説明

樹脂組成物、および樹脂成形体

【課題】セルロース樹脂と本構成を有する難燃剤とを有しない場合に比べ、発煙量を低減し、且つ金型汚染を抑制する。
【解決手段】スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物のスルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物のカチオン成分と、がイオン結合することにより形成された第1の有機化合物と第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、イオンコンプレックスを形成する1または複数種の第1の有機化合物および1または複数種の第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である(A)難燃剤と、(B)セルロース樹脂と、を含む樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に混合して難燃化する目的に使用される難燃剤としては、従来からハロゲン系化合物や、三酸化アンチモン,リン系化合物,水和金属化合物等の非ハロゲン系化合物などが使用されている。
【0003】
非ハロゲン系の難燃剤としては、例えば、スルファミン酸アルカリ土類金属塩10質量%以上60質量%以下と、スルファミン酸グアニジン40質量%以上90質量%以下との混合物を必須成分として含有する組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。
また、スルファミン酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、および硫酸から選ばれる1種以上の無機酸のグアニジン塩、アンモニウム塩、およびI族からIII族の金属塩から選ばれる少なくとも1種類の塩と、ポリスチレンスルホン酸系水溶性高分子、およびポリカルボン酸系水溶性高分子などから選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子と、を必須成分として含有する組成物が提案されている(例えば特許文献2参照)。
さらに、アミノ基含有トリアジン化合物と、硫酸およびスルホン酸から選択された少なくとも1種と、の塩で構成された難燃剤を含む樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献3参照)。
さらに、リン系酸残基が導入されたアクリルアミド系難燃剤(例えば特許文献4参照)や、含窒素ペルフルオロアルカンスルホン酸誘導体(例えば特許文献5参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−202882号公報
【特許文献2】特開平10−60447号公報
【特許文献3】特開2007−119645号公報
【特許文献4】特開2007−106803号公報
【特許文献5】特開2006−001839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、セルロース樹脂と本構成を有する難燃剤とを有しない場合に比べ、発煙量を低減し、且つ金型汚染を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
即ち、請求項1に係る発明は、
スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の前記第1の有機化合物および1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である難燃剤と、
セルロース樹脂と、
を含む樹脂組成物である。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記難燃剤の含有量が、前記セルロース樹脂100質量部に対して0.001質量部以上10質量部以下である請求項1に記載の樹脂組成物である。
【0008】
請求項3に係る発明は、
スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の前記第1の有機化合物および1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である難燃剤と、セルロース樹脂と、を含む請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物を含有する樹脂成形体である。
【0009】
請求項4に係る発明は、
前記難燃剤の含有量が、前記セルロース樹脂100質量部に対して0.001質量部以上10質量部以下である請求項3に記載の樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、セルロース樹脂と本構成を有する難燃剤とを有しない場合に比べ、発煙量が低減され、且つ金型汚染が抑制される。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、セルロース樹脂に対する難燃剤の添加量が本構成を有しない場合に比べ、請求項1に係る発明の効果が確実に奏される。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べて、優れた耐湿熱性を有し、且つ発煙量が低減される。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、本構成を有しない場合に比べて、請求項3に係る発明の効果が確実に奏される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態に係る樹脂成形体を用いて構成された筐体および事務機器部品を備えた画像形成装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
<樹脂組成物>
本実施の形態に係る樹脂組成物は、特定の(A)難燃剤と(B)セルロース樹脂とを含むことを特徴とする。
尚、上記特定の「(A)難燃剤」とは、スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の前記第1の有機化合物および1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物であることを必須の要件とする。
【0017】
