説明

樹脂組成物の脱泡方法およびディスペンス方法

【課題】吐出ノズルの周囲に微少空間が形成されるようシールキャップが装着されたシリンジに樹脂組成物が充填された場合であっても、樹脂組成物中の気泡を十分に除去できる脱泡方法、およびそれを利用する樹脂組成物のディスペンス法を提供する。
【解決手段】シールキャップが装着された吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物を減圧雰囲気下に置くことにより、該樹脂組成物中の泡を脱泡する方法は、樹脂組成物を第1の真空度の減圧雰囲気中で脱泡した後、第1の真空度より低い第2の真空度の減圧雰囲気中で脱泡する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性導電ペーストや半導体チップ用アンダーフィル剤などの樹脂組成物の脱泡方法、およびディスペンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器分野においては、導電ペースト、異方性導電ペースト、半導体チップ用アンダーフィル剤等のフィラーを含有し、比較的高粘度の熱硬化性あるいは紫外線硬化性の樹脂組成物が広く使用されているが、それらの樹脂組成物の高騰化とともに、それらが適用されるべき領域が微少化しているため、樹脂組成部をシリンジに充填し、その微少な径の吐出ノズルから樹脂組成物をディスペンスすることが行われるようになっている。
【0003】
ところで、樹脂組成物中に気泡が混在していると、シリンジの吐出ノズルからの樹脂組成物の定量吐出が困難になり、場合により不吐出という問題も生ずる。このため、シリンジに充填する前の樹脂組成物を真空脱泡機を用いて高真空雰囲気下で脱泡した後、フィルターで濾過し、濾過した樹脂組成物をシリンジに充填し、5mmHgという減圧下で約160Hzの振動処理を行うことが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−286956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の場合、気泡を除去しきれないという問題があった。特に、この問題は、図1のように、樹脂組成物1が充填され、吐出ノズル2を有するシリンジ10に、吐出ノズル2の周囲に微少空間3が形成されるようシールキャップ4が装着された場合に顕著であった。
【0006】
本発明は、以上説明した従来技術の問題点を解決しようとするものであり、吐出ノズル2の周囲に微少空間3が形成されるようシールキャップ4が装着されたシリンジ10に樹脂組成物が充填された場合であっても、樹脂組成物中の気泡を十分に除去できる脱泡方法、およびそれを利用する樹脂組成物のディスペンス法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、樹脂組成物中の除去しきれない気泡の由来を調査したところ、吐出ノズルを有するシリンジにシールキャップを装着することにより吐出ノズルの周囲に微少空間が形成され、その微少空間中に存在しているエアが、樹脂組成物中の気泡がほぼ除去された後に、吐出ノズルの先端からシリンジ内に吸い込まれたことにより生じた気泡が、樹脂組成物中に除去しきれない気泡の元となっていることを発見した。そして、吐出ノズルの先端からシリンジ内へのエアの吸い込みを防止することを研究したところ、脱泡の初期には高い真空度に維持し、その後で真空度を低いレベルに落とし、その低い真空度で脱泡を行うという2段階の真空度で脱泡処理することにより、予想外にも樹脂組成物中の気泡が十分に除去できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、シールキャップが装着された吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物を減圧雰囲気下に置くことにより、該樹脂組成物中の泡を脱泡する方法であって、樹脂組成物を第1の真空度の減圧雰囲気中で脱泡した後、第1の真空度より低い第2の真空度の減圧雰囲気中で脱泡することを特徴とする脱泡方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物のディスペンス方法であって、
シールキャップが装着された吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジに、樹脂組成物を充填する充填工程、
ディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物を、樹脂組成物を第1の真空度の減圧雰囲気中で脱泡した後、第1の真空度より低い第2の真空度の減圧雰囲気中で脱泡する脱泡工程、
