説明

樹脂複合粒子の製造方法、樹脂複合粒子、繊維処理剤の製造方法およびその繊維処理剤

【課題】樹脂複合粒子を微小にできるとともに、樹脂複合粒子が繊維内部への浸透を向上でき、かつ樹脂複合粒子に含まれる機能性成分の除放性を向上できる樹脂複合粒子の製造方法、樹脂複合粒子、繊維処理剤の製造方法およびその繊維処理剤を提供すること。
【解決手段】 少なくとも機能性成分とモノマーからなる溶液に界面活性剤と水とを加えてエマルジョン化し、機能性成分、モノマー、界面活性剤、水からなるエマルジョンの機能性成分とモノマーの合計濃度を10〜50%に調整し、加熱または紫外線照射により、溶液と界面活性剤と水との混合液を重合すると、樹脂複合粒子が得られる。そして、この樹脂複合粒子に接着樹脂を混合させることによって繊維処理剤が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂複合粒子の製造方法、樹脂複合粒子、繊維処理剤の製造方法および繊維処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラウス、ドレスシャツ、パンツ、スカート、裏地、家具・車両等の座席のシートの表皮材等の繊維を用いた製品が市場に出回っている。
これら繊維製品は、各種用途の違いにより、材料となる繊維に要求される機能が異なっている。これら要求される機能としては、例えば、保湿性、吸水性、吸湿性、芳香性、制電性等が挙げられる。
これらの機能を繊維製品に付与するために、特定の機能性成分を含有した繊維処理剤により、繊維製品の処理を施すことが試みられている。
機能性成分を繊維製品に耐久固着させる場合、機能性成分が水や有機溶剤に不溶な物質であれば、微粉砕し、接着樹脂とともに加工する方法がある。
一方、機能性成分が水や有機溶剤に溶ける物質の場合は、機能性成分をマイクロカプセルに封入することで、洗濯時等の機能性成分の水への流出を抑え、その機能を持続させることができる。特許文献1は、洗濯時他の活性成分の水流出による損失を抑える目的で、活性成分をマイクロカプセルに封入し、結合剤とともに繊維に加工する方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特表2005−529246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、マイクロカプセルの粒径が1μmを超える場合には、マイクロカプセルが繊維内部に浸透する比率が低いため、洗濯による脱落がある。これを回避するために接着樹脂の比率を増すと、糸表面に接着樹脂が堆積し、生地の風合いを損なうといった問題が生じる。
しかしながら、特許文献1に記載のマイクロカプセルは、平均直径が0.0001〜5mmとなっており、繊維組織に浸透する比率が低い。また、特許文献1に記載の製造方法ではマイクロカプセル封入工程が煩雑であり、また多層構成が必要であるため、特に天然由来有機物質のような液体または不定形固体を扱う場合、平均粒径1μm以下のカプセルを製造することは極めて困難である。
【0005】
本発明の目的は、樹脂複合粒子を微小にできるとともに、樹脂複合粒子が繊維内部への浸透を向上でき、かつ樹脂複合粒子に含まれる機能性成分の除放性を向上できる樹脂複合粒子の製造方法、樹脂複合粒子、繊維処理剤の製造方法およびその繊維処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂複合粒子の製造方法は、繊維表面の処理を行う際に用いられる繊維処理剤に含まれる樹脂複合粒子の製造方法であって、少なくとも機能性成分とモノマーからなる溶液に界面活性剤と水とを加えてエマルジョン化し、機能性成分、モノマー、界面活性剤、水からなるエマルジョンのうち、機能性成分とモノマーの合計濃度を10〜50%に調整し、加熱または紫外線照射により前記溶液と前記界面活性剤と前記水との混合液を重合して樹脂複合粒子を得ることを特徴とする。
【0007】
本発明において、機能性成分は、モノマーに溶解した状態で重合されることによって樹脂化する。すなわち、機能性成分が樹脂に溶け込んだ複合体となるため、多層構成を必要としない。したがって、特許文献1に記載のマイクロカプセル製造法のように、煩雑なカプセル封入工程を必要としないので、ナノサイズの樹脂複合粒子を製造することができる。また、多層構成ではないので、カプセル破壊によって内包物が一気に流出することがなく、除放性が向上する。
