樹脂は強度が低下し、剥がれ落ちるのに対し、表面の繊維は残留するため、表面に凹凸が生じる恐れがあり、その場合、表面の樹脂リッチ部の体積が大きいと、大きな凸凹が生じるため摩擦係数が大きくなり、ますます摩擦発熱により樹脂が劣化するといった悪循環に陥る心配がある。負荷が高い場合には、さらに、表面に生じた凸凹を起点とし、内部にクラックが進展し、全体的な強度が低下する心配がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、2次元シート状繊維構造物がマトリックス樹脂中に充填された樹脂成形体において、樹脂成形体の面内方向強度の低下を起こさずに、層間強度を向上させることが可能な、繊維基材を提供することである。本発明により、歯車などの高強度機械部品に用いることが可能な、層間方向も含めたあらゆる方向について充分な強度を有する繊維強化樹脂を製造することが可能となる。また、同時に、相手部材との接触面における樹脂リッチ部の体積を小さくすることにより、樹脂劣化を低減した繊維強化樹脂に用いられる2次元シート状繊維構造物による繊維基材を提供することを目的とする。上記目的を達成するため、本発明者らは、直径50μm以上1000μm以下の空隙を100個/cm2以上1000個/cm2以下もち、直径1000μmを超える空隙を2個/cm2以下もつ、紡績糸により構成された2次元シート状繊維構造物を使用し、紡績糸表面を起毛させることにより、樹脂成形体の強度を向上させることができた。
【0007】
本発明は以下の事項に関する。
(1)紡績糸により構成された2次元シート状繊維構造物の単体または複数積層物である樹脂成形体強化用の繊維基材であって、
前記2次元シート状繊維構造物は、紡績糸の繊維束間に直径50μm以上1000μm以下の空隙を100個/cm2以上1000個/cm2以下もち、かつ直径1000μmを超える空隙が多くても2個/cm2であり、かつ、起毛加工を施されたものであることを特徴とする樹脂成形体強化用の繊維基材。
【0008】
(2)2次元シート状繊維構造物が編布であることを特徴とする(1)に記載の繊維基材。
(3)パラ系アラミド繊維あるいはメタ系アラミド繊維により2次元シート状繊維構造物が構成されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の繊維基材。
【0009】
(4)針布もしくはブラシにより起毛加工が施されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維基材。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維基材がマトリックス樹脂中に充填された樹脂成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、直径50μm以上1000μm以下の空隙を100個/cm2以上1000個/cm2以下もち、直径1000μmを超える空隙を2個/cm2以下もつ2次元シート状繊維構造物を使用し、起毛加工を施し、単独で、又は複数を重ね合わせて繊維基材とした。一例として複数枚の2次元シート状繊維構造物を積層する工程の断面図を、図1に示す。起毛処理によって紡績糸1から起毛している多数の起毛繊維3が、隣あった2次元シート状繊維構造物A、A、A間の空隙と、自身のシートに存在する繊維束間空隙2を埋める。さらに、起毛繊維3により層間の絡み合いが増加する。比較として、図2に、起毛加工を施さなかった場合の2次元シート状繊維構造物を複数積層した場合の繊維基材の断面図を示す。起毛加工されていない2次元シート状繊維構造物B、B、Bには、隣り合った層間に若干生じる間隙と、各々の繊維束間空隙2とが、そのまま空隙として残っている。本発明によれば、起毛加工によって、従来の層間と繊維束間空隙の樹脂リッチ部が低減し、該繊維基材を使用した樹脂成形体は、極めて強度が高いことが分かった。なお、一般には空隙を有する2次元シート状繊維構造物は樹脂リッチ部を生み出すため、かえって強度が低下することが知られているが、本発明では起毛した繊維が空隙を充てんするため、強度の低下は起こらない。さらに起毛することにより2次元シート状繊維構造物の表面積が大きく増加するため、樹脂と繊維の接着性が一定以上に良好な樹脂と繊維の組み合わせを選択することにより、見ための繊維/樹脂間の接着性が大きく向上し、樹脂成形体の強度向上に寄与する。また、細かい起毛繊維が存在することにより、樹脂の含浸性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
2次元シート状繊維構造物としては、紡績糸を用いた平織り、綾織り、繻子織り等の織布、平編み、リブ編み、両面編み、パール編み等の編布、および不織布等が挙げられる。特に、起毛しやすい点で、紡績糸からなる織布、編布が好ましい。また、一定の均一な織目又は網目が形成可能なことから、上記例示の織布、編布が好ましい。繊維束間空隙を有し、空隙の大きさが均一で変化しにくい点で、編布が特に好ましい。織布を用いる際は紡績糸の交差する点が接着剤などで軽く固定されており、空隙の大きさが均一に保たれていることが好ましい。
