説明

樹脂組成物および樹脂成形体

【課題】得られる樹脂成形体の機械的強度が向上する樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、を含む樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂組成物としては種々のものが提供され、各種用途に使用されている。特に家電製品や自動車の各種部品、筐体等に使用されたり、また事務機器、電子電気機器の筐体などの部品にも熱可塑性樹脂が使用されている。
近年地球規模での環境問題に対して、植物由来の樹脂の利用は、温室効果ガス排出量を低減し得る材料として大きな期待が寄せられている。従来から知られている植物由来の樹脂の一つに、セルロース誘導体がある。セルロース誘導体は、従来、塗料としての用途や、繊維としての用途では、広く利用されているが、セルロース誘導体の樹脂成形体への利用に際しては、まだ用いられている例はほとんど見られない。
【0003】
例えば、セルロースエステル(総平均置換度2.7以下の酢酸セルロースなど)と、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂(芳香族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂など)と、前記セルロースエステルに対する可塑剤(リン酸エステル、フタル酸エステルなど)と、ブリードアウト抑制剤(縮合リン酸エステルなど)と、で構成したセルロースエステル系樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、(A)ポリ乳酸樹脂および(B)セルロースエステルから選ばれる一種以上の樹脂10質量%以上75質量%以下、(C)芳香族ポリカーボネート樹脂25質量%以上90質量%以下および(D)相溶化剤(例えば無機充填剤、グリシジル化合物または酸無水物をグラフトまたは共重合した高分子化合物、芳香族ポリカーボネート鎖を有するグラフトポリマー、および有機金属化合物よりなる群より選ばれる少なくとも一種)を、(A)および(B)から選ばれる一種以上と(C)成分の合計量100質量部に対して1質量部以上50質量部以下配合し、さらに(E)難燃剤、(F)フッ素系化合物、(G)エポキシ化合物を配合してなる樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)セルロースを主成分とする繊維、(C)第一の難燃剤を含有しており、前記(A):(B)=95:5〜5:95であり、 前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、原料の一部として、バイオマス材料を含むものであり、(C)第一の難燃剤は、下記式(1)「(C366n・Hn+2n3n+1」により表される2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン骨格を有するリン酸塩(ポリリン酸メラミン)であり、前記(B)セルロースを主成分とする繊維の含有量を100重量部としたときに、前記(C)第一の難燃剤は、1〜20重量部であることを特徴とする繊維強化難燃性樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、熱可塑性樹脂、セルロース系フィラー、無機質フィラーおよび発泡剤を含む木質系樹脂組成物において、セルロース系フィラーが含フッ素ポリマーの存在下でシリコーンにより変性処理したものである木質系樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献4参照)
【0007】
また、白度80%以上のセルロース粉末1〜60重量%とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(以下、ABS樹脂)40〜99重量%からなる樹脂組成物100重量部に対して、着色剤3〜20重量%と、該ABS樹脂に対して、200℃における剪断速度103 sec-1下での溶融粘度の比が0.4以下または2.5以上であるスチレン系樹脂80〜97重量%からなる樹脂組成物0.1〜10重量部と発泡剤0.01〜1重量部を混合成形して得られる比重が0.5〜1.0である木目調樹脂成形物が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−161943号公報
【特許文献2】特開2006−111858号公報
【特許文献3】特開2008−303288号公報
【特許文献4】特許3704280号明細書
【特許文献5】特許3695958号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、得られる樹脂成形体の機械的強度が向上する樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
即ち、請求項1に係る発明は、
セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、
アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、
を含む樹脂組成物。
【0011】
請求項2に係る発明は、
さらに、ポリカーボネートを、前記アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂との合計で20phr以上50phr以下含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【0012】
請求項3に係る発明は、
さらに、難燃剤として縮合リン酸エステルを5phr以上40phr以下含む請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【0013】
請求項4に係る発明は、
さらに、イオン価数IからIIIまでの元素を単独又は2種以上含有する無機化合物を0.1phr以上10phr以下含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0014】
請求項5に係る発明は、
さらに、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0015】
請求項6に係る発明は、
前記アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上20phr以下含む請求項5に記載の樹脂組成物。
【0016】
請求項7に係る発明は、
セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、
アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、
を含む樹脂成形体。
【0017】
請求項8に係る発明は、
さらに、ポリカーボネートを、前記アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂との合計で20phr以上50phr以下含む請求項7に記載の樹脂成形体。
【0018】
請求項9に係る発明は、
さらに、難燃剤として縮合リン酸エステルを5phr以上40phr以下含む請求項7又は8に記載の樹脂成形体。