(B)セルロース樹脂に対して上記特定の(A)難燃剤を添加することで、セルロース樹脂自体の機械的物性(樹脂成型体とした際の強度)を損なうことなく、樹脂成型体が燃焼した場合における発煙量が大幅に低減される。またそれに加えて、本実施の形態に係る樹脂組成物によって樹脂成型体を製造する際に用いられる金型の汚染が効果的に抑制される。建築物内の火災において、燃焼時に低発煙性であることは、煙に巻かれて視界不良になることや呼吸困難になることを防止する意味でも重要度が高い。実際の火災においても、炎より煙による死者の方が多い(平成14年度消防白書より)。
【0018】
上記「発煙量の低減」および「金型汚染の抑制」との効果が得られるメカニズムは必ずしも明確ではないが、以下のように推察される。
発煙するのは、煤が生じるためであり、その煤は芳香族化合物が主成分と言われている。つまり、低発煙性にするためには、(1)燃焼中に芳香族化合物の成分を低下させる、もしくは、(2)燃焼中に芳香族化合物の成分を大気中に放出させずに閉じ込める、ことが必要である。本実施の形態に係る樹脂組成物は、(1)と(2)の双方の効果により低発煙性を実現していると考えられる。なぜならば、スルホン酸は、ラジカルを捕捉する効果(ラジカルトラップ効果)を有するので、可燃成分を補足することが可能となり、燃焼ガスを希釈する。その結果、燃焼が抑制され、芳香族化合物の成分を低下させる。また、本実施の形態に係る樹脂組成物を燃焼させた際には多くの炭化物が生じることから、炭化物を大気中に放出せずにチャーとして固定化している。「金型汚染の抑制」については、燃焼より低温度で生じる現象であり、スルホン酸のラジカルトラップ効果が燃焼時よりも微量で生じているために、低分子物質の放出が抑制され、金型汚染の抑制につながっていると推測される。
【0019】
以下、本実施の形態に係る樹脂組成物を構成する各材料について説明する。
【0020】
−難燃剤−
本実施の形態における難燃剤は、前述の通り、スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の前記第1の有機化合物および1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である。すなわち、第1の有機化合物は、第2の有機化合物のカチオン成分とイオン結合するスルホン酸基を有しており、第2の有機化合物は、第1の有機化合物のスルホン酸基とイオン結合するカチオン成分を有している。
【0021】
尚「難燃剤」とは、単独では難燃性を示さない、すなわち、UL−94で規定される難燃性がHB未満の樹脂に添加して得られる樹脂組成物の、UL−94で規定される難燃性がHB以上となるものをいう。
なお難燃度(UL規格)は、米国のUNDERWRITERS LABORATORIES INC.社が制定、認可している電気機器に関する安全性の規格であり、UL燃焼試験法による垂直燃焼試験により規定された規格である。難燃性の程度によりV−0、V−1、V−2がありV−0に近づくほど難燃性の高い材料であることを示している。燃焼時間が10秒以下から30秒以下で燃焼しながら落ちる溶融物がない場合でV−0からV−1レベル、および燃焼しながら落下する溶融物のある場合はV−2である。
【0022】
イオンコンプレックスを構成する1または複数種の第1の有機化合物としては、上述のように、少なくともイオンコンプレックスが形成されるときに第2の有機化合物のカチオン成分とイオン結合されるスルホン酸基を有していればよく、この第1の有機化合物としては、具体的には、硫酸、スルホン酸基を有する置換または無置換の芳香族炭化水素、スルホン酸基を有する置換または無置換の脂肪族炭化水素、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸の重合および共重合体等が挙げられる。中でも、硫酸、スルホン酸基を有する置換または無置換の芳香族炭化水素、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸の重合および共重合体が好ましく用いられる。
【0023】
上記スルホン酸基を有する無置換の芳香族炭化水素としては、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ピリジンスルホン酸、およびイソキノリンスルホン酸等が挙げられる。
【0024】
上記スルホン酸基を有する芳香族炭化水素の置換基としては、特に制限されないが、例えば、炭素数1から10のアルキル基、フェニル基、アルコキシル基、アミノ基、アミド基、アリール基、アシル基、ビニル基、アリル基、水酸基、エステル基およびカルボキシル基、ニトロ基、アセチル基、メルカプト基、等が挙げられ、中でも複合化(イオンコンプレックスの構成)のしやすさからアミノ基、水酸基、メルカプト基が好ましく用いられる。なお、これらの置換基の数および位置は、特に限定されない。
【0025】
また、スルホン酸基を有する無置換の脂肪族炭化水素としては、エタンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、1−ヘプタンスルホン酸、1−オクタンスルホン酸、1−ノナンスルホン酸、1−デカンスルホン酸、1−ウンデカンスルホン酸、等が挙げられる。
【0026】
上記スルホン酸基を有する脂肪族炭化水素の置換基としては、特に制限されないが、例えば、アミノ基、水酸基、メルカプト基、等が挙げられ、これらの置換基の数および位置は、特に限定されない。
【0027】
なお、イオンコンプレックスを形成する1または複数種の第1の有機化合物は、芳香環を有する構成であることが好ましい。イオンコンプレックスを形成する少なくとも1種の第1の有機化合物が芳香環を有する構成であると、耐水性、耐加水分解性が向上し、このイオンコンプレックスを含む難燃剤の樹脂からのブリード(染みだし)が抑制されると考えられる。
【0028】
第1の有機化合物が芳香環を有する構成である場合には、具体的には、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スチレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、や、アミノベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、アミノベンゼンスルホン酸が複合化(イオンコンプレックスの構成)のしやすさ、難燃効果、耐水性の理由から特に好ましい。
