説明

樹脂積層体および印刷加工物

【課題】耐スクラッチ性、耐擦傷性、耐薬品性、耐ブロッキング性に優れ、例えば表面にホログラムを設ける場合も、その転写性および転写後の密着性に優れた樹脂積層体および印刷加工物を提供すること。
【解決手段】基材5上に接着層11、中間層9および保護層7をこの順で備えた樹脂積層体において、該保護層7は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂とポリビニルアセタール系樹脂とを含み、かつ硬化剤を含まない組成であり、該中間層9は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂と塩化ビニル系樹脂とを含み、かつ該アクリル樹脂成分に対する塩化ビニル系樹脂が20重量%以上であることを特徴とする樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂積層体および印刷加工物に関するものであり、詳しくは、耐スクラッチ性、耐擦傷性、耐薬品性、耐ブロッキング性に優れ、例えば表面にホログラムを設ける場合も、その転写性および転写後の密着性に優れた樹脂積層体および印刷加工物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種基材上に形成される樹脂組成物には様々な耐久性が要求される。以下、カードを例に挙げて説明する。
【0003】
カードの中でも特にキャッシュカードやクレジットカードは、日常生活で頻繁に使用するためカード表面にキズが付きやすく、また財布の中にカード同士を重ねて入れている場合が多いため耐スクラッチ性(耐キズ性)、耐擦傷性に加えて耐ブロッキング性が必要となっている。またクレジットカードにおいてはホログラムの密着性が必須となってくる。
【0004】
このようなカードの耐久性を得るためには、例えば特許文献1に記載の、紫外線硬化性組成物をカードの表面上に形成させ、次いで紫外線を照射して紫外線硬化性組成物を硬化することにより被膜を形成する方法が挙げられる。しかしながら紫外線硬化性組成物は硬化後の経時安定性が困難であり、また発癌性があり問題である。
【0005】
また転写後に表面層となる硬質塗膜層の主成分として、従来次のようなものが主に知られている。
1.電離放射線架橋型樹脂中に不定多角形状のα−アルミナ粒子を減摩剤として分散させたもの(特許文献2)。
2.架橋型樹脂から成るもの(特許文献3)。
【0006】
硬質塗膜層の主成分として、前記1の電離放射線架橋型樹脂から成る樹脂は耐擦傷性、耐薬品性に優れているが塗工時に難点がある。それは保護層中にα−アルミナ粉体などの無機材料を添加した塗料を塗工する際、例えばグラビアロールコートを用いて塗工する場合には、グラビアロールやドクターブレードを磨耗させたり傷を付けたりするという問題である。さらに無機粉末を添加した塗膜は白濁して透明性が低下して、転写箔としての意匠が不充分となる。また、前記2の架橋型樹脂から成る樹脂でも硬化方法は完全な熱硬化ではなく最終的に電子線(EB)で行っており工程数が増える。
【特許文献1】特開平10−863号公報
【特許文献2】特開平3−76698号公報
【特許文献3】特開平8−207500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は非架橋型樹脂により基材上に形成される樹脂積層体に関して、耐スクラッチ性、耐擦傷性、耐薬品性、耐ブロッキング性に優れ、例えば表面にホログラムを設ける場合も、その転写性および転写後の密着性に優れた樹脂積層体および印刷加工物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、基材上に接着層、中間層および保護層をこの順で備えた樹脂積層体において、該保護層は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂とポリビニルアセタール系樹脂とを含み、かつ硬化剤を含まない組成であり、該中間層は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂と塩化ビニル系樹脂とを含み、かつ該アクリル樹脂成分に対する塩化ビニル系樹脂が20重量%以上であることを特徴とする樹脂積層体である。
請求項2に記載の発明は、前記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度が1000未満であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体である。
請求項3に記載の発明は、前記アクリル系樹脂とポリビニルアセタール系樹脂との固形分重量比が8:2〜6:4であることを特徴する請求項1に記載の樹脂積層体である。
請求項4に記載の発明は、前記保護層が更に滑剤を含有し、該滑剤がポリテトラフルオロエチレンとポリエチレン成分とを含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体である。