【0019】
請求項10に係る発明は、
さらに、イオン価数IからIIIまでの元素を単独又は2種以上含有する無機化合物を0.1phr以上10phr以下含む請求項7〜9のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【0020】
請求項11に係る発明は、
さらに、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上含む請求項7〜10のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【0021】
請求項12に係る発明は、
前記アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上20phr以下含む請求項11に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、を含まない場合に比べ、得られる樹脂成形体の機械的強度が向上する樹脂組成物を提供することができる。
請求項2に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂及びポリカーボネートをその合計で20phr以上50phr以下と、を含まない場合に比べ、得られる樹脂成形体の機械的強度が向上する樹脂組成物を提供することができる。
請求項3に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、を含む組成において、縮合リン酸エステルを5phr以上40phr以下で含まない場合に比べ、得られる樹脂成形体の機械的強度がより向上する樹脂組成物を提供することができる。
請求項4に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、を含む組成において、イオン価数IからIIIまでの元素を単独又は2種以上含有する無機化合物を0.1phr以上10phr以下で含ない場合に比べ、得られる樹脂成形体の寸法安定性が向上する樹脂組成物を提供することができる。
請求項5に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、を含む組成において、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上で含まない場合に比べ、得られる樹脂成形体の寸法安定性が向上する樹脂組成物を提供することができる。
請求項6に係る発明によれば、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を20phrを超えて含む場合に比べ、得られる樹脂成形体の引張強さが向上する樹脂組成物を提供することができる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、を含まない場合に比べ、機械的強度が向上した樹脂成形体を提供することができる。
請求項8に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂及びポリカーボネートをその合計で20phr以上50phr以下と、を含まない場合に比べ、機械的強度が向上した樹脂成形体を提供することができる。
請求項9に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、を含む組成において、縮合リン酸エステルを5phr以上10phr以下で含まない場合に比べ、機械的強度がより向上した樹脂成形体を提供することができる。
請求項10に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、を含む組成において、イオン価数IからIIIまでの元素を単独又は2種以上含有する無機化合物を0.1phr以上10phr以下で含なない場合に比べ、寸法安定性が向上した樹脂成形体を提供することができる。
請求項11に係る発明によれば、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、を含む組成において、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上で含まない場合に比べ、寸法安定性が向上した樹脂成形体を提供することができる。
請求項12に係る発明によれば、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を20phrを超えて含む場合に比べ、引張強さが向上した樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る樹脂成形体を備える電子・電気機器の部品の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の樹脂組成物および樹脂成形体の一例である実施形態について説明する。
【0026】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースエステルと、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂(以下、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂と称する)と、を含む樹脂組成物である。
そして、セルロースエステルの含有量を50phr以上95phr以下とし、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂の含有量を5phr以上50phr以下としている。
なお、「phr」とは、「per hundred resin」の略であり、全樹脂成分100質量部に対する「質量部」である。
【0027】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記構成により、得られる樹脂成形体の機械的強度が向上する。
具体的には、例えば、成形時の樹脂の流動方向(以下、「マシンダイレクション方向」とも言う。)の機械的強度は、セルロースエステル単体で30Mpa程度、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂(例えばアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)単体で40Mpa程度であるのに対し、本実施形態に係る樹脂組成物では、上記配合比で両者を混合することにより、セルロースエステルの単体よりも向上する。
また、例えば、成形時の樹脂の流動方向を横断する方向(以下、「トラバースダイレクション方向」とも言う。)の機械的強度は、セルロースエステル単体で30Mpa程度、アクリロニトリル・スチレンポリマー共重合体単体で50Mpa程度であるのに対し、本実施形態に係る樹脂組成物では、上記配合比で両者を混合することにより、例えば、60Mpaを超え、それぞれの単体を超える結果となる。
【0028】
