説明

樹脂粒子およびその製造方法

【課題】蛍光強度の劣化を防止し、かつ多色化に有利な樹脂粒子および該樹脂粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】励起エネルギーにより発光するナノ結晶が、含有された構造を有する略球状の樹脂粒子。励起エネルギーにより発光するナノ結晶、および磁性体が、含有された構造を有する略球状の樹脂粒子。前記樹脂粒子は生体関連物質の検出に好適に使用することができる。また、前記樹脂粒子は溶融分散法を用いて製造されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂粒子に関し、特にDNA、RNA、タンパク質等の生体関連物質の検出に好適に使用できる、識別可能な樹脂粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような目的に使用される粒子(もしくはビーズ)は例えば特許文献1に見られるように、ナノ粒子を予め濃度を変えた蛍光染料で染色し、これを表面に結合したポリマー微小粒子が開示されている。このポリマー微小粒子は、フローサイトメトリー等でその微小粒子の識別を行うことができる。また、特許文献2では、蛍光ポリマー性コア粒子を金属酸化物を含むポリマー層で被覆した粒子が開示されている。
しかしながら、これらの粒子に用いられている蛍光染料は、励起に使われるUV光はもちろん太陽光にも弱く、光に暴露することで物質が崩壊し、蛍光強度が弱くなるといった欠点を持ち合わせている。そのため、測定中だけでなく保存中の退色にも気をつけなければならない。
【0003】
これに対して、特許文献3、特許文献4、および特許文献5において、蛍光物質として、1乃至10nmの半導体ナノ結晶を用いる技術が開示されている。半導体ナノ結晶は、その組成およびサイズ、またはサイズ分布を変化させることにより特徴的なスペクトルを放出するように調整することができる。また、半導体ナノ結晶はシャープな蛍光スペクトルを有しており、同定のための識別が容易であり、ナノサイズによる量子効果で蛍光強度が強い。さらに長時間の測定や保存でも安定している。
なお、生物学的物質を粒子に結合させ免疫検査、核酸検出等を行う場合には、結合せずに遊離している物質から、結合した物質を分離する必要がある。しかし、これらの発明では具体的な分離を行うための組成物について示されていない。
これについて、非特許文献1にはマグネットビーズ(サイズ:約10μm)の表面にQdot(カンタムドット社)と呼ばれる半導体ナノ結晶をコーティングした粒子が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3468750号明細書
【特許文献2】特許第2589618号明細書
【特許文献3】特表2003−523718号公報
【特許文献4】特表2003−531734号公報
【特許文献5】特開2002−311027号公報
【非特許文献1】住商バイオサイエンス株式会社資料:遺伝子発現解析用「Mosaicシステム」(2004年12月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に開示されている粒子は、コーティングにより半導体ナノ結晶が粒子表面に配置されたものであるため、DNA、RNA、タンパク質等の検出のための反応工程で、半導体ナノ結晶が脱落もしくは溶解するなどのため、所定の蛍光強度、蛍光スペクトルが得られない等の不具合が生じることがあった。脱落もしくは溶解を防ぐため表面をさらにコーティングする方法もあるが、製造工程が増えコストが上昇する。
また、サイズの異なる2種以上の半導体ナノ結晶を用いる多色化技術においても粒子表面だけでは十分な濃度を付与することが困難であるため、多色化には自ずと制限があった。
本発明は上記の問題点に鑑み、蛍光強度の劣化を防止し、かつ多色化に有利な樹脂粒子および該樹脂粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記課題は以下の手段[1]および[21]に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である[2]乃至[20]、[22]および[23]と共に以下に記載する。
[1] 励起エネルギーにより発光するナノ結晶が包含された構造を有する略球状の樹脂粒子、
