説明

樹脂部品のマグネット固定構造

【課題】マグネット4を内蔵する樹脂部品1において、2次成形される蓋部5が1次成形される樹脂部品本体2から外れにくい構造を備えた樹脂部品1のマグネット固定構造を提供する。
【解決手段】所定の樹脂材料にて1次成形されるとともに内部にマグネット収容空間3を設けた樹脂部品本体2と、1次成形後に収容空間3に挿入されるマグネット4と、収容空間3の開口部3aを閉塞すべく挿入後に2次成形されて樹脂部品本体2に融着される蓋部5とを有する樹脂部品1のマグネット固定構造であって、収容空間3の容積をマグネット4の体積よりも大きく形成して一部の2次成形材料を収容空間3の内面とマグネット4の周面との間に充填することにより蓋部5の樹脂部品本体2に対する融着面積を拡大することにした。また併せ、抜け止め用のアンカー構造8を設定することにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部品におけるマグネットの固定構造に関するものである。本発明における樹脂部品は例えば、情報記憶装置の一種である磁気ディスク記憶装置(HDD)の内部において、キャリッジを磁力によって一時静止させるラッチとして用いられる。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、HDD51の内部に配置される樹脂部品の一つとして、マグネット53を有し、このマグネット53の磁力によってキャリッジ(以下、相手ヨークとも称する)54を待機位置にて一時静止させるストッパー機能を備えたラッチ52が使用されている。相手ヨーク54には、マグネット53に吸着される鉄片55が取り付けられている(特許文献1参照)。
【0003】
上記樹脂部品52は、所定の樹脂材料にて成形され、この樹脂にてマグネット53を保持する構造を有しているが、マグネット53表面の腐食等によってマグネット53から剥がれ落ちるコンタミがディスク56とヘッド57との間に介在してクラッシュするのを防止するには、マグネット53が露出しないよう、マグネット53を樹脂中に内蔵させるのが好適である。
【0004】
このように、マグネット53を樹脂中に内蔵させる場合、樹脂部品52の構造ないし製造方法は以下のようになる。
【0005】
すなわち、図4に示すように先ず、内部にマグネット収容空間52bを設けた樹脂部品本体52aを射出型にて1次成形し、次いでこの樹脂部品本体52aを射出型から取り出して、マグネット収容空間52bにマグネット53を挿入する。マグネット53は円筒形であるので、対応してマグネット収容空間52bも円筒形に形成されている。次いで、このマグネット53を挿入した樹脂部品本体52aをインサート部品として、同じ種類の樹脂材料にて2次成形を行ない、マグネット収容空間52bの開口部を閉塞すべく蓋部52cを成形する。蓋部52cはその成形と同時に樹脂熱にて樹脂部品本体52aに融着される。尚、この場合、マグネット53の挿入位置によって相手ヨーク54を保持するための着磁力が微妙に変化することから、2次成形に際しては厳しい寸法精度が要求される。したがって、2次成形はマグネット挿入方向から成形材料を射出して、マグネット53を押さえるようにする必要がある。
【0006】
上記構造の樹脂部品52によれば、着磁力スペックおよび制約寸法を満足する形状を得ることができるが、その作動に際して相手ヨーク54が繰り返し衝接すると、蓋部52cが樹脂部品本体52aから外れてしまう問題がある。
【0007】
【特許文献1】特許第3083779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の点に鑑みて、マグネットを内蔵する樹脂部品において、2次成形される蓋部が1次成形される樹脂部品本体から外れにくい構造を備えた樹脂部品のマグネット固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるマグネット固定構造は、所定の樹脂材料にて1次成形されるとともに内部にマグネット収容空間を設けた樹脂部品本体と、前記1次成形後に前記マグネット収容空間に挿入されるマグネットと、前記マグネット収容空間の開口部を閉塞すべく前記挿入後に2次成形されて前記樹脂部品本体に融着される蓋部とを有する樹脂部品のマグネット固定構造であって、前記マグネット収容空間の容積を前記マグネットの体積よりも大きく形成して一部の2次成形材料を前記マグネット収容空間の内面と前記マグネットの周面との間に充填することにより前記蓋部の樹脂部品本体に対する融着面積を拡大したことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項2によるマグネット固定構造は、上記した請求項1のマグネット固定構造において、1次成形された樹脂部品本体と2次成形された蓋部との間には、前記請求項1における融着面積の拡大のほかに、前記蓋部の抜け止めをなすアンカー構造が併せ設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項3によるマグネット固定構造は、上記した請求項1または2のマグネット固定構造において、樹脂部品は、HDD用樹脂部品であることを特徴とするものである。