【0029】
また、イオンコンプレックスを形成する1または複数種の第1の有機化合物は、上述のように第2の有機化合物のカチオン成分とイオン結合するスルホン酸基を有することが必須であるが、更に、イオンコンプレックスを形成する他の第1の有機化合物のスルホン酸基とイオン結合するカチオン成分を含んだ構成であってもよい。この場合には、第1の有機化合物としては、具体的には、アミノベンゼンスルホン酸、フェニレンジアミンスルホン酸、トルイジンスルホン酸、アミノナフタレンスルホン酸、等が挙げられる。
【0030】
イオンコンプレックスを構成する1または複数種の第2の有機化合物としては、上述のように、少なくともイオンコンプレックスが形成されるときに第1の有機化合物のスルホン酸基とイオン結合されるカチオン成分を有していればよい。
【0031】
このカチオン成分としては、窒素原子を含む構造であることが好ましい。カチオン成分として窒素原子を含む構造を用いることで、樹脂への親和性が向上することから、樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の向上が図られると考えられる。
【0032】
窒素原子をカチオン成分として含む第2の有機化合物としては、主骨格に窒素を含んだ構成であってもよく、置換基として窒素を含む置換基を有する構成であってもよい。このカチオン成分が窒素を含む置換基である場合には、この置換基(カチオン性基)としては、第1級から第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基等が挙げられる。
【0033】
カチオン成分としてアミノ基を有する第2の有機化合物としては、具体的には、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンなどのポリアルキレンイミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン;ジアミノシクロヘキサン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタンなどの脂環族アミン;ジアミノトルエン、ジアミノキシレン、テトラメチルキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ポリアミン;等が挙げられる。これらの中でも、
樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の向上の理由から、ポリアルキレンイミン類が好ましく、ポリエチレンイミンが特に好ましく用いられる。
【0034】
上記イオンコンプレックスを構成する1または複数種の上記第1の有機化合物、および1または複数種の上記第2の有機化合物の少なくとも1種類は、分岐を有する構成であることが好ましい。分岐を有することで、第1の有機化合物同士、第2の有機化合物同士、または第1の有機化合物と第2の有機化合物とが橋掛けされやすくなり、樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の向上が図られると考えられる。
【0035】
分岐を有する第1の有機化合物としては、具体的には、炭素部位が分岐されていることが好ましく、この第1の有機化合物としては、置換基を有しているものが好ましくエポキシ基やイソシアネート基、酸クロライド等の活性基を用いて結合分岐されていてもよい。中でも、置換基を有しているものが好適に用いられる。
また、分岐を有する第2の有機化合物としては、具体的には、窒素部位が分岐されていることが好ましく、この第2の有機化合物としては、3級アミノ基を有しているものが好ましく、ポリエチレンイミンが好適に用いられる。
【0036】
また、上記イオンコンプレックスは、橋掛け構造を有することがブリード抑制と樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の向上の双方の観点から好ましい。橋掛け構造を有する第1の有機化合物としては、例えば、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有するモノマーとN,N’−メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなど二つ以上のビニル基を有するモノマーで橋掛け反応させた橋掛け重合物などが挙げられる。また、橋掛け構造を有する第2の有機化合物としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリアリルアミンなどを多官能のエポキシ基やイソシアネート基を有する物質で橋掛け反応させた橋掛け重合物などが挙げられる。
【0037】
そして更に、このイオンコンプレックスの橋掛け構造は、上記スルホン酸基と上記カチオン成分とのイオン結合を橋掛け点として橋掛けされてなることが好ましい。上記イオン結合による橋掛けは、例えば、第1の有機化合物に第2の有機化合物を添加して静電的に結合させることにより行えばよい。
【0038】
さらに、第1の有機化合物のスルホン酸基と、第2の有機化合物のカチオン成分と、は塩を形成した構成であってもよい。この場合には、第1の有機化合物と第2の有機化合物とから形成されたイオンコンプレックスは中性となり、このイオンコンプレックスを含む難燃剤を含む樹脂成形体を形成する際(成形時)に用いられる金型の汚染が抑制されると考えられる。
【0039】
このイオンコンプレックスが中性であるか否かは、形成されたイオンコンプレックスを常温(25℃)で水に添加したときに、該イオンコンプレックスを添加する前の水のpHと、該水にイオンコンプレックスを添加した後のpHと、が±1の範囲内で同じであれば、中性であると判別される。
【0040】
ここで、本実施の形態における難燃剤に含まれるイオンコンプレックスは、第1の有機化合物のスルホン酸基と、第2の有機化合物のカチオン成分とのイオン結合により形成されている。特に、第1の有機化合物がスルホン酸基を含み、且つ第2の有機化合物のカチオン成分が窒素を含む構造であると、溶解温度が低くなり常温でも溶融する塩(所謂、常温溶融塩)が得られる。このため、広い温度範囲で蒸気圧が低く、揮発性がほとんどなく、高温まで液体状態を保持することから、樹脂に対する可塑効果が発現し、樹脂組成物、樹脂成形体の機械強度の低下が抑制されると考えれる。
【0041】