[2] 励起エネルギーにより発光するナノ結晶および磁性体が包含された構造を有する略球状の樹脂粒子、
[3] 樹脂粒子の平均粒子径が1乃至100μmである[1]または[2]に記載の樹脂粒子、
[4] 樹脂粒子の密度が1乃至1.5g/mlである[1]乃至[3]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[5] ナノ結晶が1乃至10nmからなる化合物半導体である[1]乃至[4]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[6] ナノ結晶の発光波長が350nm乃至900nmである[1]乃至[5]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[7] ナノ結晶がコア/シェルタイプでありシェルの表面が有機基で保護されてなる[1]乃至[6]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[8] 発光波長の異なる2種以上のナノ結晶を含む[1]乃至[7]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[9] 少なくとも一部分が励起エネルギーを透過する[1]乃至[8]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[10] 少なくとも一部分が発光波長を透過する[1]乃至[9]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[11] 励起エネルギーにより、樹脂が放射する発光スペクトルのピークが、ナノ結晶の発光スペクトルのピークと異なる[1]乃至[10]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[12] 励起エネルギーが紫外線である[1]乃至[11]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[13] 樹脂が熱可塑性樹脂である[1]乃至[12]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[14] 表面にカルボキシル基、スルホ基、グリシジル基、水酸基、アミノ基およびチオール基よりなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の官能基を有する[1]乃至[13]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[15] 熱可塑性樹脂がカルボキシル基を側鎖に有するポリオレフィンの共重合体である[13]に記載の樹脂粒子、
[16] 磁性体が強磁性体である[2]乃至[15]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[17] 磁性体が金属である[2]乃至[16]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[18] 磁性体が鉄、ニッケルおよびコバルトよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む[2]乃至[17]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[19] 磁性体の大きさが0.1乃至10μmである[2]乃至[18]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[20] 溶融分散法を用いて製造された[1]乃至[19]いずれか1つに記載の樹脂粒子、
[21] 溶融分散法を用いた[1]乃至[19]いずれか1つに記載の樹脂粒子の製造方法、
[22] 熱可塑性樹脂1、前記熱可塑性樹脂1と相溶性のない熱可塑性樹脂2、ナノ結晶または磁性体、またはナノ結晶および磁性粒子をナノ結晶および磁性粒子の融点以下の温度で溶融混練する工程、および熱可塑性樹脂1の溶融温度以下で熱可塑性樹脂2の展開溶媒に溶解して略球状の樹脂粒子を熱可塑性樹脂2の溶液から分離する工程を含むことを特徴とする[1]乃至[19]いずれか1つに記載の樹脂粒子の製造方法、
