説明

橋桁の製造方法

【課題】ガウジング工程を省略して、工数の削減を図ることができる橋桁の製造方法を提供する。
【解決手段】下フランジ23の端面と主桁のウェブ11の側面との間を一側から先行側の溶け込みを形成した後、裏面側から後行側の溶け込みを形成し、後行側の溶け込みを隙間寸法gの隙間を介して先行側の溶け込みに重ねる。これにより、ガウジング工程を省略できるので、工数の削減を図ることができる。また、溶接量を減少させて、溶接ひずみの発生を抑制できる。この溶接部は、橋桁の設置状態において圧縮力を受け持つ部分となる領域なので、溶け込み不良などにより溶接部に内部欠陥が形成されたとしても、その内部欠陥を亀裂の起点とする疲労破壊の発生を抑制できる。即ち、本溶接方法は、圧縮力を受け持つ部分となる領域を対象としたことで、橋桁の製造に初めて適用可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁の製造方法に関し、特に、ガウジング工程を省略して、工数の削減を図ることができる橋桁の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
完全溶け込みの溶接部により継手を形成する場合には、ガウジングを行う方法が一般的である。即ち、先行側の溶け込みを形成し、反対側から先行側の溶け込みをはつり取った後に、後行側の溶け込みを形成する溶接方法である。しかしながら、この溶接方法では、ガウジング作業の分、工数が嵩む。これに対し、特許文献1には、ルート間隔を大きくする(即ち、隙間を設ける)ことで、ガウジング工程を省略しつつ、完全溶け込みの溶接部を得るための溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−063683号公報(第7頁第11行〜第7頁第20行、第4図など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の鋼材を溶接により結合して橋桁を構成する場合、溶接時の溶け込み不良などによって溶接部に内部欠陥が形成されていると、その内部欠陥が起点となり疲労亀裂が進展することで、疲労破壊を招くおそれがある。この場合、上述した特許文献1の溶接方法では、ガウジング工程を省略する分、工数の削減を図ることができる一方で、完全溶け込みの信頼性が劣り、疲労強度が低下する。そのため、橋桁の製造において、完全溶け込みが要求される溶接部に対しは、ガウジングを行うことが要求されていた。
【0005】
本発明は、上述した事情を背景として、橋桁の製造方法に関する新たな手法を提供するためになされたものであり、ガウジング工程を省略して、工数の削減を図ることができる橋桁の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
請求項1記載の橋桁の製造方法によれば、圧縮側溶接工程は、圧縮側位置決め工程において、圧縮側開先形成工程により開先が形成された第1の鋼材の端面と第2の鋼材の側面との間に所定量の隙間が形成された状態で、第1の鋼材を第2の鋼材に対して位置決めした後、圧縮側溶け込み付与工程において、第1の鋼材の端面と第2の鋼材の側面との間を一側から溶接して先行側の溶け込みを形成した後、他側から第1の鋼材の端面と第2の鋼材の側面との間を溶接して後行側の溶け込みを形成して、後行側の溶け込みを第1の鋼材の端面と第2の鋼材の側面との間の隙間を介して先行側の溶け込みに重ねるので、ガウジング工程を省略して、工数の削減を図りつつ、橋桁を製造できるという効果がある。また、ガウジング工程を省略できる分、溶接量を減少させることができるので、溶接部における溶接ひずみの発生を抑制して、橋桁を製造できるという効果がある。
【0007】
この場合、圧縮側溶接工程により溶接される領域は、橋桁の設置状態において圧縮力を受け持つ部分となる領域なので、溶け込み不良などにより溶接部に内部欠陥が形成されたとしても、その内部欠陥を亀裂の起点とする疲労破壊の発生を抑制できる。よって、疲労強度が確保された橋桁を製造できるという効果がある。
【0008】
即ち、このような圧縮側溶接工程による溶接は、ガウジングを行う完全溶け込み溶接と比較して、溶け込み不良(即ち、内部欠陥)の発生する確率が高くなるところ、請求項1のように、圧縮側溶接工程により溶接される領域を、圧縮力を受け持つ部分となる領域とすることで、かかる圧縮側溶接工程を橋桁の製造に初めて適用可能となったものであり、これにより、工数の削減と溶接ひずみの抑制とを同時に達成して、橋桁を製造できる。
