説明

樹脂組成物、その製造方法および樹脂成形体

【課題】アクリル系樹脂が有する透明性を損なうことなく、優れた熱安定性を有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、50〜99質量%のアクリル系樹脂と、1〜50質量%の非晶性ポリアミド樹脂とからなる。アクリル系樹脂としては、好ましくは(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体または特定の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が用いられ、より好ましくはメタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂が用いられる。また、本発明の樹脂成形体は、上記樹脂組成物を成形して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、その製造方法および樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系樹脂は、優れた透明性、耐候性、表面強度などを有する。しかし、このアクリル系樹脂は、用途によっては耐熱性や熱安定性が低いという問題がある。一方、ポリアミド樹脂は、耐候性に劣るものの、優れた耐熱性や熱安定性を有する。
【0003】
そこで、アクリル系樹脂およびポリアミド樹脂が有する優れた特性を併せ持つ樹脂組成物の開発がなされている。
【0004】
特許文献1には、結晶性ポリアミド樹脂とポリメチルメタクリレートなどの非晶性樹脂とを含む植物系樹脂含有組成物が記載され、この植物系樹脂含有組成物は、成形加工性が向上することが記載されている。しかし、使用しているポリアミド樹脂が結晶性のため、非晶性樹脂の透明性を大幅に損なうという問題を有する。
【0005】
特許文献2には、非晶性樹脂に所定量の環状ポリフェニレンスルフィド化合物を配合した樹脂組成物が記載され、非晶性樹脂として非晶性ナイロン樹脂やポリ(メタ)アクリレート樹脂などが記載されている。しかし、この樹脂組成物は、環状ポリフェニレンスルフィド化合物を必須成分として含むものであり、さらに特許文献2は、特定の割合のアクリル系樹脂と非晶性ポリアミド樹脂とからなる樹脂組成物を記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/034905号
【特許文献2】特開2008−222996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、アクリル系樹脂が有する透明性を損なうことなく、優れた熱安定性を有する樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)50〜99質量%のアクリル系樹脂と、1〜50質量%の非晶性ポリアミド樹脂とからなる樹脂組成物。
(2)前記アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体または(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であって、
前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が、50〜99質量%の(メタ)アクリル酸エステルと1〜50質量%の(メタ)アクリル酸エステル以外の単量体とから得られる共重合体である、(1)に記載の樹脂組成物。
(3)前記アクリル系樹脂が、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂である、(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
(4)前記アクリル系樹脂の屈折率と前記非晶性ポリアミド樹脂の屈折率との差の絶対値が0.02以下である、(1)〜(3)のいずれかの項に記載の樹脂組成物。
(5)50〜99質量%のアクリル系樹脂と1〜50質量%の非晶性ポリアミド樹脂とからなる樹脂混合物を、180〜300℃の温度および10〜5000sec-1の剪断速度で溶融混練する工程を含む、(1)〜(4)のいずれかの項に記載の樹脂組成物の製造方法。
(6)上記(1)〜(4)のいずれかの項に記載の樹脂組成物を成形して得られる、樹脂成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、アクリル系樹脂が有する透明性を損なうことなく、優れた熱安定性を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、特定の割合のアクリル系樹脂と非晶性ポリアミド樹脂とからなる。
【0011】
(アクリル系樹脂)
本発明に用いられるアクリル系樹脂は、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単独重合体(すなわち、ポリ(メタ)アクリレート)、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体(例えば、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの共重合体など)、(メタ)アクリル酸エステル単量体を主成分とする共重合体などが挙げられる。なお、本明細書において、用語「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0012】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸と脂肪族(鎖式および環式)または芳香族の非置換アルコールとのエステルが挙げられる。例えば、エステル部分が1〜12個の炭素原子を有する鎖状アルキル、3〜12個の炭素原子を有する環状アルキル、または6〜12個の炭素原子を有するアリールである(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、具体的な化合物としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、メタクリル酸ヘプチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸n−ノニル、アクリル酸イソノニル、メタクリル酸n−ノニル、メタクリル酸イソノニル、アクリル酸デシル、メタクリル酸デシル、アクリル酸ウンデシル、メタクリル酸ウンデシル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの中でも、好ましくはメタクリル酸メチルである。