[23] 熱可塑性樹脂1とナノ結晶をナノ結晶の融点以下で溶融混練してナノ結晶分散熱可塑性樹脂(A)を製造する工程、(A)と磁性粒子をナノ結晶および磁性粒子の融点以下の温度で溶融混練してナノ結晶および磁性粒子を包含した熱可塑性樹脂(B)を製造する工程、樹脂(B)とこれと相溶性のない熱可塑性樹脂2をナノ結晶および磁性体の融点以下の温度で溶融混練する工程、および熱可塑性樹脂1の溶融温度以下で樹脂2の展開溶媒に溶解して略球状の樹脂粒子を熱可塑性樹脂2の溶液から分離する工程を含むことを特徴とする[2]乃至[19]いずれか1つに記載の樹脂粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂粒子およびその製造方法により、蛍光強度の劣化が防止され、多色化が容易で識別可能な樹脂粒子が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下詳細に説明する。
(樹脂粒子の構造)
本発明の樹脂粒子は該樹脂粒子中にナノ結晶が包含された構造を有する略球状の樹脂粒子であり、紫外線、電子線、X線、ガンマ線等の各種エネルギー線による励起エネルギーにより、強く発光するものである。ここで、略球状とは樹脂粒子の投影断面形状の最短径に対する最長径の比で定義される形状因子が0.8以上であるものを95%以上含むものをいう。
本発明の樹脂粒子は、ナノ結晶が包含されて構造を有し、分散された構造を有することが好ましく、ナノ結晶が樹脂粒子全体に分散されていることがより好ましく、樹脂粒子全体に均一に分散されていることがさらに好ましい。なお、「ナノ結晶」とは、結晶サイズがナノオーダーの結晶をいう。
また、2種以上の樹脂粒子を識別する目的から2種以上の濃度の異なるナノ結晶や発光波長の異なる2種以上のナノ結晶を含むことができる。
【0009】
本発明の樹脂粒子はDNA、タンパク質等の検出処理工程でのハンドリングの容易さなどから上記ナノ結晶に加えて磁性体を含有することが好ましい。
磁性体は粒子として樹脂粒子中に分散した形態をとることが好ましい。磁性体粒子のサイズ(磁性体の大きさ)は0.1乃至50μmが好ましく、0.1乃至20μmであることがより好ましく、0.1乃至10μmであることがさらに好ましい。磁性体粒子の大きさが上記範囲内であると製造が容易であるので好ましい。また、樹脂粒子に比べてその2分の1乃至20分の1のサイズが好ましい。また、樹脂粒子中に含まれる磁性粒子は1乃至10個程度が好ましく、1乃至3個程度がより好ましい。
ここで、磁性体としては、いずれの形状でも使用することができ、球状、棒状或いは平板状の粒子が例示できる。また、前記磁性体粒子のサイズとは、平均粒子サイズを意味するものであり、粒子サイズは、磁性体粒子の体積と同等な球を考えたときの直径をいう。
【0010】
本発明の樹脂粒子のサイズは1乃至100μmであることが好ましい。樹脂粒子のサイズが1μm以上であると、ハンドリングが容易であり、特に磁性体を含有した場合、外部磁場による動作が良好であるので好ましい。また、樹脂粒子のサイズが100μm以下であると、DNA、タンパク質等の生体関連物質に対して、良好な捕獲比表面積を得ることができるので好ましい。
ここで、樹脂粒子のサイズとは、平均体積粒子径を意味し、平均体積粒子径はレーザー回折式粒度分布計等により測定できる。
【0011】
本発明の樹脂粒子の密度は、1乃至1.5g/mlであることが好ましい。樹脂粒子の密度が上記範囲内であると、水系の溶液中で良好な浮遊性が得られるので好ましい。
特に、樹脂粒子が磁性体を含有する場合、磁性体の含有量が多いほど外部磁場に対する動作が敏感となるが、同時に密度が高くなり、水系の溶液中で種々の処理を行う場合、樹脂粒子の浮遊性が損なわれる傾向がある。
樹脂粒子の浮遊性の観点からは密度が1乃至1.2g/mlであることが好ましく、1乃至1.05g/mlであることがより好ましい。
【0012】
本発明の樹脂粒子の少なくとも一部分が励起エネルギーを透過することが好ましい。特に磁性体を含有する場合は、励起エネルギーを遮蔽する傾向があるため、磁性体の含有量を低減し、励起エネルギーの透過性を向上させることが好ましい。
本発明の樹脂粒子の少なくとも一部分が発光波長を透過することが好ましい。特に磁性体を含有する場合は、発光波長を遮蔽する傾向があるため、磁性体の含有量を低減し、発光波長の透過性を向上させることが好ましい。