【0009】
請求項2記載の橋桁の製造方法によれば、請求項1記載の橋桁の製造方法の奏する効果に加え、引張側溶接工程は、引張側位置決め工程において、引張側開先形成工程により開先が形成された第1の鋼材の端面を第2の鋼材の側面に突き当てた状態で、第1の鋼材を第2の鋼材に対して位置決めした後、引張側溶け込み付与工程において、第1の鋼材の端面と第2の鋼材の側面との間を一側から溶接して先行側の溶け込みを形成した後、他側からガウジングを行い先行側の溶け込みの一部が露出するまで開先面をはつり取り、第1の鋼材の端面と第2の鋼材の側面との間を他側から溶接することで、後行側の溶け込みを先行側の溶け込みに重ねるので、溶け込み不良が抑制された完全溶け込みによる溶接部を確実に得ることができる。よって、引張力を受け持つ部分となる領域であっても、内部欠陥を起点とする疲労破壊の発生を抑制できる。その結果、疲労強度が確保され橋桁を製造できるという効果がある。
【0010】
請求項3記載の橋桁の製造方法によれば、請求項2記載の橋桁の製造方法の奏する効果に加え、橋桁は、橋軸方向へ延設される一対のウェブの上下に上フランジ及び下フランジが配設され断面中空箱状の箱桁として形成される主桁と、その主桁の側面から橋軸直角方向へ向けて延設されるウェブの上下に上フランジ及び下フランジが配設された断面I型のブラケットとを備え、少なくともブラケットの上フランジの端面が主桁の側面にT継手の形態で溶接される領域が引張側溶接工程により溶接される一方、ブラケットの下フランジの端面が主桁の側面にT継手の形態で溶接される領域が圧縮側溶接工程により溶接されるので、疲労強度の確保と工数の削減および溶接ひずみの抑制とを図りつつ、橋桁を製造できるという効果がある。
【0011】
即ち、引張力を受け持つ部分となる領域(ブラケットの上フランジ側)については、引張側溶接工程により溶接するので、溶け込み不良が抑制された完全溶け込みによる溶接部を確実に得ることができる。その結果、内部欠陥を起点とする疲労破壊の発生を抑制できるので、疲労強度が確保された橋桁を製造できる。一方、圧縮力を受け持つ部分となる領域(ブラケットの下フランジ側)については、圧縮側溶接工程により溶接するので、ガウジング工程を省略することができる。その結果、工数の削減と溶接ひずみの抑制とを図りつつ、橋桁を製造できる。
【0012】
請求項4記載の橋桁の製造方法によれば、請求項3記載の橋桁の製造方法の奏する効果に加え、ブラケットは、上フランジ及びウェブの端面に対し、下フランジの端面が後退した位置に形成されるので、引張側位置決め工程において、ブラケットの上フランジ及びウェブの端面を主桁の側面に突き当てた場合には、ブラケットの下フランジの端面と主桁の側面との間に所定量の隙間を形成することができる。よって、ブラケットの下フランジの端面と主桁の側面との間に所定量の隙間を形成するための圧縮側位置決め工程を別途行う必要がない(即ち、引張側位置決め工程と圧縮側位置決め工程とを共通化できる)ので、その分、工数を削減して、橋桁を製造できるという効果がある。
【0013】
請求項5記載の橋桁の製造方法によれば、請求項1記載の橋桁の製造方法の奏する効果に加え、橋桁は、橋軸方向へ延設されるウェブの上下に上フランジ及び下フランジが配設され断面I型に形成された主桁と、その主桁が支承装置により支承される支点位置において主桁に配設される支点上垂直補剛材と、その支点上垂直補剛材から橋軸方向に離間する位置において主桁に配設される仮受垂直補剛材と、を備え、少なくとも仮受垂直補鋼材の端面を主桁の下フランジの側面にT継手の形態で溶接する領域が圧縮側溶接工程により溶接されるので、工数の削減および溶接ひずみの抑制を図りつつ、橋桁を製造できるという効果がある。
【0014】
即ち、仮受垂直補鋼材の端面を主桁の下フランジの側面にT継手の形態で溶接する領域は、圧縮力を受け持つ部分となる領域であるので、かかる領域については、圧縮側溶接工程により溶接することで、ガウジング工程を省略することができ、その結果、工数の削減と溶接ひずみの抑制とを図りつつ、橋桁を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施の形態における橋桁の製造方法により製造される橋桁の断面図である。
【図2】ブラケットの斜視図である。
【図3】図2のIII−III線におけるブラケット20の断面図である。
【図4】(a)は、下フランジの断面図であり、(b)及び(c)は、圧縮側溶接工程を説明するための模式図である。