また、一般的に、スルホン酸基、アミノ基等の極性基を有する化合物は親水性を示すが、本実施の形態における難燃剤に含まれるイオンコンプレックスは、第1の有機化合物と第2の有機化合物との内の少なくとも1種が高分子化合物であり、且つスルホン酸基とカチオン成分とがイオン結合により会合しているため、水不溶性を示すといえる。
【0042】
なお、本実施の形態において「水不溶性」とは、1質量%水分散液(20℃)を作製し、1時間攪拌した後に、白濁した状態、二層に分離した状態、沈殿物が分散している状態のいずれかことを示しており、目視で判断される。
【0043】
イオンコンプレックスが水不溶性であることで、高温高湿状態での難燃剤の樹脂からのブリード(染みだし)がより抑制されると考えられる。
【0044】
上述のように、本実施の形態における難燃剤に含まれるイオンコンプレックスを形成する1または複数種の第1の有機化合物、および1または複数種類の第2の有機化合物の内の少なくとも1種は、高分子化合物である。この高分子化合物の重量平均分子量は、1000以上100万以下が好ましく、5000以上50万以下がより好ましく、1万以上10万以下が更に好ましい。
【0045】
また、本実施の形態における難燃剤に含まれるイオンコンプレックスは、第1の有機化合物のスルホン酸基と、第2の有機化合物のカチオン成分とが適度な割合でイオン結合していることが、耐水性、分散性、ブリード(染みだし)、金型汚染性等の点から好ましい。具体的には、全てのスルホン酸基はカチオン成分とイオン結合していることが好ましい。
【0046】
本実施の形態における難燃剤に含まれるイオンコンプレックスを形成する1または複数種類の第1の有機化合物、および1または複数種の第2の有機化合物としては、上記の中から単独もしくは2つ以上選択して用いればよい。
【0047】
なお、このイオンコンプレックスとしては、上述のように、第1の有機化合物のスルホン酸基と第2の有機化合物のカチオン成分とがイオン結合することで形成されればよいが、望ましくは、第1の有機化合物の少なくとも1種と、第2の有機化合物の少なくとも1種と、が2つ以上イオン結合されてなることが好ましい。この構成とされることで、同じイオン結合で構成されるため分解温度の制御が容易であり、難燃性の向上に寄与する部位の高濃度化が達成されることから、樹脂組成物、樹脂成形体の難燃性の更なる向上が図られると考えられる。
【0048】
第1の有機化合物に、第2の有機化合物と第1の有機化合物とが2つ以上イオン結合された形態のイオンコンプレックスの一例としては、第1の有機化合物と、第2の有機化合物が交互に2つ以上直接イオン結合された構成であってもよいし、第1の有機化合物と、第2の有機化合物と、がカチオン成分とスルホン酸基の双方を有する第1の有機化合物を介してイオン結合された構成であってもよい。
【0049】
例えば、イオンコンプレックスとしては、高分子化合物である第2の有機化合物と、複数種類の低分子化合物として、スルホン酸基とカチオン成分との双方を有する第1の有機化合物、スルホン酸基を有する第1の有機化合物、およびカチオン成分を有する第2の有機化合物と、を含む形態が挙げられる。
【0050】
この形態において、上記高分子化合物である第2の有機化合物としては、上述のようにイオンコンプレックスの形成時にイオン結合されるカチオン成分を有する高分子化合物であればよく、例えば、主骨格に窒素原子を有する高分子化合物、窒素を含む置換基を有する高分子化合物等が挙げられる。この高分子化合物である第2の有機化合物としては、具体的には、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリアリルアミンやその共重合体等が挙げられる。これらの中でも、主骨格に窒素を含む高分子化合物であるポリエチレンイミンが特に好ましい。
【0051】
また、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記スルホン酸基とカチオン成分との双方を有する第1の有機化合物としては、例えば、スルホン酸基と、窒素原子と、を含む低分子化合物が挙げられる。このスルホン酸基とカチオン成分との双方を有する低分子化合物である第1の有機化合物としては、具体的には、アミノベンゼンスルホン酸、フェニレンジアミンスルホン酸、トルイジンスルホン酸、アミノナフタレンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、アミノベンゼンスルホン酸が特に好ましい。
【0052】
また、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記スルホン酸基を有する第1の有機化合物としては、硫酸、ナフタレンジスルホン酸、アニリンジスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロパンジスルホン酸等が挙げられるが、硫酸を用いることが特に好ましい。
【0053】
さらに、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記カチオン成分を有する第2の有機化合物としては、窒素原子を含む化合物が挙げられる。具体的には、アミルアミン、アミノペンタン、ヘキシルアミン、メチルブチルアミン、オクチルアミン、アミノベンゼン、ナフチルアミン、アミノフェノール、ジメチルアニリン等が挙げられる。これらの中でも、オクチルアミンが特に好ましい。
【0054】
上記高分子化合物である第2の有機化合物と、複数種類の低分子化合物として、スルホン酸基とカチオン成分との双方を有する第1の有機化合物、スルホン酸基を有する第1の有機化合物、および第2の有機化合物と、を含む形態のイオンコンプレックスは、高分子化合物である第2の有機化合物のカチオン成分と、スルホン酸基とカチオン成分との双方を有する第1の有機化合物(低分子化合物)のスルホン酸基と、がイオン結合し、該第1の有機化合物(低分子化合物)のカチオン成分と、スルホン酸基を有する第1の有機化合物(低分子化合物)である例えば硫酸と、がイオン結合し、さらにこの硫酸と、カチオン成分を有する第2の有機化合物(低分子化合物)と、がイオン結合した形態が挙げられる。
すなわち、主骨格に窒素原子を含む高分子化合物である第2の有機化合物に、低分子化合物であるアミノベンゼンスルホン酸(第1の有機化合物)、硫酸(第1の有機化合物)、およびオクチルアミン(第2の有機化合物)がイオン結合した形態のイオンコンプレックスが特に好ましい形態としてあげられる。
