説明

樹脂組成物およびその製造方法、並びにそれを用いて形成した建築用材および身飾品

【課題】高強度であるとともに、紫色から赤色の広い波長範囲の遊色効果を発揮することができ、しかも製造が比較的容易な樹脂組成物およびその製造方法、並びにそれを用いて形成した建築用材および身飾品を提供する。
【解決手段】アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させてなるアクリルアミド類樹脂13中に、酸化ケイ素からなるコロイド粒子2のコロイド結晶が固定されている樹脂組成物10である。この樹脂組成物の製造方法であり、該樹脂組成物を用いて形成した建築用材および身飾品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド結晶を含有する樹脂組成物およびその製造方法、並びにそれを用いて形成した建築用材および身飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、重合性物質を含有した溶媒にコロイド粒子を分散させ、前記重合性物質を重合させることによって、隣接するコロイド粒子同士を実質的に接触させずに、コロイド粒子を規則的に配列させた固定化コロイド結晶が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、粒径136nmの酸化ケイ素が31重量%となるよう該酸化ケイ素をジメタクリル酸エチレンとメタクリル酸メチルとに混合することで、酸化ケイ素からなるコロイド粒子の多結晶体をポリマー鎖反発により固定した固定化コロイド結晶が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている前記固定化コロイド結晶は、反射スペクトルのピーク波長が530nm程度であり、紫色から赤色の広い波長範囲の遊色効果を示すことはできなかった。
【0005】
一方、水等の液体中で酸化ケイ素等の微粒子からなるコロイド粒子を最密充填法で充填する方法がある(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、前記微粒子を含む液体に超音波を照射することによって、コロイド粒子を短時間で最密充填となるよう充填させることができると記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されている前記方法では、前記液体を超音波によって蒸発または揮発させる必要があり、液体の濃度や組成によっては必ずしも短時間でコロイド粒子を最密充填で充填することができず、量産性およびコスト面において問題があった。
【0007】
また、コロイド粒子が分散したモノマーを重合して、ポリマーで固定化されたコロイド結晶を製造する方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載されている方法は、単結晶体の大きさを意図的に制御するものではないため、得られる固定化コロイド結晶が十分な遊色効果を示さないおそれがある。すなわち、固定化コロイド結晶は、コロイド粒子の単結晶体を多数含んでいる。遊色効果とは、宝石のオパールに見られるような視野角の変化に伴う色相変化を意味しており、該遊色効果が見られる理由の1つとして、多数の前記単結晶体によって結晶中に様々な結晶面が見られることに起因すると考えられる。単結晶体の大きさが意図的に制御されていないと、固定化コロイド結晶が小さな単結晶体で構成されるおそれがある。単結晶体の大きさがあまり小さいと、固定化コロイド結晶の視認性が低下し、十分な遊色効果を示すことができない。十分な遊色効果を示さない固定化コロイド結晶は、建築用材や身飾品等には適さない。
【0009】
一方、高分子ゲルの前駆体を含む液体媒体中で規則的に配列したコロイド粒子(コロイド結晶)を形成した後、光重合等で前記液体媒体をゲル化することにより、高分子ゲルで固定されたコロイド結晶を製造する方法がある(例えば、特許文献4,5参照)。ゲル固定化コロイド結晶は、Bragg回折により、結晶格子面間隔に応じて様々な波長の光を反射し、遊色効果を示す。特許文献4,5に記載されている方法を用いると、紫色から赤色の様々な遊色効果を示す材料を1日から数日で製造でき、また単結晶体の大きさも意図的に制御できる。
【0010】
しかしながら、前記ゲル固定化コロイド結晶は、液体媒体を含む柔らかい構造体であるため、強度が十分でなく、それゆえ建築用材や身飾品等には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】再公表WO2003/100139号公報
【特許文献2】特開2006−247915号公報
【特許文献3】特開2008−303261号公報
【特許文献4】米国特許第5330685号明細書
