説明

樹脂被覆中空シリコーン系微粒子と被膜形成用多官能アクリル系化合物を含む塗布液および該塗布液を使用した被膜付基材。

【課題】 本発明は、高い透明性と高い反射防止性能を有し膜強度の高い被膜付基材を作成することが可能な塗布液を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記工程(a)〜工程(c)により得られることを特徴とする、反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子と被膜形成用多官能アクリル系化合物を含む塗布液。
(a)有機物粒子を、シリコーン系化合物により被覆する工程
(b)更に多官能化合物とビニル系化合物によりグラフト重合を行い、反応性官能基を有する多層コアシェル粒子を製造する工程
(c)前記多層コアシェル粒子中の有機物粒子を有機溶剤により除去する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能化合物を構成成分として含むビニル系樹脂で被覆された構造を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子と被膜形成用多官能アクリル系化合物を含む塗布液に関する。さらには該塗布液を使用した被膜付基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明基材の最外層に基材より低屈折率の物質からなる低屈折率層(減反射層)を可視光波長の1/4の膜厚み(約100nm)で形成すると表面反射率が低減することが知られている。この原理を応用したフィルムやガラスの反射防止透明基材は電気製品、光学製品、建材等の分野で広く使用されている。
【0003】
減反射層の形成方法としては、フッ化マグネシウム等を蒸着またはスパッタリングするドライコーティング法と低屈折率材料の溶液を基材に塗布するウエットコーティング法が知られている。近年、適用できる基材の制約が少なく、連続生産性やコスト面でも優位なウエットコーティング法が注目されている。
【0004】
ウエットコーティング法の低屈折率材料としては、フッ素系樹脂や多孔質あるいは中空シリカと被膜形成用マトリックスとからなる材料が知られている(特許文献1、5)。
粒子径が0.1〜300μm程度の中空シリカとその製造法はすでに公知である(特許文献2および3参照)。特許文献2に開示された技術では、先ず珪酸塩等の無機物に有機溶剤を添加混合して水中油滴型(O/W型)乳化液を作り、これに親油性界面活性剤を含む有機溶剤を添加混合して油中水中油滴型(O/W/O型)乳濁液を作り、最後に無機酸や無機酸のアンモニウム塩等により無機化合物を水不溶性沈殿物に変え無機中空微粒子を得ている。その後も中空シリカ粒子の様々な製造法が開示されている(特許文献4乃至7参照)。特許文献4では、アルカリ金属等の珪酸塩等とアルカリ可溶な無機化合物をpH10以上のアルカリ水溶液でコロイド粒子にし、この粒子の珪素と酸素以外の元素の一部を除去した後、この粒子を加水分解性有機珪素化合物等で被覆する方法が開示されている。特許文献6では、水を可溶化したテトラアルコキシシランを界面活性剤で有機溶剤中にエマルジョン化すると、加水分解・縮合反応が起こり、含水率が高い場合にはミクロンサイズの中空シリカ粒子が合成できることが開示されている。また、特許文献7では、珪酸アルカリ金属から活性シリカをシリカ以外の材料のコア上に沈殿させ、コアを除去することにより中空シリカを得る製法が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの技術では、シリカ層中の多数の細孔や薄いシリカ層の厚みのために加工時に壊れ易いとか空洞内に核粒子のかなりの部分が残り空隙率が上がらないという課題、粒子径分布の広いミクロンサイズのものしか製造できないため用途が限定されるという課題、あるいは反応時間が長く工程が多いため生産性が悪いという課題など、多くの問題を残している。
【0006】
また、反射防止用ウエットコーティング剤に中空シリカを使用する場合には、無機物であるシリカと有機物である被膜形成用マトリックスの相溶性が悪いため、中空シリカを有機溶剤に分散させた分散液の保存安定性や分散液とマトリックスから成る被膜での中空シリカの分散性が悪く、また中空シリカの配合量が高くなると被膜の強度が低下するという大きな課題を残している。この課題に対し特許文献8では外側表面を有機分子で修飾した無機酸化物微粒子が開示されているが、特定の組合せにしか適用できない上膜強度がまだ十分でないなどの問題を残している。
【特許文献1】特開昭63−85701号公報
【特許文献2】特開昭63−258642号公報
【特許文献3】特開平6−330606号公報
【特許文献4】特開平7−133105号公報
【特許文献5】特開2001−233611号公報
【特許文献6】特開平11−29318号公報
【特許文献7】特表2000−500113号公報