さらに、機能性成分、モノマー、界面活性剤、水からなるエマルジョンのうち、機能性成分とモノマーの合計濃度を10〜50%に調整することで、ナノサイズの樹脂複合粒子を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
これより、樹脂複合粒子を構成する各成分について説明する。
本発明の樹脂複合粒子の製造方法において、機能性成分は、logPow値(n−オクタノール/水分配係数)が0以上であることが好ましい。すなわち、本発明の機能性成分は、有機溶媒に溶けやすく、水に溶けにくい性質を有している。
また、本発明の機能性成分は、オリゴペプチドのN末端脂肪酸アミド化合物を含む複合体または植物由来の芳香性成分またはポリフェノール類の疎水化変性物であることが好ましい。
具体的には、テルペン、ポリフェノール、カロチン、トコフェロール、クロップオイルなどの植物エキスの他、動植物由来の蛋白質からなるオリゴペプチド、(デオキシ)リボ核酸およびその部分変性物、天然または合成芳香化合物、抗酸化性脂肪酸類(DHA等)などが挙げられる。
これらの機能性成分を用いた樹脂複合粒子を後述の繊維処理剤として繊維製品に処理することによって、各機能性成分が持つ機能を繊維製品に付加することができる。
例えば、ポリフェノールは抗菌・抗ウィルス性、抗酸化性、消臭等の機能を有しているので、これらの機能を繊維製品に付加することができる。
【0009】
モノマーは、アクリル酸系、メタクリル酸系、マレイン酸系、ビニルエステル系、ビニルエーテル系、スチレン系モノマーのうち、少なくとも1つ以上からなる。
アクリル酸系としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、分岐を含むC1〜C12のアクリル酸エステルおよびC1〜C6の(ジ)アルキルアミドなどが挙げられる。
メタクリル酸系としては、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、分岐を含むC1〜C12のメタクリル酸エステルおよびC1〜C6の(ジ)アルキルアミドなどが挙げられる。
マレイン酸系としては、マレイン酸、マレイン酸無水物、C1〜C6の(ジ)アルキルエステルなどが挙げられる。
ビニルエステル系としては、C2〜C8の酸ビニル、ビニルエーテル系としては、C2〜C8のビニルエーテルが挙げられる。
【0010】
また、架橋性のモノマーを添加することにより、樹脂複合粒子がその架橋構造に取り込まれ、樹脂複合粒子の硬度が上がり、機能性成分の保持力が向上する。
架橋性モノマーとしては、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、ポリオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
架橋性モノマーを添加する場合、その添加量は、好ましくは、架橋性モノマーも含むモノマーの総和を100質量%として、0〜5質量%である。5質量%を超えると、これ以上増やしても、架橋構造により重合したポリマー構造が崩れにくくなるという効果は現れない。より好ましい添加量は、0.2〜3質量%である。
【0011】
界面活性剤は、アニオン系、ノニオン系およびカチオン系のいずれの界面活性剤も使用することができる。
アニオン系界面活性剤として、例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、p−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリデシル−ポリオキシエチレン−スルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレン−モノドデシルエーテル、ポリオキシエチレン/プロピレン−モノトリデシルエーテル、デカグリセリン−モノ/ドデシルエーテル等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤として、例えば、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、スルホニルージ(ドデシルトリエチルアンモニウム)、エタンスルホニル−エチルジメチルトリデシルアンモニウム等が挙げられる。