【特許文献5】特開2006−182833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、高強度であるとともに、紫色から赤色の広い波長範囲の遊色効果を発揮することができ、しかも製造が比較的容易な樹脂組成物およびその製造方法、並びにそれを用いて形成した建築用材および身飾品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させてなるアクリルアミド類樹脂中に、酸化ケイ素からなるコロイド粒子のコロイド結晶が固定されていることを特徴とする樹脂組成物。
(2)隣接する前記コロイド粒子同士は、静電気力により互いに反発している前記(1)に記載の樹脂組成物。
(3)隣接する前記コロイド粒子同士は、該コロイド粒子に修飾されたポリマー鎖により互いに反発している前記(1)に記載の樹脂組成物。
(4)前記酸化ケイ素の含有量が、5〜65重量%である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)前記アクリルアミド類樹脂の含有量が、30〜90重量%である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(6)前記アクリルアミド類モノマーが、N−メチロールアクリルアミドである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(7)酸化ケイ素からなるコロイド粒子のコロイド結晶がゲルで固定されたゲル固定化コロイド結晶の液体媒体を、アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーの融液で置換する工程と、ついで前記アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させる工程と、を含むことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
(8)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする建築用材。
(9)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする身飾品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させてなるアクリルアミド類樹脂中に、酸化ケイ素からなるコロイド粒子のコロイド結晶を固定させている。該樹脂組成物は、前記コロイド結晶がゲルで固定されたゲル固定化コロイド結晶の液体媒体を、アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーの融液で置換し、前記アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させてなる。
【0015】
したがって、本発明によれば、従来のような液体媒体を含むことによる問題がなく、高い強度を示すことができる。しかも、単結晶体であるコロイド結晶の大きさを意図的に制御して紫色から赤色の広い波長範囲の遊色効果を発揮させることができ、かつ該樹脂組成物を1日から数日程度の比較的短期間で効率良くコスト的に有利に製造することができる。本発明の建築用材および身飾品は、前記樹脂組成物を用いて形成されるので、良好な遊色効果を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態にかかる樹脂組成物の製造方法を示す部分拡大概略説明図である。
【図2】実施例1で得た樹脂組成物の写真である。
【図3】実施例1で得た樹脂組成物の反射スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる樹脂組成物の一実施形態について詳細に説明する。本実施形態にかかる樹脂組成物は、アクリルアミド類樹脂中に、コロイド粒子のコロイド結晶を固定したものである。
【0018】
前記アクリルアミド類樹脂は、アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させてなる。アクリルアミド類樹脂中にコロイド結晶を固定すると、様々な用途に応用可能な高い強度を有するコロイド結晶材料である樹脂組成物を作製することができる。
【0019】
前記アクリルアミド類モノマーとしては、例えばアクリルアミド、メタアクリルアミドの他に、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。上記で例示したモノマーのうち、N−メチロールアクリルアミド(NMAM)は、後述するゲル収縮を抑制する上で好適である。
【0020】
アクリルアミド類オリゴマーとしては、前記で例示したアクリルアミド類モノマーの単独重合体または共重合体等が挙げられる。前記アクリルアミド類オリゴマーの重量平均分子量としては、融解可能である限り、特に限定されるものではない。
【0021】