【0013】
本発明において、DNA等の生体関連物質の捕獲の観点から樹脂粒子の表面に官能基が付与されていることが好ましい。官能基としては、カルボキシル基、スルホ基(−SO3H)、グリシジル基、水酸基、アミノ基、チオール基等があげられる。特にカルボキシル基が好ましく用いられる。
【0014】
(ナノ結晶)
ナノ結晶としては半導体ナノ結晶であることが好ましく、化合物半導体のナノ結晶であることがより好ましい。ここで、化合物半導体とは、複数の元素を材料にしている半導体を意味する。本発明において、ナノ結晶は、その結晶サイズが量子効果の発現する1乃至10nmであることが発光波長が可視領域となる点で好ましい。本発明においてナノ結晶は、結晶サイズが1乃至10nmである化合物半導体であることが特に好ましい。
【0015】
本発明においてナノ結晶は、350nm乃至900nmの範囲で発光するナノ結晶であることが好ましい。発光波長が上記範囲内であると一般に普及している測定装置で検出が可能であるので好ましい。
【0016】
また、1種類の結晶サイズのばらつきが小さいほどそのサイズに対応する発光波長でのピークの半値幅が小さくなり、多種類の樹脂粒子の識別に有利となり好ましい。すなわち多色化した場合に検出効率が向上するので、1種類の結晶サイズのばらつきが小さいことが好ましい。
【0017】
可視領域において発光する半導体ナノ結晶としては、CdS、CdSe、CdTe、ZnSe、ZnTe、GaPおよびGaAsが挙げられるが、これに限定されない。
また、近赤外で発光する半導体結晶として、InP、InAs、InSb、PbSおよびPbSeが挙げられるが、これに限定されない。
青から近紫外において発光する半導体ナノ結晶として、ZnSおよびGaNが挙げられるが、これに限定されない。
【0018】
ナノ結晶は耐励起エネルギー性を向上させる目的からコア/シェルタイプのものが好ましく、また、発光光の取り出し効率向上の目的からシェルの材質はコアの材質より光学的バンドギャップが大きいことが好ましい。
具体的には、コアの材質として可視(例えばCdS、CdSe、ZnSe、ZnTe、GaP、GaAs)または近赤外(例えばInP、InAs、InSb、PbS、PbSe)においてエネルギーを放射するナノ結晶を使用し、シェルの材質として紫外光域にてエネルギーを放出するZnS、GaN、および、MgS、MgSe、MgTeなどのマグネシウムカルコゲニドを使用することが例示できる。
本発明において、CdSe/ZnS等が好ましく用いられる。
さらに、樹脂中に均一分散状態とする目的からシェルの表面は有機基で保護されているものが好ましく、特に疎水基、例えばトリオクチルホスフェイト(TOPO)やトリオクチルホスフィン(TOP)等で保護されているものが好ましく用いられる。
【0019】
樹脂粒子中のナノ結晶の含有量は、その用途に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。樹脂粒子を生体関連物質の検出に使用する場合、ナノ結晶の含有量は本発明の樹脂粒子全体に対して重量基準で1乃至2,000ppmであることが好ましく、10乃至1,000ppmであることがより好ましく、50乃至700ppmであることがさらに好ましい。ナノ結晶の含有量が上記範囲内であると使用する検出器にもよるが半導体検出器などを使用した場合検出感度以上で、且つ出力が含有量にほぼ比例する場合が多いので好ましい。
【0020】
(樹脂材料)
本発明によれば、略球状の樹脂粒子に用いられる樹脂材料として特に制限なく、いかなるものも使用できるが、励起エネルギーにより、樹脂が放射する発光スペクトルのピークが、ナノ結晶の発光スペクトルのピークと異なる樹脂を用いることが好ましい。さらに、励起エネルギーにより、樹脂自体が可視領域(波長350nm乃至900nm)で発光しない樹脂がより好ましい。
【0021】
励起エネルギーとしては使用上の利便性から紫外線が好ましく用いられる。紫外線としては低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、紫外線レーザー等から放射される紫外線が好ましく使用されるが、とくに取り扱い容易な低圧水銀ランプが好ましく使用される。
【0022】