【特許文献8】特開2006−281099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い透明性と高い反射防止性能を有し膜強度の高い被膜付基材を作成することが可能な塗布液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、特定のシリコーン系化合物からなる層と多官能化合物及びビニル系化合物の重合体からなる層を有した反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子が分散液の保存安定性や被膜中での分散性が優れることを見出し、該微粒子と被膜形成用多官能アクリル系化合物を硬化させて得られる被膜により、低反射率で高い膜強度をもつ透明な基材が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、下記1)〜5)に関する。
1)シリコーン系化合物からなる中空粒子が多官能化合物を構成成分として含むビニル系樹脂で被覆された構造を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子と被膜形成用多官能アクリル系化合物とを含有する塗布液。
2)前記多官能化合物を構成成分として含むビニル系樹脂が反応性官能基を有することを特徴とする、1)に記載の塗布液。
3)前記シリコーン系化合物が、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)およびR2SiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、R2SiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物であることを特徴とする、1)〜2)のいずれか1項に記載の塗布液。
4)前記樹脂被覆中空シリコーン系微粒子が、有機物粒子2〜95重量%をシリコーン系化合物5〜97重量%で被覆し、さらに多官能化合物とビニル系化合物の共重合体1〜30重量%で被覆してなる多層コアシェル粒子(ただし有機物粒子とシリコーン系化合物と多官能化合物とビニル系化合物の合計量を100重量%とする)から有機物粒子を有機溶剤により除去して得られるものであることを特徴とする、1)〜3)のいずれか1項に記載の反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子と被膜形成用多官能アクリル系化合物を含む塗布液。
5)1)〜4)のいずれか1項に記載の塗布液を紫外線硬化させて得られる被膜が単独または他の被膜と共に基材表面上に形成されてなることを特徴とする被膜付基材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子は、高い空隙率を持ち低い屈折率を示し、被覆樹脂表面に反応性官能基を有しているため低い反射率と高い透明性および高い膜強度を有する被膜付基材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子と被膜形成用多官能アクリル系化合物を含む塗布液に関するものである。また、該微粒子を含有する被膜付基材に関するものである。
【0012】
本発明の反応性官能基とは、紫外線照射によるラジカル重合反応の反応点となる二重結合性官能基のことをいう。例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の被膜形成用アクリル系化合物は、紫外線照射により被膜付基材形成時に強固なバインダーとなりうる。アクリル系化合物は特に制限がなく、(メタ)アクリロイル基またはビニル基を有する2官能以上の(メタ)アクリル系化合物であればよい。このような(メタ)アクリロイル基またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物の使用によって、より高い硬度を有する三次元構造を形成したアクリル系樹脂被膜を得ることが出来る。このような(メタ)アクリロイル基またはビニル基を有する多官能(メタ)アクリル系化合物としては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ―(メタ)アクリロイルオキシプロピネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2-ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2.2.1]ヘプタン、ポリー1,2−ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10−デカンジオール(メタ)アクリレート、3,8−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.10]デカン等などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0014】
本発明の反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子を構成するシリコーン系化合物は、SiO4/2単位、RSiO3/2単位およびR2SiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなる有機のシリコーン系化合物である。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロポキシ基などの炭素数1乃至4のアルキル基;フェニル基などの炭素数6乃至24の芳香族基;ビニル基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基などの有機基、などが挙げられる。複数のRは各々同じであっても異なっていても良い。