この理由として推測されるのは、セルロースエステル中でアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂の高次構造の形成である。得られる樹脂成形体が比較的透明であることから、セルロースエステル中でアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂が微細に分散していることが推測される。実際に電子顕微鏡で観察すると100nm以上500nm以下でアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂が分散していることが観察される。その際、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂のドメインは球状ではなく、例えば、やや短繊維状の形状で分散している。
このことから、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂の微細な短繊維がセルロースエステル中に存在することで、成形時の樹脂の流動方向を横断する面でも短繊維が相互貫入し、マシンダイレクション方向とトラバースダイレクション方向の双方において、更には特にトラバースダイレクション方向において、機械的強度が向上すると推測している。
【0029】
そして、本実施形態に係る樹脂組成物により得られる樹脂成形体は、この機械的硬度向上により、例えば、従来ウェルド(流動した樹脂組成物の継ぎ目)の弱さを懸念して部品を厚く設計していた部材などを薄肉化することができ、結果コストダウンに繋がる。また、ウェルドを負荷の集中しないところに配置するなど、成形時のゲート設計などを工夫する必要が減り、設計の自由度が広がるとともにコストダウンにも繋がる。
【0030】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに、ポリカーボネートをアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂との合計で20phr以上50phr以下含むものであってもよい。
【0031】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに、難燃剤として縮合リン酸エステルを5phr以上40phr以下含むものであってもよい。
上記組成により、本実施形態に係る樹脂組成物では、得られる樹脂成形体の機械的強度(特に伸び)が向上する。
この理由は定かではないが、縮合リン酸エステルのエステル部分とセルロースエステルのエステル部分との親和性により、セルロースエステルが可塑化されるためであると推測される。
【0032】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに、イオン価数IからIIIまでの元素を単独又は2種以上含有する無機化合物を0.1phr以上10phr以下含むものであってもよい。
上記組成により、本実施形態に係る樹脂組成物では、得られる樹脂成形体の寸法安定性が向上する。
この理由は定かではないが、特定の樹脂組成において上記特定の無機化合物が充填剤としての働き(いわゆるフィラー効果)を有効に発現するためであると推測される。
【0033】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上含むものであってもよい。
【0034】
ここで、従来、セルロース誘導体(例えばセルロースエステルなど)、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂、及び相溶化剤を含む組成の樹脂組成物が知られている。
しかしながら、環境問題を背景に、植物由来の樹脂を多く使用することが求められる昨今、植物性由来の樹脂、つまりセルロース誘導体(例えばセルロースエステルなど)を50phr以上と豊富な組成にすると、得られる樹脂成形体の寸法安定性が不十分であることがわかってきた。この傾向は、湿熱環境下(温度65℃、湿度85%の環境下を意味する。この表現は、特に定義をしない場合、以下でも同様の条件を意味する。)でより顕著に現れることもわかってきた。
【0035】
そこで、本実施形態に係る樹脂組成物では、セルロースエステル50phr以上95phr以下とアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂5phr以上50phr以下とを含む組成において、相溶化剤としてアクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上で配合することがよい。
【0036】
上記組成により、本実施形態に係る樹脂組成物では、得られる樹脂成形体の寸法安定性が向上する。その結果、得られる樹脂成形の湿熱環境下での収縮が抑制され、例えば、応力集中等による樹脂成形体の割れ等が抑制される。
なお、この理由は定かではないが、本実施形態に係る樹脂組成物のゲル分率を測定すると、当該ゲル分率が向上しているため、相溶化剤としてのアクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体(その重合成分としてのグリシジル化合物)に含まれるエポキシ基とセルロースエステルに含まれる水酸基とが結合し、この結合により架橋構造を形成すると推測されるためである。
【0037】
なお、上述のように推測される作用から、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体の含有量が増えれば増えるほど架橋構造がより多く形成されることになる。したがって、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体の含有量には、理論上特に上限は存在しない。
【0038】
加えて、上記組成により、本実施形態に係る樹脂組成物では、得られる樹脂成形体の光沢性の低減、機械的特性(特に伸び)の向上についても実現される。機械的特性(特に伸び)の向上により、例えば、ボス等のねじ止めや、セルフタッピング等による応力集中が分散され易くなり、樹脂成形体の破損が抑制され易くなる。
ここで、樹脂成形体の光沢は表面で種類の異なる樹脂が乱反射して生じることが知られているが、相溶化剤としてアクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体重合体を選択することで、乱反射が発生し難い度合いまで樹脂(セルロースエステルとアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂)が分散されるため、得られる樹脂成形体の光沢性が低減されると考えられる。
そして、樹脂(セルロースエステルとアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂)が分散されることから、機械的特性(特に伸び)も向上すると考えられる。
【0039】
なお、本実施形態に係る樹脂組成物は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂からなる樹脂成形体や、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂とポリカーボネートとからなる樹脂成形体等と同等の耐衝撃性、自立形状保持性(これを実現するための弾性率)を持つ樹脂成形体が得られる。
上記組成により、上記同様の理由から、得られる樹脂成形体の機械的特性が向上する。