このように、イオンコンプレックスとしては、スルホン酸基とカチオン成分とのイオン結合が複数連続した構成であると、同じイオン結合で構成されるため分解温度の制御が容易であり、難燃性の向上に寄与する部位の高濃度化が達成されることから樹脂組成物、樹脂成形体の難燃性の更なる向上が図られる点で好ましい。
【0055】
また、例えば、イオンコンプレックスとしては、高分子化合物である第1の有機化合物と、複数種類の低分子化合物として、複数のカチオン成分を有する第2の有機化合物、およびスルホン酸基を有する第1の有機化合物と、を含む形態が挙げられる。
【0056】
この形態において、上記高分子化合物である第1の有機化合物としては、上述のようにイオンコンプレックスの形成時にイオン結合されるスルホン酸基を有する高分子化合物であればよく、例えば、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸の重合および共重合体、スチレンスルホン酸の重合および共重合体等が挙げられる。
【0057】
また、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、複数のカチオン成分を有する第2の有機化合物としては、例えば、窒素原子を含む低分子化合物が挙げられる。このカチオン成分を有する低分子化合物である第2の有機化合物としては、具体的には、p−ジアミノベンゼン、トリアミノベンゼン、ジエチレントリアミン、ジアミノトルエン、アミドール、ジアミノナフタレン、ジアミノヘキサン、ジアミノオクタン、ジアミノヘプタン、シクロヘキサンジアミニン等が挙げられる。これらの中でも 芳香族系のカチオン成分を有する低分子化合物が特に好ましい。
【0058】
また、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記スルホン酸基を有する第1の有機化合物としては、硫酸、ナフタレンジスルホン酸、アニリンジスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロパンジスルホン酸等が挙げられるが、硫酸を用いることが特に好ましい。
【0059】
さらに、この形態のイオンコンプレックスに含まれる複数種類の低分子化合物としての、上記カチオン成分を有する第2の有機化合物としては、窒素原子を含む化合物が挙げられる。具体的には、アミルアミン、アミノペンタン、ヘキシルアミン、メチルブチルアミン、オクチルアミン、アミノベンゼン、ナフチルアミン、アミノフェノール、ジメチルアニリン等が挙げられる。これらの中でも、オクチルアミンが特に好ましい。
【0060】
上記高分子化合物である第1の有機化合物と、複数種類の低分子化合物として、複数のカチオン成分を有する第2の有機化合物、およびスルホン酸基を有する第1の有機化合物と、を含む形態のイオンコンプレックスは、高分子化合物である第1の有機化合物のスルホン酸基と、複数のカチオン成分との双方を有する第2の有機化合物(低分子化合物)の一方のカチオン成分と、がイオン結合し、他方のカチオン成分と、スルホン酸基を有する第1の有機化合物(低分子化合物)と、がイオン結合した形態が挙げられる。
すなわち、置換基としてスルホン酸基を有する高分子化合物である第1の有機化合物に、低分子化合物であるジアミノベンゼン(第2の有機化合物)、およびベンゼンスルホン酸(第1の有機化合物)がイオン結合した形態のイオンコンプレックスが特に好ましい形態としてあげられる。
このように、イオンコンプレックスとしては、スルホン酸基とカチオン成分とのイオン結合が複数連続した構成であることが同じイオン結合で構成されるため分解温度の制御が容易であり、難燃性の向上に寄与する部位の高濃度化が達成されることから、樹脂組成物、樹脂成形体の難燃性の更なる向上が図れるため好ましい。
【0061】
−セルロール樹脂−
本実施の形態に係る樹脂組成物において「(B)セルロース樹脂」とは、多数のβ−グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子化合物を指し、構成単位であるグルコースとは異なる性質を示す高分子化合物である。いわゆるベータグルカンの一種で、下記構造式(1)で表される繰り返し単位を有する。
【0062】
【化1】



【0063】
尚、(B)セルロース樹脂は修飾されていてよく、下記構造式(2)に示すごとく、R,RおよびRの部分が、水素であったり、エステル化されて(即ちCで表される直鎖、分岐鎖、または環状の酸)いたり、エーテル化されて(Cで表される直鎖、分岐鎖、または環状の炭化水素)いてもよい。R,RおよびRはそれぞれ構造が異なっていてもよく、例えば、RがH、Rがメチル、Rが酢酸であってもよい。
【0064】
【化2】



【0065】
また、(B)セルロース樹脂は上記構造式(1)で表される繰り返し単位と、上記構造式(2)で表される繰り返し単位と、の両方を有する共重合体であってもよい。
【0066】
本実施の形態に用いられる上記セルロース樹脂とは、セルロースを原料として生物的あるいは化学的に官能基を導入して得られるセルロース骨格を有する樹脂であり、原料綿は、綿花リンタ、木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などの天然セルロースはもとより、微結晶セルロースなど木材パルプを酸加水分解して得られる重合度の低い(重合度100から300)セルロースでも使用することができ、場合により混合して使用してもよい。これらの原料となるセルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁から8頁)および「セルロースの事典(523頁)」(セルロース学会編、朝倉書店、2000年発行)に記載のセルロースを用いることができ、特に限定されるものではない。
【0067】
上記構造式(2)においてR〜Rが表すアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基、tert−ブチル基、2−メチルブチル基、イソバレル基、2−エチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2−メチルバレル基、3−メチルバレル基、4−メチルバレル基、2−プロピルペンチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルー2−ペンチル基、2,2−ジメチルペンチル基、2−オクチイル基などを挙げることができ、これらの基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基である。