【0015】
前記SiO4/2単位の原料としては、例えば、四塩化ケイ素、テトラアルコキシシラン、水ガラスおよび金属ケイ酸塩からなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。テトラアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、およびそれらの縮合物などが挙げられる。
【0016】
前記RSiO3/2単位中のRは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基から少なくとも1種が選択される。基材によっては、Rに少量のビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基と、多量のアルキル基または芳香族基を選択する場合もありうる。RSiO3/2単位の原料としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0017】
本発明のR2SiO2/2単位(Rは、RSiO3/2単位中のRと同様の群から選択されうる)の原料としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシランなど、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサンなどの環状化合物のほかに、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサンも使用できる。
【0018】
本発明では、シリコーン系化合物による被覆の後で多官能化合物及びビニル系化合物のグラフト重合を行うため、シリコーン化合物中にシリコーン系グラフト交叉剤を少量導入することが好ましい。シリコーン系グラフト交叉剤としては、例えば、前記のγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等やγ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等の、ビニル系化合物と共重合可能な官能基を有するシリコーン系化合物が揚げられる。このシリコーン系グラフト交叉剤の使用割合は、シリコーン系化合物100重量%中に0.1〜10重量%が好ましく、0.5〜5重量%がより好ましい。シリコーン系グラフト交叉剤の使用量が多過ぎると乳化重合で多官能化合物及びビニル系化合物の重合による被覆を行う際のラテックスの安定性が悪くなる場合がある。シリコーン系グラフト交叉剤の使用量が少な過ぎると多官能化合物およびビニル系化合物のグラフト重合が進まないことがある。
【0019】
本発明のシリコーン系化合物100モル%中のRSiO3/2単位の割合は、コアシェル粒子の粒子径分布の安定性の観点から、50〜100モル%であることが好ましく、更には75〜100モル%であることがより好ましい。RSiO3/2単位の割合が50モル%未満になるとコアシェル粒子の外に小粒径の新粒子が生成することがある。
【0020】
本発明では、中空シリコーン系微粒子に柔軟性を持たせたい場合等にR2SiO2/2単位を少量混入することができる。シリコーン系化合物100モル%中のR2SiO2/2単位の割合は20モル%以下であることが好ましく、さらには10モル%以下であることがより好ましい。R2SiO2/2単位の割合が20モル%を越えると最終の中空シリコーン系微粒子が柔軟になり過ぎて形状保持性に問題が起こる場合がある。なお、シリコーン系化合物中のR2SiO2/2単位の割合の下限値は0モル%である。
【0021】
本発明において、シリコーン系化合物中のSiO4/2単位は、中空シリコーン微粒子の形状保持性の観点から使用してもよい。使用量はシリコーン系化合物100モル%中0〜50モル%であることが好ましく、更には0〜10モル%であることがより好ましい。SiO4/2単位の割合が50モル%を越えると無機物に近づき、被膜形成用マトリックスとの相溶性が低下し分散液の保存安定性が低下したり被膜中で微粒子が凝集したりする。その結果、被膜付基材の透明性が大きく低下する。
【0022】
本発明のビニル系化合物の具体例としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系化合物、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系化合物などがあげられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。このビニル系化合物の重合物は分散液に使用する有機溶剤との相溶性が良いことや被膜形成用マトリックスとの相溶性が良いことが重要なため、それらに合わせて選択する必要がある。例えば、被膜形成用マトリックスにアクリル系樹脂が使用される場合にはビニル系化合物は(メタ)アクリル酸エステル系化合物が適しており、メタクリル酸メチル等が特に適している。
【0023】
