説明

樹脂組成物

【課題】加工時の仮固定に適応でき、汎用接着剤の短時間硬化、接着強度等の性能を維持し、温水により短時間で剥離が可能な接着性樹脂組成物の提供である。
【解決手段】エポキシ樹脂とメルカプト基を2以上有する分子量800以下の化合物を含む温水剥離可能な接着性樹脂組成物であり、これに親水性及び親水性基を有する(メタ)アクリレートを含むこと、また メルカプト基を有する化合物のメルカプト当量が120〜160であることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温水で剥離する接着性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加工のための仮止め接着剤は熱溶融樹脂、水溶性樹脂、溶剤可溶樹脂、アルカリ水溶液可溶樹脂、酸可溶樹脂によるものなどがあった。それぞれ特徴を有し、熱溶融樹脂は水、溶剤には強いものの、加工を上回る高温溶融温度で処理することと完全に樹脂を除去できないことが難点であった。水溶性樹脂は手軽な水ではあるが、水を処理時に使用することができず、溶剤可溶樹脂は溶剤を使い環境として好ましいものではなかった。アルカリ水溶液可溶、酸可溶樹脂は樹脂の設計が難しいものであった。
【0003】
研削加工等の加工を施す加工台等の所定の位置に、被加工物を仮固定する仮固定用ホットメルト接着剤において、仮固定用ホットメルト接着剤が、一種又は複数種の脂肪族化合物から成り、且つ前記接着剤が、室温で固体状であって、融点が50℃以下であることを特徴とするもので、取扱が容易で、固定する時間を短縮し得る仮固定用ホットメルト接着剤が開示されている。(特許文献1)
【0004】
常温で容易に再剥離できる接着剤組成物として、少なくとも一方が多孔質体であること、(A)(a)炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル70〜99.9重量%と、(b)a,b−不飽和カルボン酸0.1〜10重量%と、(c)前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、a,b−不飽和カルボン酸とを除くビニル化合物0〜29.9重量%とをポリビニルアルコール不完全ケン化物の保護コロイドの存在下に水性懸濁重合することによって得られた粘着性重合体微細球を含有してなる水性エマルジョン形樹脂100重量部(固形分換算)に対し、(B)有機ピグメント100〜1000重量部を含み、さらに、吸油量50ml/100g以下の充填剤2000重量部以下を含む条件が開示されている。(特許文献2)
【0005】
接着硬化物の水への溶解性が大きく、機械加工後の小物品を仮固定から取り外す際に、水中に浸漬するだけで容易に取り外し得、低かぶれ性、低毒性、低臭性をも保持した仮固定用紫外線硬化性接着剤組成物として、水に可溶な複素環状2級アミン残基を有する(メタ)アクリルアミドの樹脂成分、例えばアクリロイルモルホリンと、光重合開始剤、好ましくは水溶性光重合開始剤と、必要に応じて水とを含み、前記樹脂成分と、水との二成分間の含有比率は樹脂分50重量%以上、水50重量%以下であって、この配合物に光重合開始剤を所望の適当量添加したものが開示されている。(特許文献3)
【0006】
発泡処理前には耐熱性に優れまた発泡処理後は被着体から容易に剥離することができる発泡性接着剤組成物で、接着性ポリマーと、t−ブチルオキシカルボニル構造を有する発泡性成分と、発泡開始剤と、を備える発泡性接着剤組成物が開示されている。(特許文献4)
【0007】
(1)ポリエン、(2)ポリチオール、(3)還元剤、(4)酸化剤、(5)酸化防止剤を含有する樹脂組成物であり、配合して成ることを特徴とする樹脂発泡体を接着する樹脂組成物であり、それからなる接着剤で、ポリスチレン、メタクリル系樹脂発泡体製の鋳造用消失型を構成する模型部品同士を接着するための接着剤が開示されている。(特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−8780号公報
【特許文献2】特開2005−48078号公報
【特許文献3】特開平6−116534号公報
【特許文献4】特開2004−43732号公報
【特許文献5】特開2008−208217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする課題は、接着剤の短時間硬化、接着強度等の性能を維持し、温水により短時間で剥離が可能な接着性樹脂組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、エポキシ樹脂とメルカプト基を2以上有する分子量800以下の化合物を含む温水剥離可能な接着性樹脂組成物で、常態では通常の接着剤と同様な接着力、硬化物性を有し、温水剥離が可能である。
【0011】
請求項2の発明は、親水性及び親水性基を有する(メタ)アクリレートを含む請求項1に記載の接着性樹脂組成物で、温水剥離が短時間で行える。
【0012】
請求項3の発明は、前記メルカプト基を2以上有する分子量800以下の化合物がメルカプト基が3以上であり、メルカプト当量が120〜160であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか記載の接着性樹脂組成物で、短時間で硬化し、短時間での温水剥離ができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は温水で剥離することができ、常態においては接着性と硬化物性が得られるという特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明はエポキシ樹脂とメルカプト基を2以上有する化合物を有する接着性樹脂組成物が温水による剥離が短時間に行え、短時間に硬化し、高い接着性を有する。さらに、温水剥離を短時間とするために多官能メタクリレートを含むことを特徴とする。以下 詳細に説明をする。
【0015】