また、後述する製造方法(溶融分散法)の観点から熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、各種ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリオレフィン共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、PDMS等があげられる。特に、表面官能基付与の観点から側鎖にカルボキシル基を有するポリオレフィンの共重合体が好ましく、例えばエチレンメタクリル酸共重合体が好ましく用いられる。
【0023】
(磁性体)
本発明の磁性体としては磁石による操作が容易となる強磁性体好ましい。ここで強磁性体とは自発磁化を有する磁性材料を意味する。強磁性体の中でも自発磁化の大きな材料が好ましく、金属(金属間化合物を含む)好ましく、鉄、および鉄を含む合金、ニッケル、コバルト等が例示できる。さらに、フェライト等の磁性酸化物、特に残留磁化の少ないソフトフェライトが好ましい。ソフトフェライトとしてはNiMnフェライト、MnZnフェライトが例示される。
【0024】
磁性体は、本発明の樹脂粒子に対して1乃至50重量%で添加することが好ましく、5乃至20重量%で添加することがさらに好ましい。
磁性体の添加量が上記範囲内であると、良好な樹脂粒子の密度および透過性が得られるので好ましい。
【0025】
(溶融分散法)
本発明の樹脂粒子は本発明者の一人が開発した複合微小球体の製造方法(特開昭61−174229号公報)により製造することができる。この方法は目的の略球状粒子を構成する熱可塑性樹脂1とこれと相溶性のない熱可塑性樹脂2を溶融混練し、球状化した熱可塑性樹脂1を溶融温度以下に冷却し、熱可塑性樹脂2の展開溶媒中に分散し、球状化した熱可塑性樹脂1のみを熱可塑性樹脂2の溶液から分離回収するものである。
本発明の熱可塑性樹脂2は、熱可塑性樹脂組成物1を微粒子に分散させるための連続相を形成し、熱可塑性樹脂1と相溶性がない。相溶性がないとは、加熱温度において、1重量%以上の溶解度を有しないことをいう。熱可塑性樹脂2は、好ましくは熱可塑性樹脂1に対して、相溶性を有さず、好ましくは貧溶剤であることが望ましい。ここで、貧溶媒とは、所定温度における熱可塑性樹脂1を含む溶液に添加するとその熱可塑性樹脂1の溶解度が減少するような溶媒をいう。本発明において熱可塑性樹脂2は、2以上の熱可塑性樹脂の混合物であっても良く、熱可塑性樹脂1に対して、室温から加熱温度の範囲にわたり、貧溶媒であることが望ましい。本発明において、熱可塑性樹脂2は、熱可塑性樹脂1に対して、容量で、0.5倍以上5以下使用されることが好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂2としては、ポリアルキレンオキサイド類、例えばポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールおよびその誘導体(アセタール化体等)、ポリブテン、ワックス、天然ゴム、合成ゴム、例えばポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、石油樹脂等が例示でき、これらを単独で、あるいは組み合わせて使用することができる。ポリアルキレンオキサイド類は、異なった重合度のものが市販されており、これらの成分を適宜組み合わせることも好ましい。
【0027】
溶融分散法を本発明の樹脂粒子の製造に適応する場合は、ナノ結晶を熱可塑性樹脂1に対して所望の組成となるよう仕込み、ナノ結晶の融点以下で同様に溶融分散することでナノ結晶を含有する樹脂粒子が容易に得られる。さらに、ナノ結晶に加えて磁性体を含有させる場合は、熱可塑性樹脂1に対して所望の組成となるように仕込み、ナノ結晶および磁性体の溶融温度以下で溶融混練することで同様にナノ結晶および磁性体含有樹脂粒子が得られる。さらに、必要に応じて分級することで、粒子径の揃った樹脂粒子にすることができる。
【0028】
本発明の樹脂粒子を溶融分散法にて製造する場合、以下の改善された方法により品質のそろった樹脂粒子の製造が可能となる。
すなわち、まず、熱可塑性樹脂1とナノ結晶をナノ結晶の融点以下で溶融混練してナノ結晶を含有した熱可塑性樹脂(A)を製造し、つぎに(A)と磁性粒子をナノ結晶および磁性粒子の融点以下の温度で溶融混練してナノ結晶および磁性粒子を含有した熱可塑性樹脂(B)を製造する。最後に樹脂(B)とこれと相溶性のない熱可塑性樹脂2をナノ結晶および磁性体の融点以下の温度で溶融混練し、熱可塑性樹脂1の溶融温度以下で熱可塑性樹脂2の展開溶媒に溶解して略球状の樹脂粒子を熱可塑性樹脂2の溶液から分離回収することができる。