本発明の多官能化合物の具体例としては、構造式中に少なくとも二点の反応性官能基を有するものであればよい。例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリエート、エチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられるが、少なくとも二点の反応性官能基の反応性が異なるものが好ましく、例えば(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニルが好ましい。反応性官能基の具体例としては、アクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニル基などが挙げられる。
【0024】
反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子の製造方法には特に限定が無く、例えば除去可能なコア粒子をシリコーン系化合物で被覆したコアシェル粒子からコア粒子を除去して中空シリコーン系微粒子を得た後、多官能化合物及びビニル系化合物の重合により被覆して製造しても良いし、除去可能なコア粒子をシリコーン系化合物で被覆し、更に多官能化合物及びビニル系化合物の重合により被覆して得られる多層コアシェル粒子からコア粒子を除去して製造しても良い。工程数を少なくできるという点からは、有機物粒子をシリコーン系化合物により被覆し更に多官能化合物およびビニル系化合物によりグラフト重合を行って被覆した多層コアシェル粒子中の有機物粒子を除去して製造することが好ましい。
【0025】
多層コアシェル粒子の製造におけるコア粒子である有機物粒子としては、有機高分子粒子および/または有機溶剤からなる粒子が用いられうる。前記粒子において、有機高分子粒子および有機溶剤を併用する場合の使用割合については、重量比で有機高分子粒子/有機溶剤が100/0〜1/99の範囲が好ましい。
【0026】
有機高分子粒子の組成については限定されるものではなく、例えば、ポリアクリル酸ブチル、ポリブタジエン、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体等に代表される軟質重合体でもよく、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等の硬質重合体でも問題なく使用できる。後の凝固工程での除去性という点から、これらのうち軟質重合体が好ましく、ポリアクリル酸ブチルがより好ましい。
【0027】
有機高分子粒子の製造法は、特に限定されず、乳化重合法、マイクロサスペンジョン重合法、ミニエマルション重合法、水系分散重合法など公知の方法が使用できる。なかでも、粒子径の制御が容易であり、工業生産にも適する点から、乳化重合法により製造することが特に好ましい。
【0028】
前記有機高分子粒子の重合にはラジカル重合開始剤が用いられうる。ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられる。上記重合を、例えば、硫酸第一鉄−ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ−エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩、硫酸第一鉄−グルコース−ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄−ピロリン酸ナトリウム−リン酸ナトリウムなどのレドックス系で行うと、低い重合温度でも効率的に重合を完了することができる。
【0029】
有機高分子粒子は、後の段階で行なわれる有機高分子の除去を有機溶媒により行う場合を考慮すると非架橋高分子であることが好ましく、有機高分子粒子の分子量は低い方が好ましい。具体的には、重量平均分子量が30000未満であることが好ましく、さらには10000未満であることがより好ましい。有機高分子粒子の重量平均分子量を低くするためには、例えば、連鎖移動剤の使用、高い重合温度に設定、多量の開始剤を使用するなど種々の手段を適宜組み合わせて選択することができる。有機高分子粒子の重量平均分子量の下限値は特に制限されるものではないが、合成の難易度の点から、概ね2000程度である。なお、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析(ポリスチレン換算)によって測定できる。
【0030】
本発明においては、有機高分子粒子の粒子径分布を狭くするためにシード重合法を利用することもできる。中空シリコーン系粒子が均一な屈折率を有するという点からは、有機高分子粒子の粒子径分布は狭い方が好ましい。なお、ラテックス状態の有機高分子粒子や多層コアシェル粒子の体積平均粒子径は、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められうる。体積平均粒子径および粒子径分布は、例えば、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いることにより測定することができる。
【0031】
有機物粒子に用いる有機溶剤は、水に溶けず、乳化剤により微粒子を形成できるものであればよく、具体例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0032】