【0012】
ここで、本発明における繊維束間空隙、繊維束間空隙の直径について、紡績糸により構成された2次元シート状繊維構造物の例を示す図3及び図4を参照して説明する。図3は、紡績糸1を平編みして得られる2次元シート状繊維構造物の平面図であり、図4は、紡績糸1を平織りして得られる2次元シート状繊維構造物の平面図である。繊維束間空隙2とは、2次元シート状繊維構造物を構成している紡績糸1で囲まれた紡績糸間空隙であって、2次元シート状繊維構造物を貫通する空隙を意味する。また、繊維束間空隙の直径とは、2次元シート状繊維構造物を平面視したときの、紡績糸間空隙に内接する円(図3、4に、点線にて示す。)の直径を意味し、以下の測定法により定義するものである。まず、起毛する前の織布もしくは編布を1枚、伸張しないように応力をかけない自然な状態で一面に広げ、光学顕微鏡で平面写真を撮影する。任意の1cm2部分について観察し、観察された紡績糸間空隙に内接する円の直径を測定し、その直径を繊維束間空隙の直径とした。また、繊維束間空隙の数を計量する際は、直径が50μm未満の空隙は無視し、50μm以上の空隙の個数を1cm2の範囲で計量した。なお、紡績糸間空隙の内接円の中に、紡績糸の毛羽である短繊維が存在していてもよいこととする。なお、後述する織り又は編み工程の際に毛羽(起毛)にするための糸を織り込んだり編み込んだりすることにより起毛繊維を形成する場合には、織り又は編み工程で得られた起毛状態を有する2次元シート状繊維構造物について、上記の繊維束間空隙の直径の測定を行う。この場合にも、なお、紡績糸間空隙の内接円の中に、織り込まれ、又は編みこまれた繊維からなる毛羽が存在していてもよいこととする。
【0013】
2次元シート状繊維構造物の繊維束間空隙としては、直径50μm以上1000μm以下の空隙が100個/cm2以上1000個/cm2以下存在することが好ましい。空隙が直径50μm以上1000μm以下であれば、隣接する起毛された2次元シート状繊維構造物の起毛繊維が空隙に入り、絡み合うため、2次元シート状繊維構造物が層間剥離し難くなり、層間強度が向上する。空隙が直径50μm未満の場合は、起毛繊維が空隙に充填し難く、そのほとんどが隣接するシートに押されて横に寝てしまい、層間の絡み合いに寄与しないため、効果が小さい。また、空隙の直径が1000μmを超える場合は、繊維束間の空隙が大きすぎ、樹脂リッチの部分が大きくなるため、強度が低下する。また繊維束間空隙が100個/cm2未満の場合には上記の絡み合いの効果が不十分であり、好ましくない。繊維束間空隙が1000個/cm2を超える場合には空隙が多すぎ、繊維強化の効果が小さくなるため好ましくない。
【0014】
このうち、直径100μm以上500μm以下の繊維束間空隙を100個/cm2以上1000個/cm2以下もつことが強度や樹脂の含浸性が高い点で特に好ましい。更には、直径200μm以上500μm以下の繊維束間空隙を200個/cm2以上500個/cm2以下もつことがより好ましい。
【0015】
紡績糸は有機繊維(天然繊維、合成繊維)、無機繊維、金属繊維、炭素繊維等の繊維の単独を紡績したものでも、あるいは混紡でも良く、耐熱性と強度が高い点で、ポリイミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、綿繊維、麻繊維、アラミド繊維、パラ系アラミド繊維あるいはメタ系アラミド繊維が好ましい。このうち、起毛しやすい点で、各種有機繊維が好ましい。紡績糸は単糸あるいは双糸でもよく、撚り係数の異なる単糸を拠り合わせて双糸としても良い。起毛をしやすい点で撚りは甘い方が好ましく、撚り回数/インチが5〜20程度が好ましい。
各種繊維の単繊維の繊維径は、5μm〜50μmであることが好ましく、10μm〜30μmであることがより好ましい。また、紡績糸の糸径は、0.1mm〜3mmであることが好ましく、0.2mm〜0.8mmであることがより好ましい。紡績糸の糸径が0.1mm未満であると、強度が不足したり、編織に要するコストが高くなる傾向があり、3mmを超えると、編み又は織りによって得られる2次元シート状繊維構造物の繊維束間空隙が大きくなりすぎる傾向がある。
【0016】
起毛した単繊維の長さは50μm〜20mm程度が好ましく、200μm〜15mmがより好ましく、200μm〜10μmが更に好ましい。起毛はブラシ起毛、サンドペーパー、起毛、アザミ起毛、針布起毛などの手法で行える。また、毛羽にするための糸を、地をつくる糸とともに織り込む、もしくは編み込んで、その糸を切断し毛羽とする手法、例えばパイル起毛などの手法を用いてもよい。起毛加工を施したのち、表面を火で炙ることにより、起毛繊維の形状を変化させてもよい。起毛加工は、2次元シート状繊維構造物の片面のみに施してもよいが、起毛効果を十分に利用するためには、両面に施すことが好ましい。
【0017】