【0040】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂及びポリカーボネートをその合計で20phr以上50phr以下と、を含む組成において、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上で配合したものであってもよい。
【0041】
上記組成により、セルロースエステル、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂、及びポリカーボネートを含む組成であっても、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を配合することで、得られる樹脂成形体の寸法安定性が向上する。
加えて、得られる樹脂成形体の光沢性の低減、機械的特性(特に伸び)の向上についても実現される。
【0042】
この理由も定かではないが、相溶化剤としてのアクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体(その重合成分としてのグリシジル化合物)に含まれるエポキシ基とセルロースエステルに含まれる水酸基とが結合し、この結合により架橋構造を形成すると共に、当該共重合体に含まれるアクリロニトリル・スチレンポリマー部位がアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂と相溶し、尚且つアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂とポリカーボネートとが相溶することから、架橋構造を有しつつ、3つの樹脂が互いに相溶し合うと考えられるためである。
【0043】
ここで、セルロースエステル、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂、及びポリカーボネートを含む組成では、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂とポリカーボネートとの混合物で構成された樹脂成形体が市場に多く出回っていることから、当該樹脂成形体を再生(リサイクル)したものを原料として使用し得る点で、有利である。
【0044】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の各成分の詳細について説明する。
【0045】
(樹脂)
−セルロースエステル−
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースアセテート類が好適に挙げられ、具体的には、例えば、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートメチレート、セルロースアセテートヒドロキシエチレート、セルロースアセテートヒドロキシプロピレート、セルロースブチレートヒドロキシプロピレート、セルロースジアセテート等が挙げられる。
【0046】
これらの中でも、加工性の観点から、特にセルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースジアセテート(DAC)がよい。
【0047】
ここで、セルロースエステルは、樹脂成形体の耐衝撃性を向上させる観点から、可塑剤(例えば、フタル酸エステルを除く、アジベート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等)をセルロースエステルに対して5質量%以上25質量%以下で含んだものであってもよい。
可塑剤の含有量が少なすぎると、樹脂成形体の耐衝撃性が得られ難くなり、多すぎると、樹脂組成物の流動性の低下、樹脂成形体の引張り強さが低下し易くなることがある。
【0048】
セルロースエステルの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、10000以上100000以下の範囲であることが望ましく、15000以上80000以下の範囲であることがより望ましい。
この重量平均分子量が小さすぎる場合、流動性が過剰となり加工できない場合があり、この重量平均分子量が大きすぎる場合には流動性が不足し加工できない場合がある。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィー装置(島津製作所製Prominence GPC型)を用い、測定カラムにはShim−pack GPC−80Mを使用して測定された値である。以下、同様である。
【0049】
セルロースエステルは、樹脂組成物中に、50phr以上95phr以下で含むが、望ましくは55phr以上95phr以下で含むことがよい。
この含有量が少なすぎると、樹脂組成物(その成形体)が日本バイオプラスチック協会による「グリーンプラ」又は「バイオマスプラ」識別表示制度の認証が得られ難い一方、多すぎると、樹脂成形体の荷重たわみ温度(熱変形温度HDT: Heat Deflection Temperature、)が低下し易くなることがある。
【0050】
−アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂−
アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂は、特に限定されるものではなく、アクリロニトリルとスチレンとの共重合体(その共重合比が質量比で例えば10:1乃至1:10)を含む樹脂であればよい。
アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂として具体的には、例えば、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・スチレン・アクリル酸樹脂SAN樹脂)、及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)等の少なくとも1種が挙げられ、これら2種以上の混合物(ポリマーアロイ)であってもよい。
これらの樹脂の中でも、コストの観点からは、AS樹脂や、ABS樹脂がよい。AS樹脂や、ABS樹脂も、特には限定するものではないが、共重合だけでなく、ポリマーブレンド法で製造されたものであってもよい。
【0051】
アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂の重量平均分子量は、1000以上100000以下の範囲であることが望ましく、5000以上50000以下の範囲であることがより望ましい。
この重量平均分子量が小さすぎる場合、流動性が過剰となり加工性が低下する場合があり、この重量平均分子量が大きすぎる場合には流動性が不足して加工性が低下する場合がある。
【0052】
アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂は、樹脂組成物中に、5phr以上50phr以下で含むが、望ましくは10phr以上30phr以下、含むことがよい。
但し、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂は、後述するポリカーボネートと併用する場合、樹脂組成物中に、ポリカーボネートとの合計量で20phr以上50phr以下含むことがよい。