請求項5に記載の発明は、前記塩化ビニル系樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体である。
請求項6に記載の発明は、前記ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度が2000未満であることを特徴とする請求項5に記載の樹脂積層体である。
請求項7に記載の発明は、さらに、前記保護層上に、光学効果層を備えることを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体である。
請求項8に記載の発明は、剥離シート上に保護層、中間層および接着層をこの順で備え、剥離シートを剥離して接着層、中間層及び保護層を他の基材に転写するための転写用樹脂積層体であって、前記保護層は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂とポリビニルアセタール系樹脂を含み、かつ硬化剤を含まない組成であり、該中間層は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂と塩化ビニル系樹脂とを含み、かつ該アクリル樹脂成分に対する塩化ビニル系樹脂が20重量%以上であることを特徴とする転写用樹脂積層体である。
請求項9に記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂積層体を備えたことを特徴とする印刷加工物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐スクラッチ性、耐擦傷性、耐薬品性、耐ブロッキング性に優れ、例えば表面にホログラムを設ける場合も、その転写性および転写後の密着性に優れた樹脂積層体および印刷加工物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明の樹脂積層体の一実施形態の断面図である。図1に示すように、樹脂積層体の基本構成としては、基材(5)上に接着層(11)、中間層(9)および保護層(7)をこの順で設けてなる構成である。
【0011】
本発明にかかる基材(5)として具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン−アクリロニトリロ共重合体などの剛性樹脂材料を挙げることができる。中でも二軸延伸ポリエチレンテレフタラートが、機械的強度や熱に対する寸法安定性を考慮すると望ましい。また、その厚みは600〜800μm望ましい。
【0012】
保護層(7)は、非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂を用いることが必要である。このようなアクリル系樹脂としては、ポリメタクリレート系樹脂、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート等が挙げられる。上記アクリル系樹脂としては、ポリエチルメタクリレートが好ましい。
【0013】
またポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルブチラ−ル、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等が挙げられる。この中でも、ポリビニルブチラ−ル樹脂が特に好ましい。本発明の保護層(7)における重合度が1000未満のポリビニルブチラ−ル樹脂としては積水化学工業(株)製のエスレックBM-SH、BM-1、BM-2、BM-S、電気化学工業(株)製のデンカ#3000−1、3000−2、3000−4、3000−K等が市販されている。
【0014】
アクリル系樹脂とポリビニルアセタール系樹脂との固形分比(重量)は8:2〜5:5の範囲内である。好ましくは8:2〜6:4の範囲内であり、より好ましくは7:3である。また、保護層(7)に含むアクリル系樹脂とポリビニルアセタール系樹脂との組み合わせとしては、ポリエチルメタクリレートとポリビニルブチラ−ルとの組み合わせが望ましい。
【0015】
