説明

樹脂組成物、合成樹脂シート、合成樹脂成形品及び合成樹脂積層体

【課題】成形加工が容易であり、引張弾性率などの機械的強度、表面平滑性などの外観及び寸法安定性に優れた合成樹脂成形品を得ることができる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】合成樹脂と、グラフェンシートの積層体であって積層数が150層以下であり且つアスペクト比が20以上である薄片化黒鉛とを含有する樹脂組成物。該樹脂組成物は優れた成形性を有しており、汎用の成形方法によって所望形状の合成樹脂成形品を成形することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、合成樹脂シート、合成樹脂成形品及び合成樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な用途において黒鉛粒子を含む樹脂組成物が検討されている。特許文献1には、低い熱膨張性、高強度、高剛性、及び靭性を有する樹脂組成物として、樹脂10〜60重量%、及び粒径が20〜900μmの黒鉛40〜90重量%(両者の合計は100重量%)からなる樹脂組成物が提案されている。
【0003】
そして、特許文献1では、黒鉛の形状が、板状、薄片状又は鱗片状であることが好ましいことが記載され、更に、黒鉛が薄片状又は板状のであると、機械的特性、靱性、寸法安定性が高くなることも記載されている。又、特許文献1の樹脂組成物は、光学機器や電子機器のハウジングに特に好適であることが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された樹脂組成物は、黒鉛の含有量が多いために成形性が不充分であり、この樹脂組成物を用いて得られた成形品はその表面平滑性が低かったり或いは外部からの衝撃に弱いという問題がある。
【0005】
特許文献2には、ポリアミド樹脂(A)と、黒鉛系充填材(B)と、アラミド繊維(C)とを含有し、ポリアミド樹脂(A)と黒鉛系充填材(B)との質量比(A/B)が15/85〜60/40であり、アラミド繊維(C)の含有量が、ポリアミド樹脂(A)と黒鉛系充填材(B)との合計100質量部に対して、3〜20質量部であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物が記載されている。そして、特許文献2には、黒鉛系充填材(B)が、平均粒径1〜300μmの鱗片状黒鉛および/または平均繊維径1〜30μm、平均繊維長1〜20mmの黒鉛化炭素繊維であることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示された熱導電性樹脂組成物は繊維状充填剤を用いているために、この熱導電性樹脂組成物からなる成形品はその表面性が著しく低いという問題点を有する。
【0007】
又、近年、特に金属に代わる材料として、成形性に優れ、得られる成形品の表面平滑性に優れ且つ弾性率が高く、線膨張係数の低い樹脂組成物が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−033290号公報
【特許文献2】特開2009−292889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、成形加工が容易であり、引張弾性率などの機械的強度、表面平滑性などの外観及び寸法安定性に優れた合成樹脂成形品を得ることができる樹脂組成物、並びに、これを用いた合成樹脂成形品及び合成樹脂積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、合成樹脂と、グラフェンシートの積層体であって積層数が150層以下であり且つアスペクト比が20以上である薄片化黒鉛とを含有することを特徴とする。
【0011】
上記合成樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の何れであってもよいが、合成樹脂成形品の製造が容易であるという点で熱可塑性樹脂が好ましい。
【0012】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ABS樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、(メタ)アクリル系樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、成形性に優れ且つ得られる合成樹脂成形品の耐候性に優れていることから、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、成形性に優れ且つ合成樹脂成形品の耐熱性に優れているので、ポリアミド系樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、成形性に優れ且つ得られる合成繊維の耐熱性、耐候性及び耐薬品性に優れているので、ポリアクリロニトリルが好ましい。熱可塑性樹脂としては、成形性に優れ且つ合成樹脂成形品の透明性に優れているので、(メタ)アクリル系樹脂が好ましく、メタクリル系樹脂がより好ましい。なお、本発明において、(メタ)アクリルとは、メタクリル又はアクリルを意味する。
【0013】
ポリオレフィン系樹脂は、ラジカル重合性二重結合を有するオレフィン系単量体を重合してなるものである。オレフィン系単量体としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィンや、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンなどが挙げられる。オレフィン系単量体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0014】
ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン単独重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン系樹脂、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ブテン単独重合体、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンの単独重合体又は共重合体などが挙げられ、樹脂組成物を用いて得られる合成樹脂シートや合成樹脂積層体などの合成樹脂成形品(以下、総称して単に「合成樹脂成形品」という)の弾性率及び破断強度が優れていることから、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、プロピレン単独重合体がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。ポリプロピレン系樹脂は、例えば、プライムポリマー社から商品名「J−721GR」にて市販されている。なお、α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどが挙げられる。
【0015】
ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、5000〜500万が好ましく、2万〜30万がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.1〜80が好ましく、1.5〜40がより好ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)によって測定することができ、例えば、WATERS社から市販されている高温GPC(150CV)を用いて測定することができる。
【0016】
ポリアミド系樹脂としては、主鎖の繰返し単位にアミド結合を含有するものであれば、特に限定されず、例えば、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,12、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4,6などが挙げられる。ポリアミド系樹脂としては、単量体成分として芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸などを含む低結晶性のポリアミドでもよい。
【0017】
(メタ)アクリル系樹脂としては、特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル単独重合体、メタクリル酸メチルを含むメタクリル酸エステル同士の共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−α−メチルスチレン共重合体、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体などが挙げられる。メタクリル酸メチルと共重合するメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられる。
【0018】
本発明の樹脂組成物には薄片化黒鉛が含有されている。薄片化黒鉛は、複数のグラフェンシートの積層体である。薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離処理して得られるものであり、原料となる黒鉛よりも厚みの薄いグラフェンシートの積層体、即ち、原料となる黒鉛のグラフェンシートの積層数よりも少ない積層数を有するグラフェンシートの積層体である。本発明において、グラフェンシートとは炭素六角網平面からなる1枚のシート状物をいう。
【0019】
本発明の樹脂組成物に含まれている薄片化黒鉛は、グラフェンシートが積層されてなり、グラフェンシートの積層数が150層以下で且つアスペクト比が20以上である。薄片化黒鉛のグラフェンシートの積層数は150層以下に限定され、60層以下が好ましく、30層以下がより好ましく、10層以下が特に好ましく、5層以下が最も好ましい。薄片化黒鉛のグラフェンシートの積層数を150層以下に限定することによって、薄片化黒鉛のアスペクト比が大きくなりやすく、合成樹脂中に含まれている薄片化黒鉛の重量が同等である場合、薄片化黒鉛と合成樹脂との接触面積が増大し且つ薄片化黒鉛同士の接触面積も増大するので、樹脂組成物を用いて得られる合成樹脂成形品は、その剛性に優れ且つ線膨張係数も低いと共に、導電性付与などの改質効果もより大きく得ることができる。なお、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができ、各薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数の相加平均値をいう。
【0020】
更に、薄片化黒鉛のアスペクト比は20以上に限定され、100以上が好ましく、200以上がより好ましいが、高すぎると、薄片化黒鉛の割れが発生することがあるので、5000以下が好ましい。なお、薄片化黒鉛のアスペクト比は、各薄片化黒鉛についてグラフェンシートの面方向における最大寸法を厚みで除したアスペクト比を算出し、各薄片化黒鉛のアスペクト比の相加平均値をいう。
【0021】
ここで、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの面方向における最大寸法とは、薄片化黒鉛の面積が最も大きくなる方向から見た時の薄片化黒鉛の最大寸法をいう。薄片化黒鉛の厚みとは、薄片化黒鉛の面積が最も大きくなる方向から見た時の薄片化黒鉛の表面に対して直交する方向の薄片化黒鉛の最大寸法をいう。
【0022】
なお、薄片化黒鉛にてグラフェンシートの面方向における最大寸法は、FE−SEMを用いて測定することができる。又、薄片化黒鉛の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)又はFE−SEMを用いて測定することができる。
【0023】
薄片化黒鉛は、黒鉛をグラフェンシート間において剥離することで得ることができる。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、高配向性熱分解黒鉛などが挙げられる。
【0024】
黒鉛をグラフェンシート間において剥離する方法としては、特に限定されず、例えば、(1)特開2002−053313号に記載のようにHummers−Offeman法(W.S.Hummers et al.,J.Am.Chem.Soc.,80,1339(1958)を用いて黒鉛をグラフェンシート間において剥離する方法、(2)米国特許No.2798878(1957))に記載の通り、黒鉛から酸化黒鉛を作製した後、酸化黒鉛を精製によってグラフェンシート間において剥離する方法、(3)特表2009−511415号公報に記載のようにして黒鉛から酸化黒鉛層間化合物を作製し、この酸化黒鉛層間化合物を急速加熱することによって酸化黒鉛層間化合物をそのグラフェンシート間において剥離する方法、(4)市販の熱膨張性黒鉛を加熱して膨張させ、この膨張黒鉛に超音波を照射してグラフェンシート間において剥離する方法、(5)黒鉛を超臨界流体や亜臨界流体などの高圧流体に曝すことによって黒鉛をそのグラフェンシート間において剥離する方法などが挙げられる。なお、熱膨張性黒鉛は、例えば、エアウォーター社から商品名「LTE−U」にて市販されている。