本発明に使用するエポキシ樹脂は硬化後の接着特性を調整するために適宜選択する。ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、反応性希釈剤などエポキシ基を有するものの組み合わせで、接着性・硬化性・硬化後の接着特性で適宜選択する。
例えば、耐熱性を要求されれば、ノボラックタイプの多官能エポキシ樹脂を、低粘度と密着性にはブチルカテコールとエピクロルヒドリンの重縮合物エポキシ樹脂等を選択し配合する。
【0016】
本発明に使用するメルカプト基を2以上有する化合物は理論分子量800以下が好ましい。さらにメルカプト基当量が120〜190が好ましい。接着剤に使用されるジチオールの重縮合物やポリエーテルを主鎖としたポリチオールは不適であるが、接着特性の調整に配合することはできる。このメルカプト基を2以上有する化合物の例として、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,3,5−トリス(3−メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)等がある。温水剥離性をより短時間とするためには3官能以上が好ましい。
【0017】
上記 エポキシ樹脂とメルカプト基を2以上有する化合物の硬化を促進するため、エポキシ樹脂とポリチオール系硬化剤で汎用に用いられる3級アミンやポリアミンを配合することができる。粘度・相溶性などの点で3級アミンが好ましい。3級アミンの例として、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2-
(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、N,N-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン等がある。
【0018】
本発明では(メタ)アクリレートを使うことができる。これはメルカプト基を2以上有する化合物とマイケル付加反応で結合し、硬化促進させることと、温水剥離の短時間とすることを目的とし、前者は多官能(メタ)アクリレート、後者は親水性及び親水性基を有する(メタ)アクリレートであり、単官能であっても目的を達し、前者の目的を併せて対応する場合は多官能なものを使用する。前者にはジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が、後者の親水性及び親水性基を有する(メタ)アクリレートは側鎖に水酸基等の親水性基或いはポリエチレングリコール等の親水性を有する主鎖、側鎖を導入した(メタ)アクリレートで、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、各種エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド変性品等がある。両者に属するものとしてペンタエリスリトールトリアクリレート等がある。
【0019】
エポキシ樹脂、メルカプト基を有する化合物、(メタ)アクリレートの配合はそれぞれの反応性が大きく異ならない限り、エポキシ基と(メタ)アクリル基の総数を1とした場合、メルカプト基0.7〜1.6が好ましい。この範囲であれば、接着強度・硬化性・硬化物性が両立できる。0.9〜1.3がさらに好ましい。
本発明の温水剥離性効果はエポキシ樹脂とメルカプト基を有する化合物のみ、或いは(メタ)アクリレートを加えた樹脂組成物でも発現するが、接着作業、接着性において充填剤を配合する。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、一般的な形態として、主剤としてエポキシ樹脂、多官能(メタ)アクリレートを主な成分とし、硬化剤としてメルカプト基を2以上有する化合物を主成分とし、必要に応じて、分散剤、界面活性剤、可塑剤、カップリング剤、消泡剤、沈降防止剤、充填剤、有機溶剤、希釈剤等を配合することができる。硬化促進剤は保存性が支障が無ければどちらに配合しても良い。調製には、汎用の混合手段で調整され、2液方法が、常温硬化として挙げることができる。
【0021】
本発明の使途は半導体ブロックの切断、ウエハ等の仮接着剤として、また、保護用塗布剤として使うことができる。
【0022】
温水の浸漬は樹脂組成物の被塗物形状、塗布状態、配合により変わるため、40〜80℃で1分〜6時間の範囲で随時選択する。
【0023】
以下 実施例・比較例を記し、評価結果を表1に記す。
【実施例1】
【0024】
jER828(ジャパンエポキシレジン(株)、商品名、エポキシ当量184〜194、比重1.17、分子量約370)110重量部と、ライトアクリレート9EG−A(共栄社化学(株)、商品名、分子量400のポリエチレングリコールジアクリレート)12.5重量部と、シランカップリング剤KBM−403(信越化学(株)、商品名、化学名γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)2.5重量部と、充填剤として炭酸カルシウムA(三共精粉(株)、商品名、D50が15μm)75重量部をそれぞれ配合した後、ミキサーを用いて1時間攪拌し、均一に混合した。次いで、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学(株)、商品名PEMP、分子量約488.67)を76.8重量部とアミン系触媒 K−54(エアープロダクツジャパン(株)、商品名、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールとビスジメチルアミノメチルフェノールの混合物)を4.5重量部添加した後、さらに1分間攪拌して、実施例1の樹脂組成物とした。
【実施例2】
【0025】
実施例1のペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)をトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学(株)、商品名TMMP、分子量約398.57)96重量部に、K−54を5.6重量部に変えた以外同じに行い、実施例2の樹脂組成物とした。
【実施例3】
【0026】