【図5】(a)は、第2実施の形態における橋桁の製造方法により製造される橋桁の支点位置近傍における側面図であり、(b)は、図5(a)のVb−Vb線における橋桁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における橋桁の製造方法により製造される橋桁1の断面図であり、橋軸方向に直交する平面で切断した橋桁1の断面に対応する。なお、図1では、図面を簡素化して、理解を容易とするために、支承装置の図示が省略されると共に、各部材の寸法関係が模式的に図示される。
【0017】
図1に示すように、橋桁1は、複数の鋼材を溶接して構成されると共に床版Dを支持するための構造体であり、橋軸方向(図1紙面垂直方向)に沿って平行に配設される主桁10と、その主桁10から橋軸直角方向(図1左右方向)へ張り出すブラケット20と、そのブラケット20に支持される側縦桁30とを備える。
【0018】
主桁10は、断面中空箱状の箱桁として形成される。即ち、主桁10は、橋軸方向へ延設される左右一対のウェブ11と、それら左右一対のウェブ11の上下に配設される上フランジ12及び下フランジ13とを備え、これらを溶接により結合して箱状に形成される。なお、主桁10の内部には、横リブ、縦リブ及び水平補鋼材が配設される(いずれも図示せず)。
【0019】
ブラケット20は、橋軸直角方向(図1左右方向)に延設されるウェブ21と、そのウェブ21の上下に配設される上フランジ22及び下フランジ23とを備え、これらを溶接により結合して断面I型に形成されると共に、その長手方向(図1左右方向)の端面が主桁10の側面(上フランジ12の端面およびウェブ11の側面)に溶接により結合される。
【0020】
詳細には、ブラケット20は、上フランジ22の端面が主桁10の上フランジ12の端面に、ウェブ21の端面が主桁10のウェブ11の側面(表面)に、下フランジ23の端面が主桁10のウェブ11の側面(表面)に、それぞれ溶接により結合される。また、ブラケット20は、橋軸方向に離間しつつ複数が配設される。
【0021】
側縦桁30は、道路の幅員を確保するための部材であり、橋軸方向に延設されるウェブの上下に上フランジ及び下フランジが溶接により結合された断面I型の鋼材から形成され、ブラケット20の長手方向(図1左右方向)先端に溶接により結合され支持される。
【0022】
次いで、図2から図4(a)を参照して、ブラケット20の詳細構成について説明する。図2は、ブラケット20の斜視図であり、図3は、図2のIII−III線におけるブラケット20の断面図である。図2及び図3では、主桁10に溶接により結合される前の状態が図示されると共に、ブラケット20の長さ方向の一部(側縦桁30(図1参照)が結合される側)の図示が省略される。
【0023】
図2及び図3に示すように、ブラケット20は、上フランジ22及び下フランジ23の端面に開先が形成され、これら開先が形成される側の端面が、主桁10の側面(上フランジ12の端面およびウェブ11の側面)にT継手の形態で溶接される(図1参照)。なお、ウェブ21の端面には開先が形成されない。
【0024】
なお、後述するように、上フランジ22の端面は、引張力を受け持つ部分となる領域なので、ガウジングを行う完全溶け込み溶接により、ウェブ21の端面は、せん断力を受け持つ部分となる領域なので、隅肉溶接により、下フランジ23の端面は、圧縮力を受け持つ部分となる領域なので、ガウジング工程を省略した完全溶け込み溶接により、主桁10の側面にそれぞれ溶接される。
【0025】
ここで、図4(a)を参照して、下フランジ23の端面に形成される開先の形状について説明する。図4(a)は、下フランジ23の断面図であり、図3の断面図に対応する。なお、図4(a)では、図面を簡素化するために、断面を示すハッチングの図示が省略される。
【0026】
図4(a)に示すように、下フランジ23の開先形状は、ルート面が板厚(板厚寸法t)の中央に位置するK形開先として形成される。よって、幅寸法w1,w2が互いに同一の値とされる。また、開先角度θ1,θ2も互いに同一の値とされ、その結果、下フランジ23の開先形状は、ルート面を挟んで左右対称(板厚中央を通過する仮想平面に対して対称)の形状とされる。なお、本実施の形態では、ルート面の幅寸法w3が2mmとされ、開先角度θ1,θ2が60°とされる。また、ルート面は、板厚方向(図4(a)上下方向)に平行な面として形成される。
【0027】