【0013】
さらに、(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸エステル以外の他の単量体としては、以下の化合物が挙げられる。これら他の単量体は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0014】
スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、α−クロロスレン、p−クロロスレン、p−メトキシスチレン、p−アミノスチレン、p−アセトキシスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム、α−ビニルナフタレン、1−ビニルナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2−ビニルフルオレン、2−ビニルピリジン、4−ビニルビリジンなどの芳香族ビニル化合物。
【0015】
アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−メトキシアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロメタクリロニトリル、α−メトキシメタクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどのシアン化ビニル化合物。
【0016】
ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル化合物。
【0017】
アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシエチルアクリルアミド、N−ブトキシエチルメタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−n−プロピオキシメチルアクリルアミド、N−n−プロピオキシメチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミドなどのエチレン性不飽和カルボン酸アミド化合物。
【0018】
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、無水フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸のようなエチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸などのエチレン性不飽和酸化合物。
【0019】
ビニルスルホン酸アルキル、イソプレンスルホン酸アルキルなどのエチレン性不飽和スルホン酸エステル化合物。
【0020】
アリルアルコール、メタアリルアルコール、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸アリル、カプロン酸メタアリル、ラウリン酸アリル、安息香酸アリル、アルキルスルホン酸ビニル、アルキルスルホン酸アリル、アリールスルホン酸ビニルなどのエチレン性不飽和アルコールおよびそのエステル化合物。
【0021】
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテルなどのエチレン性不飽和エーテル化合物。
【0022】
ビニルジメチルアミン、ビニルジエチルアミン、ビニルジフェニルアミン、アリルジメチルアミン、メタアリルジエチルアミンなどのエチレン性不飽和アミン化合物。
【0023】
ビニルトリエチルシラン、メチルビニルジクロロシラン、ジメチルアリルクロロシラン、ビニルトリクロロシランなどのエチレン性不飽和シラン化合物。
【0024】
塩化ビニル、塩化ビニリデン、1,2−ジクロロエチレン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、1,2−ジブロモエチレンなどのハロゲン化ビニル化合物。
【0025】
1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−ネオペンチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,2ジクロロ−1,3ブタジエン、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−シアノ−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、直鎖および側錯共役ヘキサジエンなどの脂肪族共役ジエン系化合物。
【0026】
これらのアクリル系樹脂の中でも、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体(例えば、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの共重合体)または(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(50〜99質量%の(メタ)アクリル酸エステルと1〜50質量%の(メタ)アクリル酸エステル以外の単量体とから得られる共重合体)が好ましく、特に、透明性の観点からメタクリル樹脂(50質量%以上のメタクリル酸メチルと50質量%以下のメタクリル酸メチル以外の単量体とから得られる共重合体)が好ましく、メタクリル酸メチルとスチレンとの共重合体樹脂(MS樹脂)がより好ましい。