保護層(7)には、滑剤を含有させ、接着層を付与した転写シートからの剥離を容易にし、かつ最終製品に耐スクラッチ性・耐摩耗性を付与することが好ましい。滑材の材料としては、ポリエチレンワックス、ポリエステルワックスパウダー、パラフィンワックス、高級脂肪族アルコール、オルガノポリシロキサン、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属石鹸類、有機カルボン酸およびその誘導体、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ジメチルシリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、反応性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、シランカップリング剤の反応化合物、シリコーンゴム、シリコーンコンパウンド、シリコーンワックス等の滑剤を単体もしくは2種以上混合したものを、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンー酢酸ビニル共重合樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フェノキシ樹脂、エチルセルロース樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、ニトロセルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸エチル樹脂、スチレン−アクリル共重合樹脂、ポリアミド樹脂、石油樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−アクリル酸エステル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、NBR・SBR・MBR等の各種合成ゴム等をバインダーとして、上記滑剤を混合したものが使用することができる。
【0016】
特に、保護層(7)に添加して表面の膜の滑り性を向上させ、かつ耐スクラッチ性、耐溶剤性を向上させる滑剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)/ポリエチレン混合ワックスが最も望ましく、その粒径としては1.5〜12μm程度のものが望ましい。添加量としては保護層(7)における樹脂固形分に対して3〜10重量%が好ましく、さらに好ましいのは3〜6重量%である。また固体滑剤の粒径としては0.5〜12μm程度のものが好ましく、0.5〜5μmがさらに好ましい。なお、PTFEとポリエチレンの重量比は、前者:後者として、1:0.1〜15が望ましい。
【0017】
保護層(7)の厚みは、上記樹脂、滑剤、その他所望の添加剤を有機溶剤等の溶媒に溶解又は分解せしめて、ワイヤーコーティグ法等の公知のコーティング方法により、基材上に塗布し、乾燥することで形成することができる。乾燥は80℃のオーブンで30秒ほど行うが特に規定はない。保護層(7)の厚みは、通常0.1〜2μm程度、好ましくは0.2〜0.4μm程度である。
【0018】
保護層(7)および中間層(9)に使用するアクリル系樹脂は、Tgが100℃以上、重量平均分子量(Mw)が150000以上のものを用いるのが好ましい。
【0019】
中間層(9)に使用する塩化ビニル系樹脂は、塩素系ポリマー、例えばポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、クロロブレン、等である。樹脂は、融点が30℃以上、150℃以下、特に50〜105℃の範囲のものが好ましい。30℃未満のものを用いると保存性の点で好ましくない。特に耐溶剤性、耐スクラッチ性に優れているポリ塩化ビニルが望ましい。
【0020】
また塩化ビニルと共重合しうる単量体化合物としては、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタアクリル酸、酢酸ビニル等があげられる。これら塩化ビニル系樹脂は、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等の従来公知の製造法のうち、いずれの方法によって製造されたものであってもよい。
【0021】
中間層(9)は、接着層(11)上に、例えば熱可塑性アクリル樹脂および塩化ビニル系樹脂に対してワックス、その他所望の添加剤を加え、これらを適当量の有機溶剤等の溶媒に溶解又は分解せしめて、ワイヤーコーティグ法等の公知のコーティング方法により、塗布し、乾燥することにより形成される。接着層(11)の厚みは、通常0.8〜1.5μm程度、好ましくは1.0〜1.3μm程度である。中間層(9)の厚みは、通常0.8〜1.5μm程度、好ましくは0.9〜1.2μm程度である。
【0022】
接着層(11)の材料としては通常熱可塑性樹脂が用いられ、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンー酢酸ビニル共重合樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フェノキシ樹脂、エチルセルロース樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、ニトロセルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸エチル樹脂、スチレン−アクリル共重合樹脂、ポリアミド樹脂、石油樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−アクリル酸エステル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、NBR・SBR・MBR等の各種合成ゴム等が挙げられるが、これに限定される物ではない。