【0025】
薄片化黒鉛のアスペクト比を上述の範囲に調整する方法としては、黒鉛をグラフェンシート間において剥離する方法において、各種条件を適宜調整すればよく、例えば、上記(4)の方法では、膨張黒鉛に照射する超音波の音圧や照射時間などを調整すればよい。
【0026】
具体的には、膨張黒鉛に超音波を照射する際の超音波の音圧は、小さいと、薄片化黒鉛のグラフェンシート間における剥離が不十分となることがあり、大きいと、グラフェンシートが粉砕されて、薄片化黒鉛のグラフェンシートの面方向における最大寸法が短くなることがあるので、20〜700kPaが好ましく、70〜500kPaがより好ましい。
【0027】
膨張黒鉛に超音波を照射する際の超音波の照射時間は、短いと、薄片化黒鉛のグラフェンシート間における剥離が不十分となることがあり、長いと、グラフェンシートが粉砕されて、薄片化黒鉛のグラフェンシートの面方向における最大寸法が短くなることがあるので、3〜90分が好ましく、5〜30分がより好ましい。
【0028】
上述の要領で得られた薄片化黒鉛からグラフェンシートの積層数及びアスペクト比を満たす薄片化黒鉛を抽出して用いてもよい。薄片化黒鉛からグラフェンシートの積層数及びアスペクト比を満たす薄片化黒鉛を抽出する方法としては、フィルターなどを用いて薄片化黒鉛を分級した上で、この分級された薄片化黒鉛を遠心分離によって更に抽出すればよい。
【0029】
薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの面方向の最大寸法は、小さいと、厚みが薄くても上述のアスペクト比が得られにくくなり、大きいと、樹脂組成物を用いて得られる合成樹脂成形品の表面性が低下することがあるので、1〜100μmが好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物中における薄片化黒鉛の含有量は、少ないと、樹脂組成物を用いて得られる合成樹脂成形品の剛性が低下し或いは線膨張係数が大きくなり、又は、合成樹脂成形品への導電性の改善効果が低下することがあり、多いと、樹脂組成物を用いて得られる合成樹脂成形品の靱性や表面性が低下し、或いは、樹脂組成物の成形性が低下することがあるので、合成樹脂100重量部に対して0.5〜30重量部が好ましい。
【0031】
なお、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、分散剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線防止剤などの各種安定剤、滑剤、離型剤、核剤、発泡剤、架橋剤、着色剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0032】
本発明の樹脂組成物を調製する方法としては、特に限定されず、種々の公知の方法を用いることができ、例えば、合成樹脂と薄片化黒鉛とを汎用の混合機に供給して均一に混合する方法などが挙げられる。なお、薄片化黒鉛をマスターバッチとして混合機に供給してもよい。混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、プラストミル、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールなどが挙げられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物は優れた成形性を有しており、汎用の成形方法を用いて合成樹脂シートなどの合成樹脂成形品を得ることができる。なお、成形方法としては、例えば、プレス成形、射出成形、押出成形などが挙げられる。
【0034】
本発明の樹脂組成物を用いて合成樹脂シートを成形した場合、合成樹脂シートについて、JIS K7161に準拠して測定した23℃における引張弾性率は、低いと、合成樹脂シートの剛性が不足するので、2.5GPa以上が好ましく、3GPa以上がより好ましく、3.5GPa以上が特に好ましく、4GPa以上が最も好ましい。
【0035】
上記合成樹脂シートについて、JIS K7197に準拠して測定された昇温速度5℃/分における線膨張係数は、高いと、雰囲気温度によっては合成樹脂シートに変形が生じる虞れがあるので、7.5×10-5/K以下が好ましく、7.0×10-5/K以下がより好ましく、6.5×10-5/K以下が特に好ましく、6.0×10-5/K以下が最も好ましい。
【0036】
そして、合成樹脂シートについて、JIS K7161に準拠して測定した23℃における引張弾性率が2.5GPa以上で且つJIS K7197に準拠して測定された昇温速度5℃/分における線膨張係数が7.5×10-5/K以下である場合には、金属材料と代替することができ好ましい。
【0037】
又、本発明の樹脂組成物を用いて合成樹脂積層体を作製することもできる。具体的には、複数層の合成樹脂層が積層一体化され且つ合成樹脂層のうちの少なくとも一層又は複数層が上記樹脂組成物から構成されてなる合成樹脂積層体が挙げられる。上記樹脂組成物から構成されてなる合成樹脂層は非発泡であることが好ましい。なお、合成樹脂層は、これを構成している合成樹脂、薄片化黒鉛又はその他の成分の何れかにおいて種類又は含有量が異なる場合には、別々の合成樹脂層であるとする。
【0038】
更に、複数層の合成樹脂層が積層一体化され、合成樹脂層として、合成樹脂を含み且つグラフェンシートの積層体である薄片化黒鉛を含まない第一合成樹脂層と、合成樹脂と、グラフェンシートの積層体であって上記グラフェンシートの積層数が150層以下であり且つアスペクト比が20以上である薄片化黒鉛とを含有する上記樹脂組成物からなる第二合成樹脂層とを含有してなる合成樹脂積層体であってもよい。第一合成樹脂層は発泡していても非発泡であってもよいが発泡していることが好ましい。第二合成樹脂層は非発泡であることが好ましい。
【0039】