前記アクリルアミド類樹脂は、前記で例示したアクリルアミド類モノマーおよびオリゴマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。前記他のモノマーとしては、例えばN−アクリロイルアミノエトキシエタノール、N−アクリロイルアミノプロパノールの他に、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等の一官能単量体;ジ(メタ)アクリル酸エチレン、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の二官能単量体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能単量体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
アクリルアミド類樹脂の含有量は、樹脂組成物の総量に対して30〜90重量%であるのが好ましい。アクリルアミド類樹脂の含有量が30重量%以上であると、紫色から赤色を主とする広い波長範囲の遊色効果を呈する部材として視認性を向上することができる。また、アクリルアミド類樹脂の含有量が90重量%以下であると、例えば後述するコロイド粒子の静電気力を隣接するコロイド粒子間に及ぼして、各コロイド粒子を規則配列させることができるので、遊色効果を呈する部材として視認性を向上することができる。
【0023】
一方、前記コロイド粒子は酸化ケイ素からなる。隣接する前記コロイド粒子同士は、静電気力により互いに反発しているか、前記コロイド粒子に修飾されたポリマー鎖により互いに反発しているのが好ましい。また、互いに隣接するコロイド粒子間の平均距離は、140〜330nmであるのが好ましい。
【0024】
コロイド粒子間の平均距離が140nm以上であると、例えばサンプルの屈折率を1.5としたとき、コロイド粒子間の平均距離に起因して得られる回折波長λは、式:2×1.5×2/61/2×140=343nmになり、可視光波長よりも短くなることがなく、それゆえ遊色効果を呈する部材として視認性を向上することができる。
【0025】
また、コロイド粒子間の平均距離Lが330nm以下であると、この結晶構造に起因して得られる回折波長λは、式:2×1.5×2/61/2×330=808nmになり、可視光波長よりも長くなることがなく、それゆえ遊色効果を呈する部材として視認性を向上することができる。
【0026】
コロイド粒子間の平均距離は、例えば樹脂組成物における酸化ケイ素の含有量を調整することによって所望の値に制御することができる。前記酸化ケイ素の含有量は、樹脂組成物の総量に対して5〜65重量%であるのが好ましい。この範囲内で酸化ケイ素の含有量を多くすると、コロイド粒子間の平均距離が小さくなる傾向にあり、逆に前記酸化ケイ素の含有量を少なくすると、コロイド粒子間の平均距離が大きくなる傾向にある。また、酸化ケイ素の含有量が前記範囲内にあると、例えばコロイド粒子の静電気力を隣接するコロイド粒子間に及ぼして、各コロイド粒子を規則配列させることができるので、遊色効果を呈する部材として視認性を向上することができる。
【0027】
コロイド粒子間の平均距離は、以下のようにして測定することができる。すなわち、樹脂組成物の任意の破断面に対して、走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所社製の「S−4100」)を用いて、加速電圧15kVで二次電子組成像を観察して得られたSEM画像上で測定することができる。より具体的には、コロイド粒子間の平均距離は、前記SEM画像において、互いに隣接する一方のコロイド粒子の中心から他方のコロイド粒子の中心までの距離を任意に10箇所選択して測定し、その平均値を算出するとともに、この平均値をSEMでの倍率に応じて換算することにより測定することができる。倍率は、1万〜20万倍程度が適当である。
【0028】
コロイド粒子の平均粒径は70〜238nmであるのが好ましい。コロイド粒子の平均粒径が70nm以上であると、可視光波長よりも回折波長が短くなることがなく、遊色効果を呈する部材として視認性を向上することができる。また、コロイド粒子の平均粒径が238nm以下であると、可視光波長よりも回折波長が長くなることがなく、遊色効果を呈する部材として視認性を向上することができる。
【0029】
コロイド粒子の平均粒径は、粉末に対しては上記SEM、分散液に対しては、例えばディスク遠心式粒度分布測定装置(CPS Instruments,Inc.製の「DC24000」)のような粒度分布測定装置により測定することができる。
【0030】
次に、前記した樹脂組成物の製造方法にかかる一実施形態ついて、図1を参照して詳細に説明する。まず、図1(a)に示すように、酸化ケイ素からなるコロイド粒子2のコロイド結晶が、高分子ゲル3で固定されたゲル固定化コロイド結晶1を調製する。高分子ゲル3で固定されたゲル固定化コロイド結晶1は、Bragg回折により、結晶格子面間隔に応じて様々な波長の光を反射し、遊色効果を示す。
【0031】
前記酸化ケイ素は、平均粒子径が100〜300nmの粉末状のものを使用するのが好ましい。これにより、コロイド粒子2の粒子径および隣接するコロイド粒子2,2間の距離が適正化され、遊色効果を呈する部材として視認性を向上させることができる。
【0032】