【0029】
本発明の樹脂粒子は様々な用途に使用することができ、DNA、RNA、タンパク質等の生体関連物質の検出に使用することが好ましい。具体的には、樹脂粒子表面をDNA、RNA、たんぱく質等の生体関連物質で修飾し、その修飾物質と反応する生体関連物質の検出を行うことが例示できる。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
(ナノ結晶)
ナノ結晶としては、CdSe/ZnSのコア/シェルタイプのエヴィドット(エヴィデントテクノロジーズ製)粒径2.4nmを準備した。このナノ結晶は表面がTOPO(Tri−n−octylphosphine oxide)で保護され、トルエン溶媒に分散されている。このナノ結晶の紫外線励起(励起波長:400nm以下)による発光色は緑(発光波長:520nm)であった。
(磁性体)
磁性体としてはカルボニル鉄から製造される粒子径2μmの市販の鉄粒子(融点1,500℃)を準備した。
【0031】
(ナノ結晶の分散)
上記トルエン溶媒に分散した発光色が緑のナノ結晶を200ppmの濃度になるようにエチレンメタクリル酸共重合体(三井・デュポン ポリケミカル(株)製N1860;エチレン:メタクリル酸=82:18、融点90℃)と混合し、170℃で溶融混練し、ナノ結晶含有熱可塑性樹脂(A)を作製した。
【0032】
(磁性体の分散)
上記熱可塑性樹脂(A)に10重量%となるように上記鉄粒子を混合し、170℃で溶融混練し、ナノ結晶および磁性体を含有する熱可塑性樹脂(B)を作製した。
【0033】
(略球状樹脂粒子の作製)
上記熱可塑性樹脂(B)にこれと相溶性のない熱可塑性樹脂2としてポリエチレングリコールを2倍量加えて170℃の2軸の押し出し機中で溶融混練したのち、水中に押し出し、ポリエチレングリコールを溶解し、溶液からナノ結晶および鉄粒子を含有した略球状の樹脂粒子を遠心分離した。ここで、ポリエチレングリコールに対するエチレンメタクリル酸共重合体の溶解度は1重量%以下であり、相溶性がなかった。
得られた樹脂粒子をJIS規格のステンレス製篩を用いて分級した結果、平均粒子径20μm乃至25μmの略球状樹脂粒子が得られた。
また、得られた樹脂粒子について、投影断面積形状の最短径に対する最長径の比で表される形状因子0.8以上の粒子は97%であった。なお、形状因子は100個の樹脂粒子について顕微鏡写真により測定した。
【0034】
[実施例2]
実施例1において粒子径が5.0nmで発光色が赤のナノ結晶(CdSe/ZnS、励起波長:400nm以下、発光波長:620nm)を準備した。これを200ppm添加した以外は同様な方法で赤色発光の平均粒子径が20μm乃至25μmの略球状樹脂粒子を作製した。
また、得られた樹脂粒子について、投影断面積形状の最短径に対する最長径の比で表される形状因子0.8以上の粒子は98%であった。
【0035】
[実施例3]
実施例2において、100ppmの赤色発光のナノ粒子を添加した以外は同様に平均粒子径が20μ乃至25μmの略球状樹脂粒子を作製した。
また、得られた樹脂粒子について、投影断面積形状の最短径に対する最長径の比で表される形状因子0.8以上の粒子は98%であった。
【0036】
[実施例4]
実施例1において、緑色発光のナノ結晶200ppmの代わりに、実施例1で使用した緑色発光ナノ結晶100ppmおよび実施例2で使用した赤色発光ナノ結晶100ppmを添加した以外は同様な方法で平均粒子径が20μ乃至25μmの略球状樹脂粒子を作製した。
また、得られた樹脂粒子について、投影断面積形状の最短径に対する最長径の比で表される形状因子0.8以上の粒子は97%であった。
【0037】
(樹脂粒子の評価)
(1)樹脂粒子の密度:
ガラス製のピクノメータを用い、置換液体としてイソプロピルアルコールを用いて測定した。
【0038】
(2)着磁性:
約10重量%の粒子濃度になるように樹脂粒子の水分散液を作製し、これを直径15mmの蓋付きポリスチレン容器中で振とう分散したのち、永久磁石を管壁に近づけ、樹脂粒子の磁石に吸引される様子を観察し、数秒以内に管壁に吸引された場合を良好とした。