この含有量が、少なすぎると、樹脂成形体の荷重たわみ温度(熱変形温度HDT: Heat Deflection Temperature、)が低下し易くなる一方、多すぎると、樹脂組成物(その成形体)が日本バイオプラスチック協会による「グリーンプラ」又は「バイオマスプラ」識別表示制度の認証が得られ難くなることがある。
【0053】
ここで、本実施形態に係る樹脂組成物では、後述するポリカーボネートを含まない場合に、得られる樹脂成形体の透明性も発現する。
この理由は定かではないが、上述のように、セルロースエステル中でアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂が微細に分散されるためと考えられるためである。
特に、相溶化剤としてアクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を配合した場合、当該共重合体(その重合成分としてのグリシジル化合物)に含まれるエポキシ基とセルロースエステルに含まれる水酸基とが結合し、この結合により架橋構造を形成すると共に、当該共重合体に含まれるアクリロニトリル・スチレンポリマー部位がアクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂と相溶すると考えられ、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂がセルロースエステルにより微細に分散されると考えられることから、得られる樹脂成形体の透明性が発現し易くなる。
【0054】
−ポリカーボネート−
ポリカーボネートは、特に限定されるものではなく、例えば、繰り返し単位として、(−O−R−OCO−)を有するものが挙げられる。なお、Rは、ジフェニルプロパン、P−キシレンなどが挙げられる。−O−R−Oは、ジオキシ化合物であれば特に限定されるものではない。
ポリカーボネートとして具体的には、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート、ビスフェノールS型ポリカーボネート、ビフェニル型ポリカーボネート等の、芳香族ポリカーボネートが挙げられる。
ポリカーボネートは、シリコーンや、ウンデカ酸アミドとの共重合体であってもよい。
【0055】
ポリカーボネートの重量平均分子量は、5000以上30000以下の範囲であることが好ましく、10000以上25000以下の範囲であることがより好ましい。
ポリカーボネートの重量平均分子量が5000未満の場合、流動性が過剰となり加工性が低下する場合があり、ポリカーボネートの重量平均分子量が30000を超える場合には流動性が不足して加工性が低下する場合がある。
【0056】
ポリカーボネートは、樹脂組成物中に、アクリロニトリル及びスチレンの共重合体含有樹脂との合計で20phr以上50phr以下含むことがよいが、望ましくは20phr以上45phr以下、より望ましくは20phr以上40phr以下で含むことがよい。
この含有量が、少なすぎると、樹脂成形体の荷重たわみ温度(熱変形温度HDT: Heat Deflection Temperature、)が低下し易くなる一方、多すぎると、樹脂組成物(その成形体)が日本バイオプラスチック協会による「グリーンプラ」又は「バイオマスプラ」識別表示制度の認証が得られ難くなることがある。
【0057】
(相溶化剤)
相溶化剤としては、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体が適用される。
アクリロニトリル・スチレンポリマーは、単量体としてのアクリロニトリルとスチレンとの共重合体(例えば、重合比:アクリロニトリル/スチレン=10/100以上100/10以下)である。
グリシジル化合物としては、例えば、グリシジル基を持つ単量体(例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等が挙げられ、好適にはグリシジルメタクリレート)が挙げられ、グリシジル基を持つ単量体と、メタクリレート、アクリレート、アルケン(例えばエチレン等)等の他の単量体との共重合体からなるポリマーも挙げられる。
【0058】
アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体として具体的には、例えば、アクリロニトリル・スチレンポリマーとエチレン・グリシジルメタクリレートポリマーとのグラフト共重合体、ポリカーボネートポリマーとアクリロニトリル・スチレンポリマーとグリシジルメタクリレートとの共重合体等が挙げられる。
【0059】
アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体において、アクリロニトリル・スチレンポリマーとグリシジル化合物との共重合比は、例えば、質量比(アクリロニトリル・スチレンポリマー/グリシジル化合物)で、100/100以上1000/1以下であることがよく、望ましくは100/50以上1000/2以下、より望ましくは100/50以上1000/3以下である。
【0060】
アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体の重量平均分子量は、例えば、500以上100000以下であることがよく、望ましくは500以上750000以下、より望ましくは500以上50000以下である。
【0061】
相溶化剤としてのアクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体は、樹脂組成物中に、0.1phr以上で含むことがよく、望ましくは0.1phr以上20phr以下、より望ましくは0.1phr以上15phr以下で含むことがよい。
この含有量が、0.1phr未満であると、樹脂成形体の寸法安定性が実現され難くなったり、樹脂組成物の成形性が低下し易くなることがあり、また、樹脂成形体の光沢が発現し易くなることがある。なお、相溶化剤としてのアクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体の含有量がある程度多くなると、セルロースエステルとの架橋が強くなり過ぎて、脆化し易くなり、柔軟な構造が作用して得られる樹脂成形体の引張強さが低下する傾向があるため、引張強さを考慮した用途に樹脂成形体を使用する場合には、20phr以下で含有することがよい。
【0062】
また、相溶化剤としてのアクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体に他の成分が共重合されている場合には、樹脂組成物を構成する樹脂との相溶性を損なわないよう、樹脂組成物中への含有量は上記範囲内で適宜調整することがよい。
例えば、ポリカーボネートを含ませる場合、その含有量が相対的に多い樹脂組成物と少ない樹脂組成物とについて、上記他の成分としてポリカーボネートを多く含む相溶化剤を使用するときには、ポリカーボネートの含有量が相対的に多い樹脂組成物よりも相対的に少ない樹脂組成物に対して、相溶化剤をより多く含有するよう調整することがよい。
【0063】
(その他成分)
本実施形態に係る樹脂組成物は、効果を損なわない範囲で上記各成分の他、その他の成分を含んでいてもよい。