コロイド粒子2は、酸化ケイ素の原料として水ガラスあるいはケイ素のアルコキシドを用いて公知の方法により作製することができる。例えばケイ素のアルコキシドをアルカリにより加水分解する方法、あるいは水ガラスを原料とする酸化ケイ素を積層することで任意の粒径のコロイド粒子2を得ることができる。
【0033】
高分子ゲル3によるコロイド結晶の固定化は、まず、ゲル化反応液としてゲルモノマー、架橋剤および重合開始剤を含む溶液を用い、このゲル化反応液を媒体として、該ゲル化反応液にコロイド粒子2を分散させて結晶構造を形成させる。次に、重合を開始させ、前記媒体をゲル化することでコロイド結晶構造を高分子ゲル3で固定し、これによりゲル固定化コロイド結晶1を得る。
【0034】
高分子ゲル3の含有量は、通常、樹脂組成物の総量に対して5重量%以上、好ましくは5〜30重量%の割合になるのが好ましい。高分子ゲル3は、前記架橋剤によって3次元架橋されることにより、通常、網目状になる。
【0035】
前記ゲルモノマーとしては、例えばN−メチロールアクリルアミド(NMAM)等のビニル系モノマー等が挙げられる。前記架橋剤としては、例えば2つのビニル基を持つN,N’−メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。前記重合は光ラジカル重合法を用いる手法が一般的である。光ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)等のアゾ化合物;ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0036】
前記ゲル化反応液の溶媒としては、例えば水、エチレングリコール、グリセリン、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。該溶媒は、前記ゲル化反応液に直接添加するか、コロイド粒子2を調製する際に用いる溶媒を、そのままゲル化反応液の溶媒として用いることもできる。
【0037】
ここで、酸化ケイ素からなるコロイド粒子2を水等の極性溶媒中に分散すると、粒子表面が荷電して、隣接するコロイド粒子同士が静電気力により互いに反発するようになる。
一方、静電反発型ではなく、ポリマー鎖反発の場合でもゲル固定化コロイド結晶を作成できる。ポリマー鎖反発、すなわち隣接するコロイド粒子同士を、該コロイド粒子に修飾したポリマー鎖で互いに反発させるには、例えば酸化ケイ素粉末を、重合性物質を含む溶媒に分散させることにより作用させることができる。
【0038】
前記重合性物質としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸メチル、ジ(メタ)アクリル酸エチレン等のビニル系モノマーまたはオリゴマー;エチレンオキシド、トリメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル;β−プロピオンラクトン等の環状エステル;ε−カプロラクタム等の環状アミド;メチルシラン、フェニルシラン等のポリシランを与えるモノマー等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。前記重合性物質の含有量は、樹脂組成物の総量に対して5〜50重量%であるのが好ましい。
【0039】
前記溶媒としては、例えば水、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ジオキサン、アクリロニトリル等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
なお、前記酸化ケイ素粉末として、有機分子で酸化ケイ素粉末を被覆したものを使用してもよい。これにより、樹脂との親和性が増すほか、粒子の凝集を防げるという効果も得られる。この場合には、有機分子を含めた全体の平均粒子径が上記した範囲内、すなわち70〜238nmにあるのが好ましい。
【0041】
前記有機分子としては、例えばポリ((メタ)アクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ((メタ)アクリル酸メチル)やそれらの共重合体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。また、例示した前記有機分子は、粒子表面との親和性を上げるために適当な官能基を有していてもよい。このような官能基としては、例えばトリメトキシシラン基、トリエトキシシラン基等が有効である。酸化ケイ素粉末の表面を覆う有機分子の量は、例えば粒子重量に対して2〜20重量%程度が好ましい。
【0042】
上記のようにしてゲル固定化コロイド結晶1を得た後、該ゲル固定化コロイド結晶1の液体媒体11を、図1(b)に示すように、アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを融解させてなる融液12で置換する。この置換は、例えばゲル固定化コロイド結晶1を、融液12に浸漬することにより行う。浸漬は、十分多量の融液12を用いて、かつ2回以上、好ましくは2〜4回程度繰り返すことが望ましい。
【0043】