本発明では、有機物粒子、シリコーン系化合物、多官能化合物、ビニル系化合物の重量割合は必ずしも制限されるものではないが、有機物粒子とシリコーン系化合物と多官能化合物およびビニル系化合物の合計量を100重量%とすると、有機物粒子は2〜95重量%であることが好ましく、さらには10〜50重量%がより好ましい。2重量%未満になると最終の樹脂被覆した多層コアシェル粒子の空隙率が低くなり過ぎる場合がある。また、逆に95重量%を超えると樹脂被覆した多層コアシェル粒子の強度が不足して加工中に壊れる場合がある。
【0033】
シリコーン系化合物は5〜97重量%であることが好ましく、さらには50〜80重量%がより好ましい。5重量%未満になると最終の樹脂被覆した多層コアシェル粒子の強度が不足して加工中に壊れる場合がある。また、逆に97重量%を超えると樹脂被覆した多層コアシェル粒子の空隙率が低くなり過ぎる場合がある。
【0034】
多官能化合物及びビニル系化合物からなる樹脂被覆層は1〜30重量%であることが好ましく、更には2〜20重量%がより好ましい。1重量%未満になると被覆した多層コアシェル粒子の分散液の保存安定性が低下したり被膜中で微粒子が凝集したりする場合がある。また、逆に30重量%を超えると被覆した多層コアシェル粒子の空隙率が低くなる場合がある。(メタ)アクリル酸エステル系化合物とビニル系化合物の重量比は20/80〜80/20であることが好ましく、40/60〜60/40であることがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系化合物の量が少なすぎると作成した被膜の強度が低下し、ビニル系化合物の量が少なすぎると作成した被膜の透明性が低下する場合がある。
【0035】
樹脂被覆した多層コアシェル粒子の体積平均粒子径は0.001〜1μmの範囲であることが好ましく、更には0.002〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。0.001μmより小さい粒子や1μmより大きな粒子を合成することは可能であるが、安定的に合成することは難しい傾向がある。
【0036】
樹脂被覆した多層コアシェル粒子の粒子径分布は特に制限されるものではないが、均一な屈折率を有する方が好ましいという点からは、粒子の80%以上が平均粒子径の±30%の範囲であることが好ましい。
【0037】
本発明では、例えば、有機物粒子と、酸触媒を含む5〜120℃の水に対し、乳化剤、SiO4/2単位の原料、RSiO3/2単位の原料、およびR2SiO2/2単位の原料と水の混合物をラインミキサーやホモジナイザーで乳化した乳化液を一括あるいは連続的に追加することにより、シリコーン系化合物で被覆された粒子を得ることができる。乳化液の追加は一括でも連続でも構わない。時間的には長くなるがラテックス状粒子の安定性や粒子径分布を重視するなら連続追加を採用することが好ましい。乳化液の追加前に酸触媒を添加して、直ちに加水分解と縮合反応が進む条件で連続追加を行うと、コアシェル粒子は時間とともに大きく成長し、通常のシード重合のように、狭い粒子径分布を示すものを得ることができる。30分ないし1時間の比較的短い時間の連続追加を行うと、比較的良い生産性と狭い粒子径分布を両立することもできる。
【0038】
本発明に使用できる乳化剤としては、アニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤が好適に使用されうる。アニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどが挙げられるが、特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好適に用いられる。ノニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンラウリルエーテルなどが挙げられる。
【0039】
本発明に用いることのできる酸触媒は、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類、および硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類が挙げられる。これらの中では、オルガノシロキサンの乳化安定性に優れる観点から、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。
【0040】
シリコーン系化合物で被覆された粒子を製造する際の反応のための加熱は、適度な重合速度が得られるという点で5〜120℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。
【0041】
シリコーン系化合物で被覆された粒子に、多官能化合物およびビニル系化合物をグラフト重合するため、前記の有機高分子粒子の重合に使用できる具体例として挙げたラジカル重合開始剤や還元剤が利用できる。
【0042】
本発明において、多層コアシェル粒子の中から有機物粒子を除去する方法としては、例えば、有機溶剤を用いる方法、燃焼による方法などがあげられる。多層コアシェル粒中の有機物粒子を除去するのに使用される有機溶剤としては、コアになる有機物粒子を溶解し、シェルになるシリコーン系化合物を溶解しないものが好ましい。具体例としては、メタノール、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン等が挙げられる。