【0012】
界面活性剤とモノマーの配合は、界面活性剤の比率が、界面活性剤:モノマー=1:3以下であることが好ましい。
界面活性剤の配合比がこれを超えても、機能性成分とモノマーの混合液の分散性は向上せず、繊維加工の際にバインダー樹脂の固着性能に低下をきたす恐れがある。
【0013】
以上に説明した構成成分を混合して、樹脂複合粒子を製造する方法について説明する。
まず、機能性成分をモノマーに溶解させる。
機能性成分とモノマーの質量比は、機能性成分:モノマー=1:3〜1:10であることが好ましい。さらに好ましくは、機能性成分:モノマー=1:4〜1:6である。
モノマー比が、機能性成分:モノマー=1:3よりも小さくなると、樹脂複合粒子の軟化点が低くなり、樹脂複合粒子が変形し、機能性成分が流出しやすくなる。また、モノマー比が、機能性成分:モノマー=1:10よりも大きくなると、機能性成分の効率が悪く、実用的な機能が得られない。
【0014】
機能性成分がモノマーのみの混合物に溶解しない場合には、高級アルコール、鉱油、植物油のいずれかを加えることが好ましい。
高級アルコールは、C6〜C18の高級アルコールで、分岐したものも含む。これにより、効率よく機能性成分をモノマーに均一に溶解させることができる。さらには、機能性成分が、芳香剤のような揮発性物質である場合には、揮発抑制にも効果がある。
【0015】
次に、機能性成分が溶解したモノマー溶液に界面活性剤と水を加えてエマルジョン化する。
機能性成分とモノマーとからなる溶液に界面活性剤を加え、水と混合することでエマルジョンを作製する。このときの機能性成分とモノマーの合計濃度は10〜50%であることが好ましい。
濃度が10%未満の場合、得られる樹脂複合粒子の製造効率が低くなるだけでなく、機能性成分が水に溶け込みやすくなるため、得られる樹脂複合粒子中の有効成分濃度が低くなりやすい。
また濃度が50%を超える場合、重合反応により得られる粒子の粒系が大きくなりやすく、本発明の目的である500nm以下の粒子を得られなくなってしまう。
【0016】
加熱により重合する際の反応温度は、好ましくは50〜120℃であり、より好ましくは80〜100℃である。反応温度が50℃未満の場合は、モノマーの重合が進みにくくなる恐れがある。反応温度が120℃を超えると、水が沸騰する恐れがある。
また、加熱により重合する際には、必要に応じて、重合開始剤を併用してもよい。重合開始剤は、水溶性重合開始剤および脂溶性重合開始剤のいずれも使用できる。
水溶性重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチルアミン)二塩酸塩、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
脂溶性重合開始剤として、例えば、ラウロイルパーオキシド、m−クロロ過安息香酸、α,α’−アゾビスイソブチルロニトリル等が挙げられる。
【0017】
このようにして得られた樹脂複合粒子は、平均粒径500nm以下であることが好ましい。
この発明によれば、樹脂複合粒子が平均粒径500nm以下と非常に小さいので、後述の繊維処理剤に含有させて繊維製品に処理を行うと、樹脂複合粒子が繊維組織に深く浸透することができる。したがって、機能性成分を含んだ樹脂複合粒子が、洗濯や摩耗などにより容易に脱落することがないので、機能性成分が持つ機能を長期にわたって持続することができる。
【0018】
次に、前述の樹脂複合粒子を含有する繊維処理剤について説明する。
本発明の繊維処理剤の製造方法は、前記樹脂複合粒子に接着樹脂を混合させて得られることが好ましい。
この発明によれば、繊維処理剤が前述の作用効果を備えた樹脂複合粒子を含有しているので、この繊維処理剤で処理した繊維製品においては、ナノサイズの樹脂複合粒子が繊維組織に深く浸透して保持される。したがって、洗濯等により脱落しにくく、洗濯耐久性および摩耗耐久性が格段に優れる。
また、適切な接着樹脂を併用することで、樹脂複合粒子を確実に固着でき、さらには、イグルー型の付着形態を実現できるので、機能性成分の樹脂複合粒子からの除放性をさらに制御できる。その結果、樹脂複合粒子に含まれる機能性成分の機能が長期にわたって持続される。
【0019】