本発明の樹脂成形体は、上記本発明の繊維基材がマトリックス樹脂中に充填されたものである。繊維基材は、2次元シート状繊維構造物単体であってもよいし、複数積層したものであってもよい。2次元シート状繊維構造物は、複数を平らに積層してもよいし、単体又は複数の積層体を捲回して筒状にして用いてもよい。
【0018】
マトリックス樹脂は特に制限がないが、繊維基材に含浸しやすいエポキシ樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、ポリイミド、アミノアミド樹脂、ビス((2−オキサゾリン)化合物と、芳香族アミンの架橋樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましい。この中で、アラミド繊維との複合材を作製する場合は、アラミド繊維との接着性に優れる、ビス((2−オキサゾリン)化合物と芳香族アミンの架橋樹脂が特に好ましい。
【0019】
本発明の繊維基材に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させ、加熱加圧成形することにより、樹脂成形体を得る。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
(実施例1)
(工程1)パラ系アラミド繊維(繊維径:12μm、繊維長:50mm)とメタ系アラミド繊維(繊維径:12μm、繊維長:50mm)を重量比45/55の割合で混紡した紡績糸(単糸、糸径:200μm)を用いて平編みを用意する。このとき1インチの間の編み針の数であるゲージ数は20〜26とした。次に真鍮でできたブラシを用いて、布の両面の表面を引っ掻き、起毛させる。真鍮ブラシは、ブラシ部幅が72×11mm2、ブラシ長さが16mmのものを用い、編布に1m2当り50分間の密度で、手作業により起毛加工行った。このとき、平均の起毛繊維の長さは5〜11mm程度であった。起毛した編布を25枚数重ね合わせ、成形金型に配置し、減圧状態にする。
(工程2)2,2′−(1,3−フェニレン)ビス−2−オキサゾリン((A)成分)と4,4′−ジアミノジフェニルエーテル((B)成分)を、モル比2.0/1.0(質量比68.4/31.6)の配合割合で加熱混合溶解して液状物とする。これに、硬化促進剤としてn−オクチルブロマイドを配合する。硬化促進剤の配合量は、(A)(B)成分の総量100質量部に対して1.0質量部である。これを、(工程1)で起毛編布を配置した成形金型に注入し、温度200℃、圧力40MPaで20分間加熱圧縮成形し、厚さ3mmの繊維強化樹脂成形体を成形した。
【0021】
(実施例2)
紡績糸の撚り回数を変化させた以外は実施例1と同様にして繊維強化樹脂成形体を成形した。
【0022】
(実施例3)
繊維束間空隙の直径および単位面積あたりの個数を変化させた以外は実施例1と同様にして繊維強化樹脂成形体を成形した。繊維束間空隙を制御するため、編み機のゲージ数を20〜26とし、編み針をセットする高さを変化させて、図5に示すように、コース方向の紡績糸のたるみを制御することによりループ長aを変更した。例えば、図5中、(a)の平編み編布より、コース方向の紡績糸のたるみを短くすることにより、ループ長aが短くなり、図5(b)のような編布が得られる。
【0023】
(実施例4)
繊維束間空隙の直径および単位面積あたりの個数を変化させた以外は実施例1と同様にして繊維強化樹脂成形体を成形した。繊維束間空隙を制御するため、編み機のゲージ数を20〜26とし、編み針をセットする高さを変化させて図5におけるコース方向の紡績糸のたるみを制御することによりループ長を変更した。
【0024】
(実施例5)
繊維束間空隙の直径および単位面積あたりの個数を変化させた以外は実施例1と同様にして繊維強化樹脂成形体を成形した。繊維束間空隙を制御するため、編み機のゲージ数を24〜30とし、編み針をセットする高さを変化させて図5におけるコース方向の紡績糸のたるみを制御することによりループ長を変更した。
【0025】
(実施例6)
図6〜図9に、本実施例における樹脂製歯車の製造方法を示す。
まず、図6に示すように、実施例1の工程1と同様の紡績糸を用いて、平編み編布4からなる筒状体(直径:60mm、軸方向の長さ:700mm)を2つ準備する。実施例1と同様にして、この筒状体の両面に真鍮ブラシにより起毛加工を施す。起毛した筒状体を端部から軸方向に巻き上げてリング状繊維補強基材5とする。そして、図7に示すように、2個のリング状繊維補強基材5とその中央に配置する金属製ブッシュ6(金属製ブッシュのリング厚み:10mm、リング内径:40mm、リング外径:60mm)とを成形金型7に収容する。成形金型7はリング状繊維補強基材5の厚み方向に開閉動作するものであり、成形金型7を閉じる動作によりリング状繊維補強基材5を圧接し、径方向に広がったリング状繊維補強基材5を金属ブッシュ6の周囲に圧接してその形状になじませる。次に、閉じた成形金型7内を減圧状態にして、実施例1で用いたと同じ液状樹脂を注入し、リング状繊維補強基材5に浸透させ、液状樹脂を加熱硬化(温度:200℃、圧力:2MPa、時間:3分)させる。このようにして、図8(断面図)に示す金属製ブッシュ6をインサートとするリング状樹脂成形体8(軸方向の厚み:10mm、直径:87mm)を成形する。そして樹脂成形体の外周面に切削加工により歯を形成し、図9(一部切り欠き斜視図)に示す樹脂製歯車を作製した。この樹脂製歯車の作製法の詳細は[特開2000−309028号公報]に記載がある。