ディスペンス用シリンジにプランジャーを装填する工程、
シールキャップを取り外し、プランジャーを押圧することにより吐出ノズルから樹脂組成物を吐出する工程
を有するディスペンス方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、シールキャップが装着された吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物を第1の真空度の減圧雰囲気中で脱泡した後、第1の真空度より低い第2の真空度の減圧雰囲気中で脱泡している。このため、相対的に高い第1の真空度で樹脂組成物中の気泡を効率よく脱泡することができる。また、樹脂組成物中の気泡をほぼ脱泡すると、吐出ノズルを有するシリンジにシールキャップを装着することにより吐出ノズルの周囲に形成された微少空間中のエアが、吐出ノズルの先端からシリンジ内に吸い込まれ始めることが懸念されるが、相対的に低い第2の真空度で脱泡するので、吐出ノズルからのエアの吸い込みを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】シールキャップが装着され、樹脂組成物が充填されたディスペンス用シリンジの先端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物の脱泡方法は、シールキャップが装着された吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物を減圧雰囲気下に置くことにより、該樹脂組成物中の泡を脱泡する方法であって、樹脂組成物を第1の真空度の減圧雰囲気中で脱泡した後、第1の真空度より低い第2の真空度の減圧雰囲気中で脱泡することを特徴とするものである。
【0013】
シールキャップを備えたディスペンス用シリンジとしては、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂からなる市販のものを使用することができる。通常、その容積は5〜70cc、吐出ノズル開口径は0.14〜1.6mm、吐出ノズル長は26〜35mmである。シールキャップとしては、図1ではスクリュー式のものを示したが、それに限られず、シリンジに装着した際に、吐出ノズル周囲に微少空間が形成されてしまうようなタイプのものを適用することが好ましい。
【0014】
樹脂組成物としては、シリンジからの少量ディスペンスに適したものを適用することが好ましく、例えば、導電接着ペースト、異方性導電接着ペースト、アンダーフィル剤、ポッチング剤などに適用するものを挙げることができる。これらの配合組成には特に限定はないが、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、マレイミド樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂などに、硬化剤、フィラー(導電粒子、絶縁性粒子)からなる樹脂組成物が挙げられる。これらには、必要に応じてシランカップリング剤、界面活性剤、顔料、泡消剤、溶剤等の成分を配合することができる。
【0015】
中でも、樹脂組成物としてエポキシ樹脂を主剤とする熱硬化性のものを好ましく使用することができる。エポキシ樹脂としては、固形状でも液状でもよく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック、クレゾールノボラック類とエピクロルヒドリンとの反応により得られるポリグリシジルエーテル、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型(フェニレン、ジフェニレン骨格を含む)エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を含むエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0016】
エポキシ樹脂用硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、ジシアンジアミド、ジカルボン酸ジヒドラジド化合物、カルボン酸無水物等、イミダゾール化合物(潜在化したものを含む)などが挙げられる。
【0017】
フィラーの導電粒子としては、銀、金、銅、アルミニウム、ニッケル等の金属粒子、ハンダなどの合金粒子、表面に金属層が形成された樹脂粒子等が挙げられる。これらは、樹脂組成物の使用目的により、その粒子径、形状、素材が選択される。また、絶縁性粒子としては、シリカ、ボロンナイトライド、アルミナ、アルミニウムナイトライド、窒化珪素などの無機粒子、アクリル系重合体、ジビニルベンゼン重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂などの有機粒子等が挙げられる。これらも、使用目的により、その粒子径、形状、素材が選択される。