【0027】
アクリル系樹脂は、上述の単量体を、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、注液重合法(キャスト重合法)などの重合方法に供することによって得られる。重合は、光照射や重合開始剤を用いて行われ、アゾ系開始剤(例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)など)、過酸化物系開始剤(ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなど)、有機過酸化物とアミン類とを組み合わせたレドックス系開始剤などの重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤は、アクリル樹脂を構成する単量体100質量部に対して、通常0.01〜1質量部、好ましくは0.01〜0.5質量部の割合で用いられる。さらに、分子量制御のための連鎖移動剤(メチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタンのような直鎖または分岐したアルキルメルカプタン化合物など)、架橋剤などを添加してもよい。
【0028】
(非晶性ポリアミド樹脂)
本発明の樹脂組成物は、非晶性ポリアミド樹脂を含む。非晶性ポリアミド樹脂は、透明性や表面光沢性を有するポリアミド樹脂であり、石油系および植物系に大別される。本発明に用いられる非晶性ポリアミド樹脂は、このような非晶性ポリアミド樹脂であれば、特に限定されないが、得られる樹脂組成物の熱安定性を考慮すると、石油系の非晶性ポリアミド樹脂が好ましく、環境面などを考慮すると、植物系の非晶性ポリアミド樹脂が好ましい。
【0029】
非晶性ポリアミド樹脂は、少なくとも1種のジアミンと少なくとも1種のジカルボン酸とを重縮合させることによって得られる。ジアミンとしては、例えば、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)プロパン、パラ−アミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、2,6−ビス(アミノメチル)ノルボルナンなどが挙げられる。これらの中でも、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンが好ましい。ジアミンは、必要に応じて2種以上を併用してもよい。ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、1,14−テトラデカンジカルボン酸が好ましい。ジカルボン酸は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0030】
非晶性ポリアミド樹脂は、市販されており、石油系非晶性ポリアミド樹脂としては、例えば、リルサン(登録商標)クレール(Rilsan Clear)G110、リルサン(登録商標)クレールG170、リルサン(登録商標)クレールG350(以上、アルケマ(Arkema)社製)などが挙げられる。植物系非晶性ポリアミド樹脂としては、例えば、リルサン(登録商標)クレールG830Rnew(アルケマ(Arkema)社製)などが挙げられる。非晶性ポリアミド樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、50〜99質量%のアクリル系樹脂と、1〜50質量%の非晶性ポリアミド樹脂とからなる。アクリル系樹脂は、好ましくは80〜99質量%、より好ましくは80〜95質量%である。また、非晶性ポリアミド樹脂は、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは5〜20質量%である。また、得られる樹脂組成物がより良好な透明性を有する点で、アクリル系樹脂の屈折率と非晶性ポリアミド樹脂の屈折率との差の絶対値は、0.02以下であることが好ましい。
【0032】
さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的に用いられる各種の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、耐候性向上のための紫外線吸収剤(ヒンダードアミン系化合物など)、変色や黄変防止のための酸化防止剤(フェノール系化合物、リン系化合物など)、帯電を防止する帯電防止剤(金属粉、酸化スズーアンチモン系導電剤、帯電防止性を有する界面活性剤など)、耐衝撃性付与のためのゴム状重合体、難燃性付与のための難燃剤(リン酸エステル、シリコーン、ハロゲン系化合物、無機化合物など)、着色剤などが挙げられる。また、得られる樹脂組成物の透明性を損なわない範囲で結晶性ポリアミド樹脂、半結晶性ポリアミド樹脂などを添加してもよい。
【0033】
ゴム状重合体としては、樹脂組成物とほぼ同等の屈折率を有するものが用いられ、アクリルゴム粒子が特に好ましい。アクリルゴム粒子は、アクリル酸エステルを主体とする弾性重合体からなる層(弾性重合体層)を有するものであり、弾性重合体のみからなる単層の粒子であってもよいし、弾性重合体層と硬質重合体からなる層(硬質重合体層)とによって構成される多層構造(例えば、2〜4層構造)の粒子であってもよい。アクリルゴム粒子における弾性重合体部は、好ましくは40〜800nmの平均粒子径を有する。
【0034】