実施例1のペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)をジペンタエリスリトールヘキサ(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学(株)、商品名DPMP、分子量約783.03)に変えた以外同じく行い、実施例3の樹脂組成物とした。
【実施例4】
【0027】
実施例1の9EG−Aをライトアクリレート14EG−A(共栄社化学(株)、商品名、分子量600のポリエチレングリコールジアクリレート、)に、変えた以外同じく行い、実施例4の樹脂組成物とした。
【実施例5】
【0028】
実施例1の9EG−AをライトエステルHOA(共栄社化学(株)、商品名、2−ヒドロキシエチルアクリレート)に変えた以外同じく行い、実施例5の樹脂組成物とした。
【実施例6】
【0029】
実施例1の9EG−AをKAYARAD PET−30(日本化薬(株)、商品名、ペンタエリスリトールのトリアクリレート、テトラアクリレート混合物)に、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)を115.2重量部に、K−54を3.4重量部に変えた以外同じく行い、実施例6の樹脂組成物とした。
【実施例7】
【0030】
実施例1のペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)をペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(昭和電工(株)、商品名KarenzMT PE1、分子量約544.8)に変えた以外同じく行い、実施例7の樹脂組成物とした。
【実施例8】
【0031】
実施例1の9EG−AをKAYARAD DPHA(日本化薬(株)、商品名、ジペンタエリスリトールペンタ、ヘキサアクリレート混合物)に、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)を115.2重量部に、K−54を3.4重量部に変えた以外同じく行い、実施例8の樹脂組成物とした。
【実施例9】
【0032】
実施例1の9EG−AをアデカグリシロールED−503((株)ADEKA、商品名、グリシジルエーテル類)に変えた以外同じく行い、実施例9の樹脂組成物とした。
【実施例10】
【0033】
実施例1の9EG−AをED−503に、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)をペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)に変えた以外同じく行い、実施例10の樹脂組成物とした。
【0034】
比較例1
実施例1のペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)をカップキュアWR−6(ジャパンエポキシレジン(株)、商品名、カップキュアはコグニス社の登録商標、ポリチオール、メルカプタン価5.7)を122重量部に、K−54を無添加にした以外同じく行い、比較例1の樹脂組成物とした。
【0035】
比較例2
実施例1のペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)をカップキュア3−800(ジャパンエポキシレジン(株)、商品名、カップキュアはコグニス社の登録商標、ポリチオール、メルカプタン価3.0以上)122重量部に、K−54を6.7重量部にした以外同じく行い、比較例2の樹脂組成物とした。
【0036】
比較例3
クイックシール30主剤(アイカ工業(株)、商品名、エポキシ系接着剤)100重量部と、同品番硬化剤(ポリチオール系)100重量部を1分間攪拌し、比較例3の樹脂組成物とした。
【0037】
【表1】

【0038】
初期接着力測定:JISK6850に準拠し、実施例・比較例の樹脂組成物を2枚のSUS板(長さ100mm×幅25mm×厚さ1.5mm)の間に、接着面積が3.125cmとなるように挟み、23℃、2時間静置し、試験体とした。試験体はn=5で、23℃相対湿度50%下、万能抗張力試験試験機5582型(インストロンジャパン(株)製)を用いて測定した。
【0039】
温水剥離性評価:ガラス板(長さ100mm×幅25mm×厚さ1.5mm)に、実施例・比較例の樹脂組成物を100μm塗布し、23℃、8時間の静置し、試験体とした。これをそれぞれ50、60、70℃の温水に浸漬し、樹脂組成物の硬化物がピンセットで容易に剥離できることができるまでに要する時間を5分毎に評価した。3時間浸漬しても剥離できなかったものを×とした。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は仮止め接着剤として温水で剥離が容易に行うことができ、シリコンブロック、ウエハ等の加工時の仮固定として使用できる他、接着以外一時保護用塗材として適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂とメルカプト基を2以上有する分子量800以下の化合物を含む温水剥離可能な接着性樹脂組成物。
【請求項2】
親水性及び親水性基を有する(メタ)アクリレートを含む請求項1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項3】
前記メルカプト基を2以上有する分子量800以下の化合物がメルカプト基が3以上であり、メルカプト当量が120〜160であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか記載の接着性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−57870(P2011−57870A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209614(P2009−209614)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】