また、これらを2種以上混合して用いても良い。なお、接着層としてアクリル樹脂を用いる場合には、Tgが70℃以上、重量平均分子量(Mw)が30000〜90000、好ましくは30000〜60000のものを好適に用いることができる。また、ブロッキング防止や吸水性を目的として、各種フィラーを添加することができる。例えば、テフロン(登録商標)系微粒子、フッ素樹脂系粒子(例えば、テトラフルオロエチレンフロン系微粒子)、シリコン樹脂微粒子、ベンゾグアナミン樹脂−メラミン樹脂縮合物微粒子、デンプン、炭酸カルシウム、酸化チタン、タルク、カオリン、プロテインパウダー、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、シリカ、多孔質シリカ等が挙げられる。これらの添加量は熱可塑性樹脂100部に対して1〜20重量部が好ましい。さらに、紫外線吸収剤、製膜助剤、塗液安定剤、レベリング剤、帯電防止剤、老化防止剤等の各種添加剤を必要に応じて添加する事もできる。
【0023】
次に、転写用樹脂積層体を説明する。図2は、本発明の転写用樹脂積層体の一実施形態の断面図である。図2に示すように、転写用樹脂積層体の基本構成としては、剥離シート(13)上に保護層(7)、中間層(9)および接着層(11)をこの順で備えてなる。保護層(7)、中間層(9)および接着層(11)は、上記で説明したものと同様である。
【0024】
剥離シート(13)に使用される材料、層の厚さ等について以下に記述する。剥離シート(13)は、転写時の熱圧で軟化変形しない耐熱性を有するものであればよく、その材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等の合成樹脂、天然樹脂、紙、合成紙などから単独で選択されたもの、または上記より選択されて組み合わされた複合体が使用可能である。また、その厚みは、操作性、加工性を考慮し2〜200μmのものが使用可能であるが、転写適性や加工性などのハンドリング性を考慮すると、6〜100μm程度のものが望ましい。また、他層との密着性を向上させるため、コロナ放電処理やグロー放電処理等の表面処理や易接着層を設けても良い。また、剥離シート(13)の裏面に、滑剤、帯電防止剤等を含むバックコートを必要に応じて設けても良い。
【0025】
剥離シート(13)は、融点が100℃以上の透明な高分子プラスチックフィルムからなるのがよい。融点が100℃以下であると、転写時の熱圧により軟化・変形を起こし、伸びや歪みを生じるため被転写基材への転写がうまくいかない。その材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートに代表されるポリエステルフィルム、ポリフェニルサルファンフィルム、ポリプロピレンフィルム、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、硬質ポリ塩化ビニルフィルム、軟質ポリ塩化ビニルフィルム、アセテートフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ナイロンフィルム、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリサルフォンフィルム、ポリフタルアミドフィルム、ポリ
アミドイミドフィルム、ポリケトンフィルム、ポリアリレートフィルム等が一例として挙げられる。上記フィルムは、無延伸タイプ・一軸延伸タイプ・二軸延伸タイプのいずれかが必要に応じて選ばれる。また、前記支持体と同様にして、他層との密着性を向上させるため、コロナ放電処理やグロー放電処理等の表面処理や易接着層を設けても良い。
【0026】
また剥離シート(13)にマット処理を施した離型フィルムを使用しても良く具体的には例えば、サンドブラスト処理、ケミカルマット処理、練り込みマット処理をしたPETフィルムが使用でき、転写された表面の表面粗さを任意にコントロールすることが可能となる。特に表面粗さRz(JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ)が2〜3μmの範囲にあるものが望ましい。
【0027】
図2の形態において、接着層(11)は、中間層(9)上に、例えば熱可塑性アクリル樹脂を適当量の有機溶剤等の溶媒に溶解又は分解せしめて、ワイヤーコーティグ法等の公知のコーティング方法により、塗布し、乾燥することにより形成される。接着層(11)の厚みは、通常0.01〜2.0μm程度、好ましくは0.3〜0.6μm程度である。
【0028】