接着樹脂は、熱硬化性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系、シリコン系およびポリウレタン系のうち、少なくとも1つ以上であることが好ましい。
具体的には、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム塩の単独重合体またはこれらの共重合体、シロキサン、変性シリコンをエステル残基に含む(メタ)アクリレートの単独重合体または(メタ)アクリル酸系モノマーとの共重合体等が挙げられる。
また、これらの樹脂で、熱架橋性の官能基を有するものが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸エステル残基の一部に、エポキシ基またはアジリジル基を有するものや、ウレタン末端の一部に、メトキシカーバメート基、エトキシカーバメート基、またはフェノキシカーバメート基を有するものが挙げられる。
さらに、ポリオキシエチレングリコールおよび/またはポリエステルジオールとヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート等の架橋重合体等が挙げられる。
この発明によれば、接着樹脂により、樹脂複合粒子を強固に繊維組織に固着させることができる。
また、樹脂複合粒子は平均粒径500nmと微小であるので、繊維組織への浸透率が高く、接着樹脂の量を低減できる。これにより、接着樹脂による白浮きや風合いの低下を解消することができ、さらには、材料費のコストダウンにもつながる。
【0020】
樹脂複合粒子と接着樹脂の固形分質量比は、樹脂複合粒子:接着樹脂=2:3〜10:1が好ましく、より好ましくは、樹脂複合粒子:接着樹脂=3:2〜5:1である。樹脂複合粒子の比率が、樹脂複合粒子:接着樹脂=2:3より小さくなると、接着樹脂が過剰となり、繊維製品の風合いの低下につながるばかりでなく、樹脂成分の除放が、過剰の接着樹脂により阻害され、機能の低下をきたす。樹脂複合粒子の比率が、樹脂複合粒子:接着樹脂=10:1より大きくなると、接着樹脂が不足し、脱落する恐れがある。
【0021】
こうして得られた繊維処理剤を用いて、繊維製品に対して処理を行う。
原料となる繊維は、合成繊維(ポリエステル、ナイロン、アクリル等)、半合成繊維(アセテート等)、再生繊維(レーヨン、アセテート、キュプラ等)、天然タンパク質繊維(ウール、シルク)、天然セルロース繊維(綿、麻、ケナフ、バナナ、竹等)等が挙げられる。
より好ましくは、天然セルロース繊維である。繊維形状が凹凸に富み、ナノサイズの樹脂複合粒子が細部に浸透しやすい。
上記の繊維処理剤で処理する繊維の形態は、糸、織物、不織布、編物等のいずれでもよい。
【0022】
繊維処理剤を繊維製品に対して処理を行う具体的な方法としては、浸漬、生地のパッドドライ法、吸尽加工法、糸(ボビン)のチーズ染色法およびスプレードライ法等がある。
【0023】
本発明の樹脂複合粒子は、前述の樹脂複合粒子の製造方法によって製造された樹脂複合粒子であることが好ましい。
この発明によれば、樹脂複合粒子は前述の製造方法により製造されているので、前述と同じ作用効果を奏することができる。
【0024】
本発明の繊維処理剤は、前述の繊維処理剤の製造方法によって製造された繊維処理剤であることが好ましい。
この発明によれば、繊維処理剤は前述の製造方法により製造されているので、前述と同じ作用効果を奏することができる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
まず、以下の実施例1、実施例2および比較例1により製造した樹脂複合粒子の粒径を測定した。
【0026】
[実施例1]
機能性成分として、芳香性オイルであるヴィダローム「ローズマリーカンファ」エッセンシャルオイル(ロート製薬(株)製)1容量部を、市販オリーブオイル5容量部に混合したものを使用した。
モノマー成分として、アクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルを使用し、更に高級アルコール成分としてドデシルアルコールを使用し、重合開始剤としてジイソブチルパーオキサイドを使用した。
機能性成分100質量部、アクリル酸メチル250質量部、メタクリル酸ブチル250質量部、重合開始剤25質量部、高級アルコール50質量部を混合し機能性成分溶液を調製した。