【0018】
以上のような樹脂組成物の粘度は、シリンジからの少量ディスペンスに適した粘度を有することが好ましく、低すぎると液広がりが多くなり、高すぎると吐出が困難となるので、円錐−平板形回転粘度計(例えば、Haake粘弾性測定装置、RheoStress75)を使用し、定常粘度測定条件(1〜10回転/分)で測定したときに、好ましくは2000〜200000mPa・s、より好ましくは3000〜180000mPa・sである。
【0019】
第1の真空度での脱泡と第2の真空度での脱泡とは、同一真空容器内で連続的に行ってもよく、それらの間でいったん大気に開放してもよいが、生産性の点から同一真空容器内で連続的に行うことが好ましい。
【0020】
第1の真空度は、シールキャップを吐出ノズルとの間に形成される微少空間中のエアが吐出ノズルからシリンジ内の樹脂組成物中に進入してしまう真空度であり、第2の真空度が、シールキャップを吐出ノズルとの間に形成される微少空間中のエアが吐出ノズルからシリンジ内の樹脂組成物中に進入しない真空度である。具体的には、第1の真空度は、樹脂組成物の粘度や量などにより異なるが、低すぎると樹脂組成物中の気泡が脱泡されにくく、高すぎると樹脂組成物表面に乱れが生ずるので、好ましくは93〜99KPa、より好ましくは96〜99KPaである。第1の真空度より低い第2の真空度は、低すぎると樹脂組成物中の気泡が脱泡されにくく、高すぎるとシールキャップと吐出ノズルとの間に形成される空間中のエアーをシリンジ内の樹脂組成物中に進入させるので、好ましくは60〜90KPa、より好ましくは65〜85KPaである。
【0021】
第1の真空度と第2の真空度の差は、小さすぎるとシールキャップと吐出ノズルとの間に形成される空間のエアをシリンジ内の樹脂組成物中に進入させてしまい、大きすぎると樹脂組成物中の気泡が脱泡されにくくなるので、好ましくは8〜39KPa、より好ましくは11〜34KPaである。
【0022】
第1の真空度での脱泡の時間は、樹脂組成物の粘度や量などにより異なるが、短すぎると樹脂組成物中に気泡が残り、長すぎると樹脂組成物表面に乱れが生ずるので、好ましくは3〜15分、より好ましくは5〜10分である。
【0023】
減圧雰囲気を作り出す装置としては、特に制限はなく、市販のものを適宜使用することができる。
【0024】
本発明の脱泡方法においては、ディスペンス用シリンジに充填された樹脂組成物を減圧雰囲気中で脱泡する際に、樹脂組成物に減圧以外の他の刺激を与えなくてもよいが、泡の効率的な除去のために、ディスペンス用シリンジに充填された樹脂組成物に対し、遊星式撹拌(特許第3627220号参照)を行うことが好ましい。遊星式撹拌脱泡装置としては、市販のものを使用することができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物の脱泡方法は、吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物のディスペンス方法にも好ましく適用できる。このようなディスペンス方法は以下の工程を含むものである。
【0026】
シールキャップが装着された吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジに、樹脂組成物を充填する充填工程;
ディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物を、樹脂組成物を第1の真空度の減圧雰囲気中で脱泡した後、第1の真空度より低い第2の真空度の減圧雰囲気中で脱泡する脱泡工程;
ディスペンス用シリンジにプランジャーを装填する工程; および
シールキャップを取り外し、プランジャーを押圧することにより吐出ノズルから樹脂組成物を吐出する工程。
【0027】
充填工程は、シリンジに樹脂組成物を充填する従来の手法に従って行うことができる。この場合、充填前の樹脂組成物の脱泡を行ってもよい。その脱泡の方法としては、本発明の脱泡方法に準じて行ってもよいが、従来公知の樹脂組成物の脱泡方法を利用することができる。
【0028】
脱泡工程は、本発明の樹脂組成物の脱泡方法を適用したものである。
【0029】
ディスペンス用シリンジにプランジャーを装填する工程およびシールキャップを取り外し、プランジャーを押圧することにより吐出ノズルから樹脂組成物を吐出する工程は、いずれも従来の公知のディスペンス法の工程を採用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0031】