ゴム状重合体としては、例えば、特開2011−137312号公報や特開2011−140774号公報などに記載のアクリルゴム粒子が挙げられる。ゴム状重合体は、透明樹脂を構成する単量体およびゴム状重合体の総量に対して、好ましくは0.1〜60質量%、より好ましくは5〜25質量%の割合で含有される。ゴム状重合体は、1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明に係る樹脂組成物の製造方法は、50〜99質量%のアクリル系樹脂と1〜50質量%の非晶性ポリアミド樹脂とからなる樹脂混合物を、180〜300℃の温度および10〜5000sec-1の剪断速度で溶融混練する工程を含む。樹脂混合物において、アクリル系樹脂は、好ましくは80〜99質量%、より好ましくは80〜95質量%であり、非晶性ポリアミド樹脂は、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0036】
50〜99質量%のアクリル系樹脂と1〜50質量%の非晶性ポリアミド樹脂とからなる樹脂混合物の溶融混練は、これらの樹脂の均一な混合物を得る点から、通常180〜300℃の温度、10〜5000sec-1の剪断速度で行われる。好ましくは、200〜280℃の温度、30〜500sec-1の剪断速度で行われる。
【0037】
溶融混練に用いる機器としては、通常の混合機や混練機を用いることができる。具体的には、一軸混練機、二軸混練機、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ドラムタンブラーなどが挙げられる。また、剪断速度を上記範囲内で大きくする場合には、高剪断加工装置などを使用してもよい。高剪断加工装置としては、例えば、(株)ニイガタマシンテクノ製の「NHSS2−28」などが市販されている。溶融混練は、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0038】
このようにして、透明性を損なうことなく優れた熱安定性を有する本発明の樹脂組成物を得ることができる。
【0039】
(樹脂成形体)
本発明の樹脂組成物は、所望の形状に加工され、透明性を損なうことなく、優れた熱安定性を有する樹脂成形体に加工される。このような樹脂成形体は、例えば、自動車部品、電気・電子部品、OA機器部品などとして有用である。本発明に係る樹脂組成物の成形は、上述の製造方法によって溶融混練された樹脂組成物を、その溶融混練機をそのまま使用して成形してもよい。また、得られた樹脂組成物をペレット状などにした後、射出成形機、油圧プレスなどの成形機を用いて、成形機内にて溶融成形してもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
アクリル系樹脂としてスミペックス(登録商標)MG(住友化学(株)製、メタクリル樹脂(屈折率1.49))を95質量%、および非晶性ポリアミド樹脂としてRilsan(登録商標) Clear G350(アルケマ(株)製、石油系非晶性ポリアミド樹脂(屈折率1.50))を5質量%の割合で、ドライブレンドした。次いで、ドライブレンドした混合物を、1軸押出機(商品名:「ラボプラストミル」、(株)東洋精機製作所製)を用いて、溶融混練した(温度:220〜250℃、回転数:70rpm、剪断速度:40sec-1)。混練物をストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターで切断してペレット状の樹脂組成物1を得た。
【0042】
得られた樹脂組成物1を、シントー式ASF型油圧プレス((株)神藤金属工業所製)を用いて200〜210℃でプレス成形し、板状成形体1(21cm×21cm×0.3cm)を得た。
【0043】
(実施例2)
スミペックスMGを90質量%およびRilsan Clear G350を10質量%の割合で用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で樹脂組成物2を得た。次いで、得られた樹脂組成物2を、実施例1と同様にして成形し、板状成形体2を得た。
【0044】
(実施例3)
アクリル系樹脂として、スミペックスMGの代わりにMS−800(新日鐵化学(株)製、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂(屈折率1.51))を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で樹脂組成物3を得た。次いで、得られた樹脂組成物3を、実施例1と同様にして成形し、板状成形体3を得た。
【0045】
(実施例4)
MS−800を90質量%およびRilsan Clear G350を10質量%の割合で用いたこと以外は、実施例3と同様の手順で樹脂組成物4を得た。次いで、得られた樹脂組成物4を、実施例3と同様にして成形し、板状成形体4を得た。
【0046】
(実施例5)
MS−800を80質量%およびRilsan Clear G350を20質量%の割合で用いたこと以外は、実施例3と同様の手順で樹脂組成物5を得た。次いで、得られた樹脂組成物5を、実施例3と同様にして成形し、板状成形体5を得た。
【0047】
(実施例6)
アクリル系樹脂として、スミペックスMGの代わりにスミペックスMHF(住友化学(株)製、メタクリル樹脂(屈折率1.49))を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で樹脂組成物6を得た。次いで、得られた樹脂組成物6を、実施例1と同様にして成形し、板状成形体6を得た。
【0048】
(実施例7)
スミペックスMHFを90質量%およびRilsan Clear G350を10質量%の割合で用いたこと以外は、実施例6と同様の手順で樹脂組成物7を得た。次いで、得られた樹脂組成物7を、実施例6と同様にして成形し、板状成形体7を得た。
【0049】
(実施例8)