【0039】
(3)浮遊性の評価:
約10重量%の粒子濃度になるように得られた樹脂粒子の水分散液を作製し、これを直径15mmの蓋付きポリスチレン容器中で振とう分散したのち、1分間以上沈降が見られなかった場合を良好とした。
【0040】
(4)蛍光顕微鏡観察:
(3)にて作製した分散液を約5μl、スライドガラスに滴下し、カバーガラスで表面を覆った。低圧水銀ランプを光源に可視光をカットする光学フィルターを配置し樹脂粒子に紫外線照射した発光の様子を観察した。発光色と粒子内の発光均一性を評価し、全体的に斑のない発光が観察された場合を均一発光とした。
これにより、ナノ結晶の包含性を評価することができる。また、樹脂粒子の一部が励起エネルギーおよび発光波長を透過することが評価できる。
【0041】
(5)樹脂粒子の発光強度:
(4)の蛍光顕微鏡にオリンパス製顕微鏡デジタルカメラDP10を設置し、撮影条件を一定として、実施例2ならびに実施例3の樹脂粒子を撮影した。その撮影画像を日本ローパー製画像解析ソフト「Image−Pro PLUS」を用いて、樹脂粒子内の平均輝度を計測し、実施例3に対する実施例2の相対値を求めた。
【0042】
(6)発光ピーク波長の測定:
樹脂粒子の発光ピーク波長の測定には日立ハイテクノロジー社製蛍光分光光度計F7000を使用した。励起波長を365nmに固定し、分光波長を400から900nmまでスキャンした。
(7)標識化の評価:
以下の手順で樹脂粒子の標識化を行った。(4)の顕微鏡に日本ローパー製デジタル冷却CCDカメラ「Cool SNAP」と、Alexa Fluor 647(Molecular PROBES製)の励起波長650nm、発光波長665nmに適合する光学フィルターを設置し、標識化を行っていない元の樹脂粒子の発光輝度と比較して顕微鏡下で識別が可能な場合を良好とした。標識化は以下の方法で行った。
1)樹脂粒子の分散水溶液(10mg/ml)から50μlを分取し、溶媒を100mM MES、pH6.0 125μlで置換した。
2)1)にBiotin付BSA(Arista Biologicals,Inc.製)の1.25×10-2mg/ml溶液を100μl加えた。
3)EDAC(N-(3-dimethylaminopropyl)-N'-ethylcarbodiimide hydrochloride:Sigma−Aldrich製)の26mM MES溶液を調整し、2)に25μlを加えた。その後、マイクロチューブローテーター(アズワン製)で1時間の攪拌を行った。これにより、樹脂粒子表面のカルボンキシル基にBiotin付BSAを結合させた。
4)攪拌後、溶媒をPBS(−)250μlで置き換えた。
5)4)の溶液を50μl分取して、ストレプトアビジン付Alexa Fluor 647(Molecular PROBES製)の50μg/μl溶液を1μl加えて攪拌した。5分間経過後、溶媒をPBS(−)250μlで置き換えた。
【0043】
評価の結果を表1に示す。なお、使用したエチレンメタクリル酸共重合体からの発光は400nmから900nmの測定範囲では認められなかった。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起エネルギーにより発光するナノ結晶が包含された構造を有する略球状の樹脂粒子。
【請求項2】
励起エネルギーにより発光するナノ結晶および磁性体が包含された構造を有する略球状の樹脂粒子。
【請求項3】
樹脂粒子の平均粒子径が1乃至100μmである請求項1または2に記載の樹脂粒子。
【請求項4】
樹脂粒子の密度が1乃至1.5g/mlである請求項1乃至3いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項5】
ナノ結晶が1乃至10nmからなる化合物半導体である請求項1乃至4いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項6】
ナノ結晶の発光波長が350nm乃至900nmである請求項1乃至5いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項7】
ナノ結晶がコア/シェルタイプでありシェルの表面が有機基で保護されてなる請求項1乃至6いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項8】