【0064】
−難燃剤−
本実施形態に係る樹脂組成物は、難燃性を付与する目的で、難燃剤を含んでもよい。
難燃剤としては、例えば、リン系、シリコーン系、含窒素系、硫酸系、無機水酸化物系等の難燃剤が挙げられる。
リン系難燃剤としては、縮合リン酸エステル、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アルミニウム、ピロリン酸メラミン等が挙げられる。
シリコーン系難燃剤としては、ジメチルシロキサン、ナノシリカ、シリコーン変性ポリカーボネート等が挙げられる。
含窒素系難燃剤としては、メラミン化合物、トリアジン化合物等が挙げられる。
硫酸系難燃剤としては、硫酸メラミン、硫酸グアニジン等が挙げられる。
無機水酸化物系難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、モンモリロナイト等が挙げられる。
【0065】
これらの難燃剤の中でも、難燃性向上の観点から、リン系、硫酸系、無機水酸化物系の難燃剤がよく、特に、常温(例えば25℃)で固体状の難燃剤(例えば、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アルミニウム、ピロリン酸メラミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、モンモリロナイト等)がよい。
【0066】
なお、難燃剤としては合成したものを用いてもよいし市販品を用いてもよい。
リン系難燃剤の市販品としては、大八化学製のPX−200、PX−202、CR−741、CE−733S、TPP、ブーテンハイム製のTERRAJU C80、クラリアント製のEXOLIT AP422、EXOLIT OP930等が挙げられる。
シリコーン系難燃剤の市販品としては、東レダウシリコーン製のDC4−7081等が挙げられる。
含窒素系難燃剤の市販品としては、ADEKA製のFP2200等が挙げられる。
硫酸系難燃剤の市販品としては、三和ケミカル製のアピノン901、下関三井化学製のピロリンサンメラミン、ADEKA製のFP2100等が挙げられる。
無機水酸化物系難燃剤の市販品としては、堺化学工業製のMGZ3、MGZ300、日本軽金属製B103ST等が挙げられる。
【0067】
難燃剤は、樹脂組成物中に、例えば、5phr以上50phr以下で含むことがよいが、望ましくは5phr以上40phr以下で含むことがよい。
この含有量が、少なすぎると、樹脂成形体に難燃性が発現し難くなる一方、多すぎると、樹脂組成物の成形性が低下することがある。
【0068】
ここで、本実施形態に係る樹脂組成物においては、特に、難燃剤として縮合リン酸エステルを5phr以上40phr以下(望ましくは5phr以上35phr以下、より望ましくは10phr以上35phr以下)で含むことがよい。
このリン酸エステルを上記範囲で配合することにより、得られる樹脂成形体の機械的強度がより向上する。
縮合リン酸エステルとしては、特に、1,3−フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート(大八化学製のPX−200)がよい。この1,3−フェニレンビス(ジキシレニル)ホスフェート(大八化学製のPX−200)は、常温(例えば25℃)で固体の化合物で、その製品はパウダー状(粉状)で、押出機成形時のホッパー(投入部)への投入の際、取り扱い性(ハンドリング性)に優れる。なお、これ以外のリン酸エステルは、加温液中ポンプが必要となる。
【0069】
−無機化合物−
本実施形態に係る樹脂組成物は、イオン価数IからIIIまでの元素を単独又は2種以上含有する無機化合物(以下、単に無機化合物と称する)を含んでもよい。
無機化合物を構成するイオン価数IからIIIまでの元素としては、Li,Na,K、Mg、Ca、Ba、Ni、Zn、Fe、Sn、Pb、Mn、Al、Cr等が挙げられる。 これらの元素を単独又は2種以上含有する無機化合物は、セルロースエステルから発生する酸を補足する作用が発現されるものと推測される。
【0070】
無機化合物は、例えば、上記イオン価数を持つ金属の水酸塩、金属のケイ酸塩、金属の硫酸塩、金属の炭酸塩、金属酸化物であり、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイト等の水酸化金属、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸金属、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム等の酸化金属等である。
無機化合物として具体的には、その他、例えば、タルクや受酸剤が代表的なものとして挙げられるが、タルク、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ウオスライト、ゼオライト、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
その中でも、無機化合物としては、タルクとハイドロタルサイトが特によい。
【0071】
なお、無機化合物として、炭酸カルシウムのようにアルカリ性であるものやクレーのように酸性であるものは、セルロースエステルに対してエステルアッタクする可能性があるが、その防御策としては、表面処理したものを使用することが望ましい。表面処理は特に特殊な処理をする必要はなく、通常のシランカップリング剤やステアリン酸やオレイン酸などの脂肪酸で処理すればよい。
【0072】
無機化合物は、樹脂組成物中に、例えば、0.1phr以上10phr以下で含むことがよいが、望ましくは0.5phr以上5phr以下。より望ましくは1phr以上5phr以下含むことがよい。
無機化合物を上記範囲で含有することにより、得られる樹脂成形体の寸法安定性が向上し易くなる。
【0073】
−その他成分−
その他の成分としては、例えば、難燃助剤、ドリップ防止剤、可塑剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、帯電防止剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミナ、ボロンナイトライド等)等が挙げられる。
その他成分は、樹脂組成物中に、例えば、0phr以上10phr以下であることがよく、0phr以上5phr以下であることがより望ましい。ここで、「0phr」とはその他の成分を含まない形態を意味する。
【0074】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記各成分を溶融混練することにより製造される。
ここで、溶融混練の手段としては公知の手段を用いることができ、例えば、二軸押出し機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
【0075】
[樹脂成形体]
本実施形態に係る樹脂成形体は、上記本実施形態に係る樹脂組成物を含んで構成される。具体的には、本実施形態に係る樹脂成形体は、上記本実施形態に係る樹脂組成物を成形することにより得られる。
なお、例えば射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などの成形方法により本実施形態に係る樹脂組成物を成形し、本実施形態に係る樹脂成形体が得られる。