また、前記置換により高分子ゲル3が収縮することがある。このときは、浸透圧の調節のために、塩化ナトリウム等の低分子を含む媒体で、予め液体媒体11を置換しておく等の前処理を行うことができる。
【0044】
高分子ゲル3とアクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーとの組み合わせによっては、前記浸漬時に高分子ゲル3が収縮することがある。高分子ゲル3が収縮すると、遊色が変化または消失することがあり、好ましくない。NMAMを主成分とする高分子ゲル3により固定したゲル固定化コロイド結晶1を、NMAMからなる融液12で置換する場合には、前記ゲル収縮は軽微であり、好適である。
【0045】
また、必要に応じて、融液12に、アクリルアミド類モノマーおよびオリゴマーに可溶な微量の添加物として、例えばエチレングリコール等を混合することができる。これにより、樹脂組成物に可塑性を付与することができる。融液12に、アクリルアミド類モノマーおよびオリゴマーの結合を強固にする架橋剤である、2官能性を有するN,N’−メチレンビスアクリルアミド等を混合することもできる。
【0046】
ゲル固定化コロイド結晶1の液体媒体11を融液12で置換した後、前記アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させ、これによりアクリルアミド類樹脂13中に、酸化ケイ素からなるコロイド粒子2のコロイド結晶が固定された樹脂組成物10を得る。上記のような製造方法によれば、従来の最密充填法のような製造に長期間を要することもなく、通常、1日〜3日程度の比較的短期間で樹脂組成物10を形成することができるため、コスト的に有利となり、量産性にも優れる。
【0047】
ここで、静電反発型のコロイド結晶は、ごく微量の不純物イオンがあると形成されないため、結晶のゲル固定時には、モノマーを十分精製してイオン性不純物を除く必要がある。また、モノマーや重合開始剤として、イオン性化合物や、ゲル化反応中にイオンを発生する化合物は好ましくない。これに対して、本実施形態におけるアクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーの硬化過程においては、既にコロイド結晶の構造が高分子ゲル3により固定されているので、反応液を厳密に精製する必要はなく、またイオン性の化合物も使用することができる。
【0048】
前記硬化は、アクリルアミド類モノマーおよびオリゴマーの性質に応じた様々な方法で行うことができる。具体例を挙げると、60〜100℃にて加熱する熱重合法、または重合開始剤を添加したラジカル重合法等が挙げられる。前記熱重合では、p−トルエンスルホン酸等の触媒を添加することで効率的に硬化できる。
【0049】
前記重合開始剤としては、例えばベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル系;2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−t−ブチルジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン系;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−クロロベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)等のアゾ化合物;過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
重合開始剤を用いるとき、その性質に応じて、紫外線照射や加熱による重合の開始が可能である。具体例を挙げると、重合開始剤としてアゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]を用いる場合には、紫外線を5〜30分間照射すればよい。
【0051】
なお、開始剤量は、開始剤の性質に応じて、発泡や着色の生じない程度に低くすることが好ましい。具体例を挙げると、アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]をはじめとするアゾ基を含む開始剤を用いる場合には、重合開始に伴い窒素ガスが遊離する性質を有するため、開始剤濃度が高いときには気泡の発生を伴うため、少量(0.4mg/ml以下)とするのが好ましい。
【0052】
以上説明した本発明にかかる樹脂組成物は、建築用材や身飾品等に使用される複合部材に適したものである。本発明にかかる樹脂組成物を適用できる建築用材としては、例えば内外壁材、床材等が挙げられる。また、本発明にかかる樹脂組成物を適用できる身飾品としては、例えばオパール調の宝玉を用いた指輪、ネックレス、イヤリング、ブローチ等が挙げられる。
【0053】
なお、本発明にかかる樹脂組成物の用途は、前記した建築用材および身飾品に限定されるものではなく、紫色ないし赤色の広い波長範囲から任意の遊色効果を発揮することが要求される分野において、好適に用いることができる。