また、図2の形態において、転写用樹脂積層体から他の基材への転写の方法としては、他の基材面と接着層(11)を重ね、サーマルヘッド、ヒートローラー、ホットスタンプマシン等の加熱しながら加圧する手段により、転写用樹脂積層体側から押圧し、その後剥離シート(13)を剥離することなどが挙げられる。
【0029】
なお、本発明の樹脂積層体において、保護層(7)、中間層(9)、接着層(11)の合計の厚みは、2.0μm以下になるようにするのがよい。
【0030】
また本発明では、保護層(7)上に、セキュリティー性を有する光学効果層を設けることができる。光学効果層としては、例えば、ホログラムや回折格子等のOVD技術や、ある特定の波長域で励起され発光する蛍光性物質、蓄光性物質を含む層、特定の赤外線を吸収する化合物を含む層、磁性材料を含む層、細紋印刷層等、の公知技術が挙げられ、これらを複数同時に用いても良い。
【0031】
なお、光学効果層としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレートなどの熱硬化性樹脂あるいはこれらの混合物、さらにはラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性材料などが使用可能であり、また、上記以外のものでも、ホログラム画像を形成可能な安定性を有する材料であれば使用可能である。
【0032】
印刷加工物としては、例えばパスポート、運転免許証,クレジットカード、各種会員カード、社員証,健康保険証,銀行カード(キャッシュカード)、トランプ等が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0034】
[実施例1]
(積層体の形成)
まず非架橋型熱可塑性のアクリル樹脂をメチルエチルケトンとトルエン混合溶媒に溶解させ接着層用塗液とした。次に同様の手順で非架橋型熱可塑性のアクリル樹脂(根上工業社製 商品名 プレコート2000R 分子量600000 Tg 85℃)とポリビニルブチラ−ル樹脂の平均重合度が1000未満のもの(積水化学工業製 商品名BM-S 重合度 800 分子量53000 Tg60℃)をメチルエチルケトンとトルエン混合溶媒に溶解させ、重量比でそれぞれ7:3になるように混合し、さらに滑剤であるポリテトラフルオロエチレンとポリエチレン成分を含有するワックスを樹脂固形分に対して6%添加して保護層用塗液とした。なお、PTFEとポリエチレンの重量比は、前者:後者として、1:1である。次に同様の手順で非架橋型熱可塑性のアクリル樹脂とポリ塩化ビニル樹脂(日本ゼオン社製 商品名 ゼオンAL31 平均重合度1050)をメチルエチルケトンとトルエン混合溶媒に溶解させ、重量比でそれぞれ7:3になるように混合し中間層用塗液とした。これらの塗液を、それぞれグラビアコーターを用いてカード基材上に接着層、中間層、保護層の順に塗工・乾燥し、乾燥後の総厚が2μmとなるように積層体を形成しカードを作成した。このとき接着層は0.5μm、中間層は1.0μm、保護層は0.5μmであった。
【0035】
[実施例2]
実施例1と同様に、接着層、中間層、保護層の塗液を作製し、これを厚さ26μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に保護層、中間層、接着層の順に塗布し、80℃で溶剤を揮散させて樹脂積層体の転写箔を作成し、これをカード基材上に熱転写しカードを作成した。 なお以下の実施例は、本実施例2による転写方式を採用してカードを形成したものである。
【0036】
[実施例3]
実施例2において、保護層用塗液におけるアクリル樹脂とポリビニルブチラールの固形分比を10:0(比較例)、8:2、6:4、5:5に変更したこと以外は、実施例2を繰り返してカードを作成した。
【0037】
[実施例4]
実施例2において、滑剤の添加量を3%、7.5%または9%としたこと以外は、実施例2を繰り返してカードを作成した。
【0038】
[実施例5]
実施例2において、滑剤として市販のポリエチレンワックスを樹脂固形分に対して6%添加したこと以外は、実施例2を繰り返してカードを作成した。
【0039】
[実施例6]
実施例2において、ポリビニルブチラ−ル樹脂の平均重合度が1000以上のもの(積水化学工業製 商品名 BH−3 重合度1700 分子量110000 Tg71℃)を用いたこと以外は、実施例2を繰り返してカードを作成した。
【0040】
[比較例1]
実施例2において、ポリビニルブチラ−ル樹脂に硬化剤(日本ポリウレタン工業製 商品名 コロネートHL)を当量加えたこと以外は、実施例2を繰り返してカードを作成した。
【0041】
[実施例7]
実施例2において、中間層の組成として、アクリル樹脂とポリ塩化ビニル樹脂の重量比を10:0(比較例)、9:1(比較例)、8:2、7:3、5:5にし、実施例2と同様の条件にて転写箔を作成し、カードを作成した。
【0042】
[実施例8]
実施例2の塩化ビニル系樹脂の替わりに、平均重合度が2000以上のポリ塩化ビニル樹脂(新第一塩ビ社製 商品名 ZEST 2500Z 平均重合度2500)を用いたこと以外は実施例2を繰り返してカードを作成した。