下フランジ23の端面は、後述する圧縮側溶接工程において、相手部材(主桁10のウェブ11)の側面との間に隙間(隙間寸法g)を設けた状態で溶接される。この隙間寸法gは、1mm以上かつ3mm以下の範囲とすることが好ましい。1mmより小さいと、素材(下フランジ23)の端面におけるうねり(寸法ばらつき)に起因して、相手部材(主桁10のウェブ11の側面)との間に隙間を設けることが困難となるからであり、3mmを超えると、溶接の垂れが発生して、作業性が悪化すると共に、溶接量が増加して、溶接ひずみの影響が大きくなるからである。
【0028】
ここで、上フランジ22の端面は、後述する引張側溶接工程において、相手部材(主桁10の上フランジ12の端面)に突き当てた状態で溶接されるが、その開先形状は、下フランジ23に形成される開先形状と同一であるので、その説明は省略する。
【0029】
図2及び図3に戻って説明する。ブラケット20は、上フランジ22の端面(ルート面)がウェブ21の端面(図3右側面)と面一となる位置に配設される一方、下フランジ23の端面(ルート面)がウェブ21の端面よりも所定の後退量だけ後退した位置(図3左側)に配設される。
【0030】
この下フランジ23の端面の後退量は次のように設定される。即ち、ブラケット20の上フランジ22の端面(ルート面)及びウェブ21の端面が、主桁10の側面(上フランジ12の端面およびウェブ11の側面)にそれぞれ突き当てられた状態で、ブラケット20の下フランジ23の端面と主桁10のウェブ11の側面との間に、隙間寸法g(図4(a)参照)に対応する大きさの隙間が形成される位置に、下フランジ23の端面(ルート面)は後退して配設される。
【0031】
なお、本実施の形態では、下フランジ23が上フランジ22に対して傾斜されるため、上フランジ22の端面およびウェブ21の端面を主桁10の側面(上フランジ12の端面またはウェブ11の側面)にそれぞれ突き当てた状態では、下フランジ23の端面(ルート面)と主桁10の側面(ウェブ11の側面)とが平行とならないが、この場合は、下フランジ23の端面と主桁10の側面との間の最小間隔が、上述した隙間寸法gとなる位置に、下フランジ23の端面が配設される。
【0032】
次いで、図4(b)及び図4(c)を参照して、橋桁1の製造方法について説明する。図4(b)及び図4(c)は、圧縮側溶接工程を説明するための模式図であり、図3における断面視に対応する。なお、橋桁1の製造方法の説明においては、図1から図4(a)を適宜参照して説明する。
【0033】
橋桁1は、主桁10、ブラケット20及び側縦桁30をそれぞれ形成し、主桁10にブラケット20を溶接により結合すると共に、ブラケット20の先端側に側縦桁30を溶接により結合することで、製造される。
【0034】
ブラケット20には、主桁10に溶接により結合される前に、上フランジ22の端面および下フランジ23の端面にそれぞれ開先(図4(a)参照)が形成される(引張側開先形成工程および圧縮側開先形成工程)。なお、両開先形成工程の先後は問わず、同時であっても良い。
【0035】
主桁10へのブラケット20の溶接は、まず、ブラケット20の上フランジ22の端面(ルート面)及びウェブ21の端面を、主桁10の側面(上ブラケット12の端面およびウェブ11の側面)に突き当てた状態で、ブラケット20を主桁11に対して位置決めする(引張側位置決め工程)。
【0036】
この場合、本実施の形態では、ブラケット20は、下フランジ23の端面(ルート面)の位置が、上フランジ22の端面(ルート面)及びウェブ21の端面に対して後退した位置に形成されるので、引張側位置決め工程において、上フランジ22の端面およびウェブ21の端面を主桁10の側面に突き当てて位置決めすることで、下フランジ23の端面と主桁10の側面(ウェブ11の側面)との間に所定量の隙間を形成した状態で、下フランジ23の位置決め(圧縮側位置決め工程)も行うことができる。即ち、引張側位置決め工程と圧縮側位置決め工程とを別々に行う必要がなく、これら両位置決め工程を共通化できるので、その分、工数を削減して、橋桁1を製造できる。
【0037】
ブラケット20を主桁10に対して位置決めした後は、本実施の形態では、まず、ブラケット20の上フランジ22の端面を、ガウジングを行う完全溶け込み溶接により、主桁10の側面(上フランジ12の端面)にT継手の形態で溶接する(引張側溶け込み付与工程)。
【0038】