又、第一合成樹脂層の少なくとも一方の面、即ち、第一合成樹脂層の片面又は両面に、合成樹脂と、グラフェンシートの積層体であって上記グラフェンシートの積層数が150層以下であり且つアスペクト比が20以上である薄片化黒鉛とを含有する上記樹脂組成物からなる第二合成樹脂層が積層一体化されている合成樹脂積層体であってもよい。
【0040】
なお、第一合成樹脂層が発泡している場合には、第一合成樹脂層として、例えば、積水化学工業社から商品名「ソフトロンSP」にて市販されているポリプロピレン系樹脂発泡シートを用いることができる。
【0041】
上記合成樹脂積層体において第一合成樹脂層には薄片化黒鉛が含有されていない。これは、合成樹脂積層体は、特定の薄片化黒鉛を含有する第二合成樹脂層によって、優れた剛性及び低い線膨張係数を付与されている一方、第一合成樹脂層に薄片化黒鉛を含有させないことによって優れた軽量性が付与されており、優れた軽量性を有しつつ、優れた剛性及び寸法安定性を有している。上記第二合成樹脂層を構成している樹脂組成物は、上述の樹脂組成物と同様であるのでその説明を省略する。
【0042】
第一合成樹脂層を構成している合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられ、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂が好ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂としては上述と同様の樹脂が用いられる。ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド11などが挙げられる。第一合成樹脂層を構成している合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0043】
又、第二合成樹脂層における薄片化黒鉛の含有量は、少ないと、合成樹脂積層体の剛性が低下し或いは線膨張係数が大きくなり、又は、合成樹脂積層体の導電性の改善効果が低下することがあり、多いと、合成樹脂積層体の靱性や表面性が低下し、或いは、合成樹脂積層体の成形性が低下することがあるので、合成樹脂100重量部に対して0.5〜30重量部が好ましい。
【0044】
上記合成樹脂積層体において、合成樹脂層の形態は、特に限定されず、例えば、シート、不織布、織布、編布、網状体などが挙げられる。第二合成樹脂層は合成樹脂シートが好ましい。
【0045】
合成樹脂層が不織布、織布又は編布である場合には、合成樹脂層を構成している合成樹脂又は樹脂組成物からなる繊維から形成された、不織布、織布又は編布が合成樹脂層として用いられる。
【0046】
又、合成樹脂層が網状体である場合には、例えば、合成樹脂層を構成している合成樹脂又は樹脂組成物からなるフラットヤーンを用いて形成された網状体が用いられる。
【0047】
フラットヤーンを用いて形成された網状体1としては、例えば、図1又は図2に示したように、フラットヤーン1a、1a・・・を多数本、所定間隔毎に並設してなるフラットヤーン列1Aと、このフラットヤーン列1Aのフラットヤーン1aに斜行又は直交する方向に、多数のフラットヤーン1b、1b・・・を所定間隔毎に並設してなるフラットヤーン列1Bとからなり、これらのフラットヤーン列1A、1Bのフラットヤーン1a、1bの交差部を熱融着や接着剤などの公知の手段でもって一体化することにより多数の通孔1cが設けられてなるものや、このようにして得られた網状体の一面に、図3又は図4に示すように、多数本のフラットヤーン1d、1d・・・を小間隔ごとに並設してなるフラットヤーン列1Dを、網状体を形成している上記2列のフラットヤーン列1A、1Bに斜行する方向に重ね合わせ、フラットヤーン列1A(1B)のフラットヤーン1a(1b)と、フラットヤーン列1Dのフラットヤーン1dとの交差部を接着剤或いは熱融着により一体化させて多数の通孔1cを設けてなるように形成してなる網状体を挙げることができる。
【0048】
フラットヤーンとしては、未延伸の合成樹脂フィルムを所定幅毎に切断してなる帯状体をその融点以下、好ましくは融点未満の適当な温度にて長さ方向に延伸してなるものや、一軸延伸合成樹脂フィルムをその延伸方向に直交する方向に所定幅に切断してなるものなどが挙げられる。
【0049】
又、上記網状体1の他に、図5に示したような網状体2であってもよい。具体的には、この網状体2は、多数の太幅網部2a、2a・・・を所定間隔毎に並設してなる太幅網部列2Aと、互いに隣接する太幅網部2a、2a同士を該太幅網部2a、2aに対して斜行した状態に連結している細幅網部2b、2b・・・を多数、太幅網部2a、2a・・・に交差する方向(太幅網部2aの長さ方向)に所定間隔毎に並設してなる細幅網部列2Bとからなり、太幅網部2aと細幅網部2bとで囲まれた部分によって通孔2Cが形成されてなる網状体を2枚、第一網状体21、第二網状体22とし、これら第一、第二網状体21、22をそれらの太幅網部2a、2a同士が互いに直交又は斜行した状態に積層一体化されてなる。
【0050】
上記網状体2の製造方法としては、図6及び図7に示したように、一軸延伸合成樹脂フィルム4、4を二枚用意し、各一軸延伸合成樹脂フィルム4に一定長さのスリット4a、4a・・・を多数本、その長さ方向を延伸方向に合致させ且つ延伸方向に隣接するスリット4a、4a同士を互いに一部が重なり合った状態に形成してスリット列4Aを形成し、このスリット列4Aを延伸方向に直交する方向に所定間隔毎に形成する。なお、スリット4a、4a・・・は、一のスリット4aに注目した時、スリット4aの一端側にて重なり合っているスリット4a’と、スリット4aの他端側にて重なり合っているスリット4a”とは、スリット4aを挟んで互いに反対側となるように形成されている。
【0051】
次に、各一軸延伸熱可塑性樹脂フィルム4をその延伸方向に直交する方向(幅方向)に引っ張ってスリット4a、4a・・・をその幅方向に拡張した状態として、スリット列4A、4A間のフィルム部分を太幅網部2aとし、スリット4a、4a間のフィルム部分を細幅網部2bとした第一、第二網状体21、22を形成し、これらの第一、第二網状体21、22の太幅網部2a、2a同士が互いに斜行又は直交した状態に重ね合わせて、第一、第二網状体21、22同士を任意の箇所にて熱融着又は接着剤を介して積層一体化させることによって網状体2を製造することができる。
【0052】