発光波長の異なる2種以上のナノ結晶を含む請求項1乃至7いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項9】
少なくとも一部分が励起エネルギーを透過する請求項1乃至8いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項10】
少なくとも一部分が発光波長を透過する請求項1乃至9いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項11】
励起エネルギーにより、樹脂が放射する発光スペクトルのピークが、ナノ結晶の発光スペクトルのピークと異なる請求項1乃至10いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項12】
励起エネルギーが紫外線である請求項1乃至11いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項13】
樹脂が熱可塑性樹脂である請求項1乃至12いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項14】
表面にカルボキシル基、スルホ基、グリシジル基、水酸基、アミノ基およびチオール基よりなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の官能基を有する請求項1乃至13いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項15】
熱可塑性樹脂がカルボキシル基を側鎖に有するポリオレフィンの共重合体である請求項13に記載の樹脂粒子。
【請求項16】
磁性体が強磁性体である請求項2乃至15いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項17】
磁性体が金属である請求項2乃至16いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項18】
磁性体が鉄、ニッケルおよびコバルトよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む請求項2乃至17いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項19】
磁性体の大きさが0.1乃至10μmである請求項2乃至18いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項20】
溶融分散法を用いて製造された請求項1乃至19いずれか1つに記載の樹脂粒子。
【請求項21】
溶融分散法を用いた請求項1乃至19いずれか1つに記載の樹脂粒子の製造方法。
【請求項22】
熱可塑性樹脂1、前記熱可塑性樹脂1と相溶性のない熱可塑性樹脂2、ナノ結晶または磁性体、またはナノ結晶および磁性粒子をナノ結晶および磁性粒子の融点以下の温度で溶融混練する工程、および
熱可塑性樹脂1の溶融温度以下で熱可塑性樹脂2の展開溶媒に溶解して略球状の樹脂粒子を熱可塑性樹脂2の溶液から分離する工程を含むことを特徴とする
請求項1乃至19いずれか1つに記載の樹脂粒子の製造方法。
【請求項23】
熱可塑性樹脂1とナノ結晶をナノ結晶の融点以下で溶融混練してナノ結晶分散熱可塑性樹脂(A)を製造する工程、
(A)と磁性粒子をナノ結晶および磁性粒子の融点以下の温度で溶融混練してナノ結晶および磁性粒子を包含した熱可塑性樹脂(B)を製造する工程、
樹脂(B)とこれと相溶性のない熱可塑性樹脂2をナノ結晶および磁性体の融点以下の温度で溶融混練する工程、および
熱可塑性樹脂1の溶融温度以下で樹脂2の展開溶媒に溶解して略球状の樹脂粒子を熱可塑性樹脂2の溶液から分離する工程を含むことを特徴とする請求項2乃至19いずれか1つに記載の樹脂粒子の製造方法。

【公開番号】特開2007−308548(P2007−308548A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137390(P2006−137390)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(302050123)トライアル株式会社 (19)
【Fターム(参考)】