【0043】
[実施例9]
実施例2のポリ塩化ビニル樹脂の替わりに、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂(ダウケミカル社製 商品名 VYNS3 平均分子量40000 Tg79℃)を用いて、樹脂例2と同様の条件にて転写箔を作成し、カードを作成した。
【0044】
上記実施例および比較例で得られた樹脂積層体について、以下の試験を行った。まず保護層表面の滑り性については連続荷重引掻き試験機(ヘイドン タイプ22)にて、荷重一定( = 500g)条件下でボール圧子を使用し、試料台上に圧子を滑らせ、その時nにかかる抵抗値を測定した(値は電圧値に換算)。次に表面強度試験は、ナノインデンター(MTS社DCM-SA2)によりヤング率(Modulus)およびビッカス硬度(Hardness)の測定を行った。また、爪引掻きによる評価もおこなった。保護層を形成したカード表面の爪で引掻き、引掻いた後のカード表面の引掻き跡の有無を確認することにより評価した。また、学振試験機にて綿布を用い、荷重1kgで5000回往復させ、カード表面の耐摩耗性についても測定した。また、耐ブロッキング性についても評価を行った。耐ブロッキング性についてはカードを同じ方向に向け、カードの裏面を下にし5枚積み重ね、一番上のカード表面に2.5kPa±0.13kPaの均一な力を加えた状態で40℃60%RH環境化に48h放置したのち、各カードが手で容易に分離できるか確認した。(JIS X 6305−1より)
【0045】
ホログラムの転写性および密着性についてはナビタス製V-10ホログラム機にて版目温度130℃、スタンプ速度0.5秒、転写圧力0.5tにて行い、転写された箔に二チバン製セロテープ(登録商標)を表面に貼り付け、垂直に素早く剥がし保護層の剥離状況を観察した。
【0046】
耐薬品試験については60%エタノール溶液とB液(2,2,4−トリメチルペンタン:トルエン=7:3)に1分間浸漬後、蒸留水にてカードを洗浄し目視検査にて外観に及ぼす影響を評価した。(JIS X 6301、6302および6330より)
【0047】
まずは積層体の形成方法の異なる実施例1と2について行った物性評価の試験結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1および2の方法で作成したカードについて、表面強度および滑り性を測定した結果、表1に示すように同じ性能を示していると言える。
【0050】
次に実施例2の方法によって形成したカードについて諸評価を行った。アクリル樹脂とポリビニルブチラ−ル樹脂の混合比をふった実施例3のそれぞれの物性についての評価した結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
アクリル樹脂成分が多いと硬度面は保てるが滑り性つまりはカードを重ねた時のさばきが悪くなり、耐ブロッキング試験のように過酷な環境下に置いた場合その影響は顕著にでている。表2に示すように混合比が7:3のものが、表面近傍の表面強度と摩擦抵抗に代表される耐スクラッチ性とのバランスが最も良いことがわかる。アクリル樹脂とポリビニルブチラ−ル樹脂の混合比としては8:2〜6:4が許容範囲と言える。
【0053】
実施例2、実施例4〜6および比較例1で作成したカードについて、諸物性評価を行った。実施例5では滑剤種を変更、実施例6ではポリビニルブチラ−ル樹脂の重合度を上げ1000以上のものを用い、また比較例1ではポリビニルブチラ−ル樹脂に硬化剤を添加し、それぞれの効果と影響について観察した。評価結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例4〜6、比較例1の結果を見ると、樹脂に添加する滑剤の種類の変更並びにポリビニルブチラ−ル樹脂の平均重合度を規定した1000を超えてしまうと、表面の強度、特にホログラム適性が低下することが判る。また強度向上を目的にポリビニルブチラ−ル樹脂に対して当量の硬化剤を添加すると、強度面では効果があるものの付着性が低下するためホログラムが全く転移しない結果となった。
【0056】
また実施例2と4の結果から、添加する滑剤の量に関して3%以下では強度不足となり、6%以上では表面物性に大きな変化はないものの、滑剤の含有量に比例してホログラム適性が低下する傾向が見られた。よって添加量として6%以上が好ましい。
【0057】
次に、実施例2、実施例7〜9の方法によって形成したカードについて諸評価を行った。アクリル樹脂とポリ塩化ビニル樹脂の混合比を振り、それぞれの物性についての評価をした。実施例8では平均重合度が2000以上のポリ塩化ビニル樹脂を用い、実施例9では塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂を用い、それぞれの効果と影響について観察した。評価結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
