説明

橋梁の伸縮装置における漏水補修方法

【課題】遊間幅が小さい伸縮装置に対しても問題なく適用することができる漏水箇所の補修方法を提供する。
【解決手段】中空形状に復元する性質を有する樹脂製のチューブ8の外側に膨潤性止水ゴム9層を有するチューブ型止水材7を用意し、内部の空気を抜くことによってチューブ型止水材7を偏平状態とし、その状態のまま、桁遊間部1へチューブ型止水材7を挿入し、その後、チューブ8の復元力によって膨潤性止水ゴム9を桁2a,2bの端面Sa,Sbに押し付け、チューブ型止水材7と桁2a,2bの端面Sa,Sbとを橋梁の幅方向全域に亘って密着させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁(道路橋や鉄道橋など)の桁遊間部に装着されている伸縮装置(ジョイント)における漏水箇所を補修するための方法に関し、特に、遊間幅が小さい場合であっても問題なく適用することができる漏水補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の桁遊間部に装着される一般的な伸縮装置においては、下面側に止水措置が施されており、雨水等が桁下や支承下部等へ流れ落ちて行かないような構成となっている。
【0003】
しかしながら、構造上の欠陥や老朽化等に起因して止水機能が損なわれ、漏水が生じることがある。漏水が生じると、支承、橋梁端部、橋脚、橋台などの劣化が進行する可能性がある。特に、冬期には路面凍結防止剤が散布されることがあるが、漏水箇所があると、路面凍結防止剤の塩化物が雨水とともに流れ落ち、コンクリート内部へ浸透し、鉄筋や鉄骨を腐食させてしまうことがある。また、コンクリート内部に浸透した水分が凍結することによって、コンクリートを損壊させてしまう可能性もある。
【0004】
従って、橋梁の管理者は、伸縮装置において漏水が生じないよう、定期的にメンテナンスを行うことが必要であり、漏水箇所を発見した場合には、直ちに補修工事を行う必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、橋梁の伸縮装置には、様々なタイプ、様々な大きさのものがあり、橋梁の特性や、適用される桁遊間の大きさ等に応じ、適宜選択して用いられているが、それらの中で、遊間幅が小さい場合(10cm以下)に使用される伸縮装置においては、上記のような漏水補修工事を行うことが困難であることが多い。作業員の接近が困難である場合や、作業員が手を差し入れることができないような場合があるからである。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題を解決すべくなされたものであって、遊間幅が小さい伸縮装置に対しても問題なく適用することができる漏水補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る漏水補修方法は、中空形状に復元する性質を有する樹脂製のチューブの外側に膨潤性止水ゴム層を有するチューブ型止水材を用意し、内部の空気を抜くことによって当該チューブ型止水材を偏平状態とし、その状態のまま、桁遊間部へチューブ型止水材を挿入し、その後、チューブの復元力によって膨潤性止水ゴムを桁の端面に押し付け、チューブ型止水材と桁の端面とを橋梁の幅方向全域に亘って密着させることを特徴としている。
【0008】
桁遊間部へのチューブ型止水材の挿入後、空気を圧入し、チューブを積極的に膨らませることによって、膨潤性止水ゴムを桁の端面に押し付けるように構成した場合には、チューブ型止水材と桁の端面とをより強力に密着させることができる。また、桁とチューブ型止水材との接合部分に膨張性シール材を塗布してもよく、この場合、止水効果を更に向上させることができるほか、耐久性も大幅に向上させることができる。
【0009】
尚、桁遊間部には、チューブ型止水材の挿入に先立ち、チューブ型止水材を支持するための支持材を予め配設しておくことが好ましく、この場合、チューブ型止水材の挿入ガイドとしても利用することができる。また、桁遊間部に夾雑物が存在している場合には、止水性を向上させるためそれらを予め除去しておくことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る漏水補修用チューブ型止水材は、中空形状に復元する性質を有する樹脂製のチューブの外側に膨潤性止水ゴム層を有するとともに、少なくとも一方の端部にバルブを有し、チューブ内から空気を抜くことによって偏平状態とすることができ、かつ、内部へ空気を圧入することによって膨らませた状態を維持することができることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る漏水補修方法によれば、遊間幅が小さい(例えば10cm以下の)桁遊間部に対しても、問題なく適用することができる。また、本発明に係る漏水補修方法によれば、既設の伸縮装置を取り替える必要はなく、そのまま存置できるので、施工コストを低く抑えることができる。