具体的には、引張側溶け込み付与工程では、上フランジ22の端面と主桁10の側面(上フランジ12の端面)との間を一側から溶接して先行側の溶け込みを形成した後、裏面側(一側と反対側となる他側)からガウジングを行い先行側の溶け込みの一部が露出するまで開先面をはつり取り、上フランジ22の端面と主桁10の側面との間を裏面側(他側)から溶接することで、後行側の溶け込みを先行側の溶け込みに重ねる。これにより、溶け込み不良が抑制された完全溶け込みによる溶接部を確実に得ることができる。
【0039】
即ち、ブラケット20の端面を主桁10の側面にT継手の形態で溶接する溶接部分の内、ブラケット20の上フランジ22の端面を主桁10の側面(上フランジ12の端面)に溶接する領域は、橋桁1の設置状態において引張力を受け持つ部分となる領域である。よって、かかる領域については、ガウジングを行う完全溶け込み溶接とすることで、内部欠陥を起点とする疲労破壊の発生を抑制できる。その結果、疲労強度が確保された橋桁1を製造できる。
【0040】
ブラケット20の上フランジ22の端面を主桁10の側面に溶接した後は、ブラケット20のウェブ21の端面を、隅肉溶接により、主桁10の側面(ウェブ11の側面)にT継手の形態で溶接し、次いで、ブラケット20の下フランジ23の端面を、ガウジング工程を省略した完全溶け込み溶接により、主桁10の側面(ウェブ11の側面)にT継手の形態で溶接する(圧縮側溶け込み付与工程)。
【0041】
具体的には、圧縮側溶け込み付与工程では、図4(b)に示すように、下フランジ23の端面と主桁10の側面(ウェブ11の側面)との間を一側(図4(b)上側)から溶接して先行側の溶け込みを形成した後、裏面側(一側と反対側となる他側、図4(b)下側)から下フランジ23の端面と主桁10の側面との間を溶接して後行側の溶け込みを形成し、図4(c)に示すように、後行側の溶け込みを隙間寸法g(図4(a)参照)の隙間を介して先行側の溶け込みに重ねる。
【0042】
このように、圧縮側溶け込み付与工程では、ガウジング工程を省略できるので、その分、工数の削減を図りつつ、橋桁1を製造できる。また、ガウジング工程を省略できる分、溶接量を減少させることができるので、溶接部における溶接ひずみの発生を抑制して、橋桁1を製造できる。
【0043】
この場合、ブラケット20の端面を主桁10の側面にT継手の形態で溶接する溶接部の内、ブラケット20の下フランジ23の端面を主桁10の側面(ウェブ11の側面)に溶接する領域(即ち、圧縮側溶接工程により溶接される領域)は、橋桁1の設置状態において圧縮力を受け持つ部分となる領域なので、溶け込み不良などにより溶接部に内部欠陥が形成されたとしても、その内部欠陥を起点とする疲労亀裂の進展を抑制して、疲労破壊の発生を抑制できる。よって、疲労強度が確保された橋桁1を製造できる。
【0044】
即ち、このような圧縮側溶け込み付与工程による溶接は、ガウジングを行う完全溶け込み溶接(引張側溶け込み付与工程)と比較して、溶け込み不良(即ち、内部欠陥)の発生する確率が高くなる。この場合に、本実施の形態では、圧縮側溶け込み付与工程により溶接される領域を、圧縮力を受け持つ部分となる領域としたことで、圧縮側溶け込み付与工程を橋桁1の製造に初めて適用可能とした。これにより、工数の削減と溶接ひずみの抑制とを同時に達成して、橋桁1を製造できる。
【0045】
ブラケット20を主桁10に溶接により結合した後は、ブラケット20の主桁10とは反対側の端面に側縦桁30を溶接により結合して、橋桁1の製造が完了する。なお、側縦桁30をブラケット20に先に溶接により結合し、その後、ブラケット20を主桁10に溶接により結合しても良い。
【0046】
次いで、図5を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、橋桁1が箱桁橋として形成される場合を説明したが、第2実施の形態における橋桁201は、I桁橋として形成される。なお、上述した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0047】
図5(a)は、第2実施の形態における橋桁の製造方法により製造される橋桁201の支点位置近傍における側面図であり、橋軸直角方向視に対応する。また、図5(b)は、図5(a)のVb−Vb線における橋桁201の断面図である。なお、図5(a)及び図5(b)では、図面を簡素化して、理解を容易とするために、主要な構成のみを図示すると共に、各部材の寸法関係が模式的に図示される。
【0048】