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
従来から、酸化ケイ素からなるコロイド粒子の水分散液に炭酸水素ナトリウム(NaHCO)等のアルカリを拡散させることで、cmサイズの大型コロイド結晶を製造する方法が知られている(例えば、特開2004−89996号公報参照)。そこで、この方法を利用して、大型のゲル固定化コロイド結晶を以下のようにして作製した。
【0056】
まず、長さ1cm、幅1cm、深さ4.5cmのポリメチルメタクリレート製セルの底面中央に直径6mmの貫通孔を形成し、該貫通孔を半透膜で被覆した。
【0057】
次いで、以下の組成からなる混合液を調整した。
・酸化ケイ素からなるコロイド粒子(日本触媒社製の商品名「KE−W10」、平均粒径110nm、水分散体):粒子濃度3.2体積%
・N−メチロールアクリルアミド(略称:NMAM、ゲルモノマー):0.67モル/L
・N,N’−メチレンビスアクリルアミド(略称:Bis、架橋剤):10mモル/L
・2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](光重合開始剤、和光純薬工業社製の商品名「VA−086」):0.1mg/ml
【0058】
この混合液を脱イオン精製した。脱イオン精製は、前記混合液にイオン交換樹脂(バイオラッド社製の商品名「AG501−X8(D)」)を添加して攪拌することにより行った。脱イオン精製した混合液に、注射針を介してアルゴンガスを10分間バブリングした。その後、この混合液10mlを上記セルに採取してセルの上部開口をパラフィンフィルム(Pechiney社製の商品名「パラフィルム」)で封止した。
【0059】
一方、以下の組成からなるアルカリ溶液を調整した。
・NMAM:0.67モル/L
・Bis:10mモル/L
・2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]:0.1mg/ml
・NaHCO:60μモル/L
【0060】
このアルカリ溶液を、前記イオン交換樹脂により脱イオン精製した後、注射針を介してアルゴンガスを10分間バブリングした。このアルカリ溶液50mlをリザーバーに収容し、該アルカリ溶液と前記セルに採取した混合液とを、セルの半透膜を介して接触させ、そのまま保持した。
【0061】
時間の経過とともに、NaHCOをリザーバーからセル内に拡散させ、酸化ケイ素コロイド粒子の表面電荷を増加させたところ、7日間で高さ約3cmのコロイド結晶が生成した。このコロイド結晶は、該コロイド結晶に光が入射する角度によって、紫色から赤色の遊色を示すことが観察された。
【0062】
得られたコロイド結晶に対し、30cm隔てた位置から400Wの水銀ランプ(東芝社製の商品名「HP?400型」)を用いて、30分間UV光を照射したところ、コロイド結晶は破壊されることなくゲルで固定化され、これによりゲル固定化コロイド結晶を得た。
【0063】
次いで、得られたゲル固定化コロイド結晶の液体媒体を、アクリルアミド類モノマーの融液で置換し、該モノマーを硬化させて樹脂組成物を得た。具体的には、まず、80℃の油浴中でNMAM粉末50gを融解し、その融液中に得られたゲル固定化コロイド結晶を12時間浸漬した。
【0064】
次に、NMAM粉末50gの融液に、熱重合触媒であるパラトルエンスルホン酸を濃度0.1mg/mlとなるように溶解した。この融液中に、前記ゲル固定化コロイド結晶を浸けかえて3時間保つことにより、ゲル固定化コロイド結晶の液体媒体を、NMAMの融液で置換した。
【0065】
このように処理したゲル固定化コロイド結晶を金属製の空気恒温槽に入れ、100℃の雰囲気温度に1時間保った後、徐々に150℃まで昇温することにより12時間かけてNMAMの加熱重合を行った。
【0066】
その結果、紫色から赤色の遊色を示すゲル固定化コロイド結晶を硬化することができ、アクリルアミド類樹脂中に酸化ケイ素からなるコロイド粒子のコロイド結晶が固定された樹脂組成物が得られた。図2に、その外観の写真を示す。なお、前記パラトルエンスルホン酸濃度を0.1mg/mlより高くすると、樹脂が白濁して遊色が観察され難くなった。
【0067】
得られた樹脂組成物について、反射スペクトルを測定した。この測定は、光ファイバー式反射分光光度計(オーシャンオプティクス社製の商品名「HR4000型」)を用いて行った。前記光ファイバー式反射分光光度計によれば、直径およそ1mmの円内部の領域の反射スペクトルを測定することができる。試料の様々な場所での測定結果を図3に示す。
【0068】
図3から明らかなように、明瞭な反射ピークが観察されており、Bragg回折を示すコロイド結晶の構造が樹脂で硬化されたことがわかる。また、測定場所によりピーク波長が異なることから、前記樹脂組成物が様々な遊色を示すことが分かる。
【実施例2】
【0069】
山中淳平、 セラミックス41巻(2006年)p367−371の記載に基づいて、コロイド結晶を作成した。まず、以下の組成からなる混合液を調整した。
・酸化ケイ素からなるコロイド粒子(日本触媒社製の商品名「KE−W10」、平均粒径110nm、水分散体):粒子濃度3.5体積%