【0012】
上記構成を備えた本発明の請求項1によるマグネット固定構造によれば、マグネット収容空間の容積をマグネットの体積より大きく形成して一部の2次成形材料をマグネット収容空間の内面とマグネットの周面との間に充填することにより蓋部の樹脂部品本体に対する融着面積を拡大するようにしたために、この融着面積の拡大によって融着力すなわち樹脂部品本体の蓋部保持力を増大することが可能とされている。
【0013】
またこれに加えて、本発明の請求項2によるマグネット固定構造によれば、1次成形された樹脂部品本体と2次成形された蓋部との間に蓋部の抜け止めをなすアンカー構造が併せ設けられているために、上記蓋部保持力を一層増大することが可能とされている。
【0014】
尚、本発明における樹脂部品としては、請求項3に記載したように、上記ストッパー機能を備えたラッチ等のHDD用樹脂部品がメインとなるが、特にこれに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0016】
すなわち、本発明の請求項1によるマグネット固定構造においては、マグネット収容空間の容積をマグネットの体積より大きく形成して一部の2次成形材料をマグネット収容空間の内面とマグネットの周面との間に充填することにより蓋部の樹脂部品本体に対する融着面積を拡大するようにしたために、この融着面積の拡大によって融着力すなわち樹脂部品本体の蓋部保持力が増大せしめられる。したがって従来対比で、2次成形される蓋部が1次成形される樹脂部品本体から外れにくい構造を提供することができる。
【0017】
またこれに加えて、本発明の請求項2によるマグネット固定構造においては、1次成形された樹脂部品本体と2次成形された蓋部との間に蓋部の抜け止めをなすアンカー構造が併せ設けられているために、上記蓋部保持力が一層増大せしめられる。したがって従来対比で、2次成形される蓋部が1次成形される樹脂部品本体から一層外れにくい構造を提供することができる。
【0018】
また、本発明の請求項3によるマグネット固定構造においては、樹脂部品がHDD用樹脂部品とされているために、このHDD用部品について上記請求項1および2による作用効果を得ることができる。
【実施例】
【0019】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施例に係るマグネット固定構造を備えた樹脂部品1を示しており、同図(A)はその要部平面図、同図(B)はその要部側面図であって同図(A)におけるA方向矢視図をそれぞれ示している。また、図2は同樹脂部品1の分解斜視図である。
【0021】
当該実施例に係る樹脂部品1は、HDDにおける上記ストッパー機能を備えたラッチとして使用されるものであって、以下のように構成されている。
【0022】
すなわち先ず、所定の樹脂材料にて1次成形されるとともに内部にマグネット収容空間3を設けた樹脂部品本体2が設けられており、マグネット収容空間3にマグネット4が挿入されるとともに、マグネット収容空間3の開口部3aが蓋部5によって閉塞されている。マグネット収容空間3は奥端部にて先止まりとされている。
【0023】
マグネット4は円柱形を呈し、その周面は円筒形であるので、対応してマグネット収容空間3もほぼ同径の円筒形に形成されているが、その開口部3a近傍は所定の深さ範囲dに亙って開口断面形状が円筒に対応する円形ではなく、円形に外接する四角形(四隅にはそれぞれ丸み(アール)が付けられている)とされており、この分、マグネット収容空間3の容積がマグネット4の体積よりも大きく形成されている。
【0024】
蓋部5は、マグネット収容空間3の開口部3aを閉塞すべく、マグネット3の挿入後に2次成形されて樹脂部品本体2に融着(溶着)されており、この2次成形に際して、一部の2次成形材料がマグネット収容空間3の内面とマグネット4の周面との間に充填されることにより蓋部5の樹脂部品本体2に対する融着面積が拡大されている。このとき一部の2次成形材料は、マグネット収容空間3の開口部3aにおける開口断面四角形部位の四隅位置3bにそれぞれ充填されることになり、よって蓋部5には、マグネット収容空間3の開口部3aを閉塞する四角形状の平面部6のほかに、四隅位置3bに隙間なく充填される突起部7が一体成形されている。突起部7は、平面部6の内面6aからマグネット挿入方向(矢印B方向)に突出している。
【0025】
また、1次成形された樹脂部品本体2と2次成形された蓋部5との間には、蓋部5の抜け止めをなすためのアンカー構造8が設けられており、当該実施例ではこのアンカー構造8が、樹脂部品本体2に設けられた所要数の横穴状を呈する凹部9と、蓋部5に設けられ、凹部9に係合した凸部10との組み合わせによって構成されている。凹部9は、マグネット収容空間3の開口部3aにおける開口断面四角形部位の上面および下面に二箇所ずつ設けられている。凸部10は、凹部9に対応して突起部7の上面および下面に二箇所ずつ設けられている。尚、この凸部10は、平面部6および突起部7と同様、2次成形によって成形される。
【0026】
つぎに、上記樹脂部品1の製造方法を説明すると以下のようになる。
【0027】