図5(a)及び図5(b)に示すように、第2実施の形態における橋桁201は、橋軸方向(図5(a)左右方向)に沿って平行に配設される主桁210から構成される。主桁210は、橋軸直角方向(図5(a)紙面垂直方向)に所定間隔を隔てつつ複数が配設され、それら複数の主桁210により床版(図示せず)を支持する。
【0049】
主桁210は、橋軸方向へ延設されるウェブ211と、そのウェブ211の上下に配設される上フランジ212及び下フランジ213とを備え、これらを溶接により結合して断面I型に形成される。
【0050】
主桁210は、橋脚240に設置された支承装置250により支承され、その支承装置250による支点位置には、複数の支点上垂直補剛材214が鉛直方向(図5(a)上下方向)に延設されると共に、支点上垂直補剛材214から橋軸方向に所定距離だけ離間する位置(図5(a)左側)には、仮受垂直補剛材215が鉛直方向に延設される。
【0051】
支点上垂直補剛材214は、主桁210の剛性を確保すると共にウェブ211のせん断力を支承装置250へ伝達させるための板状の鋼材であり、その端面が主桁210のウェブ211及び上下フランジ212,213の側面(表面)にT継手の形態で溶接により結合される。
【0052】
仮受垂直補剛材215は、板状の鋼材であり、その端面が主桁210のウェブ211の側面(表面、図5(b)左右側面)と下フランジ213の側面(表面、図5(b)上側面)とにT継手の形態で溶接により結合される。補修工事などにおいて、主桁210を支承装置250から持ち上げる際には、この仮受垂直補剛材215が仮受けとなる(即ち、仮受垂直補剛材215の配設位置が支点位置となる)。
【0053】
この場合、仮受垂直補鋼材215の端面を主桁210の下フランジ213の側面(表面)に溶接する溶接部は、圧縮側溶接工程により溶接される。即ち、仮受垂直補剛材215の端面を主桁210のウェブ211及び下フランジ213の側面にT継手の形態で溶接する溶接部の内、仮受垂直補剛材215の端面を主桁210の下フランジ213の側面に溶接する領域は、橋桁201の設置状態および補修工事などで仮受位置を支承して持ち上げられた状態において圧縮力を受け持つ部分となる領域であるので、第1実施の形態において圧縮力を受け持つ部分となる領域(即ち、ブラケット20の下フランジ23の端面を主桁10のウェブ11の側面に溶接する領域、図1参照)と同じ工程により溶接する。
【0054】
具体的には、まず、仮受垂直補剛材215の端面であって、主桁210の下フランジ213の側面に溶接される側の端面に、開先を形成する(圧縮側開先形成工程)。なお、開先形状は、第1実施の形態における場合(図4(a)参照)と同様であるので、その説明は省略する。
【0055】
次いで、仮受垂直補剛材215の開先を設けた端面と主桁210の下フランジ213の側面との間に所定量(隙間寸法g、図4(a)参照)の隙間を設けた状態で、仮受垂直補剛材215を下フランジ213に対して位置決めする(圧縮側位置決め工程)。
【0056】
本実施の形態では、この位置決めされた状態で、仮受垂直補剛材215の端面を、隅肉溶接により主桁210のウェブ211の側面(表面)にT継手の形態で溶接した後、仮受垂直補剛材215の端面を、ガウジング工程を省略した完全溶け込み溶接により、主桁210の下フランジ213の側面(表面)にT継手の形態で溶接する(圧縮側溶け込み付与工程)。
【0057】
このように、第2実施の形態においても、ガウジング工程を省略して、工数の削減を図ることができる。また、ガウジング工程を省略できる分、溶接量を減少させることができるので、溶接部における溶接ひずみの発生を抑制できる。
【0058】
この場合、仮受垂直補剛材215の端面を主桁210の側面にT継手の形態で溶接する溶接部の内、主桁210の下フランジ213の側面に溶接する領域(即ち、圧縮側溶接工程により溶接される領域)は、橋桁201の設置状態および補修工事などで仮受位置を支承して持ち上げられた状態において圧縮力を受け持つ部分となる領域なので、溶け込み不良などにより溶接部に内部欠陥が形成されたとしても、その内部欠陥を亀裂の起点とする疲労破壊の発生を抑制できる。よって、疲労強度が確保された橋桁201を製造することができる。
【0059】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0060】
上記各実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0061】