【0026】
(比較例1)
編布に起毛加工をしていないこと以外は実施例1と同様にして繊維強化樹脂成形体を成形した。
【0027】
(比較例2)
編布に起毛加工をしていないこと以外は実施例2と同様にして繊維強化樹脂成形体を成形した。
【0028】
(比較例3)
繊維束間空隙の直径および単位面積あたりの個数を変化させた以外は実施例1と同様にして繊維強化樹脂成形体を成形した。繊維束間空隙を制御するため、編み機のゲージ数を8〜20とし、編み針をセットする高さを変化させて図5におけるコース方向の紡績糸のたるみを制御することによりループ長を変更した。
【0029】
(比較例4)
筒状体に起毛加工をしていないこと以外は実施例6と同様にして樹脂製歯車を作製した。
【0030】
上記の方法により作製した繊維強化樹脂成形体について、引張強度、衝撃強度を測定した結果を表1、2に示す。測定方法は、以下に示すとおりである。
引張強度:試験片形状を全長75mm、平行部長さ35mm、平行部幅5mm、板厚3mmのダンベル型とし、JIS K 7113に準拠して測定した。
衝撃強度:試験片形状を10mm×60mm×3mmでノッチなしとし、アイゾット衝撃試験法を用いて測定した。
【0031】
また、作製した樹脂製歯車については耐久試験を行い、試験後の外観を観察することにより、疲労や劣化の評価を行った。ここで、歯車の耐久試験とは、ギヤモータリング試験機を用いて、歯元に一定の応力負荷がかかるように試験歯車と相手歯車を所定回数かみ合わせたときの試験歯車の破壊、劣化、疲労挙動を観測する手法である。相手歯車の部材には鋼を用い、歯車回転数を6000rpmとし、150℃の潤滑油の中に試験歯車、相手歯車を浸しながら試験した。歯元応力を182MPaとし、7.2×106回回転したときの表面に生じた凹凸発生部の面積と、その発生率を測定した。ここで凹凸発生率とは、歯車の歯の全数に対する、凹凸が生じた歯車の数の割合の平均値である。結果を表1、2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の繊維基材の一態様の積層構造を示す断面説明図。
【図2】従来の繊維基材の積層構造を示す断面説明図。
【図3】平編み編布の平面図。
【図4】平織り織布の平面図。
【図5】平編み編布の平面図。
【図6】本発明の繊維基材の一態様を示す斜視図。
【図7】図6に示した繊維基材を用いて本発明の樹脂成形体の一態様を作製するために用いた成形金型の断面図。
【図8】図6の成形金型を用いて作製された本発明の樹脂成形体の一態様を示す断面図。
【図9】図8に示す樹脂成形体の外形加工をして得られた樹脂製歯車の一部切り欠き斜視図。
【符号の説明】
【0035】
A 2次元シート状繊維構造物
B 2次元シート状繊維構造物
1 紡績糸
2 繊維束間空隙
3 起毛繊維
4 編布
5 リング状繊維補強基材
6 金属製ブッシュ
7 成形金型
8リング状樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡績糸により構成された2次元シート状繊維構造物の単体または複数積層物である樹脂成形体強化用の繊維基材であって、
前記2次元シート状繊維構造物は、紡績糸の繊維束間に直径50μm以上1000μm以下の空隙を100個/cm2以上1000個/cm2以下もち、かつ直径1000μmを超える空隙が多くても2個/cm2であり、かつ、起毛加工を施されたものであることを特徴とする樹脂成形体強化用の繊維基材。
【請求項2】
2次元シート状繊維構造物が編布であることを特徴とする請求項1記載の繊維基材。
【請求項3】
パラ系アラミド繊維あるいはメタ系アラミド繊維により2次元シート状繊維構造物が構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の繊維基材。
【請求項4】
針布もしくはブラシにより起毛加工が施されていることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の繊維基材。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の繊維基材がマトリックス樹脂中に充填された樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−46777(P2009−46777A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214435(P2007−214435)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】