非晶性ポリアミド樹脂として、Rilsan Clear G350の代わりにRilsan Clear G830Rnew(アルケマ(株)製、植物系非晶性ポリアミド樹脂(屈折率1.51))を用いたこと以外は、実施例6と同様の手順で樹脂組成物8を得た。次いで、得られた樹脂組成物8を、実施例6と同様にして成形し、板状成形体8を得た。
【0050】
(比較例1)
MS−800を20質量%およびRilsan Clear G350を80質量%の割合で用いたこと以外は、実施例3と同様の手順で樹脂組成物9を得た。次いで、得られた樹脂組成物9を、実施例3と同様にして成形し、板状成形体9を得た。
【0051】
(参考例1)
アクリル系樹脂であるスミペックスMGを、実施例1と同様にして成形し、板状成形体10を得た。
【0052】
(参考例2)
アクリル系樹脂であるMS−800を、実施例1と同様にして成形し、板状成形体11を得た。
【0053】
(参考例3)
アクリル系樹脂であるスミペックスMHFを、実施例1と同様にして成形し、板状成形体12を得た。
【0054】
(参考例4)
非晶性ポリアミド樹脂であるRilsan Clear G350を、実施例1と同様にして成形し、板状成形体13を得た。
【0055】
(参考例5)
非晶性ポリアミド樹脂であるRilsan Clear G830Rnewを、実施例1と同様にして成形し、板状成形体14を得た。
【0056】
(物性評価)
上記実施例および比較例で得られた樹脂組成物1〜9、ならびに実施例および比較例で用いたアクリル系樹脂および非晶性ポリアミド樹脂について、(1)熱特性を測定した。また、上記実施例、比較例および参考例で得られた板状成形体1〜15について、(2)熱変形温度および(3)全光線透過率(Tt)を測定した。
【0057】
(1)熱特性
TG−DTA装置(「TG/DTA6300」、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を用いて、窒素流量200mL/分、昇温速度2℃/分で30℃から520℃まで樹脂組成物を昇温しながら重量損失を測定した。損失率が5質量%のときの温度を「5質量%減少温度」とした。この温度が高いほど、熱安定性が高いといえる。結果を表1に示す。なお、表1中の「理論値」とは、以下の式(I)〜(III)によって求められる加成性が成り立つ場合の5質量%減少温度Tのことである。
【0058】
【数1】

【0059】
A:アクリル系樹脂の質量分率(質量%)。
B:非晶性ポリアミド樹脂の質量分率(質量%)。
A:アクリル系樹脂の密度(g/cm3)。
B:非晶性ポリアミド樹脂の密度(g/cm3)。
A:アクリル系樹脂の体積分率(%)。
B:非晶性ポリアミド樹脂の体積分率(%)。
A:測定により得られるアクリル系樹脂の5質量%減少温度(℃)。
B:測定により得られる非晶性ポリアミド樹脂の5質量%減少温度(℃)。
T:混合物の加成性が成り立つ場合の5質量%減少温度(℃)。
【0060】
(2)熱変形温度
ヒートデストーションテスター((株)安田精機製作所製)を用い、ビカット軟化温度(VST)をJIS K7206のB50法に準じて測定し、荷重たわみ温度(DTUL)をJIS K7191に準じて測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(3)全光線透過率
HR−100((株)村上色彩技術研究所製)を用い、全光線透過率をJIS K7361−1に準じて測定した。この数値が大きいほど、光線の透過が大きい、すなわち透明性が高いことを示す。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、実施例1〜8で得られた樹脂組成物1〜8は、高い透明性を有し、5質量%減少温度の値が、アクリル系樹脂と非晶性ポリアミド樹脂との混合比による加成性から想定される理論値以上の値を示しており、加成性から想定される以上の熱安定性を有する樹脂組成物となっていることがわかる。一方、比較例9で得られた板状成形体9は、56.6%の全光線透過率しか有しておらず、透明性が低いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50〜99質量%のアクリル系樹脂と、1〜50質量%の非晶性ポリアミド樹脂とからなる樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合体または(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であって、
前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が、50〜99質量%の(メタ)アクリル酸エステルと1〜50質量%の(メタ)アクリル酸エステル以外の単量体とから得られる共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂が、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂の屈折率と前記非晶性ポリアミド樹脂の屈折率との差の絶対値が0.02以下である、請求項1〜3のいずれかの項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
50〜99質量%のアクリル系樹脂と1〜50質量%の非晶性ポリアミド樹脂とからなる樹脂混合物を、180〜300℃の温度および10〜5000sec-1の剪断速度で溶融混練する工程を含む、請求項1〜4のいずれかの項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかの項に記載の樹脂組成物を成形して得られる、樹脂成形体。

【公開番号】特開2013−91675(P2013−91675A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232626(P2011−232626)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】