説明

樹脂磁性体複合材料およびその製造方法

【課題】 磁性体が均一に分散した成形物を得ることができる、樹脂磁性体複合材料を提供することができ、また、このような樹脂磁性体複合材料を容易に製造できる。
【解決手段】 熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む樹脂磁性体複合材料、ならびに熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む樹脂磁性体複合材料を製造する方法であって、熱可塑性樹脂と金属磁性体とを、凝集剤を含む溶液により混合し、熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む凝集物を生成する工程を有することを特徴とする樹脂磁性体複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂磁性体複合材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の高速・高周波化に伴い、これらに用いられる部品やデバイスにも、小型化、薄型化の要請が強くなってきており、例えば、素子の実装密度が上がり、素子間の相互干渉やノイズ輻射が機器の動作に悪影響を及ぼす虞が出てきた。これらの問題は使用する信号の高調波であり、この高調波を抑制することによりノイズの発生を抑える必要があった。特に最近の動作の高速化に伴い、マイクロコンピュータの動作クロック周波数も数百MHzに達しており、この動作クロック信号の高調波はGHz周波数帯域となっており、GHz周波数帯域でのノイズ対策が求められてきている。
【0003】
そこで、電子機器の回路板などに用いられる絶縁体においては、磁性体含有絶縁体が用いられるようになり、このような磁性体含有絶縁体としては、例えば、複数の磁性体粒子と、これを保持する絶縁体とを含むものが例示される(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、このような磁性体含有絶縁体においては、絶縁体のワニスを用いて塗膜を作製し膜を形成しようとすると、ワニス内の成分の比重差が大きいことにより、磁性体が沈降して分散状態が悪くなり、膜の厚み方向の濃度差を生じ、不均一な膜となるとともに、ドライフィルムとする際に、磁性体の濃度が高い部分においては、膜が基材より剥がれ難くなり、作業性が悪いものとなり、その結果、特性に影響を及ぼすものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−269134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、磁性体が均一に分散した成形物を得ることができる、樹脂磁性体複合材料を提供することができるものである。また、このような樹脂磁性体複合材料を容易に製造できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、熱可塑性樹脂および金属磁性体を含む樹脂磁性体複合材料に、凝集剤を用いることにより、熱可塑性樹脂と金属磁性体とを凝集させると共に、熱可塑性樹脂との凝集体において金属磁性体の沈降などによる不均一な凝集のない樹脂磁性体複合材料とすることができ、当該材料により磁性体が均一に分散した成形物を得ることができることを見出し、さらに検討することにより、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記第(1)項〜第(3)項に記載の樹脂磁性体複合材料、及び下記第(4)項〜第(5)項に記載の樹脂磁性体複合材料の製造方法により構成される。
(1) 熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む樹脂磁性体複合材料。
(2) 前記樹脂磁性体複合材料は、熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む粉体である第(1)項に記載の樹脂磁性体複合材料。
(3) 凝集剤はポリエチレンオキサイドである第(1)項または第(2)項に記載の樹脂磁性体複合材料。
(4) 熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む樹脂磁性体複合材料を製造する方法であって、熱可塑性樹脂と金属磁性体とを、凝集剤を含む溶液により混合し、熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む凝集物を生成する工程を有することを特徴とする樹脂磁性体複合材料の製造方法。
(5) 前記凝集物を粉砕する工程を有する第(4)項に記載の樹脂磁性体複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂磁性体複合材料によれば、磁性体が均一に分散した成形物を得ることができる。また、本発明の樹脂磁性体複合材料の製造方法によれば容易に上記樹脂磁性体複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む樹脂磁性体複合材料であり、凝集剤を用いることにより、熱可塑性樹脂と金属磁性体とを凝集させると共に、熱可塑性樹脂との凝集体において金属磁性体の沈降などによる不均一な凝集のない樹脂磁性体複合材料とすることができ、当該材料により磁性体が均一に分散した成形物を得ることができる。
【0011】
また、本発明は、熱可塑性樹脂と金属磁性体とを、凝集剤を含む溶液により混合し、熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む凝集物を生成する工程を有することを特徴とする樹脂磁性体複合材料の製造方法であり、このような凝集物を生成させることにより、上記樹脂磁性体複合材料を容易に得ることができる。
【0012】