【0043】
また、本発明では、コアを除去したのちさらにシリコーン系微粒子を有機溶剤で洗浄することもできる。洗浄に用いることのできる有機溶剤の具体例としては、メタノール、n−ヘキサン等が挙げられる。
【0044】
樹脂被覆中空シリコーン系微粒子の体積平均粒子径0.001〜1μmの範囲であることが好ましく、更には0.002〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。0.001μmより小さい粒子や1μmより大きな粒子は被膜つき基材の透明性を低下させる傾向がある。
【0045】
基材上に本発明の樹脂被覆中空シリコーン系微粒子を含む被膜を形成するには、樹脂被覆中空シリコーン系微粒子が微分散し易く、かつ被膜形成用マトリックスと相溶する溶剤に樹脂被覆中空シリコーン系微粒子を分散させる。溶剤の具体例としては、溶剤としてはケトン類、エステル類、フェノール類、芳香族炭化水素類、フロン類、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド等が使用できる。この分散液と被膜形成用マトリックスとを混合し、塗布液を作成する。この塗布液をコート法、スピナー法、ディップ法、スプレー法等を用いて一定膜厚みの被膜を形成する。
【0046】
本発明に用いる被膜形成用マトリックスとしてはアクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂などの塗料用樹脂やアルコキシシラン等の加水分解性有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、多官能アクリル系化合物を用いることが好ましい。該多官能アクリル系化合物は本発明の樹脂被覆粒子中空シリコーンとの相溶性に優れ、かつ紫外線硬化を行うことにより高密度に架橋し高い透明性と膜強度に優れた被膜が形成できる。本発明の樹脂被覆中空シリコーン系微粒子は反応性官能基を有するため、該多官能アクリル系化合物と混合した被膜を作成し紫外線硬化することにより、該多官能アクリル系化合物と樹脂被覆中空シリコーン系微粒子が反応硬化し膜強度を損なうことなく高い透明性と低反射率を有する被膜を形成することが出来る。
【0047】
紫外線硬化に使用する光重合開始剤は特には限定されず、市販のラジカル系光重合開始剤を好適に用いることが出来る。例えば、和光純薬製の1−シクロヘキシルフェニルケトン等を使用することが出来る。
【0048】
形成した被膜中の樹脂被覆中空シリコーン系微粒子と被膜形成用マトリックスの重量比率は、99/1〜1/99の範囲であることが好ましく、更には30/70〜70/30の範囲であることがより好ましい。この比率が70/30より大きくなり、樹脂被覆中空シリコーン系微粒子が多くなると被膜強度が低下する傾向を示す。この比率が30/70より小さくなり、樹脂被覆中空シリコーン系微粒子が少なくなると被膜の屈折率が下がらず、反射防止効果が小さくなる傾向を示す。
【0049】
本発明の樹脂被覆中空シリコーン系微粒子は、従来の中空シリカに比較して空隙率が大きいため、少量の使用で反射率を低下させることができる。また、粒子表面が無機物でない上有機化合物で被覆されているため、分散液の保存安定性や被膜中での分散性が優れている。更に紫外線硬化時にマトリックスとの反応活性基を有するため、被膜強度の低下がなく低い反射率を示す被膜付基材を得ることができる。
【0050】
被膜は基材上に単独で形成しても良く、他の被膜とともに形成しても良い。他の被膜としては、例えば保護膜、ハードコート膜、平坦化膜、高屈折率膜、絶縁膜、導電性樹脂膜、導電性金属微粒子膜、導電性金属酸化物微粒子膜、プライマー膜などが挙げられる。
【0051】
本発明に使用される基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、アクリル等のプラスチックやガラス等が挙げられる。基材の形状はとくに限定されず、フィルム状でも板状でもレンズ状でも良い。
本発明の被膜付基材は、反射防止膜付基材として、テレビ、パソコン等の電子機器などに使用できる。
【実施例】
【0052】
本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。なお、以下の実施例および比較例における測定および試験はつぎのように行った。
【0053】
[体積平均粒子径]
有機高分子粒子、多層コアシェル粒子の体積平均粒子径をラテックスの状態で測定した。測定装置として、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いて、光散乱法により体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0054】
[有機高分子の重量平均分子量]
有機高分子の重量平均分子量は、GPC測定データよりポリスチレン標準試料で作成した検量線を用いて換算して求めた。
【0055】
[多層コアシェル粒子からの有機高分子等の除去の確認]
凝固後の上澄液と洗浄後の上澄液のポリアクリル酸ブチル量を求めることによりコアの除去を確認した。