【0012】
また、作業はすべて路面下で行えるため、安全に作業を行うことができるほか、路面上の交通規制が不要であり、時間的制約を受けることなく実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に沿って、本発明の最良の実施形態について説明する。図1〜図4は、本発明の第1の実施形態に係る漏水補修方法の説明図であり、これらのうち、図1及び図3は適用対象となる橋梁(道路橋)の桁遊間部1の一例を示す一部切欠透視図、図2及び図4は当該桁遊間部1の側面図である。尚、これらの図において2a,2bは桁、3は伸縮装置、4a,4bは路面である。
【0014】
遊間幅が小さい場合(例えば10cm以下)、桁遊間部1には、発泡スチロールやウレタンフォームなどの夾雑物10が存在していることがある。本実施形態の漏水補修方法を実施するに際して、そのような夾雑物10が桁遊間部1に存在している場合には、まずそれらを除去し、対向する桁2a,2bの端面Sa,Sbを露出させる。
【0015】
夾雑物10の除去は、例えば、次のような方法によって実行する。まず、橋梁の側方から、任意の高さ位置で、橋梁の横断方向(図1において一点鎖線で示す基準線Dの位置及び方向)へ、錐(或いはドリル)を突き刺していき、夾雑物10の中心に貫通孔11を形成する。そして、この貫通孔11の中に、有刺鉄線などのように、多数の棘或いは爪を有するワイヤ状材料を挿通し、これを長手方向へ小刻みに往復動させて夾雑物10を掻き壊していく。最後に、長尺のヤスリ材、或いは、金属ブラシ等によって、桁2a,2bの端面Sa,Sbに付着している屑を刮げ落として仕上げる。
【0016】
次に、図3及び図4に示すように、桁遊間部1に、止水手段を支持するための支持材5を挿入する。支持材5としては、例えば、直径10mm程度、桁2の幅寸法と同程度の長さの鉄筋等を用いることができる。挿入した支持材5は、両端部を、予め桁2a,2bの左右両側面に対してそれぞれ固定しておいたホルダー6,6に係止させることにより、伸縮装置3の下方約15cm程度の位置に保持させる。
【0017】
続いて、桁遊間部1の側方から、支持材5と伸縮装置3の間の空間へ、図5に示すようなチューブ型止水材7を挿入する。このチューブ型止水材7は、適度な弾力性と剛性を有する樹脂製のチューブ8の外側に、膨潤性止水ゴム9,9の層を有してなる(チューブ8の外周面に帯状の二条の膨潤性止水ゴム9,9を貼り付けてなる)ものである。ここで使用されている樹脂製のチューブ8は、通常は、図5(1)に示すように断面が円形となる状態(中空形状)で安定しており、外力を加えれば変形するが、その後、加えていた力を開放すると、すぐに元の状態(中空形状)へ戻るような性質(復元力)を有している。
【0018】
チューブ型止水材7は、挿入しようとする桁遊間部1の遊間幅よりも、外径寸法W(チューブ8が通常の状態にある場合における寸法であって、一方の止水ゴム9の外側面から、反対側の止水ゴム9の外側面までの寸法)が大きいものを使用する。長さは、桁2の幅寸法と同程度とする。
【0019】
尚、チューブ型止水材7の両端部は閉じられており、一方の端部にはバルブが取り付けられている。そして、このバルブに真空ポンプを接続して、チューブ内の空気を抜くことにより、図5(2)に示すように、帯状に平たく変形させ(偏平状態)、断面積を縮小することができるようになっている。
【0020】
桁遊間部1(支持材5と伸縮装置3の間の空間)へのチューブ型止水材7の挿入は、図5(2)に示されているような状態(断面積を縮小した偏平状態)のまま行う。そして、挿入後にバルブを開放すると、チューブ型止水材7は、図5(2)の状態から、チューブ8の復元力によって図5(1)のような通常の状態へ戻ろうとするが、ここで使用されているチューブ型止水材7は、挿入された桁遊間部1の遊間幅よりも外径寸法Wが大きいため、チューブ8の外周面に貼り付けられている膨潤性止水ゴム9,9が、チューブ8によって、桁2a,2bの端面Sa,Sbにそれぞれ押し付けられることになり、その結果、図6に示すように、チューブ型止水材7と桁2a,2bの端面Sa,Sbとが、橋梁の幅方向全域に亘って密着し、桁遊間部1において充分な止水効果を得ることができる。
【0021】
尚、桁遊間部1へチューブ型止水材7を挿入した後、チューブ8のバルブを開放するだけでなく、バルブに圧力ポンプを接続し、チューブ8内へ空気を圧入して、チューブ8を積極的に膨らませるようにしてもよい。この場合、チューブ8の外周面に貼り付けられている膨潤性止水ゴム9,9は、桁2a,2bの端面Sa,Sbに対してより強力に押し付けられることになり、桁2a,2bの端面Sa,Sbに多少の凹凸が存在していたとしても、チューブ型止水材7と桁2a,2bの端面Sa,Sbとを、橋梁の幅方向全域に亘って完全に密着させることができ、より高い止水効果を得ることができる。