上記第1実施の形態では、ブラケット20の下フランジ23が上フランジ22に対し傾斜する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、下フランジ23と上フランジ22とが平行であっても良い。即ち、ブラケット20の下フランジ23と主桁10のウェブ11とを溶接するT継手は、上フランジ22とウェブ11との両部材が略直角となるT字形であっても良く、或いは、両部材が直角をなさないT字形であっても良い。
【0062】
上記第1実施の形態では、主桁10の側面において、ウェブ11の側面と上フランジ12の端面とが面一となる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ウェブ11の側面から上フランジ12の端面がブラケット20側(図1左右方向)へ突出する形状であっても良い。
【0063】
この場合には、ブラケット20は、上フランジ22の端面(ルート面)がウェブ21の端面よりも第1の後退量(主桁10の上フランジ12の端面がウェブ11の側面から突出する突出量と同等の寸法)だけ後退した位置(図3左側)に配設され、かつ、下フランジ23の端面(ルート面)がウェブ21の端面よりも第2の後退量(隙間寸法gと同等の寸法)だけ後退した位置に配設されるように形成する。これにより、ブラケット20の上フランジ22及びウェブ21の端面を主桁10の側面(上フランジ12の端面およびウェブ11の側面)に突き当てた場合には、下フランジ23の端面と主桁10の側面(ウェブ11の側面)との間に所定量の隙間(隙間寸法g)を形成した状態とすることができる。即ち、引張側位置決め工程と圧縮側位置決め工程とを共通化して、その分、工数を削減できる。
【0064】
上記第1実施の形態では、ブラケット20の端面を主桁10の側面に溶接する際の順序として、上フランジ22及びウェブ21を上フランジ12及びウェブ11にそれぞれ溶接した後で、下フランジ23をウェブ11に溶接する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、下フランジ23をウェブ11に溶接した後で、上フランジ22及びウェブ21を上フランジ12及びウェブ11にそれぞれ溶接しても良い。
【0065】
なお、第2実施の形態においては、仮受垂直補剛材215の端面を、主桁210のウェブ211の側面(表面)に溶接する工程と、下フランジ213の側面(表面)に溶接する工程との順序の先後は問わない。
【0066】
上記第1実施の形態では、その説明を省略したが、ブラケット20と側縦桁30との間の溶接部を、ブラケット20と主桁10との間の溶接部と同様の手法により溶接しても良い。即ち、ブラケット20の上フランジ22の端面と側縦桁30の上フランジの端面との間の溶接部は、引張力を受け持つ部分なので、ガウジングを行う完全溶け込み溶接(引張側溶接工程)により、ブラケット20のウェブ21の端面と側縦桁30のウェブの側面(表面)との間の溶接部は、せん断力を受け持つ部分なので、隅肉溶接により、ブラケット20の下フランジ23の端面と側縦桁30の下フランジの端面との間の溶接部は、圧縮力を受け持つ部分なので、ガウジング工程を省略した完全溶け込み溶接(圧縮側溶接工程)により、それぞれ溶接する。これにより、ブラケット20と主桁10とを溶接する場合と同様の効果を得ることができる。
【0067】
上記各実施の形態では、ブラケット20の下フランジ23の端面または主桁210の仮受垂直補剛材215の端面の開先に幅寸法w3のルート面を設ける場合を説明したが(図4(a)参照)、必ずしもこれに限られるものではなく、ルート面を省略した開先形状としても良い。即ち、開先は、幅寸法w3を0とするものであっても良い。
【0068】
上記各実施の形態では、ブラケット20の下フランジ23の端面または主桁210の仮受垂直補剛材215の端面の開先形状を左右対称に形成する場合を説明したが(図4(a)参照)、必ずしもこれに限られるものではなく、その開先形状を左右非対称としても良い。即ち、幅寸法w1,w2を異なる値としても良く、開先角度θ1,θ2を異なる値としても良い(図4(a)参照)。
【符号の説明】
【0069】
1,201 橋桁
10,210 主桁(第2の鋼材)
11,211 主桁のウェブ
12,212 主桁の上フランジ
13,213 主桁の下フランジ
214 支点上垂直補剛材
215 仮受垂直補剛材(第1の鋼材)
20 ブラケット(第1の鋼材)
21 リブのウェブ
22 リブの上フランジ
23 リブの下フランジ
250 支承装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の鋼材の端面を第2の鋼材の側面にT継手の形態で溶接した構造体を備える橋桁を製造する橋桁の製造方法において、