・NMAM:0.67モル/L
・Bis:10mモル/L
・ベンゾフェノン(光重合開始剤):0.1mg/ml
【0070】
この混合液を、前記実施例1と同じイオン交換樹脂により脱イオン精製した後、該混合液に水酸化ナトリウムを濃度0.1規定となるように添加した。その結果、pHの増加により酸化ケイ素コロイドの表面電荷数が増加してコロイド結晶が形成された。形成された結晶のサイズは最大で1mm程度であった。このコロイド結晶は、該コロイド結晶に光が入射する角度によって、紫色から赤色の遊色を示すことが観察された。
【0071】
次いで、この反応液20mlをポリスチレン容器に取り、LEDライトを用いて20分間紫外線を照射し、ゲル固定化コロイド結晶を得た。得られたゲル固定化コロイド結晶を長さ1mm、幅1cm、厚さ1cmの形状に切断した後、濃度1モル/LのNaClを溶解したエチレングリコール(EG)に3時間浸漬した。
【0072】
次に、80℃でNMAMを融解し、このNMAM融液に前記ゲル固定化コロイド結晶を2時間浸漬した。その後、さらに新しいNMAM融液に前記ゲル固定化コロイド結晶を浸けかえて、90℃で12時間加熱した。その結果、NMAMの熱重合により、ゲル固定化コロイド結晶を、遊色を保ったまま硬化することができ、アクリルアミド類樹脂中に酸化ケイ素からなるコロイド粒子のコロイド結晶が固定された樹脂組成物が得られた。
【実施例3】
【0073】
まず、前記実施例2と同様にしてゲル固定化コロイド結晶を得、このゲル固定化コロイド結晶を長さ1mm、幅1cm、厚さ1cmの形状に切断した後、濃度1モル/LのNaClを溶解したEGに3時間浸漬した。
【0074】
次いで、前記NMAM融液に代えて、NMAMとEGとを重量比でNMAM:EG =9:1〜1:9の割合で混合した各混合物に前記ゲル固定化コロイド結晶を3時間浸漬した。その後、前記実施例2と同様にしてNMAM融液に前記ゲル固定化コロイド結晶を浸けかえて、90℃で12時間加熱した。
【0075】
その結果、NMAMの熱重合により、いずれの混合比でも、ゲル固定化コロイド結晶を、遊色を保ったまま硬化することができ、アクリルアミド類樹脂中に酸化ケイ素からなるコロイド粒子のコロイド結晶が固定された樹脂組成物が得られた。具体的には、混合比により樹脂組成物の屈折率が変わり、5:5では、シリカの屈折率とほぼ同じになるため、透明度が増した。また、EGの比率が増えるほど、得られた樹脂組成物は柔軟になったが、実使用上問題のない範囲であった。
【符号の説明】
【0076】
1 ゲル固定化コロイド結晶
2 コロイド粒子
3 高分子ゲル
10 樹脂組成物
11 液体媒体
12 融液
13 アクリルアミド類樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させてなるアクリルアミド類樹脂中に、酸化ケイ素からなるコロイド粒子のコロイド結晶が固定されていることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
隣接する前記コロイド粒子同士は、静電気力により互いに反発している請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
隣接する前記コロイド粒子同士は、該コロイド粒子に修飾されたポリマー鎖により互いに反発している請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化ケイ素の含有量が、5〜65重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記アクリルアミド類樹脂の含有量が、30〜90重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記アクリルアミド類モノマーが、N−メチロールアクリルアミドである請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
酸化ケイ素からなるコロイド粒子のコロイド結晶がゲルで固定されたゲル固定化コロイド結晶の液体媒体を、アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーの融液で置換する工程と、
ついで前記アクリルアミド類モノマーおよび/またはオリゴマーを硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする建築用材。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする身飾品。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−42763(P2011−42763A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193172(P2009−193172)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】