【0022】
更に、桁2a,2bとチューブ型止水材7との接合部分に膨張性シール材(例えば、ウレタン系の液状或いはペースト状の主剤に対して所定量の硬化剤を添加し、混合することにより、数時間かけて次第に発泡、膨張、硬化し、硬化後は、吸水膨潤性により高い止水効果を発揮するシール材など)を塗布してもよく、この場合、止水効果を更に向上させることができるほか、耐久性についても大幅に向上させることができる。尚、膨張性シール材の塗布は、例えば、次のような方法によって行うことができる。
【0023】
まず、桁遊間部1(チューブ型止水材7の上方)に予め挿通させておいたリード線の一端を、透水性が高く、適度な柔軟性を有する、充分な長さの帯状の材料(例えば、ガーゼ等)の一端に結び付け、リード線の反対側の端部を引っ張ることにより、帯状材料をゆっくりと桁遊間部1へ導入していく。このとき、ゆるいペースト状に調整しておいた膨張性シール材を、帯状材料の上に均一に垂れ落としていく。このようにして、ペースト状の膨張性シール材に塗れた状態の帯状材料を、桁遊間部1(桁2a,2bとチューブ型止水材7との接合部分周辺)に導入することにより、シール材を簡単に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る漏水補修方法の説明図であって、適用対象となる橋梁(道路橋)の桁遊間部1の一例を示す一部切欠透視図。
【図2】図1の桁遊間部1の側面図。
【図3】図1の桁遊間部1(支持材5を装着した状態)の一部切欠透視図。
【図4】図1の桁遊間部1(支持材5を装着した状態)の側面図。
【図5】本発明の第1の実施形態において使用されるチューブ型止水材7の断面斜視図。
【図6】図1の桁遊間部1(チューブ型止水材7を挿入した状態)の側面図。
【符号の説明】
【0025】
1:桁遊間部、
2a,2b:桁、
3:伸縮装置、
4a,4b:路面、
5:支持材、
6:ホルダー、
7:チューブ型止水材、
8:チューブ、
9:膨潤性止水ゴム、
10:夾雑物、
11:貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空形状に復元する性質を有する樹脂製のチューブの外側に膨潤性止水ゴム層を有するチューブ型止水材を用意し、
内部の空気を抜くことによって前記チューブ型止水材を偏平状態とし、その状態のまま、桁遊間部へチューブ型止水材を挿入し、
その後、前記チューブの復元力によって前記膨潤性止水ゴムを桁の端面に押し付け、チューブ型止水材と桁の端面とを密着させることを特徴とする橋梁の伸縮装置における漏水補修方法。
【請求項2】
樹脂製のチューブの外側に膨潤性止水ゴム層を有するチューブ型止水材を用意し、
内部の空気を抜くことによって前記チューブ型止水材を偏平状態とし、その状態のまま、桁遊間部へチューブ型止水材を挿入し、
その後、空気を圧入し、前記チューブを積極的に膨らませることによって、前記膨潤性止水ゴムを桁の端面に押し付けることを特徴とする橋梁の伸縮装置における漏水補修方法。
【請求項3】
前記桁とチューブ型止水材との接合部分に膨張性シール材を塗布することを特徴とする、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の橋梁の伸縮装置における漏水補修方法。
【請求項4】
前記チューブ型止水材の挿入に先立ち、チューブ型止水材を支持するための支持材を予め桁遊間部に配設しておくことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の橋梁の伸縮装置における漏水補修方法。
【請求項5】
前記桁遊間部に存在している夾雑物を予め除去することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の橋梁の伸縮装置における漏水補修方法。
【請求項6】
中空形状に復元する性質を有する樹脂製のチューブの外側に膨潤性止水ゴム層を有するとともに、少なくとも一方の端部にバルブを有し、
前記チューブ内から空気を抜くことによって偏平状態とすることができ、かつ、内部へ空気を圧入することによって膨らませた状態を維持することができる漏水補修用チューブ型止水材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−69596(P2008−69596A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250980(P2006−250980)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(595007873)株式会社橋梁メンテナンス (2)
【Fターム(参考)】