【0056】
[反射率の測定]
塗布面と反対側のPETフィルム表面をサンドペーパーで荒し、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計(日本分光株式会社製 紫外可視分光光度計V−560型、積分球装置ISV−469型)により反射率を測定し、可視光域での極小値を読み取った。
【0057】
[耐擦傷性]
往復磨耗試験機(HEIDON−TYPE30、新東科学株式会社製)を用いて、60往復/minの条件下で、スチールウール#0000により100g/cm2の荷重をかけながら20往復の摩擦をした後、傷の発生の程度を以下基準により評価した。
良(○)・・・・傷が見られない。
不良(△)・・・10本以下の傷が見られた。
不可(×)・・・大量の傷が見られた。
【0058】
(製造例1)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、化合物追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水400重量部(種々の希釈水も含む水の総量)およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)5重量部(固形分)を混合した後、50℃に昇温し、液温が50℃に達した後、窒素置換を行った。その後、ブチルアクリレート10重量部、t−ドデシルメルカプタン3重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合液を加えた。30分後、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.002重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えてさらに1時間重合させた。その後ブチルアクリレート90重量部、t−ドデシルメルカプタン27重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.1重量部の混合液を3時間かけて連続追加した。2時間の後重合を行い、ラテックス状の有機高分子粒子を得た。このラテックスの体積平均粒子径は0.07μm、重量平均分子量は4000であった。
【0059】
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、化合物追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水500重量部(種々の希釈水も含む水の総量)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)3重量部、有機高分子粒子25重量部(固形分)を混合した。この時のpHは1.8であった。80℃に昇温し、窒素置換を行った。その後、別途純水100重量部、SDBS(固形分)0.5重量部、メチルトリメトキシシラン(MTMS)66.5重量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製KBM−503)3.5重量部の混合液を30分かけて一定速度で全量を追加した。追加終了後、5時間撹拌を続けた後、60℃に冷却した。硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.002重量部、エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えて、30分後にビニル系化合物としてメタクリル酸メチル2.5重量部、多官能化合物としてメタクリル酸アリル2.5重量部(メタクリル酸メチル/メタクリル酸アリル=50/50)を加え、双方の合計量の1.0重量%のパラメンタンハイドロパーオキサイドとの混合液を30分かけて追加した。2時間撹拌を続けた後、25℃に冷却して20時間放置し、ラテックス状の多層コアシェル粒子を得た。
【0060】
つづいて、ラテックス状の多層コアシェル粒子100重量部に対し、アセトンをまず50重量部を加えて5分間撹拌し、その後アセトン150重量部を加えて25分間撹拌した。3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離する。上澄液を除いた後、濾紙を用いて凝固粒子層を単離した。それをメタノール70重量%、n−ヘキサン30重量%の混合溶剤300重量部に分散させた。この分散液を3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離する。濾紙を用いて凝固粒子層を単離し反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子を得た。単離された該微粒子をMIBKに分散させ、粒子濃度が約5重量%の分散液を得た。
【0061】
(製造例2)
製造例1において、メタクリル酸メチルを4.0重量部、メタクリル酸アリルを1.0重量部(メタクリル酸メチル/メタクリル酸アリル=80/20)となるように配合量を変化させた以外は同様の操作を行い、反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子のMIBK分散液(粒子濃度約5重量%)を得た。
【0062】