【0068】
また、分岐構造を含む脂肪族アシル基でもよく、具体例としては、2−メチルブタノイル基、イソバレリル基、2−エチルブタノイル基、t−ブチルアセチル基、2−メチルバレリル基、3−メチルバレリル基、4−メチルバレリル基、2−プロピルペンタノイル基、2−メチルヘキサノイル基、2−エチルヘキサノイル基、イソステアロイル基、チグリノイル基、3,3−ジメチルアクリル基、2−メチルー2−ペンテノイル基、シトロネリル基、などを挙げることができる。
これらの中でも好ましくはt−ブチルアセチル基、2−メチルバレリル基、3−メチルバレリル基、4−メチルバレリル基、2−プロピルペンタノイル基、2−メチルヘキサノイル基、2−エチルブタノイル基、2−エチルヘキサノイル基、イソステアロイル基、チグリノイル基、3,3−ジメチルアクリル基、2−メチルー2−ペンテノイル基、シトロネリル基、などを挙げることができる。
より好ましくは、t−ブチルアセチル基、2−メチルバレリル基、3−メチルバレリル基、4−メチルバレリル基、2−プロピルペンタノイル基、2−メチルヘキサノイル基、2−エチルブタノイル基、2−エチルヘキサノイル基、イソステアロイル基、シトロネリル基である。
【0069】
また、上記セルロース樹脂の重量平均分子量としては、100以上1000000以下が好ましく、更には500以上750000以下がより好ましく、1000以上500000以下が特に好ましい。
尚、上記重量平均分子量は以下の方法により測定される。本明細書に記載の数値は該方法にて測定したものである。まず樹脂を溶媒に溶解し、この溶液をサイズ排除クロマトグラフ(GPC)にて、重量平均分子量を求める。塩(塩化リチウムあるいは臭化リチウム)を添加したジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解し分子量分布測定(GPC)により分析する。
【0070】
本実施の形態に係る樹脂組成物において、上記(A)難燃剤の含有量は、上記(B)セルロース樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.001質量部以上9質量部以下であることが更に好ましく、0.001質量部以上8質量部以下であることが特に好ましい。樹脂組成物に含まれる難燃剤の含有量が上記範囲内であると、少量の添加にも関わらず、発煙量が低減され且つ金型汚染が抑制されるとの効果がより確実に奏される。
【0071】
−その他の樹脂−
本実施の形態に係る樹脂組成物には、前記(B)セルロース樹脂に加え、更にその他の樹脂が含有されてもよい。
【0072】
その他の樹脂としては、特に制限されないが、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、メチルペンテン、熱可塑性加硫エラストマー、熱可塑性ポリウレタン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、シリコーン、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリサルフォン、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、ポリフタルアミド、ポリオキシメチレン、ポリメチルペンテン、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリロニトリル、ポリメトキシアセタール、ポリイソブチレン、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブタジエンスチレン、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリ−n−ブチルメタクリレート、ポリベンゾイミダゾール、ポリブタジエンアクリルニトリル、ポリブテン−1、ポリアリルスルホン、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリエステルアルキド樹脂、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリアクリル酸、ポリアミド、天然ゴム、ニトリルゴム、メチルメタクリレートブタジエンスチレン共重合体、ポリエチレン、イソプレンゴム、アイオノマー、ブチルゴム、フラン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、ヒドリンゴム、クレゾール樹脂、ビスマレイミドトリアジン、シス1・4ポリブタジエン合成ゴム、アクリロニトリルスチレンアクリレート、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、アクリル酸エステルゴム、ポリ乳酸等が挙げられる。これらは、前記(B)セルロース樹脂と併用して用いられ、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
尚、本実施形態に係る樹脂組成物において、前記(B)セルロース樹脂と上記その他の樹脂との混合比(質量比)は、100:0.001から0.001:100であることが好ましく、更には100:1から1:100であることがより好ましい。
【0074】
また、本実施形態に係る樹脂組成物には、前記特定の(A)難燃剤の他に、(A)難燃剤以外の難燃剤(以下「その他の難燃剤」と称する)を含んでもよい。その他の難燃剤は、上記難燃剤よりも少ない含有量で上記その他の樹脂に含有される。該「その他の難燃剤」としては、例えばリン系難燃剤、臭素系難燃剤等が挙げられる。
【0075】
また、本実施の形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、強化剤、相溶化剤、耐候剤、強化剤、加水分解防止剤等の添加剤、触媒などをさらに含有してもよい。これらの添加剤および触媒の含有量は、樹脂組成物の固形分全量を基準として、それぞれ5質量%以下であることが好ましい。
【0076】
<樹脂成形体>
本実施の形態に係る樹脂成形体は、上述した樹脂組成物を成形してなるものである。