すなわち先ず、内部にマグネット収容空間3を設けた樹脂部品本体2を所定の樹脂材料にて射出型により1次成形し、次いでこの樹脂部品本体2を射出型から取り出して、マグネット収容空間3にマグネット4を挿入する。上記のとおりマグネット収容空間3は円筒形に形成するが、その開口部3a近傍は所定の深さ範囲dに亙って開口断面形状を四角形に形成する。また同時に、凹部9も形成する(但し、これは後加工でも可)。次いで、このマグネット4を挿入した樹脂部品本体2をインサート部品として、同じ種類の樹脂材料にて2次成形を行ない、マグネット収容空間3の開口部3aを閉塞すべく蓋部5を成形する。蓋部5は、平面部6、突起部7および凸部10を一体に成形する。また蓋部5は、その成形と同時に樹脂熱にて樹脂部品本体2に融着される。
【0028】
上記構成の樹脂部品1によれば、断面円形のマグネット収容空間3の開口断面が一部外接する四角形とされて、マグネット収容空間3の容積がマグネット4の体積より大きく設定され、一部の2次成形材料がマグネット収容空間3の内面とマグネット4の周面との間に充填されて、蓋部5の樹脂部品本体2に対する融着面積が拡大されていることから、この融着面積の拡大によって、融着力すなわち樹脂部品本体2の蓋部保持力が増大せしめられている。したがって、従来対比(従来構造は円形の平面部を有するのみ)で、2次成形される蓋部5が1次成形される樹脂部品本体2から外れにくい構造が実現されている。
【0029】
またこれに加えて、上記構成の樹脂部品1においては、1次成形された樹脂部品本体2と2次成形された蓋部5との間に、蓋部5の抜け止めをなす、凹部9と凸部10の組み合わせよりなるアンカー構造8が併せ設けられているために、上記蓋部保持力が一層増大せしめられている。したがって、同じく従来対比で、2次成形される蓋部5が1次成形される樹脂部品本体2から一層外れにくい構造が実現されている。
【0030】
本願発明者らが行なった比較試験によると、蓋部5の抜け荷重が、従来1.63kgfであったところ、実施例によれば14.70kgfにまで及び、よって本発明の有効性を十分に確認することができた。
【0031】
尚、上記実施例において、マグネット収容空間3の容積をマグネット4の体積よりも大きく設定すべく、断面円形のマグネット収容空間3の開口断面を一部四角形としたのは単なる例示であって、マグネット収容空間3の開口断面形状は四角形以外の他の形状であっても良い。また、アンカー構造8の具体例が、凹凸の組み合わせ以外であっても良いことも勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例に係るマグネット固定構造を備えた樹脂部品を示す図で、同図(A)はその要部平面図、同図(B)はその要部側面図であって同図(A)におけるA方向矢視図
【図2】同樹脂部品の分解斜視図
【図3】HDDの内部構造説明図
【図4】従来例に係るマグネット固定構造を備えた樹脂部品を示す図で、同図(A)はその要部平面図、同図(B)はその要部側面図であって同図(A)におけるC方向矢視図、同図(C)はその要部断面図であって同図(B)におけるD−D線断面図
【符号の説明】
【0033】
1 樹脂部品
2 樹脂部品本体
3 マグネット収容空間
3a 開口部
3b 四隅位置
4 マグネット
5 蓋部
6 平面部
6a 内面
7 突起部
8 アンカー構造
9 凹部
10 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の樹脂材料にて1次成形されるとともに内部にマグネット収容空間(3)を設けた樹脂部品本体(2)と、前記1次成形後に前記マグネット収容空間(3)に挿入されるマグネット(4)と、前記マグネット収容空間(3)の開口部(3a)を閉塞すべく前記挿入後に2次成形されて前記樹脂部品本体(2)に融着される蓋部(5)とを有する樹脂部品(1)のマグネット固定構造であって、
前記マグネット収容空間(3)の容積を前記マグネット(4)の体積よりも大きく形成して一部の2次成形材料を前記マグネット収容空間(3)の内面と前記マグネット(4)の周面との間に充填することにより前記蓋部(5)の樹脂部品本体(2)に対する融着面積を拡大したことを特徴とする樹脂部品のマグネット固定構造。
【請求項2】
請求項1のマグネット固定構造において、
1次成形された樹脂部品本体(2)と2次成形された蓋部(5)との間には、前記請求項1における融着面積の拡大のほかに、前記蓋部(5)の抜け止めをなすアンカー構造(8)が併せ設けられていることを特徴とする樹脂部品のマグネット固定構造。
【請求項3】
請求項1または2のマグネット固定構造において、
樹脂部品(1)は、HDD用樹脂部品であることを特徴とする樹脂部品のマグネット固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−123175(P2006−123175A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310529(P2004−310529)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】