(製造例3)
製造例1において、多官能化合物としてメタクリル酸アリルを加えない以外は同様の操作を行い、反応性官能基を有しない樹脂被覆中空シリコーン系微粒子のMIBK分散液(粒子濃度約5重量%)を得た。
【0063】
(実施例1)
製造例1で得られた反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子のMIBK分散液5.53g(固形分0.3375g)と被膜形成用マトリックスであるヘキサアクリレート(DPHA:新中村化学製)0.3375gおよび光重合開始剤として1-シクロヘキシルフェニルケトン(和光純薬製)0.017g、MIBK8.79gを加え、固形分濃度4.5%の被膜形成用塗布液を得た。
【0064】
この塗布液をPETフィルムにバーコーター法で塗布し、その後70℃で10分間乾燥し、ベルトコンベア型紫外線硬化機(Fusion社製)により塗布膜の硬化を行い、被膜の厚さが0.1〜0.2μmの被膜付基材(被膜中の粒子濃度50重量%)を作成し、各特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
実施例1に記載の方法において、粒子濃度56%となるように配合量を変化させた以外は、実施例1と同様に被膜付基材を作成し、各特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
実施例1に記載の方法において、製造例2で得られた反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子のMIBK分散液を使用する以外は、実施例1と同様に被膜付基材を作成し、各特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0067】
(比較例1)
実施例1に記載の方法において、製造例3で得られた反応性官能基を有しない樹脂被覆中空シリコーン系微粒子を使用する以外は同様の操作を行い、被膜中の粒子濃度50重量%の被膜付基材を作成し、各特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例2)
比較例1に記載の方法において、粒子濃度56%となるように配合量を変化させた以外は、比較例1と同様に被膜付基材を作成し、各特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0069】
(比較例3)
なにも塗布しないPETフィルムの評価結果を表1に示した。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、反応性官能基を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子50〜56重量%からなる被覆を形成した実施例1〜3は、基材そのものである比較例3よりも高い透明性(低いHaze)と高い反射防止性能(低い反射率)と高い膜強度を有することが解った。更に、反応性官能基を有しない樹脂被覆中空シリコーン系微粒子を使用した比較例1〜2と比較して、同程度の透明性を保ちながら高い反射防止性能と高い膜強度を両立した被膜付基材が得られることが解った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン系化合物からなる中空粒子が多官能化合物を構成成分として含むビニル系樹脂で被覆された構造を有する樹脂被覆中空シリコーン系微粒子と被膜形成用多官能アクリル系化合物とを含有する塗布液。
【請求項2】
前記多官能化合物を構成成分として含むビニル系樹脂が反応性官能基を有することを特徴とする、請求項1に記載の塗布液。
【請求項3】
前記シリコーン系化合物が、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)およびR2SiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、R2SiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか1項に記載の塗布液。
【請求項4】
前記樹脂被覆中空シリコーン系微粒子が、有機物粒子2〜95重量%をシリコーン系化合物5〜97重量%で被覆し、さらに多官能化合物とビニル系化合物の共重合体1〜30重量%で被覆してなる多層コアシェル粒子(ただし有機物粒子とシリコーン系化合物と多官能化合物とビニル系化合物の合計量を100重量%とする)から有機物粒子を有機溶剤により除去して得られるものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗布液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗布液を紫外線硬化させて得られる被膜が単独または他の被膜と共に基材表面上に形成されてなることを特徴とする被膜付基材。

【公開番号】特開2010−95657(P2010−95657A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268820(P2008−268820)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】