調製した溶液に界面活性剤として第一工業製薬社製、ネオコールSW-Cを100質量部添加した後、水1225質量部を加えてエマルジョンを作成した。
このエマルジョン溶液を80℃に加熱し、モノマーを重合させ樹脂複合粒子を得た。
【0027】
[実施例2]
実施例1で用いた機能性成分100質量部、アクリル酸メチル100質量部、メタクリル酸ブチル100質量部、重合開始剤10質量部、高級アルコール50質量部を混合し機能性成分溶液を調製した。
調製した溶液に界面活性剤として第一工業製薬社製、ネオコールSW-Cを60質量部添加した後、水655質量部を加えてエマルジョンを作成した。
このエマルジョン溶液を80℃に加熱し、モノマーを重合させ樹脂複合粒子を得た。
【0028】
[実施例3]
機能性成分として、N−アミド化オリゴペプチドであるマキシリップ(ゼダーマ社製)を使用した。
モノマー成分として、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルを使用し、さらに高級アルコール成分としてノニルアルコール、重合開始剤としてジイソブチルパーオキサイドを使用した。
機能性成分100質量部、アクリル酸エチル100質量部、メタクリル酸メチル200質量部、メタクリル酸エチル200質量部、重合開始剤30質量部、高級アルコール50質量部を混合し、機能性成分溶液を調製した。
調製した溶液に界面活性剤としてTS−1500(東邦化学製)100質量部を添加した後、水1220質量部を加えてエマルジョンを調整した。
このエマルジョン溶液を80℃に加熱し、モノマーを重合させ樹脂複合粒子を得た。
【0029】
[比較例1]
実施例1で用いた機能性成分100質量部、アクリル酸メチル250質量部、メタクリル酸ブチル250質量部、重合開始剤25質量部、高級アルコール50質量部を混合し機能性成分溶液を調製した。
調製した溶液に界面活性剤として第一工業製薬社製、ネオコールSW-Cを100質量部添加した後、水225質量部を加えてエマルジョンを作成した。
このエマルジョン溶液を80℃に加熱し、モノマーを重合させ樹脂複合粒子を得た。
【0030】
実施例1〜実施例3および比較例1で製造した樹脂複合粒子の粒径を、大塚電子株式会社製、電気泳動光散乱光度計ELS−800で測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から分かるように、実施例1、および実施例2では平均粒径300nmの微小な樹脂複合粒子が得られた。実施例3でも、220nmの微小な樹脂複合粒子が得られた。一方エマルジョン中の有効成分濃度を高めた比較例1では平均粒径1100nmと大きく、微小な樹脂複合粒子を得ることはできなかった。
【0033】
次に、樹脂複合粒子に接着樹脂を混合させて繊維処理剤とし、この繊維処理剤で生地に処理を行い、洗濯後の機能性成分の評価を行った。
【0034】
[実施例4]
実施例1で製造した樹脂複合粒子の水エマルジョン(樹脂複合粒子:32.5質量%)100質量部に対し、アクリル−シリコン系接着樹脂エマルジョンとして、共栄社化学(株)製「ライトエポックS86」(固形分:25質量%)80質量部を加え、各成分をホモミキサーにより混合、攪拌、分散処理し繊維処理剤を得た。各成分の固形分質量比は、樹脂複合粒子:接着樹脂=32.5:20である。こうして製造した繊維処理剤を、更に水で希釈して生地加工に用いた。
各成分の質量比は以下の様に調製した。
液質量% 固形分質量%
樹脂複合粒子エマルジョン 15.4% 5.0%
ライトエポックS86 12.3% 3.1%
水 72.3%
【0035】
[実施例5]
実施例4において、ライトエポックS86の部数を26質量部に変更した以外は、実施例4と同一の方法で繊維処理剤を製造し、更に水で希釈して生地加工に用いた。
各成分の質量比は以下の様に調製した。
液質量% 固形分質量%
樹脂複合粒子エマルジョン 15.4% 5.0%
ライトエポックS86 4.0% 1.0%
水 80.6%
【0036】
[実施例6]
実施例4において、ライトエポックS86の部数を520質量部に変更した以外は、実施例4と同一の方法で繊維処理剤を製造し、更に水で希釈して生地加工に用いた。
各成分の質量比は以下の様に調製した。
液質量% 固形分質量%
樹脂複合粒子エマルジョン 15.4% 5.0%
ライトエポックS86 80.0% 20.0%
水 4.6%
【0037】