【0076】
ここで、上記本実施形態に係る樹脂組成物の成形温度(例えば押出温度、射出温度)としては、例えば、180℃以上230℃以下であることがよい。
この成形温度が低すぎると、成形性が悪化する傾向があり、高すぎると、得られる樹脂成形体の機械的特性(特に伸び)が低下し、硬く脆くなる傾向がある。
ここで、ポリカーボネートを含む場合であっても、当該ポリカーボネートは本来240℃以上の成形温度が必要であるが、相溶化剤としてアクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を配合した場合、上記範囲の成形温度での成形が実現される。
【0077】
前記射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX500、NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。この際、シリンダ温度としては、樹脂の分解抑制の観点から、170℃以上230℃以下の範囲とすることが望ましく、180℃以上230℃以下の範囲とすることがより望ましい。また、金型温度としては、生産性の観点から、30℃以上100℃以下の範囲とすることが望ましく、30℃以上60℃以下の範囲とすることがより望ましい。
【0078】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、家電製品、容器、自動車内装材などの用途に好適に用いられる。より具体的には、家電製品や電子・電気機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などであり、中でも、電子・電気機器の部品に好適である。
特に、本実施形態に係る樹脂成形体がポリカーボネート不配合のときなど透明性を有する場合には、プラテンカバー等の透明性を必要とする透明部品に好適に適用され得る。
【0079】
図1は、本実施形態に係る成形体を備える電子・電気機器の部品の一例である画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。
図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作するよう開閉自在となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりする。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0080】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、および、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を搬送する自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置および制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱自在なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0081】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーが補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0082】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙供給部136が備えられており、ここからも用紙が供給される。
【0083】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に接触する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙供給部136が設けられている側と反対側に用紙排出部138が複数備えられており、これらの用紙排出部に画像形成後の用紙が排出される。
【0084】
画像形成装置100において、例えば、フロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、および筐体152に、本実施形態に係る樹脂成形体が用いられている。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0086】
[実施例1〜61、比較例1〜11]
表1〜表9に従った成分(数量の単位は「phr」)を2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)にて、シリンダ温度210℃で混練し、樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを、射出成型機(東芝機械社製、製品名「NEX500」)を用いてシリンダ温度210℃、金型温度50℃で射出成型し、長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片(ISO527引張試験、ISO178曲げ試験に対応、試験部厚さ4mm、幅10mm)と、UL−94におけるVテスト用UL試験片(厚さ:0.8mm、1.6mm)を成形した。
【0087】
[評価]
(植物度)
各例で使用した樹脂組成物について、植物度を下記式により算出した。
式:植物度=セルロースエステル質量×(セルロース質量/セルロースエステル質量)/全質量
【0088】
(透明性)
得られた樹脂組成物のペレットをプレス成型機(東洋精機製 ファインラボプレス M−1)により成形し、厚み100μmの試験用シートを作製した。
その試験用シートの光透過率を、紫外・可視光分光光度計(島津製作所製UV−1800)により測定し、透明性を評価した。
なお、測定波長は550nmとした。
また、表中、「−」は測定不可を示している。
(光沢)
得られた試験片を目視し、光沢の有無について調べた。
【0089】
(難燃性)
−UL−V試験−
Vテスト用UL試験片を用い、UL−94HB試験に規定の方法に準拠して、ULチャンバ(東洋精機製)にて、UL−Vテストを実施した。結果の表示は、難燃性が高い方から順にV−0、V−1、V−2、HBであり、HBより劣る場合、即ち試験片が延焼してしまった場合を「failure」と示した。
なお、射出成形できず、試験片を作製できなかったものは、実質上生産不可能という理由から、検討を中止した。
【0090】
(機械的特性)
−引張り強さ、伸び−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片を用い、ISO527に準拠して、評価装置(島津製作所製、精密万能試験機オートグラフAG−IS 5kN)にて、引張り強さ、及び伸びについて測定した。
【0091】
−耐衝撃性−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片にノッチ加工を施し、これを用い、JIS−K7111(2006年)に準拠して、評価装置(東洋精機製DG−UB2)にて、シャルピー衝撃試験より耐衝撃性を測定した。
【0092】