本発明に用いる熱可塑性樹脂としては、加熱によって流動性を生じる性能を有し、それを利用して成形加工ができる樹脂であり、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、メタクリル・スチレン共重合体、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド系樹脂、環状オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ナイロン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の他、これらの変性樹脂も挙げられる。これらの中でも、融点の低いもの、例えば、常温を超え、200℃以下のものであると複合材料としての作業性が良好であり、さらに用途においては、適宜、樹脂の特性が選択される。
【0013】
本発明に用いる金属磁性体としては、磁性を帯びることが可能な金属であり、具体的には、Fe、Ni及びCoなどの金属、さらには、Fe−Co合金、Fe−Cr合金、Fe−Ni合金、Ni−Co合金、Fe−Cr−Si合金、Fe−Ni−Mo合金、Fe−Si合金およびFe−Si−Al合金などの合金などが挙げられる。また、さらには当該金属および合金に、Al、Co、Cr、Cu、Mn、Mo、Nb、TiおよびZnのうち1種類以上の副成分を添加したもの、等が挙げられる。
【0014】
上記金属磁性体に含まれるAl、Co、Cr、Cu、Mn、Mo、Nb、Ti及びZnなどの副成分は、含有量が過剰に多くなると、磁束密度の低下などの影響が生じるため、副成分の合計量が10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。また、別の副成分として、上記元素以外の微量成分(例えばO、C、P、Mn等)が、合金の原料に由来したり、合金の製造過程で混入することがあるが、本発明の目的を阻害しない限り許容される。これらの微量成分は、合計1質量%以下であることが好ましい。
【0015】
金属磁性体は、粉末状で用いられるが、粉末の形状としては、球状、扁平状、粒状、板状および針状等が挙げられ、本発明においてはいずれも好適である。
粉末の粒子径(最長部)としては、0.1〜100μm程度のものを用いることができるが、生成する凝集体において成分の均一性を得る上で、特に20μm以下が好適である。
【0016】
本発明に用いる凝集剤としては、熱可塑性樹脂と金属磁性体を均一に凝集させることができるものである。このような凝集剤としては、一般的に上下水道、し尿処理、工場廃水などの浄水剤として使われるものを用いることができ、例えば、高分子凝集剤(ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド(ノニオン系高分子凝集剤)、ポリアクリル酸、アクリルアミド・アクリル酸共重合体、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物(アニオン系高分子凝集剤)、ポリアクリルアミド系高分子凝集剤、ジメチルアミノエチルアクリレート系高分子凝集剤、アクリルアミド・ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩の共重合物(カチオン系高分子凝集剤))、鉄系凝集剤(ポリ硫酸第二鉄)、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、PAC(ポリ塩化アルミニウム)などを挙げることができる。更に、前記凝集剤は、金属磁性体同士、また、金属磁性体の熱可塑性樹脂に対する結着剤としても機能するものであり、凝集物生成作業をより向上させることができるものが好ましく、また均一な凝集物を得る上で、前記凝集剤の中でも高分子凝集剤などが好ましい。高分子凝集剤の種類は特に限定しないが、ノニオン系及びアニオン系のものが好ましく、ノニオン系のものがより好ましい。なお、本発明で用いる凝集剤は、1種を単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0017】
上記凝集剤の使用方法としては、予め十分に混合し分散させた熱可塑性樹脂と金属磁性体の混合物に、凝集剤を直接添加する方法や、水などの溶媒と混合して凝集剤溶液として添加する方法などが挙げられる。
【0018】
本発明の樹脂磁性体複合材料において、樹脂と金属磁性体の比率は、凝集物を得る上では特に制限されないが、成形物の強度や複合材料の成形性及び複合材料成形物の特性を考慮すると、樹脂と金属磁性体の合計量中、樹脂は20体積%以上、80体積%以下程度であることが好ましい。凝集剤の割合としては、樹脂と金属磁性体とを凝集させることができ、複合材料の特性に影響を及ぼさなければ制限がないが、例えば、樹脂と金属磁性体の合計重量に対し、0.01〜0.5質量%程度が好ましい。
【0019】
本発明の樹脂磁性体複合材料の製造方法としては、前記熱可塑性樹脂および金属磁性体の粉末を混合し、この混合体に、予め用意しておいた、凝集剤溶液を混合しながら、溶液中で、熱可塑性樹脂と金属磁性体と凝集剤を含む凝集物を生成させる。ここで、凝集物を、撹拌機などを用いて混合すると、金属磁性体の分散状態がより好ましいものとなる。次いで、凝集物をエバポレータや乾燥機などで乾燥させ、乾燥した凝集物を乳鉢などで粉砕して、樹脂磁性体複合材料を得ることができる。本発明の樹脂磁性体複合材料は、成形物を得る際に、磁性体の沈降がなく均一に分散した状態とする上で、粉砕して得られた粉体として用いることが好ましい。このような粉体の粒径としては、60μm以下とすることが好ましい。
【0020】
上記凝集剤溶液としては、前記凝集剤を水などの溶媒に溶解して用いることができる。凝集剤溶液における凝集剤と溶媒の割合としては、例えば、凝集剤に対して、100質量倍〜5000質量倍で用いることができる。
【0021】
また、熱可塑性樹脂は、粉末状のものを用いることができるが、その場合、複合材料における分散性を向上させる上で、より粒径の細かいものが好ましく、平均粒子径として、例えば、100μm程度以下のものが好ましく、30μm以下のものがより好ましく、1μm程度のものがさらに好ましい。
【0022】