[実施例7]
実施例4において、実施例1で製造した樹脂複合粒子の水エマルジョン(樹脂複合粒子:32.5質量%)100重量部の代わりに実施例2で製造した樹脂複合粒子の水エマルジョン(樹脂複合粒子:32.5質量%)100重量部に変更した以外は、実施例4と同一の方法で繊維処理剤を製造し、更に水で希釈して生地加工に用いた。
各成分の重量比は以下のように調整した。
液重量% 固形分重量%
樹脂複合粒子エマルジョン 15.4% 5.0%
ライトエポックS86 80.0% 3.1%
水 72.3%
【0038】
[実施例8]
実施例3で製造した樹脂複合粒子の水エマルジョン(樹脂複合粒子:34.0質量%)100質量部に対し、アクリル−シリコーン系接着樹脂エマルジョンとして、共栄社化学(株)製「ライトエポックS86」(固形分:25質量%)80質量部、および脱塩水160質量部を加え、混合液をホモミキサーにより混合、攪拌、分散処理し繊維処理剤を得た。各成分の固形分質量比は、樹脂複合粒子:接着樹脂=34:20である。こうして製造した繊維処理剤を、更に水で希釈して生地加工に用いた。各成分の質量比は以下の様に調整した。
液質量% 固形分質量%
樹脂複合粒子エマルジョン 29.4% 10.0%
ライトエポックS86 23.5% 5.9%
水 47.1%
【0039】
[比較例2]
実施例4において、実施例1で製造した樹脂複合粒子の水エマルジョン(樹脂複合粒子:32.5質量%)100質量部の代わりに比較例1で製造した樹脂複合粒子の水エマルジョン(樹脂複合粒子:65.0質量%)50質量部に変更した以外は、実施例4と同一の方法で繊維処理剤を製造し、更に水で希釈して生地加工に用いた。
各成分の質量比は以下の様に調製した。
液質量% 固形分質量%
樹脂複合粒子エマルジョン 7.7% 5.0%
ライトエポックS86 12.3% 3.1%
水 80.0%
【0040】
実施例4から実施例7および比較例2で調製したそれぞれの繊維処理剤へ、1辺20cm四方に切断した綿織物(添付白布、カナキン3号)を室温で1分間浸漬し、次いでロール間圧力を0.4MPaに設定したマングルで絞り(絞り率:96%)、110℃の熱風乾燥機で10分間乾燥した。生地を“JIS L0217 103法”に準拠した方法で1回洗濯し、80℃で20分間乾燥した。
【0041】
こうして繊維処理剤で処理された生地を、10回洗濯および30回洗濯した。
生地の洗濯は、市販の家庭用全自動洗濯機を用い、標準水量まで水を満たし、標準使用量の割合で市販洗濯用洗剤を加え、洗い5分間、濯ぎ1回(2分間)、次いで遠心脱水することを洗濯1回とした。必要回数洗濯した後に、生地を60℃の熱風乾燥機で20分間乾燥し、繊維素材の適温にてドライアイロン仕上げを行った。
【0042】
実施例8で調整した繊維処理剤を、家庭用ポリエチレン製スプレー容器に入れ、1辺20cm四方に切断したアクリル編物(目付:120g)に向け、全5gの液重量を均一になる様スプレーした。濡れたままの生地を70℃に設定した熱風乾燥機で1時間乾燥し、加工編物を得た。
【0043】
[評価の内容]
生地を洗濯した後、芳香性成分の機能の評価を以下のように行った。
「A」:芳香がある
「B」:かすかに芳香がある
「C」:全く芳香がない
【0044】
【表2】

【0045】
表2より、実施例4および実施例5では、30回洗濯した後も芳香性成分の機能が十分に発揮された。
一方、実施例6では、接着剤量が多いために初期より芳香性の低下が確認されたが、30回洗濯した後でも、それより低下することはなかった。
実施例7では、樹脂複合粒子からの芳香成分の放出は、実施例4に比べるとその性能は劣るものの、芳香性が持続することが確認された。
比較例2では初期の芳香性はあるものの、樹脂複合粒子が大きいため、洗濯による粒子の脱落が起こりやすくなることが確認された。
以上のように、本発明の繊維処理剤は、樹脂複合粒子の粒径の制御と接着剤成分との比率を制御することにより、高い効果の持続性を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ポリエステル等などの合成繊維、アセテート等の半合成繊維に利用できる他、再生繊維や天然タンパク質繊維、天然セルロース繊維等にも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面の処理を行う際に用いられる繊維処理剤に含まれる樹脂複合粒子の製造方法であって、