この樹脂成形体は、例えば、上述した樹脂組成物を、射出成形、射出圧縮成形、プレス成形、押出成形、ブロー成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形等の公知の方法により成形することで得られる。
【0077】
本実施の形態に係る樹脂成形体を得るための成形機としては、プレス成形機、インジェクション成形機、モールド成形機、ブロー成形機、押出成形機、および紡糸成形機のうちから選択される1以上の成形機が用いられる。したがって、これらの1つにより成形を行ってもよいし、1つの成形機により成形を行った後、他の成形機により続けて成形を行ってもよい。
【0078】
成形された樹脂成形体の形状は、シート状、棒状、糸状など特に限定されるものではない。また、その大きさも制限されるものではない。
【0079】
本実施の形態の樹脂成形体は、例えば、家電製品や事務機器などの筐体又はそれらの各種部品、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材等に適用される。
【0080】
この樹脂成形体は、UL−94試験による難燃性がHB以上であることが好ましい。この特性を有する樹脂成形体は、上記説明した樹脂組成物を成形することで得られる。
【0081】
また、この樹脂成型体は、UL−燃焼熱量が0kJ以上10kJ以下であることが好ましく、更には0.01kJ以上9.99kJ以下であることがより好ましく、0.1kJ以上9.9kJ以下であることが特に好ましい。この特性を有する樹脂成形体は、上記説明した樹脂組成物を成形することで得られる。
上記UL−燃焼熱量が上記範囲であることにより、垂直燃焼試験での自己消火が可能との効果を奏する。
【0082】
尚、上記UL−燃焼熱量は以下の方法により測定される。本明細書に記載の数値は該方法にて測定したものである。
UL−94時の燃焼ガスをサンプルポンプで吸引し、それを酸素分析計にてin−situで分析し、測定した酸素濃度を熱量換算して、燃焼熱量を測定する。例えば、(株)東洋精機製マルチコーンカロリメータなどの測定装置が用いられる。
【0083】
ここで、図1は、本実施の形態に係る樹脂成形体を用いて構成された筐体および事務機器部品を備える画像形成装置の一例を示す図であり、画像形成装置を前側から見た外観斜視図である。図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作し得るよう開閉自在となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりし得る。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0084】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、および、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を自動で搬送し得る自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置および制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱自在なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0085】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーを補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0086】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙収容部136が備えられており、必要に応じてここからも用紙が供給される。
【0087】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に接触する2個の定着ロールで挟まれる領域に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙収容部136が設けられている側と反対側に用紙排出部138が複数備えられており、これらの用紙排出部に画像形成後の用紙が排出される。
【0088】
画像形成装置100において、フロントカバー120a,120bは、開閉時の応力および衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、プロセスカートリッジ142は、着脱の衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、筐体150および筐体152は、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。そのため、本実施の形態に係る樹脂成形体は、画像形成装置100のフロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、および筐体152として用いられるのが好適である。
【実施例】
【0089】
以下、本発明について実施例により具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]
−イオンコンプレックスの調製−
硫酸(第1の有機化合物)264.5gとオクチルアミン(第2の有機化合物)348.1gとを3Lの水中で混合し調製液Aを調製した。また、純正化学製のポリエチレンイミンP−1000(第2の有機化合物)の30質量%水溶液500gを7Lの水中に入れ、これにアミノベンゼンスルホン酸(第1の有機化合物)を467.6g添加し調製液Bを調製した。次に上記調製液Bに、上記調製液Aを滴下して反応を行った。添加が進むにつれ白色沈殿が生成した。
【0091】
次に、このスラリーを一定時間(24時間)静置して上澄み液を廃棄する、所謂デカンテーション法により沈殿物を回収し蒸留水で洗浄し、メタノール洗浄を行い水不溶の難燃剤(A)(イオンコンプレックス)を得た。
【0092】
なお、難燃剤(A)(イオンコンプレックス)の確認はIR測定により行った。具体的には、FT−IR装置(堀場製作所製、FT−IR/フーリエ変換赤外分光光度計 FT−730)を用い、下記構成単位ごとの測定結果と対比させ、スルホン酸基とアミノ基に由来するピークを確認し、目的とする反応が進行していることを確かめた。
【0093】
・スルホン、スルホンアミドに由来するスペクトル:1110cm−1以上1190cm−1以下、1300cm−1以上1370cm−1以下