更に、上記網状体3としては、図8に示すように、フラットヤーンを経糸31及び緯糸32として平織りし、経糸31と緯糸32との交差部を接着剤或いは熱融着により一体化させると共に、これらの経糸31と緯糸32とで囲まれた隙間によって多数の通孔33、33・・・を設けてなる網状体や、このようにして得られた網状体の一面に、図9に示すように、網状体の経糸31及び緯糸32と斜行する方向に、多数本のフラットヤーン34a、34a・・を小間隔ごとに並設してなるフラットヤーン列34を重ね合わせ、網状体の経糸31及び緯糸32と、重ね合わせたフラットヤーン列34のフラットヤーン34a、34a・・・との交差部を接着剤或いは熱融着により一体化させて形成した多数の通孔を設けてなる網状体が挙げられる。
【0053】
そして、上記合成樹脂積層体において、第一合成樹脂層の合計厚みT1と第二合成樹脂層の合計厚みT2との比(T1/T2)は、小さいと、合成樹脂積層体の成形性が低下することがあり、大きいと、合成樹脂積層体の機械的強度が低下することがあるので、0.5〜10が好ましく、0.5〜7がより好ましく、0.5〜5が特に好ましい。なお、各合成樹脂層の厚みは、合成樹脂層中において最も厚い部分の厚みをいう。
【0054】
更に、上記合成樹脂積層体の23℃における見かけ曲げ弾性率は、小さいと、合成樹脂積層体の機械的強度が低下することがあるので、2.5GPa以上が好ましく、3.0GPa以上がより好ましいが、大きいと、合成樹脂積層体の成形性が低下することがあるので、2.5〜8.5GPaが好ましく、3.0〜8.5GPaがより好ましい。なお、合成樹脂積層体の見かけ曲げ弾性率は、JIS K7161に規定された曲げ試験に基づいて測定された値をいう。
【0055】
上記合成樹脂積層体の製造方法としては、例えば、上記樹脂組成物から汎用の成形方法を用いて合成樹脂シートを作製する一方、合成樹脂シートを一枚又は複数枚用意し、樹脂組成物からなる合成樹脂シートと、その他の一枚又は複数枚の合成樹脂シートとを汎用の要領で積層一体化させる方法、第一合成樹脂層を構成する合成樹脂シート、不織布、織布又は網状体の片面又は両面に、第二合成樹脂層を構成する合成樹脂シート、不織布、織布又は網状体を積層一体化させる方法などが挙げられる。なお、互いに隣接する合成樹脂層同士の一体化は、互いに隣接する合成樹脂層同士の熱融着によっても、或いは、合成樹脂層間に接着剤や粘着剤を介在させてもよい。
【0056】
このようにして得られる合成樹脂積層体は、その合成樹脂層のうちの少なくとも一層に樹脂組成物からなる合成樹脂層を含んでいるので、高い引張弾性率及び低い線膨張係数を有している。
【0057】
なお、合成樹脂積層体中には第一合成樹脂層及び第二合成樹脂層以外の合成樹脂層が含まれていてもよい。第一合成樹脂層及び第二合成樹脂層以外の合成樹脂層としては、合成樹脂と、グラフェンシートの積層体であって上記グラフェンシートの積層数が150層以下であり且つアスペクト比が20以上である薄片化黒鉛以外の薄片化黒鉛を含有している合成樹脂層が挙げられる。
【0058】
第一合成樹脂層及び第二合成樹脂層を除いた合成樹脂層を構成している合成樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン単独重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン系樹脂、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ブテン単独重合体、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンの単独重合体又は共重合体などが挙げられ、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、上述のように優れた成形性を有しており、この樹脂組成物を用いて得られた合成樹脂成形品は優れた機械的強度及び熱に対する寸法安定性に優れている。従って、合成樹脂成形品は、各種電子部品等のハウジング材、建材用パネル、自動車内装材、自動車用外板などに好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の樹脂組成物は、上述の如き構成を有しているので、優れた成形性を有しており、汎用の成形方法によって所望形状の合成樹脂成形品を成形することができる。得られた合成樹脂成形品は、合成樹脂中に所定の薄片化黒鉛が含有されていることから、機械的強度に優れていると共に引張弾性率が高く且つ線膨張係数が低いので、金属材料の代替として様々な用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】網状体を示した平面図である。
【図2】網状体の他の一例を示した平面図である。
【図3】網状体の他の一例を示した平面図である。
【図4】網状体の他の一例を示した平面図である。
【図5】網状体の他の一例を示した平面図である。
【図6】図5の網状体の分解斜視図である。
【図7】図5の網状体を構成している一軸延伸合成樹脂フィルムを示した斜視図である。
【図8】網状体の他の一例を示した平面図である。
【図9】網状体の他の一例を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0063】
(薄片化黒鉛の作製)
熱膨張性黒鉛(エア・ウォーター・ケミカル社製 商品名「LTE−U」、80メッシュ透過率:80%以上、膨張開始温度:200℃)を800℃雰囲気下で加熱膨張させて膨張黒鉛を作製した。この膨張黒鉛に超音波を照射することによって膨張黒鉛をそのグラフェンシート間において剥離して薄片化黒鉛を得た。なお、膨張黒鉛への超音波の照射条件を変化させることによって、グラフェンシートの積層数、アスペクト比及びグラフェンシートの面方向における最大寸法が異なる薄片化黒鉛を得た。
【0064】
(実施例1)
熱膨張性黒鉛(エア・ウォーター・ケミカル社製 商品名「LTE−U」、80メッシュ透過率:80%以上、膨張開始温度:200℃)を800℃雰囲気下で加熱膨張させて膨張黒鉛を作製した。この膨張黒鉛をエタノール中に分散させ、膨張黒鉛に超音波を600W、25kHz、音圧300kPaの条件下にて30分間に亘って照射することによって膨張黒鉛をそのグラフェンシート間において剥離して薄片化黒鉛を得た。
【0065】
孔サイズが100μm、50μm、20μm、10μmのフィルターをそれぞれ用意し、薄片化黒鉛を孔サイズが大きいフィルター(何れのフィルターもADVANTEC社製)から順に用いて分級した後に乾燥させて、分級後の薄片化黒鉛を得た。得られた薄片化黒鉛は、その積層数が120層、アスペクト比が90であった。
【0066】
ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:11×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:3.5μm、グラフェンシートの積層数:120層、アスペクト比:90)30重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することによって厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における引張弾性率が4.2GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が5.8×10-5/Kであった。
【0067】
(実施例2)
膨張黒鉛に超音波を600W、50kHz、音圧300kPaの条件下にて30分間に亘って照射したこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛を作製し、この薄片化黒鉛を実施例1と同様にして分級した。得られた薄片化黒鉛は、その積層数が60層、アスペクト比が125であった。
【0068】
ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:11×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:2.5μm、グラフェンシートの積層数:60層、アスペクト比:125)30重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することで厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における引張弾性率が6.0GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が5.0×10-5/Kであった。
【0069】
(実施例3)
膨張黒鉛に超音波を600W、100kHz、音圧300kPaの条件下にて30分間に亘って照射したこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛を作製し、この薄片化黒鉛を実施例1と同様にして分級した。得られた薄片化黒鉛は、その積層数が30層、アスペクト比が150であった。
【0070】
ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:11×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:1.5μm、グラフェンシートの積層数:30層、アスペクト比:150)30重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することで厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における引張弾性率が7.2GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が4.7×10-5/Kであった。
【0071】
(実施例4)
実施例1と同様にして薄片化黒鉛を得た。ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:11×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:3.5μm、グラフェンシートの積層数:120層、アスペクト比:90)20重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することで厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における引張弾性率が4.0GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が6.1×10-5/Kであった。
【0072】
(実施例5)
実施例1と同様にして薄片化黒鉛を得た。ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:11×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:3.5μm、グラフェンシートの積層数:120層、アスペクト比:90)10重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することで厚さ1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における引張弾性率が3.2GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が6.5×10-5/Kであった。
【0073】
(実施例6)
実施例1と同様にして薄片化黒鉛を得た。ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:11×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:3.5μm、グラフェンシートの積層数:120層、アスペクト比:90)5重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することで厚さ1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における引張弾性率が2.8GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が6.9×10-5/Kであった。
【0074】
(実施例7)
厚みが3mmのポリプロピレン系樹脂発泡シート(積水化学工業社製 商品名「ソフトロンSP」)の両面に、実施例3で得られた合成樹脂シートを積層一体化して合成樹脂積層体を得た。なお、ポリプロピレン系樹脂発泡シートと合成樹脂シートとは、ポリプロピレン系樹脂発泡シートを構成しているポリプロピレン系樹脂と、合成樹脂シートを構成しているポリプロピレン系樹脂との熱融着によって一体化していた。
【0075】