上記のようにして得られた樹脂複合材料は、例えば、フィルム状に成形して用いたり、金型を用いて成形品を得るか、溶媒に溶解してワニスとして用いてもよい。
【0023】
上記のようにして得られた樹脂複合材料は、粉末として用いる場合、公知の成形手段、すなわち、圧縮成形法、押出成形法、射出成形法、キャスト成形法などを適用して成形することができるが、樹脂複合材料の成形の形態は、どのような形態であってもよい。例えば、粉末状の樹脂複合材料を熱盤上で圧縮してシート状に成形し、さらにこれを複数枚重ねて圧縮して所定の厚みに成形してもよい。
【0024】
また、本発明の樹脂複合成形材料は、成形して得られるシートや成形品などの成形物を電気部品や電子部品などの基板や素子などに用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
金属磁性体(Ni−Fe合金、パシフィックソーワ社製、平均粒径10μm)粉末16.4gと、ポリスチレン(PSジャパン社製)粉末(平均粒径14μm)2gとを(金属磁性体と熱可塑性樹脂の体積比は1:1)、予め小型ミキサーで混合して均一な状態にし、これを100MLビーカー中へ投入し、さらにポリエチレンオキサイド(住友精化社製『PEO−29』)水溶液(0.05重量%濃度)22gを添加し、マグネチックスターラーで撹拌して凝集物を得た。得られた凝集物を自転・公転ミキサーを用いて混合し、この混合物を乾燥機により110℃、8時間乾燥し、乾燥した凝集物を得た。さらに、乾燥した凝集物を乳鉢で粉砕して、樹脂磁性体複合材料の粉末を得た。
このようにして得られた樹脂磁性体複合材料の粉末15gを、熱盤上に載せて、230℃で25Mpaの圧力で10分間加圧することにより、厚み100μm程度のフィルムを作製し、さらに上記同様の操作を繰り返して得られたフィルムを10〜15枚程度重ね合わせ、前記同様にして加熱加圧を行うことにより、厚み1mmのシートを得た。このようにして得られたシートについて、インピーダンスアナライザの容量法により、周波数100MHzにおける比誘電率を6箇所評価したところ、平均値は56.5、標準偏差は2.89であった。また、シートの断面を走査型電子顕微鏡(倍率:2500倍)により観察したところ、磁性体が均一に分散しておりシートの厚み方向の分散性は良好であった。
【0027】
(実施例2)
実施例1において、ポリスチレン粉末(平均粒径14μm)の代わりにポリスチレン粉末(PSジャパン社製、平均粒径200μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして厚み1mmのシートを得た。シートの周波数100MHzにおける比誘電率の平均値は54.0、標準偏差は3.01で、シートの断面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、磁性体が均一に分散しておりシートの厚み方向の分散性は良好であった。
【0028】
(実施例3)
実施例1において、ポリエチレンオキサイド水溶液(0.05重量%濃度)22gの代わりに、変性ポリアクリルアミド(MTアクアポリマー社製『A−110』)水溶液(0.05重量%濃度)20gを用いた以外は、実施例1と同様にして厚み1mmのシートを得た。シートの周波数100MHzにおける比誘電率の平均値は53.0、標準偏差は3.31で、シートの断面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、磁性体が均一に分散しておりシートの厚み方向の分散性は良好であった。
【0029】
(比較例1)
ポリスチレン(PSジャパン社製)ペレット2gをトルエン18gに溶解させ、その溶液に金属磁性体(Ni−Fe合金、パシフィックソーワ社製、平均粒径10μm)粉末16.4gを添加し、自転・公転ミキサーを用いて混合した。得られた混合物を用いて、キャスト法により厚み100μm程度のフィルムを作製した。
このようにして得られたフィルムを10〜15枚程度重ね合わせ、熱盤上に載せて、230℃で25Mpaの圧力で10分間加圧することにより、厚み1mmのシートを得た。このようにして得られたシートについて、インピーダンスアナライザの容量法により、周波数100MHzにおける比誘電率を6箇所評価したところ、平均値は45.3、標準偏差は10.7であった。また、シートの断面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、シート断面において磁性体の量に粗密が確認され、分散性は不良であった。
【0030】
(比較例2)
実施例1において、ポリエチレンオキサイド水溶液を添加せずにマグネチックスターラーで撹拌したが、凝集物は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む樹脂磁性体複合材料。
【請求項2】
前記樹脂磁性体複合材料は、熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む粉体である請求項1に記載の樹脂磁性体複合材料。
【請求項3】
凝集剤はポリエチレンオキサイドである請求項1または2に記載の樹脂磁性体複合材料。
【請求項4】
熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む樹脂磁性体複合材料を製造する方法であって、熱可塑性樹脂と金属磁性体とを、凝集剤を含む溶液により混合し、熱可塑性樹脂、金属磁性体および凝集剤を含む凝集物を生成する工程を有することを特徴とする樹脂磁性体複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記凝集物を粉砕する工程を有する請求項4に記載の樹脂磁性体複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2012−119579(P2012−119579A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269588(P2010−269588)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】