・スルホン酸に由来するスペクトル:1040cm−1以上1090cm−1以下、1150cm−1以上1270cm−1以下
・アミノ基に由来するスペクトル:3200cm−1以上3500cm−1以下、800cm−1以上850cm−1以下
【0094】
また、難燃剤(A)(イオンコンプレックス)の炭素、窒素、硫黄の元素分析を行い、その比を求め上記IR分析結果と合わせて難燃剤(A)(イオンコンプレックス)が得られたことの確認を行った。
【0095】
−樹脂組成物および樹脂成形体の作製−
上記調製した難燃剤(A)(イオンコンプレックス)0.001質量部を、100質量部の酢酸ブチルセルロース樹脂(商品名:CAB171−15、イーストマンケミカル社製)に添加し、二軸押出し機を用いて180℃で溶融混合して樹脂組成物を作製した。またその後、この樹脂組成物を200℃でプレスにより溶融成形し、樹脂成形体を作製した。
【0096】
[実施例2〜実施例12]および[比較例1〜比較例21]
実施例1において用いたセルロース樹脂の種類および量、並びに難燃剤の種類および量を、下記表1から表6に示す組成に変更した以外は実施例1に記載の方法により樹脂組成物および樹脂成形体を作製した。
尚、表1から表6記載の各材料としては、以下のものを用いた。
・酢酸ブチルセルロース樹脂
: 商品名:CAB171−15、イーストマンケミカル社製
・酢酸プロピルセルロース樹脂
: 商品名:CAP482−20、イーストマンケミカル社製
・酢酸セルロース樹脂
: 商品名:CA398−30、イーストマンケミカル社製
・リン酸エステル : 商品名:PX200、大八化学社製
・硫酸アンモニウム : 試薬、関東化学社製
・硫酸メラミン : 商品名:アピノン901、三和ケミカル社製
【0097】
<評価>
作製した樹脂組成物および樹脂成形体について、下記評価を行った。評価結果は、表1から表6に示す。
【0098】
−UL−燃焼熱量−
以下の方法により、UL−燃焼熱量(総燃焼熱量:kJ)を測定した。
UL−94standardに定められた大きさの2mm厚みの短冊状試験片を射出成形(日精樹脂製NEX−50)にて作製し(株)東洋精機製マルチコーンカロリメータIIにて燃焼時の総熱量を測定した。
【0099】
−発煙量−
以下の方法により、発煙量(平均比減光面積(SEA):m/kg)を測定した。
JIS D 1201に従い、煙を含むチャンバーに光をあて、その透過率から減光係数を算出した。
【0100】
−弾性率−
JIS−K7162(1994年)に準じ、以下の方法にて弾性率(MPa)を測定した。
上記規格に従う大きさのダンベル試験片を射出成形(日精樹脂製NEX−50)し、引張試験より求めた。
【0101】
−耐衝撃性−
JIS−K7111(2006年)に準じ、以下の方法にて耐衝撃性(J/cm)を測定した。
上記規格に従う大きさの試験片を射出成形(日精樹脂製NEX−50)し、ノッチ加工した後、シャルピー衝撃試験より求めた。
【0102】
−TG250℃ホールド性−
以下の方法により、耐湿熱性の指標としてTG250℃ホールド性(%)を測定した。
JIS−K−7120(1987年)に準じ、5mgのシート状試験片を10℃/minで250℃まで昇温させ、その後250℃で1時間放置した後の重量変化をTG250℃ホールド性(%)とした。
TG250℃ホールド性(%)=(100−変化重量%)/100×100
【0103】
−流動性−
以下の方法により、加工性の指標として流動性(MFR:g/10min)を測定した。JIS−K−7210(1976年)に従い、230℃にて5Nを負荷し、測定した。
【0104】
−金型汚染性−
以下の方法により金型汚染性の試験を行い、下記評価基準に従って判定した。
JIS−K7162(1994年)に準じたダンベル試験片を射出成形(日精樹脂製NEX−50)し、100ショット終了後の金型表面を目視と予め重量を測ったウエスでぬぐいその質量変化で評価を行った。
尚、評価基準は以下のとおりである。
○:目視およびウエス質量変化なし
×:目視で汚染性確認、もしくは、ウエス質量変化あり
【0105】
【表1】



【0106】
【表2】



【0107】
【表3】



【0108】
【表4】



【0109】
【表5】



【0110】
【表6】



【符号の説明】
【0111】
120a、120b フロントカバー
150、152 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の前記第1の有機化合物および1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である難燃剤と、
セルロース樹脂と、
を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記難燃剤の含有量が、前記セルロース樹脂100質量部に対して0.001質量部以上10質量部以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
スルホン酸基を有する1または複数種の第1の有機化合物の該スルホン酸基と、カチオン成分を有する1または複数種の第2の有機化合物の該カチオン成分と、がイオン結合することにより形成された前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とのイオンコンプレックスを含み、該イオンコンプレックスを形成する1または複数種の前記第1の有機化合物および1または複数種の前記第2の有機化合物からなる群から選択される少なくとも1種が高分子化合物である難燃剤と、セルロース樹脂と、を含む請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物を含有する樹脂成形体。
【請求項4】
前記難燃剤の含有量が、前記セルロース樹脂100質量部に対して0.001質量部以上10質量部以下である請求項3に記載の樹脂成形体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−229312(P2010−229312A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78988(P2009−78988)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】