前記第1の鋼材の端面を第2の鋼材の側面にT継手の形態で溶接する部分の内、前記橋桁の設置状態において圧縮力を受け持つ部分となる領域を溶接する圧縮側溶接工程を備え、
前記圧縮側溶接工程は、
前記第1の鋼材の端面の内、前記圧縮力を受け持つ部分となる端面に開先を形成する圧縮側開先形成工程と、
その圧縮側開先形成工程により端面に開先が形成された前記第1の鋼材を、前記開先が形成された端面と前記第2の鋼材の側面との間に所定量の隙間が形成された状態で、前記第2の鋼材に対して位置決めする圧縮側位置決め工程と、
その圧縮側位置決め工程により位置決めされた前記第1の鋼材の端面と前記第2の鋼材の側面との間を一側から溶接して先行側の溶け込みを形成した後、前記一側と反対側となる他側から前記第1の鋼材の端面と前記第2の鋼材の側面との間を溶接して後行側の溶け込みを形成し、前記後行側の溶け込みを前記所定量の隙間を介して前記先行側の溶け込みに重ねる圧縮側溶け込み付与工程と、を備えることを特徴とする橋桁の製造方法。
【請求項2】
前記第1の鋼材の端面を第2の鋼材の側面にT継手の形態で溶接する溶接部の内、前記橋桁の設置状態において引張力を受け持つ部分となる領域を溶接する引張側溶接工程を備え、
前記引張側溶接工程は、
前記第1の鋼材の端面の内、前記引張力を受け持つ部分となる端面に開先を形成する引張側開先形成工程と、
その引張側開先形成工程により端面に開先が形成された前記第1の鋼材を、前記開先が形成された端面を前記第2の鋼材の側面に突き当てた状態で、前記第2の鋼材に対して位置決めする引張側位置決め工程と、
その引張側位置決め工程により位置決めされた前記第1の鋼材の端面と前記第2の鋼材の側面との間を一側から溶接して先行側の溶け込みを形成した後、前記一側と反対側となる他側からガウジングを行い先行側の溶け込みの一部が露出するまで開先面をはつり取り、前記第1の鋼材の端面と前記第2の鋼材の側面との間を前記他側から溶接することで、後行側の溶け込みを前記先行側の溶け込みに重ねる引張側溶け込み付与工程と、を備えることを特徴とする請求項1記載の橋桁の製造方法。
【請求項3】
前記橋桁は、橋軸方向へ延設される一対のウェブの上下に上フランジ及び下フランジが配設され断面中空箱状の箱桁として形成される主桁と、その主桁の側面から橋軸直角方向へ向けて延設されるウェブの上下に上フランジ及び下フランジが配設された断面I型のブラケットと、を備え、
前記第2の鋼材は、前記主桁として構成され、
前記第1の鋼材は、前記ブラケットとして構成され、
前記引張側溶接工程は、少なくとも前記ブラケットの上フランジの端面を前記主桁の側面にT継手の形態で溶接する一方、前記圧縮側溶接工程は、前記ブラケットの下フランジの端面を前記主桁の側面にT継手の形態で溶接することを特徴とする請求項2記載の橋桁の製造方法。
【請求項4】
前記ブラケットは、前記上フランジ及びウェブの端面に対し、前記下フランジの端面が後退した位置に形成され、
前記引張側溶接工程の引張側位置決め工程において、前記ブラケットの上フランジ及びウェブの端面が前記主桁の側面に突き当てられた場合には、前記ブラケットの下フランジの端面と前記主桁の側面との間に所定量の隙間が形成されることを特徴とする請求項3記載の橋桁の製造方法。
【請求項5】
前記橋桁は、橋軸方向へ延設されるウェブの上下に上フランジ及び下フランジが配設され断面I型に形成された主桁と、その主桁が支承装置により支承される支点位置において前記主桁に配設される支点上垂直補剛材と、その支点上垂直補剛材から橋軸方向に離間する位置において前記主桁に配設される仮受垂直補剛材と、を備え、
前記第2の鋼材は、前記主桁として構成され、
前記第1の鋼材は、前記仮受垂直補剛材として構成され、
前記圧縮側溶接工程は、少なくとも前記仮受垂直補鋼材の端面を前記主桁の下フランジの側面にT継手の形態で溶接することを特徴とする請求項1記載の橋桁の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−68021(P2013−68021A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208265(P2011−208265)
【出願日】平成23年9月23日(2011.9.23)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】