−荷重たわみ温度(HDT)−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片を用い、ISO178曲げ試験に準拠して、HDT測定装置(東洋精機社製、HDT−3)を用にて、1.8MPaの荷重における荷重たわみ温度(℃)を測定した。
【0093】
(耐湿熱性)
−湿熱試験後の耐衝撃性−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片に対して、次のようにして湿熱試験を行った後、上記同様にして耐衝撃性を測定した。
湿熱試験は、湿熱試験機(THN042PA;ADVANTEC製)にて65℃×85%×400時間の条件で行った。
【0094】
−寸法安定性−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片に対して、上記湿熱試験を行う前後で、ダンベル試験片のTD方向(幅方向)の寸法変化(湿熱試験前/湿熱試験後)を調べた。但し、寸法安定性については、実施例1〜61、比較例1〜5について行った。
【0095】
(ウェルド強度)
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片を用い、ISO527に準拠して、評価装置(島津製作所製、精密万能試験機オートグラフAG−IS 5kN)にて、マシンダイレクション方向における引張り強さ及びトラバースダイレクション方向における曲げ強さについて測定した。
但し、ウェルド強度については、実施例38〜40、比較例6〜11について行った。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
【表6】

【0102】
【表7】

【0103】
【表8】

【0104】
【表9】

【0105】
上記結果から、実施例38〜40では、比較例7〜12に比べ、ウェルド強度が向上していることがわかる。
実施例1〜36では、比較例1、2、4,5に比べ、寸法安定性が向上していることがわかる。
また、ポリカーボネートを配合せず、セルロースエステルとアクリルニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂とを配合した実施例では、透明性が発現していることもわかる。
難燃剤として縮合リン酸エステルを含む実施例41〜44では、縮合リン酸エステルを含まない実施例39に比べ、伸びが向上していることがわかる。実施例45〜47と実施例39、実施例49〜51と実施例40についても同様の関係であることがわかる。
さらに、難燃剤として縮合リン酸エステルを含む実施例42では、難燃剤として縮合リン酸エステル以外を含む実施例44に比べ、伸びが大きく向上していることがわかる。実施例46と実施例48、実施例51と実施例55についても同様の関係であることがわかる。
特定の無機化合物を含む実施例53〜55では、特定の無機化合物を含まない実施例41に比べ、寸法安定性が向上していることがわかる。実施例56〜58と実施例45、実施例59〜61と実施例49についても同様の結果であることがわかる。
【0106】
なお、表1〜表9の材料種の詳細は、以下の通りである。
−樹脂−
・CAP482(イーストマンケミカル社製):セルロースアセテートプロピオネート
・TP360A40000−12(イーストマンケミカル社製):セルロースアセテートプロピオネートの可塑剤入り
・PA756S(チーメイ製社製):ABS樹脂
・スタイラックAS 783(旭化成ケミカル社製):AS樹脂
・パンライトTN7300(帝人化成社製):ポリカーボネート/ABS樹脂
−相溶化剤−
・モディパーA4400(日本油脂社製):アクリロニトリル・スチレンポリマーとエチレン・グリシジルメタクリレートポリマーとのグラフト共重合体
−難燃剤−
・PX−200(大八化学社製):芳香族縮合リン酸エステル化合物
・AP−422(クラリアント社製):ポリリン酸アンモニウム
−無機化合物−
・DHT−4A(協和化学製):ハイドロタルサイト
【符号の説明】
【0107】
100 画像形成装置
110 本体装置
120a、120b フロントカバー
136 用紙供給部
138 用紙排出部
142 プロセスカートリッジ
150、152 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、
アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、
を含む樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、ポリカーボネートを、前記アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂との合計で20phr以上50phr以下含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、難燃剤として縮合リン酸エステルを5phr以上40phr以下含む請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、イオン価数IからIIIまでの元素を単独又は2種以上含有する無機化合物を0.1phr以上10phr以下含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上20phr以下含む請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
セルロースエステルを50phr以上95phr以下と、
アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂を5phr以上50phr以下と、
を含む樹脂成形体。
【請求項8】
さらに、ポリカーボネートを、前記アクリロニトリル及びスチレンの共重合体を含有する樹脂との合計で20phr以上50phr以下含む請求項7に記載の樹脂成形体。
【請求項9】
さらに、難燃剤として縮合リン酸エステルを5phr以上40phr以下含む請求項7又は8に記載の樹脂成形体。
【請求項10】
さらに、イオン価数IからIIIまでの元素を単独又は2種以上含有する無機化合物を0.1phr以上10phr以下含む請求項7〜9のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項11】
さらに、アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上含む請求項7〜10のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項12】
前記アクリロニトリル・スチレンポリマー及びグリシジル化合物の共重合体を0.1phr以上20phr以下含む請求項11に記載の樹脂成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−144713(P2012−144713A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277544(P2011−277544)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】