実施例2および実施例7から中間層の塩化ビニル樹脂の配合割合が20%以上である場合、耐エタノール試験と耐B液試験の耐薬品試験において充分な耐久性が得られることが判る。また実施例8および実施例9を見ると、添加する塩化ビニル樹脂の重合度を2000以上としたり、塩化ビニル系樹脂の種類を変更するとホログラム適性や耐薬品性が低下することが判る。
【0060】
本実施例では、アクリル樹脂、およびポリビニルブチラ−ル樹脂層を用いており、使用する塩化ビニル樹脂の量も少量に抑えた組成にしているため、焼却廃棄する際に発生する塩素ガス等の有害ガス量の減少化に繋がり、環境適応性が高いことが言える。また層構成の簡略化により製造工程を簡略化でき、製造コストの低減につながる。さらに、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐ブロッキング性を向上させたことで製造工程内や日常生活での使用の際の汚染防止にも繋がり品質向上に貢献することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、カードに耐スクラッチ性、耐擦傷性、耐薬品性、耐ブロッキング性を付与し、また光学効果層を表面に形成することのできるので、カード表面の画像等を有した、各種カードを製造する上で特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の樹脂積層体の一実施形態の断面図である。
【図2】本発明の転写用樹脂積層体の一実施形態の断面図である。
【符号の説明】
【0063】
5・・・基材
7・・・保護層
9・・・中間層
11・・・接着層
13・・・剥離シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に接着層、中間層および保護層をこの順で備えた樹脂積層体において、該保護層は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂とポリビニルアセタール系樹脂とを含み、かつ硬化剤を含まない組成であり、該中間層は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂と塩化ビニル系樹脂とを含み、かつ該アクリル樹脂成分に対する塩化ビニル系樹脂が20重量%以上であることを特徴とする樹脂積層体。
【請求項2】
前記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度が1000未満であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂とポリビニルアセタール系樹脂との固形分重量比が8:2〜6:4であることを特徴する請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項4】
前記保護層が更に滑剤を含有し、該滑剤がポリテトラフルオロエチレンとポリエチレン成分とを含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項5】
前記塩化ビニル系樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項6】
前記ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度が2000未満であることを特徴とする請求項5に記載の樹脂積層体。
【請求項7】
さらに、前記保護層上に、光学効果層を備えることを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項8】
剥離シート上に保護層、中間層および接着層をこの順で備え、剥離シートを剥離して接着層、中間層及び保護層を他の基材に転写するための転写用樹脂積層体であって、前記保護層は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂とポリビニルアセタール系樹脂を含み、かつ硬化剤を含まない組成であり、該中間層は非架橋型熱可塑性のアクリル系樹脂と塩化ビニル系樹脂とを含み、かつ該アクリル樹脂成分に対する塩化ビニル系樹脂が20重量%以上であることを特徴とする転写用樹脂積層体。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂積層体を備えたことを特徴とする印刷加工物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−66896(P2009−66896A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237457(P2007−237457)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】