少なくとも機能性成分とモノマーからなる溶液に界面活性剤と水とを加えてエマルジョン化し、機能性成分、モノマー、界面活性剤、水からなるエマルジョンのうち、機能性成分とモノマーの合計濃度を10〜50%に調整し、
加熱または紫外線照射により前記溶液と前記界面活性剤と前記水との混合液を重合して樹脂複合粒子を得ることを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂複合粒子の製造方法において、
前記加熱時の温度を50〜120℃で行うことを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の樹脂複合粒子の製造方法において、
前記機能性成分と前記モノマーからなる溶液にC6以上の高級アルコール、鉱油、植物油のいずれかを加えることを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の樹脂複合粒子の製造方法において、
前記機能性成分のlogPow値(n−オクタノール/水分配係数)が0以上であることを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の樹脂複合粒子の製造方法において、
前記機能性成分が、オリゴペプチドのN末端脂肪酸アミド化合物を含む複合体であることを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の樹脂複合粒子の製造方法において、
前記機能性成分が、植物由来の芳香性成分であることを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の樹脂複合粒子の製造方法において、
前記機能性成分が、ポリフェノール類の疎水化変性物であることを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の樹脂複合粒子の製造方法において、
前記モノマーが、アクリル酸系、メタクリル酸系、マレイン酸系、ビニルエステル系、ビニルエーテル系、スチレン系モノマーのうち、少なくとも1つ以上からなることを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の樹脂複合粒子の製造方法において、
前記樹脂複合粒子の質量比を、前記機能成分:前記モノマー=1:3〜1:10で製造することを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の樹脂複合粒子の製造方法において、
前記樹脂複合粒子が、平均粒径500nm以下であることを特徴とする樹脂複合粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の樹脂複合粒子の製造方法で製造された前記樹脂複合粒子に接着樹脂を混合させて得られる繊維処理剤の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の繊維処理剤の製造方法において、
前記接着樹脂が、アクリル系、シリコン系、ポリウレタン系のうち、少なくとも1つ以上からなることを特徴とする繊維処理剤の製造方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の繊維処理剤の製造方法において、
前記樹脂複合粒子と前記接着樹脂の固形分質量比を、前記樹脂複合粒子:前記接着樹脂=2:3〜10:1で製造することを特徴とする繊維処理剤の製造方法。
【請求項14】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の樹脂複合粒子の製造方法によって製造された樹脂複合粒子。
【請求項15】
請求項11から請求項13のいずれかに記載の繊維処理剤の製造方法によって製造された繊維処理剤。

【公開番号】特開2008−101317(P2008−101317A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272281(P2007−272281)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【出願人】(000182236)エネックス株式会社 (6)
【Fターム(参考)】