実施例1および比較例1
予め脱泡処理された熱硬化性接着剤20ccを、ポリプロピレン製スクリュー型シールキャップが装着されたポリプロピレン製のシリンジ(容積50cc、吐出ノズル径0.25mm、吐出ノズル長30mm)に充填装置を用いて充填した。
【0032】
熱硬化性接着剤が充填されたシリンジを遊星式撹拌脱泡装置を用い、表1に示す条件で2段階減圧脱泡処理した。
【0033】
脱泡処理済みの樹脂組成物が充填されたシリンジに、それに適合するポリプロピレン製のプランジャーを挿入し、ディスペンサー装置(ML−5000XII、武蔵エンジニアリング社)に装着し、表1に示す2段階減圧脱泡処理条件で樹脂組成物をポリプロピレン製プレート上に連続ライン状にディスペンスを行った。ディスペンスされたライン状樹脂組成物のエアによる途切れの有無を目視にて観察した。得られた結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1からわかるように、2段階減圧脱泡処理を行った実施例1ではエアによる途切れが観察されず、それに対し、1段階減圧脱泡処理を行った比較例1ではエアによる途切れが観察された。従って、実施例で使用した熱硬化性接着剤のような樹脂組成物をシリンジに充填した場合の当該樹脂組成物の脱泡は、2段階減圧脱泡処理により行うことができることがわかる。
【0036】
なお、実施例1の2段階減圧脱泡処理を、0.2〜2cc/分の樹脂組成物吐出量、300〜6000mm/分のプレート移動速度という条件で実施例1と同様に行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の脱泡方法により処理された樹脂組成物は、吐出ノズルの周囲に微少空間が形成されるようシールキャップが装着されたシリンジに充填された場合であっても、十分に気泡が除去されたものとなる。従って、本発明は、電子機器分野で用いられる導電ペースト、異方性導電ペースト、半導体チップ用アンダーフィル剤等のフィラーを含有し、比較的高粘度の熱硬化性あるいは紫外線硬化性の樹脂組成物の脱泡に有用である。
【符号の説明】
【0038】
1 樹脂組成物
2 吐出ノズル
3 微少空間
4 シールキャップ
10 シリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールキャップが装着された吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物を減圧雰囲気下に置くことにより、該樹脂組成物中の泡を脱泡する方法であって、樹脂組成物を第1の真空度の減圧雰囲気中で脱泡した後、第1の真空度より低い第2の真空度の減圧雰囲気中で脱泡することを特徴とする脱泡方法。
【請求項2】
第1の真空度が、シールキャップを吐出ノズルとの間に形成される微少空間中のエアが吐出ノズルからシリンジ内の樹脂組成物中に進入してしまう真空度であり、第2の真空度が、シールキャップを吐出ノズルとの間に形成される微少空間中のエアが吐出ノズルからシリンジ内の樹脂組成物中に進入しない真空度である請求項1記載の脱泡方法。
【請求項3】
減圧雰囲気中で脱泡する際に、ディスペンス用シリンジに充填された樹脂組成物に対し、遊星式撹拌を行う請求項1または2記載の脱泡方法。
【請求項4】
減圧雰囲気中で脱泡する際に、ディスペンス用シリンジに充填された樹脂組成物に対し、振動処理を行う請求項1または2記載の脱泡方法。
【請求項5】
樹脂組成物がフィラーを含有し、粘度が2000〜200000mPa・sである請求項1〜4の脱泡方法。
【請求項6】
吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物のディスペンス方法であって、
シールキャップが装着された吐出ノズルを有するディスペンス用シリンジに、樹脂組成物を充填する充填工程、
ディスペンス用シリンジ中に充填された樹脂組成物を、樹脂組成物を第1の真空度の減圧雰囲気中で脱泡した後、第1の真空度より低い第2の真空度の減圧雰囲気中で脱泡する脱泡工程、
ディスペンス用シリンジにプランジャーを装填する工程、
シールキャップを取り外し、プランジャーを押圧することにより吐出ノズルから樹脂組成物を吐出する工程
を有するディスペンス方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−274613(P2010−274613A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131796(P2009−131796)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】