得られた合成樹脂積層体は、その密度が500kg/m3と非常に小さいにあるにもかかわらず、JIS K7161に準拠して測定された23℃における見かけ曲げ弾性率が6.4GPaと高剛性であり、JIS K7197に準拠して測定された昇温速度5℃/分における線膨張係数が4.7×10-5/Kと寸法安定性にも優れ、又、表面平滑性にも優れており、金属板の代替として使用可能な軽量樹脂板としての性能を有していた。
【0076】
(実施例8)
黒鉛単結晶粉末2.5gを濃硫酸115ミリリットルに供給して10℃の水浴にて冷却しながら撹拌した。次に、濃硫酸に過マンガン酸カリウム15gを徐々に加えながら濃硫酸を攪拌し、35℃で30分に亘って反応させた。
【0077】
次に、濃硫酸に水230gを徐々に加えて98℃で15分間に亘って反応させた。しかる後、濃硫酸に水700gと30重量%の過酸化水素水45gを加えて反応を停止させた。得られた酸化黒鉛を14000rpmの回転速度にて30分間に亘って遠心分離した後、酸化黒鉛を5重量%の希塩酸及び水を用いて充分に洗浄した後に乾燥させた。得られた酸化黒鉛を2mg/ミリリットルの量にて水に分散させた後、酸化黒鉛に超音波洗浄機を用いて45kHz、600W、音圧300kPaの条件下にて超音波を15分間に亘って照射して、酸化黒鉛をそのグラフェンシート間において剥離して薄片化し、グラフェンシートが酸化されてなる薄片化黒鉛を得た。得られた薄片化黒鉛にヒドラジンを添加して10分間に亘って還元処理を行って薄片化黒鉛を還元した。孔サイズが100μm、50μm、20μm、10μmのフィルターをそれぞれ用意し、薄片化黒鉛を孔サイズが大きいフィルター(何れのフィルターもADVANTEC社製)から順に用いて分級した後に乾燥させて、分級後の薄片化黒鉛を得た。得られた薄片化黒鉛は、その積層数が20層、アスペクト比が300であった。
【0078】
ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:11×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:2.0μm、グラフェンの積層数:20層、アスペクト比:300)5重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することによって厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における引張弾性率が5.8GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が5.8×10-5/Kであった。
【0079】
(実施例9)
酸化黒鉛に超音波を30分に亘って照射したこと以外は実施例8と同様にして薄片化黒鉛を得た。得られた薄片化黒鉛は、その積層数が10層、アスペクト比が450であった。
【0080】
ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:11×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:1.5μm、グラフェンの積層数:10層、アスペクト比:450)5重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することによって厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における引張弾性率が7.5GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が3.4×10-5/Kであった。
【0081】
(実施例10)
実施例8と同様にして薄片化黒鉛を得た。ポリアミド系樹脂(ユニチカ社製 商品名「A−125J」、23℃吸水時における引張弾性率:1.0GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:9×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:2.0μm、グラフェンの積層数:20層、アスペクト比:300)5重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することによって厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃吸水時における引張弾性率が4.7GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が6.3×10-5/Kであった。
【0082】
(実施例11)
実施例8と同様にして薄片化黒鉛を得た。ポリアクリロニトリル系樹脂(三井化学社製 商品名「バレックス#1000」、23℃における曲げ弾性率:3.3GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:8×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:2.0μm、グラフェンの積層数:20層、アスペクト比:300)5重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することによって厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における曲げ弾性率が6.2GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が4.2×10-5/Kであった。
【0083】
(実施例12)
実施例8と同様にして薄片化黒鉛を得た。ポリメタクリル酸メチル(住友化学社製 商品名「スミペックスES」、23℃における曲げ弾性率:2.9GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:7×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(グラフェンシートの面方向における最大寸法:2.0μm、グラフェンの積層数:20層、アスペクト比:300)5重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することによって厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における曲げ弾性率が5.9GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が3.8×10-5/Kであった。
【0084】
(比較例1)
ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社 商品名「J−721GR」、23℃における引張弾性率:1.2GPa、昇温速度5℃/分での線膨張係数:11×10-5/K)100重量部と、薄片化黒鉛(XG−Science社製 商品名「XGnP−5」、グラフェンシートの面方向における最大寸法:1.0μm、グラフェンシートの積層数:180層、アスペクト比:17)30重量部とをプラストミルに供給して混練し、プレス成形することで厚みが1mmの合成樹脂シートを得た。得られた合成樹脂シートは、その23℃における引張弾性率が3.1GPaで、昇温速度5℃/分での線膨張係数が8.5×10-5/Kであった。
【0085】
(比較例2)
厚みが3mmのポリプロピレン系樹脂発泡シート(積水化学工業社製 商品名「ソフトロンSP」)の両面に、比較例1で得られた合成樹脂シートを積層一体化して合成樹脂積層体を得た。
【0086】
得られた合成樹脂積層体は、その密度が500kg/m3であり、JIS K7161に準拠して測定された23℃における見かけ曲げ弾性率が2.5GPa、JIS K7197に準拠して測定された昇温速度5℃/分における線膨張係数が8.6×10-5/Kであった。
【0087】
上述のように、実施例1〜6で得られた合成樹脂シートは、23℃において高い引張弾性率と、低い線膨張係数を有しており、剛性及び寸法安定性に優れているだけでなく、表面平滑性の点でも非常に優れていることから、金属の代替として使用可能な性能を有していた。
【0088】
一方、比較例1で得られた合成樹脂シートは、剛性の点では満足するものであったが、寸法安定性の点で劣っていた。又、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数が150層を超えており、比較例1の合成樹脂シートは、その表面に薄片化黒鉛が浮き出た状態となっており、表面平滑性に劣っていた。更に、比較例1の合成樹脂シートは、衝撃に対して脆いものであった。
【0089】
比較例2で得られた合成樹脂積層体は、グラフェンシートの積層数が150層を超えており、寸法安定性及び表面平滑性を満足するものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の樹脂組成物は、優れた成形性を有しており、この樹脂組成物を用いて得られた合成樹脂成形品は優れた機械的強度及び熱に対する寸法安定性に優れている。本発明の樹脂組成物を用いて得られた合成樹脂成形品は、各種電子部品等のハウジング材、建材用パネル、自動車内装材、自動車用外板などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
1 網状体
1A フラットヤーン列
1B フラットヤーン列
1D フラットヤーン列
1a フラットヤーン
1b フラットヤーン
1c 通孔
1d フラットヤーン
2 網状体
21 第一網状体
22 第二網状体
2A 太幅網部列
2B 細幅網部列
2C 通孔
2a 太幅網部
2b 細幅網部
3 網状体
31 経糸
32 緯糸
33 通孔
34 フラットヤーン列
34a フラットヤーン
4 一軸延伸合成樹脂フィルム
4A スリット列
4a スリット
4a” スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂と、グラフェンシートの積層体であって積層数が150層以下であり且つアスペクト比が20以上である薄片化黒鉛とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
合成樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
合成樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
合成樹脂がポリアミド系樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
合成樹脂がポリアクリロニトリルであることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
合成樹脂がメタクリル系樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
合成樹脂100重量部に対して薄片化黒鉛0.5〜30重量部含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の樹脂組成物からなると共に、JIS K7161に準拠して測定した23℃における引張弾性率が2.5GPa以上で且つJIS K7197に準拠して測定された昇温速度5℃/分における線膨張係数が7.5×10-5/K以下であることを特徴とする合成樹脂シート。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする合成樹脂成形品。
【請求項11】
複数層の合成樹脂層が積層一体化されてなる合成樹脂積層体であって、上記合成樹脂層のうちの少なくとも一層が、請求項1に記載の樹脂組成物からなる合成樹脂層であることを特徴とする合成樹脂積層体。
【請求項12】
合成樹脂層として、合成樹脂を含み且つグラフェンシートの積層体である薄片化黒鉛を含有しない第一合成樹脂層と、請求項1に記載の樹脂組成物からなる第二合成樹脂層とを含むことを特徴とする請求項11に記載の合成樹脂積層体。
【請求項13】
第一合成樹脂層の合計厚みT1と第二合成樹脂層の合計厚みT2との比(T1/T2)が0.5〜10であることを特徴とする請求項12に記載の合成樹脂積層体。
【請求項14】
第二合成樹脂層において、合成樹脂100重量部に対して薄片化黒鉛0.5〜30重量部を含有していることを特徴とする請求項12に記載の合成樹脂積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−77286(P2012−77286A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157993(P2011−157993)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【分割の表示】特願2011−524522(P2011−524522)の分割
【原出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】